異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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天秤の在り処

 

 自室で腹違いの姉と夜間の警備から帰ってきたルームメイトに朝食を振る舞ってから、俺は部屋を後にした。

 

 イリナはどうやらかなり眠かったらしく、朝食を終えてから口元を拭き、歯を磨いたらすぐに愛用の棺桶の中に潜り込んでそのまま眠ってしまった。イリナの寝相は結構凄まじく、彼女と睡眠時間が嚙み合ってしまうと眠っている最中に飛び蹴りを喰らう羽目になってしまう事も多々あるので、ちゃんと彼女は寝る前に棺桶の蓋を閉めるようにしている。

 

 部屋に戻ったら部屋の中がイリナの寝相で滅茶苦茶にされていても困るので、ちゃんと蓋を閉めて眠っているのはありがたい。

 

「えへへへっ♪」

 

 相変わらず、左腕にはお姉ちゃんがしがみついている。外出する時はキメラであるという事を隠すためにベレー帽をかぶり、真っ赤な鱗に覆われた尻尾をミニスカートの中に隠しているんだが、今ではもうタンプル搭の中では俺たちがキメラであるという事は完全に知られているので、少なくとも要塞の中を出歩くのであれば細心の注意を払って隠す必要はない。

 

 歩く俺の肩に頬ずりするラウラは幸せそうな表情をしているが、彼女にそんなことをされながら歩く俺は非常に歩きにくいし、すれ違った団員たちも苦笑いしながら敬礼するか、「羨ましい…………」と呟きながら立ち去っていく。

 

 俺の威厳は、多分そんなに高くないだろう。どうすれば親父みたいな指導者になれるのだろうか。

 

 そう思いながら、すれ違っていく兵士たちとラウラがぶつからないようにさり気なく俺も尻尾を伸ばし、彼女を支えながら歩く。それをエスコートと勘違いしているのか、それとも強引にそう思い込んでいるのか、ラウラは顔を赤くしながら微笑み始めた。

 

 ヴリシアでは進撃してくるマウスに肉薄して大損害を与え、図書館防衛戦では狙撃でヘリのコクピットを狙撃して撃墜する戦果をあげた最強の狙撃手とは思えない…………。戦闘中はかなり頼りになるお姉ちゃんだが、普段は甘えん坊のお姉ちゃんだ。

 

「ねえねえ、今日デートに行かない?」

 

「んー…………ごめん、明日でいい? 今日はちょっと研究室に行かないと」

 

「うん、分かったっ♪」

 

 そう、俺は今から研究室に向かわなければならない。

 

 研究室は第三居住区の隣に新設された、”研究区画”と呼ばれる新しい区画にある。主にここでは捕獲してきた魔物の研究や新しい魔術などの実験などを行う、本格的な研究施設である。そのためこの区画を新設すると同時に優秀な技術者や錬金術師たちを選抜し、彼らを研究員に任命してここで働いてもらっているのだ。

 

 テンプル騎士団の構成員の大半は奴隷だった人々だが、彼らはここにやってくる前に様々なことを経験している。例えば騎士団の中に設立された奴隷たちの部隊の一員として死闘を繰り広げていた兵士もいるし、奴隷として錬金術師の助手をしていた者もいる。貧しい生活をしながら虐げられていた彼らだが、そこで身につけた技術は俺たちの役に立ってくれている。

 

 もちろん奴隷だったからと言ってそういう扱いをするわけではない。何か要望があればそれを実現するし、研究費を増額してほしいという要望があれば増額のための対策を考える。

 

 エレベーターのスイッチを押し、地下3階へと向かう。もちろん鉄格子に似たエレベーターの扉の向こうへと入っていく時も、お姉ちゃんは俺の左腕にしがみついて頬ずりをしたままだ。

 

 第三居住区までそのままエレベーターで降り、壁から配管やケーブルが剥き出しでなければ、まるで客室が連なるホテルの廊下を思わせる通路を進む。やがて兵士ではない非戦闘員たちの姿が見当たらなくなると同時に、目の前には様々な国の言語で『これより先、研究区画。非戦闘員立ち入り禁止』と書かれた、戦車砲でも持ってこなければ破壊できないほど分厚い扉が姿を現す。

