異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
後方からレーダー照射を受ける羽目になった吸血鬼たちは、狼狽していた。
広大な河から出撃してきたテンプル騎士団艦隊の戦力を、対艦ミサイルによる攻撃と、3隻のビスマルク級による丁字戦法で削り取りつつ、最後尾に鎮座する戦艦ビスマルクに搭載されたレールガンで大打撃を与えるという彼らの作戦は、後方からの攻撃さえなければ完璧であっただろう。
真正面から挑まなければならないテンプル騎士団艦隊は、まず目の前で旗艦ジャック・ド・モレーに集中砲火を行っている艦隊を突破し、高性能なイージス艦たちの群れを突破しなければならないのである。しかも後方のビスマルクの超遠距離砲撃に警戒しつつ戦わなければならない。
敵が警戒し始めれば時間はかかってしまうものの、そのままじわじわと戦力を削っていれば、テンプル騎士団艦隊は壊滅する筈だった。
しかし、アリアが立案したその完璧な作戦は――――――――唐突に後方に現れたイージス艦と戦艦のせいで、頓挫することになる。
「こっ、後方からレーダー照射! 敵艦隊です!」
「バカなっ! 敵艦隊に回り込まれたのか!?」
「いや、モリガン・カンパニーの艦隊かもしれません!!」
確かに、敵艦隊が後方に回り込んでいたという可能性は低いだろう。敵艦隊がタンプル搭から出撃できるのはあの河の下流からだけである。上流は非常に流れが険しい上に海へと繋がっているわけではないため、テンプル騎士団本部の艦隊が海へと出ることができるのはあの河の出口しかないのだ。
吸血鬼たちはその河から姿を現したテンプル騎士団艦隊を待ち受けていたのだから、後方に回り込まれるのはありえない。
「後方よりミサイル飛来! 数は4!」
「ハープーンと思われます! 目標は全て本艦の模様ッ!」
「迎撃開始! なんとしてもレールガンを守れ!!」
ビスマルクに飛来するミサイルの数を聞いたアリアは、溜息をつきながらモニターを見上げた。
もし仮にモリガン・カンパニーの艦隊であったのならば、圧倒的としか言いようがないほどの数のミサイルをいきなり発射してくる筈である。あの巨大企業が保有する兵力は、あまりにも規模が大きすぎるせいで、全ての戦力を投入すれば指揮官が”指揮を執り切れない”ほどの数になってしまうのだから。
それゆえに、たった4発のミサイルしか発射されなかったというのはありえない。
(出撃していた敵の艦隊が戻ってきたのかしら?)
春季攻勢(カイザーシュラハト)が始まる前に別の海域へと派遣していたテンプル騎士団艦隊が、タンプル搭へと戻ってきた可能性が高い。もし仮に後方に現れた艦隊が任務から戻ってきたばかりの艦隊なのであれば、基本的に規模は大きくないだろう。
更に、任務の際に弾薬を消費している可能性もある。攻撃できる回数が減少しているのだから、後方の艦隊の攻撃力はそれほど高くないに違いない。
「シースパローで迎撃しなさい」
「了解(ヤヴォール)、シースパロー発射!」
吸血鬼たちの艦隊の最後尾に鎮座しているビスマルクや、レールガンを搭載しているビスマルクの護衛を担当するアドミラル・ヒッパーとプリンツ・オイゲンには、イージスシステムは搭載されていない。
可能な限りレーダーやセンサーを最新のものに換装し、迎撃用のミサイルやCIWSをこれでもかというほど搭載して防御力を底上げしている程度なのである。それゆえにミサイルを迎撃できる確率は、イージス艦たちと比べると非常に低いと言わざるを得ない。
ビスマルクや2隻の重巡洋艦の艦橋の脇に搭載されたキャニスターから、シースパローたちが飛び出していく。夜空に白煙を刻み付けて飛翔していったミサイルたちは、艦隊旗艦であるビスマルクへと接近してくる4発のハープーンへと突撃していった。
