異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「も、もう、何やってるの…………タクヤのバカ」
ペリスコープからその光景を見ていたイリナは、微かに顔を赤くしながら溜息をついた。
彼女がタクヤやラウラたちの仲間になったのは、彼らがシベリスブルク山脈を無事に越え、カルガニスタンへとやってきた後である。そのため彼らがそれ以前にどのようなダンジョンを調査してきたのかは、彼らの土産話でしか聞いたことがない。
父であるリキヤ・ハヤカワやエミリア・ハヤカワとは真逆で、息子であるタクヤはどんな汚い手でも使う男だという事は、前々からナタリアから聞かされていたイリナ。少なくとも自分の目の前でそのような戦い方をした事は数回しかなかったため、いつの間にかタクヤがそういうことをする男だという事を忘れていたのかもしれない。
もう一度溜息をつきつつ、今しがたタクヤの強烈な一撃で倒れ込んだトロールの様子を確認する。モスグリーンの皮膚の表面には、まるで海や川で水浴びでもしてきた直後のようにびっしりと脂汗が浮かんでおり、呼吸もすっかり荒くなってしまっている。それほど大きなダメージを受けたという事だ。すくなくとも、すぐには動けないであろう。
そうなると、狙うべきなのは中央と左側から進撃してくるトロールのうちのどちらかだ。すでに中央のトロールを狙うように指示を出していたイリナは、自分の判断が間違っていなかったことを確認すると、素早く仲間の位置を確認する。
タクヤは右側のトロールに9mm弾のフルオート射撃を撃ち込みつつ、彼を追い払うために振り回される剛腕をひたすら回避している。ナタリアはラウラと一緒に行動しており、2人で左側のトロールへと攻撃を仕掛けようとしていた。
誰も、主砲の砲撃で巻き込まれる位置にいない。
(よし…………ッ!)
やはり、自分の判断は合っていたと言える。
「主砲、発射!」
「発射(アゴーニ)!」
カノンが主砲の発射スイッチを押し――――――――狭い砲塔の中に自動装填装置と共に装備された、130mm戦車砲が火を噴いた。
新型の戦車が採用している滑腔砲などと比べると、この戦車砲は攻撃力で大きく劣っていると言える。複合装甲ですら貫通するAPFSDSではなく、使用できるのは古めかしい徹甲弾や榴弾などだ。そのため、もし仮に新型の戦車と戦う羽目になれば、大口径の130mm戦車砲でも歯が立たないのは想像に難くない。
しかし、相手が戦車でないのならば、十分すぎる火力と言えた。
爆炎を纏いながら砲身から躍り出た徹甲弾が、獲物へと襲い掛かろうとするトロールへと疾走していく。陽炎と炎の残滓で自分の”足跡”を残しながら飛翔した徹甲弾は、これから自分が襲い掛かろうとしている獲物が、分厚い装甲と恐ろしい破壊力の戦車砲を兼ね備えた怪物であるという事を理解していない、”哀れな怪物”へと牙を剥く。
カノンの正確な照準によって解き放たれた徹甲弾が着弾したのは、トロールの大きな胸板であった。
柔らかい皮膚と脂肪をあっさりと抉り、あらゆる魔術や攻撃から身を守ってきた分厚い胸骨を容易く叩き割った徹甲弾は、未だにたっぷりと残っている運動エネルギーをフル活用して暴れまわり、ついにトロールの心臓へと襲い掛かった。
内臓に砲弾を弾き飛ばせるほどの防御力があるわけがない。巨大な身体を持つ魔物でも、あくまでも防御力があるのは外殻や骨格などだ。内臓は非常に柔らかいという事は、人間と全く変わらない。
心臓に牙を剥いた徹甲弾は、容易くトロールの巨大な心臓を抉り取ると、その破片を先端部にこびり付かせたまま背骨の一部を抉り、今度は背中の皮膚を突き破って外へと飛び出す。
さすがに2回も分厚い骨に激突したせいで先端部は変形し、完全にひしゃげていた。運動エネルギーも使い果たしてしまった徹甲弾は、まるで運動エネルギーを失ったボールが地面に転がり落ちるように墜落し、倒壊した建物の瓦礫の上へと落下する。
胸板に大穴を開けられた挙句、心臓まで抉り取られたトロールは――――――――白目になり、今まで数多の獲物を喰らってきた大きな口から鮮血を吐き出すと、風穴を大きな手で塞ごうとして足掻きながら、そのままネイリンゲンの大地の上へと崩れ落ちた。
