異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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魔王の再誕と力也の叫び

 

 

 戦車が残骸の山をジャンプ台代わりにしてジャンプすると想像した敵は、おそらく1人もいなかった事だろう。戦車はあくまでもキャタピラで大地を踏みしめながら前進し、立ち塞がる敵を戦車砲で強引に粉砕しながら突き進むような兵器だ。空を飛ぶのは、あくまでもヘリや戦闘機の仕事なのである。

 

 それゆえに、MBT-70(ブラック・フォートレス)がジャンプ台から飛翔したのは”想定外”と言わざるを得ない。

 

 やや左に砲塔を旋回させたMBT-70の砲口から、ガルゴニスが放ったシレイラが飛翔していく。ジャンプ台から最高速度で勢いよくジャンプしたとはいえ、このMBT-70の重量は元々50t以上。近代化改修のために複合装甲を増設し、複合装甲を搭載できない部位には爆発反応装甲をこれでもかというほど搭載して防御力の底上げを図ったため、重量はさらに増している。

 

 だからジャンプしたと言ってもそれほど高くはないし、当たり前だけどいつまでも飛んでいられるわけでもない。案の定、ジャンプしたばかりであるにもかかわらず、飛翔したMBT-70(ブラック・フォートレス)は早くも地表へと落下しつつある。

 

 それにもかかわらず、ガルゴニスが放ったシレイラは先ほど放った1発目のように安定して飛び続けている。やがてその一撃はこっちを見上げたまま呆然としていたエイブラムスの砲塔の上面に突き刺さると、起爆して猛烈なメタルジェットを生み出し、エイブラムスのハッチの近くに大穴を開けた。

 

 巨体を揺らしながらゆっくりと動きを止めるエイブラムス。対戦車ミサイルのメタルジェットが空けた大穴の向こうからは黒煙が吹き上がっていて、あの戦車が行動不能になったことを告げている。

 

 最後尾を走っていた1両を残し、2両のエイブラムスが沈黙する。

 

「がっはっはっはっは! 命中なのじゃあああああああ!!」

 

「さすが! よし、次だ!」

 

 残るエイブラムスは1両のみ…………。

 

 MBT-70(ブラック・フォートレス)が着地し、俺とガルゴニスの身体を着地した振動で大きく揺らす。何事もなかったかのように戦車を走らせながら、ペリスコープを覗き込んで素早く敵の戦車の位置を確認してから、一旦右へと進路を変更した。

 

 その直後、MBT-70(ブラック・フォートレス)の傍らで沈黙していた馬小屋の屋根を、1発のAPFSDSが直撃する。戦車の装甲を容易く貫通する猛烈な一撃に貫かれた馬小屋が一瞬で木っ端微塵になり、破片が火の粉の舞う空へと舞い上がっていく。

 

 いくら複合装甲を増設したとはいえ、APFSDSに直撃すればただでは済まない。下手をすれば一撃で正面の装甲を貫通されかねないほどの破壊力を持った砲弾なのである。しかもこちらは、近代化改修したとはいえ冷戦の真っ只中に開発された旧式の戦車。いくら近代化改修で性能を底上げしたとしても限界がある。

 

 それに対し、エイブラムスはアメリカが誇る最新の戦車である。近代化改修したとしても、少なくとも性能ではあの新型の戦車に完全に追いつくことは不可能だ。

 

 だからそこは、技術でカバーするしかない。

 

 舐めるなよ、クソ野郎共…………。こっちは少数精鋭のモリガンの傭兵だ!

 

 今度は左に進路変更。ジグザグに走行し、可能な限り敵の砲手の照準を攪乱しつつ徐々にエイブラムスの後方へと回り込む。

 

「シレイラ、スタンバイ!」

 

「了解なのじゃ!」

 

 後部のエンジンにぶち込めれば最高だ。いくら貫通力ではAPFSDSに劣るとはいえ、こちらはただの砲弾ではなく対戦車ミサイルなのである。間違いなく擱座させることができる筈だ。

 

 最低でも側面だ。さっきみたいに一旦上に放ってから仰角を0に戻してトップアタックを狙う手も有効だが、あれはあくまでも停車している状態だったからこそ当たったようなもの。ジグザグに走行する真っ只中で命中させるのは、いくらガルゴニスでも至難の業だ。

 

 可能な限り至近距離でぶち込む!

