異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
可愛い子供たちが生まれてからもう1年も経過した。
相変わらず俺は森に建っている家からほぼ毎日モリガンの本部に通って仕事をしているため、留守にしている間の子育てはエミリアとエリスの2人に任せている。家には居候しているガルちゃんもいるんだが、あいつはどうやらまだ幼い子供たちに気に入られてしまったらしく、いつも遊び相手にされているという。
この前に俺が仕事を終えて帰宅した時は、絵本を読んで欲しかったのか、まだハイハイしているタクヤとラウラに追いかけ回されてた。最古の竜が幼い2人の子供に追いかけ回されているのを見て大笑いしたんだが、ちょっとびっくりした事がある。
ガルちゃんを追いかけ回していた2人が、まるでガルちゃんを捕まえるために連携しているように見えたのだ。
タクヤが積極的に追いかけ回し、ラウラが先回りするという戦法であっさりとガルちゃんは幼い姉弟に捕獲されたんだが、あの連携を取っているように見えたのは偶然だったのだろうか? まるでタクヤが前衛を務めて敵を攪乱し、ラウラが後衛を担当して強烈な一撃で標的を仕留めるかのような連携だったのである。
でも、当時はまだ1歳になったばかりだったし…………まだハイハイしてる幼い子供にそんな連携ができるわけがない。
多分偶然だろう。
「2114、2115、2116、2117…………ッ!」
ネイリンゲンの外れにある小さな森の中に建てた家の周囲にはあまり高い木は生えておらず、ちょっとした広場になっている。おかげで毎朝ちゃんと日光が部屋の中へと流れ込んでくるし、子供たちが遊ぶにはちょうどいい場所になっている。
もちろん、俺もこうして筋トレに使っているし、エミリアも毎朝の剣の素振りに有効活用していた。とはいえさすがに真冬になると雪国であるオルトバルカには尋常じゃないほどの量の雪が降り積もる。最南端に位置するネイリンゲンにも9月になれば雪が降るのは当たり前で、夏は非常に短いのだ。
冬になれば食料を売りに来る商人の数も減るため、冬になる前に色々と準備をする必要がある。特にこの世界には電気がないので、家の中を温めるには古めかしいデザインのストーブや暖炉だ。ガスコンロもないので調理する時にも竈(かまど)や薪が必要になる。この世界は前世の世界のように便利ではないのだ。
最初の頃は、商人がやって来る回数が減っても狩りで何とか補えるだろうと高を括ってたが、節約していたとしても思ったよりも早く食料が減ってしまう。それに狩りに出かけても獲物が減っているので、狩りで手に入る食料も激減してしまう。
妻たちのアドバイス通りに準備しておいて本当に良かった。大切な家族を飢え死にさせるわけにはいかないからな。
今の季節は春。まだ雪は周囲にどっさりと残っているけれど、そろそろ冬眠していた動物たちも外で活動を始める時期だ。でっかい鹿を仕留めて帰ると子供たちが大喜びするから、頑張ってでっかい獲物を仕留めないとな。
タクヤは獲物よりも、俺が狩りに使っているリー・エンフィールドやモシン・ナガンの方に興味があるみたいだが。
「…………ふう」
腕立て伏せを終え、肩をぐるぐると回しながら家の中へと戻る。今日は基本的に仕事は休みだが、クライアントがわざわざこの家まで仕事の依頼に来たり、信也たちには荷が重すぎるような依頼を引き受けてしまった場合は”仕事”に行かなければならない。
モリガンのメンバーは”単独で騎士団の一個大隊を潰すことも可能”と言われるほど練度が高い実力者ばかりだ。とはいえ、今はカレンが本格的に領主の仕事を開始し、ギュンターも彼女の護衛のためにネイリンゲンを離れてエイナ・ドルレアンにいるため、モリガンははっきり言うと弱体化している。だから仕事をサボれば、モリガンの戦力低下に拍車をかけることになってしまう。
