異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
無数のミサイルの群れが、青空を穿つ。
後端部から白煙を吐き出して空を切り裂きながら飛翔していくミサイルたちに狙われたF-22たちが、必死にフレアをばら撒いて青空に真っ赤な光をばら撒きながら急旋回を始める。殆どのF-22が連合軍の航空部隊が解き放ったミサイルの猛攻撃を回避することに成功したものの、2機のF-22がミサイルを回避することができず、まだ主翼やウェポン・ベイの中に空対空ミサイルをぶら下げたまま木っ端微塵に吹き飛んだ。
500機以上の航空隊とたった19機の航空隊が真っ向から戦えばどうなるのかは、火を見るよりも明らかであった。もし仮に連合軍のパイロットたちが新兵ばかりで、吸血鬼たちが百戦錬磨のパイロットたちだけで構成された部隊だったとしても、たった19機のステルス機で500機以上の航空隊に勝利するのは難しいだろう。下手をすればミサイルどころか機銃まで弾切れになってしまう恐れがある。
しかも、連合軍のパイロットたちはベテランのパイロットばかりであった。テンプル騎士団のパイロットの中には新兵も含まれていたものの、連合軍のステルス機のコクピットに乗っているパイロットたちは、ヴリシアの戦いを経験した実力者ばかりである。しかも中には第一次転生者戦争と第二次転生者戦争を両方経験したベテランのパイロットも参加していたため、吸血鬼のパイロットたちとは練度が桁違いであった。
更に、無数の敵機を相手にするために、ウェポン・ベイだけでなく主翼の下にもミサイルを搭載した事が仇になった。通常の戦闘機のように主翼に武装を搭載すると敵に発見される可能性が上がってしまうため、ステルス機はウェポン・ベイと呼ばれる場所にミサイルなどを収納するのである。
吸血鬼たちが投入したF-22も高性能なステルス機であり、ウェポン・ベイの中にミサイルを搭載する事が出来たのだが、ブレスト要塞へと殺到する航空隊を攻撃するために、吸血鬼たちは可能な限りミサイルを搭載して出撃したのである。
そのため、高性能なレーダーを搭載している
『くそ、ブリッツ19とブリッツ11がやられた!』
『反撃するぞ! 1機でも多く―――――――――』
『くそ、またレーダー照射か…………ッ!』
航空隊の隊長は、電子音が鳴り響くコクピットの中で舌打ちをしながら、「ブリッツ1、ブレイク!」と告げつつ操縦桿を倒す。
敵の攻撃が無ければ、敵の航空隊に向かってロックオンを済ませ、ミサイルの一斉攻撃を始めていた事だろう。いくら圧倒的な兵力を誇る連合軍でも全ての戦闘機がステルス機というわけではないらしく、中にはSu-35や旧式のSu-27も含まれている。いきなりステルス機をロックオンするのは困難だったが、少なくともステルス機ではない戦闘機たちを道連れにすることはできる筈だった。
しかし、ロックオンを始めるよりも先に敵機たちによってロックオンされ、無数のミサイルたちで攻撃されることになってしまったのである。
続けて放たれたミサイルは合計で200発。明らかに吸血鬼たちの航空隊の一部に狙いを絞ったのではなく、その一斉攻撃で残った機体を全て叩き落すつもりなのは火を見るよりも明らかであった。おかげで回避しなければならないミサイルの数はそれほど多くはなかったものの、全ての機体が回避を始めなければならなくなったため、ロックオンするチャンスが台無しにされてしまう。
F-22たちがエンジンの音を響かせながら飛び、夜が明けたばかりの空をフレアの煌きで彩る。
F-22を追尾できなくなったミサイルたちを一瞥しながら、吸血鬼のパイロットたちはぞっとしていた。
