異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤの予感

 

 エイナ・ドルレアンを列車で出発し、再び俺たちはネイリンゲンへと向かう。できるならばネイリンゲンへと向かう前に、宿屋でぐっすりと眠ってから出発したかったんだが、イリナやステラたちは今もネイリンゲンに留まって調査を続けているのだ。仲間が危険な場所で頑張っているというのに、柔らかいベッドの上でぐっすり眠っている場合じゃない。

 

 というわけで、俺たちは寝心地の悪い列車の座席で仮眠をとりつつ、ネイリンゲンに最も近い村へと向かう。客車が揺れるせいで何度も仮眠を邪魔されながら、ネイリンゲンに近い村で降り、そこからはネイリンゲン方面へと出発する商人の荷馬車に乗せてもらって、俺たちは再びあの大気流が支配する廃墟へと向かう。

 

 仲間たちに天秤の正体を教えたら、彼女たちは絶望するだろうか。

 

 あのメサイアの天秤は、伝承通りの存在ではなく、願いを求める者からその願いと同等の対価を奪い去っていく、非常に危険な天秤だったのだから。

 

 大切な人を生き返らせるためには、その生き返らせたい人物と同じくらい愛している人を生贄に差し出さなければならない。金を手に入れたいのであれば、欲しい金額と同じ金額を支払わなければ願いは叶わない。

 

 願いと対価は同等。それゆえに、プラマイゼロになってしまう。

 

 それゆえに俺たちの願いも、きっと凄まじい大きさの対価を支払わなければ叶う事はないのだろう。人々が虐げられることのない世界を作ろうとすれば、俺たちはその結果と同等の大きさのものを失うことになるのだから。

 

 その願いは、天秤を使わずに叶えるしかない。テンプル騎士団をどんどん大きくして、人々を虐げようとするクソ野郎が絶滅するまで、彼らを殺し尽くすしかないだろう。

 

 天秤を使わずに、俺たちは自分たちの力で願いを叶える。

 

 それにしても、親父はなぜ天秤を求めているのだろうか。

 

 俺たちを止めてきたという事は、天秤がどのような代物なのか知っている筈だ。願いを叶えようとすれば、同等の対価を差し出さなければならない恐ろしい天秤だと知っているにもかかわらず、なぜ天秤を手に入れようとしている?

 

 もう既に対価を用意しているという事なのか? それとも、そのための願いが対価として何かを失ったとしても、彼にとって価値がある願いなのか?

 

 荷馬車の上で小さなランタンの頼りない光を見つめながら、俺はずっとそう思っていた。あの男は、天秤を使って一体何をするつもりなのだろうか。

 

 リキヤ・ハヤカワには大きな力がある。かつて転生者たちを絶滅寸前まで追い詰め、単独でレリエル・クロフォードの討伐に成功した英雄。そして、モリガン・カンパニーという世界規模の超巨大企業を率いる、数多の労働者たちの指導者。

 

 個人的な力と、社会的な力。あの男は2つの大きな力を持っている。

 

 その気になれば何でも手に入れられそうなほどだというのに、なぜ天秤に頼るのだろうか。何か欲しいものがあるのであれば、かなり最悪な手段になってしまうが、力ずくで奪うか、金を払って買い取ってしまえばいいのに。

 

 その手段を使わないのは、あの男のプライドが原因なのかもしれない。

 

 けれども、違和感を感じてしまう。

 

 もしかすると、あの男は大切な”誰か”を失っているのではないだろうか。もしそうならば、金や自分の力を使ったとしても手に入れることはできない。死んでしまった人間を蘇らせることは、最強の転生者でも不可能なのだから。

 

 戦友だろうか? 親父は傭兵として世界中で戦いを経験してきた男だから、何度も仲間が戦場で死んでいく光景を目にしていてもおかしくはない。さすがにモリガンのメンバーではないかもしれないが、彼が経験した戦いの中で、多くの”戦友”が命を落としていた筈だ。

