異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「同志リキノフ、ブレスト要塞での爆発を観測しました」
「よろしい」
双眼鏡を覗き込み、ブレスト要塞のど真ん中で産声を上げた爆炎を確認する。まるで太陽から生れ落ちたフレアを思わせる巨大な火柱が青空へと噴き上がり、黒煙を刻み付けていく。
しかもその爆発とともに外へと飛び出た衝撃波が、防壁の一部を倒壊させたらしい。吸血鬼たちが進行してきた際の砲撃で脆くなっていた防壁の一部が、その衝撃波に耐えられなかったようだ。
テンプル騎士団が作ってくれた突破口を双眼鏡で見つめながら、俺は要塞の様子を確認する。
東側の防壁の上に搭載されていた要塞砲は破壊されているため、このまま戦車部隊が進撃しても要塞砲に砲撃されることはないだろう。しかし、要塞の周囲にはこれでもかというほどの対戦車地雷が埋められているため、高を括ってそのまま前進すれば、無数のT-14たちが瞬く間に鉄屑と化してしまう。
「同志、砲兵隊の攻撃目標を変更できるか?」
「はい、できますが…………同志、何を狙うのです?」
「要塞の周囲だ。砲撃で対戦車地雷を潰せ」
「ほ、砲撃で…………!?」
「ああ。あの爆発が起こったという事は、もう既にテンプル騎士団の突入部隊が攻撃を始めたという事だ。このまま要塞内部を砲撃すれば彼らを巻き込んでしまう」
「りょ、了解しました。―――――――砲兵隊、砲撃目標を変更。要塞の周囲を徹底的に砲撃せよ」
後方で砲撃の準備をしているOka自走迫撃砲が搭載しているのは、口径だけならば戦艦大和の主砲に匹敵する420mm迫撃砲だ。しかも装填されているのは、攻撃範囲が極めて広い420mm水銀榴弾である。獰猛な爆発だけでなく水銀の斬撃まで周囲の敵兵に襲い掛かる代物であるため、味方を巻き込んでしまう恐れがある。
だから要塞の内部を砲撃するよりも、その攻撃範囲の広さを生かして地雷を片っ端から破壊させた方が合理的だ。もし仮にすべての地雷を破壊できなかったとしても、あの防壁の突破口に突入できるルートを確保できればいい。
「リキヤ、捕虜はどうする?」
「いつも通りだ」
問いかけてきた妻(エミリア)にそう言いながら、拳を握り締める。
モリガン・カンパニーは絶対に捕虜を受け入れない。相手が負傷兵や少年兵だったとしても、クソ野郎である以上は絶対に皆殺しにする。
俺たちがこんな戦い方を始めたのは、あのファルリュー島での戦いからだろう。
タクヤたちは敵の捕虜も受け入れているらしい。シンヤの報告では、テンプル騎士団艦隊の旗艦ジャック・ド・モレーは旗艦『ウリヤノフスク』からの命令を無視し、撃沈した敵艦の生存者を救助したという。確かにテンプル騎士団はモリガン・カンパニーの”下”ではないため、その命令に従う義務はない。だから命令違反をしたからと言って咎めるのはお門違いだ。
しかし、彼らのやり方ははっきり言うと甘すぎる。
「負傷兵だろうと殺せ。皆殺しにするぞ」
そう言いながら、俺はホルスターの中に入っているでっかいリボルバーを引き抜いた。ソードオフショットガンに匹敵するサイズの大型リボルバーの銃身の下には、スナイパーライフルやLMGなどに装着されているがっちりしたバイポッドが取り付けられており、巨大なシリンダーの中には強力な”.600ニトロエクスプレス弾”と呼ばれるライフル弾が5発も装填されている。
ホルスターの中に入っていたのは、『プファイファー・ツェリスカ』というオーストリア製の巨大なシングルアクション式リボルバーであった。
若い頃に―――――――正確に言うと俺(ガルゴニス)ではなくリキヤが使っていた―――――――愛用していたリボルバーであり、この強力なライフル弾で転生者の頭を何度も木っ端微塵にしている。非常に重い上に巨大であるため扱い辛い代物だが、キメラの身体能力と転生者のステータスをフル活用し、若い頃はこの銃でよくファニングショットをやっていた。
