異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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傭兵の戦友

 

 

 俺たちの子供たちは成長し、もう3歳になった。

 

 まだハイハイしていた頃は部屋の中でガルちゃんが遊び相手になるか、俺たちが絵本を読んであげることが多かったんだが、今では姉弟でおままごとをしたり、2人で楽しそうに笑いながら質素な家の中を走り回るのが当たり前になっている。

 

 キメラの子供として生まれた2人だが、仕草は普通の人間の子供と変わらない。

 

 エミリアが作ってくれた朝食のトーストを齧りながら、もう片方の手でフォークへと手を伸ばすラウラ。髪の色は俺の遺伝子の影響なのか炎のように真っ赤だけど、顔つきはどちらかと言うとエリスにそっくりだ。彼女を幼くして髪を赤くしたような感じだろうか。

 

 その隣でフォークを使って目玉焼きを食べているのは、彼女の弟のタクヤ。弟と言ってもラウラよりも生まれたのが数分遅かった程度であり、しかも2人の母親の遺伝子はほぼ同じであるため、実質的にラウラの”双子の弟”のような感じになっている。彼の場合は完全にエミリアに似たらしく、髪を長くしてポニーテールにし、そのまま成長させればきっとエミリアと見間違えてしまう事だろう。もしあいつが成長してからラトーニウス王国騎士団の制服を着せたら、エミリアはびっくりするだろうか。

 

「ほら、力也」

 

「ありがと」

 

 俺のトーストにバターを塗ってくれたエミリアに礼を言ってから、そのトーストを齧る。やはり必要以上に焼き過ぎないからなのか、前歯を突き立てられたトーストは、さくっ、と表面に穴が開く小さな音を奏でながら香ばしい香りを拡散させ、柔らかい感触で食い込んだ前歯を出迎える。

 

 やっぱり、妻(エミリア)の料理が一番だな。毎朝このトーストを食べてるけど、焼き加減が最高だ。稀にパンではなくご飯と味噌汁を用意してくれることがあるんだけど、どうやら毎朝パンばかりでは日本出身の俺が飽きてしまうと思ってくれているらしい。

 

 本当にありがたい。

 

 ちなみにエミリアではなくエリスの方に料理を作らせると―――――――下手したら戦死する羽目になるかもしれない。

 

 エミリアは騎士団にいた頃から1人暮らしで、基本的に家事は全て自分でやっていたという。エミリアの場合は試行錯誤を繰り返して技術を身につけることで料理の技術を上達させていったようだが、エリスの場合は殆ど騎士団に所属する騎士用の食堂を利用していたらしく、自分で料理することは全くなかったらしい。

 

 エリスは騎士団の精鋭部隊に所属しており、”絶対零度”の異名を持つ氷の魔術の使い手である。優秀な魔術師の少ないラトーニウス王国にとっては切り札のような存在であり、彼女の所属していた精鋭部隊の待遇は非常に良かったという。部屋はまるで貴族が使う寝室のように広く、食事も豪華なのが当たり前だったって前にエリスから聞いたことがあったが、その代わり仕事が忙しくてそういう生活を楽しむ余裕はなかったという。

 

 だからエリスは自分で料理をする時間がなかったし、そういう事ができない環境で過ごしてきたから仕方がないのだ。

 

 でもさすがに墓石に享年24歳って刻まれるのは嫌なので、料理はエミリアに任せるようにしている。ちなみに俺は端末で毒物を完全に無効化できる便利なスキルを生産して装備しているんだが、どうやらエリスの作るとんでもない料理は対象外らしい。

 

 この前作ってくれた魚のスープはヤバかった。スープの中でゾンビになった魚が泳いでたし…………。一体どういう調理をすれば食材がゾンビに変貌するんだろうか。

 

 妹が作った朝食を食べているもう1人の妻の顔を見ながら苦笑いしていると、トーストを食べ終わったラウラが口の周りにジャムをつけながら言った。

 

「ねえパパ」

 

「ん? どうした?」

 

