異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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もう1人のシスコン

 

 

 俺にとって、妹は大切な肉親だ。

 

 ムジャヒディンの一員として戦っていた時も、常に一緒にいてくれた戦友であり、家族である。だから俺はテンプル騎士団に入る前から、命懸けで彼女を守ろうとしてきた。

 

 もちろんイリナが弱いわけではない。むしろ彼女の戦闘力は、強力な吸血鬼にも匹敵するほど高いから、もしかしたら俺が守ってやる必要なんかないのかもしれない。それにイリナは優しい子だから、きっと将来はいい男と結婚して家庭を作り、立派にジナイーダの夢を叶えてくれるはずだ。だから俺は妹を見守るだけでいい。

 

 いつもそう思っているんだが…………はっきり言うと結構難しい。

 

 彼女を俺が守る必要がなくなりつつあるという事は理解している。テンプル騎士団に入ってからは強力な異世界の武器が支給されているし、ちゃんとした訓練も受けているから強くなっている筈だ。相変わらず爆発が大好きな彼女の性格は変わっていないものの、もう1人で大丈夫なのかもしれない。

 

 それは分かる。これ以上ないほど理解している。

 

 けれども―――――――気が付いたら、訓練中であるにもかかわらず双眼鏡でこっそりと訓練中のイリナを見守っていたり、他の仲間たちと雑談中の妹を通路の曲がり角から見守っているのである。

 

 スペツナズの仲間たちにも「大佐、妹さんももう立派なレディーなんですから…………」と止められているが、まだ心配なんだよ…………。

 

 そう思いながらAN-94に装着する予定のスコープを点検するふりをして、スコープを覗き込む。もちろんレティクルの向こうには桜色の髪と口の中に生えた鋭い犬歯が特徴的な可愛らしい少女が映っていて、ナタリアと一緒に弾薬の入った箱を持って歩きながら、雑談をしている姿が見える。

 

 楽しそうだなぁ…………。

 

「大佐、何見てるんスか」

 

 隣でPP-2000にオープン型のドットサイトとライトを取り付けていたスペツナズの仲間にそう言われ、息を吐きながら後ろを振り向く。

 

 ちなみに、スペツナズの隊長となった俺の階級は”大佐”らしい。

 

 呆れながら得物の点検をしていたのは、ヴリシアの戦いでこちらの捕虜になり、そのままテンプル騎士団に入団した吸血鬼の”グスタフ”だ。俺と同じくらい体格ががっちりしている巨漢で、普段はLMGを使って敵を強引に鎮圧する役目を担当している。だから彼が小さな得物を点検しているのは珍しい光景と言える。

 

 テンプル騎士団の団員はどういうわけか変人が多いのだが、こいつは男性陣の中で数少ないまともな奴の1人だ。だからスペツナズの副隊長に任命している。

 

「仕方がないだろう、少佐。妹が心配で…………もしあの持ってる弾薬の箱がいきなり爆発して吹っ飛んだらどうする?」

 

「いや、妹さんも吸血鬼だから大丈夫でしょ。同志ナタリアは危ないですけど」

 

「た、確かにそうだが…………もしあの弾薬が銀で、しかも聖水入りだったら拙いだろ!?」

 

「テンプル騎士団の規定では、対吸血鬼用の弾薬などは吸血鬼との戦闘が想定される状況にならない限り支給されません。常に保管しているわけではないみたいですよ」

 

「詳しいな」

 

「はぁ…………規定をよく確認してください」

 

 そんな規定あったっけ?

 

 ああ、確かにあったな。理由は確か、団員の中には銀や聖水を苦手とする吸血鬼のメンバーもいるから、事故を防ぐためだったような気がする。要するに俺やイリナたちのために用意された規定だ。

 

 俺たちはレリエル・クロフォードのような強力な吸血鬼じゃないから、銀の弾丸で撃たれたり、聖水をぶちまけられたらあっさりと死んでしまう。だからこういう規定はかなりありがたい。

 

「はっはっはっ。同志ウラルはシスコンですからねぇ」

 

「う、うるせえぞフリッツ!」

 

 妹が心配なんだよ!