 

 天井には機関銃とセンサーを搭載した2基のターレットが搭載されており、更にはAK-12を装備した警備班の兵士が2名待機して警備している。

 

 ここから先は、そういう区画なのだ。

 

「お疲れ様です、同志団長」

 

「お疲れ様。今から入りたいんだけど、いい?」

 

「はい。では念のため、魔力認証を」

 

「はいはーい」

 

 そう言いながら、警備兵が壁に設置されていた装置を指差す。

 

 その壁の中には特殊なパネルが埋め込まれており、そのパネルの上には青白い魔法陣が常に展開してくるくると反時計回りに回転を続けている。

 

 モリガン・カンパニーで開発され、各国の騎士団で認証装置として導入が進んでいる”魔力認証装置”だ。簡単に言えば、あれに向かってほんの少し魔力を注入することで、装置がその魔力を解析するというわけだ。網膜認証や指紋認証のようなものである。

 

 装置に手をかざして魔力を注入すると、展開している小さな魔法陣の中に凄まじい数の文字や数字が表示され始める。読み進めることができないほどの速さで増殖していく文字たちの羅列が消滅すると、今度はぴたりと魔法陣の回転が止まり、表面に『解析および認証完了』と表示される。

 

「では、先にお進みください」

 

「ありがと。ほら、ラウラも」

 

「はーいっ!」

 

 いくら副団長だからと言って、この認証を受けないわけにはいかない。

 

 魔力には様々な情報が含まれており、それを解析するだけで目の前にいるのがその人物で合っているのかどうかを確認することができる。どれだけ変装しても、魔力まで変質させることはエンシェントドラゴンでも不可能なのだ。

 

 ラウラもあっさりと解析を済ませ、再び俺の腕にしがみついてくる。苦笑いする警備兵に敬礼してから、彼女を連れて研究区画へと繋がる分厚い扉を潜った。

 

 猛烈な薬品の臭いや、様々な種類の薬草の匂い。そしてその中に微かに紛れ込んでいるのは、魔物の体液が発する生臭い臭い。ラウラよりも嗅覚が発達しているからそういう臭いも瞬時に嗅ぎ分けられるのだが、出来るならばあまりここには長居したくないな。

 

 鼻がぶっ壊れそうだ。

 

 近くにあった研究室のうちの1つを覗き込むと、案の定、部屋の中にはまるで標本のように手足や胴体をやや太い針で串刺しにされたアラクネの変異種と思われる魔物が、数名の研究者に群がられ、切り裂かれた内臓を調べられたり、薬草を磨り潰した薬品を塗りつけられながら呻き声を上げているところだった。あの生臭い臭いの発生源の1つだろうが、ここだけではない筈だ。まだまだ別の魔物の体液や内臓の臭いがするのだから。

 

 残酷かもしれないが、ここでは魔物の解剖も行っている。魔物の持つ毒を調べれば解毒剤も作り出せるようになるし、新しい弱点も掴むことができる。そういった情報があるだけで兵士たちの生存性の向上にもつながるのだから、こういう研究は必要になる。

 

 それに魔物には多数の変異種もいるので、そういった変異種も調べなければならない。今しがた解剖されていたアラクネも、おそらくは体内に毒を持つ変異種だったのだろう。

 

 でも俺たちがここにやってきたのは、魔物の解剖を見るためじゃない。そんなグロテスクなものをまじまじと見つめる趣味はない。

 

 目的は―――――――ここで研究されている、メサイアの天秤の鍵だ。

 

 奥へと進んだ所に、”古代文明研究科”と書かれたプレートがぶら下がっている。主に古代文明の研究や、古代文字の解読などを行っている部署だ。奴隷たちの中には考古学者の助手をやらされていた者たちもいるので、ここで研究をしてもらっている。

 

 もちろんここを統括するのは、その解読が必要な古代文字を母語としていたサキュバスの少女だ。

 

 ドアを開けて中へと入ると、白衣を身につけた研究者たちが資料の山を見つめていたり、古文書と思われる古びた本を解読しているところだった。

 

