異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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成長し過ぎた怪物

 

 

 かつて俺たちの親父は、レリエル・クロフォードを殺した。

 

 吸血鬼の王と呼ばれていた男を、人間から化け物になった魔王が打ち破ったのである。多くの人類は歓喜して親父を”英雄”と呼んだが、そう言われる度にどういうわけか、大きな戦果をあげた親父は悲しそうな顔をしていたのを覚えている。

 

 まるで、レリエルを殺したことで人々に英雄と呼ばれることを、あの世にいるレリエルに申し訳ないと思っているかのように。

 

 11年前の一騎討ちで親父が勝利してからは、親父は俺たちに当時の戦いを語ってくれることは殆どなかった。むしろ、その戦いを忘れようとしているかのようにいつもの生活を送り続けた。

 

 きっと親父にとって、レリエルは単なる敵ではなかったんだと思う。

 

 殺し合いをしなければならない相手でありながら、その実力を称賛するような好敵手のような存在だったのではないだろうか。少なくとも親父にとっては、レリエルはかなり大きな存在だったに違いない。

 

 その親父と同じように、俺も1人の人間だった男を殺した。

 

 異世界に転生して理不尽な暴力と劣悪な環境で育ち、この世界を呪った1人の男を。

 

「なんでだよ、弘人…………」

 

 彼の握っているナイフとレバーアクションライフルを拾い上げながら、俺は石の床の上で倒れている吸血鬼の少年の傍らにしゃがみ込んだ。ノエルの発した自殺命令(アポトーシス)に強制的に従わされ、自分の心臓に銀の粉末を叩き込み、頭に銀の7.62×54R弾を撃ち込んで自殺”させられた”ブラドの顔を覗き込みながら、彼の目をゆっくりと閉じさせる。

 

 心臓から溢れ出る鮮血には銀の粉末が混じっているせいなのか、彼の鮮血はやけに煌いている。こめかみは大口径のライフル弾で撃ち抜かれており、防御力そのものは他の転生者と大差ない少年の皮膚と頭蓋骨を貫通して、脳味噌を木っ端微塵にしている。弾丸が貫通していった反対側の風穴からは流れ出る鮮血たちに押し流された脳の一部らしきグロテスクな肉片が、石の床の上にこびりついていた。

 

 もう、死んでいる。

 

 彼とはもう、話せない。

 

 前世の世界のように、好きなマンガやアニメや武器の話はできない。嫌いな教師の悪口を言い合って笑ったり、一緒に遊ぶこともできない。

 

 彼は、死者だ。

 

 正確に言うと俺も前世で死んだ段階で死者の仲間入りをしたのかもしれないけれど、少なくとも俺はまだ生きている。けれども彼は飛行機の事故で死んだ挙句、異世界で親友だった俺や仲間たちに殺された。

 

「………その死体、どうするの?」

 

「…………戦いが終わってからでいいから、ちゃんと埋葬してやりたい」

 

 ライフルを肩に担ぎながら訪ねてきたラウラに返事をすると、彼女は頷いてから静かにブラドの顔を覗き込んだ。

 

 俺たちの戦いはまだ終わったわけじゃない。宮殿はこれで制圧されたかもしれないけれど、まだホワイト・クロックを制圧するために進軍した第一軍の戦いが残っているし、下に残してきたケーターたちの援護もしなければならない。まだ抵抗する吸血鬼たちにブラドが死んだことを告げれば、彼らは投降してくれるだろうか。

 

 彼の頭を貫いた弾丸を放ったウィンチェスターM1895のループレバーを下げ、ブラドの頭を貫いた弾丸が収まっていた薬莢を排出する。弾倉の中が空っぽになっていたのを確認した俺は、彼が自殺に使ったテルミットナイフを鞘の中に戻してから、ポーチから7.62×54R弾が束ねられたクリップを掴み取る。

 

 それを弾倉の中に装填してクリップを取り外し、ループレバーを元の位置に戻してからホルダーに戻すと、ブラドに自殺しろという理不尽な命令を下したノエルと目が合った。

 

 彼女は親友だった男を失った俺を見て悲しそうな顔をすると、すぐに目を逸らしてしまう。絶交したとはいえ、俺の親友を殺してしまったのを後悔しているのだろうか?