 

 再びスコープを覗き込むと、雑談していたナタリアと別れたイリナが弾薬の入った箱を地面に置き、訓練区画に用意された射撃訓練場のレーンの方へと歩き始めた。背中に背負っていたサイガ12Kを引き抜き、安全装置(セーフティ)を解除した彼女はいつものように射撃を開始するが―――――――やはり装填してあるのは普通の散弾ではなく、より凶悪なフラグ12らしい。

 

 炸裂弾を凄まじい勢いで連射しているせいで、隣で訓練をしていた兵士たちがびっくりしてイリナの方を振り向くが、幼い頃から何故か爆発が大好きなイリナはお構いなしに炸裂弾を連射し、レーンの向こうの的を木っ端微塵に粉砕していく。

 

 かなり派手な光景だ。

 

 あの火力は頼もしいが、やはり実戦で味方を巻き込んでしまわないか不安になってしまう。しかし信じ難いことにあの爆発で仲間を巻き込んだことは今まで一度もないようなので、見境なしにぶっ放しているわけではないらしい。むしろ爆発がどれほどの範囲にいる敵を巻き込むのかを見極めているらしく、彼女の目の前に立つ敵の群れは凄まじい勢いで減っていくという。

 

 うっとりしながらぶっ放している彼女を見ると見境なしに連射しているようにしか見えないが、ちゃんと効率的に敵を排除するように考えているという事だな。

 

 さすが俺の妹だ。

 

「ああ…………可愛いなぁ…………♪」

 

 ニヤニヤしながら見守っていると、彼女の隣にいた兵士が訓練を終えたらしく、PL-14をホルスターに戻して出口の方へと歩いて行く。

 

 そしてそのイリナの隣のレーンに現れたのは―――――――真っ黒なコートに身を包み、蒼いラインの入った黒いリボンをつけた、少女のような容姿を持つ蒼い髪の少年だった。体格は本当に少女のように華奢だが、よく見てみるとちゃんと筋肉がついていることが分かる。

 

 まるで男装した美少女のようにも見えるその男は、俺たちが所属するテンプル騎士団を率いる団長のタクヤ・ハヤカワ。組織の中では最強の転生者であり、俺が最近警戒しつつある人物である。

 

 もちろん警戒しているのは、イリナについてだ。

 

 隣に立つイリナと微笑みながら雑談するタクヤの野郎の顔をスコープで覗き込み、そのまま睨みつけながら唇を噛みしめる。

 

 この世界では数人の妻がいるのは当たり前だ。庶民でそういう事をする奴は殆どいないが、貴族や企業の上層部の奴らには当たり前のように数人の妻がいる。だからもし仮に、数人の美少女たちと一緒にいる事が多いタクヤがその少女たちを全員妻にしたとしても、珍しい事ではない。それにあいつとラウラはあの大企業であるモリガン・カンパニーの社長の子供たちだ。だからどちらかが会社を継ぐことになる。

 

 俺が警戒しているのは、そのハーレムの中に俺の大事なイリナまで含まれている可能性がある事だ。

 

 どうやらイリナはあいつの部屋に自分の棺桶を持ち込んで居座っているらしく、食事の際はタクヤの野郎に噛みついて、イチャイチャしながら直接血を吸っているという。

 

 あ、あいつ、まさかタクヤの事が好きなのか…………!?

 

「た、隊長…………? あの、どうしたんです?」

 

「ま、まだイリナちゃんの事見てるんスか? ―――――――ああ、団長も一緒だ。あの2人って仲いいんですよねぇ」

 

「ああ。そういえば昨日、イリナちゃんが『着替え中にタクヤが部屋に入ってきた』って言ってたなぁ」

 

「何ィィィィィィィィィィィッ!?」

 

 き、着替え中に部屋に入ってきたァ!?

 

「フリッツぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! どういうことだァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

「うわぁぁぁぁぁ!? お、落ち着いてください大佐ぁ!」

 

「お兄ちゃんに全部話せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 全部吐けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「落ち着いてくださいって! イリナちゃんは別に気にしてないらしいですから!」

 

「そ、そうか…………気にしてないなら―――――――」

 

 ちょっと待て。着替えを見られても気にしてない…………?

 

 ということは、もうタクヤに着替えを見られても恥ずかしくないほどイリナは彼の事が大好きという事か…………!?

