異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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報復のために

 

 もう既に最終防衛ラインで敵を迎撃する準備は始まっているため、タンプル搭は予想以上に静かだった。巨大な要塞砲の足元を走り回っていた戦車や装甲車たちも見当たらない。いつも通りに仕事をしているのは、タンプル搭の外に出るための検問所にいる警備兵たちだけだろう。

 

 バイクで警備兵に近づき、顔を見せてから冒険者のバッジを提示して、ゲートを開けるように頼むと、俺と同い年くらいのエルフ――――――――同い年くらいとはいえ、多分年上だろう――――――――の兵士はすぐにゲートを開けてくれた。

 

 2つ目の検問所も同じようにして通過し、愛車であるKMZドニエプルで冷たい風が支配する砂漠へと躍り出ていく。灰色の砂で埋め尽くされた大地をライトで照らし、敵が終結しているブレスト要塞の方向へと全速力で進んでいく。

 

 バイクを走らせながら、左手を突き出してメニュー画面を出現させる。装備している兵器の中からKMZドニエプルを選択し、出現した項目の中にある”カスタマイズ”をタッチすると、様々な装備が画面に表示され始めた。

 

 装甲を搭載することもできるみたいだが、装甲は装備しなくてもいいだろう。画面を下へと進めていき、サイドカーをタッチして装備。続けて別の装備も搭載することにする。

 

 テンプル騎士団の偵察部隊はバイクを使っているのだが、中にはこのKMZドニエプルのサイドカーにとんでもない代物を搭載したものを使っている兵士たちもいる。

 

 カスタマイズを終えてメニュー画面を閉じてから隣を見てみると、いつの間にかバイクの隣に漆黒のサイドカーが搭載されていた。けれども俺は、そのサイドカーに仲間を乗せるためにサイドカーを用意したわけではない。敵を攻撃するための装備を搭載するために、このサイドカーをカスタマイズで用意したのだ。

 

 がっちりしたサイドカーの上には、仲間を乗せるための座席ではなく、まるで戦車砲を砲塔から取り外してそのまま小型化したような、がっちりとした砲身が鎮座していた。一般的なロケットランチャーを少しばかり太くして砲身を伸ばしたような重火器にはちゃんと照準器も搭載されており、サイドカーの座席があった場所やサイドカー本体の側面には、それに装填するための予備の砲弾が入ったホルダーが搭載されている。

 

 サイドカーに搭載されたのは、『SPG-9』と呼ばれるソ連製の無反動砲だった。73mmの砲弾を発射可能な兵器であり、凄まじい破壊力を誇る代物である。

 

 テンプル騎士団に所属する偵察部隊の中には、バイクのサイドカーに機銃ではなくこれを搭載したものを使っている隊員もおり、偵察の最中に巨大な魔物と遭遇した際にはこれの支援砲撃で味方を援護し、遭遇した魔物を片っ端から撃破したという。

 

 バイクのサイドカーに搭載したまま砲撃ができるが、使うにはバイクを停車させてから降り、サイドカーに搭載されているこの無反動砲を運転手が操作する必要がある。

 

 余談だけど、スクーターに無反動砲を搭載した『ベスパ150TAP』と呼ばれる兵器をフランス軍が採用していたことがある。

 

 無反動砲を搭載したサイドカーを追加したせいで速度は落ちてしまったけれど、このままでも問題はないだろう。

 

 バイクでブレスト要塞に向かえば、常に最高速度で突っ走っていたのであれば4時間くらいかかる。けれども俺の目的はたった1人でブレスト要塞を攻撃する事ではないし、このままサイドカーに無反動砲を搭載したKMZドニエプルで要塞に突っ込むつもりはない。

 

 いくら転生者でも、現代兵器で武装した吸血鬼の兵士たちを何人も相手にすれば、瞬く間に殺されるのが関の山なのだから。

 

 俺の標的は、あくまでもラウラの手足を奪った狙撃手。あいつを抹殺する必要がある。

 

 大切な姉の手足を奪った狙撃手を許すわけにはいかないし、ラウラに弾丸を命中させられるほどの技術を持っているという事は、間違いなく優秀な狙撃手という事になる。最終防衛ラインでの防衛戦にそいつを参加させれば、地上部隊が大損害を被る羽目になるのは想像に難くない。

 

 だから、今のうちに排除しておく必要があった。

 

 けれども、その狙撃手がいるのは十中八九ブレスト要塞の中。俺が突っ込めば確実に姿を現すだろうが、そいつの狙撃を回避しながら吸血鬼の兵士たちと戦うわけにはいかない。

 

 ケーターから渡された吸血鬼たちの小型無線機を取り出し、右側の耳に装着する。スイッチを入れてから深呼吸し、敵に発見されないようにライトを消してから、タンプル搭で考えた作戦を確認する。

 

 一番望ましいのは、その狙撃手だけをおびき出すことだ。しかし要塞に攻撃を仕掛ければ、敵の歩兵部隊まで一緒におびき出すことになってしまう。

 

「…………」

 

