異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤが強襲するとこうなる

 

 息を吐きつつ、背中に背負っていた得物を引き抜く。

 

 指先でひんやりとしたトリガーに触れつつ息を殺し、身を隠している白いレンガの建物の向こうからこちらへと伸びている通りの向こうを睨みつける。数秒前まで散弾をハッチからチューブマガジンの中へと押し込む作業に勤しんでいた指を労い、ゆっくりと休ませてやりたいところだが、敵はどうやら俺の指に休息を与えるつもりはないらしい。

 

 微かに砂を含んだ熱風が駆け抜けていく道の向こうから、”敵”が姿を現したのだから。

 

 重々しいエンジンの音を響かせながら姿を現したのは、複数のタイヤで装甲に覆われた巨躯を走行させる怪物だった。ちょっとしたトラックよりも大きな車体の上には機関砲の武骨な砲身が生えた砲塔が設置されており、その砲塔には戦車への攻撃を想定しているらしく、対戦車ミサイルらしきものも搭載されているのが分かる。

 

 BTR-90だ。テンプル騎士団で正式採用している装甲車である。

 

 真っ黒に塗装された車体のハッチが開き、中に乗っていた黒服の兵士たちがぞろぞろと下りてくる。手にしているのはAK-12で、ホロサイトやフォアグリップを装備している。中にはグレネードランチャーを装備している兵士もいるため、もし仮に仕留めるならばグレネードランチャー付きを持っている奴から仕留めるべきだろう。

 

 こちらの得物はショットガンとハンドガンが2丁。あとはちょっとした改造を施したスペツナズ・ナイフが2本。兵士を相手にするならば十分な装備だが、あの道のど真ん中に居座る化け物を相手にするには火力不足としか言いようがない。

 

 せめてフラグ12か対戦車手榴弾でもあれば少しはダメージを与えられる筈だと思いつつ、手にしている銃剣付きのショットガンを見下ろす。

 

 俺が今装備しているのは、アメリカで開発され、第一次世界大戦と第二次世界大戦に投入された『ウィンチェスターM1897』と呼ばれるショットガンの”トレンチガン”と呼ばれるモデルである。

 

 銃身をある程度切り詰め、銃剣を装着できるように改良したトレンチガンは、第一次世界大戦の塹壕戦で活躍した銃である。ポンプアクション式のショットガンではあるが、”スラムファイア”と呼ばれる方法を使えばセミオートマチック式のショットガンに匹敵する速度で強烈な散弾を連発することが可能で、その圧倒的な破壊力は敵であるドイツ軍を震え上がらせた。

 

 その凄まじい攻撃力は、あのドイツ軍がアメリカ軍に対して抗議したほどである。

 

 現在では同じくアメリカ製の『イサカM37』や他のセミオートマチック式ショットガンに取って代わられてしまった旧式のショットガンではあるが、接近戦での破壊力ならば現代でも健在だ。

 

 銃剣がしっかりと装着されているのを確認してから、ちらりと兵士たちの様子を見る。AK-12を手にした兵士たちは8名。そのうちの2名を装甲車の護衛に残し、残りの6名で周囲の索敵をするつもりらしい。

 

 近くにある樽を飛び越え、物音を立てないように家の中へと飛び込む。ちゃんと窓は閉めるべきだろうが、今はちゃんと窓を閉めている場合ではない。

 

 室内戦ならばこっちの独壇場だ。なぜならばこちらは第一次世界大戦の塹壕戦で、数多のドイツ兵を返り討ちにした最強のショットガンなのだから。

 

 やがて、俺が隠れた建物の中にも兵士がやってきたのか、ドアが開いた音がした。この家の構造は分からないが、音が聞こえてきた方向と、オイルの香りが染みついた黒い制服の臭いのおかげで敵兵の位置はよく分かる。

 

 足音を立てないように移動しつつ音の聞こえてきた方向へと移動すると―――――――やはり、がっちりした兵士の背中が見えた。

 

 そのまま近づいて銃床で殴り倒してやろうと思ったが―――――――運が悪かったのか、それとも気配を消し切れていなかったのか、その兵士がアサルトライフルを向けたままこっちを振り向きやがった!