敵は圧倒的な数の航空隊である。その気になれば、何度でも今のような飽和攻撃を繰り返すことができるだろう。しかも一部の航空部隊が吸血鬼を足止めしている間に、ミサイルを使い果たした部隊をタンプル搭へと帰還させてミサイルを再び装備させることもできるのだ。
それに対し、吸血鬼の航空隊には敵を足止めしておく部隊を残す余裕はなかった。だからと言って撤退すれば、その隙に制空権を確保されてしまう。いくら制空権が確保されてしまうのが時間の問題とはいえ、すぐに撤退して制空権を敵に確保させるわけにはいかない。
フレアとミサイルが尽きれば、残った機関砲で500機以上の航空隊の真っ只中へと突っ込まなければならない。だが、敵部隊は補給を受けに行く部隊だけを戦線から離脱させたとしても、それ以外の部隊だけで吸血鬼たちを一蹴できるほどの規模である。
連合軍の攻撃力は、決して衰えないのだ。
またしてもレーダー照射を受けていることを意味する電子音を聞いたブリッツ1は、舌打ちをしながらミサイルの飛来する方向を睨みつけるのだった。
灰色の砂漠に居座る無数の怪物たちが、戦艦の主砲にも見えてしまうほど長大な砲身を天空へと向け始めた。一見するとテンプル騎士団が春季攻勢(カイザーシュラハト)を迎え撃つために投入した
まるで巨大な戦車の車体の上に、戦艦から取り外した主砲の砲身をそのまま搭載してしまったかのような外見の車両たちが、ブレスト要塞の北東に集結していた。
砂漠の真っ只中で隊列を組み、指揮官の命令をじっと待っている怪物たちは、かつて冷戦の真っ只中にソ連軍が開発した『Oka自走迫撃砲』と呼ばれる、圧倒的な射程距離と破壊力を併せ持つ兵器であった。搭載されている主砲以外に武装は全く搭載していない上に、装甲もそれほど厚くはないものの、搭載されているのは口径だけならば戦艦大和の主砲に匹敵する”420mm迫撃砲”である。
しかもこのOka自走迫撃砲は、通常の砲弾だけでなく”核砲弾”まで発射可能な恐ろしい兵器なのだ。
とはいえ、核砲弾を使用すれば放射能が牙を剥くことになるため、原子炉や核弾頭を生産できる技術を持つ殲虎公司(ジェンフーコンスー)ではこのOka自走迫撃砲で使用可能な核砲弾は一切生産していない。そのため核砲弾が使われる可能性は無いが、通常の砲弾でも艦砲射撃に匹敵する破壊力がある。
この作戦に投入されたOka自走迫撃砲の数は合計で86両。1両のOka自走迫撃砲に搭載されている主砲は1門であるため、合計で86門の420mm迫撃砲たちが”敵”へと向けられているのだ。
彼らが狙っている”敵”は、もちろんブレスト要塞を占拠している吸血鬼たちである。装填されているのは対吸血鬼用の水銀榴弾であるため、着弾して起爆すれば爆炎と共に水銀の雫たちが吸血鬼に牙を剥くのである。
テンプル騎士団は水銀榴弾ではなく”聖水榴弾”も運用していた。砲弾の中に炸薬と聖水を内蔵した対吸血鬼用の砲弾だが、起爆した際の爆炎で肝心な聖水が蒸発してしまうという欠点があったため、現在は蒸発する事がない水銀榴弾が使用されている。
水銀榴弾は炸裂した瞬間に爆風や衝撃波によって内蔵されていた水銀が押し出され、銀の弾丸や斬撃となって周囲の吸血鬼たちに襲い掛かるようになっている。しかも吸血鬼以外の敵にも圧倒的な殺傷力を誇るため、場合によっては対人戦や魔物の掃討作戦にも投入されている。
とはいえ水銀を内蔵するために炸薬を減らしてしまうので、爆発の破壊力が低下してしまうという欠点があるのだ。
