異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ドーラとラーテ

 

『こちらラ・ピュセル1。敵の列車砲を発見』

 

『了解(ダー)。…………先を越されちまったな、ユージーン』

 

 後部座席でポッドのセンサーを操作し、地上に列車砲がいないか確認していたエドワードがそう言った。

 

 団長であるタクヤ・ハヤカワと、円卓の騎士の1人であるステラ・クセルクセスが乗る味方のPAK-FAが、彼らよりも先に攻撃目標を発見してしまったのである。数分前に敵の戦闘機と交戦していたため、発見するのはまだ先だろうと高を括っていたユージーンは、苦笑いしながら操縦桿を横へと倒して機体を旋回させる。

 

 目的は、敵の列車砲を捕捉して観測し、タンプル搭へと観測データを送信する事だ。そうすればタンプル搭でタンプル砲を発射する砲手たちの元へと観測データが届き、命中精度はほぼ百発百中となる。

 

 だが、観測している最中はポッドが搭載されている胴体下部を地表へと向けていなければならないため、かなり無防備になってしまう。敵の攻撃を回避するために宙返りや旋回を行えば、一時的にだがデータの送信が中断されてしまうのだ。

 

 そのため、片方が列車砲を発見した場合はもう片方がサポートしなければならない。

 

 タクヤたちのサポートを行うため、戦闘準備をしつつ機体を旋回させ始めると、後部座席でセンサーを操作していたエドワードが目を見開いた。

 

『待て、ユージーン』

 

「どうした?」

 

『…………4時方向にでかい戦車がいる』

 

「でかい戦車? マウスじゃないのか?」

 

『いや、マウスよりもでかい。確認させてくれ』

 

「分かった」

 

 ユージーンとエドワードは、ヴリシアでの戦いにも参加していた。当時はスーパーハインドのパイロットをしていたのだが、戦いが終わってからは戦闘機のパイロットになるための訓練を受けていたのである。

 

 ヴリシアの戦いにも参加していたため、彼らは猛威を振るう近代化改修型マウスの群れを見ていたのだ。この春季攻勢にもかなりの数のマウスが実戦投入されており、もう既にブレスト要塞の守備隊へと牙を剥いている。

 

 今回の戦いでは装甲が厚い上に火力も極めて高いマウスを撃破するため、より大口径の152mm砲を搭載したチョールヌイ・オリョールや、152mm連装滑腔砲を搭載したシャール2Cが投入されている。そのためヴリシアの戦いのように敵の超重戦車に蹂躙されずに済んでいるものの、もしマウスよりも大型の超重戦車が進撃しているというのであれば、そちらも潰しておく必要があった。

 

 後部座席のすぐ前に設置されたモニターを睨みつけながら、エドワードは深呼吸する。

 

 モニターに映っているその超重戦車は、明らかにマウスよりも巨大であった。通常の戦車を踏みつぶせるほど巨大なキャタピラが搭載された車体の上には、接近してくる航空機を叩き落すための地対空ミサイルのキャニスターや、大型のガトリング機関砲であるCIWSが搭載されているのが分かる。

 

 分厚い装甲で覆われた車体の上に鎮座しているのは、まるで戦艦の砲塔を取り外し、巨大な車体の上に搭載したような巨大な砲塔であった。正面からは太い砲身が2本も伸びており、砲塔の上にも対空用のCIWSが搭載されているのが見える。

 

『あれは…………くそ、ラーテだ』

 

「ラーテ…………!? あの化け物か!」

 

 砂漠の真っ只中を進んでいるのは、マウスよりも更に巨大な超重戦車であった。

 

 シャルンホルスト級戦艦の主砲を改造したものを搭載した、圧倒的な火力を誇る兵器である。第二次世界大戦で実戦投入されることのなかったその兵器を、吸血鬼たちはヴリシアの戦いで何両も投入し、モリガン・カンパニーやテンプル騎士団の部隊に大損害を与えている。

 

 その時の生き残りなのか、吸血鬼たちのエンブレムが描かれた1両のラーテが、数両のレオパルト2たちに護衛されながら砂漠の真っ只中を進軍しているのである。

 

「潰すか?」

 

『ああ、出来るなら撃破したいところだが…………対戦車ミサイルは積んでないよな?』

 

「くそったれ…………!」

 

 すでに、ラ・ピュセル1がドーラを捕捉して観測を始めている。普通ならば自分たちもそこへと向かい、観測するラ・ピュセル1を護衛しなければならない。

 

 しかし、ラ・ピュセル2の眼下では、ヴリシアの戦いで戦車部隊に大損害を与えた超重戦車の生き残りが進軍しているのである。タンプル搭を砲撃する準備のために移動しているのであれば、砲撃される前に撃破してしまうのが望ましい。

