異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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世界の仕組み

 

 

「は…………?」

 

 わけが分からない。

 

 目の前に立っている親父にそっくりな男の顔を見つめながら、俺は目を見開いて困惑していた。

 

 同姓同名なのか? でも、顔つきは確かにそっくりだ。歳は親父よりもちょっと年上かもしれない。けれども、俺たちの父親だと言われても違和感を感じないほどではない。俺たちの親父は一番最初のキメラであり、赤毛の中からダガーを彷彿とさせる鋭い角が生えている化け物だからだ。けれども目の前で俺たちの親父と同じ名前を名乗った男性に角は生えておらず、髪の色も黒。ごく普通の人間にしか見えない。

 

「ま、待ってくれ…………どういうことだ? 同姓同名なのか…………?」

 

「いや……そういうわけではないのだが――――――――」

 

 クリップを使ってリー・エンフィールドに.303ブリティッシュ弾を装填し終えた”力也”は、倉庫の入口の方を睨みつけた。どうして彼がそちらを睨みつけたのかは、俺もすぐに理解できた。後続のゴブリンの群れがここに迫っているらしく、強烈なゴブリン共のよだれの臭いが外から漂ってくる。

 

「―――――――ついてきなさい。ここではゆっくり話ができん」

 

「あ、ああ」

 

 さっきこの人からエリクサーを貰ったおかげで、折れていた左足も完治している。これならば移動に支障はないだろう。

 

 さすがにサイドアームだけでは魔物と遭遇した際に乗り切れる自信がないので、メニュー画面を開いてAK-12を装備しておく。グレネードランチャーに加え、アメリカ製のホロサイトとブースターを装備したお気に入りのライフルを装備してメニュー画面を閉じると、それを見ていた”力也”が口笛を吹いた。

 

「随分とハイテクだね。SFみたいだ」

 

「そりゃどうも」

 

 はっきり言うと、俺は端末よりもこっちの方がいいと思っている。端末だと紛失する恐れがあるし、身につけていなければステータスが一気に下降してしまうという欠点があるからな。けれどもこの方式なら紛失はありえないし、デザインもこっちの方がカッコいい。

 

 セレクターレバーをフルオートに切り替え、前を進む力也(スティーブン)の後について行く。彼の持つリー・エンフィールドは、よく見るとかなり使い込まれている代物らしく、銃床には傷がいくつもついている。

 

 先ほどゴブリンの群れをこいつで一掃した時も、使い慣れていなければありえないほどの連射速度でボルトアクションライフルをぶっ放していた。いくら連射し易いライフルとはいえ、使い慣れていなければあんなセミオート射撃みたいな速度でぶっ放すのは不可能だ。

 

 銃を構えながら倉庫の壁の穴から飛び出し、狭い路地に魔物がいないか確認する。俺も”彼(スティーブン)”の死角へと銃を向けて警戒し、戦闘を進む力也(スティーブン)をサポートする。

 

 どうやら接近していた魔物どもは、今しがた倉庫の中でぶち殺したゴブリンたちの死体に夢中らしい。

 

 魔物の中には共食いをする奴らもいるが、基本的に魔物にとって”格下”の奴らは”餌”でしかないのだ。おそらく接近していた魔物の中にゴブリンよりも強い別の魔物が紛れ込んでいたのだろう。今しがた後にした倉庫の壁の向こうからは、床にぶちまけられた肉片を咀嚼するグロテスクな音が聞こえてくる。

 

「こっちだ」

 

 砂塵が舞う中でも、”力也”は素早く移動する。周囲に魔物がいないか確認してから素早く通りを横断し、壊れかけの樽の影でこっちに合図を送ってくる。念のため俺も周囲を確認してから通りを横断して彼に合流すると、力也は近くの建物の扉を開け、中へと飛び込んだ。

 

 ライフルを路地へと向けて警戒しつつ、俺も建物の中へと飛び込む。傍らに転がっていた木材を使って扉を固定してから後ろを振り向くと同時に、猛烈なカビの臭いが鼻孔へと襲い掛かってきた。

 