だから仕事はサボれないし、毎日のトレーニングも欠かせない。
玄関のドアを開けて家の中へと入り、近くに置いてあるタオルを手に取りながらとりあえず洗面所へと向かう。汗を拭いたタオルを桶の中に放り込んでから顔を洗い、汗を洗い流してから二階へと着替えを取りに行く。
それにしても、俺の身体も結構がっちりしてきたなぁ。
前世の世界では高校までラグビーをやってたからそれなりに身体はがっちりしてたんだけど、今の体格はまるでスポーツ選手というよりは軍人みたいだ。腕や足にはより筋肉がついたし、胸板や腹筋も随分厚くなっている。
もしこの左腕と左足が普通の手足で、頭の角と尻尾がない状態で迷彩服を身につけていたら完全に軍人だな。俺は傭兵だけど。
「ん?」
階段を上り終えて寝室にある着替えを取ろうとしていると、子供部屋の中から赤毛の幼い子供がハイハイして飛び出してきた。子供部屋の中で遊ぶのは飽きたのか、それとも俺が階段を上ってくる音を聞いて飛び出してきたのか、口におしゃぶりを咥えているラウラはニコニコと笑いながらこっちに向かってハイハイしてくる。
ははははっ、可愛いなぁ。ほら、パパはこっちだよ。
両手を広げて抱き上げようとしたその時、もう少しで俺のところまでたどり着けるというのに、いきなりラウラはぴたりとハイハイを止めてしまう。
ん? どうした?
どこか怪我をしてしまったのだろうかと不安になりつつ、俺はエリスを呼ぼうとする。確か彼女は下で朝食に使った食器を洗っている筈だから、ここから呼べば気付いてくれるだろう。
心配しながらラウラを抱き上げようとしたその時だった。
まだ小さな両足に力を込めたかと思うと、ぷるぷると両腕を震わせながら上半身を支え始めた愛おしい愛娘が―――――――ついに、自分の力で立ち上がったのである。
「………ッ!?」
「あうー………あうっ」
「おっと!」
とはいえまだ自力では歩けないらしい。何とか自分の力だけで立ち上がったラウラだが、すぐにぐらりと体勢を崩してしまう。彼女が転倒する前に慌てて両手を伸ばして支えると、まだおしゃぶりを咥えているラウラは自分で立ち上がったことを誇るかのように、にっこりと笑いながら俺の顔を見上げていた。
凄い子だよ、お前は…………! 自分で立ち上がるなんて…………!
今までハイハイしてた我が子はもう成長してたんだなぁ。
「あははははっ、凄いぞラウラ! 頑張ったな!」
「きゃはははははははっ! ぱぱっ、ぱーぱー!」
そうだ、エリスやエミリアにも見てもらおう。そう思いながらくるりと後ろを振り返り、キッチンにいる筈の妻を呼ぼうとした直後、今度は子供部屋でラウラと仲よく遊んでいたタクヤが、勢い良く部屋の中から飛び出してきた。
本当に数分前までハイハイしてた幼児なのかと疑ってしまうほど、軽々と歩きながら。
まるでどうすればバランスを崩さずに歩けるのか最初から知っていたかのように、殆どバランスを崩さずに子供部屋の中から歩いて登場したタクヤ。彼は可愛らしい足音を廊下の中に響かせながら俺の足元までやって来ると、「その程度なのか?」と言わんばかりにニヤニヤしながら、ついさっき自力で立ち上がったラウラを見上げている。
姉である自分は苦労して立ち上がったというのに、軽々と立ち上がった挙句子供部屋から俺の足元まで歩いてやってきたタクヤ。びっくりしたラウラが口を開けると同時に、咥えていたピンクのおしゃぶりが転がり落ちる。
「…………ふんっ」
「こ、こいつ…………」
「あうぅ…………うぅ…………!」
「んっ? ―――――――ああ、ラウラ! 泣くなって! だ、大丈夫! 練習すれば上手に歩けるようになるから! パパと一緒に頑張ろうなっ?」
「う…………うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
ああああああああ!
