異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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春季攻勢の作戦

 

 

 吸血鬼が行動するのは、基本的には夜である。

 

 日光は我々の弱点の1つであり、同胞の中には日光に触れるだけで消滅してしまう者もいる。消滅を免れても体調を崩してしまったり、身体能力や再生能力が大きく低下してしまうため、いくら耐性が高くても日光は極力浴びないことが望ましい。

 

 前世の世界では普通の人間だったからなのか、この身体になってからもう18年も経つというのに、昼間に眠って夜中に目を覚ます生活には未だに違和感を覚えている。柔らかい毛布の入った棺桶の蓋を開け、上半身を起こしながら背伸びをした俺は、あくびをしながら棺桶の中から踊り出る。

 

 まるで死んだ状態から生き返っているような感覚だ。大昔から、吸血鬼たちはこうやって棺桶をベッド代わりにしているらしく、こうやって棺桶の中に柔らかい毛布を敷いて眠るのが吸血鬼たちの伝統らしい。

 

 ちらりと窓の外を見ると、星空の中に黄金の満月が鎮座していた。

 

 パジャマからいつもの黒い服に着替え、コルトM1911A1の収まったホルスターを拾い上げる。

 

 かつてこの古びた屋敷は、病で全滅してしまった貴族が済んでいた屋敷らしく、その貴族が全員病死してしまってからは長い間放置されていた場所だ。そのためヴリシアから敗走するためになった俺たちが流れ着いた時は、ただの廃墟でしかなかった。

 

 けれども、今は部下やメイドたちがしっかりと掃除や修理をしてくれたおかげで、まだ廃墟だった面影が残っているものの、辛うじて”屋敷”と呼べるような姿にまで戻っている。

 

 鏡の前で服装をチェックしていると、寝室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

『失礼します、ブラド様。アリーシャです』

 

「入れ」

 

 そう言うと、大きな扉がゆっくりと開き、その向こうからメイド服に身を包んだ銀髪の少女がゆっくりと部屋の中へ入ってきた。フリルのついたメイド服とヘッドドレスが良く似合っているのだが、相変わらず腰の辺りには古めかしい大きなリボルバーが納められたホルスターを下げている。

 

 そのホルスターさえなければ、可愛らしい銀髪の少女にしか見えないだろう。けれども得物の収まった物騒なホルスターが彼女の魅力を台無しにしているというわけではなく、むしろそう易々と近寄り難い雰囲気を放っている。

 

 一見すれば人間の少女にも見えるが、口の中に生えているのは、吸血鬼の象徴でもある鋭い犬歯だ。彼女も我らの同胞の1人なのである。

 

「こんばんわ、ブラド様」

 

「兵士たちの調子はどうだ?」

 

「はい、全員XM8の扱い方に慣れたようです」

 

 以前まで、俺たちはドイツ製アサルトライフルのG36を使っていたのだが、今回の春季攻勢のために全てのアサルトライフルをより汎用性の高いXM8へと更新しておいたのだ。

 

 ヴリシアの戦いで大損害を被ってしまったが、ディレントリア国内に逃げ延びていた他の残存兵力や、各地で奴隷にされていた同胞たちを救出したことで、あの時ほどではないが規模は大きくなりつつある。銃で武装した吸血鬼の兵士は、1人でも同じく銃で武装した一般的な兵士10人分に相当する戦闘力を誇るため、1人を仲間にするだけで戦力は大きく跳ね上がると言っていい。

 

 しかし、俺たちの今の規模は、三大勢力の中で最も規模が小さいテンプル騎士団にすら負けている。吸血鬼の兵士を一般的な人間の兵士10人とすれば戦力では上回るが、物量では向こうが上なのだ。

 

 だからこちらは、1人1人の兵士をしっかりと訓練で育て、最新の装備を与えて質を極限まで高めるしかないのである。

 

 基本的に、兵士たちのメインアームはXM8やMG3などだ。サイドアームはストッピング・パワーを考慮し、9mm弾ではなく.45ACP弾を使用した方が望ましいため、コルトM1911A1やドイツ製ハンドガンの『Mk23』を採用している。

 

 Mk23はドイツで開発されたハンドガンで、強力なストッピングパワーを誇る.45ACP弾を12発もマガジンに装填することが可能な代物だ。サプレッサーやライトも装着可能であり、ハンドガンの中では汎用性が高い。

 

「それはよかった。…………ところで、”突撃歩兵”の様子はどうだ?」

 