 テーブルの真ん中に置いてあるでっかい皿の上から新しいトーストを取って、エミリアが作ってくれたジャムを塗り始める。さっきはバターだったから、今度はジャムでいいだろう。甘さは控えめになってるからトーストの食感と香ばしさがちゃんと残るんだよな。さすがエミリア。

 

「なんでパパとママたちって、パジャマをきないでねてるときがあるの? あついの?」

 

「…………」

 

 首を傾げながら尋ねるラウラ。彼女は気になったことを俺たちに質問しただけなんだろうけど、その質問は俺たちにとっては対艦ミサイルの一撃に匹敵するほどの致命傷でしかない。

 

 ねえ、何でそんなこと聞くの? 今朝食だよ?

 

 まだジャムを塗り終えていないトーストを手に持ったまま、恐る恐るエミリアの方を見てみる。彼女も今の質問をされるとは全く予測していなかったらしく、こっちを見ながら苦笑いしていた。イージス艦ラウラが放った強烈な対艦ミサイルは正確に原子力空母エミリアに命中したのである。

 

 ダメコンが必要な致命傷だ。もちろんメンタルの。

 

 ちらりとエリスの方を見てみると、彼女は逆に嬉しそうな顔をしながら首を傾げる愛娘を見守っていた。どうやら彼女は対艦ミサイルの奇襲で全くダメージを受けていないらしい。

 

「ラウラ、それはね―――――――むぐぅっ!?」

 

「あー、何でもないぞラウラ! はっはっはっはっはっ!!」

 

 バカかこいつはぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 

 

 まだ3歳の娘に本当のこと話すつもりだっただろ!? ラウラは絶対に変態にさせないからな! 絶対に清楚なレディに育ててやる!

 

「パパ! ママをいじめちゃダメっ!」

 

「す、すいません…………」

 

「ぷはぁっ!」

 

 ごめんなさい、ラウラ様。

 

 愛娘に謝りながらエリスの口を塞いでいた手を取ると、エリスはラウラに謝っている俺を見ながらニヤリと笑った。でもさすがに言うつもりはないらしく、ウインクしてからトーストをラウラの皿の上に置く。

 

 よ、良かった…………。

 

 エリスは毎晩俺を押し倒して搾り取る変態だけど、稀にまともになる時がある。さすがに戦闘中に押し倒されたら困るから助かるんだけど、出来るなら常にまともな状態を維持してもらえませんかね? というか、エミリアの姉さんだろ? 

 

「ほら、早く食べちゃいなさい。あっ、ダーリンは仕事よね?」

 

「ん? ああ、そうだな。早く食べないと」

 

 何とか話を逸らすことができたらしい。安心しながらトーストに嚙り付いた俺は、さっきの質問をすっかり忘れて隣のタクヤと楽しそうにお喋りしているラウラを見守りながら苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネイリンゲンはオルトバルカ王国の最南端にある田舎の街である。広大な草原と丘に囲まれており、一見すると一年中暖かい場所にも思えてしまうが、ここも雪国であるオルトバルカ王国の一部である。それゆえに9月になれば雪が降り、広大な草原を一瞬で雪原に変えてしまうのだ。

 

 幸い周囲の草原に魔物が出没することはあまりないため、街が魔物に襲撃されることは少ない。そのため他の街と違って城郭都市のように防壁を建設する必要がないのだ。おかげで暖かい風が遮られることなく街の中に入り込むことができるのだが、冬になれば冷たい風も容赦なく入り込むことになる。

 

 けれども俺はこの開放的な景色が気に入っている。他の街は魔物の侵入を防ぐための分厚い防壁が建設されているため、街の中の家の窓からは防壁の向こうは絶対に見えないのだ。そんな閉鎖的な場所で生活しろと言われたらすぐに嫌気がさしてしまう。

 

「じゃあ、先に帰るわ」

 

「はーい、お疲れ様」

 

(お疲れ様です、力也さん!)

