異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
リキヤたちの子育てや伏線のシーンがメインになります。
傭兵が子育てをするとこうなる
テーブルの上に置いておいた7.62×54R弾が束ねられたクリップを掴み取り、そのままポーチの中に突っ込む。ホルスターの中にもちゃんとトカレフTT-33が入っていることを確認してから立ち上がり、壁に立てかけておいた得物を拾い上げる。
下部から長いマガジンが突き出ていないせいですらりとした形状をしており、木製の部品を多用しているせいなのか古めかしい雰囲気を放っているそれは、第二次世界大戦でソ連軍が正式採用していた”モシン・ナガンM1891/30と呼ばれるボルトアクション式のライフルである。
AK-47が採用され、徐々に新型のアサルトライフルやボルトアクションライフルが正式採用されるようになってからはすっかり退役してしまった旧式のライフルだが、射程距離と殺傷力だけならば近代的なライフルには引けを取らない。その上非常に堅牢で扱い易いため、お気に入りの得物の1つだ。
妻たちが作ってくれたウシャンカを頭にかぶってから、家の玄関へと向かう。
「力也」
「おう、エミリア」
モシン・ナガンを背負いながら外に出ようとしていると、後ろからやってきた妻に呼び止められた。かつて俺と一緒に隣国からこのオルトバルカ王国まで亡命してきた一番最初の仲間は、この家で一緒に暮らす大切な家族である。
転生者ですら一瞬で両断してしまう凄腕の剣士なのだが、通路の向こうからやってくる彼女はふらついているようにも見える。ドアを開けようとしていた俺はドアノブから手を放して彼女の側へと向かうと、最愛の妻が転ばないように彼女のすらりとした手を握る。
「す、すまん…………」
「気にすんなって」
「ところで、仕事か?」
「ああ。魔物退治だってさ」
「なっ、なんだと!? ならば私も―――――――」
慌てて自室まで自分の剣を取りに戻ろうとした彼女を優しく止めてから、エミリアのお腹を指差す。
昔から騎士団で訓練を受け、今でも毎朝剣の素振りや筋トレを欠かさずに行っている彼女の身体は本当にすらりとしていて美しい。必要以上に甘いものを食べることもないから余分な脂肪は殆どないのだ。けれども今の彼女のお腹は順調に膨らんでいて、こうして歩く度にふらつくようになりつつある。
お腹を指差された彼女は、少しばかり悔しそうな顔をしながら俺の顔を見上げた。
「ママになるんだから、安静にしてなきゃだめだよ」
「くっ…………だ、だが…………ッ」
そう、エミリアは数ヶ月後にはママになるのである。
彼女のお腹の中で生まれるのを待っているのは―――――――俺とエミリアの遺伝子を受け継いだ、可愛らしい子供なのだ。ちなみにもう1人の妻であるエリスも同じく妊娠しており、フィオナの検査では出産の時期はエミリアとほぼ同じになるらしい。
一緒に仕事ができないのが悔しいのか、それとも俺を1人で戦いに行かせるのが不安なのか、エミリアは俺のコートの裾を思い切り掴んだ。
彼女の頬を右手で優しく撫でてから、そっと唇を奪う。
「大丈夫。俺もパパになるんだから…………こんなところで死なねえよ」
「う、うむ…………だが、その…………心配なのだ」
妻を未亡人にするつもりはないよ。だから俺も訓練は欠かさない。
一旦モシン・ナガンを壁に立てかけてから、エミリアをそっと抱きしめた。
「それにしても、生まれてくる子供はどっちなんだろうな」
「うーん…………」
この世界では、魔術の普及のせいで医術がかなり早い段階で衰退してしまったため、前世の世界のように”医者”は存在しない。基本的にそういった治療を担当するのは治療魔術師(ヒーラー)で、魔術で癒せないような病の場合は薬草を調合して患者に渡すようにしているという。
とはいえ、魔術では生まれてくる前の子供の性別がどちらなのかは判別できないため、彼女のお腹の中の子供が男の子か女の子かは、生まれてきた子供と実際に対面しない限り分からない。