「トロール、撃破!」
「ステラちゃん、一旦後退!」
「了解(ダー)!」
ゆっくりとオブイェークト279を後退させつつ、イリナはもう一度左右のトロールを確認する。最初はこの戦車を狙っていたトロールはもう完全にラウラやタクヤの相手をすることに夢中になっており、戦車が動き出したことに気付いているトロールは1体もいない。
念のため、イリナはハッチから顔を出して後方も確認した。たった今の砲撃でトロールを始末したのは喜ばしい事ではあるが、その凄まじい轟音で他の魔物を刺激し、包囲される危険性もある。タクヤがあのトロールたちを攻撃することをすぐに選択できなかったのは、それを恐れていたからなのだ。
幸い、今のところは他の魔物たちが集まってくる気配はない。しかし、あまり時間をかけることも許されない状況である。戦闘が長引けば魔物たちに包囲される恐れがある上に、またあの大気流が活性化し、彼女たちに牙を剥くかもしれないのだから。
タクヤの先制攻撃で致命傷を負ったトロールがゆっくりと起き上がろうとしつつ、剛腕で自分の周囲を薙ぎ払う。あんな剛腕で殴り飛ばされれば、どんなに頑丈な防具を身につけていたとしても木っ端微塵にされてしまうだろう。それゆえに、今の一撃でタクヤが木っ端微塵にされていないか心配になったイリナは、息を呑みながらそちらを注視してしまう。
だが、あの身軽な少女のような容姿の少年がその程度で命を落とすとも思えなかった。案の定、舞い上がる土埃の中から見慣れた黒いコート姿の少年が姿を現し、立ち上がろうとするトロールのアキレス腱を2本のスペツナズ・ナイフで斬りつけている姿を目にしたイリナは、溜息をつきながら微笑んだ。
(あんなでっかい魔物にナイフで挑むなんて…………)
しかし、タクヤもナイフの扱い方に秀でた兵士の1人だ。立派な大剣を持つ騎士が相手だったとしても、ナイフ一本で”解体”してしまう事だろう。
彼は
ラウラとナタリアの2人も、順調にトロールにダメージを与えているようだった。ナタリアもタクヤと同じようにPP-2000のフルオート射撃をトロールのアキレス腱へと撃ち込み、体勢を崩そうとしているのが見える。ラウラは倒壊しかけの建物の屋根の上を変幻自在に飛び回り、トロールをひたすら攪乱し続けている。
(キメラの運動神経って凄いなぁ…………)
ジャンプ中に造作もなく宙返りし、着地すると同時に素早く移動するラウラ。そのまま屋根の上からジャンプして瓦礫の山の上に着地したかと思うと、トロールの顔面に9mm弾をお見舞いし、ナタリアが狙われないように攪乱しながら、今度は2階建ての半壊した建物の穴から部屋の中へ飛び込む。
タクヤを凌ぐスピードである。
砲撃で支援するべきだろうかと思ったイリナが、自動装填装置を操作して徹甲弾を装填するカノンに指示を出そうとしたその時だった。
『こちらシュタージ! ゴライアス、応答せよ!』
「こちらゴライアス。どうしたの?」
今度はクランの声ではない。
『緊急事態だ…………! 気を付けろ、北東部の風圧が急上昇している。車外で作業中の隊員をすぐに収容せよ!』
「なっ…………!?」
『気圧上昇まであと15秒! 急げ、全員吹っ飛ばされるぞ!!』
「ちょっと待ってよ、外にはまだタクヤたちが――――――――」
よりにもよって、トロールとの戦闘中なのだ。しかも肝心な
「ステラちゃん、急いで前進して!」
「分かってます!」
『風圧上昇まで10秒前!』
「くっ…………。みんな、急いで戦闘を中断して、こっちに戻って! 早く!」
『くそったれ、間に合わんぞ!? ナタリア、ラウラ、そっちは!?』
『ごめん、こっちも間に合いそうにない…………!』
「そんな…………!」
あまりにも急すぎる。
イリナは今すぐ無線機のマイクを鷲掴みにし、いきなりこんな報告をしてきたオペレーターを怒鳴りつけてやりたかった。事前に気圧の上昇をドローンからのデータで予測し、素早く報告するのが彼らの役目である。今の報告は遅すぎるとしか言いようがなかったが、全く環境が変わってしまったダンジョンの気候を予測するのがどれだけ難しい事なのかも理解はしている。だからイリナは歯を食いしばり、仲間たちを無事に収容できるように祈り続けた。
