異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
モリガンでは、2両の戦車を運用している。
片方はドイツのレオパルト2A6。強力な120mm滑腔砲と重厚な複合装甲を兼ね備えている高性能な戦車である。防御力を向上させるため、砲塔の上にはアクティブ防御システムを追加しており、防御力は飛躍的に向上している。もし仮に迎撃できなかったとしても重厚な複合装甲で防御することができるからな。
モリガンが一番最初に運用を始めた戦車であり、俺とエミリアがジョシュアの野郎に拘束された時は信也がこれを指揮して助けに来てくれたし、モリガンとガルゴニスの戦いの際も奮戦してくれた相棒だ。今でも大規模な魔物の群れが姿を現した際は出撃し、主砲で魔物の群れを薙ぎ払っている。
そしてその隣に停車しているのは、モリガンで運用するもう1両の戦車である。
もう片方は、日本製の『10式戦車』。陸上自衛隊で採用されている日本製の最新型戦車で、各国の戦車と比較するとかなり車体が小さいのが特徴的だ。更に装甲も薄くなってしまっているものの、搭載している主砲はレオパルトと同じく120mm滑腔砲であり、更に高性能な射撃管制装置を搭載しているため、主砲の命中精度は新型戦車の中でもトップクラスと言われている。
乗組員は操縦手と砲手と車長の3名。戦車によっては更に砲弾を主砲に装填する”装填手”も必要になる場合があるが、この10式戦車は”自動装填装置”を搭載しているので装填手は乗らなくてもいいのである。
俺たちはこの2両の戦車を運用して今まで戦ってきたのだが―――――――今度からは、3両の戦車を運用することになる。
レオパルト2A6と10式戦車の隣に並んだ”新人”を見つめながら息を吐いた俺は、腰に下げていた水筒を手に取った。蓋を外して中に入っているアイスティーを少しだけ飲みつつ、近くに置いておいた白いペンキの入ったバケツを拾い上げる。
がっちりとした装甲に包まれた2両の戦車の隣に鎮座するのは、レオパルト2A6と10式戦車よりも旧式で、実戦投入されることもなかった試作型の戦車である。冷戦の真っ只中に産み落とされ、後にアメリカ軍の戦車として活躍することになるエイブラムスの”原型”となった、MBT-70だ。
数日前に魔物の殲滅作戦に投入した後、モリガンで運用することになったのである。
とはいえ既に運用している戦車よりも旧式であるため、可能な限りの近代化改修を施した。できる限り複合装甲を搭載することで防御力を底上げし、複合装甲を搭載できない部位には爆発反応装甲を搭載して補った。それにミサイルや何かしらの強力な魔術を迎撃するために、アクティブ防御システムも搭載している。
真っ黒に塗装された車体の上によじ登ってから、バケツの中に突っ込んでいた刷毛(はけ)を引っ張り出し、砲塔の右側面に白いペンキを塗っていく。
「…………こんなものかな」
刷毛をバケツの中に戻し、車体の上から飛び降りてからそう呟いた俺は、右手に持っていたバケツを格納庫の壁際に置いてからMBT-70の砲塔の右側を眺める。
漆黒に塗装された戦車に白いペンキで描かれたのは、この世界には存在しない言語である英語の単語である。
それは、この戦車のコールサインだ。
MBT-70の砲塔に描かれた『Black Fortress』というコールサインを眺めて満足しつつ、肩を回しながら格納庫の床に腰を下ろす。
滑腔砲と比べると発射できる砲弾の種類が少なくなってしまうものの、強力な対戦車ミサイルを発射できるガンランチャーを搭載した
はっきり言うと、転生者はいつでも端末さえあれば自由自在に戦車や戦闘機に乗ることができるので、わざわざこのような格納庫を準備する必要はない。むしろこうやって兵器を格納しておくことで、侵入した何者かに鹵獲される可能性がある。それにこのような兵器は12時間が経過すると勝手に最善の状態にメンテナンスが実施されるため、わざわざ自分たちの手でメンテナンスをする必要もない。
端末を操作して出現させる手間が省けるというメリットがあるものの、このような格納庫は基本的に無用なのだ。
この格納庫を用意したのは、ミラの要望なんだけどね。彼女はどうやら戦車や戦闘機に興味を持ったらしく、それらで出撃する時は必ず操縦士に立候補するほどだ。時間が空いている時は勝手に格納庫から10式戦車を持ち出してネイリンゲンの広大な草原を爆走させたり、屋敷の近くにある簡単な飛行場の滑走路から飛行機で出撃し、勝手に空を飛び回っている。
