異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
テンプル騎士団艦隊旗艦の巨体が、激震する。
CICの中に居座る機材が更に大きな電子音を発し、船体に敵の攻撃が命中したということを告げる。その表示を目にした乗組員たちが目を見開き、指揮を執るブルシーロフ艦長に報告する。
テンプル騎士団艦隊の先頭を進むジャック・ド・モレーは、先ほどから敵艦隊の集中攻撃によって損傷を繰り返していた。丁字戦法を敢行している敵のビスマルク級戦艦3隻による38cm砲の集中砲火を浴び、後方のアーレイ・バーク級から飛来するトマホークやハープーンの強烈な攻撃で船体に大穴を開けられ、火達磨になっても、テンプル騎士団艦隊の旗艦はまだ戦いを続けていた。
すでに甲板の上にずらりと並んでいた対艦ミサイルのキャニスターはほぼ全てが被弾した際に破壊されてしまっており、ミサイルを迎撃するために用意されたグブカやコールチクたちも何基か破壊されてしまっており、防御力は大きく低下してしまっている。更に浸水も発生しており、テンプル騎士団の保有する戦艦の中では最も巨大なジャック・ド・モレーの船体が、やや右舷へと傾斜しているのが分かる。
「右舷にハープーン着弾! 更に浸水発生! …………くそ、現在傾斜23度!」
「排水急げ! 間に合わんなら左舷に注水する! 火災はどうなっている!?」
「はい、同志艦長! 火災の方は鎮火しつつある模様!」
第一砲塔の付近に被弾した38cm砲の砲弾によって発生した火災が鎮火しつつあるという報告を聞いたブルシーロフ艦長は、息を吐きながら帽子をかぶり直した。
テンプル騎士団の目の前に立ち塞がっている3隻のビスマルク級が敢行している丁字戦法は、テンプル騎士団艦隊の反撃によって段々と機能しなくなりつつあった。敵艦隊へと単縦陣で突き進むのではなく、左右へと散開しつつ突き進むことによって真正面へと主砲で砲撃できる戦艦が増えたことにより、丁字戦法を敢行しているビスマルク級へと降り注ぐ砲弾の数が一気に増えたのである。
すでに目の前のビスマルク級たちからは爆炎が吹き上がっていたが、まだ搭載されている主砲は火を噴き続けていた。ここは絶対に通さないと言わんばかりに、立て続けに被弾しても砲撃を続けているのである。
だが―――――――第二砲塔から放たれた徹甲弾たちが、必死に反撃を続けていたビスマルク級のうちの1隻に止めを刺すことになった。
40cm3連装砲から解き放たれた徹甲弾たちが、爆炎で傷だらけの前部甲板を照らし出しながら夜空へと飛翔していく。微かに炎と陽炎を纏いながら疾駆していく砲弾たちは徐々に高度を落としていくと、テンプル騎士団艦隊の目の前に立ち塞がっているビスマルク級のうちの一隻―――――――ビスマルク級三番艦『ルーデンドルフ』だ――――――――の第二砲塔と艦橋へと突き刺さったのだ。
分厚い装甲を突き破った砲弾が艦内で起爆し、吸血鬼の乗組員たちを瞬く間に消し飛ばしていく。その爆炎は艦内の隔壁を立て続けに吹き飛ばしながら蹂躙し、主砲の砲身に当店される寸前だった砲弾を誘爆させてしまう。
砲弾が開けた風穴から火柱が吹き上がり、ビスマルクに装備された主砲の砲身から、砲弾ではなく炎の塊が迸る。誘爆した砲弾の爆炎が砲塔の根元を吹き飛ばしたかと思うと、砲塔の下部で発生した爆発が巨大な主砲を一瞬だけ押し上げた。
砲弾に貫かれた艦橋も、大損害を被っていた。強烈な40cm砲が直撃した艦橋の中にいた乗組員たちが瞬く間にミンチと化し、砲弾が纏っていた衝撃波で艦橋がひしゃげる。
艦橋の窓が真っ赤に染まったと思った直後、内側で荒れ狂っていた爆炎が窓や壁を突き破った。艦橋の根元から火柱が姿を現すと同時に、灰色に塗装されていた戦艦『ルーデンドルフ』の艦橋が崩壊していく。