 

『タンプル砲を使うか?』

 

「だが、タンプル砲は列車砲を――――――――」

 

『落ち着け。タンプル砲は、5発までなら連続で砲撃できる。俺たちが正確に観測して一撃で仕留められれば問題ないだろう?』

 

「…………やれるのか?」

 

『任せろ』

 

 モニターを睨みつけたまま、エドワードは首を縦に振った。

 

 ヴリシアの戦いでは、戦艦『ジャック・ド・モレー』の艦砲射撃で複数のラーテの撃破に成功している。戦車の主砲で貫通することは不可能だったが、さすがに戦艦の主砲に耐えることはできないのだろう。

 

 ジャック・ド・モレーの主砲は3連装40cm砲である。テンプル騎士団の切り札であるタンプル砲の口径は、ジャック・ド・モレーの主砲の5倍である”200cm”。保護カプセルに搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射するために大型化したのだが、通常の砲弾の破壊力は超弩級戦艦を一撃で轟沈させられるほどだ。

 

 ラーテを一撃で木っ端微塵にできるのは、火を見るよりも明らかであった。

 

 しかし、まず最初に砲撃を叩き込まなければならないのは列車砲(ドーラ)だろう。ブレスト要塞を一撃で壊滅させた巨大な列車砲がタンプル搭へと砲撃すれば、タンプル搭が要塞の二の舞になるのは想像に難くない。

 

 つまりラーテに砲撃を叩き込むために観測を続けても、ラーテへの砲撃は”後回し”にされてしまうのである。いくら連続で砲撃できるとはいえ、タンプル砲は砲撃する度に32基の薬室の中にある炸薬を爆発させるため、砲身を冷却してから砲撃しなければならない。タンプル砲が列車砲を仕留め、砲身の冷却を終えて次の砲撃を実施するまで、2人はラーテの対空砲火をひたすら躱しながら観測を続けなければならないのだ。

 

「ラ・ピュセル2よりラ・ピュセル1へ」

 

『どうした?』

 

「ラーテです」

 

『くそ…………ヴリシアの生き残りか…………!』

 

 おそらく、ラーテもブレスト要塞への砲撃に投入されたのだろう。列車砲のように投入前にレールを準備する必要がないため、列車砲と比べるとラーテのような超重戦車の方が使い勝手は良いのだ。

 

 一番最初に砲撃を行い、ブレスト要塞の滑走路を破壊して航空隊を無力化したのはあのラーテに違いない。戦艦の主砲を改造したものを搭載しているのだから、要塞の司令官たちはラーテによる砲撃ではなく、河に侵入した戦艦からの艦砲射撃と勘違いしたのだろう。

 

 タンプル搭の飛行場は地下にあるが、だからと言ってラーテによる砲撃を許すのは論外だ。タンプル搭には兵士たちの家族も避難しているのだから。

 

「同志、ラーテは我々が潰します。後回しで構いませんからタンプル砲の使用許可を」

 

『…………了解した。死ぬなよ』

 

「任せてください」

 

 タンプル砲はテンプル騎士団が保有する決戦兵器である。

 

 使用するには円卓の騎士が全員承認しなければならず、1人でも使用を拒否すればあっという間に否決されてしまう仕組みになっている。とはいえもう既に円卓の騎士は全員タンプル砲の使用を承認しているため、その攻撃目標を決めるのはテンプル騎士団の団長であるタクヤの役目となっているのだ。

 

「エドワード、観測開始だ」

 

『分かった。…………くそ、ラーテよりレーダー照射。地対空ミサイルが来るぞ!』

 

「回避する!」

 

 コクピット内に響き渡る電子音の中でそう言ったユージーンは、操縦桿を倒してPAK-FAを急旋回させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターの向こうで、天空へと向けられていた巨大な砲身がゆっくりと動き出す。折り畳まれていた薬室たちが砲身へと接続されていく度に、映像の脇に表示されている薬室のマークが白から緑に変わっていく。

 

 タンプル砲の映像を睨みつけながら、ナタリアは唇を噛み締めていた。

 

 観測のためにタクヤが指令室を離れている上に、副団長であるラウラが負傷のせいで医務室にいるため、タンプル砲による砲撃を指揮を執るのは参謀総長を担当するナタリアの役目となっている。

 

 予定通りであれば、ドーラを観測するタクヤをユージーンたちが護衛し、受信した観測データを元にして照準を合わせて砲撃することになっていた。いくら巨大な列車砲とはいえ、200cm多薬室ガンランチャーともいえるタンプル砲から放たれる砲弾が直撃すれば、一撃で木っ端微塵になるのは明らかである。