おかげで彼女の操縦技術はモリガンのメンバーの中でもトップクラスと言える程磨き上げられたが、出来るならば程々にしてほしい。彼女が夜中でもお構いなしに急降下爆撃機で急降下を繰り返していたせいで何日も眠れなかったことがあるからな。
格納庫の外に出てから、ペンキの入ったバケツを裏庭の物置の中に放り込んでから裏口のドアを開けた。そのまま1階の広間を素通りして階段を上がり、3階にある執務室へと向かう。元々は俺やエミリアたちが寝室に使っていた部屋を改装した部屋で、ここで書類にサインしたり、暇な時に信也から借りたラノベを読んでいる。
この世界は前世の世界と比べると娯楽が減ったからなぁ…………。前世の世界ではオンラインゲームをやったりアニメを見ることができたけど、この世界にはそもそもテレビやラジオが存在しないので、娯楽はマンガやラノベ程度だ。時折妻たちと王都まで演劇を見に行くこともあるけれど、個人的には映画を見てみたいものだ。早くこの世界の技術も進歩してほしいものだけど、多分映画が本格的に普及するのは俺たちの子供や孫たちの時代になるのではないだろうか。
高校の友達とオンラインゲームをプレイしていた頃の事を思い出しながら執務室の扉を開けると、部屋の中のソファの上には信也とミラが腰を下ろしており、ラノベやマンガを読みながらリラックスしているところだった。テーブルの上にはこの前にエイナ・ドルレアンで購入してきたラノベやマンガがどっさりと積み上げられており、ちょっとした防壁みたいになっている。
「ああ、兄さん」
「ペンキ塗ってきたぜ」
(お疲れ様ですー)
俺もラノベを読もうかな。
俺たちは傭兵だからいつも訓練をしているんだが、常に訓練をしているというわけではない。当たり前だけど、デスクワークと訓練ばかりしていたら依頼に行く前に過労死してしまう。
だからこうやって羽を伸ばすのも大切なのだ。
ラノベとマンガの山から何冊か本を拝借し、自分の机の上まで持っていく。腰に下げていたアイスティー入りの水筒を机の上に置き、書類を少し片付けてから持ってきたラノベを開いた。
≪魔法少女ぼいて★ぱんつぁー≫
な、なんだこのラノベ…………。
「し、信也、これ何?」
「知らないの? 最近人気のラノベだよ?」
これ人気のラノベなのかよ…………。しかもこれ1巻じゃなくて4巻じゃん。適当に持ってきたのが悪かったな。読むならせめて1巻から読みたいものである。
「どんな内容?」
「戦車を召喚できる魔法を習得した女の子が、異世界で魔物を蹂躙する話だよ」
なんだそれ。これの作者は転生者か? 机の上の4巻を捲ってみるが、確かに戦車に乗った美少女がゴブリンの群れに榴弾を叩き込んでいる挿絵が載っている。俺たちも同じようなことをした事があるけど、やっぱり魔物の群れに戦車を投入すればすぐに決着がついてしまう。
はっきり言うと、魔物が圧倒的な規模の群れで押し寄せてこない限り、戦車を投入するのは”やり過ぎ”だ。
4巻のページを捲っていると、信也がこれの1巻を探し出して机の上に置いてくれた。礼を言ってからそれを受け取り、ページを受け取り始める。
戦車の召喚以外の魔法全然使ってないじゃん。実質的に現代兵器で蹂躙してるだけだぞ、これ…………。
「こんなのもあるよ」
「ん? …………『異世界で魔術師が禁術を使うとこうなる』?」
「多分、兄さんが見たらキレると思うけど」
「はぁ?」
俺がキレる内容? なんだか気になるな。
そう思いながら受け取った1巻のページを捲り、アイスティーを口に含みつつ読み進めてみる。どうやら俺たちが住んでいた前世の世界に転生した天才魔術師が、こっちの世界で身につけた魔術を使ってヒロインや仲間たちと一緒にトラブルを解決していくというストーリーらしい。
俺たちとは逆なんだな。
でも―――――――F-22と思われる戦闘機が、ファイアーボールであっさり撃墜されている挿絵が載っているページを見た途端、このラノベを俺の炎で燃やしてしまいたくなってしまった。
何でF-22がファイアーボールごときで撃墜されてんだよ!? 攻撃力や機動性は最高峰だぞ!? そもそもファイアーボールの射程外から先にミサイル撃たれて勝負つくだろ!? 何だこれ!?