 一旦ブレーキをかけ、ポーチの中に入っている地図を確認する。偵察部隊の兵士たちが作ってくれた地図には、オアシスや魔物の出現しやすい地点がしっかりと書かれていた。ブレスト要塞とタンプル搭の間には特にオアシスや岩山は存在しないのだが、少しばかり南西へと進むと、大昔に壊滅した廃村があるのだ。

 

 周囲には魔物もいないし、その廃村には風車や家の廃墟がまだ残っているという。それなりに広いらしいので、罠を仕掛けて待ち伏せするには最高の場所と言える。

 

 そこで待ち伏せする予定だが、その前に狙撃手をおびき出さなければならない。

 

『こちらチャーリー2。周辺に敵部隊がいる様子はない』

 

『了解(ヤヴォール)、そのまま偵察を続けろ』

 

『了解(ヤヴォール)』

 

「…………」

 

 いきなり、敵の無線機からヴリシア語で話す吸血鬼の兵士たちの声が聞こえてきた。吸血鬼たちは攻勢の準備が整うまで要塞の中で待機するつもりらしいが、その間に襲撃を受けないように偵察部隊を派遣しているようだ。

 

 もし移動中に敵と遭遇しなかったら、この無反動砲を要塞にぶち込んで強引におびき出そうと思ってたんだが、砲弾を使わずに済みそうだ。

 

 首に下げていた双眼鏡を覗き込み、砂漠の向こうに敵がいないかを確認する。先ほど通信していた偵察部隊は予想以上に俺の近くにいるらしく、砂漠の向こうからはエンジンの音が聞こえてくる。おそらく、双眼鏡でも確認できる筈だ。

 

 エンジンの音が聞こえてくる方向へと双眼鏡を向けてみると―――――――ライトが見えた。

 

「見つけたぞ」

 

 装甲車と歩兵を派遣しているのではないかと思ったが、どうやら敵はアメリカ製のハンヴィーを偵察に派遣していたらしい。灰色に塗装された車体の上にはブローニングM2重機関銃が搭載されていて、ハッチから身を乗り出した兵士が機関銃の点検をしているのが見える。

 

 走っているのはハンヴィーが1両のみ。車内に歩兵が乗っているが、少人数だろう。奇襲をかければ敵に連絡される前に殲滅できるかもしれない。

 

「…………」

 

 バイクのエンジンを止め、降りてからすぐにサイドカーへと向かう。搭載されているSPG-9を旋回させつつ、砲身の後部を開けて水銀榴弾を装填。後部を閉じたのを確認してから照準器を覗き込み、照準を走行中のハンヴィーへと向ける。

 

 距離はおそらく300mほどだ。スナイパーライフルどころかマークスマンライフルでも狙撃できる距離である。幼少の頃から何度も魔物を狙撃してきたのだから、命中させられる筈だ。

 

 念のため、テンプル騎士団で運用している無反動砲の砲身の上には照準用のスポット・ライフルが搭載されているが、それを使う必要はないだろう。

 

「―――――――Пока(あばよ)」

 

 トリガーを引いた瞬間、装填されていた対吸血鬼用の水銀榴弾が、猛烈な炎と衝撃波を纏いながら砲身の中から躍り出た。

 

 少しばかり炸薬の量を減らして水銀を内蔵しているため、爆発の破壊力は従来の砲弾と比べると劣っているものの、爆発の衝撃波によって押し出された水銀は凄まじい殺傷力の斬撃と化して周囲の敵兵を両断してしまう上に吸血鬼の弱点であるため、吸血鬼たちを始末するには非常に有効なのである。

 

 炎を纏いながら飛んで行く砲弾と無反動砲のバックブラストに気付いたのか、ハンヴィーの速度が上がり、ハッチから身を乗り出していた兵士がブローニングM2をこちらへと向けたのが見える。けれどもその銃身から12.7mm弾が飛び出すよりも先に、灰色の砂で覆われた大地の上で、1つの爆発と轟音が産声を上げることになった。

 

 増速したハンヴィーの左側にある後輪の近くに着弾した水銀榴弾は、強烈な運動エネルギーを纏ったまま貫通して地面に突き刺さったかと思うと、そこで起爆し、人間の兵士を容易くバラバラにしてしまう衝撃波と水銀たちをハンヴィーの下部へと叩きつけることになった。がっちりしたハンヴィーの車体が爆風と水銀の猛攻で浮いたかと思うと、猛スピードで離脱しようとしていたハンヴィーは後部から火を噴きながらゆっくりと速度を落とし、砂漠の真っ只中で動かなくなってしまう。

 

 おそらく、後部座席とハッチから身を乗り出していた兵士は、水銀の斬撃と爆風で木っ端微塵になっている事だろう。運転席と助手席にいた兵士は辛うじて生きているかもしれないが、致命傷を負う羽目になったのは明らかだ。

 

 念のためもう1発無反動砲に水銀榴弾を装填し、後部を閉じてから再びバイクに乗る。エンジンをかけて燃え上がるハンヴィーの側へと向かい、バイクから降りると同時にホルスターからPL-14を引き抜く。

 

 ハンドガンの下部に装着しているライトをつけて車内を照らしてみると、やはり後部座席に乗っていた兵士は死亡していた。燃え上がるハンヴィーの中で火炙りにされていたのは、水銀の斬撃で首から上を捥ぎ取られた死体だ。その隣に座っている兵士の死体は斬撃で腹を引き裂かれたらしく、腸も一緒に火炙りにされ、段々と真っ黒になりつつある。

 

 運転席の兵士も斬撃で頭を抉られたらしく、鼻から上が見当たらなかった。取り残された中途半端な頭蓋骨や脳味噌をあらわにしながら、ハンドルを握ったまま動かない。

 

 全員死んだか…………?