 

 後退しながら砲塔をこっちに向けたエイブラムスが、主砲同軸に搭載された機銃で迎撃してくる。だが、あくまでもエイブラムスの主砲同軸に搭載されている機銃は7.62mm弾を使用する。どれだけぶっ放してきても、MBT-70(ブラック・フォートレス)の装甲は貫けない。

 

 砲塔の上にもブローニングM2重機関銃があり、12.7mm弾のフルオート射撃が可能となっているものの、もし仮にそっちを使ったとしても結果は変わらないだろう。

 

 エイブラムスの主砲が火を噴き、再びAPFSDSが飛来する。

 

 MBT-70の車体が揺れる。どうやら今度はどこかに命中したらしく、砲塔の上の方で火花と金属の破片が散ったのがかすかに見えた。

 

「大丈夫か!? 損害は!?」

 

「20mm機関砲をやられた! じゃが、砲撃に支障はないぞ!」

 

「よし、そろそろぶっ放すぞ!」

 

「了解なのじゃ!」

 

 もう少し距離を詰めよう。

 

 ジグザグに走行するのをやめ、そのまま最大速度で一気に距離を詰める。砲弾を装填中のエイブラムスが必死に機銃で迎撃してくるが、MBT-70(ブラック・フォートレス)の複合装甲がその銃弾を全て弾き返してしまう。

 

 至近距離でエンジンを狙うつもりだったんだが、敵も必死に後退している。このまま無理に追い続ければ装填が完了し、逆に至近距離で砲撃を喰らう羽目になるのは想像に難くない。いくら自動装填装置を搭載していないとはいえ、強引に回り込もうとすれば敵の装填手に時間を与えてしまう羽目になる。

 

 無茶をする悪い癖があるとよくエミリアに言われるが、さすがに強引に後ろに回り込むような無茶をするつもりはない。死んだら妻たちとイチャイチャできなくなっちまう。

 

 ならば、目標は車体や砲塔の側面だ。少なくともこっちはエイブラムスの正面よりも装甲が薄いので、対戦車ミサイルならば確実に致命傷を与えられる。

 

 クソ野郎共にプレゼントだ。

 

 核爆弾に比べれば全然足りないかもしれないが―――――――黙って受け取れ、クソッタレ。

 

撃て(ファイア)ッ!」

 

「発射(ファイア)!」

 

 3発目のシレイラが、ガンランチャーから飛び出していく。ガンランチャーから放たれたシレイラに気付いた最後のエイブラムスは後退を止め、慌てて前進して回避しようとするが―――――――そこで進行方向を変更したことが、見事に仇となった。

 

 急に方向を変えることでミサイルを振り切ろうとしたのだろうが、砲撃を担当するガルゴニスはどうやらそれを読んでいたらしい。いきなり全身を始めたのをペリスコープで確認した瞬間、この虎の子のシレイラがもしかしたら躱されてしまうのではないかと肝を冷やしたが、ガンランチャーから躍り出たシレイラは逃げようとするエイブラムスをしっかりと追尾し―――――――よりにもよって車体の後部に、左斜め後方から突っ込んだ。

 

 実質的に戦車の弱点ともいえる部位である。装甲が薄い上にエンジンが収納されているため、そこの装甲を貫通されるだけで戦車は行動不能になってしまう可能性が極めて高いのである。

 

 シレイラが直撃した瞬間、猛烈な爆風がエイブラムスの巨体を震わせた。灰色に塗装されていたエイブラムスの車体を爆風が覆い、その中で誕生したメタルジェットが猛威を振るう。装甲の薄い後部を見事に貫通したメタルジェットによってエンジンまで損傷したらしく、”賭け(ギャンブル)”に負ける羽目になったエイブラムスはそのまま動きを止めてしまう。

 

 やっぱり、賭けは危険だな。リスクがある。

 