 その中に、やけに背の低い考古学者が紛れ込んでいる。お尻の辺りまで伸びた長い銀髪は毛先の方が綺麗な桜色に変色していて、身につけた大きな白衣を彩っていた。まるで小さな子供が学者の真似事をして遊んでいるようにも思えるが、表情は真剣で、メガネをかけて資料を目にする姿は背丈を除けば世界中で活躍する考古学者たちと変わらない。

 

「ステラ」

 

「ああ、タクヤ。お疲れ様です」

 

「ステラこそお疲れ様。調子はどう?」

 

 そう言いながら近くの椅子を引っ張り、ラウラを座らせてからもう1つの椅子に腰を下ろす。

 

「相変わらず進展は…………ごめんなさい」

 

「気にするなって。時間はあるんだからさ」

 

 ステラが呼んでいたのは、かつてメウンサルバ遺跡の地下にあったヴィクター・フランケンシュタインの実験室の中で発見した記録だ。メサイアの天秤を生み出し、世界で初めてホムンクルスを作り上げたと言われている伝説の錬金術師の記録を手に入れたからこそ、俺たちはメサイアの天秤の鍵がどこにあるのかを突き止め、すべて手に入れることができたのである。

 

 そう、今の俺たちの手元には、メサイアの天秤の鍵が3つある。

 

 1つは海底神殿でシーヒドラとの死闘に勝利し、手に入れた鍵。

 

 2つ目は倭国にある九稜城に潜入し、ボシン戦争の最終決戦の真っ只中に手に入れた鍵。

 

 3つ目はヴリシア帝国へと侵攻し、吸血鬼たちから強奪した最後の鍵。

 

 この3つの鍵があれば、天秤を手に入れることはできるだろう。しかしこれで天秤が俺たちの物になったと決まったわけではない。まだ大きな問題が残っているのである。

 

 ―――――――肝心なメサイアの天秤がどこに保管されているのか、分からないのだ。

 

 間抜けな話かもしれないが、目的である天秤の場所が分からない。記録にも鍵の在り処だけが記されていただけで、天秤そのものの在り処についての記述はなかったのである。ステラの話では一番最後のページに何かの暗号らしき記述があったというが、それが本当に天秤の在り処についての記述なのかは不明だ。

 

「ステラ、例の最後のページを見せてくれ」

 

「はい、こちらです」

 

 そう言いながら記録のページを捲るステラ。意味不明な記号や複雑な文字がずらりと並ぶページの最果てに、短い古代文字の文章と、それを現代のオルトバルカ語に訳した文章が記載されていた。

 

≪メサイアの天秤は、3つの鍵の頂点にあり≫

 

「頂点…………」

 

 果たして、頂点とは何を意味するのか。

 

 3つの鍵とは、俺たちが集めてきた鍵の事で合っているだろう。その鍵の頂点とはどういうことだ…………?

 

 複雑な古代語を母語としているステラが翻訳したものなのだから、訳が間違っているのはありえない。何かの暗号の可能性もある。

 

「ふにゅ…………これ、本当に天秤の在り処の事なのかなぁ?」

 

「うーん…………」

 

 他のページに書かれている文字と、この暗号らしき文章を書いた人物は間違いなく同一人物だろう。筆跡が全く同じだ。だからこれは、伝説の錬金術師と言われたヴィクター・フランケンシュタイン氏が書いた文字であることは間違いない。

 

 メサイアの天秤は実在しないのではないかと一瞬だけ思ってしまったがすぐに俺はそれを否定した。

 

 ステラが封印される前、サキュバスたちの運命を背負って旅立ったサキュバスの戦士たちが、『天秤は確かに実在する』と証言したのである。それに大昔から生き続けているエンシェントドラゴンのガルゴニスも、俺たちに天秤を探すのは止めろと言いながらも、天秤はあると明言していた。

 

 その話が嘘とは思えない。

 

 だから、実在する筈なのだ。手に入れた者の願いを叶える神秘の天秤は。

 

 俺たちの旅の目的はテンプル騎士団を大きくすることではない。天秤を手に入れ、人々が虐げられることのない平和な世界を作ることだ。そうすれば奴隷にされる人々もいなくなり、貴族たちに虐げられる労働者もいなくなる。この世界に住むすべての人類が解放されるのだから。

