異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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吸血鬼たちの撤退

 

 

「母上ッ!」

 

 その光景を目の当たりにしたブラドは、目を見開いた。

 

 ホワイト・クロックが倒壊した際にタクヤの持つ無線機から聞こえてきたオルトバルカ語の連絡と、時計塔から吹き上がった火柱を目の当たりにした段階で、彼は薄々自分の母が劣勢になりつつあるという事を理解していた。しかし、魔術の使い方や戦い方を彼に教えた”教官”でもある自らの母がそう簡単にやられる筈はないと必死に信じながら宮殿を飛び出したブラドだが―――――――残骸の山の中で目にした母は、まさに風前の灯火と言える程追い詰められていたのである。

 

 単独で魔王を迎え撃つため、あえて護衛の兵士すら守備隊へと派遣して単独で待ち構えていた母は、おそらく魔王をそこで打ち倒す自信があったからこそ単独で展望台に残ったのだろう。

 

 しかし残念ながら、彼女の元へと付き添いの女性を引き連れてやってきた魔王は、彼女の想定していた強さを遥かに上回る怪物であったのである。

 

 剛腕に首を絞められているアリアの身体は、まだ微かに痙攣していた。唯一の肉親である母親が生きていることに安堵したブラドだが、傷だらけの状態で血まみれのドレスを身に纏う母の姿を目にした瞬間、同時に怒りも産声を上げつつあった。

 

 吸血鬼の数が減り、人間たちから疎まれるのが当たり前となった世界で、必死に自分を育て上げてくれた母親を殺そうとする男への殺意。先ほどまで彼が、タクヤに対して向けていた憎悪や殺意をあっさりと呑み込んでしまうほどの怒りが、今のブラドの心を掌握しつつある。

 

 腰のホルスターからコルト・ガバメントを引き抜き、母の首を絞めている赤毛の男へと向けたブラドは、側へとやってきた若造は眼中に無いと言わんばかりに母の首を絞め続ける男に向かって叫んだ。

 

「母上を離せ、無礼者ッ!」

 

「母?」

 

「ぶ、ブラ………ド…………?」

 

 ゆっくりと、アリアの首を絞めていた赤毛の男がブラドの方を振り向く。

 

 年齢は30代後半か40代前半だろう。まるで紳士のスーツと軍用のコートを融合させたようなデザインの漆黒のコートに身を包んでおり、そのがっちりとした身体は鍛え上げられた筋肉で覆われている。炎を彷彿とさせるやや短めの赤毛の群れからははっきりとダガーのような角が屹立しており、真っ黒なその角は先端部に行くにつれてマグマのような色に変色していた。

 

 その角さえなければ、いたって普通の男性と言えるだろう。しかしその頭から伸びる角と特徴的な赤毛は、ブラドやアリアだけではなく、全ての吸血鬼が殺意を向けるべき存在の象徴でもある。

 

 そう、キメラである。

 

 11年前にレリエル・クロフォードを殺し、吸血鬼たちを瓦解させた張本人。今では圧倒的な軍事力を誇るモリガン・カンパニーの頂点に立つ男であり、彼が雇う数多くの労働者からは”魔王”と呼ばれて親しまれている男だ。

 

 炎を思わせる色の瞳が銃を向けるブラドを見据えた瞬間、彼はそれだけで魔王と自分にどれだけの差があるのかを少しだけ理解する羽目になった。

 

 相手は自分が生まれるよりも前から経験を積み、あらゆる死闘を経験しているベテランの傭兵。更にレリエルを倒した後もひたすら努力を続け、自分の実力を磨き続けてきた男である。純粋な実力だけでなく、経験も濃度が全く違う。

 

 魔王は微かに目を細めると、アリアを掴んでいた左手から力を抜いた。まるでドラゴンの外殻を人間の手にそのまま張り付けたような腕から解放されたアリアは、先ほどまで締め付けられていた首を片手で押さえながら瓦礫の上へと落下し、咳き込み始める。

 

「ゲホッ、ゲホッ…………ぶ、ブラド、何をしに来たの…………? に、逃げなさい、この男は…………」

 

「………息子か。なるほど…………確かに、父親に似ているな」

 

