異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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シスコンと転生者が戦うとこうなる

 

「何なのよ、あれは………!?」

 

 俺の後ろでMP443を構えるナタリアが呟く。あの転生者は俺たちにまだ気付いていないため、今すぐに銃で狙えば容易く当てられるだろうし、ステータスに差があるせいで仕留めきれなかったとしても確実に先制攻撃は出来る筈だ。狙いを定めてトリガーを引くだけだというのに、あの転生者が見上げている装置の中で眠る少女の正体と、あの転生者が何をやっているのか気になってしまって、なかなか銃を向けられない。

 

 何かの人体実験か? 親父も転生者が人体実験をやっていたところを見たことがあると言っていたが、この転生者も同じように人体実験をやっているのか?

 

 一足先に我に返ったナタリアが、息を吐きながらアイアンサイトを覗き込む。彼女はまだ訓練を始めたばかりで銃の命中率はあまり高くはないが、あの転生者との距離は20m足らずだ。この距離ならばまだ慣れていないナタリアでも命中させることは出来るだろう。

 

 俺もMP412REXのアイアンサイトを覗き込む。あの少女が気になってしまうが、人体実験の真っ最中ならば早くあの転生者を片付けて助け出すだけだ。

 

 ナタリアと目を合わせてから頷き、トリガーを引く。

 

 リングが回転する音と電流の流れる音だけが響いていていた地下室の中で、銃声が弾け飛んだ。装置が発する音を一瞬で呑み込んで膨れ上がった銃声を突き抜け、9mm弾と.357マグナム弾が転生者の後頭部へと向かって駆け抜けていく。

 

 この転生者ハンターのコートには、転生者にのみ攻撃力が2倍になるというスキルが装備されている。基本的にこちらの攻撃力が敵の転生者の防御力を下回っている場合は攻撃が弾かれてしまうため、このスキルがあれば少なくとも攻撃力では劣ることはないだろう。このスキルを装備していても弾かれるという事は、ステータスにかなりの差があるという事だ。もしこの攻撃が弾かれたのならば、そのまま戦闘を続けるのではなく撤退した方が良いだろう。

 

 今の俺のレベルは38。攻撃力は1100まで上がっていて、スキルのおかげで転生者に対しての攻撃力は2200となる。これを弾くほどステータスが高い転生者でないことを祈りながら、俺は装置の前にいる転生者に向かっていく弾丸を凝視した。

 

 だが、その転生者の方から聞こえてきたのは、弾丸を撃ち込まれて呻き声を上げる少年の声ではなかった。まるで戦車の装甲に跳弾した弾丸が発する甲高い音だ。転生者に致命傷を与えられなかったと悟った俺はすぐに銃口を下げ、目を見開くナタリアの手を引いて、右側にある机の後ろへとジャンプする。

 

「くっ………侵入者か!?」

 

「拙い…………!」

 

 なぜ防がれた? 転生者の能力か?

 

 どうやって弾丸を防いだのかと考察を始めたいところだが、今の銃撃で俺たちが侵入したという事があの転生者にバレてしまった。しかも傷すらつける事ができていない。

 

 この地下室への出入り口は後方のドアのみ。もし転生者が警備兵を呼べば、俺たちは挟み撃ちにされてしまうに違いない。袋の鼠というわけだ。

 

 警備兵が来る前に逃げるべきか? それともあの転生者だけでも討ち取るか? 

 ここは地下室だ。外を警備していた兵士たちに銃声が聞こえるわけがない。おそらくあの転生者が呼ばない限り、警備兵がここにやってくることはないだろう。思っているよりもここで転生者を討ち取るという選択肢の危険度は低い。

 

 そう思った俺は、今度は机の陰から飛び出しつつ銃口を転生者へと向けた。侵入者を探していた研究者気取りの少年は、いきなり姿を現した俺を目の当たりにして目を見開いたが、すぐに手にしていた杖をこっちへと向け、魔力を流し込んで炎を放ってくる。

 

 炎を躱し、高熱の熱風に噛みつかれながら、少年に向かってマグナム弾を2発ほどお見舞いする。先ほどは急いで物陰に隠れたが、今度は戦闘中だ。隠れる必要はない。だから弾丸を弾いた能力の正体をしっかりと確認する事ができる。

 

 この弾丸も弾かれるだろうと思って少年を凝視していると、あの白衣を食い破る筈だった2発のマグナム弾は、少年の身体に喰らい付く寸前に蒼白い光に包まれ、装甲に弾かれた弾丸のように弾き飛ばされてしまった。

 

 あれは何だ? バリアか?

