異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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懐中時計の真相

 

「へぇ、それがドラゴン(ドラッヘ)から預かった懐中時計?」

 

「ああ。でっかい謎につながってるらしい」

 

 融解した跡が刻み込まれた懐中時計を、隣を歩くクランに渡しながら説明する。彼女はそれを受け取ると、融解した表面を指でなぞりながら首を傾げた。

 

 あの融解した跡は一体何なのだろうか? 火炎放射器のような炎で溶けたとは思えない。魔術だろうか。

 

 表面は錆び付いており、時計の針も片方は見当たらない。融解して消え去ったのではなく、この時計の前の持ち主が取り外したのではないだろうか。もし仮に時計の針が融解するほどだったのならば、もう片方の針も同じ運命を辿っている筈だ。

 

 クランに返してもらった懐中時計の残骸に、まだ片方の針が残っていることを確認してから、俺は溜息をついた。

 

 大切な戦友からの頼みだし、こういう情報収集は諜報部隊(シュタージ)にいるのだからお手の物だ。指令室でオペレーターをするだけではなく、実際に現地で情報収集することも多い。敵にバレないように変装したり、敵の組織に潜り込んで色々と調べる普段の任務と比べれば、”敵”がいない状態での情報収集は簡単な計算問題を解くようなものである。

 

 でも、本当なら今日は休暇だったんだよなぁ…………。

 

「あっ、ケーター! あそこの露店でアイスクリーム売ってる!」

 

「はいはい、何味がいい?」

 

「ええと…………チョコレート!」

 

 しょうがないなぁ。

 

 報酬も出してもらえるみたいだし、クランと一緒にいられるから、休暇を潰したあいつを恨むのは止めよう。というかこの依頼を引き受けたのは俺なんだし。

 

「おじさん、チョコレート味のやつ2つ」

 

「はいよ」

 

 露店の奥から顔を出したのは、がっちりした筋肉を身に纏う屈強なオークの男性だった。口元には真っ黒な髭が生えていて、眉間から左目の辺りまで剣で切られた傷跡が残っている。私服に身を包んでアイスクリームを売っているより、防具に身を包んで魔物と死闘を繰り広げてる方が似合いそうな男性だ。

 

 もしかすると、この人は元々傭兵ギルドか騎士団に所属していたのかもしれない。

 

 一般人にしては目つきが鋭すぎる。

 

 けれども、俺はこの人に「どこかの騎士団にいたんですか?」と問いかけるつもりはなかった。もしかしたら負傷して騎士団を退役した人なのかもしれない。

 

 オークはハーフエルフと同じく、人類の中では最も屈強な身体を持つと言われている。特にオークは男性も女性もがっちりした体格の人が多く、身長が2mを超えるのは当たり前だという。テンプル騎士団やモリガン・カンパニーにも数多くのオークが所属しており、ヴリシアの戦いでは吸血鬼たちと死闘を繰り広げた。

 

 ヴリシアの戦いで捕虜となった敵の兵士が、「オークやハーフエルフは5.56mm弾に被弾した程度では突撃を止めることができなかったし、むしろ奮い立って突っ込んできた」と言うほど頑丈な身体を持つ種族である。

 

 ちょっとした巨人だな、オークは。

 

「はいよ、チョコレート味2つ。銀貨6枚な」

 

「どうも」

 

 財布の中から取り出した銀貨をでっかいオークの男性に渡してから、受け取ったアイスクリームを隣にいるクランに渡して、俺たちは露店の前から離れる。

 

 デートに来たわけじゃなくて、タクヤから依頼を受けてるんだからなと彼女を咎めようと思ったけど、幸せそうな表情を浮かべながら買ったばかりのアイスクリームを舐めている彼女を見た俺は、肩をすくめながらそのまま歩いた。

 

 クランは任務中になると真面目で気の強い女傑になるが、こういう時は呑気な女の子だ。時折子供っぽくなることもある。出会ったばかりの頃は大人びていて綺麗な子だなと思ったんだけど、こういう子供っぽいところも可愛いと思う。

 

 やっぱり、大学で彼女に告白したのは正解だったようだ。さすがに彼女の両親が来日した時はびっくりしたけど。

 