「貴様ぁ…………よくも父上と母上を…………ッ!」

 

 コルト・ガバメントを向けられながら、リキヤは苦笑いしつつ肩をすくめた。銃を向けられているにもかかわらず、右手に持っていたウェブリー・リボルバーのシリンダーの中に弾薬が入っているかをチェックしたリキヤは、首を横に振りながら息を吐く。

 

 銃を向けられているというのに、自分はまるで挑発するようにシリンダーの中を確認するという隙を見せ、更に得物を敵に向けない。その態度はまるで、ブラドに『お前は私が戦うような相手ですらない』と嘲笑しながら告げているに等しかった。

 

 それゆえに―――――――プライドの高い種族である吸血鬼のブラドは、トリガーを引いた。

 

 銃口からマズルフラッシュが躍り出ると同時に、.45ACP弾の銃声が周囲に響き渡る。白銀のスライドがブローバックして微かに煙を纏う薬莢を排出し、再び元の位置へと戻っていく。

 

 照準を合わせていたブラドは、この一撃は命中する筈だと確信していた。

 

 魔王と呼ばれている男も転生者だという事は知っている。しかもあれは今までに数多の転生者を狩り、一時的にとはいえ転生者を絶滅寸前まで追い込んだ”転生者の天敵”でもある。今でも成長を続け、ついにこの世界で最強の転生者と呼ばれることになった怪物だ。ステータスが自分よりも高いのは、火を見るよりも明らかである。

 

 しかしその魔王との距離は10mほど。コルト・ガバメントの放つ.45ACP弾は他のハンドガン用の弾薬よりもやや弾速が遅いものの、それでもそれを躱すのは至難の業だ。ある程度距離が離れていれば転生者でも回避できるかもしれないが、標的までの距離は10mである。回避するにしては距離が近過ぎると言えた。

 

 それゆえに確実に命中すると確信していたブラドであったが―――――――銃弾が飛び込んでいった場所から聞こえてきた音を聞いた瞬間、彼はその確信が誤っていたことを悟る。

 

 聞こえてきたのは、銃弾が焦げたレンガを抉る音だったのだ。

 

(!?)

 

 キメラがドラゴンの外殻を瞬時に形成して体を覆い、防御力を飛躍的に向上させることができるのは事前に聞いている。だからブラドは、今の音は外殻に防がれた音なのだろうと一瞬だけ思っていた。

 

 しかし、先ほどまで目の前にいた筈の魔王が見当たらない。傍らに必死に呼吸を整える母がいるだけで、先ほどまでアリアの首を絞め続けていた赤毛の男の姿がないのである。

 

 今の一撃を、躱したのだ。

 

 10m足らずの距離から放たれた一撃を、躱したのである。

 

 それを理解した直後、こつん、とブラドの後頭部に硬い何かが押し付けられる。何度も発砲したせいなのか、後頭部に押し付けられているそれの銃身は火薬の臭いを纏っていたため、ブラドはそれが何なのかをすぐに察する。

 

 イギリス製リボルバーの、”ウェブリー・リボルバー”。先ほど母親を苦しめていた男が身に手に持っていた得物である。それが自分の後頭部に押し付けられている意味を知った直後、凄まじい衝撃が彼の後頭部を突き飛ばしたかと思うと、ブラドの頭は前方に大きく揺れ、脳の破片を焦げたレンガの上にぶちまける羽目になった。

 

 リキヤは今の一撃を回避しただけではなく、一瞬でブラドの背後に回り込み、後頭部にリボルバーの銃口を押し付けて発砲したのである。基本的に吸血鬼の動体視力は人間よりもはるかに優れており、熟練の吸血鬼ならば当たり前のように弾丸を躱すことも可能であるが、いくら母を殺されかけて怒り狂っていたとはいえ、ブラドにも弾丸を回避できるほどの動体視力は備わっている筈だった。

 

 その動体視力でも捉えきれないほどの速度で、後ろへと回り込まれたのである。

 

 撃ち抜かれた頭を再生させながら、ゆっくりと起き上がろうとするブラド。痙攣する身体に強引に力を入れて立ち上がろうとする彼の後ろで、赤毛の男がリボルバーを向けながらブラドを見下ろしている。

