異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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今回の話からちょっとグロくなります。ご注意ください。



狩り場

 

 真っ白なレンガで作られているカルガニスタンの建物の真っ只中に、黒焦げになった車両が鎮座していた。足元にはちょっとしたクレーターのような窪みがあり、そこから突き上げた何かが車両の底を貫通して、砲塔の後部を突き破った跡もしっかりと残っていた。

 

 炎上したM1128ストライカーMGSの内部で砲弾が誘爆を繰り返したらしく、その風穴から覗いている車内の装置は滅茶苦茶になっていた。砲手や車長の座席は黒焦げになっており、操縦士の座席は周囲の装甲もろとも抉られて消失してしまっている。

 

 もう一度車両の足元に残っている小さなクレーターを見つめてから、アリーシャは深呼吸する。

 

 あの味方のM1128ストライカーMGSは、対戦車地雷でやられたのだ。

 

 しかも爆風と衝撃波が底を突き破った挙句、天井の装甲まで突き破るという事は、その車両が運悪く踏みつけてしまった地雷は1個ではないだろう。複数の地雷を重ねた代物を踏みつけ、車内の砲弾まで誘爆させて炎上する羽目になったのは想像に難くない。

 

 黒焦げになった車両の周囲には、その随伴歩兵や脱出した乗組員たちの残骸が転がっていた。

 

 大口径のライフル弾で撃ち抜かれたらしく、その死体の大半は胸板もろとも首から上が捥ぎ取られていた。中には頃焦げになった軍服を身につけた状態で上半身や手足が見当たらない死体も転がっている。黒焦げになっているのは、乗組員たちの死体なのだろう。

 

(鮮血の魔女…………)

 

 彼女に撃ち殺された若い随伴歩兵の死体が、まるで廃村へとやってきたアリーシャに手を伸ばそうとしているかのような体勢で倒れている。左側の肋骨もろとも左肩から先を千切り取られたその若い兵士は、おそらく主人(ブラド)と同い年くらいだろう。

 

 歯を食いしばりながら、村の奥へと向かった。

 

 ブレスト要塞で魔女と戦った時は味方の戦車部隊や歩兵部隊も戦っていたため、それほど緊張はしなかった。しかし彼女は、たった1人でこの廃村に潜んでいる魔女に再び挑まなければならない。ブレスト要塞での戦いの際は魔女が他の味方を狙っていたおかげで自分は彼女の片腕と片足を捥ぎ取ることに成功したものの、今度はあのような乱戦ではなく一騎討ちである。

 

 チェイ・タックM200のグリップを思い切り握り、もう一度深呼吸する。

 

(再び魔女を討ち取ればいいだけよ………。今度は首を持ち帰らないと)

 

 死体を確認していないからこそ、魔女が実は生きていたという話を聞いた瞬間、少しばかりあり得るかもしれないと思ってしまった。もしブレスト要塞の周囲の砂漠で、瀕死の魔女の頭を撃ち抜いて確実に殺していたのであれば、魔女が生きていたと言われてもすぐに否定することができただろう。

 

 止めを刺さなかったことを後悔した瞬間、彼女の頭の中で違和感が産声を上げた。

 

 ―――――――鮮血の魔女(ラウラ・ハヤカワ)は、左腕と左足を失っている筈なのである。

 

 しかし、討伐に向かった兵士たちの前に現れた鮮血の魔女は、生存者の報告では五体満足だったという。とはいえ廃村の中心に屹立する古い塔の上に立っていた彼女を撤退しながら見ただけであるため、見間違いである可能性も大きい。

 

 だが、もし仮に見間違えで片腕と片足が無い状態だったとしても、団員の命を大切にするテンプル騎士団がそのような状態の負傷兵を最前線に派遣するわけがない。しかも、情報では鮮血の魔女の利き手は左手で、ライフルも彼女のために構造を左右逆に変更された特注品だという。

 

 利き手がどれほど重要な存在かは言うまでもないだろう。

 

 ライフルの照準を正確に合わせ、トリガーを引くための利き手を失った狙撃手が、利き手ではない方の手を使って最前線に戻って来れるわけがない。大急ぎで義手を移植していたとしても、リハビリに必要な期間は平均で一ヵ月。いくらキメラが”突然変異の塊”と言われるほど変異しやすい謎の種族とはいえ、たった1日で完全に義手のリハビリを終えられるわけがない。