戦闘を強引に中断したラウラとナタリアたちが、屋根の上や倒壊した建物の瓦礫の上を走っているのが見える。反対側からはタクヤも戦車へと戻ってくる姿が見えたが―――――――キューポラの外を舞う砂塵の壁が一気に分厚くなったかと思った瞬間、猛烈な風圧が生んだ砂塵の濁流が、キューポラの外に広がる全ての存在を押し流していた。
戦車の装甲に砂塵や小石がぶつかり、奇妙な音を奏でる。
その音を聴きながら、イリナは目を見開いていた。
目の前で、仲間たちの姿が見えなくなってしまったのだから。
「そんな…………」
先ほど戦車砲で胸板を貫かれたトロールの死体が、まるで濁流に巻き込まれた流木のように押し流されていく。あれほどの体重を持つトロールですら容易く吹き飛ばされてしまうほどの猛烈な風なのだ。大気流に吹き飛ばされないような構造になっているオブイェークト279であれば心配はないが、人間がこんな風の中へと放り出されればどうなるのかは想像に難くない。
「―――――――嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
砂塵に覆われたキューポラの外を見つめながら、イリナは絶叫していた。
目の前に、懐かしい光景が何度もフラッシュバックする。
生まれたばかりの俺の顔を覗き込む親父や母さんの顔。図鑑を読み始めた幼い俺を褒めてくれた母さんやエリスさん。小さなベッドの隣で眠る、まだ幼いラウラの顔。
全て、ネイリンゲンに住んでいた頃の思い出だ。
もう少しこの思い出を見ていたいと思ったが―――――――身体中に感じる凄まじい激痛が、強引にそのフラッシュバックを引き裂く。
そういえば、俺はさっきまで何をしていたんだっけ…………?
瞼を開けながら、片手で頭を押さえる。額の表面は暖かくてぬるりとした鉄の匂いがする液体で覆われていて、そこに手で触れるとやけにしみる。傷口が開いちまったのか?
手を離してみると、やはり手のひらには血が付着していた。ただ切り裂いたくらいならばエリクサーを使う必要はないだろうと高を括っていたが、出血量がやけに多い。身体を動かそうとすると頭がくらくらする。
くそ、エリクサーはどこだっけ…………?
エリクサーで回復するために、コートについている短いマントの内側にあるホルダーを確認しようとしたその時、自分の足が見えた。
右足は、ズボンが傷だらけになっていることを除けばいつも通りだ。きっとズボンの下にある足も傷だらけだろうなと思いながら、左足の方をちらりと見る。
膝の辺りがやけに真っ赤になっていて―――――――逆方向に、曲がっていた。
普通の足なら、後ろへと簡単に曲がる筈だ。しかし俺の左足は微かに前へと曲がっており、力が全く入らない。というか、力を入れようとすると激痛がする。
「うわ、折れてるのか…………?」
最悪だ。いくらキメラでも、片足の骨が折れている状態では立ち歩けない。けれども、モリガン・カンパニー製のヒーリング・エリクサーがあれば、骨折していたとしても数秒で元通りになる。さすがに失った手足を再び生やすことはできないが、瞬時に傷口を塞ぐことができる優秀なアイテムであるため、今では冒険者や傭兵だけでなく、魔物と戦う騎士団でも必需品と言われるほどである。
吸血鬼並みの疑似的な再生能力を手にすることができるのだから。
だが―――――――マントの内側にあるホルダーを探っていた指に触れたのは、ホルダーの中に納まっている試験管にも似た容器の感触ではなく、割れたガラスの断面に触れたような、鋭い感触だった。
いつも5本程度のヒーリング・エリクサーの容器が収まっているホルダーを順番に探っていくが、どれも同じだった。つるりとしたガラスの感触ではなく、割れたガラスの断面にも似た、力を込めて指を押し付ければ皮膚が切れてしまいそうな感触である。
くそったれ、吹っ飛ばされた衝撃で割れたのか…………!
