異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
以前にも、仲間たちにこういう視線で見られたことがあるような気がする。円卓が鎮座する会議室に集まってくれた仲間たちにじろじろと見られながら、あの変なリンゴで幼児になった時の事を思い出しつつ、息を吐きながら下を見下ろす。
身に纏っているのはいつものコート。若き日の親父が着ていた転生者ハンターのコートを、冒険者向けに改良した親父のお下がりである。
俺は親父のようにがっちりした体格の巨漢ではないので、このコートは少しばかり大きい。けれども今は、胸の辺りだけはちょうどいいサイズなのかもしれない。
やけに膨らんだ自分の胸を見下ろしつつ、右側を指先で軽くつつく。真っ黒なコートに覆われたそれは、ぷるん、と揺れると、指先に触れられた間隔を伝達してから、いつもはすらりとした胸板がある筈の場所に居座り続けた。
「け、けっこう大きいのね…………」
苦笑いしながらそんなことを言うナタリア。俺も苦笑いしながら彼女の方を見てみると、確かにほんの少しナタリアよりも大きかった。でも、どういうわけか全く優越感は感じない。
元々俺は男なのだから当たり前だろう。
それゆえに―――――――朝起きたら女になっていると予測できるわけがない。
とりあえず色々と確認したわけなんだが…………やっぱり、俺のアハトアハトも見当たりませんでした。昨日は大活躍してくれた相棒だったんですけどね。
「お前さ、前は幼児になってなかった?」
「仕方ねえだろうが。キメラって変異しやすい種族なんだよ」
前回幼児になった理由は、シルヴィアから貰ったウィッチアップルという特殊なリンゴが原因だった。ウィッチアップルは魔力の濃度が高い地域でしか育たない希少なリンゴで、豊富な魔力を吸収しながら育つせいなのか、その甘みは通常のリンゴの比ではない。とはいえ今ではそのような地域はダンジョンの中にしかないので、基本的に栽培は不可能らしい。
持って帰れば凄まじい金額で売れるため、冒険者は食べるのを我慢して管理局まで持ち帰るという。
ちなみに名前の由来は、大昔に”魔女”と呼ばれていた種族のサキュバスたちが、豊富な魔力を含むこれを好んで食べていたからこのような名前になったという。確かに魔力しか体内に吸収できないサキュバスたちにとっては、他者から魔力を吸収せずに済む貴重な手段だった筈だ。
でもステラに聞いてみたんだけど、実際はサキュバスたちにとってはおやつのような存在だったらしい。
随分と高級なおやつだな…………。昔はこれが育つ土地がたくさんあったみたいだからウィッチアップルも大量に採れていたのかもしれないけど。
それにしても、元に姿に戻れるんだろうな? 一生女のままは嫌だぞ?
「原因は?」
「あー…………多分、昨日食べたリンゴだと思う」
昨日仕事をしながら執務室で食ってたリンゴが原因だろう。やけに甘みが強かったし、きっとウィッチアップルだったに違いない。
「ご、ごめんなさい…………ウィッチアップルと間違えちゃいました…………」
「やっぱりな」
どうやらリンゴを持ってきてくれたステラがウィッチアップルと間違えてしまったらしい。これで原因は分かったが…………前回は幼児になったのに、今回は女か。あれを食べたからと言って確実に幼児になるというわけではないらしい。
とりあえず、シルヴィアから検査を受けた方が良さそうだ。
「それにしても、今のタクヤの声ってラウラの声にそっくりだよね?」
「えっ?」
「確かに…………」
「
い、一緒に?
