異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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復帰

 

 爆風に吹き飛ばされた灰色の砂を頭から浴びながら、ギュンターはホロサイトの向こうの敵へと銀の5.56mm弾を叩き込んだ。身体中に包帯を巻いていた負傷兵の身体に風穴が開き、内臓の一部や鮮血で灰色の砂を赤やピンク色に染めながら崩れ落ちていく。

 

 

 

 彼が装備しているFA-MASの銃声は、全く聞こえていなかった。今しがた彼のすぐ近くに着弾した砲弾の爆音が、キーン、という音で彼の耳を塞いでしまっているかのように、すぐ近くで銃声が轟いているにもかかわらず、5.56mm弾の銃声を聞くことができない。

 

 

 

 もしかしたら鼓膜が破れているのかもしれない、と思いつつ、グリップの後方にあるマガジンを取り外す。空になったマガジンをポーチの中へと突っ込みながら突っ走り、撃破されてしまった味方のシェリダンの残骸の陰へと飛び込む。

 

 

 

 この戦いに投入されているハーレム・ヘルファイターズの戦車は5両のみだ。3両のシェリダンと2両のルクレールで編成されている小規模な戦車部隊は被弾しつつ戦闘を継続しているものの、装甲の薄いシェリダンはルクレールのように堅牢な装甲を装備していない。

 

 

 

 アクティブ防御システムで対戦車ミサイルやロケット弾を撃墜する事ができるようになっているとはいえ、戦車から放たれるAPFSDSを迎撃することは不可能だ。堅牢な複合装甲を持つルクレールならば被弾しても耐えられるが、防御力の低いシェリダンが被弾すればあっさりと撃破されてしまうだろう。

 

 

 

 新しいマガジンを装着し、コッキングレバーを引く。ガチン、とコッキングレバーが音を奏でた瞬間、撃破されて炎上しているシェリダンの装甲の表面に6.8mm弾が喰らい付き、弾丸が跳弾する音を響かせた。

 

 

 

 舌打ちをしながら銃身を残骸の陰から突き出し、照準器を覗き込まずにそのまま何度もトリガーを引く。敵が他の兵士を狙うまで待つべきだという作戦を瞬時に切り捨てたギュンターは、ちゃんと銃声が聞こえ始めたことに安堵しながら反撃を継続する。

 

 

 

 しかし、何発弾丸をセミオートで放っても、シェリダンの装甲に激突する銃弾の音は全く減らなかった。襲い掛かってくるのが銃弾だけならばこのまま応戦し、囮になって味方を掩護することもできるが、もし敵が健在な迫撃砲まで投入してくればギュンターも傍らのシェリダンと同じ運命を辿ることになるだろう。

 

 

 

(くそ…………拙いかもな)

 

 

 

 無駄撃ちになると判断したギュンターは、FA-MASで応戦するのを止めながら戦車の残骸をちらりと見た。肉が焦げる臭いと炎をハッチや装甲の風穴から覗かせつつ沈黙している味方のシェリダンは、敵のレオパルトが放った砲弾であっさりと撃破されてしまったらしい。砲塔は健在だが、車体の正面には大穴が空いており、その風穴から炎で真っ黒にされていく仲間の死体が見えている。

 

 

 

 まだ原形を留めていた砲塔を見上げたギュンターは、開きかけのハッチのすぐ近くに搭載されている機関銃を見上げた。

 

 

 

 砲塔のハッチに搭載されている重機関銃は健在であることを確認したギュンターは、FA-MASを背中に背負いつつ、ポーチの中からスモークグレネードを取り出す。室内ではない上に風が吹いているため、スモークグレネードを隠れ蓑にできる時間は室内で使用した場合よりも一気に少なくなってしまうだろう。

 

 

 

 しかし、何もせずに砲塔の上までよじ登るよりはマシである。

 

 

 

 息を吐きながら、弾丸が当たりませんようにと祈り、砲塔の形状と重機関銃の位置を記憶してからスモークグレネードの安全ピンを引き抜く。

 

 

 

 スモークグレネードをシェリダンの正面装甲のすぐ近くに落とした直後、灰色の砂の上に落下したスモークグレネードの中から白煙が生れ落ち、瞬く間に撃破されたシェリダンの車体と砲塔を包み込んだ。

 

 

 