 

 死んでいった戦友たちを蘇らせるつもりなのかもしれないが、いったい対価はどうやて支払うつもりなのだろうか。

 

 メサイアの天秤は、願いと同等の対価を支払わなければ決して願いを叶えてくれない存在だ。戦友を蘇らせるためには、その戦友と同じくらい大切にしている人を生贄にしなければならない。もし仮にクソ野郎共を生け捕りにし、そいつらを生贄代わりにしようとしても、親父にとって”大切な人”でないのであれば、どれだけクソ野郎を集めて生贄にしようとしても願いは叶わないし、対価にも使えない。

 

 もしかして、親父は母さんやエリスさんを対価に差し出すつもりか…………!? 

 

 でも、それは考えられない。あの男は自分よりも、妻たちの事を優先する愛妻家だ。そんなことをするくらいならば自分自身の命を対価に使うだろう。

 

「ほら、お嬢ちゃんたち。悪いがここまでだ」

 

 ランタンを見下ろしながら考え事をしているうちに、ネイリンゲンの近くの草原に到着したらしい。これ以上南へと進めばネイリンゲンに突入してしまうので、商人たちは極力ネイリンゲンを回避して移動することになっているという。

 

 真夜中の草原に俺たちを置き去りにしていくことを申し訳なく思っているのか、少しばかり太った中年の商人は、荷馬車の上から降りていく俺たちを申し訳なさそうな表情をしながら見つめていた。

 

「おじさん、ありがとう。助かったよ」

 

「気にすんなって。…………でも、いいのかい? 夜の草原は危険だぜ?」

 

「大丈夫だって。俺たちは冒険者なんだからさ」

 

「そうかい。じゃあ、気をつけてな」

 

「おじさんこそ」

 

 大丈夫だって。俺たちには現代兵器があるんだから。

 

 ここまで乗せてくれたおじさんにお礼を言うと、おじさんは大きなランタンが吊るしてある荷馬車の上で微笑み、商品を乗せた荷馬車に繋がれている2頭の黒い馬を走らせた。馬の鳴き声と蹄の音を真っ暗な草原に響かせながら去っていく荷馬車に手を振ってから、メニュー画面を表示して仲間たちに護身用の武器を支給する。

 

 俺たちが今いる場所は、ネイリンゲンから見てやや北側にある『ザウンバルク平原』という場所だ。かなり広大な平原で、ネイリンゲンの近くからオルトバルカ王国の北東部まで続いているという。空から見れば巨大な三日月形になっているようだ。

 

 かつてはこのザウンバルク平原もダンジョンに指定されていたらしいが、俺たちが生まれる前に昔の冒険者たちによって調査が完了しており、今ではダンジョンではなく普通の平原という事になっている。この平原は、レリエル・クロフォードが世界を支配していた時代に、人類の騎士団の生き残りが吸血鬼たちに最後の決戦を挑み、玉砕した古戦場であるという。

 

「暗い場所だね」

 

「灯りが無いからな。ほら、ランタン」

 

「ありがとっ♪」

 

 指先に蒼い炎を生成し、それをランタンの中に灯してからラウラに渡す。ランタンの中では小さな蒼い炎が煌いており、かつて数多くの騎士たちが散っていった平原を蒼い光で照らし始める。

 

 さて、とりあえず調査中のオブイェークト279(ゴライアス)と合流しようか。さすがにこのまま歩いて行くとネイリンゲンまで時間がかかってしまうし、魔物は基本的に夜中の方が狂暴になる。いくら銃で武装した転生者でも、真夜中の草原をたった1人で歩くのは自殺行為だ。

 

 無線機のスイッチを入れ、ゴライアスに連絡してみる。大気流の中にいるとはいえ、無線は通じる筈だ。タンプル搭からの無線もちゃんと届いていたのだから。

 