火達磨となったルーデンドルフの船体が、ゆっくりと真っ二つになっていく。装甲の表面に生まれた亀裂に入り込んだ火柱が小さな破片を押し出し、船体を両断していく。やがて炎上する船体の断面から海水が容赦なく入り込み、ルーデンドルフが沈み始めた。
「敵艦、撃沈! 第二砲塔の砲撃です!」
CICの中にいる乗組員たちが歓声を上げる。ブルシーロフ艦長も静かに拳を握り締めたが、歓声は上げなかった。
まだ、敵のうちの1隻を撃沈しただけなのだから。
艦隊の規模では勝っているとはいえ、艦の性能ではイージス艦を合計で10隻―――――――すでに3隻も撃沈することに成功している―――――――も投入している敵が上回っている。しかも敵艦隊の後方には、装甲が分厚い超弩級戦艦を一撃で葬り去ることが可能なレールガンを搭載したビスマルク級が居座っているのである。
幸い素早く連続で発射できる武装ではないらしいが、次の砲撃まで時間がないのは火を見るよりも明らかである。一刻も早く後方のビスマルク級と距離を詰めるか、河で待機しているテンプル騎士団のアドミラル・クズネツォフ級空母『ノヴゴロド』の艦載機にレールガンを破壊してもらわなければ、艦隊はまたしても大損害を被るだろう。
もちろん、ジャック・ド・モレーでもレールガンに耐えることは不可能である。
右に傾斜していた床が、ゆっくりと戻っていく。艦内に入り込んだ海水の排水が始まったのだろう。
「敵のイージス艦がハープーンを発射! 数は8!!」
「狙いは全てジャック・ド・モレーです!!」
「くっ…………進路は変えるな! 残っている速射砲とミサイルで迎撃せよ!!」
すでにジャック・ド・モレーは中破している状態である。3隻のビスマルク級による集中砲撃でズタズタにされた挙句、迎撃に失敗したトマホークやハープーンをもう既に合計で6発も叩き込まれ、浸水と火災が発生している状態なのだ。
乗組員たちのダメージコントロールのおかげで辛うじてテンプル騎士団艦隊と共に戦闘を継続しているものの、このまま被弾すれば、テンプル騎士団の力の象徴であるジャック・ド・モレーはウィルバー海峡で轟沈する羽目になるだろう。
テンプル騎士団最強の戦艦が沈めば、艦隊の士気が下がるのは想像に難くない。だからこそ敵艦隊はジャック・ド・モレーに集中攻撃を行い、撃沈しようとしているのだ。
辛うじて使用可能なグブカやコールチクから、最後の対空ミサイルたちが放たれていく。
夜のウィルバー海峡を疾駆するミサイルに対空ミサイルが喰らい付き、漆黒の海の上で緋色の爆発を生み出す。しかしそのミサイルの餌食にならずに済んだ5発のミサイルが、白煙を夜のウィルバー海峡に刻み付けながら、ジャック・ド・モレーへと突進していく。
すぐに速射砲と使用可能なCIWSたちが弾幕を張り始める。砲弾が命中したミサイルが爆炎と化し、後続のミサイルを巻き込んで更に肥大化したが、その爆炎のすぐ近くを掠めたミサイルが、艦隊の先頭を進むジャック・ド・モレーに牙を剥いた。
右舷の装甲と前部甲板にミサイルが突き刺さり、甲板の上を爆炎が支配する。甲板の上に残っていた対艦ミサイル用のキャニスターや速射砲の砲塔が爆風で抉られ、火達磨になりながら海へと降り注いでいく。
対艦ミサイルで船体を抉られたジャック・ド・モレーが、再び揺れる。艦内の通路を火柱が蹂躙し、ダメージコントロールを続けていた乗組員たちを次々に焼き殺していった。
大穴から再び海水が入り込み、装甲の破片や突き破られた隔壁を押し流していく。
「右舷及び前部甲板に被弾! くそ、また右舷に傾斜していきます!!」
「ダメージコントロールを急がせろ…………!」
『こちらインペラトリッツァ・エカテリーナ2世! 敵艦隊後方よりレーダー照射を受けている! おそらくさっきの攻撃だ!!』
ソビエツカヤ・ベロルーシヤを一撃で轟沈させた、後方に鎮座するビスマルク級の攻撃だろう。レーダー照射を受けている戦艦インペラトリッツァ・エカテリーナ2世の位置は、艦隊の右端だ。目の前に立ち塞がっているビスマルク級や、その後方に鎮座するアーレイ・バーク級たちからは明らかに”はみ出して”しまっている。
