異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
建物の中に、怒号や悲鳴が響き渡る。
規格がバラバラで、中には産業革命以前の旧式の防具に身を包む男たち。腰に下げている剣も錆びており、しっかりと整備されていないというのは一目瞭然だ。それなりに収入のある冒険者でも命を預ける得物はピカピカなのだから、そういう粗末な得物を平然と装備しているような者たちは、大抵は鍛冶職人たちの手によって得物を整備してもらう事の出来ない山賊や盗賊であると決まっている。
案の定、その建物の中で怒声を上げながら職員たちを脅しているのは、砂漠で活動していた盗賊たちだった。
数日前までは砂漠を移動する商人たちを襲って品物や金を強奪し、新聞の記事でも盗賊たちに襲撃された商人たちの事が記載されており、街に住む人々も彼らの襲撃を恐れて街を出ることができない日々が続いた。
そこでカルガニスタンに駐留するフランセン共和国騎士団は、その街の近くで活動する盗賊団の討伐を実施し、数名の負傷者を出したものの、リーダーの身柄を拘束することに成功。今まで指揮を執っていたリーダーを失ったことにより、盗賊団の活動は一気に見られなくなり、人々も安心していつも通りの生活を送っていた。
しかし、彼らがその報復を始めたことで、人々の安寧に亀裂が入る。
警備の騎士たちが交代する隙をつき、生き残った盗賊団の残党が街を襲撃したのである。想定外の襲撃を受けて駐留部隊は街への侵入を許してしまった上に、街中に鎮座するフランセン大使館の占拠を許すという結果になってしまう。
彼らが「リーダーの釈放」と「身代金」を要求して大使館に立て籠もってから、もう既に24時間も経過しようとしていた。
ずっと手足を縛りつけられて部屋の中に監禁され、傍らに立つ盗賊たちに武器を向けられて脅される人質たち。大使館を占拠した盗賊たちは、彼らが悲鳴を上げたり、パニックになる度に苛立ち、得物の切っ先を向けて彼らを脅し続ける。
「おい、動くんじゃねえよッ!」
「ひぃっ!」
「てめえ…………そんなに死にてえのか? いいんだぜ? 人質はまだまだいる。見せしめに1人くらいミンチにしてやっても構わねえんだぜぇッ!?」
彼らが苛立っている原因はフランセン側がなかなか要求を吞まない事だが、大使館の外を取り囲む騎士たちが突入のチャンスを伺っているのではないかという焦りも、その苛立ちに拍車をかけていた。いくら奇襲で大使館の占拠ができたとはいえ、盗賊たちは所詮は訓練を受けていない烏合の衆。しっかりと訓練を受け、魔物の討伐や盗賊たちの討伐を何度も経験している正規の騎士たちに太刀打ちできないのは明白である。
それゆえに、もし彼らが突入して白兵戦になれば、勝機はない。こちらの有利な点は人質がいる事なのだ。
舌打ちをしてから窓から離れた男は、左手で額の古傷を撫でてから息を吐いた。
「リーダー代理。この女、ちょっと使ってもいいッスか?」
「あ?」
ちらりと見てみると、痩せ細った部下の1人が部屋の角で手足を縛りつけられていた金髪の女性を見下ろしながら、自分の口の周りを舌で舐め回しているところだった。おそらくフランセン本国から派遣された大使館の職員なのだろう。グレーのスーツに身を包んだ金髪の女性は、”この女を使う”という言葉が何を意味しているのかを理解したらしく、じりじりと近寄っていく男を見上げながら目を見開いている。
リーダー代理は呆れながら首を縦に振った。今のところ、部屋の中にいる人質は10人以上。多少数を減らしてしまっても問題はない。それに殺さないのであれば、その程度は許されるだろう。
「へっへっへっへっ。ありがとよ。ほら、あっちに行こうぜ」
「や、やだっ…………誰か、お願いっ…………たっ、助けて…………っ!!」
じたばたと暴れて抵抗するが、手足を縛られている状態で逃れられるわけがない。もし仮に手足を縛られていなかったとしても、デスクワークばかりしていた女性が盗賊たちに太刀打ちできないのは火を見るよりも明らかだ。
スーツの襟をつかまれ、そのまま部屋の出口へと引きずられていく女性。同僚たちは怯えながら、彼女が無事でありますようにと祈ることしかできない。
だが、祈る同僚たちの中で”彼女が無事で済む”と思っている者は1人もいなかった。