「それにしても、ラガヴァンビウスって広いのねぇ。防壁で囲まれてるって聞いたから、もっと窮屈な場所だと思ってたんだけど」

 

「そういえば、ここに来るのは初めてだな」

 

 そう言いながら、俺たちは王都ラガヴァンビウスの街並みを見渡した。

 

 王都ラガヴァンビウスは、簡単に言えばオルトバルカ王国の首都だ。産業革命が起こってからは『世界の工場』と呼ばれるほど工業が発達した王国の中心地で、大昔のヨーロッパを思わせる建物が並ぶ他の国とは雰囲気が全く違う。労働者向けのアパートや高い建物だけでなく、でっかい工場や塔を思わせる工場の煙突が乱立しており、ガラス張りの天井が特徴的なでっかい駅からはフィオナ機関を搭載した機関車が、貨車や客車を別の駅へと運んでいく。

 

 街を警備する騎士たちも防具は殆ど身につけておらず、腰にサーベルを下げているか、マスケットを彷彿とさせるデザインのスチームライフルを装備して、不審者がいないか警備をしている。

 

 建物や工場が街を支配していると言っても過言ではない。おかげで露店が並ぶ大通りは賑やかだけど、でっかい建物たちのせいで道はかなり複雑だ。いたるところに案内板が置いてあるのを見た時は違和感を感じたけど、あの案内板がなければ何人も迷子になっていた事だろう。

 

「タクヤの親父は、この街の雑貨店でこれと同じ懐中時計を購入したらしい」

 

「へえ。壊れてなければ立派なデザインなのに、雑貨店で購入できたの?」

 

「ああ、安物だったみたいだな」

 

 とりあえず、雑貨店の店主にでも聞いてみるか。

 

 まだ販売されている時計ならショーケースに並んでいるだろうし、仮に売り切れていても店主に聞けば取り寄せてもらえるだろう。壊れていなければカッコいいデザインの懐中時計だから、ショーケースにはもう並んでなさそうだがな。

 

 まず、雑貨店を探さないと。

 

 アイスクリームを食べているクランと手を繋ぎながら、俺はきょろきょろと複雑な街並みを見渡した。周囲には冒険者ギルドの事務所や労働者向けのでっかいアパートが乱立していて、金属にも見える真っ黒なレンガで形成された建物の壁には、労働者を募集するモリガン・カンパニーのポスターが張られている。

 

 よく見てみると、近くにある鍛冶屋の看板や冒険者向けのアイテムを販売している売店の看板には、モリガン・カンパニーのロゴマークが描かれているようだ。冒険者や傭兵たちの装備の大半はモリガン・カンパニーで製造されたものなのだろうか。

 

 しかも、近くにある喫茶店の看板にまでモリガン・カンパニーのロゴマークがある。

 

 この街はタクヤの親父の会社に支配されてるんだろうか?

 

「見当たらないわね、雑貨店」

 

「ああ」

 

 案内板も見当たらないし、近くにいる見張りの騎士に聞いてみるか。

 

 そう思いながら周囲を見渡してみると、近くにある鍛冶屋の近くで、スチームライフルと蒸気の入った重そうなタンクを背負った2人の騎士が警備をしているところだった。真っ赤な制服を身につけ、頭にはロシアのウシャンカに似た帽子をかぶっている。

 

「すいません」

 

「なんだ?」

 

 声をかけてみると、スパイク型の銃剣がついたスチームライフルを抱えていた背の高い騎士が微笑みながらこっちを向いた。

 

「あのー、この辺に雑貨店ってあります?」

 

「この通りを真っ直ぐ進んで、冒険者ギルドの看板があるところを左に曲がればあるぞ」

 

「どうも」

 

 親切な騎士だな。

 

 お礼を言ってから、俺たちはそのまま通りを進み始めた。幸い大通りのように露店があるわけではないので、買い物客が殺到している大通りよりも空いている。灰色のレンガでしっかりと舗装された道は、昨日の夜の雨でまだ微かに塗れていて黒光りしていた。

 

 右側にあるパブの中から美味そうな匂いが漂ってくる。どうやら労働者たちが少し早めに昼食を摂っているらしく、カウンターの前に並んだ男性の目の前には、魚の切り身や野菜の入った美味そうなスープの皿が置かれているのが見える。その隣の男性が食べているのはウナギゼリーだろうか。