ちらりとラウラを見ながら目配せし、一緒に言うタイミングを合わせる。
「「…………ふにゅっ?」」
その瞬間、全く同じタイミングで、全く同じ声が重なった。まるで同じ人間が同時に喋ったかのように、完全に重なった同じ声。円卓に響いたその声を聴いた仲間たちが、目を丸くしながら呆然としている。
当たり前だろうな。俺たちの母親は姉妹だけど、実質的には同じ人間なのだから。
そう、ラウラの母であるエリスさんと俺の母であるエミリアは、正確に言うと姉妹ではない。俺の母さんはエリスさんの遺伝子を元に作られた
その遺伝子がほぼ同じ人間が母親で、同じ人間が父親なのだから、実質的に俺とラウラも性別と遺伝子がやや違うほぼ同じキメラという事になる。
ちなみに普段は少しでも男だと思ってもらうためにわざと声を低くして喋ってるけど、意識しないで喋ると男の状態でもラウラとほぼ同じ声になるらしく、俺たちの両親でも聞き分けるのは不可能らしい。
さすがに女の身体になった状態でそうしようとしても無理みたいだ。声が高い。
「す、すげえ…………全く同じ声だ…………!」
「でも胸はラウラの方が大きいですね」
木村、どこ見てんだコラ。
ラウラの大きな胸をまじまじと見つめている木村を睨みつけていると、いつの間にかステラが俺のすぐ近くまでやってきていた。俺たちの中で一番身長の小さな彼女は何故か敵意を俺に向けながら、椅子に座っている俺の胸をじっと見つめている。
「す、ステラ…………?」
「どうして……………………どうして元々男だったタクヤよりもステラのおっぱいは小さいのですか……………?」
「お、おい、どうした…………?」
「むぅ…………………タクヤ、そのおっぱいをステラに下さいっ!!」
はぁ!?
お、おい、ステラ! 落ち着け!
「落ち着けって!」
「嫌です! もう貧乳は嫌なのです!」
「バカ、やめ―――――――ひゃんっ!?」
揉むなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
「お、お兄様…………いえ、”お姉様”! わたくしにも揉ませてください!」
「あ、じゃあせっかくだから僕もー♪」
「じゃあお姉ちゃんもー♪」
「それじゃ私も揉んでおこうかしら♪」
「クラン!?」
何でだよ!?
一斉に席から立ち上がり、ステラに胸を揉まれている俺の所へと殺到する5人。もちろん俺も抵抗するけど、あっさりと手足を押さえつけられた上に床の上に押し倒されてしまう。
は、早く元の身体に戻りたい……………。
「え、ええと……………今回は魔力がしっかりと定着しちゃってるので、前回みたいに簡単には戻らないかと……………」
「マジで?」
大きめの植木鉢の中にぎっしりと詰め込まれた土の中に、アルラウネにとっては”根”でもある両足を突っ込んだままそう告げるシルヴィア。彼女が渡してくれた資料には聞いたこともない専門用語がこれでもかというほど並んでおり、中には難解なカルガニスタン語も含まれているため分からない部分は多いが、前回よりもどうやら深刻らしい。
前回はウィッチアップルに含まれる魔力が身体の中にそれほど溜まらなかったためすぐに元の姿に戻れたが、今回はどうやら魔力がしっかりと身体に定着しているらしい。
つまり、一生この姿のままという事?
「ということは、タクヤは一生ステラよりも大きなおっぱいを揺らしながら生きていくという事ですか?」
「す、ステラ、いい加減揉むのを止め―――――――んっ、バカ、もう止めろって」
お前はいつまで揉む気だ。
俺の正面に立ちながら必死に背伸びをして胸を揉むステラを見下ろしつつ、シルヴィアが用意してくれた資料を読み続ける。何を意味するのかはよく分からない棒グラフや折れ線グラフをちらりと見てから次のページを見てみると、遺伝子についてのグラフや数値が記載されていた。
「安心してください。元の姿に戻れないというわけではないみたいですよ」
「本当か!?」
「ええ。ただし、この体内の魔力は消えませんけど」
定着してるみたいだからな。そう簡単には消えないか…………。
でも、魔力が定着している状態だが、どうやって元に戻すんだ?
