異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
平手打ちの音が指令室の中へと響き渡る。その音が鼓膜へと流れ込んでくると同時に、左側の頬で痛みが産声を上げ、自分の頭が微かに揺れた。
吸血鬼共の狙撃手を排除し、戦力を削ると同時に敵兵たちの士気も下げることができたのだが、俺はその狙撃手を討伐するために勝手に出撃してしまったのだ。しかも、敵の攻撃を迎え撃つために最終防衛ラインを構築している真っ最中に。
当たり前だけど、決戦の直前に組織の指導者が勝手にいなくなるのは大問題だ。だからタンプル搭に戻ったら、ナタリアやウラルに殴られるだろうなとは思っていた。圧倒的なパワーを持つウラルの拳で殴られるのではなく、ナタリアの平手打ちで済んだのは幸運なのだろうか。
「…………今は戦闘の準備中なのよ、タクヤ」
「………悪かった」
戦果はしっかりとあげて戻ってきたが、勝手に出撃した理由は、ラウラの手足を奪った狙撃手への復讐だ。戦果をあげれば敵に損害を与えることはできたが、逆に失敗すれば組織が崩壊しかねないほどの大損害を被る羽目になる恐れがあったのである。
個人的な理由でそんなことをするのは、大問題だ。
腕を組みながら睨みつけてくるナタリアに頭を下げ、謝罪する。もしウラルだったら、もう一発くらいぶん殴られていたかもしれない。
「…………でも、ちゃんと復讐は果たしたんでしょ?」
「ああ、ちゃんとやった」
「そう。なら大丈夫よ。頭上げなさい」
ゆっくりと顔を上げると、目の前で腕を組んでいたナタリアは溜息をついてから微笑んだ。
「しっかりしなさいよね。この騎士団の団長はアンタなんだから」
「分かってる。…………心配かけて本当にすまなかった」
「気を付けなさいよね」
ナタリアにもう一度だけ頭を下げて謝罪し、そっと顔を上げる。
顔を上げてからナタリアと共にモニターを眺めていると、俺は指令室の中にケーターがいないことに気付いた。クランと一緒に諜報指令室の方に行っているんだろうか。それとも、俺の復讐に手を貸していたことがバレて説教されているのだろうか。
「ところで敵の状況はどうだ? 情報は?」
「アンタが狙撃手を始末してくれたおかげで、敵部隊の士気は下がってるみたいね」
そう言いながら、ナタリアは目の前にいるオペレーターから報告書のようなものを受け取り、俺に手渡した。どうやらシュタージが潜入させていたスペツナズの工作員からの報告書らしく、敵の状況についてのレポートや、戦術に関しての情報がぎっしりと書き込まれているのが分かる。
スペツナズの隊員には、ヴリシアで降伏してテンプル騎士団に入団してくれた吸血鬼の兵士が何名か所属しているのだ。そのため、敵兵の軍服さえ調達できれば、敵と全く同じ種族であるためバレることはほぼ無いのである。
様々な種族で構成されているテンプル騎士団の”強み”と言えるだろう。
このように、シュタージはスペツナズや他の部隊から潜入させるための工作員を”借りる”事があるのである。
報告書には、「敵は”アリーシャ”を失った」と書かれている。おそらく俺が惨殺したあの銀髪のメイドだろう。吸血鬼たちの中では極めて優秀な狙撃手だったらしく、タンプル搭への攻撃にも参加し、地上部隊を支援する予定だったという。
攻撃の準備中に予想外の大損害を被ることになった吸血鬼たちは、部隊の再編成のために攻撃を更に延期し、4日後にタンプル搭への攻撃を始めるつもりらしい。生き残った戦車部隊や航空部隊を全て投入して総攻撃を実行するつもりらしく、それまでにこっちの艦隊を殲滅して河に侵入し、タンプル搭を艦砲射撃するつもりのようだ。
空爆や艦砲射撃を叩き込まれた状態で地上部隊からの総攻撃を受ければ、タンプル搭もブレスト要塞のように陥落してしまうだろう。幸いテンプル騎士団の主力艦隊はまだ奮戦を続けてくれているようだが、場合によっては他の支部に艦隊を派遣してもらうべきなのかもしれない。
「…………それより、ブレスト要塞が陥落した原因が分かったわ」
「なんだと?」
軍帽をかぶり直したナタリアが、報告書を読む俺を見つめながら言った。