 

 隣でアイスクリームを舐めているクランが、この匂いを嗅いでパブに入ろうと言い出すかもしれないと思った俺は、残っていたアイスクリームを全部平らげ、反射的に片手を財布へと伸ばしていた。けれども彼女は、隣で「あははっ、美味しそうな匂いね♪」と言ってそのまま歩き続けている。パブに入るつもりはないようだ。

 

 でも、もう少しで12時だ。昼食はあそこのパブにしてみようか。

 

 そのまましばらく歩いていると、冒険者ギルドの事務所の看板が見えてきた。確かここを左に曲がれば雑貨店があるんだよな。

 

「あ、あのお店じゃない?」

 

 クランを連れて左に曲がろうとすると、左側へと伸びるレンガで舗装された道の向こうを眺めていたクランが、その道の向こうにある店の看板を指差した。レンガや金属で造られた建物の群れの中に、同じ素材で作られた看板を出しても殺風景になるだけだと店主が判断したのか、その雑貨店の看板は珍しく木製で、黒っぽいレンガや鉄板が埋め尽くす殺風景な景色に抗っているように見える。

 

 多分あそこだ、さっきの騎士が言っていたのは。

 

 彼女と手を繋いだまま、その雑貨店の扉を開ける。木製の大きなドアの向こうにあったのは、筆記用具や魔物を模したキーホルダーがずらりと並んだ木製の棚。その隣にはぬいぐるみが並んだ棚が置かれており、奥にあるカウンターのすぐ近くには、確かに懐中時計が並ぶショーケースが設置されている。

 

 タクヤから預かった時計はまだあるかな?

 

「いらっしゃいませ」

 

 早くもぬいぐるみの並んでいる棚の方を注目しているクランを見て苦笑いしていると、品物の整理をしていた店員に声をかけられた。左右に伸びた長い耳が特徴のエルフの男性で、年齢は20代前半くらいに見える。けれどもエルフやハーフエルフたちは500年くらい寿命があるらしいし、老いる早さも人間と比べると遥かに緩やかなので、実際には何歳なのかは分からない。こんな若い姿なのに実は90歳だというのは珍しくないのだ。

 

「ああ、すいません。この時計と同じものを探してるんですが…………」

 

「ええと…………ああ、この時計ですか。申し訳ありませんが、この時計はもう取り扱ってないんです」

 

「あっ、そうなんですか? 間違ってぶっ壊しちゃったんで、買い替えようと思ってたんですが…………」

 

「そうなんですか…………実は、これを作ってた工場が潰れちゃいまして。確か…………今から15年くらい前の話ですね。生産数もたった200個だけですので、入手は困難ですよ。オークションに出ることもありませんし」

 

「15年も前…………」

 

 ということは、少なくともこの時計はタクヤやラウラが3歳の頃に製造中止になったという事だ。しかも生産数は200個のみ。もし仮にオークションに出されれば凄まじい金額がつきそうだが、いくら何でもこれを再び入手するのは難しそうだな。

 

 タクヤには「もう販売されていない」と伝えるべきかもしれないが…………もしかしたら、別の店では売られている可能性もある。タクヤに頼まれたのは、この時計が”まだ販売されているかどうか”だ。この店では取り扱っていないが、他の雑貨店では売れ残った奴がまだショーケースに並んでいる可能性もある。

 

 とりあえず、もう少し調べてからタンプル搭に戻ろう。仲間に届ける情報は常に正確でなければならない。間違った情報が仲間たちを全滅させることになるかもしれないのだから。

 

 だからこそシュタージが仲間に提供する情報は、確実なものでなければならない。シュタージに入隊する新入りたちには、とにかく正確な情報を伝えることを叩き込んでいる。

 

 クランに目配せすると、ウサギのぬいぐるみを見るふりをして話を聞いていたクランも頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、ありがとう」

 

 調査をしてくれたケーターに礼を言いながら、財布の中に入っていた2枚の金貨を彼に渡す。この世界では、金貨が3枚あればローン無しで一般的な家を建てられるほどの金額になるので、金貨2枚はかなりの金額の報酬である。

 

