異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
吸血鬼は、弱点で攻撃されない限り死なない。
冒険者の教本や騎士団の教本にはそう書かれていることが多いけれど、吸血鬼は彼らの弱点である銀や聖水以外で攻撃しても殺すことはできるのだ。例えば強力な爆弾で身体を完全に消滅させてしまえば再生することはできなくなってしまうし、彼らの持つ再生能力が機能しなくなるまで通常の武器で攻撃を続ければ、彼らの再生能力はどんどん機能を低下していき、最終的には再生できなくなる。
けれども前者は周辺にいる味方まで被害を被る可能性がある上に、たった1人の吸血鬼を消すためにそれほどの火力を投入しても割に合わない。確かに一瞬で敵を消すことができるけれど、リスクがあるのであればまだ10人ほど兵士を集めてこれでもかというほど銀の弾丸をぶち込んであげた方が効率的だ。後者の方は、吸血鬼たちの弱点が用意できなかったのであれば話は別だけど、弱点を用意できる状態ならばただ単に時間の無駄にしかならない。
それゆえに、あらゆる教本や図鑑では”吸血鬼は弱点を使わなければ殺せない”と表記されているのだ。
彼らを手っ取り早く殺すには、弱点を使うのが一番効率的と言うことである。
姿勢を低くして諜報指令室の机の陰に隠れつつ、弾丸が飛んでくる方向に向かってAA-12の散弾を乱射する。照準器を覗き込んでいるわけではないので命中する可能性はかなり低いんだが、命中してくれればブラドの射撃を止めることはできるだろう。仮に命中しなくても牽制することはできる筈だ。
8発ほどぶっ放したのを確認してから撃つのを止め、別の遮蔽物へと移動する。冒険者用のがっちりした黒いブーツで床を覆っている書類やモニターの破片を踏みつけながら移動しているうちに、今度は後方から味方の銃声が聞こえてきた。
ナタリアの援護射撃だろう。イリナだったら爆音も聞こえてくるはずだし、ノエルはサプレッサー付きの得物を好むから、彼女の場合は銃声は聞こえてこないのだ。
ドラムマガジンの中身はあと半分ほどだ。これを使い果たしたら、12時間経過するか、メニュー画面で別の武器をまた生産するしかない。
弾薬の補充されるまでの時間を短縮してくれるスキルがあれば便利なんだが、ポイントさえあれば同じ武器を生産し直してぶっ放せるからなのか、そういうスキルは用意されていないらしい。確かにそうすれば弾切れするのはありえないんだが、俺の場合は仲間の分の装備まで用意しなければならないため、これでもかというほどポイントを持っている親父と違って極力ポイントは節約しなければならないのだ。
遮蔽物の陰から顔を上げ、散弾をぶっ放す。どうやらナタリアのセミオート射撃は数発ほどブラドを直撃していたらしく、顔を上げた俺の散弾の餌食になる羽目になったブラドは、すでに眉間と胸板に風穴が開いている状態だった。
弱点で攻撃されているとは思えないほどの速度で傷口を再生させていたブラドが、いきなり遮蔽物の陰から獰猛なAA-12を構えて顔を出したこっちを見てぎょっとする。
もちろん、こいつに装填されている散弾は吸血鬼の弱点である銀の散弾だ。ブラドならば再生してしまうかもしれないが、間違いなく大きなダメージを与えられるだろう。
咄嗟にブラドは左手をグレネードランチャーから外し、素早くホルスターからコルトM1911A1を引き抜いてこっちへと向けてくる。.45ACP弾のストッピングパワーはかなり獰猛だが、キメラの外殻をそれで貫通するのは不可能である。すでに胸板や両腕は外殻で覆われていたから、借りにそこに被弾したとしても跳弾する音が部屋の中に響くだけだ。