ブレスト要塞は堅牢な防壁に囲まれた要塞であり、重要拠点の1つである。簡単に言えば大型の要塞砲を配備していないもう1つのタンプル搭のような要塞であり、防壁の中には飛行場まで用意されている。もし仮に通信設備を破壊されてタンプル搭と連絡が取れなくなっても、こっちの偵察機が要塞の状況を確認してから増援部隊を派遣するまでは、ブレスト要塞の兵力だけでも持ちこたえられるようになっている筈だった。
しかし、敵はあっという間にブレスト要塞を陥落させてしまったのである。いくら吸血鬼の兵士たちの身体能力が高い上に、浸透戦術を使って塹壕を突破していたとしても、あの要塞がすぐに陥落するのはありえない。
「生存者の報告だと、”巨大な砲弾”が降ってくるのが見えたらしいの」
「巨大な砲弾?」
「ええ。その一撃で地上が壊滅して、砲弾が地下へと貫通していったみたいなの。しかも起爆したのはブレスト要塞の中央指令室のすぐ近くだったみたい」
ブレスト要塞は、タンプル搭のような要塞砲を装備していなかった。それゆえに砲撃時の衝撃波で施設が破損することを考慮する必要がなかったため、多くの設備が地上に造られていたのである。
とはいえ、地下に全く設備を用意していなかったというわけではない。もしも敵機やミサイルが対空砲火を突破すれば、地上の設備が木っ端微塵になってしまう。そのためブレスト要塞も、タンプル搭と同じように中央指令室などの重要な設備を地下に用意していたのだ。
だが、分厚い岩盤と分厚い装甲を用意し、仮に砲弾や大型の爆弾が降り注いできてもそう簡単には損害を受けないようになっていたにもかかわらず、たった一撃でその岩盤と装甲を貫通された挙句、中央指令室まで破壊されてしまったのだ。
明らかにその砲弾は、通常の砲兵隊が運用している自走砲の砲弾ではないだろう。ブレスト要塞の中央指令室を守っていた装甲は、戦艦の装甲を流用した代物なのだから。
中央指令室が一発目の砲弾で破壊されたという事は、その砲弾は戦艦の装甲を一撃で貫通できるような代物であるという事を意味している。つまり、戦艦大和が搭載している46cm砲を上回る代物だという事だ。
しかし、敵艦隊はまだウィルバー海峡でこっちの艦隊と交戦中である。河に侵入した敵艦隊が砲撃するのはありえないし、報告では敵艦隊の戦艦はビスマルク級。強力な38cm砲を搭載しているが、戦艦大和の艦砲射撃を想定した装甲で守られているブレスト要塞の中央指令室を一撃で貫通できるわけがない。
「ただ、どんな兵器で砲撃されたのかは分からないわ………」
「…………分かったぞ」
「え?」
戦艦大和の主砲を遥かに上回る口径の代物ならば、第二次世界大戦でドイツ軍が既に実戦投入しているではないか。
命中すれば戦艦大和も容易く撃沈できるほどの破壊力を誇る、”80cm列車砲”を。
「―――――――”ドーラ”だ」
「ドーラ…………? 何それ?」
メニュー画面を開いて生産のメニューをタッチし、兵器の中から”列車砲”を選択。画面を下に移動させつつ、項目の中に姿を現した”80cm列車砲”をタッチし、表示された兵器の画像を首を傾げているナタリアに見せる。
画面の中に鎮座する巨大な砲身を目にしたナタリアが、凍り付いた。
「な、何よこれ…………?」
「あら、
「きゃあっ!? く、クランちゃん!?」
俺が説明しようと思ってたんだが、説明を始めるよりも先にナタリアの背後からクランが顔を出す。彼女の背後にはケーターも立っているのが見えたんだが、彼の頬には平手打ちされた痕があった。どうやらケーターも
「この列車砲はね、世界最大の”80cm列車砲”なの」
「は、80cm…………!?」
タンプル搭にある要塞砲は36cm砲である。タンプル搭の名を冠したタンプル砲は要塞砲どころかドーラを遥かに上回っているが、あれは火力を劇的に向上させるためではなく、強力な
確かに、80cm列車砲の砲撃ならば岩盤と装甲をあっさりと貫通し、中央指令室を破壊するのは造作もないだろう。しかしこれは”列車砲”であるため、運用するためには牽引する機関車や線路も準備しなければならない。