 それを渡されたケーターは目を丸くしたが、すぐに「悪いな」と言いながら金貨を自分の財布に突っ込み、ニヤリと笑った。

 

「クランのデート代に使ってもいいし、2人で宿に泊まるときの代金にしてもいい。好きに使え」

 

「わざわざ宿に泊まる必要はないさ。部屋があるからな。…………それで、お前が知りたがってた情報はテンプル騎士団には関係がある事なのか?」

 

 報酬を払い終え、シュタージの諜報指令室を後にしようとした俺は、ケーターに問いかけられて立ち止まった。

 

 はっきり言うと、あの時計の件はテンプル騎士団にほとんど関係はない。関係があるのは俺とラウラくらいだろう。

 

「―――――――いや、あれは個人的な事だ。組織に影響はない」

 

「そうかい。…………覚悟は、決めたんだな?」

 

「…………ああ」

 

 もう、覚悟は決めた。

 

 大きな謎の真相を知る覚悟を。

 

 諜報指令室を後にして、俺はヘリポートに向かうことにした。ケーブルやパイプが剥き出しになった通路を進み、エレベーターのスイッチを押して中へと乗り込む。

 

 もしこの仮説が合っていたら、どうするべきだろうか。

 

 そう思いながら、ケーターに返してもらった懐中時計の残骸をポケットから取り出す。それの裏に刻まれている古い傷の形状と位置は、明らかに3歳の頃にラウラが間違ってつけてしまった傷と一致する。こんなに破損している理由は不明だが、もしかしたらこの懐中時計は親父の物なのかもしれない。

 

 親父がこの懐中時計を購入したのは、俺たちが生まれる前。まだネイリンゲンが健在だったころの話だ。母さんと初めてデートに行った時に王都の雑貨店で購入したものらしいが、いつもメンテナンスをしていたから、殆ど汚れのない立派な懐中時計だったのを覚えている。

 

 しかし親父は、それのメンテナンスを俺たちが6歳の頃から止めた。ラウラも親父が時計のメンテナンスをしているところを見たことがないという。

 

 そしてケーターの情報では、この時計は今から15年前に販売中止になっており、生産数も少なかったため入手は困難だという。つまり俺たちが3歳の頃にはもう販売されていなかったという事だ。

 

 もしかして、親父がメンテナンスしなくなった理由は――――――――時計を持っていなかったからなのではないか?

 

 あの男は愛妻家として有名な男だ。妻から送られたプレゼントはずっと大切にするような男だというのに、一番最初のデートで送られた大切な懐中時計をそう簡単に手放すわけがない。

 

 それに―――――――あの男が変わったのは、あの頃からだ。

 

 どういうわけなのか、親父は幸せな時になると、悲しそうな顔をすることが多くなったのである。

 

 ヘリが格納されている格納庫のある階でエレベーターから降り、分厚い扉を開ける。猛烈な金属とオイルの臭いがする格納庫の中には、ヘリに搭載するロケットポッドや対戦車ミサイルが並び、中央付近ではスーパーハインドやカサートカが整備士たちから整備を受けている状態だった。

 

 その中に、1機だけ地上へと上がるためのエレベーターに乗ったスーパーハインドが待機している。その傍らで待っているのは、黒い制服とミニスカートに身を包んだ、胸の大きな赤毛の美少女だった。

 

「ラウラ」

 

「ああ、タクヤ」

 

 腹違いのお姉ちゃんは、格納庫の向こうからやってきた俺を見ると微笑んでくれた。

 

「―――――――覚悟はできた?」

 

「うん」

 

 これはラウラにとっても大きな事だ。

 

 もしかしたら、彼女にとっては俺の正体が転生者だったことよりも大きな事になるかもしれないのだから。

 

 頷いてから、俺はスーパーハインドのコクピットへと乗り込んだ。テンプル騎士団のヘリに施されている黒とグレーの迷彩模様に塗装された機体にラウラも乗り込み、キャノピーを素早く閉める。

 

 あくまでも王都に向かうだけだから、武装はそれほど積んでいない。道中で魔物に遭遇した可能性も考慮して空対空ミサイルを4発と、機首のターレットのみだ。攻撃機を思わせる大きなスタブウイングには増槽を搭載し、航続距離を底上げしている。