久しぶりに巨大なリボルバーのグリップを握り、シリンダーを見つめる。
銃身は通常の銃身ではなくオクタゴンバレルに換装されており、アイアンサイトは通常のものではなくピープサイトに変更されている。バイポッドがついているおかげで依託射撃ができるようになっているが、基本的には早撃ちやファニングショットばかりぶっ放すことになるだろう。
それと、この銃はソリッドフレーム式のリボルバーであるため、再装填(リロード)にはかなり時間がかかってしまうという欠点がある。だが若い頃のリキヤは当たり前のように相手の攻撃を躱したり、左足にある義足のブレードで攻撃を受け流しながら再装填(リロード)をしていたという。あの男から全てを受け継いでいるのだから、俺も問題なく使える筈だ。
親友(リキヤ)の得物を握り締め、要塞を睨みつける。
これが命中すれば間違いなく吸血鬼共は木っ端微塵になるだろう。仮に生存したとしても、装填されている.600ニトロエクスプレス弾は対吸血鬼用の銀の弾丸だから絶対に助からない。
あの男がこのような大口径の銃を好んだのは、きっと”相手を確実に殺せる銃”だからなのだろう。
「砲兵隊、砲撃開始します」
「同志諸君、突撃準備」
がちん、と撃鉄を親指で起こし、突撃する準備をする。
最愛の娘の手足を奪った敵は、絶対に皆殺しにしなければならない。それにあの吸血鬼共は何の罪もない民間人を殺しているのだ。社員たちの家族を弔うためにも、負傷兵だろうと殺す必要がある。
俺たちは、絶対に容赦をしない。
AA-12を背中に背負い、AK-15を構えながらセミオート射撃で敵兵の頭を撃ち抜いていく。強力な7.62mm弾にヘルメットもろとも頭を撃ち抜かれる羽目になった敵兵が頭を大きく揺らして、鮮血や脳味噌の残骸を吹き上げながら崩れ落ちていく。
ブレスト要塞の内部での室内戦ならばAA-12は真価を発揮するが、防壁の中での戦闘ならばAK-15の独壇場だ。それにグレネードランチャーもあるから、敵をまとめて肉片にすることもできる。
セミオート射撃で敵兵の頭を粉砕しながら、俺はできるだけ穴から離れるようにした。敵兵を片っ端から撃ち抜きながら前進し、空になったマガジンを交換する際は右手と尻尾で再装填(リロード)しつつ、左手でファイアーボールを放って敵兵を焼き尽くす。
あのまま穴の周囲で戦闘を続ければ、まだ穴を上っている味方が敵に発見されてしまう恐れがある。もし敵に発見されれば無防備な仲間たちが敵兵に撃ち抜かれる羽目になるため、出来るだけ俺が派手に戦いつつ敵を攪乱して囮になる必要があった。
さっきの爆発の衝撃波で倒壊した管制塔の陰に飛び込み、敵の弾幕から身を守る。こっそりと物陰から弾幕が飛来する方向を睨みつけると、がっちりしたバレルジャケットで覆われた銃身が特徴的なドイツ製のMG3がこっちにフルオート射撃をぶちまけているのが見えた。大口径の7.62mm弾を凄まじい速度で連射する事が可能な高性能なLMGであり、原型となったMG42は第二次世界大戦で連合軍に猛威を振るっている。
このまま隠れて再装填(リロード)している隙に反撃するべきだろうなと思ったが――――――――今の俺の役割は、味方が無事に穴を上り終えるまで”目立つ”ことだ。だから派手に戦わなければならない。
「やれやれ」
外殻を使うか。
体内の血液の比率を変更し、身体をキメラの外殻で覆っていく。サラマンダーの外殻が腕や足を覆い始めたかと思うと、フードの中で角が隆起を始める。
この外殻はサラマンダーの外殻をより強靭にしたものなんだが、どういうわけなのか俺の外殻の色は原形となったサラマンダーとは全く異なる。サラマンダーの外殻は赤と黒の二色なんだけど、俺の外殻は蒼と黒の二色なのだ。
しかも、ウィッチアップルを食わされたせいでまた変な能力を獲得してしまったらしい。
