異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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モリガンの疑惑

 

 

 窓の外から入り込んでくる日光が、強引に瞼の中に入り込んでくる。少しばかり痛みを感じながら瞼を擦って体を起こせば、今度は頭の中で一緒に目を覚ました激痛が暴れ出す。目を覚ましたばかりだというのにうんざりしながら再び枕に後頭部を押し付けて眠りたくなったが、そうやって眠ろうとしてもまた日光が瞼の隙間から強引に入り込んでくるのが関の山だろう。

 

 どうしてこんなに頭が痛いのだろうか?

 

 ああ、そうだ。昨日の夜、久しぶりに会ったギュンターたちと酒を飲み過ぎたのだ。

 

 昨日の夜の事を思い出しながら身体を起こし、ぼさぼさになっている赤い髪をかきながらとりあえず着替えをする。

 

 ピエールの店でギュンターと待ち合わせし、彼が持ってきたウォッカを飲んでから3人を家に連れてきたのだ。それから夜遅くまでずっと酒を飲みながら思い出話や最近の話で盛り上がってたんだ。

 

 うわ、二日酔いか…………。今日は仕事が休みだから問題ないけど、頭痛を感じながら休日を過ごすのは嫌だなぁ…………。

 

 前に王都でエミリアたちと一緒に買ってきたお気に入りの服に着替えてから、くるりとベッドの方を振り向く。俺たちはいつも3人で一緒に眠っているんだが、使っているベッドは3人で眠るには小さめなので、一緒にベッドに入ると必然的に密着することになる。そうしなければ寝相でベッドの下へと落下する恐れがあるからだ。

 

 そのベッドの上では、未だに1人の女性が寝息を立てている。今頃家の庭で剣の素振りをしているもう1人の妻と顔だちはそっくりだが、片方の妻が意志の強いしっかり者であるのに対し、こっちの妻はだらしないような感じがしてしまう。

 

「んっ…………えへへ…………ダーリン、1000人目の赤ちゃんだよぉ…………」

 

 産み過ぎッ!

 

 もし二日酔いじゃなかったらちゃんとツッコミをしていただろう。でも猛烈な頭痛のせいでツッコミをやろうとは全く思えない。むしろこのままカーテンを閉めて二度寝したい気分である。

 

 そんなことしたら、寝てる間にまたエリスに搾り取られるかもしれないけどね。

 

 まったく…………。結婚してから更にエリスはだらしなくなったような気がするけれど、こう見えても彼女はラトーニウス王国最強の騎士だったんだよね。魔術の発達が遅れたラトーニウス王国にとって、常人を遥かに上回る量の魔力を体内に持ち、更に氷属性の魔術を変幻自在に操れるほどの技術を併せ持つような人材はまさに貴重な戦力だった。実際にエリス・シンシア・ペンドルトン―――――――エリスの旧姓だ―――――――という女の騎士の存在はかなり強大な抑止力となっていたらしく、”エリスがいるからオルトバルカはラトーニウスに攻め込めない”という状態だったという。

 

 挑めばどんな屈強な騎士でも瞬く間に氷漬けにされる。大国の隣で国土の拡大を狙う王国の切り札であり、守護者。それゆえに彼女は”絶対零度”と呼ばれた。

 

 …………いつもこんなにだらしないけど。

 

「おーい、起きろー」

 

「にゃー…………」

 

「エリスー、起きろー」

 

 彼女の体を揺するけど、ベッドの毛布を抱きしめてよだれを垂らしながら眠るエリスは目を覚ます気配がない。しかもよく見るとお気に入りのパジャマのボタンはいくつか外れていて、胸元からは黒いブラジャーとエミリアよりもほんの少し大きな胸が覗いている。

 

 さ、触ってもいいかな…………? でも触ってるところをエミリアに見られたら殺されるかもしれない。やめておこう。

 

 しばらく揺すり続けていると、やっとエリスは瞼を開けた。まるで幼い子供が目を覚ましたかのように両手で瞼を擦りながら起き上がった彼女を見守りながら、ポケットに入ってたハンカチで口元のよだれを拭き取る。

 

「おはよう、エリス」

 

「ん…………ふにゅ…………?」

 

「エリス?」

 

 寝ぼけてるのかな?