エリクサーは頼りになる回復アイテムだけど、この容器の耐久性だけは文句を言いたい。確かにあんな風圧で吹っ飛ばされ、どこかの廃墟の壁に叩きつけられる衝撃は想定していないのかもしれないが、もう少し耐久性を上げてほしいものだ。ガラスじゃなくてもいいから、もう少し壊れにくい容器にしてくれという意見を本社に送ったら、フィオナちゃんは対策を考えてくれるだろうか?
というか、ここはどこだ…………? ラウラとナタリアは?
周囲を見渡してみるが、どうやら俺は運良く建物の中へと吹っ飛ばされたらしい。あの大気流で吹っ飛ばされ、そのままどこかの建物の窓の中へと突っ込む羽目になったんだろう。土埃が舞う建物の中にはすっかり古くなった木製の樽が乱立しており、その中からはどろりとした奇妙な液体が漏れ出しているのが見える。
悪臭しかしない場所だが、その液体からは微かにアルコールの匂いがする。ここはワインの倉庫だったんだろうか?
ちらりと外を見てみるが、気流の勢いも弱まっているようだ。この折れた脚さえ何とかなれば、脱出は簡単だろう。
エリクサーが使えないのならば、治療魔術を使うしかない。
一応、このような重傷を負った場合にも応急処置くらいはできるように、俺は”ヒーリング・フレイム”という回復用の魔術を習得している。光属性の炎を使って治療する魔術で、ヒールよりも傷口を治療し易いという長所があるのだが、ちょっとばかり詠唱が必要だ。しかも俺の場合は体内の魔力の一部を光属性に変換し直さなければならないため、詠唱はさらに長引く上に効果も若干落ちてしまう。
体内に変換済みの魔力があるおかげで、詠唱せずに魔術を使えるのは魅力的だ。だが、何かしらの属性にのみ特化しているせいで汎用性は極めて低く、別の属性の魔術を使う際はただの足枷に過ぎない。
だが、このまま足が折れた状態で座っているよりはマシだ。
手を折れた左足に手のひらを近づけ、詠唱を始めようとしたその時だった。
倉庫の扉が軋むような音がしたかと思うと、背の小さな人影の群れが、倉庫の中へと入り込んできたのである。ナタリアとラウラが助けに来てくれたのかと思ったが、もし仮に助けに来てくれたのならば2人だけの筈だ。しかし倉庫に入り込んできた人影は、明らかに5人以上いる。戦車にいるイリナやカノンたちが加わったとしても、それよりも人数が多い。
それに、全員やけに背が小さいし、唸り声も上げている。中にはその辺で拾ったのか、木製の棍棒を手にしている奴も紛れ込んでいて、倉庫の中に座り込んでいるこっちを睨みつけながら棍棒を振り回し始めた。
頭髪は見当たらない。人間の半分くらいの伸長で、皮膚はダークグリーンの皮膚に覆われている。唸り声を発する口の中には猛獣を思わせる鋭い牙が何本も生えていて、口元はよだれで濡れていた。
くそ、ゴブリン共か…………!