 

「うわっ―――――――」

 

「チッ」

 

 仕方がない。

 

 便利なサプレッサーはついていないが、ぶっ放すしかない。

 

 敵兵がこっちにアサルトライフルを向けるよりも先に銃剣付きのショットガンを向け、トリガーを引く。がっちりした銃身の中から飛び出した12ゲージの散弾が解き放たれ、すぐに拡散して敵兵の身体へと喰らい付くと、瞬く間に真っ赤な血飛沫を家の壁にぶちまけた。

 

 アサルトライフルやボルトアクションライフルよりも強烈で野太い銃声は好きだが、これだけ大きい銃声なのならば外まで聞こえているのは想像に難くない。索敵のために散開していた敵兵がこっちに寄ってくるのも時間の問題だろう。

 

 仕留めた敵兵の懐から手榴弾を2つほど拝借してから、素早く2階へと駆け上がり、窓を開けてそこから外へと飛び出す。装甲車の砲塔がこっちを向いていませんようにと祈りつつ顔を上げたが―――――――装甲車の砲手は俺の動きを見切っていたのか、それともまた運が悪かっただけなのか、BTR-90の機関砲の砲口はしっかりと、正確に着地した俺の方へと向けられていた。

 

「マジかよ」

 

 搭載されているのは大口径の機関砲。戦車を破壊できるほどの火力はないとはいえ、人間の兵士に命中すれば、瞬く間に肉屋で売られているミンチの仲間入りだ。俺はもし死ぬならば老衰で死にたい。だからそういう無残な死に方はごめんだ。

 

 反射的に右へとジャンプすると同時に、装甲車の機関砲が火を噴く。

 

 このまま走って回り込もうと思ったが―――――――周囲にいる敵兵が俺に気付いたらしく、アサルトライフルで迎撃してくる。無理に回り込もうとすれば、装甲車の攻撃に巻き込まれない位置からのフルオート射撃で仕留められるのが関の山だろう。

 

 だったら、正面突破しかない。

 

 あまり無茶な手は好きではないが、こうやって生き残ってきたのだ。

 

 右へと躱すのを止め、砲弾がすぐ傍らを通過していったのを確認してから前へと駆け出す。

 

 真正面へと突っ走る俺へと砲弾が次々に放たれてくるが――――――身体を左へと倒したり、小さく横へとジャンプしてひたすら回避する。もちろん普通の兵士にこんな動きをするのは不可能だ。というか、立ち止まった状態から砲弾を回避するのも不可能だろう。

 

 こんな芸当ができるのは、今のステータスのおかげだ。

 

 それに元々反射速度に自信がある。後はその反射速度を生かせる速度を出せれば、このような砲弾や、銃弾のフルオート射撃を掻い潜るのは容易い。

 

 このまま立ち止まって砲撃を続ければ肉薄されると判断したのか、装甲車が砲撃を継続しつつ後退を始める。距離を稼ぎつつ砲撃で仕留めようとしているのだろうが―――――――それでも、段々と距離は縮められていく。

 

 もっと早く後退するべきだったな。俺のスピードを見くびり過ぎたんだ。

 

 左手で先ほど拝借した手榴弾を取り出しつつ、そのままジャンプ。空中で安全ピンを抜きながら装甲車の上に着地し、手榴弾で自爆する羽目になる前に乗組員が乗り込むためのハッチを強引にこじ開ける。

 

 砲塔の上にあったハッチの中へと手榴弾を2つ投げ込んでから、大慌てで装甲車から飛び降りる。歩兵たちのフルオート射撃が襲い掛かってくるが、その銃弾が俺を仕留めるよりも先に―――――――甲高い電子音が、この戦いの終結を告げた。

 

≪模擬戦終了。勝者、タクヤ・ハヤカワ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからさ、もっと早い段階で後退すればよかったんだって」

 

「いや、銃声が聞こえた段階で砲撃するべきだったろ」

 

「待てよ。まだニックが生きてたかもしれないんだぞ? それなのに砲撃なんかできるかよ」

 

 訓練区画に新しく作られた”大規模訓練場”の出口から外へと出ると、先ほど俺の相手をしてくれたテンプル騎士団の兵士たちが反省会をしているところだった。どうやら装甲車の砲撃や後退のタイミングについて話し合っているらしい。

 

 ショットガンを肩に担ぎながら近づいていくと、俺に気付いた兵士たちが一斉に敬礼してくれた。

 

「「「お疲れ様です、同志団長!」」」

 

「お疲れ様。相手してくれてありがとな」

 

「いえいえ、こちらこそ勉強になりました。それにしても、ショットガンと手榴弾だけで装甲車を撃破するなんて…………」

 

 そう、さっきのは模擬戦だ。

 