「はい、こちらも大丈夫です。実戦投入されれば、すぐに敵の塹壕や防衛戦を食い破る事でしょう」

 

 今回の春季攻勢では、”突撃歩兵”と呼ばれる特殊な兵士たちを実戦投入する。

 

 アサルトライフルを装備した通常の兵士たちよりも身軽で、敵陣への肉薄と突破を行うのだ。危険な任務となるため、隊員たちは各部隊から選抜された兵士たちで構成されている。

 

 主な武装は、ドイツ製PDWの『MP7A1』。折り畳み式フォアグリップが特徴的な小型の銃で、従来のSMG(サブマシンガン)と比べると貫通力の高い4.6mm弾を使用する。小型の銃であるため非常に扱いやすく、信頼性や汎用性も優秀である上に殺傷力も高いので、敵陣へと肉薄することを想定している突撃歩兵のメインアームにはうってつけと言える。

 

 サイドアームは、同じくドイツ製のMk23。戦車や装甲車と遭遇した場合も考慮し、一部の兵士にはパンツァーファウスト3も装備させている。

 

「よろしい。では、少し兵士たちに休息をとらせろ」

 

「かしこまりました、ブラド様」

 

 お辞儀をしてから部屋を出ていくアリーシャを見送り、もう一度鏡の向こうを睨みつける。

 

 ヴリシアの戦いで、何人も同胞たちが犠牲になった。今まで俺を鍛えてくれたヴィクトルも、あの忌々しいキメラ共によって殺されてしまった。

 

 だから今度は、俺たちがあいつらから奪う番だ…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『作業員の退避を確認。秒読み開始』

 

『10(ツェーン)、9(ノイン)、8(アハト)、7(ズィーベン)、6(ゼクス)、5(フュンフ)、4(フィーア)、3(ドライ)、2(ツヴァイ)、1(アインス)…………発射(フォイア)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の地下に用意された会議室には、オリーブグリーンの軍服を身につけた兵士たちが何人も集まっていた。同じ色のヘルメットをかぶっている兵士たちは一見すると人間の兵士にも見えるが、やはりよく見てみると口の中には人間とは思えないほど長くて鋭い犬歯が覗いている。

 

 全員、吸血鬼の兵士だけだ。

 

 ヴリシアの時のように、人間の兵士はここにはいない。

 

 この次の戦いは、吸血鬼たちのための戦争だからだ。ヴリシアで奪われた俺たちが、奴らの本拠地へと攻め込んで、奴らからも大きなものを奪い去るための弔い合戦。この攻撃が失敗すれば我々はもう二度と攻撃を仕掛けることもできないし、部隊の再編成もできないほどの大損害を被ることになるだろう。

 

 それゆえにこの戦争が、キメラの率いるテンプル騎士団と、吸血鬼の”最終決戦”となる。

 

「同胞の諸君、作戦を説明する」

 

 そう言いながら後ろにある装置に向かって手を伸ばすと、俺の後ろにある壁に何の前触れもなく緑色の巨大な魔法陣が投影される。やがて外周部の複雑な記号の部分が時計回りに回転を始めたかと思うと、魔法陣の中心にヴリシア語で書かれた地図が表示される。

 

 カルガニスタンにあるテンプル騎士団の本拠地周辺の地図だ。潜水艦部隊が輸送艦隊を撃沈した運河の入り口も表示されている。

 

「テンプル騎士団の本拠地は、この運河の上流の方にあるこの岩山の中だ。やつらは”タンプル搭”と呼んでいる」

 

 偵察機や諜報員からの情報で、テンプル騎士団の拠点のある位置は把握することができた。しかし、この地図に書かれている拠点以外にも小規模な前哨基地や補給基地が存在する可能性は高いため、いきなり攻め込もうとすれば不意打ちをお見舞いされる可能性は高いだろう。

 

「タンプル搭の東西南北には、4つの巨大な要塞がある。その周囲を小規模な前哨基地が取り囲んでいる状態だ。奴らの規模は、モリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)と比べると遥かに小さいが、それでも我々よりも規模は上である。真正面から攻撃を仕掛ければ、各拠点から出撃した敵の防衛部隊に粉砕されてしまうだろう」

 

 拠点や要塞の配置には確かに隙が無い。どこかの拠点が襲撃を受ければ、即座に他の拠点から増援部隊を短時間で派遣できるような位置に前哨基地や要塞が配置されているため、強引に突破しようとすれば、短時間で駆けつけた増援部隊に袋叩きにされてしまう。

 

 狡猾だな、タクヤ(ナガト)…………!