必死に絶叫する女性を引きずった男は、ニヤニヤと笑いながら部屋のドアを開けて廊下に出ようとしたその時だった。
ことん、と金属製の筒のようなものが、扉の向こうから投げ込まれたのである。
「あ?」
投げ込まれたそれはころころと部屋の真ん中へと転がっていくと―――――――まるで穴の開いた配管から蒸気が噴き出すかのように、勢い良く白煙を吐き出し始めたのである。その白煙を吐き出した金属の筒を投げ込んだのが、彼らを制圧するためにやってきた部隊だと気付いた頃には、もう既に部屋の中は自分の爪先すら見えないほど真っ白な煙で満たされていた。
人質がいるから迂闊には突入してこないだろうと高を括っていた者ばかりだったため、それが突入部隊の仕業だと素早く気付いた者は1人もいない。
リーダー代理は狼狽する部下たちを叱責しつつ、慌ててサーベルを引き抜いた。数多の魔物や騎士たちの身体を引き裂いてきたサーベルはメンテナンスされていないせいで錆び付いており、それなりに値段の高い剣だったにもかかわらず、ただの鈍(なまくら)と化している。
その時、部屋の出入り口のドアがある方向から、どさり、と人間が崩れ落ちるような音が聞こえてきた。床に金属の防具が激突する音も聞こえてきたため、おそらくは先ほど女を連れて部屋を出ようとした男がやられたのだろう。
「くそ、どこだ!? 何も見え―――――――ギャッ!?」
「おい、しっかりし―――――――うっ」
白煙の中で狼狽する部下たちの声が、次々に途切れていく。これほど濃密な白煙の中ではこちらの姿は見えないはずだが、どうやら敵はこちらの居場所を理解しているらしく、一方的にこちらの部下たちを始末しているらしい。
白煙が薄れる気配もない。突入部隊の侵入を許し、部下が何人も始末されてしまった以上、もう人質を盾にし続ける意味はなかった。敵の目的はこちらの拘束ではなく”始末”なのだから、自分の居場所を察知されればすぐに消されるのが関の山である。
リーダー代理は慌ててサーベルを鞘に戻すと、すぐ後ろに見えていた筈の窓を開けた。外には騎士団の隊列が待ち構えているが、ここは大使館の3階。周囲には建物の屋根もあるため、屋根の上を走っていけば逃げ切れるだろう。
このままここで人質にこだわり続け、部下たちと同じ運命を辿るよりはマシである。
「ッ!」
思い切り窓を開け、外へと飛び出す。そのまま屋根の上を走って逃げるつもりだった彼だが―――――――いきなり何かに頭を突き飛ばされたような感覚を覚えた瞬間、身体に力が入らなくなった。
がくん、と頭が大きく後ろに揺れる。真っ赤な液体やピンク色の脳味噌の一部のようなものが舞い、壁や窓に激突して血生臭い絵画を描いていく。その鮮血と脳味噌の一部が誰のものなのかと思った瞬間、リーダー代理は遠くの建物の屋根の上にいる1人の人影を見つけた。
真っ黒なコートにも似た制服に身を包み、フードをかぶっている。そのせいで素顔は全く見えないし、体格もよく分からないため男なのか女なのかもわからない。
建物の屋根の上に伏せていたその人影はクロスボウにも似た奇妙な武器を持っており、その上部には望遠鏡を思わせる何かを装着していた。クロスボウにも見えるが、装填されている矢は見当たらない。それにそのような形状のクロスボウは見たこともなかった。
(違う、あれは…………”矢”じゃない…………)
リーダー代理は力尽きる直前に、まだ若かった頃に聞いた逸話を思い出した。
ネイリンゲンの近郊にある農場を襲撃した無数の魔物から、たった2人の傭兵が農場を守り抜いたという信じ難い逸話である。しかもその2人が使ったのは轟音を発するクロスボウのような飛び道具で、遠距離から一方的に魔物を蹂躙していたという。
その2人の傭兵が―――――――後に、”モリガン”と呼ばれる最強の傭兵ギルドを作り上げた。
もしかしたら、あの得物は彼らが使っている得物と同じものなのかもしれない。そう思いながら、屋根の上で待機していた『テンプル騎士団』の狙撃手(スナイパー)に眉間を射抜かれる羽目になった男は、鮮血と脳味噌の破片を風穴から巻き散らしながら、屋根の上に崩れ落ちたのだった。
『こちらアクーラ4。逃げようとしていたおバカさんは始末した』
「了解(ダー)、よくやった。こっちも終わりだ」
窓から逃げようとした奴の事だろう。どうやら、念のため狙撃手の位置を移動させておいたのは正解だったらしい。
