異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
タンプル搭の飛行場は、地下にある。
通常の飛行場であれば地上に滑走路や管制塔を用意し、そこに航空機を着陸させるのだが、タンプル搭の場合は36cm要塞砲やタンプル砲を発射した際の衝撃波でヘリポートや滑走路が破損する恐れがあるため、衝撃波の影響を受けない地下に飛行場があるのだ。
要塞の周囲を囲む岩山の地下に作られた滑走路は、壁や天井の誘導灯で常に照らされており、出口付近はアドミラル・クズネツォフ級のスキージャンプ甲板のような形状になっている。外から航空機が発信する瞬間を目にすれば、まるで航空機が砂の中から飛び出してくるように見える事だろう。
空爆による攻撃から滑走路を守ることもできるという利点もあるが、着陸の際の難易度が非常に高いという欠点があり、他の拠点に所属するパイロットたちはよく「タンプル搭でパイロットはやりたくない」と言うらしい。
その着陸が難しい地下の飛行場へと、続々と戦闘機が降り立つ。
タンプル搭ではロシア製の戦闘機を運用しており、Su-35やSu-27が飛び立つ姿はよく見かけるのだが、降り立ってきたその戦闘機の群れは、タンプル搭で運用されている機体とは違う形状をしている。
特徴的なのは、小柄な機体から伸びるカナード翼とデルタ翼だろう。一見するとアーサー隊で運用されているユーロファイター・タイフーンを彷彿とさせるが、機体の後ろにあるエンジンのノズルは1基のみだし、機体もユーロファイター・タイフーンと比べると小柄である。
タンプル搭の飛行場へと無事に着陸したその戦闘機は、スウェーデンで開発された『ビゲン』と呼ばれる小型の戦闘機たちだ。最新の戦闘機と比べるとやや旧式と言えるが、汎用性が高い戦闘機の1つである。
そのビゲンたちの群れの中に、2機だけ形状が異なる機体が紛れ込んでいる。ビゲンのようにカナード翼とデルタ翼が搭載されており、エンジンのノズルも1基のみだけど、ビゲンと比べるとすらりとしており、別の機体であることが分かる。
ビゲンたちと一緒に着陸してきたすらりとしている戦闘機も、同じくスウェーデンで開発された『グリペン』と呼ばれる高性能な戦闘機である。航続距離が短いという欠点があるが、非常にバランスが良く扱いやすい戦闘機で、こちらも微減と同じく汎用性が高い。
タンプル搭で運用している戦闘機は基本的に黒と紅の2色で塗装されているのだが、降り立ったビゲンやグリペンたちは、純白に塗装されていた。主翼には蒼い十字架と深紅の羽根が描かれたエンブレムがある。
今しがた滑走路へと降り立ったその戦闘機たちは、タンプル搭ではなくテンプル騎士団スオミ支部に所属する航空部隊だった。スオミ支部の兵力はそれほど多くはないものの、大昔から里を守るために防衛戦を続けてきた”防衛戦のプロ”のみで構成された精鋭部隊ともいえる存在であり、大昔にオルトバルカ王国騎士団を迎え撃った際は、小規模な部隊で騎士団の大部隊を壊滅寸前まで追い込んだこともあるという。
オルトバルカに敗北して併合されてしまってからも、里を守るために戦いを継続しており、現在は弓矢やクロスボウではなく現代兵器で武装している。
ヴリシアの戦いでも橋頭保となった図書館の防衛戦に参加しており、圧倒的な身体能力を誇る吸血鬼の部隊を何度も返り討ちにしていた。侵攻作戦の経験が殆どないという弱点があるが、スオミの里の戦士たちが最も得意とするのは防衛戦なのだ。
着陸した純白のグリペンのキャノピーが開き、中から純白のパイロットスーツ姿の男性が姿を現す。タラップを使わずにそのままコクピットから飛び降りたパイロットは、ヘルメットと酸素マスクを自分の頭から取り外すと、彼らを出迎えるために飛行場へと足を踏み入れた俺たちに向かって手を振り始めた。