「多分、男の子ではないか?」
「何で?」
「だって、未来からやってきてくれたではないか」
ああ、そうだったな。確かあれはジョシュアと戦った時の事だった。
信じられないけれど、未来から成長した姿の子供たちが俺たちの時代にやってきて、一緒にジョシュアが復活させた魔剣と戦ったのだ。あの戦いで無数のゾンビたちを率いてオルトバルカのネイリンゲンに侵攻したジョシュアたちは敗退し、俺とエミリアの子供だと名乗ったタクヤという少年は、何と魔剣を奪って元の時代へと帰っていったのである。
”歴史通り”なら、彼女のお腹の中にいるのは男の子か。そういえば、あいつは本当にエミリアにそっくりだったなぁ。性格は真逆だったけど―――――――。
未来からやってきた子供たちと出会った時の事を思い出した瞬間、まるで本当に頭を銃弾で貫かれたかのような激痛が脳を虐げ始める。歯を食いしばりながらその痛みを誤魔化そうとしたけれど、微かに彼女を抱きしめている腕が痙攣したのはエミリアに察知されたらしく、抱きしめていた彼女が心配そうに頭を撫でてくれた。
「だ、大丈夫か…………?」
「あ、ああ、大丈夫だ…………ふう」
まったく…………。
あの戦いの後、未来からやってきた子供たちの事を思い出す度にこうして頭が痛み始めるんだ。まるでそれを思い出してはならないと俺の警告しているようで、信じられないことに子供たちの事を忘れるとこの痛みは消えていくのである。
そして、あの戦いに参加したメンバーはモリガンのメンバーだけで、子供たちはそもそもいなかった、というもう1つの記憶が、こっちの方が正しいと言わんばかりにその記憶の上書を始める。
おそらくこの時代に介入することのなかった存在と接触してしまったことで、ちょっとした矛盾が生じてしまっているのだろう。この頭痛はそれが原因なのかもしれない。
けれども、現時点でこんな症状を発症しているのは俺だけらしく、エミリアやエリスたちは平然と未来からやってきた子供たちの話をしたり、どんどん大きくなっていくお腹を撫でながらあの子供たちと再会するのを楽しみにしているようだ。
「じゃあ、そろそろ行ってくるよ」
「うむ、気を付けるのだぞ」
「おう」
モシン・ナガンを拾い上げ、背中に背負ってから今度こそドアを開けようとする。けれどもエミリアのすらりとした手はまだ俺のコートの裾を掴んでいた。
まだ寂しいのかなと思いながら微笑んで振り返った瞬間、顔を近づけてきたエミリアに、今度は唇を奪われる羽目になった。先ほど抱きしめたばかりだというのにまた妻を抱きしめることになった俺は、出来るだけ抱きしめている腕に力を入れないように注意しながら、お互いの舌を絡ませる。
ああ、やっぱり依頼をキャンセルしようかなぁ…………。このまま1日中エミリアとイチャイチャしてたい…………。
でも、依頼を終わらせればちゃんと報酬も支払ってもらえるからな。収入のためにもサボるわけにはいかない。それにエミリアも仕事をサボらせるためにキスをしてきたわけではないだろう。エリスだったら平然とそういう誘惑をしてきそうだけど。
随分と長いキスが終わると、エミリアが顔を赤くしながら微笑んでいた。
彼女は昔からあまり変わっていない。2人きりになるといつもの凛々しい彼女とは思えないほど俺に甘えてくるのである。
本当に依頼をキャンセルするべきなんじゃないかとまたしても思ったが、収入のためにキャンセルするわけにはいかない。最近は魔物が減ったせいで傭兵の仕事も減り始めた挙句、あらゆる国がダンジョン調査に本腰を入れるために冒険者を管理する管理局を設立しようとしているという噂をカレンから聞いたからな。
下手したら、モリガンも解散する羽目になるかもしれない。子供たちが大きくなる事には、傭兵ではなく冒険者が主役の時代ってことか。
とりあえず、今のうちにしっかり稼いでおこう。そして美味しいものでもたくさん買ってこよう。家族のためにも。
俺はパパになるんだからな!