腕を覆った外殻の模様が段々と変わっていく。いつもの模様ではなく、まるで第一次世界大戦や第二次世界大戦で戦艦に施されていたダズル迷彩のように、外殻の表面の模様が蒼と黒のダズル迷彩に変色していったのだ。
コートから露出している外殻は少ないものの、これで敵の弾丸に被弾する確率は下がるだろう。
この模様を変える能力はサラマンダーの血を40%以上にしたときから使えるようになる能力で、現時点では通常の模様、ダズル迷彩、スプリット迷彩の3種類の模様に変更できるようだ。訓練すればもっと種類が増えるのだろうか。
外殻の生成が終わったことを確認した俺は、息を吐いてからセレクターレバーをフルオートに切り替え、管制塔の陰から飛び出した。
遮蔽物の陰から躍り出た途端、ヴリシア語の雄叫びが響き渡り、先ほどまで倒壊した管制塔を打ち据えていた7.62mm弾の群れがこっちに襲い掛かってくる。鍛え上げた脚力と瞬発力をフル活用して突っ走ったけど、肩に数発命中したらしく、猛烈な衝撃と跳弾する音が俺に襲い掛かってきた。
右手に持ったAK-15を連射しつつ牽制し、その隙に距離を詰める。左手を腰の手榴弾へと伸ばして安全ピンをすぐに抜き、土嚢袋の陰から攻撃してくる敵兵の群れに思い切り投げつける。
もちろん放り投げたのは、対吸血鬼用の水銀が入った手榴弾だ。
『しゅ、手榴弾―――――――――』
土嚢袋の向こうに落下した手榴弾が炎を生み出した直後、猛烈な爆炎と水銀の斬撃が、MG3の射手や傍らにいた数名の兵士を呑み込んだ。
爆炎が兵士たちの手足を容赦なく吹き飛ばし、爆発の衝撃波によって押し出された水銀の斬撃が敵兵の胴体を真っ二つに両断してしまう。これで敵の射手たちは全滅しただろうなと思いながら別の敵を狙おうとしたその時、土嚢袋の向こうから伸びた血まみれの手がMG3のグリップを握った。
ぎょっとしながら再び沈黙した筈のLMGを振り向くと同時に、MG3の銃口からマズルフラッシュが躍り出る。
胸板に無数の7.62mm弾を叩き込まれる羽目になった俺は、歯を食いしばりながら敵兵を睨みつけた。
なんと、そのLMGを再びぶっ放し始めたのは、さっきの手榴弾で吹っ飛ばされたはずの吸血鬼の兵士だった。水銀の斬撃で左足と腹を切り裂かれ、腹の傷口から腸や内臓が出ているというのに、その兵士は血まみれになりながらフルオート射撃を続けている。
口から吐き出した鮮血が高温の銃身に降りかかり、戦場で何度も嗅いだ血や肉が焦げる臭いを生み出す。
『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
「くっ…………!」
何発も喰らっているが、外殻が貫通される様子はない。
歯を食いしばりながらAK-15を構え、ホロサイトの照準を敵兵の頭に合わせる。
トリガーを引いた瞬間、ボロボロだった敵兵の頭が大きく揺れた。MG3の銃声とヴリシア語の罵声が聞こえなくなると同時に、敵兵の上顎から上が砕け散り、脳味噌やヘルメットの破片が周囲の地面に落下する。頭の断面から鮮血が吹き上がり、敵兵の身体が後ろへと倒れる。
敵兵たちの士気は、予想以上に高いらしい。
今の兵士は片足を失った挙句、腹から内臓が出ていたというのに、血を吐きながらLMGを連射してきたのだ。
歯を食いしばりながらセレクターレバーを3点バーストに切り替え、今度こそ別の敵を狙う。
『あそこだ! 敵は1人だけだぞ!!』
『あの穴を上ってきたのか!?』
『化け物め…………ッ!!』
XM8を装備した敵兵に銃口を向け、立て続けに3点バーストを放つ。数発は敵兵に当たったらしいが、負傷させられたのはたった1人らしい。残った2人の兵士がその崩れ落ちた兵士を助け起こそうとしている隙に左手をグレネードランチャーのグリップに伸ばした俺は、照準器をその兵士たちに合わせ、トリガーを引く。