「おーい、コルッカー!」
「久しぶりだな、ニパ! もう墜落してないだろうな!?」
「バカ野郎! こんな最高の戦闘機を台無しにしてたまるか!」
あ、相変わらずニパは元気だな…………。
ニパはスオミ支部に所属するエースパイロットの1人だ。テンプル騎士団に加入する前は飛竜に乗って戦っていたらしいんだが、自分の飛竜が風邪をひいてしまったせいで出撃できなくなった上に、今度はその飛竜から風邪をうつされて出撃できなくなった経験があるため、仲間たちからは『ついてないカタヤイネン』とも呼ばれている。
けれども戦闘機やヘリの操縦は非常に巧く、スオミの里の防衛戦では相棒のイッルと共に、里へと攻め込んでくるドラゴンを片っ端から撃墜しているという。
彼らの里を訪れてからは、俺は名前ではなく”コルッカ”という愛称で呼ばれている。どうやら古代スオミ語で”狙い撃つ者”という意味があるらしく、優秀な射手の称号らしい。
「やあ、コルッカ。元気だった?」
「ああ。イッル、そっちは?」
「こっちも元気だよ。最近は模擬戦ばかりで退屈だったんだ」
もう1機のグリペンから、ちゃんとタラップを使って降りてきた紳士的なもう1人のパイロットは、ニパの相棒であり、スオミの里のエースパイロットでもあるエイノ・イルマリ・ユーティライネン。飛竜に乗っていた頃から一度も敵の攻撃を喰らった経験がないらしく、仲間たちからは『無傷の撃墜王』と呼ばれている。
もちろんグリペンに乗ってからも一度も被弾したことがないらしく、模擬戦でも敗北した経験はないらしい。
「それにしても凄い滑走路だよね、ここ」
「悪いな。地上に作るとぶっ壊れちまうからさ。着陸は大丈夫だった?」
「うん。多分すぐに慣れると思う」
すげえな。
「それで、また相手は吸血鬼らしいな?」
「ああ。悪いが、またみんなの力を貸してほしい」
スオミの里のエースパイロットを2人も呼んだのは、もちろん吸血鬼たちが計画している春季攻勢からタンプル搭を守るためである。すでにタンプル砲の攻撃によって損害を被る羽目になった吸血鬼たちは、おそらく部隊の再編成を行っている頃だろう。さすがに攻勢を頓挫させることはできなかったが、攻勢を開始する時期を延期させることには成功した筈だ。
だからその隙に、こっちは守備隊の増強や軍拡を行うことにした。とはいえタンプル搭守備隊の中にはヴリシア侵攻の際に”留守番”をしていた団員が多く、練度も未だに低い状態だ。中には防衛戦どころか実戦すら経験したことがない兵士もいる。
規模ではこっちが上だろうが、はっきり言って烏合の衆としか言いようがない。ヴリシアの戦いから生還した兵士たちですら、モリガン・カンパニーの兵士たちから見れば中堅レベルでしかないのだから。
そこで、防衛戦を最も得意とするスオミ支部に協力してもらうことにした。
ヴリシアの戦いで吸血鬼たちが敗北した原因の1つは、序盤で制空権を奪われてしまったことだ。そのため次の春季攻勢では、制空権を確保するために空軍を増強している可能性が大きい。
そのため、長老から許可をもらい、エースパイロットを2人も派遣してもらったのである。
スオミの里に配備されている戦闘機は、ビゲン10機とグリペン4機。そのうち2機ずつは訓練用となっており、高性能なグリペンはこの2人のエースパイロットの専用機となっている。
もちろん、この2人以外のパイロットたちも優秀なパイロットばかりだ。おそらくタンプル搭のパイロットたちよりも練度は上だろう。アーサー隊と戦ったらどっちが勝つのだろうか。
「よう、コルッカ!」
「お、アールネ。久しぶり」
エースパイロット同士が戦っている姿を想像しながらグリペンを見つめていると、大型の輸送機が着陸した輸送機用の滑走路の方からでっかい声が聞こえてきた。