「ゴライアス、応答せよ」

 

『こちらゴライアス、どうぞ』

 

 よし、通じる。

 

「現在ザウンバルク平原にいる。そっちは?」

 

『調査を切り上げて仮眠中。収穫はなかったよ』

 

 さすがに天秤は見つけられなかったか。

 

 だが、こっちには地下室の鍵がある。あの地下室の中には、天秤の完全な封印方法を模索していたナタリアのお父さんが集めた情報が眠っているのだ。ナタリアの祖先たちが目的にしていた天秤の封印を、俺たちが成し遂げなければならない。

 

 正確に言えば封印ではなく”消滅”だけどね。

 

『そっちは?』

 

「鍵はもらった。これで地下室に行ける」

 

『了解(ダー)。ナタリアのお母さん、どんな人だった?』

 

「美人だったよ。ナタリアが可愛いわけだ」

 

「はぁっ!? ちょ、ちょっと、何言ってんのよ!?」

 

『あははははっ、確かにナタリアは可愛いよねぇ』

 

「イリナちゃんまで!?」

 

 ニヤニヤしながらナタリアの方を見ると、彼女は顔を真っ赤にしながらこっちを見ていた。

 

「とりあえず、こっちはザウンバルク平原だ。蒼い光が目印だからな」

 

『了解(ダー)、すぐ回収に向かうね』

 

 よし、ゴライアスが回収に来てくれるまで待つか。

 

 ネイリンゲンの周囲には魔物が出現しにくいと言われているが、今のネイリンゲンはダンジョンである。環境が非常に危険な上に魔物の巣窟と化しているのだから、その周辺にあるザウンバルク平原も危険地帯だ。

 

 メニュー画面をタッチして装備したベリルのライトをつけようとしたその時、こつん、と右足のがっちりした黒いブーツに、何かが当たったような気がした。小石だろうと思ったけど、小石にしてはサイズが大きい気がするし、ぶつかった時の感覚も石ではなく、どちらかと言うと金属のような感覚だった。

 

 右足にぶつかった物体の感覚に違和感を感じつつ、ライトのついたベリルの銃口を足元へと向ける。

 

 ランタンよりもはるかに明るいライトの光が、緑色の雑草で覆われた足元を照らし出す。

 

 今しがたブーツにぶつかったのは、やはり小石ではなかった。随分と錆び付いた金属の塊のようで、ひしゃげた上に表面は融解している。よく見てみると錆び付いた表面には小さな時計が埋め込まれており、すっかり錆び付いたその時計からは針が抜き取られていることが分かる。

 

 何だこれ? 懐中時計か?

 

 誰かの落とし物なのだろうか。きっとここを調査しにやってきた昔の冒険者が落としていったのだろうと思いつつ、その懐中時計を蹴飛ばそうと思ったが――――――――その懐中時計のデザインに見覚えがあることに気付いた俺は、首を傾げてどこで見たのかを思い出そうとしながら、いつの間にか錆び付いた懐中時計を拾い上げていた。

 

 確かに、どこかで見たことがあるデザインだ。とはいえ表面には融解した跡があるし、何年もここに置き去りにされていたせいですっかり錆び付いているから、俺の見間違えなのかもしれない。

 

 そう思いながら懐中時計の残骸を裏返した俺は、その懐中時計の裏に刻まれていた傷のようなものを見つけた瞬間に、その懐中時計をどこで見たのかを思い出す。

 

「これ…………」

 

 確か、親父も同じものを持っていた筈だ。赤黒い懐中時計で、それほど値段の高いものではない。街の雑貨店に行けば、ショーケースの中にそれなりの値段が書かれた値札と共に置かれているような、安物の懐中時計。けれども親父はその時計を常に身につけていた。母さんと初めてデートに行った時にプレゼントしてもらったものらしく、それ以来毎日メンテナンスをしながら持ち歩いていたのだという。

 