 

「ふにゅう…………鍵を全部合体させると天秤になるとか?」

 

「実は、一番最初にそれをやりました」

 

「ふにゅう!? そ、それで、どうだったの!?」

 

 興奮しながらラウラが尋ねると、ステラはまるで全く現実を知らない子供に本当の事を教える大人のように、呆れながら言った。

 

「そんなことで鍵が天秤に早変わりしたら、こうして古文書や記録を読んで考えてはいないと思うのですが?」

 

「ご、ごめんなさい…………」

 

 白衣に身を包んだ幼女に向かってぺこりと頭を下げるラウラ。一応彼女は副団長だから、権力では騎士団の中でもナンバー2の筈なんだが、やっぱりステラの威圧感には勝てないか…………。

 

 というか、そんな明らかに間違っていることを一番最初にやったのか。何やってんだステラは。

 

「と、とりあえず、引き続き頼む。何か差し入れが欲しければ何でも―――――――」

 

 そう言った俺は、慌てて言うのを止めた。

 

 ステラは魔力を吸収しなければ生きられないサキュバスの生き残り。彼女たちが満腹感を得るためには、魔力を吸収しなければならない。それ以外の食べ物を食べたとしても栄養として身体に吸収されることはないので、その気になれば延々と食べ物を食べ続けることも可能なのである。

 

 つまり彼女に差し入れする時に”何でも”と言ってしまったら、下手したらタンプル搭の食糧庫が空になってしまうほどの食べ物を要求されるという事だ。

 

 簡単に言えば、ステラに”何でも”と言うのは、飢餓状態が始まるスイッチを押すようなものなのである。

 

「では、後でウィッチアップルを使ったアップルパイと、ミノタウロスの肉を使った牛丼と、リヴァイアサンの刺身と―――――――」

 

 こ、高級食材のオンパレード…………ッ!?

 

 貴族が平然と高級レストランで注文するようなコース料理に出てくるような食材ばっかりだぞそれ!? 食糧庫どころか騎士団の資金にも大ダメージが…………!

 

「ふふっ、冗談です。あとでスオミの里からサルミアッキをいっぱいもらってきてください」

 

 た、助かったぁ…………。

 

 確か来週にはスオミ支部との合同訓練があるから、その時にアールネたちから貰ってこよう。でっかい袋でもらってもステラならその日のうちに食べ尽くしちゃうだろうから、輸送ヘリの格納庫にどっさりと詰め込んできた方が良さそうだ。

 

 ニコニコと笑うステラの頭を撫でると、彼女はまるで飼い主に撫でられる子猫のように気持ちよさそうな表情を浮かべながら、俺にしがみついてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠と、青空。

 

 それしか、ここには存在しない。遠くを見据えても見えるのは猛烈な陽炎と舞い上がる砂だけで、砂漠を越えようとする者たちや、オアシスすら見当たらない。

 

 俺以外には何もない、静かな砂漠。

 

 気が付いたら、そこにいた。

 

「…………え?」

 

 ちょっと待て、どういうことだ?

 

 俺はついさっきまで列車に乗っていた筈だ。駅で切符を購入してホームから列車に乗り、ベルリンにある大学の学生寮へと戻ろうとしていた時の事を思い出す。明日からまた大学に行かなければならなくなるから、準備をするために実家からベルリンへと戻る途中だったのだが、列車がいきなり急ブレーキをかけたところで俺は…………意識を失った。

 

 そして変な真っ暗な空間に連れて行かれて―――――――そこで、奇妙な端末の説明を受けた。

 

 あ、そうだ。確か俺のポケットに入ってるはずだ。

 

 そう思いながら慌ててジーンズのポケットの中に手を突っ込むと―――――――確かにそこには、真っ赤な端末が入っていた。画面に軽く触れると、まるでゲームのようなメニュー画面が現れる。

 

 全て、あの時受けた説明の通りである。

 

「…………どっ、どういうこと?」

 

 ということは、ここは…………ドイツじゃないの? 中東でもなさそうだし…………。

 

 ここ、どこだ…………?

 

 

 

 

 

 

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