異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ネイリンゲンは、オルトバルカ王国の最南端にある小さな街である。周囲は広大な草原に囲まれており、他の街と違って魔物の攻撃を防ぐための防壁が存在しない。そのため他の街とは違って開放的な雰囲気を持つ、一風変わった街である。
その理由は、この草原にはなかなか魔物が姿を現さないからである。そのため常に大規模な騎士たちの部隊を駐留させておく必要はないものの、もし魔物たちが襲撃を開始した際にすぐに防衛戦を開始できるように必要最低限の守備隊は駐留している。もしそれで兵力が足りなければ傭兵を雇って戦力をカバーすることになっており、この街には多くの傭兵ギルドが存在する。
そのため、ネイリンゲンは”傭兵の街”と呼ばれることもあるのだ。
俺とエミリアがラトーニウス王国との国境を越えてこの街に逃げ込んでからもう7年。当時の俺たちはまだ17歳の少年と少女に過ぎなかったけれど、今ではもう結婚して子育てしながら、日に日に減っていく仕事の量を気にしながら傭兵として働いている。
今は平穏だ。
けれども―――――――そろそろ戦いの準備をしなければならない。
7年前の魔剣との戦いの際に、信じ難いが未来からやってきたと言っていた俺たちの子供たちから聞いた話では、あの忌々しいジョシュアとの戦いから7年後に、なんと―――――――転生者たちの襲撃で、ネイリンゲンが壊滅してしまうというのである。
どのような襲撃でネイリンゲンが壊滅するのかは彼らは知らないようだったが、襲撃されるのであれば防衛戦の準備をするべきだ。おそらく壊滅してしまったネイリンゲンにいた俺たちは、無防備な時に奇襲を受けて壊滅したに違いない。
だから戦車も1両追加したし、ネイリンゲンの郊外には急遽3基のレーダーサイトを設置した。もしネイリンゲンが爆撃で壊滅するというのならばこれで探知できるし、ミサイルによる攻撃も同じくこれで探知することが可能だ。もし魔物がレーダーサイトに攻撃を開始したとしても、周辺に設置したターレットと、無人化した軽戦車のルスキー・レノをレーダーサイトに2両ずつ駐留させているので、少なくとも魔物の襲撃で破壊されることはないだろう。
だが―――――――モリガンはメンバーの数が少ないし、それに運用している航空機は設備の関係で第二次世界大戦で活躍したような旧式の航空機しか運用できないという大きな弱点がある。
もしも相手が同じく旧式の機体で襲い掛かってきたのならば、少なくとも互角には戦えるはずだ。けれどもF-22のような最新の戦闘機をネイリンゲンへの攻撃に投入した場合、当たり前だが勝負にならない。ミサイルで射程距離外から一方的に攻撃され、そのまま撃墜されるのが関の山である。
だからこちらもジェット戦闘機を運用したいところなのだが、端末の機能で戦闘機を作り出すことはできても、それを運用するための滑走路まで用意できるわけではないため、そういう設備は自分たちで準備しなければならないのだ。
滑走路は辛うじて用意できたものの、滑走路とは言っても草原の草を刈って分厚い木の板を敷いただけだ。プロペラ機なら問題ないが、ジェット戦闘機は運用できない。幸い最新のヘリは簡単なヘリポートで運用しているので何とかなるが、だからと言って戦闘機をこれで撃墜するのは無茶である。
だから航空戦力は貧弱なのだ。何とかして強化したいところだが、今から滑走路を作り直しても間に合わないだろう。それに滑走路を作るにはもっと人手が要る。
そこで―――――――地上からの対空砲火で、貧弱な航空戦力をカバーすることにした。
モリガンの屋敷の裏に鎮座するその兵器は、一見すると戦車のようにも見える。キャタピラのあるがっちりとした車体は戦車を連想させるが、その上に乗る砲塔から突き出ている筈の戦車砲の砲身は見当たらない。代わりに砲塔の両サイドに地対空ミサイルの発射機が片方に4基ずつと、圧倒的な破壊力と連射速度を持つ30mm機関砲が片方につき1基ずつ搭載されている。
戦車ならば主砲の砲身が突き出ている筈の場所に搭載されているのは、円盤状のレーダーだ。