 どうやらここは、かつては酒場だったらしい。テーブルや椅子は大気流の影響ですっかり木っ端微塵になって床に転がっているものの、辛うじてカウンターは残っている。その後ろにある棚には酒瓶が並んでいたようだが、やはり今ではほぼ全て吹っ飛ばされ、床にぶちまけられているようだ。

 

 力也はそのカウンターの向こうへと進んでいくと、割れた酒瓶の破片が散乱している床の上を進み、カウンターの向こうにある扉を開けた。どうやら店の地下へと続いているらしく、石で作られた古めかしい階段がゆっくりと左へ曲がりながら、下へと続いている。

 

「待ってくれ、ナタリアとラウラは?」

 

「可愛らしいお嬢さんだったら、2人とももう私が保護している。この先だ」

 

 よ、よかった…………。あの2人は、どうやらもうこの人が保護してくれているらしい。

 

 俺だけここに逃げ込むわけにはいかないからな。もし仮に彼が保護してくれていなかったら、反対を押し切って助けに行くつもりだったし。

 

 階段を下りる前に、念のため下からラウラとナタリアの匂いがしないか確認しておく。俺の嗅覚はラウラよりも発達しているらしく、何も見えない状況でも正確に敵の匂いを探知したり、仲間の匂いを探知することができるのだ。

 

 ―――――――確かに、何度も嗅いだ甘い匂いがする。ラウラとナタリアの匂いだ。

 

 安心してAK-12を背中に背負い、力也の後について行く。彼もリー・エンフィールドを背中に背負い、頭にかぶっていたブロディ・ヘルメットを取ると、息を吐きながら階段を駆け下りた。

 

 そして階段の奥にあった扉を開け、地下室へと足を踏み入れる。

 

「う…………」

 

 長年放置されていた建物の1階があれほどカビの臭いで蹂躙されていたのだから、地下室はもっと凄まじいだろうとは思っていた。案の定、俺たちを待ち受けていたのは、先ほど嗅ぐ羽目になったカビの臭いよりも濃密な臭いと、宙を舞う埃の群れである。

 

 あの惨劇が起こった時からずっと放置されていた地下室の中には、おそらくワインの入っていると思われるでっかい樽や、客に出す料理に使う食材が入っている木箱が並んだ棚が埃まみれになって鎮座していた。15年間もずっと放置されていたのだから、食材の入った木箱の中からは猛烈な腐臭が漏れ出しており、カビの臭いと融合したそれは凄まじい悪臭へと変貌して俺の鼻孔を蹂躙してくる。

 

 できれば今すぐに換気し、あの腐った食材入りの木箱を外へとぶん投げたい気分だ。

 

 その地下室の中で、2人の少女が眠っていた。

 

 片方は黒い制服に身を包んだ赤毛の少女で、紅いラインの入った黒いリボンで髪をツーサイドアップにしている。お気に入りのベレー帽は吹っ飛ばされてしまったのか、頭から生えているダガーのような角があらわになっており、ルビーのような色になっている先端部が微かに煌いているのが分かる。ミニスカートの中から伸びているのはドラゴンのような鱗に覆われた尻尾だ。

 

 その隣で眠っているのは、同じく黒い制服に身を包んだ金髪の少女。俺たちの仲間になった時から髪型は殆ど変えておらず、今もツインテールのままである。やはり彼女もあの暴風でいつもかぶっていた規格帽を吹っ飛ばされていたらしく、特徴的な金髪があらわになっていた。

 

「ラウラ……ナタリア…………!」

 

「安心したまえ。助けた時は2人とも重傷だったが、手持ちのエリクサーで何とか治療できた」

 

「ありがとう…………いつか恩は絶対返します」

 

 そう言うと、俺たちを助けてくれた命の恩人は腰に吊るしていたランタンに灯りをつけながら微笑んだ。そのランタンを近くの棚の上に置き、埃まみれの床の上に腰を下ろす。

 

「ふにゅ…………」

 

「ん…………あれ、タクヤ…………?」

 

「おい、大丈夫か?」

 