 

「ノエル、いいんだ。彼は―――――――」

 

 目を逸らしてしまったノエルを慰めようと思ったその時だった。

 

 すっかりと消えてしまったはずの憎悪が、再び俺へと向けられているような感じがしたのだ。その憎悪を発しているのは誰なのかと考えるよりも先に、俺とラウラは反射的にブラドの死体から距離を取り、ホルダーの中に納まっている得物を彼の死体へと向ける。

 

 もしかしたら、ブラドが死んだのを見ていた吸血鬼が俺たちに向けた憎悪かもしれない。なのに俺たちは、反射的にブラドへと銃を向けていたのである。

 

 そのような憎悪を発する人物と、数十秒前まで死闘を繰り広げていたのだから。

 

 そして―――――――もう二度と動く筈のない死体の指先が、ぴくりと動く。

 

「―――――――!?」

 

 死体が痙攣したわけではない。確かに動いたその指先は立て続けに蠢き始めたかと思うと、やがて床に落としてしまった何かを探るかのように血まみれの床の上を這いまわり、やがて起き上がろうとする身体を支え始める。

 

 ベッドで眠っていた少年が目を覚ますかのように、目を閉じていた死体が深紅の瞳をあらわにする。こめかみの風穴や心臓に突き立てられたナイフの傷跡は全く再生しておらず、まるで死者がゾンビになって起き上がったかのようにも見えてしまう。

 

 ゆっくりと起き上がったブラドの”死体”の傷口が、少しずつ塞がり始めた。ナイフで貫かれた胸の傷口からいきなり鮮血が排出され始めたかと思うと、弱点である銀の粉末が混じった鮮血がほぼ体外に排出されてから、胸の傷口が塞がり始める。胸筋と皮膚がコートの下で結び付き合い、再びつながった血管の中を急激に作り出された新鮮な血液が流れだす。

 

 そしてライフル弾に貫かれたこめかみの傷も、同じく再生しつつあった。ライフル弾に蹂躙された脳が再び形成され、風穴を塞ぐために急速に頭蓋骨が風穴を埋めてしまう。そしてその表面を肉と皮膚が覆い、完全に傷があったことを隠してしまう。

 

「バカな…………」

 

 確かに自殺した筈だ。ノエルの自殺命令(アポトーシス)には、絶対に逆らえないのだから。

 

 彼女の自殺命令(アポトーシス)は、相手が確実に自殺できる方法で自殺するようになっている。相手が吸血鬼のような再生能力を持っていたとしても、その再生能力を無効化できるような方法を勝手に選んで自殺するため、それで死ねないという事はありえない。

 

 実際にブラドは、銀の弾丸で自分の頭を貫いた挙句、テルミットナイフで自分の心臓を貫き、心臓に直接銀の粉末を叩き込んで自殺したのだ。復活できるわけがない。

 

 レバーアクションライフルをブラドに向けながら、俺とラウラは数歩後ろへと下がる。

 

 やがて―――――――再生を終えたブラドが、息を吐きながら傷の塞がったこめかみを静かに撫でた。もうグロテスクな風穴が開いていないことを確認した彼は、俺たちを睨みつけながら苦笑いした。

 

「…………まさか、こいつを使うことになるとは思わなかったよ」

 

 そう言いながら深紅のメニュー画面を開き、素早く画面をタッチしてから奇妙な物体を取り出す。まるで巨大なルビーの塊の中から削りだしたような、小さな紅色の結晶。やがてそれの表面に亀裂が入ったかと思うと、美しい深紅の結晶はそのままぼろぼろと崩壊を始め、最終的に鮮血のような色の砂になって消滅していった。

 

 あれはなんだ…………?

 

「それは?」

 

「”堕天使のルビー”というアイテムさ。これを所持していると、死亡した際に一度だけ蘇生することができる。…………まあ、簡単に言えば一回限りの”蘇生アイテム”みたいなもんだ」

 

 蘇生アイテム…………!?

