異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第16章 カイザーシュラハト
正直な攻め方


 

 まるで剣で斬りつけられた古傷のように、砂漠の真っ只中に巨大な河が伸びている。

 

 最終的にウィルバー海峡へと流れ込む広大な河は、その中間にある巨大な岩山の地下を通って下流へと流れていく。非常にゆっくりと流れている上に広いからなのか、海へと流れ込む広大な河ではなく、削り取られた場所に海水が流れ込んでいるようにも見えるだろう。

 

 しかし、この河の上流は、下流とは全く違う。

 

 下流は超弩級戦艦が数隻並んで航行し、潜水艦が潜航したまま進めるほどの広さと水深がある。しかし中間にある岩山から上流へと近づくにつれて、河の幅はどんどん狭くなっていき、水深も徐々に浅くなっていく上に、流れも激しくなっていく。

 

 その上流に、巨大な”壁”があった。

 

 純白の城壁にも思える壁の表面には巨大な穴が穿たれていて、一時的に塞き止められていた水がその穴から溢れ出し、人工的な滝を形成している。その城壁の上には武装を搭載した装甲車や、ボディアーマーを身につけてアサルトライフルを手にした兵士たちが駐留しており、城壁の両端には連装型の巨大な要塞砲が鎮座している。

 

 まるで武装を近代化した白の城壁が、水を吐き出しているようだ。城壁にはテンプル騎士団のエンブレムが描かれており、駐留している装甲車の側面や兵士たちの黒い制服の肩にも、同じエンブレムが刻まれている。

 

 そこは、テンプル騎士団が保有する『ラルシュラム・ダム』と呼ばれるダムだ。下流にあるタンプル搭の軍港を守るために建設された巨大なダムであり、このダムの周囲にある岩山には要塞砲や、戦車がずらりと並ぶ格納庫がこれでもかというほど配備されている。

 

 周辺にはレーダーサイトや対空用のミサイルがびっしりと配備されており、もし敵が航空機でダムを空爆しようとしても、すぐに戦闘機を出撃させて迎え撃ち、対空用の兵器で迎撃できるようになっていた。

 

 ここがもし破壊されれば、それだけでタンプル搭の海軍は機能しなくなってしまう。軍港の浸水を防ぐための水門はいくつも用意されているが、最終的には軍港へと流れていく水を堰き止めることになるため、水門を閉鎖したとしても海軍は機能しなくなる。

 

 それゆえに、タンプル搭の周囲にある要塞の中でも、このラルシュラム・ダムは最も守備隊の数が多い。

 

 その守備隊に加わるのは――――――――大昔からスオミの里を侵略者たちから守り抜いてきた、里の戦士たちだ。

 

「すげえ…………スオミのハイエルフって、本当に肌が白いんだな…………」

 

「非力な奴が多いって聞いたけど、全員筋肉がすげえじゃねえか」

 

 AK-12を背負った守備隊の兵士たちが、ゲートの向こうから戦車の上にタンクデサントしながらやってきたスオミの戦士たちを見つめながら次々に呟く。彼らの故郷は極寒のシベリスブルク山脈の麓にあるからなのか、どうやら暑い砂漠には慣れていないらしく、先ほどから何度も汗を腕で拭い去っている戦士が何人もいる。

 

 テンプル騎士団の兵士たちは、様々な種族で構成されている。人間やエルフなどのあらゆる場所で目にする種族だけでなく、個体数が少なくなってしまった吸血鬼や、絶滅してしまったサキュバスまで所属している。通常の騎士団では絶対に考えられない事だが、テンプル騎士団では奴隷扱いされていることの多い他の種族と共存しているのは当たり前の光景なのだ。

 

 とはいえ、しばしばトラブルが起こることもあるが、種族の差別はテンプル騎士団では禁止されており、兵士たちも訓練の最中に徹底的な教育を受けるようになっている。

 

 しかし、スオミの里の戦士たちは大昔から里に住むハイエルフたちや、彼らの末裔で構成されている。しかも通常のハイエルフとは異なり、里のハイエルフたちは全員アルビノなのだ。それゆえに雪だらけの里ではその真っ白な頭髪や肌の色が保護色として機能する。