慌ててPP-2000を引き抜こうとしたのか、さっきの暴風でどこかへと吹っ飛ばされたのか、ホルスターの中に見当たらない。舌打ちをしてから代わりにPL-14をホルスターの中から引き抜き、安全装置(セーフティ)を解除してからサプレッサーを取り外す。
サプレッサーがなければでっかい銃声が轟く羽目になる。そうすれば魔物たちを刺激し、数多くの魔物がここに集まってくるリスクがあるが、運が良ければこの銃声に気付いたナタリアとラウラが助けに来てくれるかもしれない。それに、もし仮に彼女たちが俺を見捨てて逃げることを選択したとしても、魔物を刺激してここに集中させれば囮にはなれるだろう。
できれば前者がいいけどね…………。
ライト付きのハンドガンを構え、棍棒を振り回しているバカに9mm弾をお見舞いする。スライドが後方へとブローバックし、微かに煙を纏った小さな薬莢を排出した頃には、銃口から飛び出した1発の弾丸がゴブリンの眉間を直撃し、人間よりも小さな脳味噌を木っ端微塵にしているところだった。
がくん、と頭を大きく後ろへ突き飛ばされたゴブリンが、風穴から鮮血を吹き出して崩れ落ちる。いきなり仲間を殺された事と銃声に驚愕したゴブリンたちがこっちを睨みつけて警戒し始めるが、警戒しても意味はない。
こっちは狙いを定めて、トリガーを引くだけでいいのだから。
続けざまに照準を合わせ、鍛冶屋の廃墟から拝借してきたと思われる錆だらけの盾と剣を持っていたゴブリンに9mm弾を叩き込む。同じように眉間に命中し、2体目のゴブリンが床へと崩れ落ちると、他のゴブリンたちはこのまま警戒していても無意味だという事を悟ったのか――――――――甲高い咆哮を発し、一斉に襲い掛かってきやがった!
「くそ!」
立て続けにPL-14を連射してゴブリン共を血祭りにあげていくが、早くも今の銃声で刺激された他のゴブリンたちが、ぞろぞろと倉庫の入り口から入り込んできやがる!
瞬く間に弾丸をうち尽くしてしまったPL-14からマガジンを取り外し、尻尾を使って新しいマガジンを装着しつつ、左手をコートの内ポケットの中へと伸ばす。その中に納まっていた”もう1つの得物”を掴み取ると、素早く安全装置(セーフティ)を解除して銃口をゴブリン共へと向けた。
傍から見ると、その銃はマカロフに似ている。がっちりしたPL-14と比べると非常に小さく、威力も貧弱そうに見えてしまうものの、ハンドガンの中でも凄まじい貫通力を誇る銃なのである。
内ポケットの中に持っていたその銃は、ソ連製ハンドガンの『PSM』と呼ばれる代物だ。一般的な9mm弾ではなく、銃と同様に小型化された5.45×18mm弾を使用する。
テンプル騎士団でもシュタージのエージェントやスペツナズの兵士たちに護身用のハンドガンとして支給している。もちろん俺もヴリシアの戦いの後から持ち歩いていたのだが、実戦でこいつを引き抜く羽目になったのは初めてだ。
もし戦闘中にメインアームとサイドアームを紛失する羽目になったとしても、最低でも敵兵を始末し、その敵兵から装備を鹵獲して戦闘を継続できるように非常用の武器も携行するようにしている。
右手と尻尾を使ってPL-14を再装填(リロード)している間に、左手でPSMをぶっ放す。やはり小型の弾丸を使うため反動が小さいのだが、命中した弾丸はしっかりとゴブリンの胸骨や頭蓋骨を貫通しているのが分かる。防御力は人間と殆ど変わらないゴブリンにも効果があるのであれば、問題はない。
そして右手のPL-14でも射撃を再開するが――――――――入り口からはぞろぞろとゴブリンが入り込んできて、呻き声を上げているのが見える。
くそったれ、まさかダンジョンにいるすべてのゴブリンが集まってるわけじゃねえよな!?