星空の中で、ミサイルたちがぶつかり合った。
飛来してきたハープーンに、重巡洋艦プリンツ・オイゲンから発射されたシースパローが喰らい付く。ビスマルクの装甲を食い破る筈だった獰猛な対艦ミサイルが砕け散り、緋色の爆炎と化す。
後続のハープーンにもビスマルクが放ったシースパローが喰らい付き、夜空の中に爆風を刻み付けた。
シースパローたちの攻撃を躱した2発のハープーンに、今度は高角砲の代わりに搭載された速射砲やCIWSたちが牙を剥く。立て続けに放たれる砲弾たちや凄まじい連射速度で放たれるCIWSの砲弾たちが瞬く間に1発のハープーンを蜂の巣にし、ビスマルクに命中する前に木っ端微塵にしてしまったが―――――――その弾幕を突破した1発のミサイルが、ビスマルクに大損害を与えることになった。
後部甲板や艦橋の両脇に搭載された速射砲たちの弾幕を突破したハープーンは、艦橋の脇を通過したところで高度を落とし、よりにもよって前部甲板に落下したのである。
前部甲板に搭載されている筈の砲塔を撤去して装備したレールガンの砲身を掠めたミサイルが、艦首へと伸びている巨大なレールガンの砲身のすぐ近くへと喰らい付いたのだ。近くに搭載されていた速射砲の砲塔をあっさりと吹き飛ばし、前部甲板の装甲を抉った猛烈な爆風と衝撃波が、まだ放熱中だったビスマルクのレールガンに襲い掛かる。
レールガンの砲身へと繋がっていたケーブルが千切れ飛び、砲身へと注入されていた冷却液が甲板にぶちまけられる。巨大な砲身がスパークに包まれたかと思うと、いたるところで漏電が発生し、ビスマルクの前部甲板が青白い無数の閃光で彩られ始めた。
『れ、レールガンの砲身が損傷! 漏電が発生しています!』
『電力の供給を停止しろ!』
『くそ、充電不可能! レールガンが討てません!!』
「なっ………!」
ビスマルクに搭載されている
味方の艦隊の攻撃でテンプル騎士団艦隊の戦力を削り取りつつ、圧倒的な射程距離と破壊力を誇るレールガンで装甲の厚い超弩級戦艦や旗艦ジャック・ド・モレーを撃沈する作戦だったのだ。
しかし――――――――後方から現れたテンプル騎士団艦隊の攻撃によって、その切り札が使用不能になってしまったのだ。
圧倒的な破壊力を誇るレールガンでテンプル騎士団艦隊を砲撃して数を減らすことができるからこそ、タンプル搭の敵艦隊よりも規模の小さい吸血鬼たちの艦隊が有利だったのである。更に、いくら高性能なイージス艦が7隻も残っているとはいえ、一番最初の飽和攻撃や敵艦隊の対艦ミサイルを迎撃するためにかなりの数のスタンダードミサイルやシースパローを消費しているため、すぐに速射砲やCIWSだけで敵のミサイルを迎撃する羽目になるのは火を見るよりも明らかであった。
「あ、アリア様………!」
「―――――――損害は?」
「は、はい…………辛うじて観測気球は健在ですが、リントヴルムは漏電のせいで使用不能です…………。復旧するには、あと12時間経過するか、ドッグで修復しなければ…………」
転生者の能力によって生み出された戦車や戦闘機などの兵器は、48時間経過すれば自動的に弾薬や燃料が補充され、最善の状態にメンテナンスされるようになっている。以前までは銃などと同じく12時間ごとに弾薬の補充やメンテナンスが行われることになっていたのだが、端末を生み出した者が実施した能力の”アップデート”によって12時間から48時間まで延長されてしまったのである。
そのため、兵器の応急処置や弾薬の補給をするための設備も重要になった。
