異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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被害と作戦

 

 この世界に転生したばかりの頃、俺は何度も地獄を目にしてきた。

 

 商人共に連れ去られた子供たちや、どこからか連れてこられた女の奴隷たち。人間共に逆らった奴隷たちは痛めつけられるのが当たり前で、俺が放り込まれていた牢屋の向かいにいた女の奴隷は、よく商人共が”暇つぶし”に犯していた。

 

 母上が俺を助けてくれるまで、苦しむ奴隷たちの呻き声に囲まれているのが当たり前だったのである。

 

 俺はそれが地獄だと思っていた。汚くて狭い牢屋の中で、周囲で苦しむ奴隷たちの声を聴かされながら過ごす日常。もし母上が助けに来てくれるのがもう少し遅かったら、俺は発狂していたに違いない。

 

 だが、その地獄はあくまでも”個人的な地獄”なんだろう。

 

 目の前に広がっているのが、きっと本当の地獄だ。

 

 ヴリシアでも目にした光景である。燃え上がる建物の残骸と、その周囲で呻き声を上げる仲間たち。火達磨になりながら絶叫している奴もいるし、仲間の肩を借りながら安全な場所へと連れて行かれる兵士も見受けられる。

 

「…………!」

 

 十数分前までは静かだった森の中の古い屋敷は、もう既に半壊していた。瓦礫の山には炎が燃え移り、その炎は段々と森を侵食しつつある。

 

 赤い光に照らされた地獄を目の当たりにしながら、まだ自分の身体に突き刺さったままになっているガラスの破片を強引に引き抜く。随分深く刺さっていたらしく、強引にガラスの破片を掴んで引っ張ると、皮膚の下から筋肉繊維や皮膚が裂けていく音が聞こえてくる。

 

 けれども、俺は吸血鬼だ。しかも父親は吸血鬼の王で、母親はその父から血を与え続けられていた眷属。弱点ですらないガラスの破片でつけられた傷など数秒で塞げる。皮膚と筋肉繊維が裂ける激痛を感じながら、ささっていたガラスの破片を放り投げ、俺も瓦礫の下で呻き声を上げている仲間の元へと向かった。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「ぶ、ブラド様…………」

 

 俺の姿を見て安堵した同胞の頬には、溶けた痕があった。

 

 おそらく先ほど飛来した攻撃―――――多分ICBMだろう―――――の弾頭に、聖水や水銀を充填していたのだろう。どちらも吸血鬼にとっては弱点の1つで、それで攻撃されればこっちは致命傷を負う羽目になる。耐性には個人差があるが、中にはそれを喰らうだけで即死してしまう同胞もいるのだ。

 

 聖水や水銀は、吸血鬼にとっては硫酸のようなものだ。触れれば身体が融解してしまう。

 

 耐性が高い吸血鬼ならば、ゆっくりになってしまうがその傷も再生することが可能だ。しかし体制の低い吸血鬼の場合は、その傷を自力で塞ぐことは不可能である。

 

 この同胞は、少しは耐性があるらしい。非常にゆっくりだが、頬にある聖水で溶けた痕が塞がりつつあるのが分かる。

 

 彼を引っ張り出し、腰にあるホルダーに残っていたエリクサーの容器を1つ渡す。

 

「も、申し訳ありません」

 

「気にするな。大切な同胞なんだからな」

 

 絶滅してしまったサキュバスと忌々しいキメラ共を除けば、最も個体数が少ない種族は吸血鬼となる。父上が大天使との戦いに敗れたことを知った人間共が、一気に弱体化した吸血鬼たちを討伐し始めたことが原因であり、数多くの種族が奴隷にされている奴隷商人の元でも、吸血鬼の奴隷は滅多に見ることはできない。

 

 それほど数が少ないのである。それゆえに、吸血鬼の兵士は1人死んでしまうだけでも大損害となるのだ。

 

「ブラド様」

 

「アリーシャ…………他の同胞たちは?」

 

「はい、何人も犠牲者が出てしまいましたが…………春季攻勢に支障はないかと」

 

 早くも春季攻勢が頓挫してしまうのではないかと思っていた俺は、安心しながら夜空を見上げた。

 

 飛来した敵のミサイルの数は合計で3発。一番最初のミサイルは通常のミサイルだったが、その後の2発はおそらくMIRV(マーヴ)だろう。あんなに広範囲を攻撃できる長距離ミサイルはMIRV(マーヴ)しかない。

 

 それにしても、諜報部隊の報告ではタンプル搭には大型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を運用するためのミサイルサイロなどなかった筈だ。あそこにあるのはあくまでも大口径の要塞砲ばかりだった筈だから、他の拠点から撃ち込んだのか?