 

 里に配備されていたStrv.103の上に乗りながら、戦士たちのリーダーであるアールネは汗を拭い去った。夏でも関係なく雪が降る里に住んでいるのが当たり前だったため、彼らはこのような暑い場所には全く慣れていない。一般的な春の気温ですら”暑い”と感じてしまうほどである。

 

 兵士たちを上に乗せたStrv.103の群れが、ぞろぞろと戦車の格納庫へと向かっていく。格納庫の近くでは、他の兵士と比べると豪華なデザインの制服に身を包んだ司令官と思われる中年の男性が待っている事に気付いたアールネは、息を吐いてから戦車の上から飛び降りる。

 

 いきなりハイエルフの巨漢が戦車から飛び降りたことに驚いたのか、その指揮官はぎょっとしているようだった。

 

「スオミ支部所属の、アールネ・ユーティライネンです」

 

 指揮官の元へと駆け寄って敬礼をすると、ラルシュラム・ダムの指揮官も慌てて敬礼する。

 

 一般的にハイエルフは、優秀な魔術師が多いと言われている。体内にある魔力の量が多い上に、難解な魔術すら理解してしまう”才能”を持っているものが多いのだが、その反面筋力や体力などでは他の種族に大きく劣ってしまうという弱点があるとされている。

 

 この指揮官もそう思っていたのだろうとアールネは思いながら、自分よりも背の低い指揮官を見下ろした。鍛え上げられた里の戦士たちは、もう既に一般的に知られているハイエルフとは大きく異なると言っても過言ではない。

 

「司令官のマーティン准将だ。期待しているよ、スオミの諸君」

 

「ありがとうございます」

 

 結局、防衛戦を最も得意とするスオミの里の戦士たちは、吸血鬼たちが進撃してくると思われるディレントリア方面のブレスト要塞ではなく、その真逆に位置するラルシュラム・ダムへと配置されることになった。

 

 ブレスト要塞の守備隊も人数は多い。さらに、もし仮に要塞が陥落したとしてもすぐに周辺の前哨基地と連携して防衛線を展開できるようになっているため、陥落するだけで海軍が壊滅しかねないダムの方が重要だと判断されたのだ。

 

「とりあえず、指令室へ案内しよう」

 

 マーティン准将の後ろを歩きながら、じろりとダムの周辺にある要塞砲やレーダーを見渡す。確かに守備隊の数は多く、コストが高いために少数しか配備されていないチョールヌイ・オリョールもしっかりと配備されている。いたるところに警備用のカメラも設置されており、警備兵の数も多い。

 

 それだけでなく、無人型に改造されたルスキー・レノや、テンプル騎士団でもたった10両しか配備されていないシャール2Ⅽが2両も配備されているのが見える。

 

 ここに潜入するのは難しいだろう。アールネの本職は防衛戦であるため、潜入は専門外と言ってもいいのだが、この厳重な警備はどんなに優秀な暗殺者でも断念するに違いない。

 

 それゆえに、アールネは危惧していた。

 

 このマーティン准将は、「これだけ厳重に警備しているのだから、この要塞が陥落するわけがない」と慢心しているのではないかと。

 

(もしそうだとしたら、ここは陥落するだろうな)

 

 どれだけ最新の兵器と優秀な兵士が警備をしていたとしても、指揮官が油断すればたちまちその警備は機能しなくなる。

 

 どんな攻撃でも弾ける防具を身に纏っていても、その防御力を過信すればすぐに貫通されて致命傷を負う羽目になるのと同じだ。どんな戦いでも許されない事だが、特に防衛線では慢心は許されない。

 

 アールネたちも長い間里を守り続けてきたが、その最中に慢心したことなど一度もなかった。

 

 とはいえ、まだマーティン准将が慢心していると決まったわけではない。もう少し様子を見るべきだろうとアールネは判断したが、もし仮にこの男が要塞の兵力を過信して敵に追い詰められれば、すぐに自分が指揮を執るべきだろうと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が、ゆっくりと岩山の向こうへと沈んでいく。カルガニスタンの砂漠や岩山が少しずつ黒く染まっていき、最終的に黒い砂漠へと変貌してしまう。