 

「おいおい…………しっかりしてくれ、息子さん。レリエルの息子ならもう少し強い筈だろ?」

 

「だ、黙れぇ…………!」

 

 辛うじてまだ右手がコルト・ガバメントのグリップを握り続けていることに気付いたブラドは、体勢を立て直すと同時に後方へと銃口を向けてトリガーを引く。

 

 しかし、またしても先ほどと似たような音が聞こえてきた。放たれた.45ACP弾が魔王ではなく、周囲に積み上げられているレンガの山の一角に命中する音。明らかに人体を食い破った音や、外殻に弾かれた音ではない。

 

 外れたことに気付いた瞬間、今度は右側のこめかみに、こつん、とリボルバーの銃口が押し付けられる。そのリボルバーのグリップを握っているのは―――――――やはり、がっちりした体格の赤毛の男から伸びる剛腕であった。

 

「―――――――この程度でレリエルの息子だと? あまり俺を失望させないでくれ、王子様(クソガキ)

 

「――――――――!」

 

 ズドン、と1発の弾丸がブラドのこめかみを撃ち抜いた。

 

 再び脳味噌の残骸をレンガの上にぶちまける羽目になったブラドは、常人では感じることのできない脳を破壊される激痛を感じながら、まだ再生が完全に終わっていないにもかかわらず、痙攣する両腕に強引に力を込める。

 

 しかし、先ほどのようにハンドガンを向けて応戦するつもりはなかった。いくら至近距離での射撃とはいえ、この男に銃を向けてトリガーを引けばどのような結果になるのかはすぐに想像がついたからである。

 

「ふん、生命力だけは立派だな。どれだけ弾丸をぶち込めば殺せるのか…………」

 

「ぐっ…………」

 

「まあいい。…………お前はこのまま嬲り殺しに―――――――」

 

 その時だった。

 

 魔王がアリアに向けて放った一撃で倒壊し、今では鉄骨やレンガの残骸が積み上げられた廃墟と化したホワイト・クロックの一角から、漆黒に塗装された何かが風を引き裂きながら飛来したかと思うと、自分よりもはるかに各下の相手であると判断したブラドへ銃口を向けていたリキヤの左側の側頭部を直撃したのである。

 

 銃であれば銃声がする筈だ。サプレッサーを装着していた可能性もあるが、ブラドは部下たちにサプレッサー付きの得物を支給した覚えはない。

 

 からん、と音を立ててレンガの上に落下したそれを拾い上げたブラドは、目を見開いた。

 

 今しがた飛来し、弾丸すら回避した魔王の左側頭部を直撃して一矢報いたその一撃の正体は―――――――漆黒に塗装された、1本の投げナイフだったのである。一般的なナイフよりも小型でグリップも薄いそのナイフを得物にしている男の顔を思い浮かべた瞬間、今度はブラドとリキヤの間に何かが落下した。

 

(スモークグレネード…………!?)

 

「ふむ」

 

 ナイフが左側頭部に直撃したとはいえ、防御力のステータスに救われたのか、リキヤはそれほど重傷を負っているようには見えなかった。左耳の少し上の頭皮がほんの少しだけ切れて血が滴り落ちている程度で、かすり傷でしかない。

 

 しかしいきなり攻撃を喰らったことには驚いているらしく、目を丸くしているようだった。やがて彼の顔がスモークグレネードによって生み出された白煙に包み込まれ、周囲の残骸の山も同じように見えなくなっていく。

 

 こんなところにスモークグレネードを放り込んだのは誰なのかと思っていたブラドの手が、急に誰かの手に掴まれた。魔王に掴まれたのかと思ったブラドだが、彼の手と比べると華奢で、やや手も白い。

 

 その手の持ち主は何者なのかと思いつつ腕の根元を見上げていくと、すらりとした胴体が見えた。その動体が身に包んでいる立派なスーツは倒壊したホワイト・クロックの砂埃や煤で汚れており、その手の持ち主がかぶっているシルクハットも所々穴が開いている。

 