 

「…………分かった。アリーシャ、損害を調べて報告してくれ。場合によっては作戦を練り直し、春季攻勢を少しばかり延期する」

 

「かしこまりました、ブラド様」

 

「それと、母上にも報告を頼む」

 

「はい、ブラド様」

 

 母上は屋敷ではなく、春季攻勢の際に旗艦となる戦艦『ビスマルク』で出撃の準備をしていた筈だ。屋敷にはいなかったから、艦隊の乗組員たちや強襲揚陸艦で運河の入り口から上陸する予定の海兵隊には被害は出ていない。

 

 とはいえ、地上部隊は大損害だ。もしかしたら、再編成のために春季攻勢を延期する羽目になるかもしれない。

 

「…………ナガトめ」

 

 やりやがったな…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『観測任務完了。オリョール2-5、帰還します』

 

「了解(ダー)、よくやった」

 

 これで吸血鬼共は大損害を被る羽目になった。上手くいけば、あいつらが企んでいた春季攻勢を延期させたり頓挫させることができたかもしれない。

 

 吸血鬼は個体数が少ない種族であるため、一般的な人間で構成された部隊とは違い、1人死亡するだけでも大損害となる。再編成のためにはどこかで奴隷にされている吸血鬼を開放して仲間にするか、吸血鬼以外の種族を強引に徴兵して補充するしかないのだが、身体能力が劣る普通の人間の兵士では、凄まじい身体能力を誇る吸血鬼たちには全くついて行けない。

 

 それに強引な徴兵で戦わされるのだから、士気も低くなる。

 

 はっきり言うと、強引に徴兵された奴隷の兵士たちは足手まといにしかならないのだ。当たり前だが、しっかりと訓練した兵士たちと一緒に訓練期間の短かった素人を戦わせるわけだから、技術だけでなく練度でも大きな差ができてしまう。

 

 だから吸血鬼たちは、ヴリシアで失敗したのだ。

 

 ヴリシアでの敗因の1つは序盤で制空権を失ったことだが、その練度の低さや実力の差も彼らの敗因の1つだろう。今度は向こうから攻め込んでくる以上、同じ轍を踏まないために敗因は徹底的に改善している筈だ。だからブラドは、奴隷を徴兵するような真似はしないだろう。

 

 損害の再編成は、同胞(吸血鬼)のみで行う筈だ。

 

「よし、薬室への炸薬の充填を頼む」

 

「了解(ダー)、同志団長」

 

「どれくらい時間がかかる?」

 

「はい、もう既に冷却は終わっていますので、充填は5時間ほどかかります」

 

 タンプル搭は超遠距離の目標へミサイルをぶち込むことができる決戦兵器だが、欠点は非常に多い。大口径の砲弾やミサイルをぶっ放すため、衝撃波から身を守るために隔壁を閉鎖したり、検問所のゲートを開放する必要がある。当たり前だが作業員は全員地下へと退避させなければ発射はできない。

 

 しかも、長大な砲身に取り付けられている薬室へ炸薬を充填するためには、砲身の後端にある1つを除いたすべての薬室をクレーンで取り外し、その中に炸薬を詰め込まなければならないのだ。5発ぶっ放せば取り外してから新しい薬室を取り付けるだけで済むのだが、途中で止めてしまった場合は外してからそれに炸薬を詰め込み、再びクレーンで取りつけなければならない。

 

 そのため、出来るのであれば5発ぶっ放してしまうのが望ましいのだが、偵察機からは『敵は被害甚大。攻撃は十分』という報告を受けたため、攻撃は3回で終了している。

 

「よし、すぐに取り掛かってくれ」

 

「了解(ダー)」

 

 これで春季攻勢も延期だろう。その間にこっちは軍拡を薦めつつ、防衛準備をしておこう。

 

 作戦も立てておかないとな。

 

 タンプル搭の周囲にある拠点の位置を思い出しながら踵を返すと、俺たちの後方でタンプル砲の発射を見守っていたイリナが、どういうわけか床の上でぶっ倒れていた。

 

「…………えっ? い、イリナ?」

 

 生きてる…………?

 

 しかも、なぜか幸せそうな顔をしてるよ…………? ど、どうしたの?