さすがに眉間にぶち込まれるのはヤバいけどな。
でも、あのハンドガンが火を噴くことはないだろう。
仲間の匂いを察知していた俺は、ブラドの左腕がトリガーを引くことはないという事を理解していた。
すでにその腕には、シュタージが誇る最強の暗殺者の”糸”が絡みついていたのだから。
何の前触れもなく、かなり細い糸がブラドの左腕の肘の辺りに食い込む。ぎょっとしたブラドが腕を振り払ってそれを引き離そうとするが、”引き離される”羽目になったのはノエルが放った水銀の糸ではなく、ハンドガンを手にしていた彼の腕だった。
食い込んだ水銀の糸があっさりと皮膚を切り裂き、肉を両断しながら骨も容易く切断してしまう。ぶちん、と左腕の肘から先を切断される羽目になったブラドは歯を食いしばりながら一旦後退し、グレネードランチャー付きのXM8を乱射して俺たちを牽制してくる。
ノエルの生成する糸は、体内に鉱石や金属を取り込むことで性質を変えることができるという特徴がある。
例えば鉄鉱石を食べれば従来よりもはるかに硬い糸が生成されるようになるため、切れ味が劇的に上がるのだ。しかも体内に取り込んだ際に毒物はキメラの内臓によって除去されてしまうため、毒物によって死亡することもない。
そのため、吸血鬼との戦いでは、ノエルは彼らの弱点で攻撃するために水銀を飲んで水銀の糸を生成しているのである。
鉱石を取り込んで糸の性質を変えるという特徴は、彼女の持っているキングアラクネの遺伝子のおかげだろう。キングアラクネは肉食性の魔物だが、自分の糸を強化するために鉱石も積極的に摂取しているため、鉱石が豊富な地域に生息しているキングアラクネは自分よりも格上のドラゴンをあっさりと両断してしまうほど強力だという。
生息する地域によって危険度が変わる魔物は珍しくはない。
ノエルが身につけた能力は、糸を生成する能力と鉱石を取り込む能力だ。もちろん外殻を生成することもできるけれど、キングアラクネの外殻はサラマンダーの外殻ほど硬くはないので防御力は俺たちよりも劣っているのである。
腕の再生を終えたブラドが、こっちに向けてグレネードランチャーを放った。咄嗟に全身をダズル迷彩のような模様の外殻で覆いつつ、両腕で頭を守る。
ドン、と両腕に何かがぶつかる。グレネード弾だろうな、と思った頃には、ブラドが放った40mmグレネード弾がすぐ近くで炸裂し、生れ落ちた爆炎が俺を呑み込んでいた。
「た、タクヤッ!」
大丈夫だよ、ナタリア。
サラマンダーのキメラはかなり頑丈なんだ。
普通の人間だったらとっくに木っ端微塵だけど、俺が感じたのは爆発した衝撃だけだ。
サラマンダーの外殻はかなり分厚い。しかも表面の外殻は非常に硬くなっており、その下にはやや柔らかい外殻の層がある。その柔らかい外殻の層の下にはまた硬い外殻の層があるため、サラマンダーの外殻はちょっとした複合装甲のようになっている。
しかも、もし仮に粘着榴弾を叩き込まれて外殻が剥離する羽目になっても、外殻の内側にある強靭な筋肉繊維がその剥離した外殻を受け止めてしまうため、実質的に粘着榴弾もほとんど効果がないのだ。
簡単に言えば、外殻を生成することによる硬化が得意なサラマンダーのオスのキメラは、”身体能力の高い人間サイズの戦車”なのである。
だから40mmグレネード弾でも、この外殻を打ち破るのは難しい。
爆炎を纏ったまま姿勢を低くし、そのまま前方に突っ走る。今の一撃でダメージを与えられていない事を察していたのか、既にブラドはグレネード弾の装填をしつつ後方に下がり、攻撃する準備をしていた。
そのまま接近戦で散弾を全部ぶち込んでやるつもりだったんだが、接近は難しそうだ。
すると、今度はブラドの両足に何かが食い込んだ。
「…………!」