 彼が腰を下ろすと同時に、気を失っていたラウラとナタリアがゆっくりと瞼を開けた。いきなり鼻孔へと流れ込んだカビ臭い空気のせいなのか、少しばかり咳き込みながら周囲を見渡すラウラとナタリア。力也がエリクサーで治療してくれたおかげで傷は全く見当たらないが、保護した時は2人とも重傷を負っていたらしい。

 

 2人は俺の顔を見て安心したようだけど――――――――すぐ近くに腰を下ろし、水筒の中に入っている飲み物を飲んで一息ついている男を目にした瞬間、やはりぎょっとしたようだ。

 

 そこに座っていたのは、俺たちの親父にそっくりな謎の男だったのだから。

 

「ふにゃあっ!? ぱ、パパ!?」

 

「よっ、傭兵さん!?」

 

「あー…………いや、あの人は違う」

 

 せ、説明した方がいいよね。俺も未だに混乱してるんだけど。

 

「…………こ、混乱するかもしれないけどさ、あの人は…………て、鉄パイプ野郎なんだ」

 

「えっ?」

 

「ふにゅ? あの鉄パイプ持ってたエルフさん?」

 

 すると、ニヤニヤと笑いながら力也が血まみれの鉄パイプを床の上に置いた。まだバルブや圧力計らしきものがついている鉄パイプの表面には、これで撲殺されたゴブリンの肉片や千切れた皮膚の一部が付着しており、随分と禍々しい得物と化している。

 

 どうしてテンプル騎士団の兵士たちは、こういう鈍器を好むのだろうか。騎士じゃないじゃん。

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 やっぱりこの2人も混乱したか…………。

 

「ここなら魔物が入り込んでくる心配はない。聞きたいことがあるなら何でも聞きたまえ」

 

「ええと、あなたの正体はパパだったの!?」

 

「はっはっはっはっ。こんな可愛らしい女の子を娘にできたら幸せ者だね。あ、紅茶飲む? スコーンもあるよ?」

 

「ど、どうも…………」

 

 な、何で持ち歩いてるんだよ…………。俺も戦車の中に紅茶とスコーンを持ち込むことは多々あるけど、さすがにスコーンまで常に持ち歩いてるわけじゃないぞ?

 

 そう言いながら、力也は革の袋―――――――おそらく魔物の素材を加工したものだろう―――――――を取り出し、床を覆っている埃を少しばかり掃除してからそれを広げた。

 

 彼の持っている予備の水筒も渡されたのだが、はっきり言うと今は呑気にアフタヌーンティーを楽しむ気分にはなれない。

 

 まだこの男の正体を聞いていないのだから。

 

「ところで…………あなたは何者なんです? 親父と全く同じ名前で、顔つきも似てるということは…………ただ単に同姓同名というわけではないですよね?」

 

「そうだね…………さっきもタクヤ君には言ったけど、私の名は”速河力也”。君たちの父親と同じ名前だ」

 

「名前まで同じ…………!」

 

 この人の名前を聞いたのは俺だけだったか。

 

「ど、どういうこと!?」

 

「同一人物というわけでは…………ないですよね?」

 

「同一人物か…………」

 

 力也は自分の水筒の中に入っている紅茶を飲み、革の袋の上にどっさりと乗っているスコーンに手を伸ばした。スコーンを噛み砕いてから再び紅茶を飲んだ彼は、目を細めながら話し始める。

 

「―――――――確かに、同一人物と呼べるかもしれん」

 

「「「!?」」」

 

 …………どういうことだ?

 

 ありえないだろ? 同一人物ってことは、今頃モリガン・カンパニーの本社でデスクワークをやってるはずの親父が、大昔のイギリス軍の兵士みたいな恰好をして目の前にいるってことになるんだぞ…………?

 

 それにこの人は、親父と比べるとかなり口調が違う。親父は粗暴な口調が多いが、この人は随分と紳士的だ。

 

「混乱するかもしれないし、信じられない話かもしれないが聞いてくれ。…………正確に言うと、私は君たちの父親とは違う世界からやってきた”速河力也”なんだ」

 

「ち、違う世界…………?」

 

「そう。”パラレルワールド”だよ」

 

 パラレルワールド…………?

