異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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吸血鬼の浸透戦術

 

『こちら第3分隊、敵の第3防衛ラインを突破。死傷者無し』

 

『こちら第5分隊、敵の通信設備を破壊。続けて司令部の破壊を行う』

 

『こちら第8分隊、今しがた敵の第2防衛ラインを突破。死傷者無し』

 

 無線機の向こうから聞こえてくる同胞たちの報告を聞いて、俺はニヤリと笑った。

 

 敵の塹壕は燃え上がり、毒ガス(マスタードガス)で覆われている。もちろんマスタードガスは吸血鬼にも有毒だが、突撃歩兵に支給した軍服は毒ガスを跳ね除ける特殊な繊維を使用している。その繊維がマスタードガスも跳ね除けるかどうかは、もう既に実験で確認してあるのだ。肌が露出することはないので、あとはマスタードガスから身を守るためのガスマスクを支給しておけば、自滅する恐れはない。

 

 本部であるタンプル搭を除けば”重要拠点”と言っても過言ではないラルシュラム・ダムと比べると、ブレスト要塞の守備隊の規模は小さい。しかし、それでも我々の全兵力よりも微かに多い規模を誇るため、真正面から戦いを挑めばこっちが全滅させられる恐れがある。

 

 最前線には複数の塹壕があり、その後方には対空火器とレーダーをこれでもかというほど配備された要塞が鎮座している。塹壕だけならば空爆で一掃できるのだが、その後方に鎮座している要塞のせいで、我々は地上部隊による攻撃を仕掛けるしかない。航空部隊を派遣すれば、彼らは塹壕を破壊しつつ要塞からの対空砲火を躱し続けるという非常に困難な任務を実行しなければならなくなってしまうのだから。

 

 そのため、ブレスト要塞の塹壕は地上戦力のみで突破することとなった。

 

 塹壕は、第一次世界大戦の頃は最大の脅威と言っても過言ではない存在だった。これでもかというほど設置された重機関銃の掃射を突破するのは至難の業で、強引に突撃すれば歩兵が壊滅しかねない。しかも当時は航空機の技術や装備が未発達であったため、塹壕に対して爆撃を実施するというのも困難であったのである。

 

 そこで当時のドイツ軍は、塹壕を突破して敵に大打撃を与えるために、”浸透戦術”と呼ばれる作戦を立案する。

 

 まず身軽な突撃歩兵を突撃させて敵の防衛線を突破させ、後方にある司令部や通信設備を破壊させて、敵を混乱させる。司令部や通信設備を失えば、最前線で戦っている兵士たちにも命令は届かなくなるし、通信設備が台無しになれば他の拠点に状況を報告したり、救援を要請することもできなくなる。敵の守備隊を最前線に孤立させることができるというわけだ。

 

 でも、いくら身軽な突撃歩兵とは言っても機関銃が配備された塹壕を突破するのは困難だ。

 

 そこで突撃歩兵を、敵の攻撃が激しい場所を強引に突破させるのではなく、敵の攻撃が少ない比較的安全な場所へと突撃させることで容易に突破させることにしたのである。

 

 敵の拠点に真正面から突っ込めば、逆にこちらが返り討ちに遭う。だが敵の攻撃が少ない比較的安全な場所であれば、少数の兵士たちでも突破することは容易い。後はそのまま後方へとどんどん進軍し、通信設備と司令部を破壊して敵を混乱させてやれば、どんな熟練の守備隊でも瞬く間に烏合の衆と化すというわけである。

 

 これが、ドイツ軍の生み出した浸透戦術だ。

 

 今回の攻勢に投入した突撃歩兵の装備は、PDWのMP7A1と複数の手榴弾。塹壕を突破する際に白兵戦になる事も考慮し、スコップやナイフも支給してある。また、戦車や装甲車と遭遇する可能性もあるため、一部の兵士にはパンツァーファウスト3や対戦車手榴弾を支給した。

 

「アリーシャ、そろそろいいだろう」

 

「かしこまりました。…………歩兵部隊、戦車部隊、前進開始。このまま一気に塹壕を突破せよ」

 

『『『了解(ヤヴォール)』』』

 