こっちへと歩きながら手を振っている大柄なハイエルフの男性は、スオミの里の戦士たちのリーダーでもある『アールネ・ユーティライネン』。彼はパイロットではないが、華奢な者が多いと言われているハイエルフの中では、ハーフエルフやオークなのではないかと思ってしまうほど屈強な身体を持つ男だ。
他の戦士たちが「アサルトライフルのフルオート射撃の反動に耐えられない」と言ってモシン・ナガンを使っていたにも関わらず、1人だけ対戦車ライフルを平然とぶっ放していたほどで、数週間前の魔物から里を守った戦いでは、素手でゴブリンを殴り殺したり、首の骨をへし折っていたという。
もちろん彼にも防衛戦に協力してもらう予定である。
「また相手は吸血鬼だ。頼んだぞ」
「任せろ。絶対食い止めてやる」
やっぱり頼もしいな、スオミの戦士たちは。
「攻勢までまだ時間がある筈だ。それまでは、申し訳ないが兵士たちに戦術の指導を頼む」
「おう、任せろ。全員立派な兵士にしてやる」
そういえば、スオミの里の訓練ってかなり厳しいらしいんだよね。つい最近入団したばかりの新兵たちは大丈夫だろうか。
願書を持って執務室まで来てくれた新兵たちが筋トレで弱音を吐く姿を想像しながら、俺は苦笑いしていた。
忌々しいキメラ共の先制攻撃から、3週間が経過した。
あの先制攻撃で春季攻勢前に損害を被る羽目になってしまったものの、幸い艦隊の方は無事だったし、今回の作戦の”切り札”ともいえる突撃歩兵に死傷者はなし。投入予定だった歩兵の2割を失う羽目になってしまったが、母上は春季攻勢は実行可能と判断した。
そしてついに――――――――進軍が始まる。
「同胞の諸君。ついに我らは、カルガニスタンへと進軍する」
半壊してしまった屋敷の前に集合した兵士たちに、俺は語りかけた。オリーブグリーンの軍服とヘルメットを身につけた兵士たちの大半は、あのヴリシアの戦いから敗走する羽目になった敗残兵。あの戦いでは負けてしまったものの、練度は非常に高いと言える。
「攻撃目標はテンプル騎士団本部。三大勢力の中では最も規模が小さいとはいえ、奴らの戦力は我々の5倍か6倍だと思われる。…………だが、奴らの中にベテランの兵士は殆どいない。練度では我らが上回っている」
攻勢の目的は、奴らから天秤の鍵を奪って父上を復活させること。そしてテンプル騎士団を壊滅させ、ヴリシアで散っていった仲間たちを弔うこと。
そのために俺たちは、今まで仲間を助けながら訓練を続けてきたのだ。
今回の攻勢には、ヴリシア委投入予定だったマウスやラーテも投入するが、最前線での切り札はその超重戦車たちではなく、PDWで武装した身軽な突撃歩兵だろう。
「我らには突撃歩兵がいる。それに、厳しい訓練を続けてきた屈強な兵士たちがいる。我々から数多くの同胞を奪った奴らの防衛戦を、銃弾で食い破ってやろうではないか」
確かに、タンプル搭の周囲には無数の前哨基地や要塞があるし、塹壕もある。守備隊の規模も多いかもしれない。
だが、突撃歩兵たちがいればその防衛戦も容易く無力化できる。
戦闘が泥沼化する前に橋頭保を確保し、そこから一気にタンプル搭へと進軍しなければならない。不利なのは我々だが、今度こそ我々が勝てるはずだ。
片手に持っていたボロボロのシルクハットをかぶり、息を吐く。
風穴が開いているこのシルクハットは、ヴリシアで戦死したヴィクトルがかぶっていたものだ。この攻勢で、あいつの仇も取らなければならない。
仲間たちの仇を取り、天秤の鍵を奪い返す。そして父上を復活させ、再び我らがこの世界を支配するのだ。
だからこの戦いには、絶対に勝利しなければならない。これで敗北すれば、我々は壊滅する羽目になるのだから。
「これより、『春季攻勢(カイザーシュラハト)』を開始する』
第十五章 完
第十六章『カイザーシュラハト』に続く