いつの間に準備しているのだろうかと考えていると、ナタリアの頭を撫でながら説明していたクランが息を吐いた。
「多分、浸透戦術で防衛戦を突破している隙に用意してたのかも」
「なるほど…………」
身軽な突撃歩兵たちが、次々に塹壕を突破してくれば、どんなに優秀な指揮官でも接近してくる突撃歩兵を迎撃することを最優先にしてしまうだろう。その後方で準備されている恐ろしい兵器が牙を剥こうとしていることに気付けるわけがない。
「
「分かってる。…………だが、戦車部隊を派遣するわけにはいかない。敵に迎撃されちまうのが関の山だ。航空部隊も最終決戦のために温存しなければ――――――――」
「何言ってるのよ。こっちにも大きな要塞砲があるじゃない」
「…………まさか、タンプル砲を使うつもりか?」
「Ja(ええ)」
首を縦に振ってから、クランは笑う。
「あれは圧倒的な射程距離を誇る”超大型多薬室ガンランチャー”でしょう? 敵の列車砲はとっくに射程距離内に入ってるわ。問題は居場所が分からない事だけど」
そう言ってから溜息をついたクランは、頭にかぶっていた略帽を取ってから近くの椅子に腰を下ろした。
確かにタンプル砲を使えば、敵の列車砲どころかブレスト要塞を直接砲撃する事が可能だ。その気になれば通常の砲弾で敵艦隊を砲撃することも可能かもしれない。しかも飛来するのは200cm砲の砲弾なのだから、戦艦に命中すれば一撃で真っ二つである。
しかし、タンプル搭の問題点は非常に多い。
タンプル砲には、合計で33基の薬室が搭載されている。それの爆発を利用して砲弾を一気に遠距離まで発射するのだから、砲弾と一緒に方向から飛び出す爆発はちょっとした核爆発に匹敵するほどだ。実際に、吸血鬼たちにミサイルをぶっ放した際は砲口からキノコ雲が飛び出ていたという。
それゆえに砲撃する度に、その衝撃波で被害が出てしまう。
更に、砲撃する際は攻撃目標の周辺まで観測用の装備を搭載した偵察機を派遣し、砲弾が命中するまで観測させなければならない。
つまり、タンプル砲で敵の列車砲を砲撃するのであれば、その列車砲の上空まで観測用の装備を搭載した偵察機を派遣し、敵の対空砲火を回避しながら観測させなければならないのだ。
要塞を陥落させるための列車砲が、敵の切り札であるのは火を見るよりも明らかである。その切り札を守るために敵が対空兵器をこれでもかというほど準備しているのは想像に難くない。偵察機を派遣しても、すぐに地対空ミサイルで叩き落されるのが関の山だろう。
エースパイロットを出撃させろという事なのだろうか。
だが、最終決戦前に虎の子のエースパイロットたちを危険に晒すわけにはいかない。イッルやニパたちを失えば、テンプル騎士団は確実に制空権を奪われてしまう。
「同志団長」
エースパイロットを出撃させるべきなのだろうかと思っていると、後ろからやってきた2人の兵士に声をかけられた。敬礼している2人の兵士はテンプル騎士団の制服に身を包んでおり、金髪の中からは白くて長い耳が覗いている。
ハイエルフなのだろう。制服の肩にはミサイルを噛み砕いているサラマンダーのエンブレムが描かれており、その2人が空軍に所属していることが分かる。
ちなみに陸軍のエンブレムは『砲弾を抱えたゴーレム』で、海軍が『魚雷に絡みつくリヴァイアサン』となっている。
「どうした、同志ユージーン」
少し背が高い方はユージーン。隣に立っている短髪のハイエルフの男性はエドワード。この2人はタンプル砲が初めて実戦投入された際に、ディレントリア上空からミサイルの観測をしていたパイロットたちである。
俺が彼の名前を憶えていたことに驚いたのか、ユージーンは目を見開いた。
ちゃんと覚えてるよ、大切な同志たちの名前は。
「タンプル砲を投入するのでしたら、是非我々を出撃させてください」
「絶対に列車砲を発見し、仲間の仇を取って見せます」
「…………危険だぞ。敵は間違いなく対空砲をこれでもかというほど準備している。接近すれば航空部隊も迎撃してくるはずだ」
地対空ミサイルや対空砲だけでなく、敵の航空隊にも攻撃される危険性がある。列車砲に近づけば、十中八九対空砲火と航空隊からの猛攻を受ける羽目になるのだ。