 もう既に、複数の分隊が敵の塹壕を突破して通信設備や司令部を破壊している。そろそろ歩兵部隊や戦車部隊を突撃させ、一気に制圧するべきだろう。

 

「敵の増援部隊は?」

 

「確認できません。ダムが爆破されることを警戒し、動けない模様」

 

「よし…………奇襲部隊のおかげだな」

 

 はっきり言うと、ラルシュラム・ダムは最初から目標ではない。確かにダムを破壊すれば、敵の海軍が機能を停止するというのは魅力的な話だ。こっちはただでさえ戦力が少ないのだから、可能な限り短期間で決着をつけたい。それに敵の兵力を大きく削ぎ落とせるのだから、普通ならば真っ先にそこを狙うだろう。

 

 だが、ダムの破壊そのものが囮なのだ。

 

 こっちの数が少ないからこそ、敵はこちらの狙いがダムだと思い込む。

 

 守備隊をダムに集中させれば、それ以外の拠点の防御力が低下する。後は採用した浸透戦術と戦車部隊による進撃で、防御力の落ちた拠点を一気に攻め落としてしまうのだ。そうすればこちらは橋頭保を手に入れることができるし、兵士たちの損害も少数で済む。

 

「我々も前進する。超重戦車隊、前進!」

 

「了解(ヤー)、前進!」

 

「ラーテはここで待機し、敵の要塞を砲撃せよ」

 

『了解(ヤヴォール)!』

 

 近代化改修型のマウスのエンジンが動き出し、従来の戦車よりも巨大なキャタピラが、ゆっくりと砂漠の砂の上に後を刻み付け始めた。

 

 このマウスたちは、あのヴリシアの戦いの後に新たに生産された超重戦車たちである。最終的には敵の艦砲射撃で壊滅させられてしまったが、ホワイト・クロックや宮殿の前に展開された最終防衛ラインでの戦闘で、敵の最新型主力戦車(MBT)を蹂躙し続けた巨人たちである。

 

 主砲は160mm滑腔砲。APFSDSを使用すれば、エイブラムスの正面装甲を1発か2発で貫通可能なほどの凄まじい貫通力を誇る。更に75mm速射砲を副砲として搭載しているため、装甲車や歩兵まで一掃できるのだ。しかも装甲も分厚く、正面装甲であればAPFSDSの集中砲火を喰らったとしても、ほとんど致命傷にはならないほどの防御力を誇る。

 

 しかし、さすがに速度は20km/h程度しか出せないため、機動性は劣悪と言わざるを得ない。

 

 後方に残っているラーテは、ヴリシアの戦いに投入する予定だった最後の1両だ。ホワイト・クロックと宮殿が陥落する際に投入し、連合軍に一矢報いるつもりだったのだが、魔王に破壊される可能性が大きかったため、投入を見送って敗残兵たちと共にディレントリアへと脱出したのである。

 

 俺たちの部隊が前進したのを確認したラーテの砲塔が、ゆっくりと旋回を始める。砲塔から突き出た太い砲身が緩やかに天空へと向けられた直後、戦艦の主砲に匹敵する口径の主砲が、ついにカルガニスタンの砂漠で火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第9番塹壕、陥落! 完全に敵に突破されました!」

 

「第11番塹壕、第13番塹壕、応答ありません!」

 

「第15番塹壕も応答なし! 突破された模様!」

 

 地下に用意されたブレスト要塞の中央指令室の中を満たしているのは、塹壕の陥落と敵の突破を告げるオペレーターたちの声ばかりであった。

 

 ブレスト要塞の指揮を執る『ラスカー・ラフチェンコ』少将は、拳を握り締めながら目の前の巨大な魔法陣に投影される映像を睨みつけていた。翡翠色の魔法陣に投影されている映像はブレスト要塞と周囲の塹壕の状況で、ディレントリア方面に用意されていた塹壕は、陥落したことを告げる赤い色で塗り潰されてしまっている。最前列にあった第9番塹壕は一番最初に敵の毒ガス弾による攻撃で大打撃を受けており、敵の突撃部隊の後に襲来した戦車部隊で完全に壊滅してしまっている。

 

