異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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エイナ・ドルレアン

 

 ナギアラントの小さな防壁の中にある駅は、エイナ・ドルレアンから王都へと向かう上り線と、王都からエイナ・ドルレアンへ向かう下り線の2つしかないため、いくつも路線のある王都の駅と比べるとまるで小人のように小ぢんまりとしている。

 

 レンガ造りの小ぢんまりとした駅の中には切符売り場があり、その奥には簡単な改札口がある。この異世界の改札口は、切符を改札口に入れるのではなく、改札口に刻まれている刻印に切符に描かれている小さな魔法陣を合わせることによって改札口が開く仕組みになっている。初めて王都の駅から列車に乗った時は切符を入れる穴が見当たらなかったから必死に探して、親父に大笑いされたことがあった。

 

 文化や技術は段々と前世の世界に近付いてきているけど、ここは異世界だから完全に同じというわけではない。特に、この世界には前世の世界には決して存在しない魔術という存在がある。これがある限り、あの世界とは別の文化や技術へと派生していくことだろう。

 

 切符売り場の向こうでは、メガネをかけた駅員がせっせと羽ペンで書類に何かを書き込んでいる。魔女狩りという恐怖が消滅し、教団の支部長による圧政が終わったことで、これからきっとこの小さな街にも再び観光客が増加する事だろう。その準備なのかもしれない。

 

「すいません、エイナ・ドルレアン行きの切符を4枚ください」

 

「はい、エイナ・ドルレアン行きですね?」

 

「はい」

 

「こちらです」

 

 白い手袋をはめた駅員から手渡された切符は、右腕に小さな魔法陣が描かれている以外は前世の切符と酷似していた。この魔法陣を改札口の刻印にかざすという仕組みを知らなかった頃を思い出して少しだけ笑いそうになっていると、隣で切符を受け取ったラウラが俺を見つめながらニヤニヤと笑い出した。彼女も俺が改札口の仕組みを知らなかった時の事を思い出したらしい。

 

「タクヤ、いい? ここの魔法陣を刻印に近付ければいいんだからね?」

 

「馬鹿にすんなって。知ってるよ」

 

「えへへっ、本当かなぁ?」

 

 ニヤニヤ笑いながら腰に手を当てて、俺の顔を覗き込むラウラ。俺は「本当だって」と苦笑いしながら言うと、ラウラをからかうために昔の事を思い出し始める。

 

 瞬時にいくつもからかえそうな話を思いついたんだが、ここで暴露するのは止めよう。ラウラは性格が幼いから恥ずかしがって泣き出すかもしれないし、機嫌を悪くしてしまうかもしれない。明らかに俺よりもラウラのほうがそういう話の数ははるかに上回ってるんだが、ここでその恥ずかしい話をガトリングガンのように掃射するのはあまりにも大人げない。

 

 何も言わずに苦笑いで誤魔化そう。

 

 切符を受け取ったナタリアの隣で、ステラが背伸びをして駅員から切符を受け取る。彼女は生まれて初めて目にする切符をまじまじと見つめると、無表情のまま首を傾げ、俺の傍へとやってきてぐいぐいとズボンを引っ張り始めた。

 

「タクヤ、これは何ですか?」

 

「これは切符って言うんだよ。列車に乗るのに必要なんだ」

 

「列車?」

 

「ああ。馬車よりも速い乗り物だぞ。今からみんなでそれに乗るんだぜ」

 

「楽しみです」

 

 ステラが生活していたのは大昔だからな。確かサキュバスが絶滅したと言われているのが1200年前だから、9年前に始まった残業革命によって生まれた列車を知っているわけがない。

 

 無表情のステラは列車に乗るのが楽しみなのか、切符をじっと見つめながら俺のズボンを弄り始める。

 

「えっと、いくらですか?」

 

「お代はいりませんよ、勇者様」

 

「えっ?」

 

「あなた方ですよね? あの独裁者を倒してくださったのは」

 

「そ、そうですけど…………」

 

 勇者様か………。俺たちの親父が魔王と呼ばれているせいなのか、何だか似合わない異名だな。敵同士じゃねえか。

 

「ですから、お代はいりませんよ。タダです」

 

「いえいえ、それはさすがに………ちゃんと払いますよ」

 

