異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ドーラ

 

 タンプル搭の飛行場から飛び立つ度に、着陸する時の事を考えてしまう。

 

 要塞砲の衝撃波から飛行場や戦闘機を保護するために、タンプル搭の飛行場や格納庫は地下に建設されている。滑走路の先端部はロシアのアドミラル・クズネツォフ級のスキージャンプ甲板のように上へと曲がっているため、出撃する際はそのまままっすぐに進むだけでいい。

 

 けれども、着陸の難易度は極めて高い。今度はその”上に曲がった滑走路”に降り立たなければならないのだから。

 

 俺の能力の中にあるトレーニングモードでパイロットたちが何度も訓練をするが、10人のうち3人はトレーニングモードでの着陸に失敗している。着陸の難易度が高いため、航空部隊のパイロットの中には別の拠点への異動を希望する者も多いらしい。

 

 逆に、ブレスト要塞は砲撃の際に衝撃波を発する要塞砲(面倒な代物)が配備されていないので、地上にちゃんとした飛行場が建設されているのだ。

 

 出撃して大きな戦果をあげても、タンプル搭への着陸に失敗して戦死する可能性があるというわけである。そのため現在はドワーフやハイエルフの職人たちと飛行場の構造を改善するための会議を続けていた。

 

 大切な同志たちを滑走路で失うわけにはいかないからな。

 

『ラ・ピュセル2よりラ・ピュセル1へ』

 

「こちらラ・ピュセル1」

 

 隣を飛んでいるもう1機のPAK-FAに乗っているユージーンの声が聞こえてきた。彼らの乗っている機体にもタンプル搭へと観測データを送信するためのポッドが取り付けられているのが見える。まるでF-22の胴体を切り離して機首だけの状態にし、先端部の下部には眼球を思わせるセンサーが取り付けられている。あれで目標を捕捉することで敵の位置や距離などの全てのデータが自動的に観測され、後方にあるタンプル搭へと送信される仕組みになっている。

 

 180度までならばあの眼球のようなセンサーが自動的に旋回して敵を捕捉し続けてくれるが、旋回できる範囲を超えてしまうと観測が一時停止されてしまうという欠点があるため、敵の観測をする際は可能な限り機体の下部を地上の敵に向けつつ飛行することが望ましい。

 

 敵の航空機と戦う可能性もあるため、中距離用と短距離用の空対空ミサイルを4発ずつ搭載している。機首には30mm機関砲も搭載しているので、場合によってはドッグファイトも可能だ。

 

『二手に分かれて索敵しましょう。その方が素早く敵を発見できるかもしれません』

 

「悪くないな」

 

 素早く列車砲を探し出し、タンプル砲で破壊する必要があるからな。ドーラがタンプル搭への攻撃に投入されれば、タンプル搭もブレスト要塞の二の舞になるのは想像に難くない。

 

 それに、タンプル搭の地下には数多くの住民たちが避難しているのだ。元々タンプル搭で保護していた住民たちや兵士の家族たちだけではなく、ブレスト要塞から避難してきた住民たちも地下で保護している。

 

 もしドーラの砲撃を叩き込まれれば、今度は住民もろとも生き埋めにされてしまうだろう。他の拠点へと避難させるべきかもしれないが、最終防衛ラインを構築するために守備隊からも戦力を引き抜かれている状態の他の拠点では、兵士たちよりも人数の多い非戦闘員を守り切れない。

 

 つまり、何としても最終防衛ラインで敵を退けなければならなかった。

 

「ただ、別行動すると観測と戦闘を同時に行うことになる。大丈夫か?」

 

『問題ありません。こっちはそういう訓練を何度も受けてるんですよ、同志』

 

「分かった。列車砲を見つけたらすぐ連絡しろ。援護に向かう」

 

『了解(ダー)』

 

 コクピットの中にいるユージーンが、こっちに敬礼をしてからPAK-FAを旋回させた。機体の胴体に搭載されたポッドをこっちへと向けたかと思うと、真っ直ぐに飛行する俺たちの機体からどんどん離れていく。

 

 今の時刻は午前5時50分。離陸した時の空は紺色だったけれど、もう既に太陽が昇り始めており、段々と紺色だった空が蒼く染まりつつあった。

 