 

 くそったれ、そんなものがあったのか。

 

「とはいえ、こいつは俺とビッグセブン専用。要するに”次世代型転生者”にのみ適用されるアイテムだ。だからお前の仲間が死んだとしても、そいつには使えない。そしてこいつは生涯に一度しかドロップしないレアなアイテムなのさ」

 

「それは便利だな…………くそっ」

 

 ノエルの自殺命令(アポトーシス)は、発動してから1分間以内ならば他の標的にも自殺するように命令することができるため、短時間の間だけならば何人も自殺させることができるのだが、もう既に発動してから1分経過してしまっている。再び使えるようにするには、3日間待たなければならない。

 

 ちらりと彼女の方を見ると、やはりノエルは首を横に振った。

 

 確かに彼女の自殺命令(アポトーシス)は標的を自殺させることができる能力だ。しかし、もし本当にそんな蘇生アイテムが存在するというのであれば、その蘇生アイテムまで無力化することはできない。

 

 なんてこった。やっぱり、セオリー通りに殺さなければならないのか。

 

「ちなみに、お前にもドロップする筈だが…………驚いてるところを見ると、持ってないみたいだな?」

 

「宝石は持ち歩かないようにしてるんでね…………」

 

 そういうのは金庫にしまっておけ、くそったれ。

 

 弾薬は足りるか? 第一ラウンドで結構弾薬を使ってしまったぞ? 

 

 それに、先ほどの戦闘でブラドは学習した筈だ。ノエルの能力がどのような代物なのかは理解できていない筈だが、彼女を野放しにしておくと危険だという事は理解したに違いない。逆に言えば、彼女がいる事で常にブラドを警戒させ、迂闊に攻撃させないようにすることはできるが、下手をすればむしろ彼女が集中攻撃を受ける危険性もある。

 

「まあいい。…………安心しろ、今度は高を括らない」

 

 ヤバいな…………。さっきは憎悪と殺意を剥き出しにして襲い掛かってきたが、今度は冷静で堅実な戦い方に戦法を変えるに違いない。蘇生する手段がなくなった以上、”死”を避けるためにより確実な戦い方をするだろう。

 

 個人的に、そういう戦い方をする相手が一番苦手だ…………。多少無茶をしたり、攻撃ばかりしてくるような相手ならば欺きやすくて簡単に倒せるが、こっちを警戒している相手はやりにくい。

 

 ブラドはメニュー画面を開くと、素早く画面をタッチしてTAR-21タボールをもう1丁装備してセレクターレバーをフルオートに切り替えた。先ほどのように迂闊に接近戦はしかけず、あくまでも距離を置きながら攻撃するつもりなのだろう。

 

 レバーアクションライフルの残弾を確認しようとしたその時だった。

 

 ―――――――ドン、という轟音とともに、俺たちが死闘を繰り広げていたサン・クヴァント宮殿が揺れたのである。

 

 裕福な貴族の屋敷とは比べ物にならないほど広く、巨大な宮殿が揺れるほどの轟音と衝撃波。まるで爆撃か巨大な砲弾が着弾したような音にも聞こえたが、この戦闘でそういう音をこれでもかというほど聞き、その衝撃波を感じてきた俺は、瞬時にその轟音が砲撃や爆撃の音とは異なるという事を理解していた。

 

「見て、あれ!」

 

 蘇生したブラドに銃を向ける俺とラウラの後ろにいたノエルが、後ろの方に鎮座する巨大な窓の向こうを指差しながら叫んだ。目の前にあのレリエル・クロフォードの息子がいるにも関わらず、俺とラウラはちらりと後方の窓の外を一瞥して―――――――そのまま凍り付いてしまう。

 

 俺たちに敵意と憎悪を向けていたブラドも同じ状態だった。窓の外をじっと見つけたまま、微動だにしない。

 

 この広い部屋にある大きな窓からは、帝国の象徴でもあるホワイト・クロックや規則正しく立ち並ぶ屋敷や建物が形成する美しい街並みが一望できる筈だった。しかし市街地は爆撃や艦砲射撃で徹底的に破壊されており、辛うじて爆撃で倒壊することを免れた一部の屋敷やホワイト・クロックが焼け野原を見下ろしている。

 

 だが―――――――生き残ったホワイト・クロックも、ついに倒壊して残骸と化した建物たちの仲間入りをしようとしているようだった。

 

 帝都を一望できる展望台で火柱が吹き上がったと思うと、やがて薄れ始めた火柱は展望台から巨大な時計塔の内部を侵食し始めたらしく、真っ白なレンガで構成されている壁面を突き破ると、まるで絶え間なく太陽から吹き上がるフレアのように無数の火柱を生じさせ、緩やかに巨大な時計塔を崩していく。

 

 21年前にレリエル・クロフォードがホワイト・クロックを倒壊させたかのように、あの帝国の象徴は再び倒壊しようとしているのだ。

 

 確か、向こうには第一軍が向かっていた筈だ…………! 母さんや親父は無事なのか!?