 

「そんなバカな…………」

 

 もう一度スコーンに手を伸ばしてから、彼は息を吐いた。

 

「…………この世界に無数の転生者が送り込まれているのは知っているだろう? 君たちが討伐している連中だ。彼らは…………死亡した人間の中から無作為に選ばれている。事故で死んだ奴や、殺人鬼に殺された可哀そうな奴らがな。もちろん病死した奴もいるだろう」

 

 事故か…………。

 

 そういえば、俺の死因も事故だったな。修学旅行に向かっていた俺たちが乗った飛行機のエンジンがいきなり火を噴いて、飛行機が傾いたかと思うと、そのまま回転しながら地上へと墜落していったんだ…………。

 

 久しぶりに自分の”死因”と向き合ったような気がする。

 

「けれども、その中でも”リキヤ”と呼ばれる転生者は特別な存在だ」

 

「特別な存在?」

 

 ナタリアが聞き返すと、親父にそっくりな顔の男は頷いた。

 

 俺たちの親父もリキヤだし、この男の名前もリキヤだ。ということは、ここにいる命の恩人と、本社でデスクワークをしているあの男は特別な転生者という事なのだろうか。

 

「この世界は、遥か昔から滅亡するほどの危機が訪れると、異世界から”勇者”と呼ばれる者を召喚する仕組みになっている。例えば…………レリエルがこの世界を支配した時や、ガルゴニスが人類に反旗を翻したあの反乱のような規模の危機だ。そういう時に、異世界から勇者が召喚される仕組みになっている」

 

 どちらも聞いたことがある物語だ。レリエルはこの世界を支配し、ガルゴニスは人類に誇り高いドラゴンが使役されることを拒み、世界中のドラゴンを率いて反乱を起こした。けれども、レリエルは神々が送り込んだと言われている大天使によって封印され、ガルゴニスも当時の勇者によって封印された。

 

 その勇者が、異世界から召喚された勇者なのか…………?

 

 俺が察したことを理解したのか、力也はこっちを見ながら頷いた。どうやら俺の仮説は当たったらしい。

 

「まさか…………その”勇者”が、”リキヤ”…………?」

 

「その通り。ガルゴニスを封印した勇者も”リキヤ”だし、レリエルを封印した大天使も、元々は異世界から召喚された”リキヤ”だ」

 

「嘘だろ…………?」

 

 そういえば、勇者や大天使の名前は一度も聞いたことがなかったような気がする。この世界でその事件を題材にした演劇やマンガにも、ただ単に”勇者”や”大天使”として登場しているだけである。

 

「そして私は、”98番目のリキヤ”。君たちの父親は私の後任だから、”99番目のリキヤ”だ」

 

 俺たちの親父が、99番目…………。

 

「私もこの世界に放り込まれ、こいつ(リー・エンフィールド)を使って戦い抜いたよ。最愛の仲間と共にね。…………結局、偽物の勇者に”魔王”と呼ばれてしまったが」

 

「魔王…………!?」

 

「その通り。今から22年前に討伐された筈の、恐ろしい魔王様さ」

 

 俺たちの親父も、”魔王”と呼ばれている。

 

 しかしそれは本当に恐れられている魔王という意味ではなく、巨大な企業を率いて人々を救っているあの男を、社員や住民たちが親しみを込めてそう呼んでいるだけだ。だから正確に言えば、あの男は魔王ではない。

 

 だが、本当の魔王は22年前に存在したという。

 

 貴族の娘を連れ去り、この世界を滅ぼそうとした恐ろしい魔王が。見たこともない異世界の武器を使って騎士たちを蹂躙し、世界中で暴れ回った恐るべき魔王。しかしその魔王は最終的に勇者によって討伐されることになる。

 

 親父がこの世界に転生し、後に妻となるエミリア・ペンドルトンと出会う半年前の話である。

 

「まさか、あなたが…………?」

 

「ああ。完全に濡れ衣だがね。勇者の野郎にやられたのさ」

 

 信じられない。こんなに紳士的な人が…………。

 