 子供たちには”賭けは止めなさい”って言っておこう。彼らには堅実な方法で生きるべきだ。

 

 でも、俺が言っても説得力はないだろうなぁ…………。エリスも多分説得力がないだろうから、エミリアに言ってもらおう。モリガンのメンバーの中ではカレンの次にまともだし。

 

 装甲が軋む音を奏でながら、エイブラムスの砲塔がゆっくりと停止していく。黒煙の吹き上がるハッチの中から防護服に身を包んだ兵士たちが這い出してきたのを見た俺はガルゴニスに機銃で射殺するように指示を出そうとしたが、今の被弾で負傷していたのか、ハッチから這い出したところで彼らも擱座した戦車と同じく動かなくなってしまう。

 

「…………撃破じゃ」

 

「…………よし、ガルゴニスはここで待て。俺は外で生存者を探してくる」

 

 操縦手の座席から立ち上がり、天井に頭をぶつけそうになりながら車長が座る筈の座席へと向かう。本当ならば車長が座っている筈の座席の近くに立てかけられている愛用のグレネードランチャー付きのAK-47を拾い上げ、座席の上に置かれているトカレフをホルスターごと拾い上げる。

 

 ホルスターを腰に下げて立ち上がろうとした直後、ごつん、とうっかり頭を戦車の天井にぶつけてしまう。砲手の座席の上で笑いそうになっているガルゴニスを一瞥してから天井の計器が破損していないか確認し、「行ってくる」と言い残してハッチを開けた。

 

 基本的に戦車の中は狭いのだ。西側の戦車はソ連製の戦車と比べるとまだ”広い”と言えるが、それでも今のようにうっかり頭をぶつけてしまう事が多々ある。モリガンで採用しているのは西側の戦車ばかりだが、それは『モリガンの男性陣が信也を除いてがっちりした男ばかりであり、ソ連製の狭い戦車を採用すると頭を負傷する恐れがある』という理由なのだ。

 

 もちろん、信也以外の男性陣とは俺とギュンターの事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃え上がる瓦礫の山と、半壊した建物の群れ。

 

 開放的な雰囲気が特徴で、かつては”傭兵の街”と呼ばれていたネイリンゲンの市街地は、まさに原形を留めないほど破壊されていた。いつも妻たちが買い物に活用していた通りの露店の群れはすっかり消滅しており、瓦礫の山の一部と化している。その瓦礫の山の中から覗く真っ黒な塊は――――――核爆弾の餌食になってしまった、哀れな住人の焼死体。

 

 AK-47を周囲へと向けて警戒しつつ、まるで瓦礫の山の中から這い出そうとしているかのような状態で力尽きている遺体を一瞥する。指が何本か欠けている真っ黒な手は、成人にしてはまだ小さい。おそらく10代中盤の少年か少女だったのだろう。

 

 その時、俺の頭上を、ローターの轟音をばら撒きながら1機のヘリが通過していった。オリーブグリーンとブラックの迷彩模様で塗装されていて、胴体の左右から伸びたスタブウイングには増槽とロケットポッドが装備されている。兵員室のハッチの傍らに搭載されているのはおそらくM134ガトリング機関銃(ミニガン)だろう。凄まじい連射速度で7.62mm弾を連射することが可能な、アメリカ製のガトリング機関銃だ。

 

 俺の頭上を通過していったのは、どうやらアメリカ軍や自衛隊が運用しているUH-60ブラックホークのようだ。俺たちが使用しているヘリはスーパーハインドだけだから、ブラックホークを生産した覚えはない。もしかしたらミラが信也に作ってもらって助けに来てくれたのかと思ったが、俺の頭上を通過していったそいつの胴体にはモリガンのエンブレムが描かれていなかった。それに、そのブラックホークは俺の頭上を通過して燃え上がる大通りの上空へと接近すると、兵員室から躍り出た兵士がドアガンを掴み、それを地上に向かって掃射し始めやがった。

 

 おそらく、生き残った民間人に向かって掃射しているんだろう。猛烈なミニガンの轟音の中から、微かに人々の断末魔が聞こえてくる。

 

「ふざけやがって………!」

 

 お前らの目的は、モリガンだろうが!

