異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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家族と兵士

 

 蜂の巣にされた灰色のラファールが、主翼やエンジンから煙を吐き出して落下していく。夜空に刻み付けられた黒煙の柱に身に纏う衝撃波で風穴を開けた純白のグリペンが、後方から発射されたミサイルを急旋回であっさりと回避し、逆にそのミサイルを放ったラファールの背後へと回り込んでいく。

 

 純白のグリペンの主翼に描かれているのは、スオミ支部のエンブレムであった。

 

 敵の航空隊の数が減っているとはいえ、その純白の機体には、未だに1つも傷がついていない。灰色の砂でほんの少しばかり汚れているが、まるで一流の整備兵たちによってメンテナンスを受けた直後のように、弾丸を叩き込まれた痕どころか、撃破した機体の破片がぶつかったような痕すらないのである。

 

 その機体を操っているのは――――――――スオミ支部が誇る、”無傷の撃墜王”であった。

 

 純白のグリペンに回り込まれたラファールが、慌てふためきつつ急旋回する。しかし背後に回り込んだグリペンを操るイッルは同じように容易く急旋回しつつレティクルを覗き込むと、機関砲の発射スイッチを押した。

 

 機首から放たれた砲弾が、機体の後部に並んでいるラファールのエンジンノズルの間を直撃する。エンジンノズルがひしゃげた瞬間、急旋回して何とか”無傷の撃墜王”を引き離そうとしていたラファールががくんと高度を落とし、先ほど撃墜された機体のようにそのまま墜落していく。

 

 コクピットからパイロットが飛び出し、灰色のパラシュートを開いて降下していくのを一瞥したイッルは、すぐに別の標的を探し始めた。

 

 タンプル砲による地対空キャニスター弾の先制攻撃によって敵の航空隊はすでに大損害を被っていたとはいえ、吸血鬼たちの最期の攻撃は熾烈としか言いようがなかった。この攻撃が失敗して後退する羽目になれば、この砂漠へと向かっている大部隊に包囲されて殲滅されてしまうのが関の山である。すでに大損害を被っている上に包囲されて退路まで失えば、吸血鬼たちはこの世界最強のモリガン・カンパニーの大部隊に嬲り殺しにされるしかないのだ。

 

 そうなれば、もちろんレリエル・クロフォードを復活させることもできない。

 

 だからこそ、吸血鬼の兵士たちは必死だった。この戦いで何としてもテンプル騎士団だけは打ち破らなければならないのだから。

 

 敵の航空隊の中には、タンプル砲の地対空キャニスター弾から生れ落ちた無数の炸裂弾のうちの数発が被弾し、戦線を離脱しなければならないほど損傷している状態のステルス機も見受けられる。垂直尾翼の一部が欠け、フラップやエンジンノズルが歪んだ状態で戦場へと突入した戦闘機のパイロットたちが、せめてミサイルだけでも発射してテンプル騎士団に損害を与えようとしているのだ。

 

 逆に発射された空対空ミサイルを、損傷していたせいで回避できずに喰らってしまうF-22を見下ろしながら、イッルは息を呑んだ。

 

(吸血鬼たちの執念か…………)

 

 この最後の攻撃に参加している吸血鬼たちは、まさに死に物狂いであった。

 

 モリガン・カンパニーの本隊が合流する前にこの最終防衛ラインを突破し、タンプル搭を占拠しなければ勝機はないのだから。

 

 もし仮にこの戦いに敗北すれば、彼らはもう二度と部隊を再編制して攻撃することができなくなってしまうだろう。吸血鬼は人類の中でも極めて強力な種族であり、弱点で攻撃されない限り再生することができるのだが、大昔の戦争で大半の吸血鬼たちが命を落としているため、極めて数が少ないのである。

 

 つまり吸血鬼たちにとっては、同胞が1人死ぬだけでも大損害という事だ。

 

 キャノピーの上で、深紅の爆炎が煌く。黒煙へと変貌した爆炎の中から落下してきたのは、胴体を捥ぎ取られたPAK-FAの機首だった。亀裂の入ったキャノピーの向こうにいる血まみれのパイロットを見つめると同時に、イッルは反射的に機体を減速させつつ機首を天空へと向ける。