レンチとハンマーが交差している上に深紅の星が描かれたモリガン・カンパニーのエンブレムをこれ見よがしに描かれた怪物たちが砲身を向けている青空では、無数のSu-34やロシア製戦闘爆撃機の『Su-24』の群れが要塞へと向かって飛んで行くのが見える。要塞へと殺到していく攻撃機たちを食い止める筈の航空隊は既に全滅しているため、強力な対戦車ミサイルや爆弾を搭載した戦闘爆撃機を食い止められるのは要塞に設置されている対空機関砲や地対空ミサイルくらいだろう。
「―――――――”ヴェールヌイ隊”が見当たらんな」
頭上を通過していく戦闘爆撃機や戦闘機の群れを見上げながら、砲兵隊の司令官は呟いた。
「同志、すでにヴェールヌイ隊は空中給油を終えてこちらに向かっているそうです」
「そうか。彼らが参加したら、我々の得物が横取りされてしまうな」
ヴェールヌイ隊は、モリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)が誇る最強の航空隊である。初めて投入されたのはファルリュー島で繰り広げられた第一次転生者戦争であり、無数のF-35やF-22たちを何機も撃墜する戦果をあげている。
隊長を務めているのは、ノエルの母親であるミラ・ハヤカワである。彼女は乗っていたF-22が大破している状態にもかかわらずドッグファイトを継続し、立て続けに敵機を撃墜していったという。
彼女が率いるヴェールヌイ隊は
連合軍の航空部隊の中では最も練度の高い精鋭部隊が、この戦いにも投入されることになっているという。
「同志」
「なんだ?」
双眼鏡で要塞の様子を確認しようしていた指揮官の傍らにいた若い兵士が、ニヤニヤと笑いながら蒼空を指差す。首を傾げながら空を見上げた司令官は、すぐに彼が笑っていた理由を理解した。
青空の真っ只中に居座る白い雲を穿ちながら、7機ずつの編隊を組んだ合計で21機のA-10Cの群れが、3つのV字型の編隊を大空に刻み付けながら、先ほど堂々と要塞へ向かって言った戦闘爆撃機たちの後を追っていったのである。
主翼にはこれ見よがしにモリガン・カンパニーのエンブレムが描かれているのが見えたが、真ん中の編隊の先頭を進むA-10だけは、他の機体と比べると形状が違った。
武骨な胴体から左右へと伸びた主翼が逆ガル翼になっており、その主翼の下に105mm榴弾砲を2門もぶら下げていたのである。戦車砲に匹敵する口径の榴弾砲を搭載しているだけではなく、主翼の下にはこれでもかというほど対戦車ミサイルやロケットポッドを搭載していた異様なA-10は、それを操縦するパイロットのためにカスタマイズを施された『A-10KV』と呼ばれるミラ専用機であった。
砲兵隊を置き去りにしたヴェールヌイ隊が要塞へと近づいていく。すると、先頭を進んでいたミラ・ハヤカワが操るA-10KVが唐突に高度を上げたかと思うと、そのまま編隊を離れて天空へと舞い上がっていく。
高度を上げていくA-10KVを双眼鏡で見守りながら、砲兵隊の指揮官はゾクゾクしていた。
ヴェールヌイ1が、カルガニスタンで奏でるのだ。
サイレンの音にも似た、恐ろしい彼女の音色を。
可能な限り機体の高度を上げてから、彼女は操縦桿を倒して急降下を始める。
既に要塞のある場所では、緋色の爆炎がいくつも生れ落ちていた。対空機関砲や地対空ミサイルを掻い潜って要塞へとたどり着いた味方の戦闘爆撃機たちがついに空爆を始めたらしく、灰色の大地に居座る殺風景な要塞が、禍々しい緋色の爆炎で彩られていく。
呼吸を整えながら、ミラはお構いなしに機体の速度をどんどん上げていく。
彼女が操るA-10KVは火力に特化しており、自走砲に搭載されているような105mm榴弾砲が左右の主翼に1門ずつ搭載されている。