 

 素早く端末を操作して、愛用の対物(アンチマテリアル)ライフルであるOSV-96を装備する。俺のOSV-96には火力の底上げのため、バックブラストの機能を取り外し、砲身をある程度切り詰めた”RPG-7”が取り付けられている。仲間たちからは『リキヤスペシャル』と呼ばれている愛用の得物だ。

 

 OSV-96の銃身を展開し、立ったまま照準をブラックホークへと向ける。照準はもちろん、民間人を殺すようなクソ野郎が腰を下ろしているコクピットだ。

 

 距離は600m。しかも敵の戦闘ヘリは微速だが移動している。更に、核爆発の影響で風が強い。カーソルの真ん中に着弾する確率は0%だ。

 

 だから俺は、照準を少し左にずらした。これで命中するか…………?

 

「くたばりやがれッ!」

 

 罵声を発しながら、トリガーを引く。T字型のマズルブレーキから飛び出したマズルフラッシュの閃光が一瞬だけ炎が発する橙色の光をかき消し、たった1発の12.7mm弾と銃声がミニガンの掃射に側面から介入する。

 

 弾丸は風のせいで右へとどんどんずれていく。もしかしたら外れるのではないかと思いながら次の照準を合わせていたんだが、右へとずれ始めたその弾丸は、調子に乗って掃射を続けている敵の攻撃ヘリのキャノピーへとちゃんと飛び込んでくれた。キャノピーが割れて真っ白になった直後、コクピットの中で吹き上がった鮮血が、キャノピーを真っ赤に染め上げる。

 

 パイロットを撃ち抜かれたブラックホークは、そのまま頭上のローターと同じようにぐるぐると回転を始めた。まだ武装は健在だし、機体の損傷もキャノピーだけだ。武装もまだまだ残っている。だが無人兵器でもない限り、兵器は人間が使わなければ当然ながら動かない。パイロットを失ったそのブラックホークは、そのまま回転を続けながら燃え上がる瓦礫の中に飛び込み、新たな火柱を生み出した。

 

「くそったれ…………!」

 

 悪態をつきながらアンチマテリアルライフルを折り畳み、俺は街の中へと進んだ。あいつらが機関砲を掃射していたということは、まだ生存者がいるということだ。もし生存者がいるならば、エイナ・ドルレアンへと逃げるように指示を出そう。カレンたちならばきっと受け入れてくれる筈だ。

 

 街の中での戦闘になる恐れがあるため、武器はアンチマテリアルライフルではなくアサルトライフルに持ち替えておく。AK-47の銃身の横に装備した折り畳み式のスパイク型銃剣を展開し、接近戦になっても反撃できるように準備した俺は、古めかしいタンジェントサイトを覗き込みながら街の中を見渡した。

 

 生存者はいないのか? みんな死んでしまったのか?

 

 誰か生き残っていてくれと祈りながら街の中を見渡すが、瓦礫と一緒に転がっているのは焼死体や、蜂の巣にされた無残な死体ばかりだ。

 

「ママ…………ママぁ…………!」

 

「!?」

 

 傭兵ギルドがあった曲がり角を曲がろうとしたその時だった。曲がり角の向こうから、幼い少女の泣く声が聞こえてきたんだ。敵を警戒しながら上がり過度の向こうをちらりと確認してみると、3歳くらいの金髪の少女が、可愛らしいクマのぬいぐるみを抱えながら泣いている。どうやら逃げる途中に母親とはぐれてしまったらしい。

 

 その幼い少女の姿が、一瞬だけ自分の娘(ラウラ)や息子(タクヤ)の姿に見えた。もし俺が死んだら、家にいる子供たちもあのように泣いてしまうのだろうか?

 

「おい、お嬢ちゃん!」

 

 見捨てるわけにはいかない。あの少女はまだ子供だ!