 

 今日受けた依頼の報酬の集計を終えた俺は、これから屋敷のキッチンへと夕食を作りに行く信也とミラの2人にそう言ってから、三階にある執務室を後にする。かつて俺とエミリアとエリスが寝室に使っていた部屋を改装した執務室には分厚い本や書類を入れておくための本棚が運び込まれており、改装から数日しか経過していないにもかかわらずその中には所狭しと分厚い本が並んでいる。

 

 主に並んでいるのは他の傭兵たちが出版している本や、この世界の戦術の教本などだ。他の傭兵が出版している本は傭兵として活動していくための教科書代わりにしている。この世界の戦術の教本などは一見すると現代兵器を主に使う俺たちからすれば役に立たないかもしれないが、ちゃんと役に立っているのだ。

 

 そういった戦術を学んでおけば、依頼の最中に遭遇した敵の戦術を読めるようになるかもしれないし、有効な戦術はモリガンの戦術にも組み込める。

 

 現代兵器で蹂躙できるから役に立たないと思い込まずに、何かの役に立つかもしれないと思いながら必要なものを取り入れることも重要だ。そういうことをしない限り、絶対に強敵には勝てない。

 

 階段を下りて一階へと向かうと、どっさりとフルーツが入った籠を持ったフィオナが、ふわふわと浮きながらキッチンの方へと向かうところだった。

 

「よう。そろそろ帰るわ」

 

『あ、はい。お疲れ様です!』

 

 そう言いながら籠の中からリンゴを1つ取ってプレゼントしてくれるフィオナ。真っ赤な河の表面には微かに水滴が付着していて、今しがた裏庭にある井戸で洗ったばかりだという事を告げている。

 

 彼女に礼を言ってから玄関のドアを開け、フィオナが趣味で育てている花壇の花を見渡しながらリンゴを齧る。

 

 もう既にネイリンゲンの広大な草原の向こうには真っ赤な夕日が浮かんでいて、緑色だけが支配していた草原を真っ赤に染め上げつつあった。まるで炎が草原に燃え広がっているかのような光景を見据えつつ、俺はネイリンゲンの外れにあるモリガンの本部から街の方へと向かう。

 

 家がある森はこの道の反対側だ。モリガンの本部であるフィオナの屋敷は、俺たちの家がある小さな森とネイリンゲンの街のちょうど中間地点にあるのである。

 

 懐から懐中時計を取り出し、ちらりと時刻を確認する。今の時刻は午後5時15分。いつもなら午後7時くらいに夕飯だから、結構時間が空いている。

 

 今日はちょっとだけ寄り道してから帰ることにしているのだ。

 

「あら、ハヤカワ卿。こんばんわ」

 

「こんばんわ。調子はどう?」

 

 露店で果物を売っているおばさんにそう言うと、おばさんは微笑みながら目の前に並んでいるリンゴの隊列の中からリンゴを1つだけ掴み取ると、それをこっちに投げてくれた。もう既に俺がリンゴを持っているのを知っていたのだろうか?

 

「おかげさまでネイリンゲンは平和よ。モリガンのおかげだわ」

 

「どうも。で、これのお代は?」

 

「タダでいいわよ」

 

「ありがとう、おばさん」

 

 お礼を言ってから貰ったばかりのリンゴを齧る。

 

 俺は貴族というわけではないんだが、街の人からはよく”ハヤカワ卿”と呼ばれる。どうやらあの屋敷にいるからそう呼ばれているらしい。

 

 傭兵になってからもう何年も経つが、俺たちの噂を聞いた色んなクライアントがあの屋敷まで依頼を頼みに来た。仲間を助けるためになけなしの金を持って屋敷に転がり込んできたハーフエルフの奴隷もいるし、騎士団に入団する息子に剣術を教えてほしいと依頼してくる貴族もいたが、一番びっくりしたクライアントはこの王国の国王だ。

 

 王女が通う学校が武装勢力に占拠され、王女が人質に取られる事件が起こったのだ。下手に騎士団を動かせば人質が殺される恐れがあるため、王室は少数精鋭で実力者ばかりが所属しているモリガンに依頼してきたというわけだな。