 

 瞬く間に灰色の大地がキャノピーから消え失せ、レティクルやキャノピーの向こうが星空で埋め尽くされる。変貌した景色の向こうから真っ直ぐに突っ込んでくるのは、今しがた墜落していったPAK-FAを撃墜した1機のF-22であった。

 

 ミサイルのロックオンが間に合わないと判断したのか、急接近してくるF-22から無数の砲弾が飛来する。

 

 しかし、イッルはまだ機関砲を発射せずに、そのまま直進することにした。

 

(多分当たらないな)

 

 今すぐ発射したとしても、当たらない。

 

 もう少し距離を詰めれば、数発の機関砲で敵機を撃墜できるのだ。

 

 機関砲の群れの中を直進しつつ、レティクルの向こうに灰色に塗装されたステルス機の機首が見えたのを確認したイッルは、息を吐いてから機関砲の発射スイッチを押した。

 

 真正面から突っ込んでくるF-22のコクピットに、イッルの放った機関砲のうちの一発が飛び込む。キャノピーがあっという間に割れ、ガラスの破片とパイロットの肉片を巻き散らしたかと思うと、灰色のF-22がぐらりと揺れ、そのままゆっくりと右へ旋回してイッルのグリペンを躱そうとしているかのように落ちていく。

 

 キャノピーに被弾したF-22とすれ違ったイッルのすぐ近くを、味方の純白のビゲンが通過していった。スオミ支部のエンブレムが描かれたそのビゲンはテンプル騎士団のSu-35の背後に回り込んだラファールに向けてミサイルを放つが、ロックオンされたラファールはすぐに攻撃を中止してフレアをばら撒きつつ急旋回。フレアの雨の中で軌道が曲がったミサイルを置き去りにしたラファールが、そのビゲンを仕留めるために急旋回を始める。

 

 敵のパイロットが味方のビゲンに狙いを定めたおかげで、そのラファールは隙だらけだった。

 

 狙われている味方のビゲンも、イッルが背後に回りやすいようにわざと隙だらけとしか言いようがない飛び方をしているらしく、背後に回り込んでみろと言わんばかりに真っ直ぐ飛んでいる。ラファールはお構いなしにビゲンの背後へと回り込み、ロックオンを始めたが―――――――主翼にぶら下げれられたミサイルが解き放たれるよりも先に、後方から放たれた数発の砲弾がラファールの背中に突き刺さっていた。

 

 黒煙が噴き出した直後、ラファールが火達磨になりながらぐるぐると回転を始める。

 

『助かったよ、イッル』

 

 ラファールの囮になってくれたビゲンのパイロットが、機体を減速させてイッルの隣までやって来る。一緒に里を飛竜の群れから守ってきたパイロットに向かって手を振ったイッルは、操縦桿を倒して別の標的を探し始める。

 

 その時、ラファールに回り込まれていたタンプル搭のSu-27が、急に機首を天空へと向けながら減速を始めた。いきなり目の前にいた標的が減速し始めたせいでぎょっとしたのか、後方で機関砲を叩き込む準備をしていたラファールが大慌てで回避するが、そのラファールが体勢を立て直して離脱しようとした頃には、今しがた減速して背後へと回り込んだSu-27が放った機関砲の餌食となっていた。

 

(コブラ…………)

 

 タンプル搭に所属する航空隊の中には、コブラを使うことができるパイロットが多いという。空対空ミサイルで敵機を撃墜する事が当たり前となっているにもかかわらず、テンプル騎士団のパイロットたちが得意としているのはドッグファイトなのである。

 

 その時、今しがた囮になってくれた味方のビゲンを狙おうとしていたF-35Aのエンジンノズルに、後方から飛来した1発のミサイルが飛び込んだ。エンジンノズルから吐き出すにしてはあまりにも大きすぎる炎の塊を吐き出したF-35Aが、まるでその炎の塊に侵食されているかのように段々と炎に包まれていき、ぐるぐると回転を始める。