敵のビスマルク級から見れば、味方を巻き込まずに排除できる標的と言うわけだ。
「ただちに敵艦隊の陰に隠れろ!!」
ブルシーロフ艦長は大慌てで命令を下しつつ、危機感を感じていた。
もう既に、敵艦隊の後方のビスマルク級は、強力なレールガンの発射体制を整えていたという事になる。冷や汗を拭い去りつつ懐中時計をちらりと見た艦長は、息を呑みながら懐中時計を握り締めた。
ソビエツカヤ・ベロルーシヤが轟沈する羽目になったのが40分前だ。インペラトリッツァ・エカテリーナ2世が陣形の右端へと移動したのは、ブルシーロフ艦長が敵艦の超遠距離砲撃が連射できる代物ではないという事を見抜いた直後である。
つまり敵の超遠距離砲撃は、一度発射した後は40分も待たなければならない代物なのだ。
後方の敵艦にロックオンされたインペラトリッツァ・エカテリーナ2世が進路を変え始める。モニターに表示されている反応が敵艦隊の陰に隠れるために足掻き始めるが――――――――もう少しで隠れられると思った直後、インペラトリッツァ・エカテリーナ2世の反応が消失した。
「―――――――!」
「艦長、インペラトリッツァ・エカテリーナ2世が………!」
「くっ…………!」
インペラトリッツァ・エカテリーナ2世は、敵艦の超遠距離砲撃から逃れる寸前で敵の砲撃を喰らい、轟沈してしまったのだ。
近代化改修を受けていたとはいえ、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦よりも装甲が薄い上に旧式だったインペラトリッツァ・マリーヤ級戦艦が、ソビエツキー・ソユーズ級を一撃で轟沈させるほどの威力を持つ敵の砲撃に耐えられるわけがない。
ブルシーロフ艦長は、歯を食いしばりながらモニターの反応を睨みつけていた。
せめてあの最後尾のビスマルク級戦艦の超遠距離攻撃を封じることができれば、敵艦隊と戦いやすくなる筈である。敵艦隊後方からの超遠距離砲撃を回避するために、動く必要がなくなるのだから。
『艦内の電力、残り10%!』
『充電完了まであと30分!』
『リントヴルム、冷却開始!』
一番最初の砲撃で超弩級戦艦だけではなく、巡洋艦と駆逐艦を1隻ずつ仕留めるという大きな戦果をあげたというのに、2発目の砲撃で仕留めることができたのは、テンプル騎士団の戦艦の中でも旧式の艦のみであった。
CICでモニターを見つめていたアリアは、傍らに置いてあるティーカップを白い指で拾い上げた。
「仕留めたのは旧式の艦1隻だけのようですな」
「当たり前よ、敵は警戒しているのだから」
傍らでニヤニヤと笑っている乗組員にそう言いながら、アリアはティーカップを口元へと運ぶ。
戦果は思ったよりも小さかったとはいえ、敵艦隊はビスマルク級の丁字戦法や対艦ミサイルの攻撃でじわじわと損害を出している。このまま敵艦隊の戦力を削りつつレールガンで遠距離砲撃を繰り返していれば、敵艦隊は壊滅するだろう。
しかし、アリアは危機感を感じていた。
春季攻勢(カイザーシュラハト)の前に実施した無制限潜水艦作戦によって、テンプル騎士団の本部へと運び込まれる筈だった物資を乗せた輸送船を何隻も撃沈することに成功している。しかし、その際に潜水艦が誤って無関係な豪華客船を魚雷で撃沈してしまっており、民間人を何人も溺死させてしまっているのだ。
その事件のせいで、吸血鬼たちは
宣戦布告したモリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)が部隊を派遣すれば、吸血鬼たちの勝ち目はない。彼らの部隊や艦隊がカルガニスタンに到着する前に決着をつけて鍵を奪わなければ、吸血鬼たちはすぐに殲滅されてしまうだろう。
しかし、ブラドが率いる地上部隊も窮地に陥っているという。浸透戦術が成功すれば最終防衛ラインも突破できるが、頓挫してしまったら全ての拠点から兵力をかき集めたテンプル騎士団に粉砕されるのが関の山だ。