そう思いながらさらに読み進めていく。現代兵器が魔術であっさりとやられているシーンを目にする度にブチギレしそうになるが、それ以外の内容は悪くはない。魔術で現代兵器を瞬殺するシーンさえなければ面白いんじゃないだろうかと思いながら読んでたんだが…………ロシアのPAK-FAが離陸前にファイアーボールで狙撃されて大破しているシーンの挿絵を目にした瞬間、我慢できなくなった。
「なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「に、兄さん!?」
(力也さんがキレた!?)
せめて飛ばしてやれ! それから勝負しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!
しかも次のページでは、ロシアの戦車であるT-14の群れがファイアーボール1発で壊滅してるし! はっきり言うけどT-14はファイアーボールごときでやられるような戦車じゃないからな!? そんな軟弱な魔術でやられるのは第一次世界大戦で使われてたような旧式の戦車だぞ!?
これの作者は現代兵器を馬鹿にしてるのか!?
「ゆ、許せんッ! おい信也、出撃だ! このクソラノベの作者を粛清しに行くぞッ!!」
「お、落ち着いてよ兄さん! ラノベだから!」
「絶対許さん! ファイアーボールなんかよりも滑腔砲の方が強いって証明してやる!」
(戦車使っちゃダメです! お願いだから落ち着いてくださいぃぃぃっ!!)
ミラと信也に身体を抑え込まれるが、強引に引き剥がして俺は部屋のドアへと進む。けれども引き剥がした筈の信也とミラが再び俺の腕を掴んできて、なかなか前に進ませてくれない。
特に信也は転生者だから身体能力がステータスによって大幅に強化されており、なかなか力が強い。最近は実戦を何度も経験してレベルを上げているらしいから、ステータスもそれなりに高くなっているのだろう。以前のようにあっさりと引き剥がせるような相手ではなくなっている。
「はっ、離せぇぇぇぇぇぇぇぇ! こいつだけは粛清させてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ミラ、フィオナちゃん呼んできて! 金縛りなら兄さんを止められるから!!」
(わ、分かった!)
一旦俺の腕から手を放し、研究室にいるフィオナを呼ぶために部屋を後にしたミラ。数分後に駆けつけることになるフィオナに金縛りで身動きできなくさせられるまで、俺と信也の死闘は続いたのだった。
仕事を終えて屋敷を後にし、そのまま森の中にある家へと向かう。仕事とは言っても依頼があったわけではないので、実質的にはいつも通りの訓練をやった後に部屋でくつろいで依頼を待ってただけだけどね。
今日は以前のようにピエールの店で待ち合わせをする予定はないので、いつものように真っ直ぐ家へと戻る。
そろそろ夏になるせいなのか、風がいつもよりもやけに温かい。けれども9月になればもう雪が降り始めるほどの雪国なので、この暖かさの恩恵を受けられる期間は短いのだ。急いで薪や食料をどっさりと溜め込んでおかないと、真冬の間に痛い目を見ることになる。
それゆえにこの国の国民たちは、冬になると大忙しなのである。
幸い、俺たちが住んでいる家は森の中だ。だから少なくとも薪には困らないけれど、食料はどうしようもない。雪が降り積もれば食料を売りに来る商人も殆どこの街に来なくなるし、森の中で獲物を仕留めようとしても数が減っているのであまり期待できないのだ。
だから保存食作りもする必要がある。狩りで獲物を仕留めたら、その肉の一部は燻製やソーセージにして保存食にするのだ。
そろそろ俺も保存食作りを手伝った方がいいかな?