 

 やがて歪んだ尾翼や垂直尾翼が零れ落ち、無数の破片を巻き散らしながら墜落していった。

 

 ミサイルが残した白煙と、墜落した敵機の黒煙の間を突き抜けていくのは、もう1機のグリペンである。この戦いに投入されている虎の子のグリペンは2機のみであり、もう1機のグリペンはスオミ支部が誇るもう1人のエースパイロットに与えられている。

 

「ニパも無事みたいだね」

 

 たった今敵のステルス機を撃墜した戦友が、テンプル騎士団に入団する前に自分の乗っていた飛竜に風邪をうつされた時の事を思い出したイッルは、飛び去っていくニパのグリペンを見つめながら笑っていた。

 

 飛び方はイッルよりもはるかに荒いものの、彼ならばきっと敵の航空隊を圧倒してくれるだろう。

 

 いつも一緒に戦っていた幼馴染を見守ったイッルは、「頑張れよ、ニパ」と言ってから機体を旋回させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この異世界で、現代兵器で武装した転生者が率いる組織同士が初めて激突したのは、今から15年前にファルリュー島で勃発した”第一次転生者戦争”であるという。

 

 ネイリンゲンを壊滅させた勇者を討伐するために、親父が李風さんたちと共に勇者たちの本拠地に攻撃を仕掛けたのだ。10000人の守備隊に戦いを挑んだのは、まだ錬度が低いとしか言いようがなかった300人の海兵たちで、親父が率いていた連合軍が不利なのは火を見るよりも明らかであった。

 

 しかし、ネイリンゲンで多くの仲間を失った彼らの指揮は非常に高く、信じられないことに守備隊が構築した防衛ラインを次々に突破し、ついに勇者の討伐に成功してしまったという。

 

 そして俺たちが経験した第二次転生者戦争は、その戦争を超えた。

 

 戦場と化した大国の帝都で、俺たちは地獄を目にしてきたのだ。

 

 雄叫びを上げながら塹壕の中で殴り合う兵士たち。足を撃たれて動けなくなった兵士を、容赦なくキャタピラで踏みつぶしていく戦車の群れ。その地獄の上空では、戦闘機のミサイルで木っ端微塵になった機体の残骸と共に、黒焦げになったパイロットの肉片が大空にばら撒かれていく。

 

 あの時の光景がフラッシュバックする。この春季攻勢(カイザーシュラハト)は第二次転生者戦争と比べると規模は小さいものの、繰り広げられている死闘は地獄としか言いようがなかった。

 

 俺たちは、再び地獄の中へと飛び込む羽目になったのだ。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

「!」

 

 AK-12のフルオート射撃で吸血鬼の兵士を蜂の巣にした俺に向かって、スコップを振り上げた兵士が雄叫びを上げながら突っ込んでくる。味方の戦車の砲撃で片腕を捥ぎ取られてしまったのか、左腕は肩から先がない。腕どころか左側の脇腹まで抉られたらしく、先端の折れた肋骨や内臓らしきピンク色の肉があらわになっていた。

 

 雄叫びを上げていることを除けば、ゾンビを彷彿とさせる姿である。

 

 痛覚が麻痺しているのか、その吸血鬼の兵士は他の強襲殲滅兵が放った弾丸で胸板を貫かれているにもかかわらず、口から血を吐き出しながら突っ込んできやがった。

 

 反射的にAK-12を前に突き出し、振り下ろされたスコップを受け止める。そのまま吸血鬼がスコップを強引に押し込んでくるが、鍔迫り合いに付き合うつもりはない。第一、鍔迫り合いは近接武器でやるものだ。AK-12は弾丸を放つための武器なのだから、こんな戦い方は全く想定していない。

 

 ホロサイトが割れたらどうするんだ!