「じゃ、じゃあ、行ってくるよ」
「うむ、行ってこい!」
妻に見送られながら、俺は古めかしいボルトアクションライフルを背負って仕事へと向かった。
そして数ヵ月後。
俺たちは傭兵として戦場に向かう度に、あらゆる強敵と戦ってきた。レベルの高い転生者や伝説の吸血鬼と死闘を繰り広げ、なんとか生還してきたのである。そして生還する度にその強敵を打ち倒すために訓練を続け、そして戦い続けた。俺たちはひたすら戦い続けて力をつけてきたのである。
でも―――――――こんな強敵に出会ったことは一度もない。
訓練では打ち倒せないかもしれない。けれどもハヤカワ家の大黒柱として、無様に敵前逃亡するわけにはいかない…………ッ!
くそ、どうすればいい!?
「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
「よしよし、大丈夫でしゅよー。パパが近くにいましゅよー…………?」
「あうぅ…………うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
「…………エリスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! ラウラが泣き止まなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!! 支援を要請しまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!」
「あー、ちょっと待ってダーリン!」
大泣きする愛娘を泣き止ませようとしてみたんだが、全然泣き止んでくれない…………。俺も泣きたいよ、ラウラぁ…………。
エリスが大慌てで二階から降りてくるまでの間、何とかラウラを泣き止ませようとあやし続けてみる。けれども大泣きするラウラは泣き止んでくれる気配がなく、結局二階で洗濯物を畳んでいたエリスに任せることになった。
何で泣いてたんだろう? 俺の顔が怖かったのかな? でも、昨日の夜は近くに行くと笑いながら手を伸ばしてくれたから顔が怖いというわけではなさそうだ。
「ほらほら、泣いちゃダメでちゅよー」
「うぅ………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
「ダーリン、そういえば今何時?」
「え? えっと、そろそろお昼……………あ、お腹空いてたのか!」
だから泣き止んでくれなかったのか……………。くそ、子育てしたことが無いから全然分からんッ!
前世では結婚してなかったからな。もちろん彼女もいない。だから前世の世界に俺の子供はいないのである!
「ほーら、ラウラー。ごはんにしましょうねー♪」
ラウラがお腹を空かせていたことを見抜けなかった…………。ダメなパパだな、俺…………。
落胆しながら、とりあえずリビングを後にするために廊下へと向かう。エリスはこれから大泣きするラウラのためにご飯をあげなければならないからだ。
この世界に粉ミルクは存在しないため、赤ちゃんのご飯は基本的に母乳という事になっている。場合によってはホットミルクを赤ちゃんに飲ませることもあるらしい。
とりあえず、早めにこの部屋から退避した方が良さそうだ。ラウラの泣き声がどんどん小さくなっていくのを聞きながらそそくさとリビングを後にする。
「あら、ダーリン。どこ行くの?」
「ちょっと外で筋トレでもしてこようかなと……………」
そう言うと、エリスは微笑みながら言った。
「……………ダーリンも飲む?」
「け、結構ッス」
「あら、妊娠する前は毎晩―――――――」
「ラウラの前でそんなこと言っちゃダメ」
ラウラが変態になっちゃったらどうするの。
ラウラが泣いてるってことは、多分タクヤも泣いてるかもなぁ…………。とりあえず外で筋トレでもして時間を潰そう。そう思いながらリビングを飛び出し、ちらりと廊下にある窓の外を見てみるが、家の外に広がるそれほど大きくはない森はすっかり雪に覆われてしまっている。