さっきブラドの左腕が切断された時と同じだ。細い何かが食い込んで、彼の両足の膝から下を切断しようとしているらしい。
再びノエルの糸が、後退しようとしていたブラドに牙を剥いた。
「無様ね、吸血鬼ヴァンパイア」
かつては病弱だった従妹が冷たい声で告げた途端、諜報指令室の床が真っ赤に染まる。
食い込んだ水銀の糸によって膝から下を切断される羽目になったブラドが、歯を食いしばりながら床に叩きつけられた。けれども、吸血鬼の弱点である”銀”で攻撃されているというのに、ブラドの両足の断面からは早くも肉と骨が生え始めていた。
断面から筋肉繊維が伸び、その内側で骨が凄まじい速さで生成されていく。骨と筋肉が段々と元通りになっていったかと思うと、同じように再生を始めた皮膚があっという間に筋肉を呑み込んでしまう。
けれども、足首から先の再生が終わるよりも先に、圧倒的な破壊力を持つ代物が、ころん、とブラドのすぐ目の前に落下した。
「!」
彼の顔の近くに落下したのは、2つの手榴弾だった。
片方はナタリアが放り投げた聖水手榴弾だ。
テンプル騎士団が運用している対吸血鬼手榴弾の1つで、爆風と共に彼らの苦手な聖水をぶちまけるという代物だ。必要なポイントも少ない上に、水銀を充填したタイプと比べると軽いという利点があるんだが、肝心な聖水が爆炎である程度蒸発してしまう上に、聖水を充填するために炸薬の量も減らしているため、吸血鬼以外の敵が相手になると殺傷力が不足してしまうという欠点がある。
その隣にイリナが投擲した少し大きな手榴弾は、水銀を充填した対吸血鬼手榴弾だった。
こちらは少しポイントが高い上に、水銀を充填しているせいで重いという欠点がある。しかも聖水をぶちまけるタイプと同じく炸薬の量を減らされているんだが、炸裂した際に衝撃波と爆発によって押し出された水銀が斬撃となって周囲の物体を切り刻むため、吸血鬼以外の敵にも極めて高い殺傷力を誇る。
吸血鬼が苦手とする2つの手榴弾が、目を見開いたブラドの顔の近くで炸裂する。水銀の斬撃と聖水を纏った衝撃波がブラドに牙を剥き、諜報指令室の中に並んでいるオペレーター用の机やモニターを木っ端微塵に破壊してしまう。
2つの弱点を同時に叩き込まれたのだから、ブラドも今の攻撃でかなりダメージを負った筈だ。
吸血鬼の中には弱点である銀や聖水で攻撃されても再生することができる連中がいる。大昔から生きている吸血鬼や、その大昔から生きている吸血鬼から血を与えられた吸血鬼は驚異的な再生能力を誇る上に、戦闘力は一般的な吸血鬼を上回るのだ。
ひたすら弱点で攻撃を続けていれば再生能力が機能しなくなるらしいが、複数の弱点で攻撃する方が効果的だという。例えば今しがたナタリアとイリナがお見舞いしたように、水銀と聖水で同時に攻撃すれば、その吸血鬼にもよるが、強力な吸血鬼の再生能力もあっという間に機能しなくなるという。
とはいえ、相手はあのレリエル・クロフォードの血を受け継いでいる男だ。吸血鬼の王の遺伝子を受け継いだ男が、そう簡単に倒せるわけがない。
AA-12を構えながら爆炎の中を睨みつけていた俺は、急に膨れ上がった濃密な闇属性の魔力を察知して顔をしかめた。
やっぱり、ブラドはまだ生きている。
日光を浴びた状態で今のような攻撃を繰り返せばすぐに殺せると思うんだが、残念ながらここはブレスト要塞の地下にある戦術区画だ。部隊を指揮するための司令部や機密情報を扱う諜報部隊の指令室がある極めて重要な区画だから、敵の砲弾や爆弾が貫通してこないように分厚い装甲をこれでもかというほど設置されている。歩兵用の武器でその装甲を打ち破れるわけがない。