 

 俺の本職は白兵戦なんだが、こういうヘリや戦車の操縦も訓練で学んでいるので、ここから王都までヘリを飛ばすのはお手の物である。

 

「こちらオリョール1。これより離陸する。管制室、エレベーターを上げてくれ」

 

『了解(ダー)、離陸を許可します。エレベーター作動』

 

 がごん、と大きな金属音が格納庫と機内に轟き、エレベーターの四隅に装着されたランプが黄色く点滅を始める。やがてスーパーハインドの巨体が乗っていた床が振動しながら上へと上がり始めると同時に、天井のハッチが左右にスライドしていく。

 

 タンプル搭のヘリポートは、このような変わった方式になっている。地上に作ると要塞砲で砲撃した際の衝撃波でヘリが破損する恐れがあるため、このような格納庫や飛行場は地下に作られているのだ。おかげで離陸や着陸の難易度は高くなっているので、パイロットたちには訓練をしっかりと行っている。

 

 他の拠点のパイロットたちの中には、着陸の難易度が高いせいで「タンプル搭には異動したくない」と言う者もいるという。

 

 やがてエレベーターが地上まで上昇し、ごく普通のヘリポートとなる。

 

「オリョール1、離陸する」

 

『了解(ダー)、同志団長。幸運を』

 

 俺たちは今から、親父を問い詰めに行くだけさ。

 

 呼吸を整えながら、俺はスーパーハインドを離陸させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事を早めに終わらせた俺は、家にある地下室を目指して歩いていた。

 

 今日の昼休みに、タクヤから『地下室で待っている』という短いメッセージが届いていたのである。何か伝えたいことがあるならばメッセージで伝えるか、直接本社までやって来る筈だから、わざわざ地下室に呼び出すという事は大事な話なのだろう。

 

 もしかして、天秤についての話だろうか。

 

 相変わらず、玄関で靴を脱ごうとする癖がなかなか治らない。若い頃からエミリアたちに笑われている癖なのだが、前世の世界で22年間も日本に住んでいればこの癖は定着してしまうだろう。一生治らないのではないだろうか。

 

 黒い革靴を履いたまま、いつも訓練するかのようにそのまま地下室へと向かう。

 

 古い木製の階段を駆け下り、扉を開けて中へと入る。あいつらはどうやらまだ到着いていないらしく、明かりはついていない。

 

 そう思ったのだが――――――――いつの間にか気配を消す技術が上がっていたらしい。部屋の中に入ると、確かに2人がいる気配は感じ取った。

 

 ―――――――俺の後ろから。

 

「―――――――びっくりしたよ。お前らが遅刻したかと思った」

 

「それは残念。遅かったのはあんたの方だ」

 

 確かにな。急いで家に戻ったつもりだったんだが…………。

 

 苦笑いしながら後ろを振り向くと、いつもよりも目つきが鋭いタクヤと、心配そうな表情のラウラが立っていた。タクヤはホルスターの中からライトとドットサイトのついたハンドガンを引き抜き、銃口をこっちへと向けている。

 

 ロシア製のPL-14だ。モリガン・カンパニーでも正式採用しているサイドアームである。

 

「おいおい、同志。なんで銃を向ける?」

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだ。”速河力也”」

 

 ドットサイトの向こうからこっちを睨みつけるタクヤの紅い瞳を見つめながら、俺はぞくりとしていた。

 

 あいつのこういう目つきは何度も目にしてきた。幼少の頃の訓練の時や、あまり思い出したくはないが、ラウラとタクヤが誘拐されたあの時。MP40を使って誘拐犯に復讐していた時もこういう目つきだったし、訓練の最中も、俺やエミリアをヒヤリとさせる動きをする時は、いつもこいつはこういう目つきだった。

 

 きっとそれは、タクヤが何かを見抜いた眼なのだろう。

 

 その眼でこっちを見ているという事は、こいつは俺の何かを見抜いたのだ。

 

 だから今しがた、ぞくりとしたに違いない。

 

「親父――――――――」

 

 PL-14をこっちに向けているタクヤは、呼吸を整えてから問いかけた。

 

「―――――――あんた、本当に俺たちの親父か?」

 

 

 

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