俺たちが新たに生産したのは、ロシア製自走対空砲の”2K22ツングースカ”と呼ばれる兵器である。敵の航空機やヘリを撃墜するための機関砲や地対空ミサイルをこれでもかというほど搭載した兵器であり、対空戦闘で真価を発揮する。
とはいえ戦車と比べるとかなり装甲が薄いため、敵に反撃されればあっさりと撃破されるのが関の山だ。念のためもう1両用意する予定である。
これとモリガンが運用する航空機を組み合わせて敵の航空隊を撃退する予定だが、やはりモリガンでは旧式の戦闘機しか運用できないというのはかなり致命的な弱点である。高性能な自走対空砲と連携できるとはいえ、もし敵がジェット戦闘機を大量に投入してくればこちらが敗北するだろう。
念のため、仲間にはスティンガーミサイルや9K38イグラも支給する予定だ。
地上から攻めてくるならば撃退する自信はあるが、空から攻撃された場合は苦戦するだろう。場合によっては李風(リーフェン)に航空機の派遣を要請した方がいいかもしれない。
俺たちは今、”勇者”と呼ばれるある転生者の情報を探している。多数の転生者を味方につけている男らしく、信じられない話だが、その勇者は転生者たちに”核兵器”を作らせている危険な男である。
李風たちもかつてはその勇者の命令で核兵器を製造させられていたのだが、モリガンとの戦いで降伏し、今では俺たちに協力してくれている。彼らの転生者のレベルはまだ低いと言わざるを得ないが、規模ではモリガンよりもはるかに上だ。今でも同盟関係にあるため、一緒に勇者の情報を集めつつ反撃の準備を進めている。
おそらく、大きくなったタクヤたちが言っていたネイリンゲンを壊滅させる転生者たちは、勇者に加担する転生者たちなのだろう。だとすると転生者の群れとの戦闘になる。
「…………」
端末を操作し、ツングースカを装備している兵器の中から解除する。草原の上に鎮座していた自走対空砲が何の前触れもなく姿を消したのを確認してから、俺は踵を返して屋敷の中へと向かった。
裏口から中に入り、3階へと向かう。今では執務室に使っている部屋の隣にはギュンターとカレンの寝室だった部屋があるんだが、今ではそこも改装して臨時の指令室として使わせてもらっている。
階段を上ってその臨時の指令室の扉を開ける。数秒前まではまるで貴族の屋敷の中のような光景だったのだが、その扉の向こうの光景は、これでもかというほどモニターや無線機が設置されている上に床には何本もケーブルが転がっているせいで、まるでどこかの軍の基地の中のような光景と化している。
「お疲れ」
(ああ、力也さん)
椅子に座りながら、レーダーサイトから送られてくる反応が表示されるモニターをじっと見つめていたミラにそう言うと、彼女はこちらを振り返ってからそう言った。お前の旦那さんはどこにいるのかと尋ねようと思ったんだが、彼女の足元のケーブルに紛れ込もうとしているかのように真っ黒な寝袋の中で寝息を立てる弟を見つけ、尋ねるのを止めた。
どうやら仮眠をとっているらしい。
「交代だ。ミラも休め」
(すいません、お言葉に甘えさせてもらいます)
よく見ると、ミラの目の下にもクマが浮かんでいる。
いつミサイルや敵の航空機が飛来するか分からないため常に見張っている必要があるのだが、やはりモリガンはメンバーの人数が少ないため、負担が大きくなってしまう。
ミラは両手を伸ばしながらあくびをすると、左手で瞼を擦りながら立ち上がり―――――――近くで寝息を立てている信也が入っている寝袋の中へと、強引に潜り込み始めた。
お、おいミラ? それ1人用の寝袋なんだけど…………。
7年前と比べると、当たり前だが信也の体格はかなりがっちりしている。あっさりと折れてしまうのではないかと思えるほど細かった手足にも筋肉がつき、今では素手で魔物を殴り倒せそうなほどがっちりしている。それにミラも7年前と比べると成長しているし、今では胸が結構大きくなっている。
「ん…………? ん…………」
(ふふふっ♪)
寝袋の中で信也が動こうとするけど、ミラが強引に潜り込んだせいで身動きが取れないらしい。
信也、結婚式には呼んでくれよ。