冗談じゃない。サプレッサーを外したのが仇になった…………。
このまま弾切れになれば、間違いなくゴブリン共に食い殺される羽目になる。しかもこっちは片足が折れているせいで身動きができないため、ほとんど抵抗できない。
ちらりとC4爆弾の収まったポーチを見ながら、いっそのこと自爆してしまおうかと思ってしまう。確かにゴブリン共に食い殺されたり、俺を女だと勘違いしたバカに犯されるよりは爆死した方がはるかにマシだ。けれども、俺が死ねば仲間たちが悲しむだろうし、俺が生産した武器や兵器もすべて消滅する羽目になる。
転生者が死亡すると、端末は機能をすべて停止してしまうのだ。そのため転生者が装備していたものも消滅するため、それを装備している仲間たちは強制的に丸腰になってしまう。
きっと”第二世代型”の俺でも同じだろう。
つまり、死ぬことは許されない。
足掻けってことか。くそったれ。
「死んでたまるか」
呟きながら、PSMの再装填(リロード)を開始。その間に右手のPL-14でちょっとした弾幕を張り、ゴブリン共を蜂の巣にしていくが、このままではゴブリンを殲滅する前に弾が切れてしまう。
一応コリブリもあるが、9mm弾や5.45mm弾と比べると殺傷力はかなり劣る。下手したら1体のゴブリンをぶち殺すために全ての弾丸を叩き込まなければならなくなるかもしれない。
焦りながらPL-14とPSMを連射し、迫りくるゴブリンたちを迎え撃ち続けていると――――――――ズドン、と勇ましい銃声が轟くと同時に、倉庫の入り口で呻き声を上げていた最後尾のゴブリンの上顎から上が吹っ飛び、床に脳味噌の破片を巻き散らして絶命した。
「…………!?」
ラウラか?
でも、彼女に支給したのはPP-2000とPL-14くらいだ。あのようにゴブリンの上顎を吹っ飛ばせる威力のある武器を渡した覚えはない。
いきなり最後尾の仲間が殺されるとは思っていなかったらしく、身動きの取れない獲物へと殺到していたゴブリンたちが、一斉に入口の方を振り向いて唸り声を発する。食事を邪魔するなと言わんばかりに乱入者へと敵意を向け始めたのだが――――――――それを無視するかのように、もう1発の弾丸が俺のすぐ近くにいたゴブリンのこめかみを撃ち抜いた。
頭蓋骨を容易く粉砕し、脳を圧倒的な運動エネルギーで攪拌して、また反対側の頭蓋骨を造作もなく突き破って飛び出していく1発の弾丸。これほどの貫通力を持つのは、明らかに拳銃用の弾丸ではない。アサルトライフルやマークスマンライフルで使用されるような弾丸や、更に大きいスナイパーライフル用の弾丸に違いない。
すると、倉庫の入り口からその弾丸を放った張本人が姿を現した。
カーキ色のコートに身を包み、頭には帽子をそのまま金属製にしたような形状の、”ブロディ・ヘルメット”と呼ばれるイギリス軍やカナダ軍が昔に採用していたヘルメットをかぶった男だ。ヘルメットの下からはエルフの特徴でもある長い耳が伸びており、すらりとした手に持っているのは、イギリス軍がかつて採用していたボルトアクションライフルのリー・エンフィールドを持っている。
親父が狩りに使っていたライフルの1つだ…………。俺も幼少の頃に持たせてもらったことがある。
まるで大昔のイギリス軍の兵士みたいな恰好をしたエルフの男は、素早くボルトハンドルを引いて薬莢を排出すると、立て続けに密集しているゴブリンへと強烈なライフル弾を連続でたたき込み始める。リー・エンフィールドは第一次世界大戦から使われていた旧式の銃ではあるものの、素早くボルトハンドルを操作できるため連射速度が他のボルトアクションライフルよりも速いという利点があり、更に10発も弾丸を装填できるため、さすがにセミオートマチック式の銃には劣るものの、このような連続射撃には向いているのだ。
しかもぶっ放すのは強烈な.303ブリティッシュ弾である。
ゴブリンの後頭部を貫通した.303ブリティッシュ弾が、今度はそのゴブリンの後ろにいた別のゴブリンの胸板に牙を剥く。微かにひしゃげた弾丸がそのまま胸板へと飛び込んで胸骨を粉砕し、ゴブリンの小さな心臓を蹂躙すると、背骨を叩き折って背中から完全にひしゃげた状態で飛び出して、床の上に落下した。
さすがに弾切れになったのか、ぴたりと獰猛なリー・エンフィールドの連続射撃が止まってしまう。その隙に襲い掛かろうとするゴブリンの群れだが――――――――そのイギリス兵みたいなエルフの男は、腰から白兵戦用の得物を引き抜いた。
その得物は――――――――まるでどこかの工場からそのまま拝借してきたかのような、武骨な鉄パイプだった。
「あれは…………」
ちょっと待て。まさか、あいつはあの鉄パイプ野郎か…………?