太い砲身から40mm水銀榴弾が飛び出し、味方に引きずられていた兵士の腹にめり込んだ。肩を7.62mm弾に抉られて絶叫していた兵士の声が爆音に呑み込まれたかと思うと、水銀の斬撃を引き連れた爆風がその兵士たちを容赦なく吹き飛ばしてしまう。
焦げた肉片が地面の上に飛び散る。
『くそ、あのキメラを撃て!!』
防壁にあるハッチから飛び出してきた守備隊の兵士たちが、こっちに向けて6.8mm弾をフルオートでぶっ放してくる。
その兵士たちに照準を合わせて7.62mm弾で撃ち抜きながら、俺は突っ走り続けた。
こっちに銃弾をぶっ放してくる兵士の大半は、負傷兵だった。手足や顔に包帯を巻いている兵士の中には片腕や片足のない兵士も紛れ込んでいて、片手でアサルトライフルやPDWを撃ってくるのである。
なぜ降伏しないのだろうか。
降伏勧告をすれば、彼らは降伏するだろうか。
ボロボロの敵兵を7.62mm弾で粉砕しながら、歯を食いしばる。
数名の敵兵を手榴弾で吹き飛ばし、要塞の内部に入るためのハッチへと突っ走る。後方からスコップで殴りかかってきた負傷兵を尻尾で串刺しにし、動きが止まっている隙にPL-14を放って胸板に風穴を開けてから、ハッチを開けて要塞の内部へと突入する。
武器をAA-12に持ち替えてから、近くにいた敵兵を散弾でズタズタにする。その敵兵の返り血を拭い去り、再び突っ走る。
こいつらに容赦をする必要はない。降伏してきた兵士は受け入れるが、応戦してくるのであれば殺すしかないのだ。
こいつらは同志たちを虐げたクソ野郎なのだから。
『ラウラさん』
「フィオナちゃん…………?」
自室のドアをすり抜けて中へと入ってきたのは、真っ白な白衣に身を包んだ可愛らしい幽霊の女の子だった。彼女は私がベッドの上で休んでいるのを見て微笑んでいたけれど、左腕がなくなっていることに気付いてから、微笑むのを止めてしまう。
フィオナちゃんも、オルトバルカから来てくれたのかな。
彼女は私の近くへとやって来ると、小さな手で右手をぎゅっと握りしめてくれた。
「久しぶりだね、フィオナちゃん」
『はい、お久しぶりです』
ベッドの近くに持っていたカバンを降ろしてから、フィオナちゃんは私の頭を撫でてくれる。小さい子に頭を撫でられているような気がするんだけど、フィオナちゃんは100年以上前からこの世を彷徨っている幽霊だから、私たちよりもかなり年上なの。
『――――――ラウラさん、戦いたいですか?』
「え?」
どういうこと?
確かに戦いたいけれど、今の私は左腕と左足がないんだよ? 銃を撃つことはできるかもしれないけれど、杖を使わない限り歩くことはできない。
戦場に行けば、あっという間に撃ち殺されてしまうかもしれない。
「戦いたいけれど…………今の私じゃ役に立てないよ」
『大丈夫です。ラウラさんの身体を治せる回復アイテムを作ってきました』
「…………?」
そう言いながら、彼女は持ってきたカバンを開けた。中から紫色の液体が入った注射器を取り出したフィオナちゃんは、その注射器を枕元のトレイの上に置く。
どういうことなのかな? 私の身体を治すという事は、手足を生やすことができるという事なのかな?
「それは?」
『私が調合した特殊な薬品の試作品です。これを使えば、ラウラさんはすぐに戦えるようになりますよ』
「本当に…………!?」
それを使えば、タクヤのために戦えるの…………!?
『はい。タクヤ君を守ってあげることができますよ』
フィオナちゃんはそう言いながら微笑んだけれど、注射器を拾い上げた瞬間、微笑むのを止めた。
もしかして、あの薬品は危険な薬品なのかな?
でも、タクヤのために戦えるんだったら、危険な薬品でも構わない。対価が必要になるのであれば、タクヤのために何でも差し出してみせる。
フィオナちゃんの眼を見つめながらそう思っていると、彼女は躊躇っているのか、拾い上げた注射器をもう一度トレイの上に戻してから言った。
『でも、この薬品を使うには――――――――対価が必要です』