 

 おそらく光属性の防御用の魔術だろう。イージスという魔術で、光の防壁で様々な攻撃を弾いてしまうという強力な魔術だ。詠唱に時間がかかってしまうが、その防御力はゴーレムの拳を弾き、ドラゴンの炎を無力化してしまうほどだという。

 

 詠唱していなかった筈だが、おそらくそれは転生者の能力でカバーしたんだろう。魔術を主に使う転生者は、基本的に『魔術師』という能力を装備し、更に『瞬間詠唱』というスキルを装備していることが多いと親父から聞いたことがある。この世界の人間ならば生まれつき体内に魔力を持っているんだが、転生者は基本的にこの世界の人間ではないため、この世界の人間と同じく体内に魔力を生成する能力を装備しない限り魔術を使う事は不可能だ。俺も転生者だが、他の転生者とは異なりこの世界の人間と転生者の間に生まれた子供だから、生まれつき体内に魔力を持っている。だからあの能力を装備する必要はない。

 

 基本的に魔術師は隙が大きいため、前衛に援護してもらうのが普通だ。だが、最大の隙である詠唱がないのならば、恐ろしい破壊力の魔術をマシンガンのように連発できるというわけだ。

 

 だから転生者は極めて強力なんだ。それを悪用する馬鹿共を、俺の親父は今まで狩ってきた。

 

 俺も今から、このクソ野郎を狩る。

 

 弾丸が弾かれることは想定内であったため、俺はそれほど驚かずにシリンダーの中の弾丸を全てぶっ放した。そして再び机の陰に隠れ、銃身を下へと向けて折る。シリンダーにある6つの穴から排出された薬莢の金属音を聞きながらスピードローダーをポケットの中から取り出し、シリンダーに押し込む。

 

 イージスを打ち破るには、更に強烈な弾丸で挑まなければならないようだ。現時点で生産済みの武器の中で一番威力があるのはアンチマテリアルライフルのOSV-96だが、1.7mの銃身を持つ大型のライフルをこんな地下室で使いこなすことは不可能だろう。

 

 メニュー画面を開き、生産済みの武器の中からプファイファー・ツェリスカをタッチ。連射が遅いシングルアクション式のリボルバーだが、.600ニトロエクスプレス弾という通常のマグナム弾をはるかに上回る破壊力のライフル弾をぶっ放す事ができる獰猛なリボルバーだ。リボルバーにしては大き過ぎる銃だが、このサイズならばなんとか室内でも使いこなす事ができる筈だ。

 

 ホルスターに装備された新しい得物を引き抜いていると、先ほど俺が隠れていた机の陰から銃声が聞こえてきた。ちらりとそちらを見てみると、机の陰からナタリアがハンドガンで転生者を狙撃している。

 

 何発かは外れているが、彼女のおかげで転生者が向こうを向いている。

 

 チャンスだッ!

 

「よくやった、ナタリアッ!」

 

「くっ、もう1人いたのか―――――」

 

 転生者が杖を構えながらナタリアの方を振り向こうとするが、ナタリアは既に射撃を中断し、机の陰から飛び出して移動していた。魔術をあんな机で防ぎ切れるわけがないと思ったんだろう。

 

 机の陰から飛び出した彼女へと杖を向ける転生者。その隙に立ち上がった俺は、プファイファー・ツェリスカの銃口を転生者の後頭部へと向け、搭載されたPUスコープを覗き込む。

 

 .600ニトロエクスプレス弾は弾けるか!?