 すると先代魔王(リキヤ)は、胸に下げていたペンダントを見下ろした。

 

「…………勇者に仲間たちを殺され、最愛の恋人も殺された。今もエイナ・ドルレアンの墓地にある木の下で眠っているんだ」

 

「…………」

 

 エイナ・ドルレアンには、墓地がある。埋葬されているのはエイナ・ドルレアンの住民が大半だが、その墓地の一角にはこのネイリンゲンの惨劇で命を落とした、何人もの人々が今でも眠り続けている。

 

 親父たちと一緒に墓参りに行ったことがあるから、そこはどういう場所なのか知っている。確かにあそこには、1本だけ木が生えていた筈だ。太くてがっちりした幹が特徴的な、凛々しい木だ。

 

「君たちの父が勇者を倒してくれたと知った時、私にはもう未練はなかったんだ。彼が私たちの仇を取ってくれたから、もう私も彼女の元へ逝くべきだろうと思ってね…………。でも、彼女は…………許してくれなかった」

 

 そう言いながら、力也はホルスターの中から1丁の古びた黒いリボルバーを取り出す。

 

 確かあれは、ベルギーで開発された『ナガンM1895』と呼ばれる旧式のリボルバーだ。リボルバーであるにもかかわらずサプレッサーが装着できるという画期的な銃で、弾数も一般的なリボルバーよりも1発だけ多い。主にロシア軍やソ連軍が、第一次世界大戦と第二次世界大戦で採用していたという。

 

 それを見下ろしながら、スティーブンは語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力也が勇者を倒してくれたという知らせを聞いた瞬間、私の中の未練は完全に消えた。

 

 私の力では打ち倒せなかった憎たらしいあの勇者を、99番目のリキヤが倒してくれたのだから。

 

 私の戦いは、それで終わった。後は長い間一人ぼっちにしてしまっていた”彼女”の所へ逝くだけだと思った。もうこの世界にいても意味はないし、彼女以外の女性と出会って幸せになるつもりもない。私にとって、最愛の女性はあの木の下で眠る彼女だけなのだから。

 

 いつもホルスターに収めていた愛用のリボルバーを手にした私は、あの墓地で力也くんたちに礼を言ってから、この世を去るつもりだった。彼女が眠る木の前で、自分の得物で自分の頭を撃ち抜き、私も彼女の元へと逝こうと思っていた。

 

 確かに、死ぬのは怖かった。自分に向けてトリガーを引けば死んでしまうのだから。

 

 けれども、彼女のいない世界で老いて死ぬよりはそっちのほうがマシだと思った私は、覚悟を決めてトリガーを引いた。

 

 だが――――――――手元のリボルバーから聞こえてきたのは、かちん、という撃鉄の音だけ。聞き慣れた銃声は全く聞こえないし、弾丸が私の首筋を貫いた感覚もない。

 

『…………!?』

 

 そう、不発だったのだ。

 

 だから私はもう一度トリガーを引き、もう一度死のうとした。

 

 けれども――――――――次の弾丸も、不発。

 

 シリンダーに納まっている7発の弾丸は、全て不発だったのだ。

 

『バカな…………!』

 

 その時、私は彼女に”まだ死んではいけない”と言われているような気がした。

 

 まだ死ぬことは許されない。こんなところで自分に弾丸を撃ち込み、彼女の元へと逝くことは許されない。

 

『まだ死ぬなと言うのか…………』

 

 きっとそうに違いない。目の前の木の下で眠る彼女が、まだここは私の死に場所ではないと言っているのだ。

 

 だから私は、もう少しばかり生きることにした。もう少し足掻いて、天国にいる彼女に誇れるような戦果をあげて死のうと思った。

 

 それから私はオルトバルカを去り、世界中を旅して戦い続けた。人々を苦しめる領主や転生者を消し、虐げられていた人々を救い続けた。

 

 そしてカルガニスタンへと流れつき――――――――彼らに出会ったのだ。

 

 私たちの仇を取ってくれた男の子供たちが率いる、テンプル騎士団に。

 

 

 

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