異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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シスコンと吸血鬼 前編

 

 

 クラルギスは、タンプル搭の周囲に広がる砂漠を越えた先にある大きな街だ。

 

 元々は、オアシスの中にあった小さな村だった。その小さな村がカルガニスタンを植民地としたフランセン共和国の手によって急激に発展し、今ではフランセンの騎士たちが数多く駐留するだけでなく、数多くの観光客や冒険者も訪れる大きな街に成長している。

 

 カルガニスタンに暮らす部族たちの伝統的な文化を維持しつつ、海外の進んだ文化も取り入れて発展したクラルギスは、おそらくカルガニスタンの中でも最も先進国に近い街だろう。

 

 風通しの良さそうな白いレンガで作られた伝統的なカルガニスタンの建物と、オルトバルカやフランセンに行けばすぐに見受けられるような近代的な建物が並んでいる光景を見つめながら、俺とイリナはバイクから降り、バイクを装備している兵器の中から解除してから、街の入口へと向かう。

 

 バイクが兵器に分類されているのは奇妙な感じがするが、第二次世界大戦の頃には機関銃を搭載したサイドカー付きのバイクを各国の軍が運用していたこともあるから、きっとそれが理由で兵器に分類されているんだろう。実際にモリガン・カンパニーやテンプル騎士団では機関銃付きのサイドカーを装着したバイクを、偵察部隊や警備部隊に支給している。

 

 昼間は猛烈な光で照らされていたカルガニスタンの砂漠は、物静かな星や月に照らされており、まるで安心しているかのように沈黙している。灼熱の日光によって生み出されていた陽炎は見受けられず、今は冷たい風の中で静かに眠りについている。

 

「やっぱり月の光っていいよね!」

 

「そうか?」

 

「うんっ♪ だって日光って熱いし、僕は吸血鬼だから気持ち悪くなっちゃうんだもん」

 

 それは仕方がないよな。そういう種族なんだし。

 

 とりあえず俺はもう二度と一人ぼっちでタンクデサントする羽目になる事はないので、日光でも月明かりでもどっちでもいいんだけどね。

 

 いつもは日光から頭を守るためにかぶっているフードをかぶっていないため、歩きながら隣ではしゃぐイリナがいつもよりも活発に見えてしまう。それに身に纏っているのもいつものようなテンプル騎士団の黒い制服ではなく、白やピンクを基調とした私服で、胸元や両肩がちょっとばかり露出したようなデザインになっている。

 

 服装のせいなのか、いつもよりもイリナが活発に見えてしまう。

 

 普段の制服は彼女たちの身体を日光から守りつつ、夜間の隠密行動の際に発見されにくくするために黒くしてあるのだが、今の彼女が身に纏う私服はそれと真逆という事だ。

 

「ねえねえ、早く!」

 

「随分とはしゃいでるなぁ」

 

「当たり前だよ! あそこのパフェ、本当に美味しいんだからっ♪」

 

 本当に甘いものが好きなんだな、イリナは。

 

 ハンチング帽をかぶり直しながら彼女を見守っていると、俺よりも一足先に街の入り口にある門をくぐっていたイリナが「ほら、売り切れたら大変だよっ♪」と言いながら、ズボンのポケットに突っ込んでいた俺の手を引っ張り始めた。

 

 イリナに手を引かれる俺と、門を警備していた制服姿の騎士と目が合う。てっきり美少女とデートをしている男だと思われるのではないかと思ったが、どうやらその騎士は男が身につけるような服を着ているにも拘らず、すぐ目の前にいる俺を男だと見抜くことはできなかったらしく、「夜は危ないから気を付けてねー」と微笑みながら言って俺たちを通してくれた。

 

 きっとあいつも、俺の事を”少女のような容姿の少年”ではなく”男装した少女”だと思ってたんだろう。ということは、俺は美少女と一緒に遊びに来た男装した少女ということか。

 

 うーん…………やっぱりポニーテールのせいなのかな? でも、前に髪を短くした時も女の子と間違われたし、髪型の問題ではないのかもしれない。顔立ちとか体格のせいだろうか?