 

 尻尾をその兵士のアキレス腱に突き刺し、体勢を崩す。痛覚が麻痺しているとはいえ、アキレス腱を切断されればそのままスコップを押し込むことは不可能だろう。突き刺した尻尾を引き抜く頃には雄叫びを上げていた吸血鬼の身体ががくんとよろめき、スコップからも力が抜けていた。

 

 その隙にAK-12を押し返して兵士を突き飛ばし、起き上がる前にフルオート射撃をお見舞いする。脇腹から覗いていた内臓に飛び込んだ弾丸がその敵兵に止めを刺したらしく、スコップを握っていた兵士は最後に内ポケットに入っている何かを取り出そうとしながら動かなくなる。

 

「はぁっ、はぁっ…………!」

 

 マガジンを交換しながら、俺はその仕留めた敵兵の軍服の内ポケットの中身を見てみることにした。焦げた破片と血がこれでもかというほど付着した軍服の内ポケットの中に入っている物を掴み取り、付着している血を拭き取りながら見下ろす。

 

 今しがた仕留めた兵士の軍服の中に入っていたのは、一枚の写真だった。

 

 この世界ではまだカメラが発明されたばかりであり、白黒の写真しか存在しない。前世の世界のようなカラー写真は未だに発明されていないのである。

 

 その白黒の写真に写っていたのは―――――――スーツ姿の男性と、お腹の大きな女性だった。

 

「…………」

 

 お腹の大きな女性は、奥さんなのだろうか。

 

 この兵士は、この女性のお腹にいる子供の父親だったのだろうか。

 

 微笑んでいる女性の隣に立っているスーツ姿の男性の顔を見てから、もう動かなくなった敵兵の顔を見下ろす。飛び散った自分の肉片と鮮血のせいで真っ赤に汚れていたけれど、この写真に写っているスーツ姿の男性と同じ顔だった。妻のお腹の中にいる子供に会うことができずにあの世へと逝かなければならなくなったことが悔しいのか、歯を食いしばったまま、目を見開いて倒れている。

 

 写真を自分の防護服で拭き取り、静かにその兵士のポケットの中へと戻した。見開いたままになっている眼を静かに閉じさせてから、”敵兵(父親)”の亡骸の傍らから走り出す。

 

 ―――――――同じじゃないか。

 

 銃剣を展開したアサルトライフルを構え、LMGをひたすらぶっぱなし続けている敵兵の群れに突撃しながら絶叫する。

 

 ―――――――敵兵たちも、同じじゃないか。

 

 俺たちから見ればこいつらはクソ野郎だ。毒ガスを使って仲間を何人も殺した怨敵でしかない。

 

 けれども彼らから見れば、俺たちがクソ野郎なのだ。

 

 自分たちの種族を救うために、彼らも戦っているのである。

 

 外殻でMG3から凄まじい勢いで放たれる7.62mm弾をことごとく弾き飛ばしながら肉薄し、スパイク型の銃剣でLMGの射手の喉元を貫く。銃剣を引き抜こうとしてもがく敵兵に至近距離で7.62mm弾のセミオート射撃をお見舞いして止めを刺しつつ、グレネードランチャーのグリップから離した左手をハンドガンのホルスターの中へと伸ばし、PL-14を引き抜く。

 

 セレクターレバーをフルオートに切り替えながら、今しがた串刺しにした敵兵の傍らで7.62mm弾のベルトを握っていた敵兵を蜂の巣にする。大慌てでコルトM1911A1を引き抜こうとした敵兵の肉体があっという間に無数の9mm弾に引き裂かれ、ズタズタになっていく。

 

 どちらも若い兵士だった。

 

 この2人にも、家族がいたのだろうか。

 

 PL-14のマガジンを取り外し、敵兵の死体から銃剣付きのAK-12を引き抜くよりも先にPL-14のマガジンを交換する。フルオート射撃ができるように改造したPL-14をホルスターの中に戻してからアサルトライフルを引っこ抜き、俺は歯を食いしばった。

 

「何なんだよ、ちくしょう…………ッ!!」

 

 セレクターレバーを3点バーストに切り替え、敵兵へと向けてぶっ放す。

 

 その時、後退していく1両のレオパルトがこちらへと砲塔を旋回させた。ぎょっとしながら横へとジャンプした直後、120mm滑腔砲の砲口から飛び出た1発の多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)がすぐ近くに着弾し、爆風と破片が襲い掛かってきた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ど、同志!」