 やがてブラドの手を引いている男は、先ほどまでリキヤの攻撃で殺されかけていたアリアの手も引くと、2人を連れてホワイト・クロックの残骸の外まで誘導し始めた。段々とスモークグレネードの生み出した白煙も薄れていき、徐々に魔王の前から2人を救い出してくれた男の姿があらわになり始める。

 

「ヴィクトル…………!?」

 

「お2人とも、ご無事で何よりです」

 

 魔王に蹂躙されていた2人の元にスモークグレネードを投げ込み、更にリキヤにナイフをお見舞いして一矢報いたのは―――――――ホワイト・クロックが倒壊する直前まで、内部でエミリア・ハヤカワと死闘を繰り広げていたヴィクトルであった。

 

 彼も辛うじて倒壊する直前に部下を連れて脱出することができたらしく、彼がアリアとブラドを連れ出して誘導していった先の路地には、身体中に包帯を巻いた負傷兵や、聖水をぶちまけられて顔に大やけどを負う羽目になった吸血鬼の兵士たちが呻き声を上げながら集まっていた。

 

 火薬の臭いと腐臭がする路地の中に集まった彼らは、兵士と言うよりは”敗残兵”と言えるような姿をしたものばかりである。

 

 敵の20分の1の戦力とはいえ、人間の兵士たちまで徴兵してしっかりと防衛ラインを築き上げて抵抗したにもかかわらず、最終的にはついにホワイト・クロックと宮殿まで陥落する羽目になってしまったのだ。更にブラドは自分自身が持っていた天秤の鍵までタクヤに奪われてしまっているため、この戦いは”惨敗”としか言いようがない。

 

 路地の中で呻き声を上げながら虚ろな目で自分たちを見つめてくる負傷兵たちを目にしたブラドとアリアは、その瞬間にやっと自分たちはこの戦に負けたという事を理解した。

 

 そう、負けたのだ。

 

 全てを取り戻すための戦いで、逆に全てを奪われて。

 

 全てを焼け野原にされた悔しさが、ブラドの心の中で膨れ上がる。まだ痙攣する両腕に力を込めて拳を握り締めた彼は、すぐに踵を返してホルスターからコルト・ガバメントを引き抜こうとした。

 

 あの男に自分の力が通用しないのは理解している。けれども、せめて何かしらの痛手は与えておきたい。

 

 しかし、彼の父であるレリエルに使え続けていたヴィクトルという忠臣が、若き主君がやろうとしている自殺行為を許すわけがない。すぐにボロボロの細い手を伸ばしてブラドの肩を掴んだ彼は、再び戦場に戻ろうとするブラドを止めようとする。

 

「お止めください、ブラド様。今の我々では、奴らにはもう…………」

 

「離せ、ヴィクトル! 一方的に踏みにじられたまま終われるか!」

 

 そう言い返すブラドであったが、その路地へと逃げ込んでいた兵士たちはもう既に、残った戦力を全てかき集めて魔王に総攻撃を仕掛けても、あの怪物を打ち倒すことはできないだろうと理解していた。圧倒的な戦闘力と防御力で強引に防衛ラインを突破して、ついに吸血鬼の女王まで容易く蹂躙してしまうほどの男なのである。しかも、防衛ラインを突破する段階ではまだ彼は5分の1のステータスの状態である。

 

 肩を掴んでいたヴィクトルは、ゆっくりと首を横に振った。

 

「そうですね…………では、その役目は私が請け負いましょう」

 

「ヴィクトル…………?」

 

 負傷兵たちに持っていたエリクサーを配っていたアリアが、いきなりそう言い出したヴィクトルの顔を見上げた。

 

「どの道、この中にいる誰かが敵の追撃を食い止める殿をしなければ、帝都の外への撤退は難しいでしょう」

 

「だが―――――――」

 

 相手は未だに圧倒的な数の兵士や戦車を保有しており、制空権まで敵が確保している状態である。圧倒的な物量を未だに保有する敵の大群を食い止める殿を担当するという事は、生還は不可能という事を意味していた。

 

 つまり、殿を担当すれば―――――――生きて帰ることはない。

 

 圧倒的な物量の敵を命懸けで食い止める役目を、ヴィクトルが担当しようとしているのである。

 