1人用の寝袋の中で寝息を立て始めた2人を見守ってから、俺も見張りの仕事を始める。設置されたモニターと、レーダーサイトを警備するルスキー・レノから送られてくる映像を見つめながら、腰のホルスターに納まっていたトカレフTT-33の点検を始める。
今度ルガーP08も使ってみようかな…………。
そんなことを考えながら、目の下にクマが浮かび始めるまで見張りを続けるのだった。
「お疲れさまであります、同志」
「久しぶりだな、同志李風」
目の前へとやってきた少し背の小さな黒髪の青年に敬礼をしつつそう言うと、彼は敬礼をしたまま微笑んだ。
彼の名は”張李風(チャン・リーフェン)”。この異世界では珍しい中国出身の転生者で、かつては勇者の命令で脅されながら核兵器の製造を強いられていた転生者の1人だ。今ではモリガンとの戦闘で生き残った転生者たちを束ねて傭兵ギルドを結成しつつ、俺たちと同盟を結んで勇者の情報を集めている。
モリガンの屋敷の裏庭にある簡単なヘリポートへと降り立ったカサートカの兵員室の中から、ぞろぞろと兵士たちが降りてくる。彼らが手にしているアサルトライフルはブルパップ式で、やや大きめのキャリングハンドルが特徴的だ。おそらく中国製の『95式自動歩槍』だろう。
95式自動歩槍は、中国で運用されている5.8mm弾を使用するブルパップ式のアサルトライフルである。室内戦にも投入し易く、命中精度も高いため扱い易いライフルだ。さすがに西側のアサルトライフルのように汎用性は高くないものの、95式自動歩槍のバリエーションは多い。
使用する弾薬は5.8mm弾。アメリカの運用する5.56mm弾やロシアの5.45mm弾よりも若干口径が大きいため、小口径の弾丸の中では殺傷力は高い部類に入ると言える。けれどもこの異世界では小口径の弾丸よりも大口径の弾丸が重宝されるため、対人戦では問題はないかもしれないが魔物との戦いでは火力不足になるかもしれない。
ちなみにモリガンで推奨している弾薬は7.62mm弾である。小口径の弾丸では魔物の外殻に弾かれてしまう恐れがあるためだ。部位によっては外殻を貫通してダメージを与えられるが、魔物との乱戦になった状態でははっきり言うと弱点を正確に撃ち抜いている余裕はない。とにかく”当てられる部位に当てて黙らせる”事が重要になる。
それに7.62mm弾であれば、種類にもよるが飛竜やドラゴンの外殻も貫通できる。更に5.56mm弾や5.45mm弾よりも確実に人を殺せる威力があるため、こちらの方が効率よく魔物を始末できる上、対人戦や魔物との戦いにも投入できるという強みがある。
ただし反動が大きいので、運用する際は工夫が必要だ。
「それで、航空隊は?」
「東の海に空母を待機させてあります。指示があればすぐに艦載機を飛ばせます」
空母を作ったのか…………。
転生者の端末のアップデートで戦車やイージス艦が生産できるようになったのだが、それらの兵器は能力の生産や銃の生産に比べると凄まじい量のポイントを消費する。レベルの高い転生者でも戦艦を作ろうとすれば瞬く間にポイントを使い果たしてしまうほどだ。
その中でもポイントの量が抜きんでているのが、空母である。
実際のコストを反映したのか、第二次世界大戦の頃の空母ですら50000ポイントを超えるのは当たり前。最新型の空母では200000ポイントを超えている。
ちなみに、戦車の生産に必要なのは5000ポイントから9000ポイントだ。
しかも空母やイージス艦は、それを操る乗組員も準備する必要がある。ある程度はカスタマイズで自動化することで乗組員を削減できるものの、そうすれば更にポイントを消費する羽目になる。しかも艦載機まで用意されるわけではないので、空母を生産したら今度は艦載機もポイントを消費して揃えなければならない。
艦載機のない空母は何の役にも立たないからな。
きっと李風はかなり無理をして空母を生産したのだろう。しかも彼は仲間たちにも武器や戦車を支給しなければならないのだから、きっと今の彼が持っているポイントは底をついている筈だ。
「では、我々はネイリンゲンの東西南北に検問所を設置します。不審な奴を見つけたらすぐに報告しますので」