その猛攻を回避しつつ反撃し、ミサイルを命中させるために観測をするのは至難の業としか言いようがない。
「いえ、やらせてください。ヴリシアで戦死した仲間の仇を取りたいんです」
「俺たちにとってはジェイコブや仲間たちの弔い合戦なのです。お願いします、同志」
エドワードの弟は、ヴリシアの戦いで戦死してしまっている。
俺も数時間前は憎たらしい敵を痛めつけていた。身体の中にスライムを注射して、ひたすらナイフで切りつけていたのである。けれども俺にとって大切な姉は、まだ生きている。復帰するのはもう少し先になるかもしれないけれど、ラウラは戦死していない。
けれども、エドワードの弟は死んでしまった。ヴリシアの最終防衛ラインで、敵のマウスの砲撃で吹っ飛ばされたのだ。遺体が納められた棺の傍らで涙を流していたエドワードの事を思い出した俺は、一瞬だけ歯を食いしばってから首を縦に振ってしまう。
大切な人が殺されかけたのだから、彼の憎しみは理解できる。
だから俺は、肯定した。この2人の復讐心を。
「分かった。ただし、絶対に生還しろ」
「「ありがとうございます、同志団長」」
「それと、俺も出撃する。たった1機の戦闘機で列車砲を探すのは困難だからな」
後ろを振り向き、ナタリアの瞳を見つめる。彼女は苦笑いしながら首を縦に振ると、「アンタこそ生きて帰りなさいよね」と言ってから微笑んでくれた。
『ラ・ピュセル1、滑走路へ』
「了解(ダー)」
機体のチェックを終えると同時に、管制室から報告が聞こえてきた。機体の目の前にやってきてくれた兵士に誘導してもらいながら機体を前進させ、タンプル搭の地下にある滑走路へと向かう。
俺が乗っている機体は、ロシア製ステルス戦闘機のPAK-FA。テンプル騎士団が正式採用しているステルス戦闘機のうちの1機であり、かつてケーターが乗るアメリカのF-22と一対一で戦ったこともある。
武装を搭載しているが、今回の目的は敵の列車砲を発見して観測し、タンプル砲の砲弾で叩き潰すことだ。そのため胴体の真下には、ステルス機の機首を小型化してセンサーを搭載したような形状のポッドが搭載されており、そのポッドを制御して観測を担当するもう1人のパイロットを乗せるために複座型に改造されている。
ちらりと後ろを見てみると、大きなヘルメットとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を身につけ、ポッドのチェックをしている幼い少女が後ろの座席に乗っていた。大きなヘルメットからは毛先が桜色になっている特徴的な銀髪が伸びているのが分かる。
後ろに乗っているのは、円卓の騎士の1人でもあるステラだ。
やがて、まるでアドミラル・クズネツォフ級のスキージャンプ甲板を思わせる特徴的な滑走路があらわになる。壁にはやけに明るい誘導灯がいくつも埋め込まれており、左上の壁の上にはパイロットに指示を出すための管制室の窓がある。
『ポッドに異常はありません』
「了解。観測頼んだぞ」
『了解(ダー)』
今回の任務にステルス機を使うのは、可能な限り敵のレーダーに発見されないようにするためだ。発見されたとしても、観測を進めてデータをタンプル搭へと送る時間稼ぎにはなる筈である。
誘導してくれた兵士が滑走路から退避したのを確認してから、深呼吸する。キメラは身体が頑丈であるためヘルメットや酸素マスクは必要ない。そのため、今回も俺が身につけているのはいつもの転生者ハンターのコートと、少しばかり改造されたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のみだ。
『ラ・ピュセル1、離陸を許可します。幸運を』
「了解。ラ・ピュセル1、出撃する」
上へと曲がっている滑走路の先端部を睨みつけながら、俺はPAK-FAを加速させるのだった。
おまけ
追撃
ナタリア「…………でも、ちゃんと復讐は果たしたんでしょ?」
タクヤ「ああ、ちゃんとやった」
ナタリア「そう。なら大丈夫よ。頭上げなさい」
タクヤ(ん? 説教は終わりかな?)
ナタリア「えいっ!」
タクヤ「痛ぁぁぁぁ!?」
兵士一同(も、もう一発…………!?)
完