「ええと…………検査の結果なんですけど、どうやらタクヤさんの魔力の一部としてこの魔力は定着している状態ですので、このウィッチアップルの魔力は完全にタクヤさんの管理下にあります」
「つまり、タクヤはその魔力も操れるという事ですか?」
「そういうことです。ですので上手くコントロールできれば―――――――」
なるほどね。コントロールさえできれば、元の姿に戻れるというわけか。
それなら助かる。一生女の身体のままというのはごめんだからな。子供も作れなくなるし。
「ん? ちょっと待て、シルヴィア。コントロールできるようになったという事は―――――――もし仮に男の姿に戻ったとして、そこから更に女の姿になる事も可能という事か?」
「ええ、そうですね。完全にタクヤさんの魔力と融合しちゃってるので、そういう事になります」
なんだそれ。
なんだかウィッチアップルのせいで変な能力を身につけてしまったが、果たして使う事はあるのだろうか。元から女みたいな容姿だったし、もし仮に女装するのであれば息子があることがバレなければ何とかなりそうなんだけど。
とりあえず、元に戻れるのであれば大丈夫だ。魔力が融合しているという事は、自分の魔力を加圧したりする時のように操ればなんとかなるだろう。
「魔力が融合したという事は…………タクヤの魔力の味も変わっているという事ですよね?」
「ええ、そういう事です」
「す、ステラ…………?」
何故か俺の顔を見上げつつ、よだれを小さな手で拭い去りながら目を輝かせるステラ。いや、目を輝かせるというか、目つきが段々と獰猛になりつつある。
あ、そういえばまだご飯食べてなかったな…………。
ステラの主食は普通の食べ物ではなく魔力である。そのため、普通の食べ物をいくら食べさせても、彼女は満腹感を感じることはないのだ。栄養分として吸収できるのは魔力しかないのである。
可愛らしい口からよだれを垂らしながら、後ずさりする俺にじりじりと寄ってくるステラ。さすがにシルヴィアの目の前で幼女とキスをするのは拙いので、せめて部屋に逃げ込んでからそこでたっぷりと魔力(ごはん)をあげようと思ったんだが―――――――ステラの食欲は、俺の予想以上に強烈だったようだ。
彼女の特徴的な髪が触手のように伸びたと思いきや、俺の手足に凄まじい速さで絡みついてくる。抵抗しても離れる気配はない。
「す、ステラ、待てって! せめて部屋で―――――――」
「が、がまん…………できません…………。い、いただきます…………はむっ」
「むぐぅ!?」
「えぇ!?」
いきなり目の前で幼女とキスをする羽目になった俺を、目を見開きながら見つめているシルヴィア。彼女に見られているにも拘らずステラは身動きの取れない俺の唇を奪い、舌を絡めながら、これでもかというほど魔力を吸収していく。
身体に力が入らない。魔力はこの世界の人間の”生命力”の一部でもあるので、完全になくなってしまえば死に至るのである。だからさすがにステラは魔力を全部吸うつもりはないとは思うんだが、このままでは本当に全て吸われてしまうかもしれない。
舌を絡ませ合う度に、身体の中から力と魔力が抜け、彼女の甘い香りに包まれる。
けれども―――――――いつもならばそろそろ気を失ってしまう頃だというのに、俺は未だに意識を保っていた。魔力が座れている影響で身体に力はないらないが、どういうわけかそれ以外はいつもと変わらない。
「―――――――ぷはっ。ふふふっ、やっぱりタクヤの魔力は美味しいですね♪」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」
「あっ、もうキスは終わりですか? もっと見てたかったのに…………」
何言ってんだコラ。
満足したのか、髪の毛で俺を拘束するのを止めて唇を離すステラ。口元についているよだれを拭い去った彼女は満足そうに微笑みながら、地面の上に倒れている俺を見下ろしている。
しばらくこのまま地面に倒れている羽目になるんだろうなと思いつつ、ダメ元で腕を動かしてみる。すると先ほどまで力が入らなかったというのに、女の身体になったことでなおさら華奢になった真っ白な腕はあっさりと動いた。
おかしいな…………? いつもなら10分くらいはぐったりしてる羽目になる筈なのに。
両足にも力を入れて立ち上がると、魔力を吸い終えたステラが目を丸くした。
「えっ…………も、もう立てるのですか……?」
おそらく、魔力の量が男の身体の時よりも増えているのかもしれない。魔力の量には個人差があり、この量だけはどれだけ訓練しても増やせることはないのだが、性別が変わったことで色々と変わってしまったのだろう。
ということは、転生者のステータスにも影響が出ているという事なのだろうか?