「分かった。射殺許可は常に出しておくよ」
「了解です、同志。それと念のため、我らの戦車部隊もこちらに駐留させておくことにします」
「助かる。人員が少なくて困ってたんだ」
「ははははっ。同志も仲間を増やしたらどうです? いつまでも少数精鋭では大変でしょう?」
「それもそうだな。検討しておくよ」
今まで仲間を増やさなかったのは、仲間割れを恐れていたからだ。
もしかしたら支給した武器を悪用しようとする奴がいるかもしれないし、それを横流しして私腹を肥やそうとする奴がいるかもしれない。それを恐れていたからこそ、俺は今までギルドの規模を大きくすることには反対し続けていた。
しかし、仲間への教育を徹底すれば問題はなさそうだな…………。この戦いが終わったら、俺も少しばかり”軍拡”してみるか。
「ねえねえ、パパ! ラウラもかりにつれていって!」
出勤しようとしている俺のズボンを掴みながらそう言っているのは、俺とエリスの間に生まれたラウラだ。以前に一度だけ狩りに連れて行ったことがあったんだが、それ以来狩りに興味を持ってしまったらしく、俺が出かけようとするとこうやって狩りに行きたがるのである。
きっと、グレネードランチャー付きのAK-47を背負っているから今から狩りに出かけると思ったのだろう。けれども俺が今から行くのは狩りではなくお仕事だ。
俺の顔を見上げながら微笑む愛娘の頭を優しく撫でながら、俺は彼女に謝った。
「ごめんな、ラウラ。パパは今からお仕事に行かないといけないんだ」
「えぇー!? やだやだ、かりにいきたいのっ!」
「あはははっ。じゃあ、今度の休みに連れて行ってあげるからさ。それでいいだろ?」
「うー…………わかった」
「よし、いい子だ」
約束はちゃんと守ろう。次の休日に、子供たちも連れて狩りに出かけるのだ。
ラウラの頭を撫で終えてからエミリアからウシャンカを受け取り、玄関のドアを開けようとしたその時だった。
窓の外から入り込んでくる光が一気に強くなったかと思うと、まるで凄まじい数のライトで照らされているような光に変貌し―――――――凄まじい轟音と共に、家中の窓が一気に弾け飛んだのである。
見送りに来てくれていたラウラとエミリアを、反射的に庇う。その直後、俺の背後にあったドアが外れて家の中へと吹き飛ばされ、いつも玄関に鎮座していたそのドアが俺の背中を殴りつけてから、廊下の方へと吹っ飛んで行った。
家がバラバラになるのではないかと思ってしまうほどの凄まじい衝撃を感じながら、俺は妻と娘を守るために必死に庇い続けた。確かリビングではタクヤが絵本を読んでいた筈だし、キッチンではガルちゃんとエリスが皿を洗っていた筈だ。彼女たちは無事なのだろうか?
衝撃波が消え失せたのを確認してから、泣き叫ぶラウラをエミリアに任せて家の奥へと突っ走っていく。窓ガラスの破片で家族が怪我をしていないか心配だったが―――――――リビングへと飛び込んだ瞬間、俺は安心した。
「え、エリス…………」
今の衝撃波で飛び散ったガラスの破片を、エリスが得意の氷属性の魔術でちょっとした防壁を作り、絵本を読んでいたタクヤを守ってくれていたのである。
「安心して、ダーリン。この子たちは私たちがちゃんと守るわ。…………でも、今のは何?」
「分からん。ネイリンゲンの方からだが―――――――」
ちょっと待て、今のは確かにネイリンゲンの方からだったよな…………?
ぞくりとした俺は、大慌てで玄関の方へと戻った。先ほど背中に激突したドアに仕返しするつもりで思い切り踏みつけてから、ドアのなくなった玄関から飛び出し―――――――外に出た妻たちと一緒に、凍り付く。
俺は悪夢を見ているのだろうか?
巨木の群れの隙間から緋色の輝きが見える。あの輝きが見える方向には、確かネイリンゲンがあった筈だ。いったい何があったんだ…………!?
やがて家を取り囲む巨木の影から、ネイリンゲンの街並みが広がる筈の方向からゆっくりとキノコ雲が姿を現した瞬間、俺はネイリンゲンで何が起きたのかを理解した。
「ネイリンゲンが―――――――」
―――――――――ネイリンゲンに、核が落ちた。