 

 もう既に、太陽(吸血鬼の天敵)は沈んだ。

 

 日光は吸血鬼たちの弱点の1つだ。吸血鬼たちにも個人差はあるが、中には太陽の光を浴びてしまうだけで身体が消えてしまう者もいる。消えずに済む者もいるが、日光を浴びれば身体能力や再生能力は低下してしまうのだ。

 

 それゆえに吸血鬼たちは、昼間には動かない。

 

 そう思いながら、アールネはラルシュラム・ダムの応接室にある窓の向こうを眺めていた。彼の後ろではマーティン准将が立派なソファに腰を下ろし、ヴリシア帝国から取り寄せた紅茶を楽しんでいるらしく、ヴリシア産の紅茶の特徴である強烈な香りがアールネの鼻孔へと容赦なく流れ込んでいる。

 

「紅茶はいかがかな?」

 

「申し訳ありません、准将殿。今は遠慮しておきます」

 

 スオミの里では、紅茶よりもコーヒーの方が人気なのだ。

 

 しかし、アールネが断った理由はコーヒーが飲みたかったからではない。もう既に日が沈み、砂漠の砂は真っ黒に染まっている。

 

 吸血鬼たちが日光の影響を受けずに動き回れる時間帯になったからこそ、アールネは警戒しているのである。

 

 一応マーティン准将も警備を強化したと言っていたが、無人型のルスキー・レノが警備している場所に数名の歩哨を追加した程度だ。そのため、アールネは落胆しつつ独断で戦士たちに「ここを里だと思って厳重に警備せよ」と指示を出し、歩哨たちと共に警備させている。

 

(攻撃を仕掛けてくるとすれば、夜だろうな)

 

 夜ならば、吸血鬼たちを苦しめる日光がないのだから。

 

 顎鬚を指で弄ろうと思って片手を動かしたその時だった。

 

「失礼します」

 

 応接室のドアをノックする音が聞こえたかと思うと、真っ黒な制服と規格帽に身を包んだダークエルフの兵士が扉を開け、紅茶を飲んでいたマーティン准将に向かって敬礼していた。

 

「何事かね?」

 

「レーダーに航空機の反応。おそらく吸血鬼たちの航空機かと」

 

 やはり、夜に攻撃を仕掛けてきた。

 

「数は?」

 

「戦闘機と思われる反応が10機。その後方に、攻撃機と思われる反応が8機です」

 

「ふむ…………このダムを空爆するつもりか。よし、航空隊を直ちに出撃させろ。対空ミサイルの準備もさせたまえ」

 

「はい、同志准将」

 

(いや…………ただの空爆じゃないな)

 

 顎鬚を指で弄りながら、アールネはそう思っていた。

 

 彼もヴリシアで図書館を防衛した際に、吸血鬼と交戦したことがある。タクヤの話では敵はあの戦いの敗残兵が大半となっており、それ以外の兵士は新兵で構成されているという。

 

 ヴリシアで敗北した経験がある吸血鬼たちにしては、随分と”正直すぎる”攻め方だ。もっと狡猾な作戦を用意しているのではないかと思っていたアールネは、今しがたの報告に違和感を感じていた。

 

 確かにダムにミサイルや爆弾を叩き込まれれば、たちまち決壊することになるだろう。しかしこちらはタンプル搭を除けば最も兵力の多い要塞だ。ダムを破壊しようとしているとはいえ、攻め込んできた敵の数がやや少ないような気がしてしまう。

 

 数が少ない上に、正直な攻め方。

 

 春季攻勢までに兵力を集められなかった可能性もあるし、あえて正面から攻めることで不意をつく作戦なのかもしれない。しかし、これほど大量のレーダーサイトや対空兵器が配備されている要塞に、たった18機の航空機で真正面から攻撃を仕掛けるだろうか。

 

 正面から攻撃を仕掛ければ、対空ミサイルや機銃で叩き落されるのが関の山だ。ただでさえ個体数が少ない種族なのだから、貴重な同胞を捨て駒にするような真似はしないだろう。

 