 

「くたばれッ!!」

 

 カーソルの向こうにいる転生者を睨みつけながら、俺はトリガーを引いた。

 

 MP412REXをはるかに上回る獰猛な反動(リコイル)。リボルバーとは思えないほど猛烈な銃声とマズルフラッシュが荒れ狂い、でかいシリンダーの中から1発のライフル弾が飛び出していく。

 

 獲物を取り逃がしてしまった転生者は慌ててこっちを振り向くが既に弾丸は転生者へと向けて放たれた後だ。

 

 これで貫通できなかったら、地上に誘き出してアンチマテリアルライフルを使うか、ナタリアに時間を稼いでもらって更に強力な弾丸を装填できるようにこのリボルバーをカスタマイズしなければならない。

 

 貫通してくれと祈りながらスコープを覗き込んでいたが、カーソルの向こうへと飛び去って行った.600ニトロエクスプレス弾は、先ほど弾かれた.357マグナム弾と同じ運命を辿っていた。白衣を食い破る寸前に出現した蒼白い光に弾かれ、別の方向へと跳弾していく。

 

 なんてこった。

 

「死ねッ!」

 

「!」

 

 リボルバーの撃鉄(ハンマー)を元の位置に戻していると、杖をこっちに向けていた転生者がそう叫んだ。

 

 詠唱が必要ないという事は、すぐに魔術がこっちに向けて飛んで来るという事だ。普通の魔術師のように詠唱している間に潰すという事は出来ない。

 

 リボルバーを下げた俺は、姿勢を低くしながら正面へと走り出した。距離は近いからキメラのスピードならばすぐに距離を詰められるだろう。元々距離が近かったのだから、接近戦で攻撃を仕掛けた方が良い。魔術で攻撃してくる以上、詠唱が必要ないとはいえ魔術を放つためには魔力を流し込む必要がある。そのタイムラグはセミオートマチック式の銃が次の弾丸を発射するよりも遥かに遅い。次の攻撃を回避することさえ出来れば、奴が魔術を放つよりも先に距離を詰め、そのまま攻撃できる筈だ。

 

 杖の先端部が橙色に煌めき、その光が無数の炎の矢となって飛来してくる。まるでショットガンを連射したような数の炎の矢だ。魔物や人間が喰らえば一瞬で蜂の巣になってしまうほどの弾幕だが、おそらくサラマンダーの外殻は貫通できまい。1つ1つが細くて小さい上に、サラマンダーの外殻は耐火性や耐熱性に非常に優れている。戦車に拳銃を発砲するようなものだ。

 

 左腕を硬化させ、外殻に覆われた片腕を盾にしながら前進する。やはり炎の矢は外殻を貫通する事ができず、次々に火の粉をまき散らしながら消滅していく。

 

 俺を蜂の巣にできるだろうと思い込んでいた転生者は、攻撃を防がれている事と、俺の左腕が変異したことにかなり驚いているようだった。目を見開き、「な、何だその腕は!?」と喚いているが、俺は無視してそのまま距離を詰める。

 

 接近戦は一番得意なんだよ。

 

 炎の矢の飛来が止んだ直後、硬化を解除しポケットの中からアパッチリボルバー・カスタムを取り出す。ナックルダスターに片手で変形させながらリング状のグリップに指を通し、体勢を更に低くしながら拳を握る。

 

 接近された転生者は俺にアッパーカットを叩き込まれると思ったのか、杖を持った両手を交差させて胸元と頭をガードする。だが、残念ながら俺の狙いは頭や胸じゃないんだよね。

 

 またナタリアにツッコミされるかもしれないが、問題ないだろう。

 

「喰らえッ!!」

 

 にやりと笑いながら左手の拳を思い切り振り上げ――――――森でトロールの息子を吹っ飛ばした時のように、転生者の息子へとアッパーカットを叩き込んだ。

 

「なぁッ!?」

 

「ちょ、ちょっとタクヤぁッ!?」

 

 目を見開きながらイージスに防がれている俺の左の拳を見下ろす転生者の少年と、顔を真っ赤にしながら目を見開くナタリア。

 

 やはりこの一撃もイージスに防がれてしまうか………。この防壁さえ貫通できれば何とかこいつを倒せそうなんだがな。ステータスもあまり高くはなさそうだし。

 

 拳を引き戻しながら素早く左手のナックルダスターをリボルバーに変形させ、離脱しながら発砲する。使用している弾薬はMP412REXと同じく.357マグナム弾であるため弾かれてしまうが、牽制だ。

 

「ちょっと、どこ狙ってんの!? あんたトロールの時もそこ狙ってたわよね!?」

 

「だから正々堂々戦ってどうするんだよ!? 手段を選んで死んだら無様だろうがッ!?」

 

「こ、この変態ッ!」

 

「はぁッ!? 変態じゃねえよ!?」

 

「嘘つかないでよ! 人の前で………じっ、実の姉とキスしてたくせにッ!!」

 