外で筋トレをするのは止めておこう。地下で射撃訓練でもしてくるか。
一応地下室は銃声が外に漏れないようにしっかりと防音対策がしてあるけど、念のためサプレッサー付きの得物の方がいいかな。そう思いながら端末を取り出してメニュー画面を開きつつ歩いていると、階段の上からタクヤを抱いたエミリアが降りてきた。
おしゃぶりを口に咥えたまま、小さな手でエミリアの頬を撫でるタクヤ。エミリアは微笑みながら「ふふふっ、可愛いなぁ♪」と言ってタクヤの頭を撫で始めた。
俺も撫でようかなと思って手を伸ばしたんだが…………俺が手を伸ばしたことに気付いたタクヤがこっちを見た瞬間、可愛らしい我が子の顔から笑顔が一気に消える。
「…………」
ぺしん、と無言で小さな手を振り払うタクヤ。まるで俺に触られるのを嫌がっているようにも見えてしまう。
な、何で俺嫌われてるの……………? あ、遊んでくれないからか!? でも一緒に遊ぼうとするとラウラは喜んでくれるんだけど、タクヤは全然喜んでくれないんだよなぁ。というか、俺を避けているように見える。
あはははははっ、パパよりママの方が好きなのかぁ…………。
「お、落ち込むな! ほら、タクヤ。パパにも優しくしないとダメだぞ?」
「うぅ…………ふんっ」
何でタクヤは俺が嫌いなんだろうか。
「と、とりあえず、もう少ししたら昼食だからな。…………落ち込むなよ、力也」
「だってぇ…………!」
泣きたいよ、エミリア。
励ましてくれたエミリアにお礼を言ってから、廊下の奥にある階段を下へと下りて地下の射撃訓練場へと向かう。とはいえそれほど広いわけではないので、あくまでもアサルトライフルやSMG(サブマシンガン)の試し撃ちや訓練に使っている。当たり前だが射程距離の長いスナイパーライフルやマークスマンライフルは”試し撃ち”しかできない。
涙を拭いてから階段を下り、下にある扉を開ける。大きめのランタンが照らし出す射撃訓練場の中には猛烈な火薬の臭いが染みついており、ここが銃の試し撃ちや訓練で長い間活用されていることを訴えている。
その地下室に、先客がいた。
「む? おお、力也か」
「よう、ガルちゃん」
彼女はモリガンのメンバーの1人であり、この家に居候しているエンシェントドラゴンのガルゴニスである。信じられないかもしれないが、この世界で生まれた一番最初のドラゴンであり、長年生きているうちに何度も進化や変異を起こしてきた最古の竜なのだ。
エンシェントドラゴンは必ず何かを司る存在と言われている。殆どが人間の言葉を話す上に極めて高い知性を持っており、大昔から人々に様々な知恵を授けてくれた存在だと言われている。一説によれば人類に言葉を教えたのもエンシェントドラゴンなのではないかという説もあるらしい。
ガルゴニスはそのエンシェントドラゴンの中でも最も古い存在で、モリガンのメンバーとの戦いで深手を負ったため、今では俺の魔力を使って人間の姿となりここにいるというわけだ。最初は人間を敵視していたんだけど、今ではすっかりただの幼女である。
容姿は少しばかり俺に似ているらしいが、これは俺の魔力を使った影響だという。ちなみに幼女の姿だが、そもそもエンシェントドラゴンには”性別”はないらしい。更に寿命もないため、基本的にエンシェントドラゴンは子孫を残す必要がないのだ。
「なんじゃ、落ち込んでおるようじゃのう?」
「タクヤに嫌われた」
「む? 喧嘩でもしたのか?」
「いや、何もしてない」
何でだろう?
とりあえず端末を操作してAK-47を装備し、ガルちゃんの隣に立って的に狙いを合わせる。セレクターレバーをセミオートに切り替えてからトリガーを引き、銃声の残響と薬莢の落ちる音を聞きながら息を吐く。
「人間は大変じゃのう」
「まあね」
2発目をぶっ放し、手作りの的にもう1つ風穴を開ける。
確かに大変なことはいっぱいあるけど、全部1人でやる必要はないんだ。
そう、俺には仲間がいるのだから。
「でも、面白いぜ?」
そう言ってからもう1発ぶっ放すと、隣でモシン・ナガンにクリップで弾薬を装填していたガルちゃんが微笑んだのが見えた。