歯を食いしばりながら豪快に鉄パイプを振るい、ゴブリンたちを蹂躙するエルフの男の顔つきは、確かにテンプル騎士団の一員である鉄パイプ野郎の顔だ。命令を無視して出撃したり、転生者を銃ではなく鉄パイプで撲殺する戦果をあげた兵士であり、ヴリシアへと遠征した際はいつもの鉄パイプで塹壕の中の敵兵を蹂躙していたという。
兵士たちの中では有名な男だが――――――――本名を知る者は誰もいない上に、いったいどこからやってきた男なのかも不明という、ミステリアスなところもある変わった男である。
でも、なんで鉄パイプ野郎がここにいる? 出撃命令を出した覚えはないし、あいつにリー・エンフィールドを支給した覚えはないぞ…………?
『ギエッ――――――――!』
「!」
最後のゴブリンを鉄パイプで殴り倒したエルフが、ゆっくりとこっちにやって来る。腰のポーチの中からエリクサーを取り出した鉄パイプ野郎は、「もう大丈夫だ」と言いながらそれを俺に差し出すと、弾切れになったリー・エンフィールドのボルトハンドルを引き、クリップで.303ブリティッシュ弾を装填し始めた。
ありがたくエリクサーを使わせてもらい、左足の骨折を治療する。前へと曲がっていた足がどんどん元通りになっていき、やがて激痛も消え去っていく。
「ありがとう、助かったよ。…………でも、どうしてここに? それに、お前にリー・エンフィールドを持たせた覚えは――――――――」
鉄パイプ野郎は俺が喋っている間に、ポケットの中から何かを取り出した。
彼の白い手に握られながら顔を出したのは――――――――転生者に与えられる、あの端末だった。
しかもどうやら殺した転生者から奪ったものではないらしく、画面にはメニュー画面が表示されているのが見える。まだしっかり機能しているという事は生きている転生者から奪ったのか、それともこいつ自信の端末であるという事になる。
でも、こいつはエルフだろ? 転生者であるわけがない…………!
「お、お前…………」
「―――――――私の名は”スティーブン”。偽名だがな。…………昔は商人だったんだが、その時に若き日の君の父親にも会ったよ」
「スティーブン…………?」
すると、目の前にいるエルフの男は片手で自分の顔に触れた。まだ20代前半の男にも見える若々しくてすらりとした顔が、その直後にはがっちりとした中年の男性の顔へと変貌していた。変装していたわけではないだろう。幻覚かと思ったが、魔力の反応は全くなかった。
端末を持っていたという事は、転生者の能力の1つなのだろう。おそらく、自分の姿を変えたり、変装することができる能力に違いない。
しかもその中年の男性のような顔は――――――――よく見ると、俺とラウラの親父にそっくりだった。
「親父…………!?」
けれども、髪は黒いままだし、ブロディ・ヘルメットを静かに外した彼の頭からは角は伸びていない。親父の髪の色は赤で、戦闘があった後にはキメラの特徴でもある角が伸びている筈だから、角が見当たらないという事はキメラではないという事になる。
つまりこの親父にそっくりな男は、親父ではない。
ふ、双子の兄弟か…………? でも、俺の親父より年上みたいだ。
「あんた、何者だ…………?」
「私は――――――――かつて”魔王”と呼ばれていた男だよ。君の父の”前任者”と言うべきかな」
親父にそっくりな顔の男はそう言いながら微笑むと、俺の顔を見つめながら言った。
「―――――――私の名は、”速河力也”だ」