 

「お、お兄様。多分イリナさんは…………タンプル砲の発射を見て、幸せすぎて気絶してしまったのでは…………?」

 

「なんだそれぇ!?」

 

 た、確かにタンプル砲の発射は凄まじい大爆発だからな。イリナが見れば大喜びするだろうなとは思ってたんだが、どうやら大喜びでは済まなかったらしい。

 

「…………と、とりあえず部屋に連れてくわ。手の空いてる同志諸君も、攻勢前に休んでおくように」

 

「はいはーい」

 

「了解でーす」

 

 イリナを部屋に連れて行ったら、俺も充填を手伝っておこうかな。キメラの筋力は頼りになる筈だし、休んでいる場合ではないだろう。

 

 気を失っているイリナを抱き抱えると、近くで見ていたカノンが羨ましそうな顔でこっちを見てくる。

 

「ず、ずるいですわ…………」

 

「安心しろって。後でお姫様抱っこしてやるから」

 

「にゃあ!? …………や、約束ですわよ…………!?」

 

「了解」

 

 片手でカノンの頭を優しく撫でてから、中央指令室を後にする。広大な廊下に出ると、凄まじい金属音と警報が廊下の中を跳ね回っていた。タンプル砲発射の際に閉鎖されていた隔壁が解放されているのだろう。

 

 隔壁を開放したままぶっ放せば、発射の衝撃波が地下にまで入り込んでくるため、発射の前には絶対に隔壁を閉鎖しなければならない。200cm多薬室砲から巨大な砲弾を発射するだけでなく、その砲弾を更に32基の薬室で加速させるのだから、タンプル砲が生み出す衝撃波は通常の主砲の衝撃波を遥かに上回る。

 

 下手をすれば、衝撃波だけで戦闘機が木っ端微塵になるほどだろう。

 

 エレベーターの前を横切って居住区へと向かう。イリナを抱えたまま自室のドアを開けて中へと入り、すぐに彼女が眠るのに使っている棺桶の蓋を外しておく。

 

 棺桶の中に毛布を敷いて眠るのは吸血鬼たちの伝統らしく、死んだ人間を棺桶に入れて埋葬しているのを目にすると、驚く吸血鬼もいるらしい。どうやら吸血鬼たちにとって棺桶はベッドみたいな物みたいだ。

 

 彼女を棺桶の中に寝かせようと思ったその時、首筋に鋭い何かが突き刺さったような気がした。刃物の感触と言うよりは、まるで生き物の牙のような感触がする。

 

「イリナ?」

 

 ちらりと抱き抱えている彼女を見てみると、やっぱり目を覚ましたイリナが首筋に吸血鬼の鋭い犬歯を突き立て、思い切り血を吸っているところだった。お腹が空いてたんだろうか。

 

 段々と身体から力が抜けていく。堪えようと思ったんだけど、ついに足からも力が抜けてしまい、イリナを抱き抱えたまま自分のベッドの上にぶっ倒れてしまう。

 

 すると、俺に抱えられていたイリナが上に覆いかぶさり、そのまま血を吸い始めた。

 

「こ、こら、どうした? お腹空いてた?」

 

「んっ…………ふふっ、ごめんね。お腹空いてたの」

 

 イリナは思い切り噛みついてくるんだよね。彼女にご飯をあげるのは俺の仕事なんだけど、結構痛いんだよ。

 

 ちなみにテンプル騎士団にはイリナ以外にも吸血鬼がいるんだけど、彼らには注射器で少しずつ抜き取った血を提供している。吸血鬼の主食はもちろん血で、それ以外の食べ物を食べたとしても満腹感は感じない上に、栄養を吸収できないという。

 

 だからイリナみたいに直接噛みついて血を吸う団員はいない。

 

「あ、そういえば部屋の鍵かけてなかった」

 

「もうちょっとだけ吸わせてよ♪」

 

「待てって。せめて鍵を―――――――ひゃんっ!?」

 

 彼女が牙を引き抜いた隙に起き上がろうとするけど、ベッドから起き上がりかけた瞬間に尻尾を引っ張られ、再びベッドの上にぶっ倒れる羽目になる。

 

「ふふっ、タクヤの声って本当にラウラにそっくりなんだね♪」

 

 そのまま両手を押さえつけつつ、再び上に覆いかぶさってくるイリナ。自分の口元についている俺の血を舌で舐め取ってから、再び思い切り牙を突き立てる。

 