 

 俺は曲がり角に積み重なっていた事務所の瓦礫の影から飛び出し、その少女に向かって全力で走った。いきなり見知らぬ男が走って来るのを見て、幼い少女が更に怯える。

 

 怖がらせてしまうのは申し訳ないが、彼女を見捨てるわけにはいかない。左手を伸ばして彼女の肩を掴むと、その子を連れて近くにあった物陰へと隠れた。

 

「お、おにいさん、だれ…………!?」

 

「俺は傭兵だ。安心して」

 

「ようへいさん…………?」

 

「ああ。…………君のママは?」

 

「わかんない…………。おおきなおとがして、ママとにげてたの。でも…………ママがどこかにいっちゃった…………」

 

 少女は小さな声でそう言うと、再び涙を浮かべて泣き始めてしまう。俺は彼女の小さな頭を優しく撫でてから、ポケットに入っていたハンカチで涙を拭った。

 

 まだ幼いこの子を、1人でエイナ・ドルレアンまで逃がすわけにはいかない。ネイリンゲンの周囲の草原は魔物があまり出没しないとはいえ、最近は魔物が大量発生することもある。それに、この子の体力ではエイナ・ドルレアンまで到着することは不可能だ。

 

 せめて彼女の母親がいれば…………。最悪の場合は、このままこの子を保護して戦車に乗せ、MBT-70でエイナ・ドルレアンに送り届けるべきだろう。戦車の中は狭いとはいえ、彼女のような小さな子供を収容できるスペースは十分だ。

 

 その時、隠れていた廃墟の壁に何かが着弾した。おそらく弾丸だろう。

 

 敵兵に見つかってしまったらしい。俺は慌てて泣き続ける少女を壁の奥へと隠れさせると、廃墟の陰から少しだけ外を覗いた。

 

「生存者だ! あの廃墟の陰に隠れてるぞ!」

 

「逃がすな! 勇者様に逆らった者たちだ! 皆殺しにしろ!」

 

 やっぱり、勇者の部下共か………!

 

 核を爆発させやがったのは、やっぱり勇者だったのか!

 

 敵兵は3名ほど。装備は屋敷を襲撃してきた奴らと同じく、HK416だ。そのうち1人はグレネードランチャーを装備している。

 

 タンジェントサイトとフロントサイトを覗き込んだ俺は、まず最初にそのグレネードランチャー付きのアサルトライフルを持っている奴を攻撃することにした。セミオート射撃に切り替え、敵兵の頭を狙う。

 

 発砲した瞬間、銃声に驚いた少女が怯えて絶叫した。出来るならば、彼女にあまり怖い思いはさせたくない。早く母親と再開させて、安全な街まで逃がしてあげなければならない。

 

 ごめんな。もう少し我慢してくれよ…………!

 

 グレネードランチャーの付いたライフルを持っていた奴の頭に7.62mm弾を叩き込み、続けてその隣でフルオート射撃をしていた奴の顔面にも同じく7.62mm弾をお見舞いする。めきっ、と防護服を貫通した7.62mm弾が彼らの頭蓋骨まで粉砕し、頭をぐちゃぐちゃにしてしまう。

 

 残っているのはあと1人だ。どうやら隠れているのが転生者だったとは思っていなかったらしく、いきなり銃撃で反撃されたことに驚いているようだった。

 

 もちろん容赦をするつもりはない。セレクターレバーをフルオート射撃に切り替え、怯えながら射撃を始めた馬鹿の胴体に3発の7.62mm弾を撃ち込んだ。呻き声が聞こえた直後、5.56mm弾の銃声が消え去る。

 

「お嬢ちゃん、もう大丈夫だよ。…………さあ、ママを探そう」

 

 怯えている彼女に手を伸ばしたその時だった。廃墟の外から、先ほどの転生者たちの罵声とは違う大きな声が聞こえてきたんだ。声は高い。女性だろうか?