「お気になさらないでください。街を救ってくださったお礼です」

 

 財布から銀貨を取り出そうとしたが、駅員さんに止められてしまう。

 

「タクヤ、タダにしてもらいましょう」

 

「うーん………そうするか?」

 

 フィエーニュの森のレポートをまだ提出していないから、管理局からの報酬はまだ貰えていない。それに何度か売店でアイテムを購入したし、フィエーニュ村で一泊しているから、財布の中の硬貨は順調に減っている。

 

 申し訳ないが、タダで列車に乗ることにしよう。駅員さんに頭を下げてから改札口へと向かい、まだニヤニヤと笑うラウラに見られながら切符を改札口にかざす。

 

 すると改札口に刻まれている刻印が緑色に発光し、切符の魔法陣も刻印の光に照らされてから輝き始める。

 

 改札口を通り過ぎて数秒ほど進めば、もうホームになっている。ホームにはそろそろエイナ・ドルレアンへと向けて出発する列車が居座っていて、車両を引っ張って行く機関車は車輪の隙間や胴体から蒸気を吐き出し続けていた。

 

 機関車の原動力は魔力なんだが、外見はまるで蒸気機関車のようだ。原動力は蒸気機関ではないため煙突はない。運転手が運転席にある魔法陣から搭載しているフィオナ機関の内部に魔力を流し込み、その魔力をフィオナ機関が圧縮して機関車の各部に伝達することで機関車を動かしているらしい。

 

 フィオナ機関を搭載した機関車には様々な種類があるようだが、この機関車はなんだか蒸気機関車のD51に似ている。機関車の後ろには炭水車があるが、あの中に満載されているのは機関部を冷却するための冷却水だ。機関車が蒸気を発するのは、発熱した部分を冷却し終えて蒸気となった水が車外に排出されるからだという。

 

「では、ありがとうございました」

 

「いえいえ、街を救っていただき本当にありがとうございます!」

 

「また来てくださいね! おもてなししますよ!!」

 

 駅まで案内してくれた男性に礼を言い、俺たちは駅のホームから車両へと乗り込んだ。

 

 あの転生者に支配されていた間はここで乗る客などいなかったせいなのか、王都から乗ってきた乗客たちは、ナギアラント駅で乗り込んできた俺たちを珍しそうに見てくる。中には珍しいからという理由ではなく、どうせ俺を女と勘違いする馬鹿や、ラウラたちにナンパしようと企んでいる阿保もいるようだ。

 

 ナンパされると面倒くさいので、早めに座る場所を決めて座ってしまおう。

 

 じろじろと乗客たちに見つめられる中で何とか4人で座れそうな座席を見つけた俺は、隣できょろきょろと空いている座席を探していたラウラの肩を叩いて見つけた場所を指差し、生まれて初めて見る列車に目を輝かせているステラと手を繋いでいるナタリアにもその座席を教えてから、みんなで座席に腰を下ろす。

 

 他の乗客は、アイテムやメスのホルダーの付いたコートやアイテムが入ったポーチを身に着けている俺たちは明らかに冒険者だと理解している事だろう。そんな格好で列車に乗り込んでくる職業の人間は傭兵か冒険者の二択だし、それ以外だった場合は大概盗賊や冒険者気取りのならず者ばかりだ。

 

 冒険者が列車を利用するのは珍しい事ではない。座席に座ったまま他の乗客の服装をチェックしてみるが、俺たち以外にも冒険者は何人か乗っているようだ。防具を身に着けている奴もいるし、腰に剣を下げている男もいる。

 

 もちろん、冒険者以外の乗客の方が多数派だ。これから親族の家にでも遊びに行くのか、小さな子供を連れている父親と母親らしき乗客もいるし、その前の座席ではカバンを脇に置いたスーツ姿の男性が、持参した小説を読んでいるところだった。

 

 王都からエイナ・ドルレアンまで3時間。ナギアラントからの場合はおそらく2時間弱くらいだろう。

 

 産業革命が起こる以前は、王都からエイナ・ドルレアンまで徒歩か馬車で移動しなければならず、到着するまで数日かかる事もあったという。親父たちが若かった時代は鉄道など走っていなかったため、モリガンの傭兵たちは大人しく馬車を利用するか、親父が端末で生産した兵器やバイクで王都まで向かっていたらしい。