 ブラドはすぐに首を横に振っていた。

 

 ヴィクトルは、商人たちからブラドが助け出されてからずっと彼の面倒を見てくれた教育係でもある。この世界の言語の読み書きだけでなく、吸血鬼の王になるためのマナーを教えてくれたヴィクトルは、すぐに父親が他界してしまったブラドにとってはもう1人の父親のような存在だったのである。

 

 ここで彼を見送れば、もう二度と彼は帰ってこない。

 

 だからこそブラドは、殿を務めようとするヴィクトルを止めようとした。

 

「や、やめろ、ヴィクトル………! お前が死ぬことはない………!」

 

「いえ、ブラド様。この中で軽傷で済んでいるのは私だけ。あなたとアリア様は吸血鬼たちを統率するという大切な役目がある。私以外に殿を務められるものはおりませんよ」

 

「だが………!」

 

 すると、ヴィクトルは微笑みながら首を横に振った。傷だらけのシルクハットをそっとブラドの頭の上に乗せてから、ブラドの顔についていた血を細い指で静かに拭い去る。

 

「それに、私には決着をつけなければならない相手がいるのです。どうか…………もう一度、戦場へ行かせてください」

 

 ホワイト・クロックさえ倒壊しなければ、どちらかが死ぬまでひたすら戦い続けていた筈の剣士を思い浮かべながら、ヴィクトルは懇願した。あのレリエル・クロフォードに仕えた栄えある吸血鬼の1人として、彼女と決着をつけるまでは死ねないのである。

 

「――――――――分かったわ」

 

「母上!?」

 

「…………今まで世話になったわ、ヴィクトル」

 

 そっと彼の側へとやってきたアリアは、そっと告げた。

 

 かつてアリアがレリエルの眷属だった頃に2人目の眷属としてレリエルに仕えたヴィクトルは、アリアが後継者となってからも彼女の眷属のままであり続けた。アリアにとってヴィクトルは、自分自身の右腕のような大きな存在だったのである。

 

 それを今から、手放さなければならない。

 

「アリア様、どうかお元気で。…………ブラド様も、どうか立派な吸血鬼になってください。一足先に…………レリエル様の所で、見守っていますよ」

 

 涙目になっているブラドに最後に告げたヴィクトルは、彼に勉強を教えていた頃と全く変わらない笑顔を浮かべながら静かに踵を返すと―――――――燃え盛る帝都へと、ゆっくりと歩き出す。

 

 同胞のために殿を引き受けた男の目つきは、いつの間にか鋭くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げたか…………」

 

 白煙が消え失せてから、俺は周囲を見渡しつつ呟いた。

 

 周囲に敵が潜んでいる可能性もあるから警戒しながらあのガキの相手をしていたつもりだったが、それでも察知できないとは思わなかった。あのナイフを投げてきた吸血鬼はおそらくかなりの実力者だろう。

 

 そういえば、以前に劇場で俺を暗殺しようとしていた吸血鬼がいたな。もしかして、あいつだったんだろうか?

 

『同志、ご無事ですか?』

 

「ああ。そっちの状況は?」

 

『こちらは制圧しました。第二軍の方も、そろそろ決着がつく頃かと。…………あとは逃げた敵を追撃するだけですね』

 

「そうだな…………」

 

 さっきの吸血鬼は、おそらくあのガキとアリアを連れて逃げたのだろう。レリエルの妻と息子は吸血鬼の統率に何としても必要な存在だから、是が非でも死守するつもりに違いない。

 

 見逃してやってもいいが…………後で更に力を蓄え、再び武装蜂起されても面倒だ。狩れるならばここで狩ってしまった方が合理的だろう。

 

「よし、航空部隊と爆撃機を呼び戻せ。艦隊にも艦砲射撃を要請。歩兵部隊もほぼ全て投入し、徹底的にここで殲滅するぞ」

 

『了解(ダー)!』

 

 天秤の争奪戦の最終局面で、横槍を入れられたら面倒だからな…………。

 

 火の粉が舞う空を見上げながら、俺は静かにリボルバーをホルスターへと戻した。

 

 

 

 

 

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