 ミサイルも搭載しているとはいえ、機体に搭載しているポッドは重いため、いくら高性能な戦闘機でもこれをぶら下げたまま戦うのは極めて難しい。重りを背負った状態でマラソンに参加するようなものである。

 

 だからといって切り離すわけにもいかないため、敵機と遭遇したらすぐに仲間を呼んで応戦するべきだ。

 

『タクヤ』

 

「どうした?」

 

『列車砲というのは、列車に搭載されている巨大な兵器なのですよね?』

 

「ああ、そうだ。だからでっかい線路が見えたら教えてくれ。それを辿る」

 

 列車砲は極めて強力な兵器だが、非常に使い勝手が悪いため現代では廃れてしまった兵器である。破壊力は戦艦の主砲に匹敵するんだが、それを運用するためには線路を準備しなければならない。

 

 しかも、戦闘機で上空から列車砲を探すのであれば、まず線路を探せばいい。列車砲という事は線路の外を走ることはできないのだから、ただ単に線路を辿るだけで列車砲を見つけることはできるのだ。

 

 ちらりとレーダーを確認する。現時点では辛うじて制空権を死守することに成功したが、ヴリシアの戦いの序盤で制空権を失った吸血鬼たちは、タンプル搭攻撃の前に死に物狂いで制空権を確保しようとするだろう。その直前に航空機で列車砲の索敵をするのだから、これは結構無茶な作戦と言える。

 

 けれども、無茶をするのにはもう慣れてしまった。若き日の親父も当たり前のように無茶をして、ボロボロになりながら帰ってくるような男だったという。母さんはきっと大変だっただろう。

 

 レーダーに敵機の反応がない事を確認してから、ちらりと地上を見下ろしてみる。灰色の砂漠の上にはまだ線路らしきものは見当たらない。不規則に膨らんだちょっとした丘がいくつも連なり、温度の上がり始めた風に表面をひたすら削られ続けているだけだ。

 

 索敵する範囲はタンプル搭とブレスト要塞の中間部と、ブレスト要塞の周辺の2ヵ所だ。前者を”エリアA(アルファ)”と呼び、後者を”エリアB(ブラボー)”と呼ぶことにしている。

 

 タンプル搭の砲撃に投入するのだから、その2つのエリアにいる筈なのだ。ブレスト要塞を陥落させたという事は、その付近にこっちの部隊が進軍しない限りは線路の準備を妨害されることはない。仮に作業が遅れていたり、近代化改修で射程距離を底上げしていたのだとしても、列車砲はブレスト要塞の近くで砲撃命令を待っている筈なのだから。

 

 もう一度キャノピーから砂漠を見下ろしてみると、かなり遠くに戦車の残骸が見えてきた。周囲には砲弾が着弾した跡なのか、砂が抉れている場所や、黒焦げになった金属が転がっている場所も見える。砂塵の中に放置されている戦車の残骸はT-90やT-72B3などだ。ブレスト要塞に攻め込んできた吸血鬼たちを迎え撃つために出撃した戦車たちである。

 

 待っていてくれ、仇は絶対にとる。

 

 数秒だけ目を瞑り、散っていった同志たちに誓う。

 

 砂塵の中にある残骸は、テンプル騎士団の戦車ばかりではない。吸血鬼たちが出撃させたレオパルト2や近代化改修型のマウスも黒焦げになって鎮座しているのが分かる。

 

 ブレスト要塞は陥落する羽目になったが、あっさり陥落したというわけではないようだ。吸血鬼たちの猛攻を受けたが、何とか反撃して大損害を与えてくれたらしい。

 

 ―――――――よくやってくれた、同志諸君。

 

『まもなくブレスト要塞です。対空砲火と航空機に注意を』

 

「了解だ。…………ちょっと高度を落とす」

 

『了解(ダー)』

 

 操縦桿を倒して、機体の高度を下げ始める。

 

 ブレスト要塞は吸血鬼共の橋頭保だ。このまま真っ直ぐに飛行していれば敵に気付かれてしまうだろう。

 

 対空ミサイルや対空砲を回避しながら観測する自信はあるが、さすがに列車砲を発見する前に攻撃されたら難易度が上がってしまう。せめて子供を作るまでは死にたくないので、俺は難易度を可能な限り下げることにした。