 タンプル搭の地下にある区画の中に、兵士たちが訓練に使う”訓練区画”と呼ばれる区画がある。その中には様々な射程距離を想定した射撃訓練場があり、中には室内戦を想定して建物の中を模した訓練場もあるのだが、さっきの模擬戦を行っていた大規模訓練場は室内戦どころか”市街戦”を想定して建造された、大きな訓練場なのである。

 

 そのため、先ほどのように装甲車や戦車まで訓練に参加させられるほどの広さがある。とはいえヘリが参加できるようなスペースはないので、さすがに航空支援の訓練は外でやる必要がある。

 

 この訓練場もドワーフのバーンズさんが追加してくれた設備なんだが、なんとたった3日で作り上げたらしい。ドワーフは豪快で勤勉な気質の人が多いと言われているが、本当に頼もしいな…………。

 

「いやいや、諸君の錬度も上がってたぞ? 自信を持ってくれ」

 

「は、はい」

 

 そう言いながら、いきなり室内で俺の放ったペイント弾を浴びる羽目になった兵士の肩を軽く叩いた。あの散弾はペイント弾だったのだが、それを至近距離で浴びたせいで、その被弾した兵士の制服には本物の血痕を彷彿とさせる赤い模様が浮かび上がっている。

 

「それにしても、本当に…………その、女の姿になるだけでスピードが上がるんですね」

 

「ん? ああ、そうらしい」

 

 そう言いながら胸元を見下ろしつつ、左手の指で膨らんでいる胸を軽くつつく。やはり指先で触れられた間隔を身体中に伝達してから、ぷるん、と揺れた。

 

 スピードが上がるのは大歓迎なんだが、はっきり言うとこの胸は邪魔だ。

 

 よく揺れるし、伏せた状態で攻撃しようとしても胸が地面に当たる。さすがにサイズはラウラよりも小さいけれど、彼女はよくあんな大きな胸で俺の動きについて来れるよな…………。コツでもあるのだろうか?

 

 若き日の母さんは胸が揺れないように防具をつけて戦っていたらしいが、その気持ちが分かる気がする。

 

「そ、その…………大きいですよね、胸」

 

「あ、ああ」

 

「揉んでいいッスか?」

 

「ダメだろ!?」

 

 止めろって!

 

「と、とりあえず、俺はそろそろ部屋に戻るよ」

 

「了解でーす」

 

「お疲れさまでした、同志」

 

「はーい、お疲れ様ー」

 

 兵士たちにそう言ってから、揉まれる前にその場を離れることにする。踵を返して歩きつつメニュー画面を開き、大活躍してくれたトレンチガンを装備していた銃の中から解除。背負っていたショットガンが消失したのを確認してから、部屋に向かって歩き出す。

 

 配管やケーブルが剥き出しになっている通路を進み、奥にあるエレベーターのボタンを押してエレベーターが迎えに来るのを待つ。ちょっとした鉄格子にも見える扉が左右に開いていき、上の区画から降りてきたエレベーターに乗ってから、中にあるパネルのスイッチを押して第一居住区まで降りていく。

 

 蒸気を吹き出しながら下へと降りていくエレベーターの中で、俺もちょっとした模擬戦の反省会を開いておく。多分部屋の中で敵兵役のニックに気付かれたのは、気配を感じ取られたからだろう。テンプル騎士団の兵士たちも練度は上がっているのだから、運悪く見つかったというわけではないに違いない。

 

 俺も未熟だな。

 

 けれども、性別を変えるだけで機関砲の砲弾を突っ走りながら躱せるほどのスピードが手に入ったのはありがたい事だ。一発でも喰らえば瞬く間にミンチになるのが関の山だが、あれほどのスピードで移動できるのならば、攻撃の際に役に立つだろう。

 

 居住区へと到着する前に、エレベーターの中で体内の魔力を操作。ウィッチアップルから吸収した魔力の濃度を落としていく。

 

 すると、戦闘中はひたすら揺れていた忌々しい胸が少しずつ小さくなっていき、最終的にいつもの胸板へと戻る。メニュー画面を開いて確認してみるが、やはりたった120しかなかった防御力のステータスは、ちゃんと68000まで戻っている。

 

「ふう…………」

 

 俺の性別ってどっちなんだろう…………。

 

 エレベーターから降りると、これから訓練区画へと向かうところなのか、フェイスガード付きのヘルメットやボディアーマーを身につけ、AN-94を手にしたスペツナズの隊員とすれ違った。口の中には鋭い犬歯が生えているから、ヴリシアの戦いで仲間になってくれた吸血鬼の1人だろう。