奴が開けた窓から入り込んでくる風のおかげで、部屋の中の白煙も薄れつつある。だから部屋の中がどうなっているのかが、段々とあらわになっていった。
風穴を開けられた死体や、ナイフで切り裂かれた死体。過剰に傷つけられているわけではなく、的確に急所のみを狙って効率的に殺害されている。もちろん人質は全員無事だし、今の戦闘で誤って負傷させてしまった人質もいない。今まで怯えていた人質たちにクソ野郎共の死体の山を見せるのは少々申し訳ないが、彼らは無事だったのだから問題はないだろう。
息を吐きながらAN-94の安全装置(セーフティ)をかけつつ、背中に背負ってからフェイスガードを上げる。できるならば顔を覆うバラクラバ帽も取っ払って夜の冷たい風を楽しみたいところだが、素顔を晒すわけにはいかない。
まったく…………確かに吸血鬼である俺は日光が嫌いだが、夜の風は大好きなんだ。昼間の風よりも快適だ。なのにそれを楽しむことができないとは。
「同志ウラル、目標は殲滅しました」
「よし、引き上げよう。同志団長にも連絡しておいてくれ」
「了解(ダー)」
真っ黒な制服の上にポーチやボディアーマーを身につけ、ヘルメットとガスマスクを装備した隊員が、俺に敬礼してから踵を返していく。俺は撤収の準備をするために戻っていった彼を見守りつつホルスターから信号弾を装填した拳銃を取り出すと、それを窓の外へと向けてぶっ放した。
事前に、依頼主(クライアント)には「制圧したら真っ赤な光を外に向けて放出する」という事を伝えてある。光と言っても信号弾の事だが、クライアントにも分かりやすいように”光”という事にしておいた。
拳銃から放たれた深紅の信号弾が、紅い光と煙を吐き出しながら燃え上がり、夜の砂漠の街の一角で煌き続ける。
これで騎士団の連中も、こっちの制圧が終わったと判断して突入してくるだろう。死体の処理と人質の保護は彼らに任せて、俺たちは退散するとしよう。
「これで報酬はいくら手に入るんでしょうね」
「安心しろ、少なくともちゃんと払ってもらえるさ」
少しでも報酬の額が少なかったら、きっちりと報復させてもらうからな――――――。
テンプル騎士団の団長(トップ)は、そういう男だ。虐げられている人々や仲間には非常に優しく接するため信頼されているが、”敵”に対しては全く容赦をしない。
「とにかく、
「
「同志諸君、よくやってくれた」
執務室にあるデスクの前に並ぶ隊員たちにそう言いながら、俺は微笑んだ。
俺の目の前に並ぶのは、つい最近設立したばかりの特殊部隊(スペツナズ)の隊員たち。今までのテンプル騎士団では実働部隊と諜報部隊しか編成されていなかったのだが、十分に人員が集まったことで特殊部隊を設立する余裕ができた事と、要人の救出や暗殺のような任務に投入するための特殊部隊を設立する必要があったため、新たに特殊部隊を設立することになったのである。
名前の由来は、もちろんロシアのスペツナズからである。
現時点で隊員は20名ほど。そのうちの10名はサポートで、任務の際はヘリの操縦や後方からの支援を行う。残りの10名が実際に任務を遂行する兵士たちであり、そのうちの2名はラウラの教え子たちの中から選抜した優秀な狙撃手(スナイパー)だ。
基本的に人員は、各部隊から選抜した人員で構成されている。前線で戦う兵士は通常部隊から選抜しているし、後方支援や情報収集は新たにシュタージへと入隊した隊員たちの中から選抜している。
隊長は、教官を担当するウラルに兼任してもらっている。彼は吸血鬼であるため日光が苦手という弱点があるが、肌に日光が当たらなければ症状はある程度軽減できるので、任務の際は全く素肌が露出しないような恰好で出撃してもらっている。
まだ設立してから日が浅いため、昨日のような救出作戦が成功するかどうか少しばかり不安だったのだが、連日訓練区画での熾烈な猛特訓のおかげで見事に成功したようだ。
ちなみに、テンプル騎士団の部隊の中でも、スペツナズの訓練は抜きんでてハードであり、仲間たちの中でも結構有名になっている。訓練の時間になると訓練区画の中は隊員たちの呻き声とウラル隊長の怒声で満たされるらしく、彼らの訓練中に訓練区画で訓練しようとした兵士は「拷問でもやってるんじゃないですか…………?」と震えながら言っていた。