 本来ならば塹壕の守備隊に撤退命令を出すべきなのだろうが、通信設備がことごとく破壊されてしまっており、前線の部隊との通信はほぼ不可能となっている。おかげで指示を出しても前線の部隊までそれを伝達することができず、完全に混乱してしまっていた。

 

「第17番塹壕の守備隊が合流しました」

 

「よし、彼らを守備隊に組み込んで応戦準備。戦車部隊も投入し、敵を食い止めるぞ! 兵士たちにはガスマスクと防護服を着用させろ! タンプル搭にも連絡!」

 

「了解(ダー)!」

 

「第181前哨基地より戦車部隊が出撃。同じく第194前哨基地からも、歩兵を乗せた戦車部隊が出撃した模様」

 

 第181前哨基地と第194前哨基地は、ブレスト要塞の最も近くにある前哨基地である。要塞の10分の1以下ほどの守備隊が駐留している小規模な基地で、配備されている兵器も旧式ばかりではあるが、中にはムジャヒディンのメンバーだった兵士も配属されており、テンプル騎士団の部隊の中では練度は高い方だ。

 

 とはいえ、前哨基地には新型の戦車が配備されておらず、辛うじてコストの低いT-72B3やT-90が少数だけ配備されている程度だ。大半はより旧式の戦車に改造を施した『T-55エニグマ』と呼ばれる代物で、戦闘力は最新型の戦車と比べると大きく劣っていると言わざるを得ない。

 

 しかし、敵に防衛線を突破されている状況では、増援部隊を送ってもらえるのはありがたい事である。

 

「航空部隊も直ちに出撃させろ」

 

「了解(ダー)」

 

 ブレスト要塞にも、航空部隊は配備されている。タンプル搭のように周囲に損害が出るほど口径の大きい要塞砲の配備を見送ったことで、広大な防壁に囲まれた地上に滑走路を用意することができたのだ。そのため離着陸の難易度は劇的に低下しており、パイロットたちも「配属されるならばブレストがいい」と言っている。

 

 配備されている機体は、他の拠点と同じくSu-27やSu-35が中心となっている。また、敵の地上部隊を蹂躙できるように、攻撃機であるSu-34なども配備されている。本部であるタンプル搭や重要拠点のラルシュラム・ダムと比べると新型の機体は少ないものの、魔物の掃討作戦で経験を積んだパイロットは多い。

 

 敵の地上部隊が進撃してくるのであれば、早速Su-34が猛威を振るう筈だと思った司令官は、「Su-34に対戦車ミサイルを搭載させろ」と指示を出したが――――――――数秒後に、ずん、と大きな音と共に中央指令室が激震し、目の前の巨大な魔法陣にノイズが入った。

 

「な、何事だ…………!?」

 

「敵の爆撃…………!? し、しかし、レーダーには敵機の反応はありませんよ………!?」

 

『こちら第2要塞砲! 今しがた、でっかい砲弾が滑走路に突っ込んだぞ!? 大丈夫か!?』

 

「なに…………!? 砲弾だと…………!?」

 

 ラフチェンコ少将は息を呑みながら、ちらりと近くにいるオペレーターを見ながら「滑走路の様子は映せるか?」と問いかける。

 

 問いかけられたハイエルフのオペレーターは返事をしてから手元にあるキーボードを素早く操作し、巨大な魔法陣の隣にあるモニターに、防壁の内側に設置されたカメラの映像を投影する。

 

 広大な防壁の内側には、大型機用の巨大な滑走路と、戦闘機用の小さな滑走路の2つが用意されている。その周囲には管制塔と格納庫があり、敵の戦闘機を撃墜するための対空火器がこれでもかというほど並んでいる。

 

 だが―――――――その滑走路には、2つの大穴が開いていた。

 

 敵の砲弾は防壁を飛び越えて滑走路に直行したらしい。凄まじい重量と運動エネルギーで容易く滑走路を食い破った砲弾は、滑走路と土を抉ったところで起爆したらしく、戦闘機用の小型の滑走路の真っ只中に2つのクレーターを生み出していた。

 