 

 吸血鬼の女王であるアリアが何かしらの罠を仕掛けていたのだろうかと思いつつ、俺は無線機のスイッチを入れた。おそらく倒壊する時計塔の中から脱出しようとする味方の兵士たちの絶叫が聞こえてくるだろうと予想していたのだが―――――――聞こえてきたのは、全く違う内容だった。

 

『見ろ、時計塔が倒壊する!』

 

『全員脱出したか!? 同志リキノフは!?』

 

『同志リキノフはまだ中です! アリアと戦闘中!』

 

『とんでもない方だ………時計塔を倒壊させちまうなんて………!』

 

 お、親父が倒壊させたのか………!?

 

 確かに倒壊する寸前に、ちらりと火柱のようなものが見えた。アリアが炎属性の魔術を使った可能性もあるが、あんなに大規模な炎属性の魔術を軽々と使うことができるのは、体内にあらかじめ変換済みの魔力を持つキメラしかありえない。

 

 そして第一軍にいるキメラは―――――――親父しかいない。

 

 燃え盛りながら倒壊していく時計塔を見つめながら、俺たちは親父がアリアを圧倒していることを知って安堵したが―――――――逆に、自分の同胞が不利になっていることを知ったブラドは、目を見開きながら走り出した。

 

 俺たちに奇襲を仕掛けるつもりかと思って身構えたが、ブラドは俺たちの事が眼中に無かったのか、装備したばかりのタボールを投げ捨ててから俺とラウラの間を全力で駆け抜けていき、全力で突進する猛牛を彷彿とさせる勢いで、そのまま巨大な窓をタックルで粉砕してしまう。

 

「母上ッ!」

 

「待て、ブラドッ!」

 

 宮殿の中から窓の外へと躍り出た彼は、先ほど俺たちとの戦闘でも発揮した瞬発力をフル活用し、倒壊していくホワイト・クロックの方へと全力疾走していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、21年前にも同じことがあった。

 

 ヴリシア帝国騎士団から依頼を受けたモリガンと、レリエル・クロフォードが激突した際も、ホワイト・クロックは倒壊したのである。少しずつ力を高めつつあった転生者と数百年ぶりに復活した吸血鬼の激闘で倒壊したホワイト・クロックは、帝都の人々の手によって完璧に復元され、帝都の象徴として街並みを見下ろし続けていた。

 

 しかしその21年後に、再び倒壊することになる。

 

 その激闘に勝利した、モリガンの傭兵の手によって―――――――。

 

 降り注ぐ火の粉と燃え盛る残骸の礫の雨を浴びながら、リキヤ・ハヤカワは金属やレンガが焦げる悪臭を吸い込みながら、お気に入りのブーツでひしゃげた鉄骨の上を歩いていた。右手に持つウェブリー・リボルバーのシリンダーにスピードローダーを使って新しい弾丸を装填した彼は、先ほどまで戦っていた相手を探して瓦礫の山の上を見渡す。

 

 このような光景を目の当たりにする度に、21年前の光景がフラッシュバックする。あの時この時計塔を倒壊させたのはレリエル・クロフォードで、その直後に彼はレリエルが放り投げた巨大な時計の針を腹に突き立てられて死にかけたのだ。

 

 当時とは、逆だった。この復元させた時計塔を倒壊させたのは、アリアではなく自分なのだから。

 

「エミリア、エリス、無事か?」

 

『ああ、何とか』

 

『もう、ダーリンったら。こういうことをするなら作戦説明の時に言ってよねっ!』

 

「はははっ、すまんすまん。肝に銘じておく」

 

 無線機で妻たちの安否を確認してから、ちらりと後ろを振り向く。彼と共にホワイト・クロックの展望台に降下し、リキヤとアリアの戦いを無言で見守り続けていたリディア・フランケンシュタインは、倒壊した際に浴びた粉塵で汚れた男性用のスーツに身を包んだまま、静かにリキヤの後ろに立っていた。