 

 しかし、砲撃しなければならない標的がもう1つ増えてしまった。

 

(ヴリシアの生き残りの超重戦車が投入されているなんて…………)

 

 最終防衛ラインでの戦闘で、ナタリアもその超重戦車を見た。

 

 戦艦の主砲を搭載し、必死に応戦する戦車たちを主砲どころか副砲で薙ぎ払いながら前進して、主砲で数両の戦車をまとめて吹き飛ばす怪物を。

 

 そのヴリシアの戦いで投入された超重戦車(ラーテ)の生き残りが、タンプル搭を砲撃するために前進していたというのである。

 

 ヴリシアの戦いに投入されたラーテはジャック・ド・モレーの艦砲射撃で辛うじて撃破することができたものの、ジャック・ド・モレーは敵艦隊と死闘を繰り広げている真っ最中であり、艦砲射撃のために河まで戻すわけにはいかない。しかもラーテには複数の対空用の武装が搭載されているため、迂闊に攻撃機を派遣するわけにもいかなかった。

 

 隣に立っているクランが「落ち着きなさい、ナタリアちゃん」と言いながら、彼女の肩を優しく叩いた。

 

 普段のクランは明るい少女だが、戦闘中は冷静な指揮官となるのである。

 

「まず最初にドーラを潰すべきよ」

 

「そうね…………ありがとう、クランちゃん」

 

 規格帽をかぶり直しながら深呼吸し、オペレーターたちに指示を出す。

 

「タンプル砲、砲撃用意。第一射はドーラ。敵の列車砲を撃破してから超重戦車を砲撃するわ。弾頭はMOAB弾頭!」

 

「了解(ダー)!」

 

「タンプル砲、砲撃用意! 目標、敵巨大列車砲!」

 

「MOAB弾頭、装填!」

 

「冷却準備よし。各薬室、異常なし!」

 

「逆流防止弁も正常!」

 

「データ受信準備完了しました、同志ナタリア。あとは観測データを受信すれば砲撃可能です」

 

 あとは、列車砲とラーテの上空を飛行しているタクヤとユージーンたちが観測データを送信してくれれば、照準を合わせて砲撃することができるのだ。

 

「警報を鳴らして。検問所のゲートを開放して、各所の隔壁を閉鎖。住民たちを第3居住区から下の階層に避難させて」

 

「はっ!」

 

 圧倒的な射程距離と破壊力を誇る切り札の問題点は、下手をすれば要塞の設備にもダメージを与えてしまいかねないほど強力な衝撃波を砲撃する度に発する事だろう。

 

 衝撃波で検問所のゲートが吹っ飛んでしまう可能性があるため、戦車部隊が出入りする検問所のゲートは開放しておく必要があるのだ。戦車の出入り口が、衝撃波の奔流の”逃げ道”となるのである。

 

 命令を受けた兵士が警報を鳴らし、住民たちに避難するように指示を出し始めたのを確認したナタリアは、モニターの向こうで鳴動するタンプル砲を見つめながら、無事に仲間が帰ってきますようにと祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急旋回するPAK-FAを掠めた地対空ミサイルが逸れていき、青空の中で砕け散る。真っ白な煙の終着点で膨らんだ爆風を置き去りにしながら加速し、更に方向転換してミサイルを回避する。

 

 ちらりとキャノピーの脇に見える巨大な列車砲の車体を見下ろしながら、舌打ちをする。

 

 巨大な砲身が伸びている車体には、これでもかというほどイージス艦の速射砲やCIWSが搭載されていた。しかも地対空ミサイルのキャニスターまで搭載されているため、先ほどからひっきりなしにレーダー照射を受け、短距離型の対空ミサイルで攻撃され続けていた。

 

 まるで敵のイージス艦の頭上をひたすら飛び回っているような状態である。

 

 電子音が消えたかと思えば、すぐに次の電子音が産声を上げる。その度に急旋回をしたりフレアをばら撒いて回避しなければならないので、全くポッドのセンサーを列車砲へと向けられない。

 

 ポッドのセンサー部は180度旋回させることは可能だが、対象がその旋回可能な範囲外になってしまうとデータの送信を一時的に停止してしまう。そのため、観測の際には胴体の下部を対象へと向け続けなければならない。

 

「ステラ、データは!?」

 

『現在11%』

 

「くそっ…………!」

 

 全くデータの送信が進んでいない。

 

 中途半端なデータを送信すれば、虎の子のタンプル砲が標的に命中することはなくなるだろう。まず最初にこの列車砲を砲撃で撃破する必要があるため、外せばユージーンたちはドーラを撃破するまで攻撃を回避し続けなければならない。