 何で転生者の前でそんなこと言うんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

「うっ、う、うるせえッ! あれは俺じゃなくてラウラがキスしてきたんだよッ!!」

 

「顔赤くしてたでしょ!?」

 

「したけど…………しょうがないだろ!? お姉ちゃんが可愛いんだからさ!!」

 

「なぁッ!? ………こっ、この変態ッ! シスコンッ!!」

 

 すぐに言い返そうと思ったが、転生者と戦っている最中に口喧嘩している場合じゃない。俺ははっとしてプファイファー・ツェリスカの銃口を転生者に向けようとしたが、スコープの向こうに立っている転生者は、何故か攻撃して来なかった。

 

 なぜ攻撃して来ないんだと思いながらカーソルの向こうを凝視していたんだが、その転生者まで顔を赤くしていることに気付いた俺は、先ほどの口喧嘩で大恥をかいたことに気付いた。

 

「じ、実の姉と………キス………!? 美少女同士でキス…………!?」

 

「お、落ち着け。確かにキスはしたが女同士じゃない。俺は男なんだ」

 

 顔を真っ赤にしながら呟き続ける転生者に向かってそう言うと、転生者はぎょっとして俺の顔を睨みつけてきた。どうやらこいつも俺の事を女だと思っていたらしい。

 

「てめえ男だったのかよ!?」

 

「男だよ! パンツの中見てみるかぁッ!?」

 

「ふざけんな! 可愛いなと思っちまったじゃねえか!」

 

 俺って男に見えないのかなぁ……。初対面の人はみんな俺が男だって気付いてくれない………。

 

「しかも男が実の姉とキスだとぉ!? この野郎、絶対に許さん!! 危うくホモになるところだったじゃねえか!!」

 

「キモっ」

 

「こ、この野郎ッ!!」

 

 目の前の美少女が男だったらかなりショックは大きいだろう。しかも俺の挑発のせいで、あの転生者の少年は完全にブチギレしてしまったようだ。

 

 次に繰り出される魔術を回避する準備をしていたんだが、俺とナタリアが回避する筈だった転生者の強烈な魔術は、部屋の中央の装置から聞こえてきた少女のハミングによって白紙にされてしまう。

 

 子守唄のように優しいハミングだった。こんな優しい歌声を聴きながら眠る事ができたら確実に快眠できるだろう。だが目の前の転生者の少年は、ハミングを聞いて落ち着いている俺たちとは違って、このハミングを聞いてぞっとしているようだった。まるで自分の天敵を目の当たりにして絶望するかのような表情で、彼は部屋の真ん中に鎮座してある装置の方を振り向く。

 

 そこにあるのは、あの蒼い液体が浮遊する装置だ。地球儀を大きくしたような球体状の蒼い液体が浮遊し、その中には幼い少女が収まっている。それは変わらないんだが、球体の表面を回転していた筈のリングは動きを停止し、スパークを発しながら床に落下してしまっていた。

 

 そのリングには弾丸のようなもので撃ち抜かれた跡がある。おそらく先ほどこの少年に弾かれたマグナム弾が、偶然あの回転するリングの1つを直撃してしまったんだろう。この地下室で戦っていた3人が意図しなかった流れ弾が、装置に命中し、装置の機能を停止させてしまったんだ。

 

「な、なんてことだ…………!」

 

「何だ? おい、あれは――――――」

 

 俺の声を無視し、大慌てで装置の方へと走る転生者。装置の近くで手をかざし、制御用の魔法陣を出現された彼は、円形の魔法陣の中に投影される記号をキーボードのように何度もタッチするが、流れ弾を喰らった装置は全く動かない。落下したリングがスパークを発するだけだ。

 

「ダメだ……! このままでは………まっ、魔女が――――――――魔女の末裔が目覚める…………!!」

 

 魔女の末裔?

 

 どういうことだ? 魔女の末裔だと? 魔女というのはこいつが今まで勝手に決めつけてきた人々の事なのか? それとも、このナギアラントに伝わるサキュバスの事なのか?

 

 問い詰めようとしたが、転生者の少年は顔を青くすると、俺が問い詰めようとするよりも先に地下室の出口へと向かって走って行った。

 

「どういうこと? 魔女の末裔って………」

 

「分からん。とりあえず、あいつを―――――――」

 

 あの転生者を追撃しようと思っていた俺の背後で聞こえた水が床に落ちる音が、俺の言葉を飲み込んだ。あの装置が機能を停止したという事は、あの液体の中に入っていた少女が目を覚ますって事だよな……?