銃や戦車などの現代兵器を使わない転生者たちには全く影響はないが、現代兵器を使用する転生者たちにとっては、ただでさえ大量の乗組員を用意しなければならない戦艦などの兵器が扱いにくくなったと言えるだろう。
当たり前だが、モリガン・カンパニーの大艦隊がウィルバー海峡へと迫っているというのに、レールガンが使用可能になるまで12時間も待機している余裕はない。だからと言ってドッグのあるディレントリアまで戻れば、地上で奮戦している地上部隊を見殺しにすることになる。
「応急処置はできないの?」
「すでに実施しておりますが…………使用可能になる確率は低―――――――」
「―――――――さらに後方より敵のミサイルです!!」
「数は?」
今の攻撃でビスマルクの切り札を奪い去った敵艦隊が、調子に乗って追い討ちを始めたのだろうかと思ったアリアは、溜息をついた。
レールガンを搭載するために主砲を撤去した挙句、機動性まで犠牲にしてしまったとはいえ、このビスマルクは第二次世界大戦中にドイツが生み出した強力な超弩級戦艦である。近代化改修によって対艦ミサイルのキャニスターも搭載しているため、ビスマルクを護衛する艦さえいれば敵のイージス艦やフリゲートと戦うこともできるのだ。
前方のテンプル騎士団艦隊をイージス艦と他の戦艦が攻撃しているうちに、後方の敵艦隊をビスマルクで撃滅するべきだろうと思ったアリアだったが――――――――乗組員の報告が、彼女の作戦を台無しにすることになった。
「―――――――ご、500発以上です」
その反応を見た途端、倭国支部艦隊旗艦『こんごう』のCICの中にいた乗組員たちは全員ぎょっとしていた。
辛うじて1発のハープーンが敵の旗艦の前部甲板を直撃し、本部の艦隊を苦しめていた謎の兵器を使用不能にする大きな戦果をあげたものの、もし敵のイージス艦の一部が俺たちに襲い掛かってきたのならば倭国支部艦隊たちは間違いなく全滅していただろう。
最後にハープーンを全弾発射して、この海域から離れた方がいいのではないかと柊が考えていた時に、その無数の反応がCICのモニターやレーダーを埋め尽くしたのである。
倭国支部艦隊のさらに後方から飛来したのは、星空を白煙で埋め尽くしてしまうほどの数の、対艦ミサイルである『P-270モスキート』の群れであった。
敵艦隊へと向けて航行するこんごうと金剛の左右を通過した無数のP-270モスキートたちは、倭国支部から出撃した艦隊を置き去りにし、吸血鬼たちの艦隊の最後尾に鎮座するビスマルクや空母たちへと牙を剥く。
数発のミサイルがシースパローや速射砲の弾幕の餌食となり、緋色の爆炎と化して消滅する羽目になったが―――――――それ以外の対艦ミサイルが、吸血鬼たちの艦隊へと襲い掛かった。
巡洋艦たちの左右を航行していたクレマンソー級空母『クレマンソー』の甲板に、一気に5発も対艦ミサイルが喰らい付く。甲板に大穴を穿ったミサイルたちは格納庫の中の弾薬や燃料へと襲い掛かると、クレマンソーの格納庫の中をあっという間に焼き尽くしてしまった。
猛烈な爆炎がハッチを突き破り、クレマンソーの船体のいたるところから躍り出る。瞬く間に火達磨となったクレマンソーは航行不能になってしまったが、更に飛来した2発の対艦ミサイルが甲板の大穴へと飛び込んでから炸裂し、クレマンソーの巨体を真っ二つに叩き折ってしまう。
同型艦の『フォッシュ』も必死に弾幕を張って抵抗したが、弾幕を躱して飛来した1発のミサイルが艦橋を直撃して粉砕してしまう。立て続けにモスキートたちが船体を直撃し、フォッシュの巨体を火達磨にしてしまった。
甲板の上で出撃準備をしていたラファールたちが立て続けに火達磨になり、搭載されていた対艦ミサイルが誘爆する。甲板の上が火の海と化したフォッシュにも後続のミサイルが何発も命中し、瞬く間に2隻の空母が轟沈することになった。