「さて、私は指令室で指揮を執る。君はどうするのかね?」

 

「前線で指揮を執ります。そっちの方が性に合いますから」

 

 敬礼をしてから、アールネは応接室を後にした。

 

 ハイエルフの特徴でもある長い耳に装着していた小型無線機の電源を入れた彼は、唇を噛み締めながら廊下を歩く。

 

「お前ら、聞こえるか?」

 

『おう、兄貴か。どうした?』

 

「警備は継続だ。頭の上から戦闘機の残骸が降ってきても、そのまま警備を続けろ」

 

『了解。確かに、なんだかこの空襲は”正直すぎる”よな。もしかしたら囮かも』

 

 一緒に戦ってきた戦士たちの仮説が、自分の考察と一致していたことを知ったアールネは少しばかり安堵した。やはり、長い間里を守り抜けてきた戦士たちは、敵の攻め方をしっかりと観察している。

 

 そう、この空襲は囮である可能性がある。

 

(おそらく、こっちが航空機を相手にしている隙に要塞を地上部隊が襲撃するか、特殊部隊が潜入してダムを爆破するつもりなんだろうな)

 

 もし空襲でダムを破壊するつもりならば、接近している兵力を倍にするべきだろう。

 

「侵入してきた馬鹿がいたら、銀の7.62mm弾で出迎えてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな、最初はダムか…………」

 

「はい、同志団長」

 

 タンプル搭の地下にある中央指令室のモニターに、ラルシュラム・ダムの周辺の地図が映し出される。フィオナ機関を内蔵した機械によって映し出される映像の中に、敵の戦闘機を意味する真っ赤な点がいくつか表示されたかと思うと、その点はディレントリア方面からまずウィルバー海峡方面へと進み、タンプル搭どころかカルガニスタンを迂回してダムへと向かった。

 

「おそらく、空中給油を受けながら移動したのでしょう。ダムからの報告では、数は18機のみとのことです」

 

「たった18機? …………少ないな」

 

 ダムの位置を突き止めていたという事は、そこはタンプル搭以外の拠点でも最も守備隊の規模が大きい要塞だという事も知っている筈だ。ダムを破壊するのであれば、もっと大規模な航空部隊を派遣する筈である。

 

 しかも吸血鬼たちは、タンプル砲による先制攻撃で既に大損害を出している。ただでさえ兵力の規模が小さいのだから、貴重な仲間たちに無茶な攻撃を命じて捨て駒にするわけがない。

 

「もう既に、航空部隊が出撃して戦闘状態に突入したとのことです」

 

「…………」

 

 この春季攻勢の指揮を執っているのは、十中八九ブラドだろう。

 

 あいつは非常に狡猾な男だ。こんな”正直な攻め方”をするような男ではない。

 

「同志、いかがいたしましょう。増援を派遣しますか?」

 

「いや、その必要はない。要塞のマーティン准将に、敵の地上部隊にも警戒せよと伝えてくれ」

 

「地上部隊? 敵は空から攻めてきているのですよ?」

 

 ああ、確かにそうだ。

 

 だが、航空部隊の数が少なすぎる。しかも狡猾な戦い方をするブラドにしては、攻撃の方法が随分と”正直すぎる”のだ。たった18機で警備が厳重な要塞を攻撃するわけがない。

 

 おそらくこの航空部隊は囮だろう。要塞の部隊が航空部隊を迎撃している隙に、特殊部隊が潜入してダムを爆破するつもりなのかもしれない。

 

 あのダムの周囲は岩山になっている。隠れる場所はたっぷりとあるのだから。

 

「あれは囮の可能性がある。アールネにも連絡するんだ」

 

「了解(ダー)、同志」

 

 きっと、アールネは気付いているだろうな。

 

 スオミの戦士たちは、大昔から里を守り抜いてきた精鋭部隊なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 スオミの里の指揮系統

 

アールネ「なんだかタンプル搭の指揮系統って複雑だなぁ…………」

 

タクヤ「里はどんな感じなんだ?」

 

アールネ「長老が最高司令官。それで、前線の指揮官が俺」

 

兵士一同(シンプル過ぎじゃないか…………!?)

 

 完

 

 

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