 

 とりあえず、俺は男だからな。ちゃんとアハトアハトは搭載してますからね。

 

 適度な殺気を放ちつつ強引に微笑み、通してくれた騎士にぺこりと頭を下げる。するとその騎士は顔を赤くしながら俺から目を逸らし、砂漠の向こうを見据えるふりをして警備を続けた。

 

 なんで顔を赤くしたんだよ…………。

 

「ほら、早く早くー!」

 

「落ち着けって。24時間やってるレストランなんだろ?」

 

「そうだけど、早く行きたいじゃん♪」

 

 やっぱり苦手な日光が無いから、自由に外を歩き回れるのが嬉しいんだろう。レストランにあるパフェが食べられるだけではなく、自由に歩き回れるからこそはしゃいでいるのだろうなと思いながら、俺はイリナに手を引かれながらクラルギスの街中へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら”オリョール1-1”。目標はクラルギス中央の大通りを通過中』

 

「了解(ダー)。オリョール1-1はそのまま上空で待機。目標の位置を知らせろ」

 

『了解(ダー)、同志』

 

 夜のクラルギス上空を舞うのは、テンプル騎士団で正式採用されている汎用ヘリのカサートカ。漆黒に塗装された機体は完全に星空の中に溶け込んでおり、地上から見上げてあのヘリを発見するのは不可能だろう。微かに回転するメインローターの咆哮が聞こえてくるだけである。

 

 搭載している武装は自衛用のドアガンのみ。スタブウイングには増槽を搭載している。

 

 カルガニスタンの伝統的なレンガ造りの建物の屋根によじ登り、VSSに搭載した暗視スコープを覗き込む。通常のスコープは遠くにいる敵を見透かすことができる便利な代物だが、この暗視スコープはより便利な代物だ。魔力を一切使うことなく、暗闇の中にいる敵まで見透かすことができてしまうのだから。

 

 この世界で普及している魔術の中には、暗闇の中にいる敵を見透かすためのものも存在する。しかし魔術の発動に必要なエネルギーが魔力である以上、使えば敵に魔力の反応を教えることになってしまう。はっきり言えばそのような魔術は魔力を垂れ流しているようなものなので、隠れている敵を発見するどころか逆にこちらの位置を教える羽目になる。それゆえにそのような魔術が真価を発揮するのは相手が魔力の反応を感知できる程度の知識を持っていない場合や、魔物程度である。

 

 しかしこの異世界の兵器に搭載することができる暗視スコープは、魔力を使う必要がない。だから夜間での戦闘や暗闇での戦闘になれば、まさにこちらの独壇場なのだ。

 

 訓練通りに少しばかり調整しつつ、上空を舞うカサートカが教えてくれた大通りへと銃口を向ける。そろそろ夜の12時を過ぎる頃だというのに、クラルギスの大通りには防具を身につけた冒険者たちや私服姿の観光客たちが歩いている。ダンジョンから帰ったばかりなのか、傷だらけの仲間に肩を貸しながら歩く冒険者のパーティーもいるし、管理局で予想以上に報酬を払ってもらえたのか、上機嫌そうに酒場へと仲間たちと一緒に入っていく冒険者たちもいる。

 

「いっぱいいますねぇ」

 

「本当にいるんですか? というか、勝手にスペツナズを出動させるのはやっぱり拙いですって」

 

「黙って探せ。イリナを守るためだ」

 

 部下たちにそう言いながら、俺は大通りの人混みの中から妹とタクヤの野郎を探し続ける。いくら人数が多いとはいえ、あの2人の容姿は特徴的だ。桜色の髪の少女と、蒼い髪の少女みたいな少年を探せばいいのだから。

 

 というか、美少女と男を探すつもりではなく、2人の美少女を探すつもりで探した方が適切なのではないだろうか。タクヤを男だと思っていたら逆に見逃しそうだ。

 

 こんなことを本人に言ったら粛清されそうだな…………。

 