 

「くそ、団長が…………! おい、あの戦車を仕留めろッ!!」

 

 硬化するよりも先に、破片が身体に突き刺さったらしい。

 

 胸板や右足の太腿から激痛がする。激痛を発している場所を睨みつけると、小さな黒い破片が身体に突き刺さっているのが見えた。それほど大きな破片が突き刺さっているわけではないらしい。

 

 歯を食いしばりながら強引に破片を引き抜く。肉と皮膚もほんの少しばかり抉れたけれど、エリクサーを飲めばすぐに治療できるだろう。

 

 落としてしまったAK-12を拾い上げ、腰の後ろに下げてから、俺は今しがた砲撃をプレゼントしてくれたレオパルトに向けて突っ走る。

 

 左手でテルミット・ナイフを引き抜くと同時に、主砲同軸に搭載された機関銃が火を噴いた。灰色の砂漠を照らし出すマズルフラッシュの中から飛来するのは、魔物の堅牢な外殻を貫通するほどの貫通力を誇る、大口径の7.62mm弾たち。

 

 外殻で弾丸を弾き飛ばし、左手のナイフで可能な限り7.62mm弾を両断しながら、後退しているレオパルトに肉薄する。複合装甲で覆われた正面装甲をよじ登ってから、装備している刃物の切れ味を劇的に強化する巨躯解体(ブッチャー・タイム)を発動。一気に切れ味が強化されたてテルミット・ナイフの刀身を、砲口から煙を吐き出している120mm滑腔砲の砲身へと振り下ろす。

 

 刀身が砲身に触れた途端、まるで金属が削れるような音が一瞬だけ聞こえた。鼓膜へと流れ込んだその音が残響と化すと同時に火花が散り、鉄の溶ける悪臭が鼻孔へと流れ込んでくる。

 

 ナイフを振り下ろしていた左腕が下がったかと思うと、ごとん、と正面装甲に金属の塊がぶつかるような音が聞こえてきた。

 

 後退していくレオパルトの車体から、切断された120mm滑腔砲の砲身が零れ落ちる。

 

『く、くそ、この化け物めぇッ!!』

 

 砲撃が不可能になったレオパルトの砲塔から、車長と思われる吸血鬼の兵士が躍り出た。懐からコルトM1911A1を引き抜きながら発砲してくるが、サラマンダーを上回る防御力を誇るキメラの外殻を撃ち抜けるわけがない。

 

 弾丸が着弾する衝撃を感じながら、俺は手榴弾の安全ピンを抜き、その車長へと投げつけた。身を乗り出している車長とハッチの隙間から車内へと転がり込んだ手榴弾が、ことん、と小さな音を奏でたのを聞いた瞬間、ぎょっとしながらこっちを睨みつけている車長を一瞥してから、レオパルトの車体から飛び降りる。

 

 ズドン、とレオパルトの車内から爆音が聞こえてくると同時に、後退していた戦車が動かなくなった。

 

「…………」

 

 吸血鬼たちから見れば、俺たちは彼らを虐げるクソ野郎かもしれない。

 

 けれども俺たちは、この世界で虐げられている奴隷たちを守らなければならないのだ。ここで彼らを迎え撃たなければ、保護した奴隷たちや兵士たちの家族が彼らに虐げられることになるのだから。

 

「あれは…………?」

 

 後退していく敵部隊を睨みつけたその時、俺はいつの間にか巨大な怪物が空に居座っていたことに気付いた。

 

 一見すると前世の世界で何度も目にした旅客機に見えるかもしれない。けれどもその怪物の胴体は明らかに空港にいる旅客機よりもがっちりとしていて、巨大な主翼の下にはかなり巨大なエンジンが6基もエンジンが居座っていた。

 

 兵士たちが死闘を繰り広げている戦場の上空に姿を現したのは――――――――ソ連が開発した、『An-225ムリーヤ』と呼ばれる超大型輸送機の編隊であった。

 

 

 

 

 


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