 

 母さんが話してくれたんだが、母さんが親父と王都までデートに行った時は、親父のバイクに2人乗りで王都まで向かったという。

 

『間もなく、エイナ・ドルレアンへ出発いたします。次の停車駅はリリードシティとなっております』

 

 エイナ・ドルレアンに到着したら、まず最初にカレンさんを訪ねてみよう。オルトバルカ王国の南方にあるドルレアン領を治めるあの人ならば、きっと俺たちに色々と手を貸してくれる筈だ。カレンさんもモリガンのメンバーだし、夫のギュンターさんも同じくモリガンのメンバーで、よく王都の家に遊びに来ていた。

 

 その次は信也叔父さんの家を訪ねる予定だ。現時点でもモリガンの傭兵として各地で様々な戦いを経験している熟練の傭兵で、親父たちと一緒に戦っていた頃は参謀として作戦を立案し、数多の強敵たちを返り討ちにしてきたという。それに、信也叔父さんは変わり者の多いモリガンのメンバーの中でも数少ないまともな人として知られている。

 

「あ………! タクヤ、列車が動きました」

 

 がくんと車両が揺れた瞬間、驚いて窓の外を見つめるステラ。車両の前の方から、車輪とレールがぶつかる音や、機関車が蒸気を吐き出す音が聞こえてくる中で、無表情だった彼女が珍しく目を輝かせている。

 

 もしかしたら、ステラは機械が好きなのかもしれない。もし今度俺の能力で戦車や戦闘ヘリを見せたら、ステラは喜んでくれるだろうか?

 

 興味深そうに窓の外をじっと見つめているステラ。その窓の向こうでは、見送りに来てくれた男性が手を振ってくれている。

 

 窓を開け、手を振るために身を乗り出そうとしたんだけど、見送りに来てくれた男性と駅員さんが大きな声で「勇者様ぁぁぁぁぁぁ! 頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」と絶叫していたのを聞いて、俺は思わず苦笑いしながら手を振る事を躊躇ってしまう。

 

 出来るならば勇者様とは呼ばないでほしい………。恥ずかしいし、他の乗客の人達が滅茶苦茶俺たちの事を見てる。

 

「は、恥ずかしい…………」

 

「そろそろ……窓閉めた方が良いんじゃない?」

 

「そうしようよぉ………」

 

「列車ってすごいです…………!」

 

 勇者様と呼ばれて気にならないのはステラだけか。彼女はホームから走り出した列車に夢中になっているから、もしかしたら全く気になっていないだけなのかもしれない。

 

 走り始めた列車の音であの2人の声がはっきりと聞こえなくなり始めてから、俺は大急ぎで列車の窓の淵を掴んで下へと引っ張り、見送ってくれた2人の大声と列車の音を窓の外へと隔離する。

 

「―――――そういえば、カノンちゃんとノエルちゃんは元気かなぁ?」

 

「元気だろう。………きっと、俺たちが冒険者になったって聞いたら2人ともびっくりするぞ?」

 

 カノンはカレンさんとギュンターさんの1人娘で、現在はドルレアン領の次期領主候補となっている。幼少の頃からカレンさんによって貴族としてのマナーや政治についての教育を受けており、更にギュンターさんからは銃を使った戦い方を教わっている。

 

 母親であるカレンさんの才能を受け継いだのか、特にセミオートマチック式のライフルを使用した中距離での射撃を最も得意としているらしい。もしかしたら、彼女はカレンさんと同じく優秀な選抜射手(マークスマン)になるかもしれない。

 

 ノエルは信也叔父さんと、妻のミラさんの1人娘だ。種族は人間ではなく、母親であるミラさんと同じくハーフエルフという事になっている。身内でもあまり会ったことのない人を見ると怖がってしまうほど非常に気が弱い子で、しかも身体が弱いため、最近は常にベッドの上で生活しているという。

 

 最初は俺やラウラの事も怖がっていたんだけど、何度も会っているうちに俺たちを怖がらなくなってくれた。彼女は殆ど外に出る事ができないため、きっと俺たちが冒険者になって、ダンジョンを調査したことを話してあげたら喜んでくれる筈だ。

 

 早くあの2人に会ってみたいな。

 