 

 冷や汗を指で拭いながら、ナタリアと共に恐る恐る後ろを振り返る。

 

 装置の上に浮遊していたあの球体状の蒼い液体はすでに崩壊していて、床のリングと装置を濡らしていた。スパークの音が聞こえなくなった装置の上にはあの液体の中で体を丸めて浮かんでいた幼い少女が横になっている。

 

 助け起こすべきだろうか? ちらりとナタリアの方を見ようとしていると、装置の上で横になっているその幼い少女が、ゆっくりと起き上がった。

 

 年齢は12歳くらいだろうか。眠そうな感じの瞳の色は蒼く、髪は床についてしまうほど長い。ナイフや剣の刀身のような銀髪なんだが、毛先の方に行くにつれて髪の色は桜色に変色している。無表情のまま起き上がった少女はゆっくりと装置の上から床の上に下りると、ふらふらしながら立ち上がり、周囲を見渡しながら首を傾げた。

 

 あの転生者は魔女の末裔と言っていたが、そんな禍々しいものの末裔には全く見えない。禍々しさどころか幻想的な雰囲気を放つ不思議な少女は、まるで目を覚ましたばかりの幼い子供のように瞬きすると、ふらつきながらゆっくりとこっちへ歩いてくる。

 

「く、来るわよ……!」

 

「待て」

 

 警戒してハンドガンを向けるナタリア。だが、この子からは全く敵意や殺意を感じない。いきなり見知らぬところで目を覚まし、何も分からない状態のようだ。銃を向けるべきではないだろう。

 

 彼女の銃を下げさせた俺は、持っていた銃をホルスターへと戻す。

 

「………君は何者だ?」

 

「………?」

 

 言葉が通じていないのか、少女は無表情のまま首を傾げる。

 

 敵意はないみたいだが、どうすればいいんだろうか? 転生者が逃げ出してしまうほど恐ろしい少女にも思えないし、保護した方が良いんだろうか? 

 

 でも、連れて帰ったらまたラウラが機嫌を悪くするかもしれない。それに俺がロリコンだと思われるかもしれないな。

 

 とりあえず、いつまでもこの子にびしょ濡れのボロボロの服を着させておくわけにはいかないだろう。転生者ハンターのコートの上着から武器や装備品を外してから脱いだ俺は、無表情の少女にそっとコートを着せる。

 

 すると、少女が小さな声で何かを言い始めた。まるでスペイン語かロシア語のような語感の言語だが、聞いたことがない言葉だ。少なくとも母さんや親父たちが話しているこの世界の言語ではないようだな。

 

 今度は俺が首を傾げてしまう。少女も俺に合わせて首を傾げた。

 

「ナタリア、安心しろ。この子は――――――」

 

 振り向きながらナタリアにこの少女が安全であることを伝えようとしていると、いきなり小さな両手が俺の首に絡みついてきた。蒼い液体で濡れている少女の腕に引き寄せられてびっくりしたのも束の間、俺の顔を引き寄せた幼い少女が、なんといきなり俺の唇を奪った。

 

「!?」

 

「え…………!?」

 

 普通のキスではない。この少女の小さな舌が、俺の下へと向かって伸びてくる。

 

 いきなりキスをされてぎょっとしたが、慌てて彼女を引き離そうとする前に、いきなり俺の身体ががくんと揺れた。慌てて立ち上がろうとするが、両足どころか全身に全く力が入らない。

 

 何だ………? 魔力が吸い取られた………!?

 

 辛うじて目だけを動かし、目の前に立っている少女を見上げてみると、少女はまるでうっとりしているかのような表情を浮かべ、頬を少し赤くしながら何かを飲み込んでいるところだった。

 

「た、タクヤ!?」

 

 拙い………。身体が動かない………。

 

 魔力が吸い取られたという事は、この子は………サキュバスなのか………!?

 

 かつて吸血鬼を絶滅寸前まで追い詰めた種族の生き残り。魔女と呼ばれて忌み嫌われた怪物たちの末裔がこの少女だというのか。

 

 蒼い瞳で俺を見下ろす少女を見上げた俺は、ナタリアの声を聞きながら瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

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