 

「ナタリア! ナタリアぁっ! どこなの!?」

 

「ママ…………?」

 

「あの人が?」

 

 怯えていた少女が、その女性の声を聞いた瞬間に顔を上げた。

 

 敵が残っていないかを確認してから、俺は彼女の手を引いて廃墟の外へと向かう。はぐれた娘の名を必死に呼んでいた金髪の女性は、まだ近くにいたらしい。廃墟の前にある道を必死に叫びながら走っていく。

 

「ママ! ママぁっ!!」

 

「ナタリア! よかった、無事だったのね!?」

 

 薄汚れた顔を両手で拭い、涙を流しながら無事だった娘を抱き締める母親。ナタリアは安心した顔で涙を流しながら、自分を探しに来てくれた母親に抱き付いた。

 

 良かった…………。これで彼女は助かる。

 

「うんっ! あのようへいさんがたすけてくれたの!」

 

「傭兵さん…………?」

 

 母親は顔を上げると、俺の方を見てきた。見慣れない武器を持っている俺を他の奴らと同じだと思って警戒しているのかもしれない。少しだけ俺の頭を見て驚いたようだけど、その母親はすぐに警戒するのを止めてくれた。どうやら俺が、モリガンの傭兵だと気付いてくれたらしい。

 

 そういえば、いつものように帽子やフードをかぶっていなかった。彼女が俺の頭を見て驚いたのは、きっと怒りで角が伸びていたからだろう。慌てて角を隠そうとするけど、この角はすぐには縮んでくれない。

 

「ハヤカワ卿、娘を助けていただいてありがとうございます…………!」

 

「気にしないでください。私にもナタリアちゃんのような幼い子供たちがいますから…………。それよりも、早くエイナ・ドルレアンへ逃げてください。あそこならば受け入れてくれる筈です」

 

「あ、ありがとうございます…………!!」

 

「ようへいさん、ありがとうっ!」

 

 母親と手を繋ぎながら微笑むナタリア。先ほどまで怯えていた彼女は、母親を見つける事ができてもう安心しているようだ。

 

 俺も彼女の顔を見下ろしながら微笑んだ。

 

 まだ幼いんだ。死んではいけない。

 

「生きろよ、お嬢ちゃん」

 

 そう言って彼女に敬礼し、俺はアサルトライフルを担いで踵を返した。まだ生存者を蹂躙しているクソ野郎共は残っている。そいつらを全員ぶち殺さなければならない。

 

 命乞いをしてきても許すつもりはない。猛烈な殺意を生み出しながら燃え上がる街へと向かって歩き始める。

 

 もう一度ちらりと後ろを見てみると、母親と手を繋いだナタリアが、俺の真似をして俺に敬礼をしているところだった。

 

 にやりと笑って彼女に親指を立て、俺は再び歩き出す。

 

 子供たちは、親が守らなければならない。子供たちは親の遺志を受け継いでくれる後継者たちなのだから。

 

 だから俺たちは、子供たちの剣と盾になる。

 

 アサルトライフルを担ぎながら歩いていると、目の前からキャタピラとエンジンの音が聞こえてきた。ガルゴニスがこっちまで来てくれたのだろうかと思いながら前を見据えたが、倒壊した建物を踏みつぶしながら姿を現したのは、頼もしいエンシェントドラゴンの少女が操る黒い戦車ではなかった。

 

 灰色に塗装された複合装甲で車体と砲塔を覆った、M1エイブラムスである。

 

「エイブラムスか…………」

 

 しかも1両だけではない。瓦礫を踏みつけながら出現したエイブラムスの後方から、更に2両もエイブラムスが接近してきている。

 

 戦車の周囲にアサルトライフルを装備した歩兵たちが集まってくる。

 

「――――――――ガルゴニス、聞こえるか?」

 

『何じゃ?』

 

「支援砲撃を要請する」

 

 さすがに俺1人で相手にするわけにはいかない。味方の戦車もいるのだから、またシレイラで支援砲撃をしてもらうとしよう。

 

 俺たちが蹂躙してやる。

 

 返り血まみれの顔でにやりと笑った俺は、サラマンダーの血液の比率を80%まで変更し、身体中を外殻で覆って硬化しながら戦車部隊へと向かって突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大破したエイブラムスの残骸を迂回して、通りを進んでいく。

 