森へと続く道を歩き続け、森の中へと入る。森とはいえそれほど規模が大きいわけではないので、中には魔物は生息していない。熊や鹿は生息しているので、狩りは基本的にこの森の中で行っている。
そのまま道を真っ直ぐ進んでいるうちに、段々と我が家が見えてきた。モリガンの本部となっている屋敷と比べると随分小さくて質素な木造の家だ。さすがに子供たちと一緒にあの屋敷で生活するわけにはいかないし、もし屋敷が襲撃されたら子供たちが命を落とす危険もある。だから子供たちが生まれてからは、屋敷ではなくこっちで暮らすようにしている。
家の玄関の前までやってきた俺は、玄関の前に置いてあるポストの近くに真っ黒な毛並みの馬がいる事に気付いた。尻尾を振りながらポストの近くの草を食べている馬の背中には鞍があることから、野生の馬ではないという事がすぐに分かる。どこかの騎士団の奴が訪問してるのだろうかと思いながらまじまじと馬を見ていると、鞍には見覚えのある家紋が刻まれていた。
―――――――ドルレアン家の家紋である。
ああ、そういえばギュンターの事を呼んでたからな。こっちに来てたのか。
数日前に商人から東洋の酒を購入したんだ。東の海の向こうにある”倭国”の酒らしく、オルトバルカでは滅多に出回っていない珍しい品だという。だからかなりの値段だったんだが、興味があったので購入したんだ。
「ただいまー」
「あっ、パパ! おかえりなさいっ!」
玄関のドアを開けると、真っ先にリビングから赤毛の少女が飛び出してきた。エリスにつけてもらったのか、真っ赤な髪に黒と赤のリボンを付けたラウラは嬉しそうに笑いながらこっちに走ってくると、そのまま勢いよく俺の胸に飛び込んでくる。
愛娘の小さな身体を受け止めてから抱きしめて彼女の頭を優しく撫でると、ラウラはまだ短い尻尾を勢いよく左右に振り始めた。どうやら彼女の癖らしく、嬉しい時や満足している時に無意識のうちに尻尾を左右に振ってしまうらしい。
まるで飼い主との遊びを楽しむ子犬みたいだ。
「あのね、ギュンターおじさんがあそびにきてるの!」
「おー、そうか」
やっぱりな。どうやらエイナ・ドルレアンから馬でネイリンゲンまでやってきてくれたらしい。ラウラを抱き上げたままリビングへと向かうと、やはり聞き覚えのある野太い笑い声が聞こえてきた。
どうやら我が家を訪れたハーフエルフの巨漢はもう既に飲み始めているらしく、彼の傍らには楽しみに取っておいた筈のラム酒の瓶が空になった状態で転がっている。そしてそれを飲み干したと思われる張本人は、明らかに8歳の幼女にしか見えない最古のエンシェントドラゴンと腕相撲で勝負しているところだった。
「がるちゃん、がんばれー!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!? おい、お前幼女だろ!? 何でこんなに力強いんだよ!?」
「ふっふっふっふ…………私はエンシェントドラゴンじゃぞ? ただの幼女と思うでないわっ!!」
ギュンターのでっかい掌に包まれてすっかり見えなくなってしまうほど小さなガルちゃんの手が、信じがたいことにギュンターの剛腕をどんどん押していく。ギュンターは必死に抵抗しているようだが、あのまま負けるのが関の山だろう。
案の定、どんっ、とテーブルを殴りつけたかのような音を響かせながらギュンターの手の甲がテーブルに打ち付けられ、鍛え上げられた傭兵と最古のエンシェントドラゴンを名乗る幼女の一騎討ちは幕を閉じた。
「お、力也! 帰ったのか!」
「おお、旦那ぁ! 待ってたぜ!」
「よく来たな。よし、今夜は飲むか!」
確か、この前作ったソーセージがいくつかあった筈だ。肉は明日狩りに行って補充しておけば問題ないだろう。
商人から購入した倭国の酒をキッチンまで取りに行きながら、俺は思った。
多分、”次の戦い”が始まる前に仲間たちとこのような生活を送れるのは今回が最後なのではないだろうかと。
未来からやってきたという成長した姿のタクヤとラウラの話では、彼らの時代ではすでにネイリンゲンは転生者たちの襲撃で壊滅し、廃墟と化しているという。その”転生者たちの襲撃”が行われると思われる日は―――――――着実に近づいていた。
おまけ
長期連載
タクヤ「カノン、何読んでるんだ?」
カノン「『魔法少女ぼいて★ぱんつぁー』ですわ」
タクヤ「へぇ…………54巻!?」
カノン「ええ。ちなみにわたくし、1巻から全部持ってますわよ♪」
リキヤ(あれまだ続いてたのか…………)
完