舌打ちをしながら、爆炎の中に散弾を連射する。あくまでもブラドの闇属性の魔力を目印にして撃ちまくっているだけだから命中率はかなり低いだろうが、銀の散弾の攻撃で少しでも再生を阻害できれば問題はない。顔面に銀の弾丸を撃ち込まれた程度で死ぬ敵ではないのだから。
爆炎の中から、焦げた肉の臭いと共に鮮血の臭いが流れてくる。銀の散弾は命中しているのだろうか。
「――――――――――力を貸せ、”ブラック・ファング”よ」
「―――――――!」
反射的に、俺は後ろへとジャンプしていた。
ドラムマガジンの中にはまだ散弾が残っているし、標的のブラドはまだあの爆炎の中で散弾を喰らいながら傷口を再生させている最中に違いない。だから手榴弾で身体を抉られた挙句、散弾を喰らい続けているブラドが反撃できるわけがない。
けれども、すぐに後ろにジャンプしなければ危険だと思った。
次の瞬間、何かが足元の床を抉って飛び出した。床を埋め尽くしていた書類やモニターの残骸に風穴を開けて飛び出したその物体は、幸い後ろへとジャンプしている最中の俺の目の前を掠めて天井へと伸びていったが、両手で持っていたAA-12がその先端部に串刺しにされる羽目になった。がつん、とエジェクション・ポートのすぐ近くを貫かれたAA-12が弾き飛ばされ、机の向こうへと飛んで行ってしまう。
「ぐ…………ッ!?」
「タクヤっ!」
何だ、今の攻撃は…………!?
念のため身体を外殻で覆ったまま後ろへと後退し、テルミットナイフとPL-14を引き抜く。
ついさっき、ブラドの魔力が急激に膨れ上がっていた。おそらくその魔力を使って魔術を使ったか、何かを召喚したに違いない。
唇を噛み締めながら目の前の床から突き出ていた物体を凝視した俺は、目を見開く羽目になった。
「―――――――槍?」
いきなり床を突き破ってAA-12を吹っ飛ばし、我賭けの照明が連なっている天井を串刺しにしようとしているかのように伸びているその物体は――――――――漆黒の槍だった。
古代文字が刻まされた漆黒の柄の先に、サバイバルナイフを彷彿とさせる形状の刀身が取り付けられた槍だ。傍から見れば単なる黒い槍にしか見えないかもしれないが――――――――槍にしては、柄が異様に長いのだ。
床から突き出ている柄の部分だけでも5mはあるのではないだろうか。しかも床の中に埋まっている部分も含めれば、間違いなくそれ以上の長さになるだろう。
人間が突き出す槍にしては長すぎるが、だからと言って巨漢やオークの兵士に持たせるにしては柄が細すぎる。まるで何本もの槍の柄の部分だけをこれでもかというほど繋げたかのように、この槍は長い。
すると、その異様な槍が急に縮み始めた。複雑な模様が刻まれた柄の部分が凄まじい速さで縮んだかと思うと、そのまま床の穴へと槍の先端部が吸い込まれていく。
「タクヤ、あれは…………!?」
槍が吸い込まれていった穴にPL-14を向けながら警戒していると、AK-12を構えていたナタリアがブラドのいる方向を指差しながら叫んだ。異様な槍を凝視している間にブラドを覆っていた爆炎や黒煙は消え失せてしまっていたらしく、先ほど2つの手榴弾が炸裂した場所には、漆黒のコートを身に纏ったブラドが佇んでいる。
前世の世界で友人だった少年は、いつの間にか漆黒の柄と刀身を持つ槍を手にしていた。柄には古代文字がこれでもかというほど刻まれており、サバイバルナイフを彷彿とさせる刀身にはセレーションがある。この異世界の伝統的な武器と、俺たちの世界のナイフを組み合わせたような異質な槍だ。
ブラドの足元にある穴を目にした瞬間、俺はぎょっとした。
先ほど槍が飛び出してきた穴と大きさはほぼ同じなのではないだろうか。
というか、あの槍は先ほど俺のAA-12を吹っ飛ばしやがった槍じゃないのか!?