 

(おかしいわね…………)

 

 違和感がどんどん肥大化していくが、派遣された部隊が赤毛の狙撃手によって狙撃され、M1128ストライカーMGS1両と数名の随伴歩兵を失う大損害を被っている以上、仮に魔女の偽物であったとしても仕留めておく必要がある。

 

 一旦愛用のチェイ・タックM200を背中に背負い、腰のホルスターからコルト・ウォーカーを引き抜く。現代のリボルバーよりもはるかに巨大なリボルバーを構えて廃墟の中へと向け、中に魔女が潜んでいないかを確認してから建物の中へと入り込む。

 

 狙撃するのであれば、村の中心に鎮座している古い塔から狙撃をするのが望ましいだろう。しかし、その塔に向かう途中に魔女に発見されて狙撃される可能性もある。そのため、アリーシャは塔へと向かう前に、近くにある可能な限り高い建物の中から村の道や魔女の居場所を確認しておくことにしたのだ。

 

 穴と砂塵だらけの古びた木製の階段を、出来るだけ軋む音が出ないようにゆっくりと上がっていく。キメラは吸血鬼のように聴覚が発達している可能性があるため、少しでも音を立てれば発見される可能性があるのである。

 

 再生能力は持っていないものの、吸血鬼に匹敵する身体能力や外殻を使った防御などの能力などを身につけているため、かなり厄介な存在なのである。現時点では個体数がかなり少ないものの、もし仮にキメラたちが”繁殖”すれば、吸血鬼たちが敗北するのは想像に難くない。

 

 息を呑みながら階段を上がり終えたアリーシャは、息を吐こうとした瞬間、右側の爪先がワイヤーらしきものを蹴りつけようとしていることに気付き、ぎょっとしながらゆっくりと足を引っ込めた。

 

「これは…………」

 

 蹴りつける寸前だったワイヤーは、彼女から見て左側にある壁の下まで伸びていた。そのワイヤーの終着点には小さな金属の塊が鎮座しており、少しばかり瓦礫に埋まった状態で、獲物を待ち続けていた。

 

「クレイモア地雷…………ッ」

 

 アメリカが開発した地雷の1つである。内部には超小型の鉄球がこれでもかというほど詰め込まれており、起爆した瞬間に爆風と共に敵兵へと襲い掛かる獰猛な代物だ。このような狭い通路で起爆すれば、十中八九アリーシャはその爆風を浴びる羽目になるだろう。しかも分厚い真っ白なレンガで作られた壁に激突した鉄球たちが跳弾し、彼女の全身に風穴を開けることになるのは想像に難くない。

 

 冷や汗を拭い去り、そっとそのワイヤーの向こう側へと足を延ばす。

 

 他にもその地雷が仕掛けられていないか確認しようとした次の瞬間だった。

 

 何の前触れもなく、自分の立っていた場所の左側にあるレンガの壁が真っ赤に染まった。壁が火達磨になったのだろうかと思った頃には、凄まじい爆風と共に飛来した無数の小さな鉄球たちが彼女の肌に喰らい付き、その鉄球たちを押し出した衝撃波がアリーシャの身体を反対側の壁へと思い切り叩きつける。

 

「!?」

 

 レンガの壁に激突する羽目になったアリーシャは、目を見開きながらすぐに立ち上がった。

 

 幸い、内蔵されていた鉄球たちは対吸血鬼用の銀ではなかったらしく、身体中に穿たれた弾痕にも似た傷口は早くも塞がりつつあった。とはいえ爆風と鉄球を浴びる羽目になった左半身には無数の傷があるため、少しばかり再生には時間がかかるかもしれない。

 

 鉄球の群れに肉を抉られた挙句、爆風で黒焦げになった自分の身体を見てぎょっとしながら、アリーシャは狼狽していた。

 

(な、なぜ…………ッ!? ワイヤーは確かに避けた筈なのに!?)