 

 確か俺たちがシャール2Cに乗り込んだのはこの辺だった気がする。そう思いながら戦車の残骸たちを見下ろしつつ線路を探していると、コクピットの中に電子音が響き始めた。

 

 舌打ちしながらレーダーを確認する。どうやら敵機に発見された挙句、ミサイルをロックオンするためにレーダー照射を受けているらしい。さすがにブレスト要塞に近付き過ぎたかと思っているうちに、レーダーの中に2発のミサイルの反応が姿を現す。

 

 発見されてしまったという事は、もう高度を下げていても意味はない。むしろ戦車の残骸に激突する危険性があるだけだ。発見されないというメリットがレーダー照射のせいで消え去ってしまった以上、リスクのある低空飛行を続ける意味はない。

 

 操縦桿を引いて高度を上げつつ、ミサイルの飛来する方向を確認。こっちから見て11時方向。中距離用の空対空ミサイルだ。

 

「ラ・ピュセル1、エンゲージ」

 

 回避してそのまま索敵を続ければ、背後に回り込まれて止めを刺される羽目になるのは想像に難くない。敵機の数が少ないならば、ここで撃墜しておいた方がいいかもしれない。

 

 高度を上げている最中に、2発のミサイルが接近してくる。反応が近くなりつつあることを確認してから機体を減速させつつ操縦桿を右へと思い切り倒し、胴体のポッドを青空へと向ける。キャノピーの向こうに灰色の砂漠が広がったのを一瞬だけ見てから、機首を今度は地表に向けて強引に加速。空の中で地上を見つめながら停滞していたPAK-FAのエンジンノズルが一気に炎を吐き出し、機体が急激に加速を始める。

 

 その直後、キャノピーの上―――――――地上から見ればキャノピーの下である――――――――を、2発の中距離型空対空ミサイルが通過していったのが見えた。こっちが減速した隙に撃墜するつもりだったらしく、いきなり地表に向けて急加速したPAK-FAを追うことができなくなってしまったのだ。

 

 攻撃目標を通過してしまったミサイルが飛来してきた方向を睨みつけつつ、機体を元に戻す。

 

『敵機確認。数は1機』

 

「機種は分かるか?」

 

『…………反応がかなり見辛いです。ステルス機かと』

 

「ステルス機…………」

 

 もしかして、ブラドか?

 

 そう思いながらレーダーを確認しようと思った瞬間、操縦桿を倒して高度を上げたPAK-FAの頭上を1機のステルス機が通過していった。

 

 F-22かと思ったが、機体が一回り小さいような気がする。それに機体の後端に取り付けられているエンジンノズルは2基ではなく1基になっている。F-22ならばエンジンノズルは2基の筈だ。

 

「F-35か」

 

 F-35はアメリカが開発したステルス機のうちの1機である。極めて高いステルス性と汎用性を誇る機体であり、機動性も優れている。更に高性能なレーダーまで搭載されているため、遠距離にいる敵機を素早くロックオンしてミサイルを発射する事が可能なのだ。

 

 今のところはあの1機だけらしい。

 

 旋回を終えたF-35が背後に回り込んでくる。旋回して引き離してやろうと思ったが、こっちは観測データを送信するために必要なポッドを積んでいるため、機動性が落ちているのだ。旋回してもすぐに追いつかれてしまうに違いない。

 

 そのまま真っ直ぐに飛び、敵機を誘う。こっちのパイロットは素人だろうと判断したのか、後ろに回り込んだF-35が距離を詰めてくる。

 

 よし。

 

「ステラ、我慢しろよ」

 

『サキュバスの身体は頑丈ですので問題ありません』

 

 ニヤリと笑いながら機体をいきなり減速させつつ、操縦桿を手前に思い切り引いて機首を真上へと向ける。たちまちPAK-FAの速度が一気に落ちたかと思うと、後ろに回り込んでいたF-35が大慌てで機体を旋回させ、まるで背後にいる敵に体当たりしようとしたかのように減速したこっちの機体を回避する。

 

 猛烈なGの奔流に耐えながら、操縦桿を元に戻して機体を増速。今しがたPAK-FAを回避してしまったF-35の背後に回り込み、照準を合わせる。

 