確認しようと思ったが、それよりも先に面白いことを思いついた。
ニヤニヤと笑いつつ、”食事”を終えたばかりのステラにじりじりと近づいていく。今度はステラが後ずさりを始めるが、お腹いっぱいになってしまったせいなのかあっさりと俺に追いつかれてしまう。
「ステラちゃん、もうお腹いっぱいなのかな? おかわりあるよ?」
「え、ええと…………す、ステラはもう、お腹いっぱいです。これ以上食べたら太っちゃいます」
「大丈夫だって。魔力は太らないよ」
「で、ですが、その…………にゃあっ!?」
はっはっはっはっ。仕返しだ。いつも散々魔力を吸われてるからなぁ。
蒼い鱗で覆われた尻尾を伸ばし、今度は俺がステラを拘束する。性別が変わったせいなのか、今の俺の尻尾は硬い外殻で覆われたオスのキメラの尻尾ではなく、ぷにぷにした柔らかい鱗で覆われたラウラのような尻尾へと変貌しているので、力を入れて巻き付けても骨を折ってしまう恐れはない。
そして尻尾を巻きつけたステラを近くへと引き寄せ、ニヤニヤと笑いながら―――――――今度は俺がステラの唇を奪った。
いつもとは逆である。
「むぐっ!? んっ、ん…………っ! ぷはっ! た、タクヤ、ゆ、許してください…………! もう吸収できな――――――むぐぅっ!?」
少しだけ舌を絡み合わせてから解放し、ステラの口元についているよだれを拭い去る。
女の身体も悪くないな。こうやってステラに仕返しができるし、魔力の量も増えているから魔術を使う時は便利そうだ。
しかも魔力を生成する速度も速くなっているらしく、先ほどステラに吸収されたり、ステラにプレゼントしてあげた”おかわり”の分も早くも補充されている。
自分の口元についているよだれを拭い去っていると、ステラがふらつきながら立ち上がった。
「ひ、酷いです…………!」
「あっ、すまん…………ちょっと調子に乗―――――――」
でも、ステラは許してくれないらしい。
右手に凄まじい量の魔力を集中させたかと思うと、可愛らしい小さな手を思い切り握りしめ、俺を睨みつけながら―――――――幼女とは思えないほどのパワーで、猛烈なボディブローを叩き込みやがった!
「しゃーまん!?」
しかもまだ許してくれないらしい。今度は左手に魔力を集中させ、やや斜め上から俺の右の鎖骨の辺りへと強烈な一撃をお見舞いする。
「ぱっとん!?」
そして最後に―――――――最初に一撃をお見舞いした右手を握り締め、懐へと潜り込んでくるステラ。姿勢を低くしながら狙いを定めた彼女は、もう既に二発も強烈なパンチを叩き込まれている俺に止めを刺すらしく、最後の一撃を叩き込んでくる。
回避しようと思ったが、魔力を集中させたことで速度が上がった彼女のパンチを避けることは、もう不可能だった。
次の瞬間、顎に強烈なアッパーカットがめり込み―――――――メモリークォーツが埋め込まれている天井まで、吹っ飛ばされる羽目になった。
「えいぶらむすっ!?」
「まったく…………」
メモリークォーツが埋め込まれた天井に激突し、そのまま地面へと落下してしまう。いつもならばそれほどダメージは受けない筈なのに、もしかしたら骨が折れてしまうのではないかと思ってしまうほどの凄まじい衝撃だった。やっぱり転生者のステータスも変わっているのだろう。ちゃんとチェックしておかないと。
メニュー画面を開き、呻き声をあげながら今のステータスを確認する。
今のレベルはちょうど500。ポイントもまだまだ軍拡ができるほどの量が残っているのだが―――――――その隣に表示されているステータスの数値を見た瞬間、凍り付く羽目になった。
ステータスはやはり変わっていたのだが、かなり極端なステータスになっていたのである。
まず、攻撃力は70000。男だった時は確か69900だったから、これは若干上がっている。そして一番自信のあったスピードは、なんと一気に98000まで上がっていた。男だった時は88000だったから、性別が変わっただけで10000も上がったという事になる。
この2つは上がっていたが…………防御力の方は大問題としか言いようがない。
なぜならば、今の俺の防御力は―――――――たった120しかないのである。
見間違いだと思ったが、画面にはちゃんと120と表示されている。性別が変わる前は65050だったのだが、防御力だけかなり下がっていた。
おいおい、初期ステータスよりもちょっと高い程度じゃねえか…………。
女になった時のステータスは極端だな…………。スピードが上がってるから、どちらかと言うと”攻撃を全て躱しつつ、スピードを生かして強襲する”ような感じの戦い方にしないと危険だ。この防御力では常人と変わらないし、しかも女になってしまっているからキメラの外殻に頼るわけにはいかない。メスのキメラは外殻による効果が苦手であるため、元の身体だった時のように咄嗟に硬化するのは不可能だろう。
何とか使い分けないとな…………。
メニュー画面を見つめながらぐったりしていると、俺を見下ろしているステラが腕を組みながら言った。
「今回は許してあげますっ」
「す、すいませんでした…………」
とりあえず、もうステラは怒らせないようにしよう。
おまけ
忘れてるよ
M26パーシング「…………俺は?」
完
※シャーマンは第二次世界大戦中に活躍したアメリカの中戦車です。
※パットンはアメリカの
※エイブラムスもアメリカの