タクヤの奴、お姉ちゃんを泣かせるなんて!
「エリスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 支援を要請しまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!」
いきなり上手に歩いたタクヤのせいで泣き出したラウラを抱き抱えつつ、俺まで涙目になりながら妻に支援要請をした俺は、すぐ傍らで泣き続ける愛娘の泣き声を聞きながら溜息をつくのだった。
家の中の香りは、妻であるエミリアが作ってくれる美味しい料理の匂いと石鹸の匂い。正確に言うと後者は洗濯物の匂いだろう。俺にとってはそれが日常生活の中で鼻孔へと入り込んでくる匂いの一部である。
それだけならば文明が前世よりも遅れているだけで、それ以外はあまり変わらない筈だ。仕事を終えて帰ってくる夫と、料理を作って待ってくれている妻。そして笑いながら出迎えてくれる子供たち。
ここまでならば俺は普通のパパだ。けれども俺は、普通のパパじゃない。
”普通のパパ”になれない原因は、もう既に日常生活と化してしまった”仕事”が原因である。
「次の目標、11時方向のゴーレム。
「
『しょ、照準、大丈夫ですっ!』
狭い車長用の座席の中で猛烈な火薬の臭いを吸い込みながら、俺はキューポラの向こうから迫る巨大な人影を睨みつけていた。人影と言ってもその身長は5mほどであり、人類の中でも大柄な者が多いと言われるオークでもあそこまでは大きくはならない。
まるで巨大な岩石を削って作り出したかのような武骨な”岩の人間”。強固な外殻で身を守りながら、圧倒的な重量の拳で全てを叩き潰すゴーレムは、ネイリンゲンに立ち寄る商人たちにとっての脅威の1つである。
移動速度は個体差があるものの、中には他の魔物と連携して商人の馬車を襲う個体もいるため、草原に姿を現したならば積極的に討伐することが推奨されている魔物だ。
もう既にゴーレムが引き連れていた仲間の大半は、黒焦げになったただの肉片と化しており、もう二度と動く気配はない。辛うじて生き残ったゴブリンや狼がまだ唸り声をあげているものの、もし仮に彼らが俺たちの懐へと飛び込んできたとしても全く脅威にはならないだろう。
こちらには分厚い装甲と、大口径の戦車砲や機関砲があるのだから。
「発射(ファイア)」
『はい、発射(ファイア)!』
砲手の座席に腰を下ろしながら照準器を覗き込むフィオナが発射スイッチを押した瞬間、俺たちの乗る戦車の砲塔から突き出た巨大な砲身が火を噴いた。
標的どころか大地まで吹っ飛ばしてしまうそうなほどの轟音と炎を噴き上げながら飛んで行った砲弾は、未だに微かな炎を纏いながらゴーレムの胸板へと着弾すると、そこで巨大な火の玉と無数の破片を生み出し、怪物の巨躯と大地を派手に抉る。
猛烈な運動エネルギーで亀裂の入ったゴーレムの外殻から炎が流れ込み、岩石のような外殻もろとも内臓をメタルジェットが容赦なく貫く。砲弾が形成した無数の破片はゴーレムに追い討ちをお見舞いしつつ周囲へと飛び散ると、まるで戦艦を守る駆逐艦のようにゴーレムに随伴していた小さな魔物たちをコパ微塵に粉砕する。
「まだ生き残ってる奴がいるよ、兄さん」
「はいはい、機関砲掃射しまーす」
あくびしながらそう言うと、俺は車長の席の近くに備え付けてあるコンソールを素早くタッチする。頭上から小型の砲塔が駆動する音が聞こえてきたかと思うと、砲塔の上にあるハッチの傍らに搭載されている武骨な砲身が旋回を始めているのが見えた。
20mmの機関砲である。従来の銃機関砲よりも大口径の砲弾を連射することが可能な、驚異的な武装だ。