 街を覆い尽くしていた炎たちも、段々と弱々しくなっているようだった。核爆弾が生み出したキノコ雲と巨大な火柱も消え始め、空も少しずつ明るくなり始めている。

 

 弱々しくなっていく炎たちの中でもまだ燃え上がっているのは、俺が先ほど撃破したエイブラムスの車体や、撃墜したブラックホークくらいだろう。生存者たちを蹂躙していたクソ野郎の死体を冷たい目で見下ろした俺は、踵を返して生存者を探すことにした。

 

 だが、街の中に転がっているのは、倒壊した建物の下敷きになっている死体や、焼かれて真っ黒になっている死体ばかりだ。中には転生者たちの銃撃で蜂の巣になっている死体もある。もっと早く来る事ができれば、彼らは助かっただろうか?

 

 傭兵ギルドの看板の下敷きになっている幼い少年の亡骸を見下ろしながらそう思った。俺たちがもっと早く駆け付ければ、この少年も死なずに済んだかもしれない。

 

 そう思いながら歩いていると、目の前に見覚えのある看板が転がっていた。

 

 猛烈な熱線のせいで表面はかなり焦げていたが―――――――看板のデザインと辛うじて見える店の名前を見た瞬間、仕事が終わった後にギュンターと待ち合わせた時や、休日によく立ち寄ったピエールの喫茶店の看板であることを思い出す。

 

 ここに転がっているという事は、この通りはあいつの店があった道ということか…………?

 

 周囲を見渡してみると、確かに見覚えのある店が半壊した状態で佇んでいた。お洒落だった店の壁は熱線ですっかり焼けており、一緒に働いているサラが毎朝磨いていた窓ガラスは一枚残らず割れている。けれども店内は辛うじて原形を留めており、数日前にギュンターたちと一緒に酒を飲んだカウンター前の席もまだ辛うじて残っていた。

 

「おい、ピエール! 無事か!?」

 

 頼む、生きていてくれ…………!

 

 親友が生きていますようにと祈りながら店内に入った直後、俺は早くも諦める羽目になりそうだった。

 

「ッ!」

 

 店のドアのすぐ近くの床に、メイド服を思わせる制服に身を包んだ女性が座り込んでいたのである。黒いニーソックスに包まれたすらりとした足をしっかりと伸ばし、両腕から力を抜いた状態で座っているその女性を目にした俺は、目を見開いてしまった。

 

 生存者を見つけたからではない。

 

 そもそも、俺はその女性を目にした瞬間、”生存者”とは思わなかった。

 

 なぜならば、その女性には上顎から上がなかったからだ。

 

 上顎から上がない人を、”生存者”と思えるわけがない。

 

 すらりとした身体にはガラスの破片がいくつも刺さっており、可愛らしい制服は鮮血で真っ赤に染まっている。息を吐きながらその死体を見下ろしていると、この惨劇が起こる数秒前まで、きっとこの店でいつものように働いていた筈のハーフエルフの少女の姿が頭の中に浮かんでくる。

 

「―――――――サラ?」

 

 お前なのか?

 

 いつも美味しいアップルパイを焼いてくれていたサラなのか?

 

 微動だにしない死体を見下ろしていた俺は、そのすぐ傍らに”長い耳のついた肉片”が転がっている事に気付き、この死体が誰の死体なのかを理解してしまう。

 

 この死体は―――――――サラだ。

 

 息を呑みながら店の中を見渡す。もしかしたら敵が潜んでいるかもしれないと思いながらAK-47の銃口も店の中へと向けたが、正直に言うと俺は…………これ以上知り合いの死体を”見つけてしまう”のが怖かった。

 

 これ以上親しい知り合いの死体を見たら、もしかしたら精神がぶっ壊れてしまうかもしれない。けれどもこのまま背を向けて逃げかえれば、きっと彼らは俺の夢の中に現れるに違いない。

 

 ライフルを構える両手がいつの間にか震えていた。

 

「…………だ、誰だ…………?」

 

「ピエールか…………?」

 

 カウンターの裏の方から、弱々しい声が聞こえてくる。AK-47の銃口を下してカウンターの裏へと回り込むと、やっぱりこの店で働いていた心優しい親友が、両手で自分の腹を押さえながらこっちを見上げていた。

 

 口の周りには血が付着している。血を吐いたのだろうか?