「なっ…………!?」
確かに外見は同じだが――――――――長さが全然違う。
さっき攻撃された時は5m以上の長さがあったのに、無表情のまま傷口を再生させているブラドが右手に持っている槍は、明らかに1.2m程度しか長さがない。さっきの槍と比べると柄が明らかに短すぎるのだ。
柄を切り離したのかと思ったが、あいつの足元にはあの槍の柄らしき部品は転がっていない。焦げた書類の山や粉砕されたモニターの破片が転がり、ちょっとしたクレーターを彩っているだけである。
「―――――――こいつは我が父から受け継いだ伝説の槍だ」
「伝説の槍…………!?」
レリエル・クロフォードから受け継いだだと…………!?
ブラドがそう言いながら槍を構えた瞬間、俺は無意識のうちに高を括っていた事に気付いた。ブラドはヴリシアの時よりも手強くなっていることは予測していたが、せいぜいレベルを上げてステータスを強化し、アンロックした強力な武器を用意している程度だろうと決めつけていたのである。
しかし、ブラドはあのレリエル・クロフォードの息子だ。お互いの父親が相討ちになってこの世を去っているとはいえ、その前に父親から武器や技術を受け継いでいてもおかしくはないじゃないか。
俺やラウラだって、転生者の狩り方やキメラの能力を受け継いでいるのだから。
くそったれ、あいつは伝説の武器を受け継いでいたのか…………!
ブラドがその槍を突き出した瞬間、漆黒の槍の先端部が4つに割れた。
「!?」
違う、割れたんじゃなくて”枝分かれした”んだ…………!
上下左右に枝分かれした槍の先端部たちは、直角に曲がりながら諜報指令室の中を這い回ったかと思うと、何の前触れもなく向きを変え、まるで標的をロックオンしたミサイルのように俺たちに襲い掛かってきやがった!
「避けろッ!!」
咄嗟に右へとジャンプしつつ、俺に向かって飛んできた槍の先端部へと立て続けにPL-14の9mm弾をお見舞いする。幸いその槍の先端部は俺を狙っているだけらしく、そのまま突っ込んできてくれたおかげで弾丸を命中させるのは簡単だ。
けれども先端部にある刃の切れ味が予想以上に凄まじいらしく、命中した9mm弾が、なんと火花を散らしながら両断されてしまう。すぐに迎撃は無意味だと判断しつつハンドガンの射撃を止め、まるで戦闘機を追尾する空対空ミサイルのように突進してきた槍の先端部を左にジャンプして回避する。
外殻で防御するという手もあったけど、相手の槍の切れ味が未知数だから回避することにした。もし相手の槍の切れ味が外殻すら両断してしまうほどだったら、防御する意味はない。それに俺は賭け事をしない主義だから、可能な限りリスクの低い選択肢を選ぶようにしている。
回避を選んだのは正解だったらしく、俺の胸板を貫くことができなかったブラドの槍は近くのモニターに突き刺さると、外で蹂躙されていた吸血鬼たちの映像を撃ち仕出していたモニターを粉砕して動きを止めた。
ナタリアとイリナとノエルの3人も辛うじて回避に成功したらしい。多弾頭ミサイルのような槍の攻撃を仲間たちが躱したのを確認して安心した俺は、PL-14をブラドに向ける。
あの伝説の槍が、ブラドの切り札なのだろうか。
おそらくあの槍は、自由自在に先端部を分裂させたり、柄の長さを変えることができるのだろう。分裂させられる上限や柄を伸ばすことができる上限は不明だが、少なくともこのタンプル搭の諜報指令室よりも一回り小さいブレスト要塞の諜報指令室の中にいる以上は、あの槍の射程距離内だと考えるべきだ。
銃を駆使すれば対抗できるかもしれないが、相手が切り札を出したのならばこっちも切り札で応戦した方がいいかもしれない。
そう思いながら魔力の加圧を開始するが、この”切り札”は魔力の消耗があまりにも激しすぎる。もしブラドを倒せなければ、体内の魔力が枯渇して身動きが取れなくなってしまうのは想像に難くない。