『こちらアクーラ4。こっちは位置につきました』

 

『こちらアクーラ8。こっちも大丈夫です』

 

「了解(ダー)。中央の大通りを重点的に見張れ」

 

『『了解(ダー)』』

 

 アクーラ4とアクーラ8は、テンプル騎士団の中でも最強の狙撃手(スナイパー)と言われているラウラが手塩にかけて育て上げた”教え子”たちの中から選抜された、優秀な狙撃手である。

 

 アクーラ4がサプレッサー付きのスナイパーライフルやマークスマンライフルで比較的中距離からの狙撃を行い、アクーラ8はさらに遠距離から、より大口径のライフルでの狙撃を行うことになっている。

 

 彼女が育て上げてくれた逸材をこんな作戦に参加させてしまったのはちょっとだけ申し訳ないと思っているが、イリナを守るために必要な作戦なのだ。

 

『こちらアクーラ4。アクーラ1、聞こえます?』

 

「聞こえる。どうした?」

 

『ええと…………あれじゃないッスかね、妹さんは』

 

「えっ?」

 

 え、もう見つけたの?

 

 さ、さっ、さすがラウラの教え子だ…………。どんな訓練を受けてきたんだろうか?

 

『え、ちょっと待てよニコライ! お前もう見つけたの!? イリナちゃんどこ!?』

 

『バカ、名前で呼ぶなよアクーラ8! ええと、ほら、あそこだ! あの変な壺を売ってる露店の近くの曲がり角! なんか冒険者の男どもに声をかけられてるみたいだぞ!』

 

 ちょっと待てよニコライ! 変な壺売ってる露店ってどこ!?

 

「ま、待てニコライ。その露店ってどこだ? まだイリナどころか露店すら見つけてないんだが―――――――」

 

『隊長まで名前で呼ばないでください! ほら、あの変な棘だらけの野菜を売ってる露店の隣です!』

 

「変な棘だらけの野菜!? もっと分かりやすく説明しろ、ニコライ4!!」

 

『コールサインみたいに俺の名前を呼ばないでくださいよッ! ええと、防具に身を包んだ金髪のお姉さんが店の前に立ってます!』

 

「金髪のお姉さんはいっぱいいるぞ…………!?」

 

『もうッ! オリョール1-1、隊長に教えてあげてください!』

 

『了解した、ニコライ4』

 

『ふざけてるんスかッ!?』

 

 可哀そうだな、あいつ…………。

 

 というか、冒険者の男共に声をかけられているだとぉ!?

 

 くそ、ニコライ4め! 分かりにくい報告をしやがって! タクヤや他の冒険者共に、俺の大切な可愛いイリナを渡してたまるかッ!

 

『こちらオリョール1-1。目標を捕捉した。3時の方向だ。距離はおよそ500m』

 

「助かった。感謝する」

 

『どういたしまして。―――――――報告は分かりやすくな、ニコライ4』

 

『分かりましたからコールサインで呼んで下さいッ!!』

 

 ニコライの声を聴きながら、オリョール1-1が教えてくれた方向へと銃口を向ける。そちらの方向にまで続く大通りには相変わらず多くの旅行者や冒険者がいたが、さっきまで俺が見ていた大通りの一角と比べるとまだ人は少なく、ここからの狙撃は難しくはなさそうだ。とはいえVSSでの狙撃では無理があるので、近くにいる隊員に代わりにやってもらうか、ニコライの奴に担当してもらった方が良さそうだ。

 

 変な棘だらけの野菜を売っている露店の前には確かに金髪のお姉さんが並んでおり、その隣には確かに変な形の壺が売られている。はっきり言うと壺というよりは、腰から上が折れた人間の銅像みたいな形状をしている。あれは本当に壺なんだろうか?