 錆び付いた上に表面は融解していたが、それ以外のデザインは確かに親父が持っていた懐中時計と一緒だった。

 

 そして――――――――傷がある位置も、同じだ。

 

「…………」

 

 もちろん、この傷にも見覚えがある。俺とラウラがまだ3歳だった頃、ファルリュー島で勃発した第一次転生者戦争へと向かう親父が、泣き出したラウラに預けた時計だ。

 

 ラウラはその時計を大切に持っていたんだけど、床に落として傷をつけてしまったのである。

 

 その傷がついた場所も、確か懐中時計の裏側である。

 

「ラウラ、親父の懐中時計を落とした時の事を覚えてる?」

 

「え? 覚えてるけど…………どうしたの?」

 

 ゴライアスと合流するまで警戒していたラウラに、拾い上げたその錆び付いた懐中時計を手渡す。ラウラは「なにこれ?」と言いながら受け取ったけれど、かつて自分が親父の懐中時計につけてしまった傷がある位置と同じ位置に傷があった事に気付いた瞬間、唖然としながらこっちを見てきた。

 

 キメラの記憶力は人間と変わらないけれど、あの時の事はちゃんと覚えている。それに親父の大切な時計に傷をつけてしまった張本人であるラウラも、覚えている筈だ。

 

「この傷…………ねえ、これってまさか、パパの時計…………?」

 

「分からん…………」

 

 もしかしたら偶然同じ位置に傷があっただけなのかもしれないけど、傷の形状も親父の時計にラウラが付けてしまった傷にそっくりである。

 

 これは親父の時計なのか…………?

 

 なんでザウンバルク平原に落ちている?

 

 親父はこの懐中時計を肌身離さず持っているし、毎晩必ずメンテナンスをしていたから、常に買ったばかりなのではないかと思ってしまうほどしっかりと手入れがしてある。それほど母さんからプレゼントしてもらった懐中時計を大切にする男なのだから、こんなところに置いておくわけがない。

 

 そういえば、いつからか親父が懐中時計を持っているところを見なくなったような気がする。傷がついてしまった後も、「俺たちの可愛い娘が正直に謝ってくれた証だ」って言いながら、あの傷跡をニヤニヤしながら見つめているような男だったのに、メンテナンスをしている姿も目にしなくなった。

 

 メンテナンスをしなくなったのは、俺たちが6歳頃だろうか。

 

 あの頃から変わったことが多くなったな。親父の仕事も忙しくなったし、一緒に住んでいたガルちゃんも、俺たちに何も言わずに家からいなくなってしまったのだから。

 

 彼女と最後に再会したのは、以前にネイリンゲンを訪れた時だろうか。

 

「………おかしい」

 

「何が?」

 

「ラウラ、6歳頃の事覚えてる?」

 

「ええ、覚えてるけど?」

 

「じゃあ…………親父が懐中時計のメンテナンスをしているところは見た?」

 

「えっ? …………そういえば、見てないわね」

 

 ラウラも見てないのか。

 

 おかしいぞ。毎晩欠かさずメンテナンスするほど大切にしていた男が、ぴたりと時計のメンテナンスをしなくなるなんて。もし仮にこれが親父の物で、ここを訪れた際に無くしてしまったのだとしたら、もっと悲しんでいる筈だ。

 

「じゃあ、ラウラ。―――――――ガルちゃんが家からいなくなってから、ガルちゃんと親父と話をしているところは?」

 

「ええと…………ごめんなさい、それも見てないわ。……………………どうしたの?」

 

「いや…………ちょっと、親父を問い詰めてみようかと思って」

 

 天秤の正体に、ナタリアの祖先の事まで知ってしまって何度も驚愕したが――――――――もし俺の中で形成されつつある仮説が正解だとしたら、とんでもないことになるかもしれない。

 

 もしその仮説が事実ならば、ハヤカワ家が壊れかねないのだから。

 

 

 

 

 

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