 

 そう思いながら首を傾げた瞬間、瞼を擦ってたエリスが両手を伸ばして俺を引き寄せると、そのままベッドの上へと押し倒してしまう。慌てて起き上がるよりも先に愛おしい妻の両手が絡みついてきて、俺をベッドの上で束縛してしまう。

 

 思い切り暴れればあっさりと脱出できる程度の力だけど、俺は全く抵抗しない。むしろ甘えてくる1歳年上の妻を優しく抱きしめてからキスをして、しばらくエリスとイチャイチャすることにした。

 

「ふにゅう…………」

 

「まったく…………」

 

 お前が妻で本当に良かったよ、エリス。

 

 胸板に頬ずりしながら甘える彼女の頭を撫でていると、ゆっくりと寝室のドアが開いた。子供たちだったらどうしようと思いながら俺は凍り付いたけど―――――――寝室の中へとやってきたのは、先ほどまで家の外で剣の素振りを繰り返していた、もう1人のしっかりしている妻だった。

 

 汗で湿っている髪をタオルで拭きながら満足そうに部屋の中へと入ってきたエミリア。いつもならまだ眠っているエリスを起こし、素早くシャワーを浴びてから朝食を作り始めるのが日課だ。稀に俺も寝坊することがあるので、そういう時はエミリアに一緒に起こしてもらっている。

 

 きっと彼女は、今日は珍しく俺も寝坊しているのだろうと思っていた事だろう。仕方がない夫だと言わんばかりに微笑みながら素振りに使った剣を置き、俺たちを起こそうとしたエミリアは――――――朝早くからベッドの上でイチャイチャしている俺たちを見て、凍り付いた。

 

「お、おはようエミリア」

 

「…………」

 

 や、ヤバい。エミリアのドロップキックが飛来する…………!?

 

 はっきり言うと、エミリアのドロップキックは一番怖い。今までいろんな強敵と戦ってきたけれど、彼女のドロップキックは数多の強敵たちがぶっ放してきた大技を遥かに凌駕する破壊力を秘めていると言っても過言ではない。

 

 下手したらレリエルよりも怖い。直撃すると確実に痣ができるからな。転生者にも通用する破壊力だ。

 

「ず、ずるいぞ、姉さんだけ…………」

 

「えっ?」

 

 あれ? 

 

 顔を赤くしながらベッドに腰を下ろし、ゆっくりと俺の隣に横になるエミリア。恥ずかしそうに俺の身体に寄り掛かってきた彼女はじっとこっちを見つめながら言った。

 

「わ、私も甘えさせろ…………そうしたら許してやる」

 

 確かに、不公平だもんな。

 

 胸板に頬ずりしていたエリスから一旦手を放し、今度は隣に横になっているエミリアをそっと抱きしめる。彼女も両手を伸ばして俺を抱きしめようとしたみたいだけど、そこでどうやら剣の素振りを終えてからまだシャワーを浴びていないことに気付いたらしく、慌てて両手を引っ込めるエミリア。汗の臭いを気にしてるんだろうか。

 

 けれども俺はお構いなしに彼女を抱きしめた。がっちりした両手に絡みつかれたエミリアが少しばかり抵抗するけど、すぐに抵抗を止めてしまう。

 

「は、離してくれ、まだシャワーを浴びてなかった」

 

「お断りだ。逃がさん」

 

 可愛い妻を逃がしてたまるか。

 

「りっ、力也っ…………バカっ、やっぱりシャワーを浴びてから――――――」

 

「俺は今すぐがいいの」

 

「そっ、それに朝食も作らなければ――――――」

 

 ちらりと時計を確認する。今はまだ午前6時30分。まだ子供たちは子供部屋で寝息を立てている頃だろう。いつもならもう少しでエミリアが子供たちを起こしに行く時間である。

 

 けれども今日は日曜日。今日は少しくらい寝ててもいいのではないだろうか。

 

「今日くらいはみんなで寝坊しようぜ?」

 

「…………ば、バカ」

 

 そう言いながら今度こそ抱き着いてくるエミリア。もう1人の妻の唇を奪いながら、俺はしばらく妻たちとイチャイチャすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっきり言うと、朝から調子に乗り過ぎた。

 

 ふらつきながらやっとのことでリビングの椅子に辿り着いた俺は、腰を下ろしてから息を吐き、テーブルの上の新聞を手に取る。昨日のようにラウラやタクヤたちに見られていないか心配になりながら新聞紙を広げ、記事を読んでいるふりをする。

 

 搾り取るのは夜だけにしてくれ…………。

 

 テーブルの向かいではガルちゃんが可愛らしいドラゴンのイラストが描かれたマグカップでホットミルクを飲んでいて、その隣ではタクヤが熱心に魔物の図鑑を読んでいる。

 

 タクヤは大人しい性格で、いつも子供部屋で魔術の本や魔物の図鑑を読んでいる。読めない文字や分からない専門用語があるとエミリアやエリスに質問してメモを取ることもあるらしく、子供部屋に置いてある彼の本には分かりやすいメモがいくつも挟んである。

 

 勉強熱心な子だな。将来は魔術師や学者になるつもりかな?