 

 それ以来、俺たちのギルドと王室にはかなり太いパイプがある。

 

 ギルドの経営は順調だが、他の傭兵ギルドの連中や俺たちに襲撃された貴族の奴らはモリガンの存在をかなり疎んでいるようだ。依頼の最中に妨害を受けることも少なくないが―――――――そういう奴らがどういう末路を辿ったかは言うまでもないだろう。

 

 すれ違った知り合いに挨拶しながらネイリンゲンの通りを進み、曲がり角を曲がる。曲がり角のすぐ近くにはお菓子を売っている露店があって、よくその店の前に小さな子供を連れた親たちが並んでいる。

 

 前世の世界ではお菓子は簡単に購入できたが、この世界では砂糖がそう簡単に手に入らないため、甘いお菓子は殆ど高級品なのである。貴族が独占している状態なので、庶民の子供たちがお菓子を口にする機会は前世の世界よりもはるかに少ないというわけだ。

 

 でもネイリンゲンの露店では、お菓子をかなり値下げして販売しているので、よく子供たちのためにお菓子を購入していく親が並んでいる光景を目にする。

 

「ほら、ナタリア。どれがいい?」

 

「ええと…………あっ、チョコレートがいい!」

 

 幼い金髪の少女が、ニコニコ笑いながらチョコレートを手に取る。母親と思われる金髪の女性が財布の中から銀貨を8枚くらい取り出して店主に渡すと、大喜びする少女と手をつなぎながら通りへと向かって歩いて行った。

 

 平和だなぁ………。

 

 その通りを真っ直ぐ進んでいると、やがて喫茶店の看板が見えてきた。

 

 ネイリンゲンは田舎の街だが、傭兵ギルドの事務所がやけに多い。そのため”傭兵の街”と言われることも多いんだが、至る所に傭兵ギルドの宣伝のポスターや看板が並ぶ通りの中に1つだけ喫茶店の看板が設置されていると、他の傭兵ギルドの看板よりも目立ってしまう。

 

 俺が寄り道することにしているのは、ここだ。

 

 仕留めた魔物の頭骨やでっかい剣の形をした看板が立てかけられた物騒な建物が連なる中に、一軒だけやけにお洒落な建物が鎮座している。橙色の木製のドアには『本日休業』と書かれているが、俺はお構いなしに入り口のドアを開けた。

 

 カラン、とベルが綺麗な音を奏でて客がやってきたことを店主に告げる。カウンターの向こうでティーカップを洗っていた金髪の青年は顔を上げると、俺の顔を見てニヤリと笑った。

 

 やけにひょろりとしていて、その辺にいる傭兵にぶん殴られたらあっさりと骨折してしまうのではないかと思ってしまうほど華奢な青年である。

 

「よう、ピエール」

 

「やあ。今日は休業って書いといた筈なんだけど?」

 

「その割にはカウンターで待ってたじゃん」

 

 ピエールは笑いながら「まあね」と言うと、拭き終わったティーカップを傍らの棚へと並べ始めた。

 

 彼はかつて、防具と剣を装備して転生者の手下として働かされていた事がある。けれども転生者の蛮行を目の当たりにしてから自分がとんでもないことに加担してしまったと知って凄まじい罪悪感を感じ、奴隷だったハーフエルフの少女と共にここまで逃げてきたのである。

 

 こいつには、剣を持った姿よりもティーカップを拭いてる姿の方が似合う。

 

「ぴ、ピエール、お、皿洗い終わった」

 

「ああ、ありがとうサラ」

 

「よう」

 

 カウンターの席に腰を下ろしながら、店の奥から顔を出したハーフエルフの女性に向かって小さく手を振る。彼女がピエールと一緒に逃げてきたハーフエルフの奴隷だったサラで、今では一緒に喫茶店を経営している。

 

 彼女の作るアップルパイはかなり好評らしく、毎日売り切れが当たり前なんだ。だからサラのアップルパイにありつきたいなら事前に連絡して取っておいてもらうか、他の奴らよりも先にここで食うしかない。