 

 そしてその隣に―――――――最愛の妹が、いた。

 

 白とピンクを基調とした可愛らしい私服に身を包んだイリナと、その可愛らしい妹を奪おうとしている憎たらしいタクヤの野郎が、確かに冒険者の男たちに囲まれて声をかけられているところだった。男たちはニヤニヤと笑っているものの、あのままではイリナが連れ去られかねない。

 

『こちらアクーラ3。狙撃可能な位置につきました』

 

「よし、あの男たちに『タクヤをあげるからイリナを返せ』と伝えろ」

 

『テンプル騎士団の運営はどうするんですか!?』

 

「ナタリアがやってくれるだろ。あいつしっかり者だし」

 

『いや、トップを渡すのは拙いですって!』

 

 あいつを渡せばイリナは無事で済むし、あいつらも後で男だって気付いて精神的にダメージを受けるだろうなと思ったが、やっぱり騎士団のトップを渡すのはダメか。

 

「じゃあ狙撃だ。やっちまえ」

 

『いや、狙撃したら俺たちがいる事がバレません?』

 

「大丈夫だ。昏倒したように見せかけろ」

 

『無茶ですって!』

 

「装填してるの麻酔弾だろ? 大丈夫だ。やれ、同志」

 

『ですから、団長にバレますって! 団長ですよあの人! バレたら粛清されますって!』

 

「やかましいッ! 粛清される前に消せばいいだろ!?」

 

『団長を!?』

 

 そうだ。イリナを奪おうとする男は全員粛清だ! ハッハッハッハッハッ!

 

 アクーラ3にそんなことを言っている間に、男のうちの1人がイリナの手を掴みやがった! 先ほどまでニヤニヤ笑っていた男たちはもう笑っておらず、まるで憎たらしい相手を睨みつけているかのような表情になっている。

 

 くそ、タクヤのバカは何をやってるんだ!? まさか丸腰で出かけやがったのか!?

 

 もし仮に丸腰でも、あいつの力なら素手であんなごろつき共を昏倒させるのは容易い筈だ。まさかイリナは吸血鬼だから大丈夫だと思ってるんじゃないだろうな?

 

 ふざけやがって…………。イリナはな、乙女なんだよ! お前みたいなアハトアハトがついてる紛い物じゃねえんだ!

 

「いいから撃て、アクーラ3! バレてもいい!」

 

『あー、分かりました! 撃ちますから見守っててください!』

 

 ちゃんと責任は取ろう。スペツナズを動かしたのは俺なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういう時は、本当に男らしい容姿が欲しいものである。

 

 もし仮に俺が母さんではなく、親父みたいにがっちりした体格の大男だったなら、こんなごろつきっぽい冒険者共が声をかけてくるようなことはなかっただろう。あんな大男に勝てるわけがないとすぐに判断し、イリナを連れ去るのを諦めてくれたに違いない。

 

 しかし残念ながら俺の容姿は、母さんにそっくりである。だからいくら男だと主張しても、初対面の相手は絶対に信じてくれない。

 

 だからこそ、こういう時に男に声をかけられやすい。簡単に言うと見た目だけで”舐められやすい”のだ。

 

 ああ、本当に困る。

 

「いいじゃねえかよぉ。俺たちと遊ぼうぜ?」

 

「ごめんなさい、私たち急いでるの。行こう、タクヤ」

 

「ああ。それじゃ」

 

「おい、ちょっと待てって」

 

 先ほどのように俺の手を引き、男たちを無視しようとするイリナ。しかし俺の手を掴んでいた彼女の白い腕を、俺から見て左側にいた男の浅黒い手ががっしりと掴む。

 

 日頃から重い得物を振り回しているせいで腕力が強いのか、イリナが振り払おうとしてもびくともしない。さすがに本気を出せば振り払えるだろうけど、ここは俺がこいつらをぶちのめすべきだろうか?