 

「ねえ、おとうさん」

 

「ん?」

 

 図鑑を読んでいたタクヤが、新聞を読んでいる俺に声をかけてきた。

 

「なんでつかれてるの?」

 

 み、見てたわけではないよな?

 

 心配になりながら適当に誤魔化しておくことにする。

 

「ママと訓練してたの」

 

「おかあさんと?」

 

「うん」

 

 ”ママと”一緒にいたのは合ってるだろう。その後はヤバかったけど。

 

「タクヤ、いいか? 女には迂闊に手を出すなよ?」

 

「え?」

 

「…………ただの教訓だ」

 

 多分、こいつが合法的にエロ本を買える年齢になったら分かるだろう。今朝経験したばかりの事を思い出しつつ、再び新聞の記事を読み始める。

 

 他の傭兵ギルドがあげた戦果でも見てみようと思い、いつも傭兵ギルドに関連する記事が記載されているところを見ていると―――――――とんでもない記事がそこに記載されていて、俺は我が目を疑った。

 

≪モリガンが村を襲撃!? ラングソン村が壊滅!≫

 

 ちょっと待て。どういうことだ…………? モリガンが村を襲撃しただと…………?

 

 ラングソン村はネイリンゲンよりもやや北に位置する小さな村だ。訪れたことは一度もないけど、村人たちが作り上げた粗末な木製の防壁と小規模な騎士団の部隊が駐留する村で、農業が盛んな村である。野菜を売りに来る商人もそこでよく野菜を仕入れるという。

 

 はっきり言うと、これはありえない。モリガンはあくまでも傭兵ギルドであり、クライアントがいない限りこんなことは決してしないからだ。仮にこういう依頼をされたとしても俺たちはすぐに断るようにしている。

 

 クライアントには傭兵を選ぶ権利があるが、傭兵にもクライアントを選ぶ権利はあるのである。

 

≪昨日の午後7時、近隣の騎士団の駐屯地に逃げ延びた村民が『モリガンに村を襲撃されている』と通報した。騎士団が村へと向かったが、すでに村の建物は殆どが全焼しており、村を襲撃した者たちの姿はなかったという。住民は『クロスボウのような飛び道具を装備し、深紅の羽根をつけた黒服の男たちが村を焼き払った』と証言しており、モリガンが襲撃した可能性は高い≫

 

 おい、この証言は間違ってるぞ。

 

 俺たちは確かに黒い制服を身につけるが、深紅の羽根をフードにつけているのはメンバーの中では俺だけだ。これはモリガンの証ではなく、転生者ハンターの証である。だから『深紅の羽根をつけた黒服の男たちが村を焼き払った』という証言は間違っているとしか言いようがない。

 

 それに俺たちにはアリバイがある。

 

 記事では村人からの通報があったのは午後7時という事になっている。俺は6時くらいからピエールの店でギュンターと酒を飲んでいたし、店を出て家に向かう途中にモリガンの屋敷の中で信也たちが手を振っていたのも確かに見た。

 

 見間違えか、それともモリガンの偽物の仕業だろう。

 

「おい、力也! その記事はなんだ!?」

 

 後ろで俺の見ていた記事を見ていたのか、エミリアが大きな声でそう言う。

 

「分からん。…………俺たちにはアリバイがあるぞ」

 

「た、確かに。その時間はギュンターと酒を飲んでいたのだからな…………」

 

 もし騎士団に疑われたら、その時はエミリアたちやピエールたちに証人になってもらおう。そう思いながら新聞紙をテーブルの上に置いたその時、ドアをノックする大きな音が家の中に響き渡った。その音を聞いてびっくりしたタクヤとラウラが目を見開き、近くにいたエミリアにしがみつく。

 

 明らかに信也たちのノックする音じゃないな。強引なノックだ。

 

 この記事を読んだ住民が問い詰めに来たのだろうかと思いながら玄関へと向かい、息を吐いてからそっと玄関のドアを開ける。

 

 ドアの向こうに立っていたのは、真っ赤な制服の上に銀色の防具を装着した数名の騎士たちだった。腰には剣を下げており、ドアの前にいる騎士たちの後方には弓矢を装備した騎士たちがいて、得物を俺に向けている。