 

 地図を睨みつけていると、説明を聞いていた兵士の1人が手を上げた。背がやけに小さくて幼い顔つきの兵士だ。俺よりも年下みたいだな。

 

「どうした?」

 

「ブラド様、敵の拠点の配置は完璧です。今の兵力で攻め込むのは無茶なのでは…………?」

 

「ああ、確かにそうかもしれん。傍から見れば自殺行為だろうな」

 

 こちらの規模は小さい。しかも向こうはこっちよりも規模が上で、本拠地の周囲は大規模な要塞や無数の前哨基地で守られている。

 

「だが、安心しろ。隙を見つけた」

 

 そう言いながら、投影されている地図の映像を拡大していく。

 

 拡大したのは――――――――タンプル搭のすぐ近くを流れる運河よりもさらに上流にある、巨大な要塞の1つだった。

 

「この運河は、タンプル搭よりも上流に行けば行くほど流れが急になっている。連中はその上流に、要塞と一緒にダムまで作り上げているようだ」

 

「ダム…………」

 

「そうだ。…………ではここを爆破してしまったら、タンプル搭はどうなると思う?」

 

 説明を聞いていた兵士たちが、一斉に息を呑む。

 

 流れが急になっている上流のダムを破壊すれば、凄まじい量の水がタンプル搭の中にある軍港へと流れ込むことになるだろう。そんなことになれば、中に停泊している艦艇がどれほどの損害を被るかは想像に難くない。

 

 小型の艦艇や駆逐艦は転覆し、巡洋艦や戦艦も滅茶苦茶になるだろう。下手をすればそれだけで、テンプル騎士団の海軍を壊滅させることができるかもしれないのだ。

 

「で、では、そこを襲撃するのですか? しかしそこは、このディレントリア公国の反対側ではありませんか」

 

「そうだ。だからこそテンプル騎士団の連中は、我々がこのまま直進して国境の近くにあるブレスト要塞を襲撃するか、このダムを破壊するのか迷っている事だろう」

 

 こちらよりも規模は小さいとはいえ、練度で劣っている上に三大兵力の中では規模も小さい。もし仮に連中がダムとブレスト要塞に同規模の守備隊を展開していたとしても、こちらが全ての兵力で総攻撃を仕掛ければこちらが勝利できるだろう。

 

 それゆえに、連中は攻撃を受けそうな拠点に守備隊を集中せざるを得なくなる。

 

「そこで、まず小規模な部隊を派遣してダムを襲撃し、ダムを破壊しようとしているふりをする。そうすればテンプル騎士団の連中は、ダムを守るために増援部隊を上流のダムへと派遣する筈だ。そうすれば――――――――他の要塞が一気に手薄になる」

 

 装置を操作し、今度はブレスト要塞を拡大する。

 

「奴らがダムに部隊を派遣しているうちに、全ての兵力で手薄になったブレスト要塞を急襲する。短時間でここを壊滅させて橋頭保とし、我らはそのままタンプル搭へと進撃する」

 

「なるほど。確かに手薄な状況なら、我らでも占拠するのは容易いですな」

 

「その通りだ。だが、手薄とはいえ一筋縄ではいかないだろう」

 

 ブレスト要塞の地図を更に拡大すると、今の作戦を聞いて安堵していた兵士たちが再び息を呑んだ。砂漠の真っ只中に作り上げられた要塞の周囲には要塞砲が取り付けられた分厚い防壁があり、その周囲には大規模な塹壕が用意されていたのである。

 

「要塞を陥落させるには、まずこの塹壕を突破する必要がある。空爆できればすぐに決着はつくだろうが、要塞からの対空砲火や航空部隊を無力化しなければ不可能だ。そこでまず最初に航空部隊を派遣し、敵のレーダーサイトや対空兵器を破壊。航空部隊を無力化してから空爆を実施し、そこで突撃歩兵を投入する。防壁は確かに分厚いが、防壁の門をC4爆弾で破壊すれば要塞内部への侵入は容易いだろう。侵入後は要塞砲を無力化し、地上部隊の突入を支援せよ。その後、戦車と歩兵部隊を突入させ、一気に要塞を制圧する」

 

 まず、このブレスト要塞を陥落させない限りタンプル搭へは攻撃できない。ここを短時間で陥落させて橋頭保代わりにする必要がある。

 