 

「お疲れ様です、同志」

 

「お疲れ様、フリッツ軍曹。今から訓練かな?」

 

 若干訛っているオルトバルカ語を話す吸血鬼の隊員にそう言いながら微笑むと、彼も微笑んでくれた。

 

 あの戦いが終わってから、テンプル騎士団でも隊員たちに”階級”を付けることになった。

 

 以前までは各部隊を指揮する”隊長”がいるだけで、それを統括するのは参謀を担当するナタリアか団長の俺というかなりシンプルな指揮系統となっていたのだが、規模が大きくなってきたため、いつまでもそのような指揮系統では混乱する恐れがあるという事で、軍隊のように階級を付けることになったのである。

 

 もちろん俺の階級は”団長”。組織のトップだ。

 

「ええ。訓練と言っても自主的な射撃訓練ですが」

 

「それはいい。そういえば、ここでの生活には慣れた?」

 

「ええ。ここは天国ですね」

 

 フリッツたちはヴリシアの過激派の吸血鬼たちだったのだが、吸血鬼たちは実力や技術よりも血筋の方を重要視していたらしく、まだ歴史の浅い家系に生まれたフリッツたちは下っ端だったという。待遇も酷かったらしく、なかなか食料を支給してもらえなかったり、雑用ばかりやらされていたらしい。

 

 けれどもテンプル騎士団ではそのようなことはしない。1人1人の要望は可能な限り聞き入れて解決策を考えるし、血筋よりも実力や技術を重要視する。

 

 さすがに彼らが「もっと血を下さい」という要望を出してきたら少しばかりは反対するけどね。

 

 ちなみに、吸血鬼たちの食料となる血は団員たちが与えることになっている。さすがに牙を突き立てて血を吸うのではなく、注射器である程度血を抜き、それを支給しているのだ。

 

 イリナもそうしているけど、彼女はよく俺の首筋に牙を突き立てて思い切り血を吸っている。俺の血の味が気に入っているらしいんだが、結構痛いんだよなぁ…………。

 

「ちゃんと仲間として扱ってもらえますし、最高です」

 

「それはよかった。何か要望があれば言ってくれよ」

 

「感謝します。では」

 

「おう」

 

 AN-94を背負いながらエレベーターに乗り、訓練区画へと上がっていくフリッツ。彼に手を振ってから踵を返し、部屋の前へと向かう。

 

 ホテルを彷彿とさせる通路の左右にはいくつも部屋があり、扉にはその部屋に住んでいる団員の名前が書かれたプレートが下げてある。やがて奥の方にある部屋の扉に自分とラウラとイリナの名前が書かれているプレートを見つけた俺は、その扉をノックしてから扉を開けた。

 

 簡単なキッチンとしっかりしたベッドが置かれた、少し大きめの部屋。ホテルの一室にキッチンを追加したような感じの部屋だ。団員たちのために食堂も用意しているが、ここで自分で料理することもできるので、よく俺はここで料理をしている。

 

 コートを壁にかけてからベッドの方へと向かうと―――――――今目を覚ましたのか、ピンクの可愛らしい下着姿のイリナが、着替えをしている最中だった。

 

「あ、タクヤ。おかえり」

 

「お、おう」

 

 てっきり叫ぶんじゃないかと思ったけど、普通に「おかえり」って言われた…………。な、なぜだ? 男だって認識されてないのか!? 

 

 もしそうならばショックだよ…………。

 

 イリナは日光を嫌う吸血鬼の1人だ。そのため、基本的に昼間はベッドの脇にあるでっかい棺桶の中で眠っており、夕方辺りに目を覚ますのだ。俺たちとは起きている時間が基本的に逆なのである。

 

 制服に着替えた彼女は、ニコニコと笑いながら俺に抱き着いてきた。

 

「タクヤっ♪」

 

「うわっ! な、なんだよ?」

 

「えへへへ…………そろそろご飯欲しいな。お腹空いちゃった♪」

 

「あー、血ね」

 

 ネクタイを取ってからボタンを2つほど外し、イリナが噛みつきやすいように首筋をあらわにする。血を吸うのならばどこでもいい筈なのだが、イリナは首筋に噛みつくのがお気に入りらしい。

 

「ふふふっ…………それじゃ、いただきまーす♪」

 

「や、優しく嚙みつけよ? それ痛いんだから―――――――痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 あ、相変わらず思い切り噛みつくなぁ………。

 

 食事中の彼女を抱きしめながら、俺は苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

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