 

 ぺこりと頭を下げた彼女は、再び店の奥へと戻っていった。

 

 まだ奴隷だった頃のトラウマが消えてはいないらしく、何度も顔を合わせる人以外の人を見ると怯えてしまうらしい。だから基本的にカウンターの奥で紅茶を淹れたり、大好評のアップルパイを作るのが彼女の仕事だという。

 

「とりあえずマスター、ウォッカは置いてるかな?」

 

 ふざけながら言うと、ピエールは片手を腰に当てながら笑った。

 

「お客さん、ここは酒場じゃないですよ? 紅茶かコーヒーくらいしかございませーん。…………あ、そういえばジャングオから仕入れた烏龍茶もあったな」

 

「お、珍しいじゃん」

 

 酒を飲む前にお茶を頼んでみようかな。

 

 そう思いながら注文しようとしたその時だった。

 

「マスター、酒持ってきたぞぉ!」

 

 入り口のドアが発するベルの音色をかき消すほどの野太い声が店の中に響き渡ったかと思うと、やけに大きな足音が背後から近づいてきた。振り返ろうと思ったが、その声が聞こえるよりも先に今度は誰がこの店を訪れるのか知っていた俺は、振り返らずにニヤリと笑う。

 

 すぐ後ろまでやってきたその客はやけにがっちりした手で俺の肩を掴むと、肩を握り潰すつもりなんじゃないかと思えるほどの力で肩を握りながら隣の席に腰を下ろした。

 

「旦那ぁ! 久しぶりだなぁ!」

 

「よう、ギュンター。領主様の護衛はどうだ?」

 

 ちらりと隣を見ると、やはりスーツに身を包んだ浅黒い肌の大男が腰を下ろしていた。短い銀髪から覗く斜め上へと伸びる長い耳はハーフエルフの証だ。身体中ががっちりした筋肉で覆われており、身長も俺よりも高い。全体的に俺よりも一回りでっかいハーフエルフの大男は、俺たちの戦友である。

 

 ギュンターはニヤニヤ笑いながら「スーツを着る機会が増えて困ってる! ネクタイの締め方わかんねえんだよな! がっはっはっはっは!!」と言い、カウンターの上にでっかいウォッカの瓶を置いた。

 

 ちなみに、モリガンのクライアントである”仲間を助けるためになけなしの金を持って屋敷に転がり込んできたハーフエルフの奴隷”は、こいつの事である。

 

「というわけでピエール、飲まねえか?」

 

「お酒に弱いんだけどなぁ…………。ところで力也、君は家に帰らなくていいのかい?」

 

「安心しろ、二次会は我が家だぞピエール!」

 

「二次会ぃ!?」

 

 確か家に商人から購入したラム酒もあったな。とりあえず、ここでは飲み過ぎないようにしよう。この後は夕飯だし。ピエールとサラも家に連れていく予定だからな。

 

「ほら、とりあえず飲もうぜ! お前もう成人だろ?」

 

「た、確かに24だけど…………」

 

「じゃあ大丈夫だ。ほら!」

 

「ちょ、ちょっと待って。ギュンター、お前もう酔っぱらってる?」

 

「おう! 待ちきれなくて馬車の中で飲んできた! ひっく」

 

 大笑いしながら、本来なら紅茶を注ぐはずのティーカップに容赦なくウォッカを注いでいくギュンター。しかも全然水で割ってない。

 

 俺は大丈夫だが、ピエールは大丈夫か? こいつかなり酒に弱いぞ…………?

 

 ピエールに「無理しなくていいからな?」と言ってから、俺は久しぶりに会った戦友と一緒に酒を飲むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今のネイリンゲンは、平和だった。

 

 やっと冬が終わって雪も完全に溶け、再び草原が緑色だけで塗り潰される。そしてその草原を依頼に向かう傭兵や商人たちが行き交い、住人たちはいつものように生活する。

 

 だから俺たちも、いつものように生活できると思っていた。

 

 けれども―――――――この数日後に、事件が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

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