 

 歯を食いしばりながら操縦桿を倒して急降下。またしてもミサイルを回避しつつ、列車砲を睨みつける。超弩級戦艦の主砲を遥かに上回る大きさの砲身には、ヴリシア語で『カイザー・レリエル砲』と描かれているのが見えた。

 

 どうやら虎の子のドーラを後退させるつもりらしく、列車砲を牽引していた機関車たちが後退を始めていた。

 

 逃がしてたまるか。

 

 高度を下げつつ急旋回。PAK-FAが纏っていた衝撃波が灰色の砂を直撃し、火柱にも似た砂の柱を砂漠に出現させる。

 

 列車砲を移動させるためには機関車が必要だ。つまり機関車を破壊されれば、列車砲を移動させることは不可能になる。可能ならばデータを送信しつつ機関車を破壊したいところだ。とはいえ対空用のミサイルしか搭載していないので、破壊するには機関砲を叩き込むしかない。

 

『データ送信再開』

 

 ちらりとデータの送信状況を確認。今はまだ12%か。

 

 速射砲から立て続けに放たれる炸裂弾が、砂漠の表面や青空で炸裂する。破片が機体に突き刺さる音が聞こえてきたが、機体は殆ど損傷していないようだ。

 

 ドーラを動かしている機関車に照準を合わせる。機関車の後方には対空用の機関砲を搭載した車両も連結されているらしく、搭載されているガトリング機関砲がゆっくりとこちらへと旋回する。

 

 下手したら蜂の巣だな。

 

 進路をそのままにしつつ、こっちも機関車に照準を合わせる。

 

 悪いが、子供を作ってからちゃんと育てて、孫たちに看取られるまで死ぬつもりはないんだよ…………!

 

 機体を一気に加速させながら、機関砲の発射スイッチを押した。機首に搭載された30mm機関砲が火を噴いたかと思うと、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の向こうを走行していた漆黒の機関車の表面が瞬く間に食い破られていき、敵のガトリング機関砲が火を噴くよりも先に、機関車の方が火達磨になった。

 

 そのまま機首を少しばかり右にずらし、ついでにそのガトリング機関砲を搭載している車両も滅茶苦茶にしておく。

 

 少しばかり機首を上げて高度を上げ、減速しつつ今度は反対側の機関車を狙う。反対側にいる”相方”がやられたせいで速度は一気に落ちていたから、今度は狙いやすい筈だ。

 

「あばよ」

 

 トリガーを引いた直後、反対側で必死にドーラを逃がそうとしていた機関車も、相方と同じ運命を辿ることになった。30mmの砲弾にあっという間に表面を食い破られて木っ端微塵になっていき、火達磨と化す。巨大な列車砲を動かしていた機関車がどちらも火達磨になったせいで、逃げようとしていた列車砲(カイザー・レリエル砲)のスピードが段々と遅くなっていった。

 

 終わりだな。

 

 このまま対空兵器も潰すべきだろうかと思いつつ高度を上げると、電子音がコクピットの中に響き渡った。

 

 また地対空ミサイルにロックオンされたのかと思ったが、どうやらレーダー照射を受けているのは後方の列車砲からではなく、真正面かららしい。

 

 ぎょっとしながら旋回し、レーダーを確認する。敵機の反応はなかったが、ステルス機が接近していたのだろうか。

 

 フレアをばら撒きつつ旋回して、2発の中距離型空対空ミサイルを回避。高度をさらに上げつつ操縦桿を倒し、ミサイルが飛来した方向へと機首を向ける。

 

 またF-35か?

 

 ミサイルが飛来した方向に航空機の反応が見えた。遠距離で捕捉できなかったという事は、どうやら敵機もステルス機のようだ。こっちが空対空ミサイルの発射準備をすると、編隊を組みながら飛行していた5機の戦闘機たちは唐突に散開し、青空の中に衝撃波を巻き散らしていく。

 

 どうやら敵機はF-35Aらしいが、中央を飛んでいた隊長の機体は形状が違う。

 

 形状はF-22のようだが、尾翼が見当たらない。その代わりに垂直尾翼がやや斜めに搭載されており、炎を噴き出しているエンジンノズルが2基も搭載されているのが見える。

 

「あれは…………!」

 

 ブレスト要塞上空でも戦った機体だ。

 

 ミサイルの発射準備をしながら、俺はコクピットの中で笑った。

 

 俺と決着をつけるためにステルス機に乗ってきてくれたのか。

 

「―――――――決着をつけようぜ、ブラド」

 

 F-35Aと一緒に襲撃してきた灰色のYF-23を睨みつけながら、俺はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

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