 

 ぎょっとしながら先ほど躱した筈の地雷を確認するが、確かにそのクレイモア地雷は姿を消しており、設置されていた場所の近くにある壁には爆風が牙を剥いた跡が残っているのが見える。

 

 あのワイヤーを避ければ、地雷は起爆しない筈なのだ。しかし彼女が突破した筈のクレイモア地雷は、通路の奥へと進もうとしていた彼女に牙を剥いたのである。

 

 次の瞬間、階段のすぐ近くにあった窓の向こうから飛び込んできた金属の物体が、真っ白なレンガの壁に激突した。

 

「ッ!」

 

 ブラドに救出されてからは銃を扱うための訓練を何度も繰り返してきたため、アリーシャはその飛び込んできた物体が銃弾であるという事にすぐに気づいた。しかも通常のスナイパーライフルが使用する7.62mm弾や.338ラプア・マグナム弾ではなく、それよりも大口径の弾丸である。おそらく、ブローニングM2重機関銃が使用する12.7mm弾だろう。

 

 被弾すれば肉体が木っ端微塵になるのは想像に難くない。戦車や装甲車に搭載されることもあるほどの大口径の代物なのだから、人体に命中すれば木っ端微塵になる。

 

 先ほど上がった階段を駆け下り、下へと向かう。彼女の居場所が探知された理由は不明だが、先に狙撃されてしまった以上は何とか隠れて魔女の居場所を探さなければならない。鮮血の魔女は間違いなくこの世界でトップクラスの実力を持つ最強の狙撃手なのだから、反撃しようとすればあっさりと身体をバラバラにされてしまう。

 

 階段を駆け下り、スモーク・グレネードを放り投げる準備をしながら建物の外へと躍り出る。先ほど弾丸が撃ち込まれてきた場所は分からなかったが、銃弾が飛来した方向は村の中心部。しかもやや上から窓へと飛び込んできた。

 

 つまり、鮮血の魔女は中心部の塔からアリーシャを狙撃してきたという事である。

 

 おそらく、ブレスト要塞の方向にある村の入り口を塔の上からずっと警戒していたのだろう。いきなりアリーシャが中心部の塔を目指さず、近くの建物から敵の居場所を確認しようとしていたのも想定内どころか”シナリオ通り”であったに違いない。

 

「くっ…………!」

 

 建物の間を走りながら、目の前の狭い通路に飛び出したその時だった。

 

 ばちん、と鉄板同士がぶつかり合うような音が右足から聞こえてくると同時に、地面を踏みつけた筈の右足が、地面から離れなくなってしまったのである。

 

 違和感を感じたアリーシャが足元を見下ろすよりも先に、激痛が彼女の右足を押し潰す。

 

「あ…………ァァ………!」

 

 通路を駆け抜けようとしていた彼女の右足に、まるでサメの牙を思わせる金属製のスパイクが喰らい付いていた。アリーシャの右足の脛を突き破った金属製のスパイクはそのまま彼女の足の骨にも風穴を開け、その罠に引っかかってしまったアリーシャの片足を食い千切ろうとしている。

 

 彼女が踏みつけてしまったのは、通路に設置されていたスパイク付きのトラバサミであった。

 

 トラバサミは騎士団でも使用されており、地雷の代わりに拠点の周囲などに設置されている。対人用のトラバサミは騎士団にしか販売されていないが、危険な魔物との戦闘を繰り広げる傭兵や冒険者向けに対魔物用のトラバサミが販売されており、冒険者管理局の売店などで購入することができるのだ。

 

 アリーシャが踏みつけてしまったのは、その対魔物用のトラバサミである。しかもゴーレムや小型のドラゴンなどの外殻に覆われている魔物を足止めする事を想定した代物であるため、外殻を貫通できるほど鋭いスパイクがこれでもかというほど取り付けられているのが分かる。

 

 穴だらけどころか切断される寸前までスパイクに肉を抉られたアリーシャは、いっそのこと足をここで千切り、再生させながら逃げようとした。幸いスパイクは銀ではないため、5秒ほどあれば骨の再生は終了するだろう。

 

 吸血鬼には再生能力があるのだから、ここで足掻き続けて大口径の弾丸の餌食になるよりははるかにマシである。

 

「くっ…………あ………あぁ…………ぁぁぁ…………っ!」

 