ならばこのまま4人でブラドを攻撃して持久戦を始めるべきだろう。それに、ノエルには触れた対象を強制的に自殺させる”自殺命令アポトーシス”がある。俺たちが囮になりながらノエルを接近させられれば、それで勝負はつく筈だ。
―――――――いや、この中で最年少のノエルにそんな危険なことをさせるわけにはいかない。
リスクと苦痛は、俺が背負わなければならない。
俺はテンプル騎士団の団長なのだから。
右手のテルミットナイフを鞘の中に戻し、ダズル迷彩のような模様の外殻に覆われた右手を目の前に突き出す。身体の中に蓄積されている魔力を更に加圧し、その魔力を右腕に集中させていく。
外殻の表面に青白い電撃と蒼い火の粉が姿を現し、右腕の表面を舞い始める。やがて右腕だけでなく身体の周囲にも電撃と蒼い火の粉が舞い始め、薄暗い諜報指令室の中をどんどん蒼い光で満たしていった。
体内の魔力が急激に加圧され始めたせいなのか、頭から突き出ているキメラの角が伸びていく。転生者ハンターのコートにあるフードに開けてある穴から突き出た角の先端部も蒼い光を発し始める。
「やらせるかッ! ―――――――くっ!?」
切り札を使おうとしていることを理解したブラドが再び槍を突き出そうとするが、彼が腕を突き出すよりも先に、ブラドの足元に再び安全ピンが引き抜かれた手榴弾が落下する。ぎょっとしたブラドは同じ轍を踏む前に左へと飛んで回避するが、回避したばかりのブラドへとノエルとナタリアがライフルのフルオート射撃をお見舞いして牽制し、あの槍の攻撃を阻止してくれていた。
早く始めなさいよと言わんばかりにこっちをちらりと見るナタリア。空になったマガジンを交換するナタリアの顔を見て微笑んでから、右手に力を込めた。
やがて、足元で蒼い光が産声を上げる。蒼い火の粉の塊にも見えるその猛烈な光がぐるぐると回転を始めたかと思うと、その蒼い光の塊の中から、剣の柄が引き抜けと言わんばかりにゆっくりと伸びてきた。
「久しぶりだな――――――――」
”22年前のネイリンゲン”で出会ったその得物の柄を外殻で覆われた怪物の右手で思い切り握りながら、蒼い光の中でニヤリと笑う。柄を握っている右腕に蓄積されていた高圧の魔力が急激にその剣へと吸収されたのを感知した身体が、高圧の魔力の生成を始める。
まるでステラにキスされている時のように魔力が吸われていく感覚を感じながら、俺はその柄を蒼い光の中から思い切り引っ張った。
パキンッ、とガラスが粉砕されたかのような音が諜報指令室に響き渡ると同時に、光の中から姿を現した蒼い剣の刀身があらわになる。
蒼い光の中から現れた剣は、大昔のスコットランドの戦士たちが愛用したクレイモアのようにすらりとしていた。華奢な刀身の根元は紺色になっているけれど、先端部に行くにつれて、まるでサファイアのように透き通った明るい蒼へと変色している。綺麗な蒼のグラデーションで彩られたクレイモアをくるりと回してから、母さんから剣術を教わった時の事を思い出しつつ、切っ先をブラドへと向けた。
この剣は、22年前のネイリンゲンへと攻め込んできた母さんの許婚ジョシュアから奪い取った『星剣スターライト』という伝説の剣だ。かつては闇属性の魔力によって汚染された禍々しい魔剣だったんだが、ジョシュアから奪い取った際にこの剣が突然変異を起こし、禍々しい剣から幻想的な蒼い剣に生まれ変わったのである。
「蒼い剣………!?」
「ジョシュアに感謝しないとな」
あいつは母さんを魔剣の復活に利用していたクソ野郎だけど、こんなに素晴らしい剣をくれたのだから。
ありがとね、ジョシュア君。
「―――――――続けるぞ、ブラド」
「ふん…………この槍で串刺しにして無残に殺してやる」
面白そうじゃないか。
俺もお前を無残に殺したかったんだ。俺たちの同志を何人も殺した挙句、ラウラの手足を奪ったメイドの主人なんだからな。
責任は取ってもらうぞ、ブラド…………!
「―――――――ならば俺は、どんなに濃いモザイクでも修正しきれないくらい無残に殺してやろう」