 

 助手席のドアを強引に開けてみると、助手席に座っていた兵士も死亡していたのが見えた。ドアに寄り掛かっていた兵士の上半身がハンヴィーの外へと転がり落ちたかと思うと、取り残された死体の下半身もぐらりとゆれ、燃え上がるハンヴィーの外へと躍り出る。

 

 俺と同い年くらいの兵士だった。吸血鬼は人間よりもはるかに寿命が長いから、もしかしたら俺よりも年上だったのかもしれない。

 

「…………」

 

 耳に装着していた無線機のスイッチを入れる。あいつらが偵察に派遣していた兵士たちはさっきの一撃で全滅したが、敵の狙撃手をおびき出すためには小細工をしなければならない。

 

 体内の魔力の圧力を調整しつつ、音響魔術を発動させる準備をする。

 

 音響魔術はあらゆる”音”を操る魔術だ。ノエルの母親であるミラさんが得意としている魔術であり、喉を潰されたせいで声が出なくなった彼女は、この魔術で喉が潰れる前の自分の肉声を再現して話しているという。

 

 だからミラさんが話している時は、彼女の口は動いていない。

 

 一時的に廃れそうになった魔術だが、ミラさんが普及させたことにより、世界中で重宝されている。

 

 あらゆる音を操ることができるので、その気になれば他人の声を再現することも可能だ。

 

 魔術を使うには体内の魔力を別の属性に変換する必要がある。この音響魔術も使用する前には別の属性に変換させる必要があるのだ。まず魔力を属性に変換し、その属性を更に音声に変換してから使用するという仕組みになっている。

 

 使用することができる音声は、属性によって変わる。例えば雷属性ならば高い女性の声になり、土属性ならば低い男性の声になる。魔力を加圧すれば音が高くなり、逆に減圧すれば低くなるという特徴があるため、微調整は魔力の圧力を調整して行うのだ。

 

 俺の体内にあるのは炎属性と雷属性。今回は炎属性を使うとしよう。

 

「あー…………これくらいかな?」

 

 先ほど通信していた敵兵の声は覚えている。多分、助手席に乗っていたこの兵士だろう。

 

 炎属性の魔力で音響魔術を使用すると”それなりに高い男性の声”になる。ほんの少し減圧して話せば、この兵士の声を再現できる筈だ。

 

「…………CP(コマンドポスト)、応答せよ。こちらチャーリー2」

 

『どうした?』

 

「たった今、赤毛の狙撃手と遭遇した」

 

『赤毛の狙撃手だと…………!? まさか、鮮血の魔女か!?』

 

「分からん。アリーシャ様が仕留めた筈だが…………生きていたのかもしれん」

 

『バカな…………』

 

「辛うじて撃退したが、2名戦死した…………。魔女らしき狙撃手は南西の廃村へと向けて逃走中」

 

『了解(ヤヴォール)、こちらも装甲車と随伴歩兵を派遣する。廃村の近くで彼らと合流し、魔女を討伐せよ』

 

「了解(ヤヴォール)」

 

 くそったれ、装甲車か。ラウラの手足を奪った狙撃手はまだ派遣してくれないらしい。

 

 でも、その廃村でそいつらを殲滅すれば、敵は仕留めた筈の”鮮血の魔女”が最前線に戻ったと勘違いするだろう。そうすれば、魔女を討伐するためにその狙撃手を派遣するに違いない。

 

 吸血鬼たちは攻勢のための準備中だ。最終防衛ラインではなく、南西の廃村に逃げ込んだ鮮血の魔女を討伐するために大規模な部隊を派遣する余裕はないだろう。だからこの装甲車と随伴歩兵たちでも討伐できなければ、ラウラを討伐した狙撃手を派遣せざるを得なくなる。

 

「…………いいだろう」

 

 狙撃手の前に、敵兵たちを地獄に落としてやろうじゃないか…………!

 

 足元に転がっている若い吸血鬼が身につけていた水筒を拾い上げ、蓋を開けて中身を確認する。紅茶でも入っているのだろうかと思ったが、中に入っていたのは紅茶ではなく、彼らの主食()だった。

 

 静かにフードを外し、自分の蒼い髪を見つめる。リボンをラウラの枕元に置いてきたから、今の俺の髪型はポニーテールではない。

 

 ラウラは赤毛だから、このまま狙撃すれば偽物だと思われちまうな。敵兵を皆殺しにする前に赤く染めないと。

 

 ため息をついてから、俺は血の入った水筒の中身を自分の髪に塗り始めた。

 

 

 

 

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