 

 念のため、武器は携帯している。上着の内ポケットの中にマカロフとスペツナズ・ナイフを隠してあるし、首にはワイヤーにつないだコリブリをぶら下げている。傍から見れば小さな拳銃の形をした変わったネックレスにしか見えないだろう。

 

 さすがにコリブリでこいつらを殺すのは無理だが、負傷させるくらいはできる筈だ。それに殺す必要はない。昏倒させるか、ぶちのめせばいいのだから。それゆえにぶち殺すのは最終手段である。

 

 殺す相手はちゃんと選ばないと。

 

 とりあえず、こいつらはぶちのめそう。

 

「離してください」

 

「そんなに怒るなって。ちょっとそこの宿にでも―――――――」

 

 威圧感を出しつつ、イリナを見下ろしながらニヤニヤと笑う男たち。どうせこんな少女2人だけで逃げ切るのは無理だろうと思い込んでいるに違いない。自分たちはいつもダンジョンで魔物と戦っている冒険者なのだから、こんな少女たちに負けるわけがないと決めつけているのだろう。

 

 しかし―――――――後悔するぞ。

 

 お前らがケンカを売っているのは、ヴリシアで数多の吸血鬼を爆殺した攻撃的な吸血鬼と、”魔王”の息子なんだからな…………!

 

「はぁ…………」

 

 ため息をつきながらこっちを見るイリナ。どうやら彼女も、こいつらをぶちのめすことにしたらしい。

 

 その次の瞬間、イリナの腕を掴んでいた男の腕が離れたかと思うと―――――――彼女の腕をしっかりと掴んでいた冒険者の男は、口から血と歯の破片と思われる白い物体を吐き出しながら、宙を舞っていた。

 

「―――――――は?」

 

 もちろん、その男の顎を凄まじい力で殴打したのは、俺の隣で不愉快そうな表情をしている吸血鬼の美少女である。

 

 吸血鬼の身体能力は、基本的に一般的な人間を遥かに上回る。瞬発力やスピードでは勝負にならないし、人間では鍛錬を繰り返して鍛えなければ持ち上げられないような大剣でも、吸血鬼ならば利き手ではない方の腕だけで容易く振り回してしまう。

 

 そんな腕力と瞬発力でぶん殴られれば、大男だって宙を舞える。

 

 良かったね、空を飛べて。眺めはどう?

 

「えっ?」

 

「あ、あれ…………?」

 

 ごく普通の少女に仲間がぶん殴られたことが信じられないらしく、呆然としながら落下する仲間を見下ろす冒険者たち。イリナの腕をつかみ、彼女の逆鱗に触れる羽目になってしまったおバカな冒険者の男は、地面の上で気を失っているようだった。

 

 もちろん歯は何本か欠けていて、白目になってしまっている。

 

 敵意をその男たちに向けながら、「君たちも飛んでみる?」と言わんばかりに拳を握り締めるイリナ。先ほどまで手も足も出ないだろうと決めつけていた男たちが、目を見開いて怯えながら後ずさる。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気を失った男を2人で抱え、大急ぎでイリナの目の前から逃げていく男たち。周囲の通行人にもたった1人の少女に負けた無様な姿を見られていたのだから、多分この街にいるのは難しいだろう。

 

 無様な姿を見た通行人たちに笑われながら退散していく男たちを睨みつけていたイリナは、息を吐きながら肩をすくめた。

 

「最初からぶん殴ればよかったね」

 

「それも悪くないな」

 

 殴り足りなかったのか、イリナはまだ不機嫌そうだ。

 

 せっかく外出を楽しみにしていたのに、変な奴らに邪魔されたからなぁ…………。

 

 彼女の手をそっと握った俺は、まだ不機嫌そうな顔をしているイリナの耳元でそっと呟いた。

 

「―――――――奢るから、今夜は好きなものを食べていいぞ」

 

「本当!?」

 

「ああ。パフェでもケーキでもいい。財布の中の金がなくなるまで付き合うからさ」

 

「やったぁ♪」

 

 はははっ。やっと機嫌が良くなった。

 

「よーし、じゃあ早く行こうよっ♪」

 

「はははっ。はいはい」

 

 スキップしながら俺の手を引っ張るイリナ。

 

 彼女と一緒に街の中を進みながら、俺も久々にスキップすることにした。

 

 

 

 

 

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