 

「う、嘘だ…………イリナ…………イリナぁ…………うっ」

 

「たっ、大佐ぁ!?」

 

「大変だ! 同志ウラルが倒れた!!」

 

 嘘だ…………イリナが…………。

 

 タクヤの隣で幸せそうに微笑む最愛の妹の姿を思い浮かべてしまった瞬間、身体に力が入らなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへへっ。ごちそうさまでしたっ♪」

 

「す、吸い過ぎだって…………」

 

 首筋に突き立てていた牙をそっと離して、口元に残った血をやや長めの舌で舐め取りながら微笑むイリナを見上げながら、ベッドの上で苦笑いする。

 

 多分首筋には、彼女が思い切り牙を突き立てた傷跡が残っている事だろう。できるならばもっと静かに噛みついてほしいんだが、イリナはなかなかいう事を聞いてくれない。早く俺の血(ごはん)吸いたい(食べたい)からなのか、それとも牙を思い切り突き立ててしまう癖があるのか、食事をするときはいつも思い切り牙を突き立ててから血を吸うのである。

 

 でも、俺が血を吸われ過ぎて死んでしまわないようにちゃんと調節してくれているのはありがたい。

 

 傍らに置いてある試験管にも似たガラスの瓶を手に取ったイリナは、それについていた蓋を外してそっと俺の口に近づけてくる。中に入っているのはどろりとしている真っ赤な液体で、まるで鮮血で作ったゼリーを溶かした禍々しい液体のように見えてしまう。

 

 モリガン・カンパニー製のブラッドエリクサーと呼ばれる、血液を補充するためのエリクサーだ。傷口を塞いだとしても出血量が多過ぎれば死に至ることもあるので、そういう時にこれを服用することで血液を急激に補充するのである。

 

「はい、あーんっ♪」

 

「あー…………」

 

 口の中にどろどろした真っ赤な液体をぶち込みながら、ニコニコと笑うイリナ。傍から見れば血を吸われて死にかけている少年の口の中に、また血を流し込んでいるような光景にも見えてしまう。

 

 瓶の中身を全て飲み干しつつ、身体から力を抜く。まだ力は入らないけど、血液が補充され始めれば動けるようにはなるだろう。噛まれた痕はそれからエリクサーを飲んで倒せばいい。

 

「ふふふっ♪ まだ力入らない?」

 

「うん、全然入らない」

 

「じゃあ、力が入るようになるまで好きにしていいよね?」

 

「えっ?」

 

 そう言いながら、ベッドの上で横になっている俺の身体の上にのしかかってくるイリナ。もちろんこっちは血を吸われたばかりだから、身体に力が入らない。それゆえに全く抵抗できない。

 

 ニヤニヤと笑いながら身体の上にのしかかったイリナは、真っ白な指で俺の頬や首筋を優しく撫でながら、ぺろりと耳を舐め始めた。人間よりもやや長い吸血鬼の真っ赤な舌が耳を舐め回す艶めかしい音をこれでもかというほど聞かされながら、俺は身体が動くようになるまで耐えるしかなかった。

 

「ねえ、タクヤ」

 

「あ?」

 

「前にも言ったけどさ、吸血鬼ってとっても独占欲が強いの。気に入ったものは何でも自分だけのものにしたくなっちゃうの」

 

 確かに、前にも言っていた。

 

 吸血鬼は基本的に、独占欲がかなり強いという。宝石や豪華な屋敷だけではなく、もし仮に気に入った他の種族の異性がいたのならば、死なない程度に血を吸いつつ自分だけのものにしてしまう事もあるという。

 

 中にはそのまま人間の男性と結婚してしまった吸血鬼の女性もいるらしい。

 

「だからさ、タクヤも僕だけのものにしたいんだけど…………ダメ?」

 

「あー…………」

 

 ラウラやカノンもいるからなぁ…………。

 

 イリナみたいな美少女に「僕だけのものになって欲しい」と言われたら、大喜びで首を縦に振りたいところだ。けれども俺はラウラやカノンの事も大好きだから、ここで首を縦に振れば彼女たちを捨てることになってしまう。

 

「…………すまん、保留で頼む」

 

「ふふふっ。絶対僕だけのものにするから、覚悟してねっ♪」

 

 そう言ってから、今度は血を吸った場所の反対側にそっと鋭い犬歯を突き立てて甘噛みを始めるイリナ。甘噛みしながら彼女は真っ白な手を俺の頭の上へと伸ばし、蒼い髪の中から突き出てしまった角を撫で始める。

 

 キメラの角は、感情が昂ってしまうと勝手に伸びてしまうのだ。どうやらこの角は頭蓋骨が変異して頭皮から突き出たものらしいが、どうして感情が昂ると伸びるのだろうか?