 強引に足を引っ張るにつれて、ぶちっ、と少しずつ右足の肉や残っていた皮膚が千切れていく。置き去りにするなと言わんばかりに激痛が産声を上げるが、アリーシャは歯を食いしばったまま右足を引っ張り続けた。

 

 肉が千切れていくにつれて、スパイクに穿たれた足の骨があらわになっていく。千切れた肉や血管から鮮血が流れ落ち、彼女に喰らい付いた対魔物用のトラバサミが深紅に染まっていく。

 

 やがて、ぶちん、と肉の千切れる音がアリーシャの鼓膜へと飛び込んだ。トラバサミに束縛されていたアリーシャは勢いよく砂で覆われた道の上に倒れたが、まだ傷口の再生は終わっていない。早くも彼女の右足の断面の肉が伸び始め、その表面を真っ白な美しい皮膚が覆い始めていたが、出血は止まっていなかった。

 

「―――――――アァァァァァァァッ!!」

 

 絶叫すれば魔女に察知される可能性があるというのに、アリーシャは叫んでしまった。

 

 奴隷にされていた頃には様々な苦痛を味わったが、商人たちに殴られた挙句、鞭でひたすら痛めつけられた程度である。今のように四肢のうちの1つを千切られたことは一度も経験したことがなかった。

 

 リボルバーから手を離し、涙目になりながら必死に両手で傷口を抑える。すでに爪先まで再生が終わり、履いていた靴も一緒に再生され始める。

 

「はぁっ、はぁっ…………魔女ぉ……………………!!」

 

 歯を食いしばりながらリボルバーを拾い上げ、ホルスターへと戻してからスナイパーライフルを構える。

 

 間違いなく、魔女はこの廃村の中にトラップをいくつも仕掛けているだろう。アリーシャをそのトラップで苦しめつつ、狙撃で仕留めるつもりに違いない。

 

 左手を腰のポーチの中にあるスモーク・グレネードへと伸ばし、安全ピンを引き抜いてから投擲する。砂塵の中に埋まりかけていた白いレンガの道の上に転がったスモーク・グレネードから白煙が飛び出し、アリーシャの周囲を純白の煙で満たしていく。

 

 その直後、彼女の頭の上を1発の弾丸が通過していった。またしても12.7mm弾らしく、後方の壁に命中して跳弾する音を奏でた。

 

 やはり、先ほどの悲鳴で居場所を察知されてしまったらしい。白煙が消えないうちに近くの建物の中へと飛び込んだアリーシャは、かつては鍛冶屋だった建物の中にあるカウンターの陰に隠れ、呼吸を整える。

 

 魔女がいる筈の場所は塔の上だったというのに、さっきの弾丸が飛来したのは全く違う方向からだった。いくらキメラの身体能力でも、塔の上から素早く狙撃する位置を変更することは不可能である。

 

(まさか、複数の狙撃手がいるの……………!?)

 

 呼吸を整えながら、アリーシャはチェイ・タックM200のグリップを思い切り握りしめる。もし仮に複数の狙撃手が待ち伏せしていたというのであれば、アリーシャは鮮血の魔女たちによっておびき出されたという事になる。

 

 つまり、彼女の主人であるブラドまでテンプル騎士団に騙されたという事になるのだ。

 

(薄汚いキメラ共…………ッ!)

 

 ブラドまで欺かれたことに怒りを感じたアリーシャはカウンターを飛び出そうとしたが、立ち上がった瞬間、カウンターの裏にある棚の中に奇妙な物体が置かれている事に気付いた。

 

「―――――――!」

 

 ぎょっとしたアリーシャは、大慌てで店の出口へと向かって走り始める。

 

 ブラドと一緒に訓練していた際に、その奇妙な物体を何度も使ったことがあったため、それの正体を知っていたのだ。

 

 放棄された村の鍛冶屋の中にある棚に、まるで商品のようにさり気なく置かれていた奇妙な物体は――――――――戦車や装甲車を木っ端微塵にしてしまうほどの破壊力を持つ、C4爆弾だったのである。

 

 C4爆弾に気付いて店の外へと飛び出した直後、産声を上げた猛烈な爆風が、アリーシャの身体を呑み込んだ。

 

 

 

 




ちなみに、私はリョナはあまり好きではありません(実話)
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