 

「サラは…………サラは、無事…………?」

 

「サラは―――――――」

 

 ―――――――死んだ。

 

 上顎から上を吹っ飛ばされて。

 

 力を振り絞ってカウンターの反対側を覗き込めば、きっと彼はサラの無残な死体を目にすることができるだろう。一緒に転生者が支配する町から逃げ出し、一緒に働いてきたピエールの最愛のパートナーは、このカウンターの向こうで死んでいる。

 

 まるでこのカウンターが、彼女の無残な死体を隠しているかのようにも見えてしまう。

 

 正直に言うべきだろうか。彼女は無残に死にました、と正直に言うべきなのだろうか?

 

 そう思ったが―――――――俺は、嘘をついてしまった。

 

「―――――――安心しろ。サラはモリガンが保護してる。今頃馬車でエイナ・ドルレアンに向かってるはずだ」

 

「そ、そうか…………彼女だけでも生きていてくれれば…………」

 

「ほら、お前も逃げるぞ。手を―――――――」

 

 そう言いながら彼の細い手を持ち上げたが―――――――どうやら彼も、助からないらしい。

 

 両手で押さえていたピエールの腹には、大穴が開いていたのである。その大穴の中からはガラスの破片が突き刺さったせいで千切れ飛んだ腸や、先端部が欠けた肋骨の一部が覗いていて、流れ出た鮮血が彼の制服やズボンを真っ赤に染め上げていた。

 

 最早、ヒーリング・エリクサーで治療できる傷ではない。仮にエリクサーで治療できたとしても、今度は血液が足りない。

 

「―――――――いいんだ…………僕は、ここにいるよ…………ずっと…………店番しなきゃ」

 

 そう言いながら、顔に血の付いた青年は笑った。

 

 こんな惨劇が起きたばかりなんだから、客が来るわけがないだろう………?

 

「君のおかげだよ………君のおかげで、僕は…………変わることができた…………」

 

「ピエール…………」

 

「ごめんね…………もう、美味しい紅茶…………淹れられないや…………」

 

 …………くそったれ。

 

 俺、お前の淹れる紅茶が好きだったんだぞ…………?

 

「…………サラに…………よろし………く…………」

 

 悲しみが殺意へと変貌する。いつの間にか俺の目に浮かんでいた涙が、透明な涙から血のように真っ赤な涙へと変色し、そのまま真っ黒に焦げてしまった広場のレンガへと零れ落ちた。

 

 頭の右側に痛みが走る。まるで、頭の内側からダガーを突き刺されているような痛みだ。頭を押さえてのたうち回りたくなったが、俺は黙って力尽きた彼の顔を見つめていた。

 

 もう二度と動くことのなくなった青年の目には、頭から2本の角を生やし、目から血涙を流す怪物が映っていた。これが俺の姿なのだろうか? 

 

 本当ならば、もっとサラと2人で仕事をしていたかっただろうに。そして彼女と結ばれて、幸せな家庭を作りたかっただろうに。

 

 ピエールの細い手を握ったまま、どんな銃声や爆音よりも大きな声で、俺は絶叫していた。人間の声だった俺の絶叫は、途中で少しずつまるでドラゴンのような声へと変わっていく。

 

 きっと、俺の体内にあるサラマンダーの血も怒り狂っているんだろう。彼のような善人まで殺す勇者を許せないに違いない。

 

 彼らの命を、勇者が奪った。

 

 世界を救った男が―――――世界を破壊しようとしている。

 

 何が勇者だ。

 

 何が英雄だ。

 

 こんなクソ野郎が勇者なのか。何の罪もない人々の命を奪うような奴が勇者なのか。

 

 ならば俺が、お前を殺してやる。お前のようなクソ野郎を、俺たちがこの世界から”取り除いてやる”。

 

 ――――――――――お前を殺すために、魔王になってやる。

 

 今日からは、俺が2人目の魔王だ。

 

 

 

 

 

 

 

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