 

 彼女も無事であることを確認した彼は、目の前のレンガの山を注視する。

 

 真っ黒に変色してしまったレンガの山の上に、巨大な時計を動かすための大きな歯車や時計の針の残骸がいくつか乗っていて、まるで巨人の墓標のようになっている。墓石の代わりに突き立てられた時計の針の根元を見つめたリキヤは、ニヤリと笑ってからその墓標へと向かって歩き出す。

 

 その苦痛は、かつて自分が味わった苦しみだった。巨大な時計の針を腹に突き立てられ、内臓を蹂躙されて死にかけたのだから。

 

「よう、アリア。気分はどうだ?」

 

 真っ黒になったレンガの上に横たわっていたのは、先ほどまで展望台で死闘を繰り広げていた金髪の美女だった。身に纏っていた真っ白なドレスを思わせる服は黒く汚れていて、すらりとした腹の周囲だけは真っ赤に染まっている。

 

 その原因は、彼女の腹に突き立てられている巨大な時計の針であった。

 

 騎士の持つ剣のような形状をしている時計塔の針が、彼女の腹に突き刺さっているのである。展望台から地面に叩きつけられた挙句、腹に巨大な時計の針を突き刺される羽目になったアリアは鋭い犬歯が覗く小さな口から血を吐き出すと、すらりとした両手で時計の針を掴み、自分の腹から引き抜くために足掻き始めた。

 

 気分がいいわけがない。呻き声を上げながらリキヤを睨みつけるアリアは、歯を食いしばりながら自分の腹に刺さっていた巨大な針を引き抜くと、それを放り投げてからゆっくりと立ち上がる。

 

 針は銀で作られていたわけではないため、傷口の再生には何の支障もない。彼女のすらりとした腹部からはみ出していた腸が、まるで穴に潜り込んでいく蛇のように傷口の中へと吸い込まれていくと、すぐに腹部を腹筋と皮膚が覆って傷を塞いでしまう。

 

 呼吸を整えながら、アリアは歯を食いしばった。

 

「あなた…………どうしてそんな力を………!?」

 

「お前はあの時から、復讐のために力を磨き続けていたようだな。素晴らしい努力だ。でもな―――――――」

 

「うぐっ……!?」

 

 右手にリボルバーを持ったまま直立していたリキヤが、アリアが反応できないほどの速度で左手を突き出す。がっちりした外殻に覆われた大きな手はアリアの細い首を容易く掴むと、そのまま彼女の喉を締め付けながら持ち上げてしまう。

 

 彼女はリキヤの左手を振り解こうと必死に足掻き始めたが、サラマンダーの外殻に覆われているリキヤの腕はびくともしない。常人の腕ならば容易くへし折ってしまうほどの力を込めて殴りつけても、逆に自分の皮膚が裂けてしまうだけだった。

 

「―――――――――俺も努力家なんだよ」

 

「が…………かっ…………あぁ…………っ!」

 

 レリエルとの一騎討ちが終わった後、リキヤは会社を経営しながらひたすら努力を続けていた。休日はエミリアと一緒に朝早くから剣の素振りを行い、子供の世話をしながらひたすら転生者を狩り続けていたのである。

 

 転生者を撃破すれば、レベルは簡単に上がる。それゆえにかつて転生者を絶滅寸前まで追い込んだ転生者の天敵は、ついにレベルの終着点まで達してしまったのである。日常生活に支障が出てしまうほどのステータスを持つようになった後も、王権拘束(マグナ・カルタ)というスキルで自分のステータスを5分の1に抑えたまま努力を続け、ひたすら自分の力を磨き続けていた。

 

 アリアも同じように努力を続け、レリエルの後継者を名乗ったが―――――――努力のレベルが、違い過ぎたのだ。

 

 ”成長した怪物”は、”成長し過ぎた怪物”に勝てないのである。

 

 剛腕に首を絞めつけられ、徐々に呼吸できなくなっていく中で、アリアは悟っていた。おそらくここで全ての吸血鬼を呼び戻し、ブラドの作り出す武器を装備させてこの男に最後の戦いを挑んだとしても、一矢報いることは不可能であると。

 

 高を括っていたわけではない。相手はレリエル・クロフォードを超えた男なのだから。

 

 

 

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