 もし着弾したのが滑走路の端であったのであれば、辛うじて戦闘機の離着陸はできただろう。しかし、よりにもよって砲弾が着弾したのは滑走路の真っ只中。砲弾の着弾と起爆によって生まれたクレーターによって、滑走路が真っ二つにされてしまっている。

 

「敵の艦砲射撃か…………!?」

 

 ウィルバー海峡からこのブレスト要塞を砲撃するのは不可能である。対艦ミサイルを使ったのであれば要塞への攻撃は可能だが、戦艦の主砲では射程距離外だ。

 

 だが、タンプル搭の軍港へと続く河を上って砲撃したというのであれば――――――ブレスト要塞も、戦艦の主砲の射程距離内となる。もしそうであったのならば、敵の戦艦は河へと侵入したという事になる。

 

「タンプル搭に報告し、艦隊の出撃を要請しろ! 敵が河を上った可能性がある!」

 

「了解(ダー)!」

 

「それと、シャール2Cも出撃させろ。突っ込んでくる敵を粉砕するんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら”ヘカトンケイル”。砲撃が敵の要塞に命中』

 

『了解、そのまま飛行場への砲撃を継続せよ』

 

『了解(ヤヴォール)、ブラド様』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレスト要塞の地上には、戦闘機や戦車を格納しておくための格納庫が存在する。タンプル搭のように設備に被害が出てしまうほど巨大な要塞砲が装備されていないため、ブレスト要塞はタンプル搭と比べると、地上に自由に設備を作ることが可能なのだ。

 

 その格納庫の一角に、普通の戦車の格納庫と比べるとかなり大きな格納庫が鎮座している。

 

 巨大な格納庫の中で眠っているのは、分厚い装甲と強力な武装をこれでもかというほど搭載した巨人であった。

 

 ブラックとダークブルーのスプリット迷彩で塗装されているその巨人が、整備兵たちの手によってついに目を覚ます。格納庫内の照明が点滅を始め、入り口のシャッターがフィオナ機関から伝達される高圧の魔力によって、ゆっくりと解放されていく。

 

 巨大な格納庫の中からあらわになった巨大な車体の上には、同じく巨大な砲塔が鎮座している。分厚い円盤を半分に切断し、その後方に従来の戦車の砲塔をくっつけたような形状の砲塔は、テンプル騎士団で正式採用となっているチョールヌイ・オリョールの砲塔をそのまま大型化した代物だ。主砲は152mm滑腔砲を2門も装備しており、砲塔の上下から突き出ている。

 

 更に、巨大な車体の左右には37mm戦車砲を搭載したルスキー・レノの砲塔が突き出ており、主砲同軸には5.45mm弾を使用する対人用の機銃が装備されている。装填されている砲弾も、最新の戦車や装甲車の撃破は困難であるため、歩兵の殲滅用に榴弾かキャニスター弾のみとなっていた。

 

 車体の後部には、ロシア製歩兵戦闘車(IFV)であるBMD-4の砲塔をそのまま搭載しており、100mm低圧砲や30mm機関砲が装備されている。更に低圧砲からは対戦車ミサイルまで発射可能であるため、後方に回り込んだ敵の戦車も蹂躙することが可能となっている。

 

 さすがに小回りが利かない上に最高速度もたった20km/hのみだが、車体の前面と砲塔は分厚い複合装甲で守られており、APFSDSの直撃にも耐えられるほどの防御力を誇る。更にアクティブ防御システムの『アリーナ』まで搭載しているため、対戦車ミサイルでの攻撃を防ぐことも可能となっていた。

 

 原型となったのは、フランスが第二次世界大戦の前に開発した『シャール2C』と呼ばれる超重戦車であるが、大規模な改造を受けており、旧式の戦車とは思えないほどの圧倒的な攻撃力と防御力を誇る巨人と化している。

 

 ブレスト要塞に配備されているシャール2Cには、『ピカルディー』というコールサインが与えられている。

 

 たった10両のみしか生産されなかった、テンプル騎士団の切り札の1つだ。

 

 ついにその切り札が、進撃してくる吸血鬼の戦車部隊に牙を剥く。

 

『―――――――”ピカルディー”、出撃せよ』

 

 

 

 

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