 エイナ・ドルレアンにいる妹分と従妹の事を考えながら、俺は窓の外を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

「タクヤ君たちは転生者を撃破。ナギアラントを解放し、現在は無事に列車でエイナ・ドルレアンへと向かっている模様です」

 

 ヘンシェルからの報告を聞きながら、ヴリシア帝国産の紅茶の入ったティーカップを口元へと運ぶ。香ばしい紅茶の香りと苦みで体中にへばりついていただるさを払い落とし、ティーカップを皿の上に置いて息を吐く。

 

 あの子供たちは、俺たちから様々な才能を受け継いだ。転生者を最初に狩らせた時はまだ早いと思っていたんだが、あの2人は俺やエミリアたちの予想よりも早く転生者を撃破し、更に旅立ってからすぐに2人目の転生者を撃破している。

 

 しかも、一番最初のダンジョンでは危険度の高いダンジョンの生息しているトロールを撃破したという報告も聞いている。

 

「予想以上です、社長」

 

「ああ、その通りだ。――――――順調に成長しているようじゃないか」

 

 我が子が成長するのは喜ばしい事だ。

 

 俺とエミリアの子として転生した少年が、魔王と呼ばれれている俺の遺志を受け継いでくれている。かつてモリガンの傭兵という炎として仲間たちと共に燃え上がった俺たちは、無事に火種(タクヤとラウラ)を遺す事ができたのだ。

 

 あの2人ならば自力でこの世界に燃え移り、新たな炎となる事だろう。そしてあの2人も火種を遺し、キメラという種族を反映させていくに違いない。

 

 だから俺は、炎が生み出す灼熱の幻でいい。今の俺は、炎に取り残された陽炎でしかないのだから。

 

 俺がヘンシェルの部下に頼んでいたのは、子供たちを見守る事だけではない。いつまでも子供たちの話を聞いて昔の事を思い出しているわけにはいかないと思った俺は、そろそろもう一つの報告を聞くことにした。

 

「…………ところで、奴らはどうなった?」

 

「………動き出した模様です」

 

 尋ねると、ヘンシェルは目を細めながらそう答えた。

 

「そうか…………」

 

 11年前に葬った、あの男の眷族たち。世界を支配した吸血鬼の王に取り残され、息を潜めていた吸血鬼の残党たちが、ついに動き出したようだ。

 

 レリエル・クロフォード。かつてこの世界を支配し、人類を蹂躙した伝説の吸血鬼。11年前、俺はそのレリエル・クロフォードと魔界で決闘し、何とか奴を葬ることに成功している。

 

 この世界の人々は奴が封印されていると思っているらしいが、あの男はもう二度とこの世界に現れることはないだろう。

 

 だが、あの時俺も大切な友人を失った。

 

 俺に止めを刺さず、仲間に迎え入れてくれた大切な友人。彼もレリエルと同じく、もう二度とこの世に現れることはないのだ。

 

 もし生き返らせる事ができる手段があるのならば、彼を生き返らせてやりたい。そして大切な人ともう一度会わせてやりたい。

 

 あの男に――――――恩返しがしたいのだ。

 

「―――――――ヘンシェル、部下に対吸血鬼用の装備を支給しろ。それと、四天王の招集を」

 

「かしこまりました」

 

 未だに牙を剥くというのならば、もう一度叩きのめしてやろう。

 

 おそらく吸血鬼たちの残党を率いているのは、あの女だろう。レリエルの血を授かり、ヴリシア帝国でカレンとギュンターを苦しめた少女の姿の吸血鬼。彼女が残党を率いて動いているに違いない。

 

 場合によっては、俺も再び最前線に出ることになるだろう。それに、モリガン・カンパニーの4つの分野を指揮する四天王たちも戦う事になるかもしれない。

 

 社長室からヘンシェルが出て行ってから、俺は息を吐いた。

 

「それにしても、ナギアラントを解放したタクヤたちが勇者様とは…………」

 

 魔王の子供たちが勇者様か。皮肉なものだな………。

 

 まだ暖かいティーカップを持ち上げ、紅茶を口へと流し込む。まだヘンシェルが運んできてくれてから数分しか経過していない筈なのに、紅茶がかなり冷たくなってしまったような気がした。

 

 

 

 第三章へ続く

 

 

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