 

「リキヤ・ハヤカワだな?」

 

「ああ」

 

「記事は読んだか?」

 

「読んだ。…………連行するってか?」

 

 そう言いながら肩をすくめると、その騎士は首を横に振った。てっきり身柄を拘束されると思っていたんだが、どうやら彼らは身柄を拘束するためにここまでやってきたわけではないらしい。

 

「国王陛下が、君と話したいそうだ。同行願えるか?」

 

「もちろん」

 

 王室には大きな貸しがあるし、太いパイプがある。

 

 王女を武装勢力から救い出したあの依頼を成功させてから、どうやらモリガンは王室のお気に入りの傭兵ギルドになったらしい。それ以来王室からはかなり信頼されているようだ。

 

 もしかしたら力を貸してもらえるかもしれないな。

 

 ちらりと後ろを見てみると、エミリアやエリスたちが心配そうにこっちを見ていた。きっと俺が連行されると思っているのだろう。

 

 大丈夫だ、ちょっと国王と話をしに行ってくる。

 

 妻たちに向かってウインクしてから、騎士たちの後について行く。

 

「我が国に奉仕してくれている君たちが、唐突にこんなことをするとは思えん」

 

「安心してくれ、こんなことは本当にやってない。証人もいる」

 

 どうやら騎士たちもモリガンがあんなことをしたという記事を信じたくはないらしい。俺を先導する隊長と思われる騎士にそう言いながらついて行くと、やがて森の入口の所に騎士団の紋章が刻まれた大きな馬車が2台ほど停まっているのが見えた。

 

 御者が馬車から降りて隊長に敬礼し、素早く馬車のドアを開ける。

 

「乗ってくれ。このまま王都に向かう」

 

「はいはい」

 

 馬車だと遅いんだよなぁ…………。モリガンの飛行場から戦闘機で飛び立てば数時間で到着してしまうんだが、馬車ではおそらく今日の夕方位に王都に到着することになるだろう。

 

 やれやれ、長旅になりそうだ。

 

 ため息をつきながら馬車に乗り込むと、隊長と数名の護衛の兵士が一緒に馬車へと乗り込んできた。残しの騎士たちはもう1台の馬車に乗るんだろうか。

 

 やがて、御者が馬を走らせ始める。大地を殴りつける蹄の旋律を聞きながら窓の外を眺めた俺は、今日はまだ紅茶を一口も飲んでないことを思い出して舌打ちをした。彼らに同行する前に紅茶を淹れてもらえばよかったと後悔しつつ、もう一度ため息をつく。

 

「私はリック・エリルマン。騎士団の衛兵隊に所属している」

 

 隊長の自己紹介を聞きながら、彼の襟についている紋章をちらりと見た。オルトバルカ王国の象徴でもあるドラゴンの紋章が刻まれており、その下には深紅の剣が1本だけ刻まれている。騎士団の”少佐”を意味する紋章だ。

 

 深紅の剣が2本ならば中佐で、3本ならば大佐を意味するのだ。准将からは剣の色が黄金に変わり、階級が上がるにつれて剣の数が増えていくという。

 

 エリルマン少佐の年齢は俺と同じか少し若いくらいだろうか。衛兵隊に入隊するのはかなり難易度が高いと言われているため、彼はかなり努力を続けてきた人物なのだろう。ちらりと彼の手のひらを見てみたが、やはり肉刺が潰れた後がいくつも見受けられる。エミリアと同じだ。

 

「努力家のようだな、少佐。私の妻と同じだ」

 

「それはどうも、モリガンの傭兵。諸君らの噂は聞いているよ。10人足らずのギルドにも拘らず、凄まじい戦果をあげているようだ。我が騎士団に欲しいくらいだよ」

 

「このままギルドを解散する羽目になったら検討するよ」

 

「では、そうならないことを祈ろう」

 

 その通りだ。

 

 エリルマン少佐に「ありがとう」と言ってから、再び窓の外を見つめる。

 

 俺たちにはアリバイがある。だから村を襲撃することはそもそも不可能だし、俺たちは絶対にそんなことはしない。

 

 だからこれは、住民の証言が間違っていたか、それとも襲撃した奴らがモリガンの襲撃を装う事で俺たちを悪人という事にし、潰そうとしているに違いない。

 

 前者ならば仕方がない。しかしもし後者だったら―――――――徹底的にぶっ潰す。

 

 

 

 

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