これを魔物の残党に叩き込むのはもったいないような気がするが、突進してくるバカな魔物の群れを掃射するならこっちの方がいいだろう。
そう思いながら発射スイッチを押し、猛烈なマズルフラッシュで草原を照らし出しながら砲弾で魔物たちを薙ぎ払っていく。先ほどまで唸り声をあげながら突っ込んできていたゴブリンの身体に大穴が開き、紫色の内臓が弾け飛ぶ。その傍らでは頭を完全に吹っ飛ばされた狼がよろめいてから崩れ落ち、後続のゴブリンを転倒させた。
瞬く間に鮮血が吹き上がり、揺らめいていた草が真っ赤に染まる。左半身を吹き飛ばされてもがき苦しんでいたゴブリンの頭を1発で吹き飛ばして楽にしてやってから、座席に背中を押し付けて息を吐く。
これも日常だ。こうやって武器を持って兵器に乗り、街に近づいてくる魔物を蹂躙するのが。
前世では考えられない生活が、今では日常なのである。
水筒の中のアイスティーを飲んでから、俺は頭上のハッチを開けて砲塔の上から身を乗り出した。砲撃を終えた主砲と20mm機関砲の砲身が陽炎を纏いながら、春の風を浴びている。
俺たちが引き受けた依頼は、いつも引き受けているような魔物退治の1つだ。ネイリンゲンの周囲には魔物があまり出現しないとはいえ、定期的に騎士団からの依頼で掃討作戦を行っているんだが、今回はそのような定期的な仕事ではなく、ネイリンゲンに侵攻する魔物の殲滅だった。
それなりに数も多かったため、テストも兼ねてモリガンが運用しているレオパルト2とは違う戦車を投入してみたんだが、やはり魔物は戦車の敵じゃないな。テストを兼ねるんだったらもっと難易度の高そうな依頼にすればよかったと後悔しながら、圧倒的な火力で敵を殲滅し終えた戦車の装甲をそっと撫でる。
レオパルトと比べると砲塔はやや丸く、主砲の砲身もやや短いように見える。
俺たちが乗っているこの戦車は、アメリカと西ドイツが冷戦の真っ只中に共同開発を行った試作
最大の特徴は主砲だろうか。様々な国の戦車が”滑腔砲”と呼ばれる戦車砲を搭載しているのに対し、この戦車は”ガンランチャー”と呼ばれる主砲を搭載しているのだ。
ガンランチャーとは、簡単に言えば『主砲から強力な対戦車ミサイルも発射可能な戦車砲』だ。この戦車が産声を上げた当時はまだAPFSDSのように分厚い装甲を簡単に貫通できるような徹甲弾が開発されていなかったため、圧倒的な破壊力を持つ対戦車ミサイルで戦車を撃破することになっていたのである。
とはいえ滑腔砲やライフル砲に比べると信頼性が低く、発射できる砲弾の種類も少ないという欠点があるため、アメリカ軍が採用しているM1エイブラムスは砲弾の種類が豊富で信頼性の高い滑腔砲を採用している。
高性能な戦車とはいえ旧式の戦車だ。エイブラムスから見れば”お爺ちゃん”のような存在だろうか。
モリガンでの運用も考えているため、色々と近代化改修を施している。車体の装甲をエイブラムスと同じ複合装甲に換装し、可能な限り防御力を高めた。砲塔には複合装甲を搭載することができなかったので、表面にびっしりと爆発反応装甲を搭載することで可能な限り防御力を向上させている。
あとはセンサーや照準器を最新のものに換装しつつ、エンジンもエイブラムスと同じものに換装。これで凄まじい速度で爆走できるようになったため、操縦手を担当するミラは大喜びしている。
アクティブ防御システムの搭載も検討したんだが、まだ運用するかどうかわからない車両であることと、アクティブ防御システムでなければ防御できない攻撃を仕掛けてくる敵がいないため、搭載は見送った。もし仮にこいつをモリガンで運用することになれば搭載するかもな。
「よし、帰るぞ」
(了解(ヤヴォール)!)
操縦士のミラの声を聴きながら、俺は再び車内へと引っ込んだ。