 悪いな、コブラは得意なんだよ。

 

 テンプル騎士団のパイロットたちの4割は、コブラを使うことができるらしい。どうやら俺とケーターがステルス機で一騎討ちした際に使った飛び方を真似し始めたパイロットがいたらしく、段々とコブラを使うことができるパイロットが増えていったという。

 

 あの時戦いを見ていたのはラウラやクランたちだけだった筈なんだが、誰かから聞いたのだろうか。

 

 春季攻勢前の模擬戦でいきなりコブラを使って背後に回り込まれた時はヒヤリとしたよ。その時はこっちもコブラを使って逆に回り込んで撃墜してやったが。

 

 あの時の事を思い出しながら、機関砲の発射スイッチを押す。搭載された30mm機関砲が火を噴いたかと思うと、瞬く間に目の前を飛んでいたF-35の装甲や尾翼が弾け飛び、特徴的なエンジンノズルが黒煙を吐き出し始めた。やがてフラップが千切れ飛んで主翼に亀裂が入り、そのままぐるぐると回転しながら砂漠へと落下していく。

 

 キャノピーが外れ、中から飛び出たパイロットがパラシュートを開く。脱出には成功したようだ。

 

「ブラドじゃないな」

 

 ブラドのやつなら、もっと操縦が上手い筈だ。

 

 砂漠に墜落したF-35の残骸が砂の爆風を生み出したのを確認してから、俺は息を吐いた。

 

 敵機に発見されてしまったという事は、迎撃するために航空部隊が出撃してくるという事だ。おそらくブレスト要塞の飛行場も滑走路を修復し、航空機が飛び立てるようにしているに違いない。

 

 さすがにF-35の群れが襲い掛かってきたら勝ち目がないかもしれない。早く列車砲を見つけて観測した方が良さそうだ。

 

『タクヤ』

 

「どうした?」

 

『線路です』

 

 なに?

 

 ぎょっとしながら、ステラが教えてくれた方向を見つめつつ機体をゆっくりと旋回させる。

 

 灰色の砂漠の真っ只中に、まるで剣で斬りつけられた古傷のように、漆黒の線が伸びていた。産業革命が勃発してからは世界中で普及している列車の線路よりも複雑なその線路は、明らかに普通の列車のために用意された代物ではない。従来の列車よりもはるかに巨大で重い兵器を移動させるためのレールだ。

 

 ということは、この近くにドーラがいるのか…………!?

 

 線路を辿るように進路を変更し、それなりに高度を下げながら進んでいく。もしかしたらもう既にここを通過した後なのではないかと思ったが、蜃気楼の果てに漆黒の塔にも似た巨大な物体が見えた瞬間、俺は息を呑んだ。

 

 あれだろうか。ブレスト要塞を一撃で陥落させた、吸血鬼共の切り札は。

 

 電子音がコクピットの中に響き渡る。けれども俺はあまり進路は変えずに、そのまま直進を続けた。

 

 線路の向こうに鎮座していたのは――――――――やはり、巨大な列車砲だった。

 

 戦車をそのまま巨大化させたようにも見える重厚な車体の上に居座っているのは、あらゆる超弩級戦艦の主砲を凌駕する巨大な砲身。その巨大な砲身から放たれる砲弾がどれほどの破壊力を持っているのかは言うまでもないだろう。

 

 車体の上には地対空ミサイルを搭載したランチャーや、接近する戦闘機を迎撃するための速射砲なども搭載されており、近代化改修を受けていることが分かる。

 

「こいつか…………!」

 

 やっと見つけたぞ。

 

 ドイツが第二次世界大戦で実戦投入した、世界最大の列車砲(ドーラ)を…………!

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 パイロットとコブラ

 

ナタリア「困ったわねぇ…………」

 

タクヤ「どうした?」

 

ナタリア「最近、訓練でコブラをやろうとして失敗するパイロットが増えてるのよ…………。おかげでSu-27が何機も大破しちゃって…………」

 

タクヤ「そ、そうか」

 

ナタリア「みんなタクヤの真似をしてるみたいなんだけど」

 

タクヤ「…………ごめんなさい」

 

 完

 

 

 

 

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