あっという間に2隻の空母を轟沈させたミサイルたちですら、氷山の一角でしかない。
必死に抵抗するビスマルクやプリンツ・オイゲンたちを置き去りにした300発のミサイルの群れは――――――――テンプル騎士団艦隊へとハープーンを発射し続けていたアーレイ・バーク級の群れにも牙を剥いたのだ。
「こっ、後方より300発のミサイルが接近中! モスキートです!!」
「―――――――はっ?」
乗組員からの報告を聞いた瞬間、アーレイ・バーク級のCICにいた吸血鬼の艦長は目を見開いた。
旗艦ビスマスクの後方に敵の艦隊が姿を現したという報告を数分前に聞いていたのだが、その艦隊が放ったミサイルはたったの4発だったという。そのためそのアーレイ・バーク級の艦長も、後方からやってきたのは春季攻勢(カイザーシュラハト)の前に出撃していた艦隊だろうと決めつけていたのである。
それゆえに、300発のミサイルが接近していると聞いた瞬間、彼は狼狽した。
300発もミサイルを発射できる艦隊がいるのであれば、春季攻勢(カイザーシュラハト)の前に出撃させるのではなく、目の前にいる敵艦隊と共に吸血鬼の艦隊を迎撃させるべきだからだ。仮に後方から奇襲させるために敢えて出撃させていたのだとしても、もっと早く攻撃を始めていればテンプル騎士団の艦隊が損害を被ることはなかった筈である。
「げ、迎撃しろ!」
「艦長、スタンダードミサイルは残っていません!」
「シースパローは!?」
「ぜ、全艦…………弾切れです…………!!」
「…………ッ!」
テンプル騎士団艦隊が敢行した対艦ミサイルによる飽和攻撃を迎撃するために、貴重なミサイルを使い果たしてしまったのである。
速射砲やCIWSで迎撃することもできるが、艦隊の後方から飛来する300発のミサイルをそれで全て迎撃するのは、いくら高性能なイージス艦でも困難であった。
進路を変えて前部甲板の速射砲を右へと旋回させたアーレイ・バーク級たちが、後方から飛来してきた無数の対艦ミサイルの群れを迎撃し始める。速射砲やCIWSの砲弾たちは正確にミサイルを撃ち抜いて撃墜し、無数の緋色の爆炎を夜空に刻み付けていった。
しかし――――――――そのさらに後方から、無数の対艦ミサイルが接近していた。
「敵のミサイル攻撃の第二波です!」
「数は!?」
「は――――――――800発! さっ、さっきよりも多い!!」
「バカな!?」
ぎょっとした艦長は、艦隊の後方から現れた敵の正体を理解した。
いくら軍拡を進めているとはいえ、テンプル騎士団がこれほどのミサイルを発射できる艦隊を保有しているわけがない。
これほどの圧倒的な数のミサイルを発射し、当たり前のように何度も飽和攻撃を実施できる艦隊を保有しているのは――――――――あの”魔王”が率いるモリガン・カンパニーの艦隊しか考えられない。
イージス艦は容易く戦闘機やミサイルを撃墜する事ができるほどの性能を誇る。もし仮にミサイルを使い果たしてしまったとしても、速射砲とCIWSでミサイルや航空機を迎撃することはできるのだ。
しかし、いくらイージス艦でも、たった7隻のイージス艦へと襲い掛かってくる800発の対艦ミサイルを全て迎撃できる筈がなかった。
撃墜された対艦ミサイルの爆炎に風穴を穿って突進してくるのは、夜空を白煙で覆ってしまうほどの数の対艦ミサイルの嵐である。アーレイ・バーク級たちは必死に速射砲を放ってミサイルたちを迎撃していったが――――――――撃墜されたミサイルの爆炎を置き去りにして突撃してきたミサイルたちを全て撃墜するのは、不可能だった。
”ミサイルの壁”としか言いようがないほどの数のミサイルが降り注ぎ、イージス艦たちを蹂躙し始めた。