 とりあえず、今のうちにブラッドエリクサーを飲んでおこう。このままじゃイリナに血を全部吸われちゃうかもしれない。

 

 力が抜けていく手に何とか力を入れ、ホルダーの中からブラッドエリクサーの入った試験管にも似た容器を取り出した俺は、それの蓋を取り外し、中に入っている血のような液体を口の中へと流し込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タンプル搭の周囲には、無数の前哨基地と巨大な4つの要塞がある。どこかの拠点が襲撃を受ければすぐに近隣の拠点から増援部隊を派遣できるように配置されているため、迂闊に攻撃を仕掛ければ敵は予想以上の規模の部隊と戦闘を繰り広げる羽目になる。

 

 この配置を知っているのであれば、吸血鬼共は真正面から攻撃を仕掛けようとはしないだろう。

 

 隣に立って俺の肩に先ほどから頬ずりを繰り返しているラウラの頭を撫でながら、会議室の壁に掛けられている世界地図を見据える。

 

 吸血鬼たちが流れ着いたのは、カルガニスタンの隣国であるディレントリア公国。もし仮に奴らがそこから真っ直ぐに進軍してくるのであれば、真っ先に吸血鬼を迎え撃つことになるのはブレスト要塞だろう。周囲には小規模ではあるが無数の前哨基地もあるので、いざとなれば救援を要請することも可能だ。

 

 だが、それよりも攻撃を受ける可能性が高いのは―――――――その反対側にある、ダムである。

 

 タンプル搭の中には、非常に広大な河が流れている。超弩級戦艦が並走できるほど広く、潜水艦が潜航したまま軍港に戻れるほどの水深がある巨大な河の下流にはウィルバー海峡が広がっており、タンプル搭よりも上流の方へと進むと流れが険しくなっている。

 

 その上流の部分にはダムがあり、すぐ近くにある要塞の守備隊が駐留している。

 

 もしこのダムが吸血鬼の襲撃で破壊されてしまえば、軍港の中にある艦隊はほぼ確実に全滅するだろう。一応隔壁も用意してあるが、隔壁を閉鎖すれば今度は軍港から水がなくなり、海軍が出撃できなくなってしまう。

 

「敵が狙う可能性があるのは、おそらくダムだろうな」

 

「でも、タンプル搭の正反対よ? 迂回すれば前哨基地の守備隊に発見されずに済むかもしれないけど、距離が長すぎるわ」

 

「そうかもしれないが、破壊すればこっちの海軍を無力化できる。敵がダムの事を知っていれば、真っ先にここを狙う筈だ」

 

 頬ずりを止めて俺のポニーテールを指で弄りつつ、ラウラも意見を言う。

 

「じゃあ、ダムの守備隊を増やすのはどう?」

 

「いい案かもしれないな。でもさ…………ブラドは狡猾な奴だよ」

 

「前世でもそうだったの?」

 

「いや、転生してからだろうな」

 

 ヴリシアで大敗を経験しているのだから、もう慢心はしていないだろう。狡猾な作戦を用意しているに違いない。

 

 確かに、普通なら遠回りしてダムを狙うだろう。そうすればこっちの海軍を無力化できるので、こっちの艦隊に返り討ちにされることもない。敵は海にいる艦隊から一方的に攻撃できるようになるのだ。

 

 だからこそダムの守備隊を増やすべきなのかもしれないが――――――――おそらくブラドは、ダムではなくブレスト要塞の方を狙ってくるに違いない。

 

「多分、狙いはブレストの方だ」

 

「どうして?」

 

「ダムを破壊すれば海軍は全滅する。普通の指揮官なら、海軍を死守するためにダムの守備隊を増やすだろうからな。そうなれば他の拠点からも守備隊を派遣する羽目になるから、その拠点の守備隊が一気に弱体化する。その隙に攻撃して突破するつもりなのかもしれない」

 

 ちらりと隣を見ると、ポニーテールを指で弄っていたラウラが微笑みながらこっちの顔を見上げていた。

 

「頼もしいね、タクヤって」

 

「そりゃどうも」

 

「じゃあ、ブレストの守備隊を増やす?」

 

「いや、本当にダムを攻めてくる可能性もあるから、守備隊の配置はそのままだ。ブレストの方は塹壕を増やして対応しよう」

 

 奴らの攻勢は、何としても撃退しなければならない。

 

 そうしなければ、メサイアの天秤を消し去ることはできないのだから。

 

 

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