 

「綺麗な角…………」

 

 多分、角の先端部の事だろう。

 

 俺の角の根元は黒いんだが、先端部に行くにつれてサファイアみたいな色に変色している上に透き通っている。親父はマグマみたいな色になっているし、ラウラは先端部に行くにつれてルビーみたいに真っ赤になっている。

 

「ねえ、折っていい?」

 

「やめて!?」

 

 それ頭蓋骨の一部だよ!? 折ったら致命傷だからね!?

 

「冗談だよぉ♪」

 

「まったく…………」

 

 やっと身体にも力が入るようになってきた。さっき飲まされたブラッドエリクサーが血液を補充し始めてくれたようだ。

 

 身体を起こそうとすると、上にのしかかっているイリナがまだ起き上がってはダメと言わんばかりに両腕を押さえつけてくる。もう少し甘噛みしていたいという事なんだろうか。

 

「ねえねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

「明日の夜さ、一緒に出掛けない?」

 

「外出?」

 

「うんっ♪」

 

 イリナは日光を苦手とする吸血鬼の1人だ。太陽の光は吸血鬼の弱点の1つで、中には日光をちょっと浴びるだけで身体が消滅してしまう吸血鬼もいるという。とはいえ日光でどれほどダメージを受けるかは個人差があるらしく、テンプル騎士団に所属する吸血鬼たちは風邪をひいた時のように体調が悪くなる程度で済むという。

 

 だからイリナの場合は、基本的に昼間は棺桶の中で眠っている。そして夕方になった頃に目を覚まして食事をし、完全に日が沈んでから外出するのだ。

 

 それゆえに、イリナが夜中に外出したがるのは珍しい事ではない。前に昼間にイリナを冒険者管理局まで連れて行ったことがあったんだが、あの時は大変だったからな。帰る途中に吐いちゃったし…………。

 

 ちなみに曇り空や雨の日は昼間に外出しても大丈夫らしい。

 

「クラルギスっていう街に、有名なレストランがオープンしたんだって! 一回行ってみたいんだよね♪」

 

「俺は別にいいけど、夜中もやってるのか?」

 

「うん、24時間やってるみたいだよ」

 

「なら大丈夫だな。いいぞ」

 

「やったぁ♪ ふふふっ、そこのパフェが甘くて美味しいんだって♪」

 

 パフェか。俺は甘党じゃないんだよな…………。

 

 どちらかと言うと辛い料理が好きなんだが、そのレストランには辛い料理はあるんだろうか。

 

 とりあえず、明日の夜はイリナを連れて外出だな。ラウラは確か夜遅くまで狙撃手部隊の訓練をしなきゃいけないらしいから、事前に夕飯を作って置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同志ウラル、明日の夜に外出するようです」

 

「そうか…………よくやった、同志フリッツ」

 

 タクヤの奴、イリナを連れて外出だと…………?

 

 誘ったのはどっちかは分からんが、十中八九タクヤの方だろう。一緒に出掛けて買い物や食事をして、イリナともっと仲良くなってから彼女を自分のものにするに違いない。

 

 そんなことは絶対に許さん…………! もしもイリナを連れて宿屋に入ろうとしたら絶対殺してやる…………!

 

「フッフッフッフッフッ…………さあ、スペツナズ。出撃準備だ」

 

「妹のためだけに特殊部隊を全員動かすのか…………」

 

「隊長ってシスコンだったのか………?」

 

「あの、同志ウラル。ま、マジで出撃するんスか?」

 

「当たり前だぁ…………イリナのためだからな」

 

 イリナは俺が絶対に守ってみせる…………!

 

 

 

 

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