砲身を切り詰めた挙句、強引に3発の榴弾が装填されたマガジンと自動装填装置を組み込んだ特注の榴弾砲であるため、命中精度が劣る上に重量も増大し、機体の機動性を下げる原因となっている。この機体に乗り慣れた熟練のパイロットでも油断すれば墜落してしまうような機体だが、そんな鈍重な機体で平然とここまでやってきたミラの技術は、もう既にこの世界で最強のエースパイロットと呼べる領域に達していると言っても過言ではないだろう。
コクピットの中にまで入り込んでくるサイレンにも似た音が、それ以外の全ての音を消し去ってしまう。コクピットに響く筈だった電子音すらかき消してしまったサイレンにも似た音を聞きながら、ミラは搭載されている105mm榴弾砲の照準を、防壁に設置されている28cm要塞砲へと向けた。
ブレスト要塞の防壁の上には、吸血鬼のリーダーであるブラドが用意した28cm要塞砲が東西南北に1基ずつ搭載されているため、戦車部隊が迂闊に近寄れば巨大な徹甲弾の餌食になってしまうだろう。要塞には対空機関砲や地対空ミサイルも設置されているが、航空機に牙を剥く敵の兵器は味方の戦闘爆撃機たちが片っ端から爆撃しているため、要塞の真上から一直線に標的へと向かっていくミラの機体は未だに発見されていない。
105mm榴弾砲に搭載されているのは、対吸血鬼用の水銀榴弾である。
北東へと砲撃可能な2基の要塞砲を破壊すれば、味方の砲兵隊や戦車部隊が要塞砲の砲弾の餌食にならなくて済む事だろう。いくら堅牢な複合装甲に身を包んだ現代の戦車でも、シャルンホルスト級戦艦の主砲が命中すればあっという間にスクラップにされてしまう。
真っ逆さまに落ちていくA-10KVのコクピットの中で、逆ガル翼と風が奏でる悪魔のサイレンに包まれながら、もう一度息を吐いて照準を合わせる。砲身を切り詰めた影響で命中精度は劣悪になっており、航空機の武装でありながら可能な限り接近しなければ真価は発揮しないという、かなり扱い辛い武器と化している。
何度も訓練を続けたため、彼女はその距離を理解していた。
急降下を続ける最中に、確実に砲弾を標的に叩き込み、なおかつ無事に上昇できるタイミングは一瞬しかない。しかも敵が弾幕を張り始めたら、そのタイミングで上昇できずに墜落する羽目になるかもしれない。
(――――――発射(フォイア))
操縦桿に取り付けられたトリガーを引いた瞬間、まるで鈍重な筈の機体が吹き飛ばされるのではないかと思ってしまうほどの猛烈な反動が、A-10KVの機体を揺さぶった。主翼の下部に搭載された2門の105mm榴弾砲が砲弾と爆炎を吐き出し、主翼とキャノピーをその爆炎で覆いつくす。
自走砲の榴弾砲を流用したその矛の反動に耐えながら、彼女はフットペダルを踏みつつ操縦桿を思い切り引いた。自分が放った強烈な砲撃の反動で”減速”することができたおかげであっさりと上昇する事が出来たミラは、安心しながら操縦桿を引き続ける。
キャノピーの後方では、砲撃準備を始めていた要塞砲に激突した2発の水銀榴弾が装甲を貫通し、要塞砲の内部で爆発を起こしているところだった。自動装填装置もろとも装填されていた砲弾を消し飛ばした爆炎が、内蔵されていた水銀たちを強引に押し出していく。押し出されて弾丸や斬撃と化した水銀たちが吸血鬼たちの身体をあっさりと切り裂いた。
へし折れた要塞砲の砲身が、黒煙と爆炎の残滓を纏いながら防壁の下へと落下していく。次は東側の要塞砲を狙おう、と考えながらミラが再び高度を上げ始めた最中に―――――――――ブレスト要塞の地下で、今しがた彼女の放った砲弾が生み出した爆炎よりもはるかに巨大な火柱が、産声を上げた。
※ミラ専用機のA-10KVの”KV"は、「カノーネンフォーゲル」の略です。