拷問というわけじゃないんだが…………訓練がかなりハードなだけさ。俺たちが幼少期に親父から受けた訓練をウラルが更にアレンジした奴だからな。
もちろん筋トレだけではない。射撃の訓練や突入訓練も行うし、座学も行う。
基本的に彼らが投入される状況は、通常部隊が想定している状況とは全く違う状況ばかりなので、装備も基本的に違う。通常部隊はごく普通の大口径のアサルトライフルを使用するのだが、これは転生者や魔物との戦いも想定しているため、”可能な限り大口径の方が合理的”であるからである。
それに対し、スペツナズの主な任務は「要人の暗殺や救出」であるため、魔物との戦いは想定していない。そのためこちらはサプレッサー付きの銃を多く支給しているし、使用する弾薬も対人戦のみを想定した小口径の物が多い。
テンプル騎士団の通常部隊ではAK-12を正式採用しているが、スペツナズでは超高速の2点バースト射撃が可能なAN-94や、威力が高くてコンパクトなA-91を正式採用している。装備するナイフは、もちろんナイフの刀身を発射することができる”スペツナズ・ナイフ”だ。
「今朝、騎士団から正式に報酬が支払われたよ。フランセン騎士団とは色々あったが…………昨日の一件で、水に流してくれるそうだ。向こうの団長が”これからもよろしく”だとさ」
フランセンとは、ウラルやイリナを救出した際に派手に戦っている。しかもモリガン・カンパニーに2機のA-10での航空支援要請まで行って徹底的に殲滅してしまっているので、もしかしたら報酬を支払ってもらえないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていたんだが、どうやら彼らはこっちのことを認めてくれるらしい。
だが、かつて自分たちを奴隷にしていた奴らのために戦ったウラルやムジャヒディン出身の隊員たちは、複雑な気分かもしれない。
「図々しい奴らだな」
「まあな。だが、これからはクライアントだ。完全に水に流すのは無理かもしれんが…………」
「分かってるさ。今の俺たちは傭兵なんだ」
そう、今の俺たちは傭兵だ。
デスクの下へと手を伸ばした俺は、そこに隠しておいた大きめの酒瓶を持ち上げる。オルトバルカ語の文字が書かれたその酒瓶をデスクの上に置くと、直立してデスクの前に並んでいた隊員たちが目を丸くする。
「ほら、差し入れのウォッカだ。今日はこれでも飲みながら休んでくれ」
「「「ありがとうございます、同志!」」」
スペツナズの隊員たちは酒が好きな奴が多いからな。
ちなみにスペツナズの隊員たちは様々な種族で構成されているが、意外なことに、前線で戦う隊員の大半を占めているのはウラルやイリナと同じく吸血鬼である。
ウラルの隣に立って微笑んでいる金髪の青年の口の中には吸血鬼特有の鋭い犬歯が生えているし、その隣にいる小柄な青年の口の中にも鋭い犬歯が生えている。
彼らは、あのヴリシアの戦いで強制収容所を警備していた吸血鬼たちだ。クリスマス休戦の真っ只中に紅茶とお菓子を持って彼らの説得に行った際に、あっさりと武装解除して強制収容所を開放してくれた吸血鬼たちである。
どうやら彼らはヴリシアの吸血鬼たちの中でも酷い扱いを受けていたらしい。吸血鬼たちの中には実力よりも血筋を重要視する者も多いらしく、より古来から生きている歴史の古い吸血鬼の一族ほど、能力に関係なく優遇されるという。
彼らはまだ歴史の浅い一家の吸血鬼らしく、ずっと雑用をやらされていたらしい。他の吸血鬼たちにも不満を感じていたからこそ、あっさりと武装解除して投降してくれたのだ。
それからは捕虜になっていたのだが、「俺たちも力になりたい」と申し出てくれたので、こうしてスペツナズの一員として頑張ってもらっている。とはいえ彼らの母語はヴリシア語だったので、まだオルトバルカ語の勉強の真っ最中だ。最近は発音が上手になってきたのでコミュニケーションはとれるようになってきたものの、まだ単語を間違う事は多い。
それにしても、やっぱり吸血鬼が仲間になってくれると本当に心強い。彼らには再生能力があるし、身体能力も人間を遥かに凌駕している。だからこのような作戦に投入するにはうってつけの人材だ。
「では、今日はゆっくり休んでくれ」
「
一斉に敬礼してから、踵を返して執務室を出ていくスペツナズの隊員たち。
デスクの後ろから彼らを見守ってから、俺は安心して息を吐いた。