 そのためにも制空権を一番最初に確保しなければならない。

 

 ヴリシアの戦いでの敗因は、戦争の序盤で敵に制空権を確保されてしまったことだろう。そのせいで敵には一方的に空爆された挙句、こちらのヘリは戦闘機に蹂躙され、まともに歩兵を支援することができなかったのだから。

 

「それと同時に、こちらも艦隊を出撃させる。艦隊は運河を上りつつ、ブレスト要塞へと艦砲射撃を実施する予定だ。要塞陥落後はさらに上流へと向かい、タンプル搭への砲撃を実施する予定となっている」

 

 ブレスト要塞を陥落させてから、更に巨大なタンプル搭を陥落させなければならない。

 

 分厚い上に巨大な岩山に囲まれたタンプル搭は、はっきり言うとかなり攻め難い要塞だ。砲弾や対艦ミサイルの集中砲火でも崩せないほど分厚い岩山の表面には、多数の対空砲や要塞砲が設置されており、中心部には超弩級戦艦の主砲に匹敵する口径の要塞砲が設置されているという。

 

 下手をすれば、要塞への攻撃中にこの要塞砲で砲撃され、蹂躙されてしまうだろう。

 

「タンプル搭へは、航空部隊がまず攻撃を仕掛ける。対空兵器とレーダーサイトを破壊した直後に、地上部隊が突入する予定だ。こちらが要塞に辿り着くまで、艦隊は艦砲射撃を継続せよ」

 

 そして、今度こそここで俺たちはキメラ共を打ち倒す。

 

 奴らが持っている天秤の鍵を奪い、必ず父上を生き返らせるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらオリョール2-5。観測データ送信中。ミサイル、大気圏への再突入を確認』

 

『お、見えた。タンプル搭からのICBM(プレゼント)の反応を確認。着弾まで510秒』

 

『…………すげえな。まるで流れ星みたいだ』

 

『着弾まで490秒』

 

『こちらタンプル搭管制室。第二射発射体制に入る。オリョール2-5はそのまま観測を継続せよ』

 

『了解(ダー)、同志』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよだな」

 

「はい、ブラド様。この作戦が成功すれば、アリア様もお喜びになるでしょう」

 

 アリーシャと一緒に屋敷の廊下を歩きながら、ちらりと窓の外を見る。段々と空は明るくなりつつあったが、まだ星空と綺麗な黄金の満月ははっきりと見える。

 

 春季攻勢を開始するのは、あと一週間後になるだろう。

 

 奴らから全てを奪うための大規模攻勢が、ついに実行されるのだ。

 

 もちろん俺も最前線で戦うし、アリーシャにも参加してもらう。

 

「アリーシャ、準備はいいか?」

 

「大丈夫です。お供しますよ、ブラド様」

 

 ちらりと後ろを振り向くと、後を付いて来ていたアリーシャが微笑んでいた。

 

 彼女も、かつては俺の母上と同じように奴隷として売られていた吸血鬼だった。ディレントリアへと流れついた我々が救出してからは、こうして俺のメイドとして常に近くにいてくれている頼もしい少女である。

 

 けれども、少しばかり不安だ。

 

 今回の作戦に参加するのは男性の吸血鬼ばかり。女性の吸血鬼はごく少数である。

 

 女性である彼女を最前線へと送ることになるのを心配しているのは、きっとアリーシャに失礼だろう。けれども、血まみれになりながら戦うのは俺たちだけでいいのではないだろうか。

 

 そう言いたいのだが、彼女を見ていると「後方で待っていろ」とは言えない。彼女も覚悟を決めている筈なのだから。

 

「アリーシャ…………お前は――――――――」

 

「ブラド様、あれは…………?」

 

「え?」

 

 すると、俺の顔を見ながら微笑んでいた彼女が、窓の外を指差す。何を見つけたんだろうかと思いながら窓の外を見てみると――――――――星空の真っ只中に、真っ赤な光を纏う何かが見えた。

 

 流れ星かと思ったが、その赤い光はいつまでも見えている。それにその光は、なんだかこの屋敷へと近づいているような気がする。

 

 その直後、俺はぞくりとした。

 

 あれは流れ星ではない。

 

「アリーシャ――――――――」

 

 反射的に彼女を突き飛ばし、アリーシャの身体の上へと覆いかぶさる。

 

 その直後、古びた屋敷の窓が弾け飛び、流れ込んだ猛烈な爆風と破片の群れが、俺たちを蹂躙した。

 

 

 

 

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