懐中時計をちらりと見たアリアは、歯を食いしばった。
このままじわじわと攻撃していれば敵艦隊を撃滅することはできるだろう。しかし、敵艦隊が全滅するよりも先に、モリガン・カンパニーが派遣した艦隊がこの海域に到着するのは火を見るよりも明らかである。
「次のリントヴルムの砲撃は早められないかしら? 充電率は80%でも構わないわ」
当然ながら、充電率が不完全な状態で砲撃すれば破壊力は急激に落ちてしまう。しかし80%でも、超弩級戦艦を行動不能にしてしまうほどの破壊力はあるのだ。
アリアが焦っていることを察しながら、傍らで指示を出していた乗組員は答えた。
「かしこまりました、アリア様。80%ならば20分で砲撃可能になるでしょう」
「では、そうしてちょうだい」
「
リントヴルムの射程距離は、戦艦の主砲や対艦ミサイルよりもはるかに長い。
艦橋の後部から伸びたケーブルの先に浮かんでいる無人型の”観測気球”に搭載された超遠距離用のレーダーによって、対艦ミサイルの射程距離よりも遠くから敵艦をロックオンする事が可能なのである。前方にいる超遠距離の敵をロックオンする事だけに特化したレーダーであるため、側面や後方にいる敵をロックオンすることは一切できないものの、この無人観測気球さえあればレールガンで超遠距離から正確に敵艦を砲撃する事ができるのだ。
リントヴルムを発射した際に電力が一気になくなってしまうため、観測気球も機能を停止してしまうという欠点があるものの、充電が済めば再び使用可能になる。
次の砲撃は充電率80%での砲撃となるが、充電率が落ちれば威力だけでなく、射程距離も低下してしまうだろう。しかし敵艦隊もビスマルクと距離を詰めるために接近しているため、射程距離は問題ないだろう。
アーレイ・バーク級たちを突破した瞬間に、強烈な徹甲弾を撃ち込んでやればいいのだから。
彼女がティーカップを置いたその時、乗組員の1人が叫んだ。
「あ、アリア様!」
「どうしたの?」
「こ…………後方から、レーダー照射を受けています…………!」
「ビスマルク級、ロックオンしました!」
倭国支部から出撃したテンプル騎士団倭国支部艦隊旗艦『こんごう』のCICで、乗組員の1人が叫んだ。
カルガニスタンの砂漠へと上陸する部隊を乗せた強襲揚陸艦『ワスプ』とはすでに別行動を取っていたため、吸血鬼たちの艦隊の後方に現れたのは、イージス艦『こんごう』と超弩級戦艦『金剛』の2隻のみである。
それに対して、吸血鬼たちの艦隊の最後尾に鎮座しているのは、フランスのクレマンソー級空母2隻、ドイツのアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦2隻、同じくドイツの超弩級戦艦であるビスマルク級が1隻である。いくら高性能なイージス艦と近代化改修型の超弩級戦艦とはいえ、たった2隻で攻撃を仕掛ければ返り討ちに遭ってしまいそうである。
だが、イージスシステムを搭載しているのはこんごうのみである。しかも超弩級戦艦であるビスマルクは、レールガンを搭載するために第一砲塔と第二砲塔を撤去した挙句、速度まで低下してしまっているため、本来よりも性能が低くなっている。しかも隙だらけのビスマルクを護衛するアドミラル・ヒッパーとプリンツ・オイゲンもイージスシステムを搭載していないため、対艦ミサイルを迎撃できる確率はそれほど高くはない。
「ハープーン用意。目標、敵陣中央のビスマルク級! ミサイル発射後、本艦は金剛の後方を航行して敵艦からのミサイル攻撃を迎撃する!」
「了解!」
敵艦隊もレーダー照射を受けていることに気付いたようだが、こんごうに搭載されているハープーンが牙を剥く前に対応するのは不可能だろう。
CICのモニターに映っている敵艦隊の反応を睨みつけながら、柊は命令を下した。
「―――――――撃てぇッ!!」