 敵兵と戦車の残骸の間に放り投げれば敵の攻撃の命中精度は一気に下がる。しかし、敵と戦車の間に投げれば味方の攻撃の邪魔をしてしまう恐れがある上に、前方の敵の視界しか遮ることができない。そのためギュンターはスモークグレネードを戦車の残骸のすぐ近くに落とし、自分自身と戦車をスモークで包み込んでしまうことで、味方の攻撃の邪魔をせずに敵の射撃から身を守ろうとしたのである。

 

 

 

 砂が付着しているせいでざらざらしているシェリダンの車体をよじ登る。加熱された装甲に触れながら砲塔の上に上がった彼は、敵兵が適当に放った弾丸が砲塔を直撃する度にびくりとしながら、白煙の中で重機関銃へと手を伸ばした。

 

 

 

 金具を素早く外してベルトの入った箱と一緒に重機関銃を取り外す。バレルジャケットを搭載した重機関銃の本隊からキャリングハンドルが伸びていることに気付いたギュンターは、ニヤリと笑いながらがっちりとした左手でそのキャリングハンドルを掴む。

 

 

 

 シェリダンの砲塔の上に搭載されていたのは、『ブローニングM1919』と呼ばれるアメリカ製の重機関銃であった。.30-06スプリングフィールド弾を使用する機関銃であり、第二次世界大戦で日本軍やドイツ軍に猛威を振るった強力な代物だ。

 

 

 

 長方形の金属の箱からバレルジャケットを搭載した銃身を伸ばし、後端部に小さなグリップを搭載したような外見をしている。ライフルのような銃床は搭載されていない上に非常に重いという欠点があるものの、水が無ければ使用できなくなってしまう”水冷式”とは異なり、空気を使って銃身を冷却する事が可能な空冷式であるため、水を使う必要は全くない。

 

 

 

 場合によってはここから取り外し、乗組員たちが使用する事を想定していたのだろう。撃破されたシェリダンの乗組員たちが使用する事のなかった重機関銃を構えたギュンターは、自分の立っている砲塔の下で黒焦げになっている戦友たちに、借りるぞ、と告げてから、薄れ始めたスモークの外へと躍り出た。

 

 

 

 灰色の迷彩服に身を包んだギュンターが飛び出すと同時に、防壁の内側へと侵入しているハーレム・ヘルファイターズへと機関銃を向けていた兵士の頭が唐突に揺れた。後頭部から鮮血を噴き出しながら仰向けに崩れ落ちた敵兵を一瞥したギュンターは、戦車の残骸から拝借した重機関銃を構えつつ、今の一撃が誰の狙撃なのかを理解する。

 

 

 

 後方でMAS49のスコープを覗き込んでいる、カレンの狙撃だ。

 

 

 

 モリガンのメンバーの1人である彼女が得意とするのは、セミオートマチック式のマークスマンライフルでの中距離狙撃や砲撃戦である。正確としか言いようがないほどの命中精度と、早撃ちを彷彿とさせるほどの連射速度を両立させた彼女の狙撃は、中距離にいる敵をあっという間に射抜いてしまうのである。

 

 

 

 カノンを出産してからはあまり最前線で戦うことがなくなったため、若き日の技術が鈍っているのではないかと思っていたギュンターだったが、カレンの正確で素早い狙撃を見た彼は、安心しながら重機関銃を構えた。

 

 

 

 ギュンターは狙撃が得意ではない。モリガンのメンバーは優秀な傭兵ばかりで構成されていたが、そのメンバーの中で最も射撃の命中精度が低いのはギュンターであった。

 

 

 

 重火器を両手に装備し、照準器を覗き込まずに弾丸をばら撒く戦い方を得意とするため、狙撃には全く向いていないのだ。しかし屈強な身体をフル活用した彼が放つ弾幕はかなり強烈であり、乱戦ではたった1人で敵の大軍を押し返してしまうほどの破壊力を誇る。

 

 

 

 それゆえに、彼は正反対の戦い方をするカレンと組むことを好んだ。

 

 

 

 正確な狙撃を得意とするカレンに支援されつつ彼女を守り、接近してくる敵を機関銃の弾幕で粉砕するのである。

 

 

 

 ドルレアン夫妻の戦い方は、22年前から全然変わっていない。

 

 

 

「―――――――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

 

 左手でキャリングハンドルを握りながら、雄叫びを上げてトリガーを引く。バレルジャケットを搭載した銃身の中を、高い殺傷力を誇る.30-06スプリングフィールド弾が駆け抜けていき、マズルフラッシュと共に銃口から踊り出す。

 

 

 

 大口径の弾丸の群れが吸血鬼の歩兵の頭を食い破り、上顎から上を粉砕する。脳味噌の破片や眼球をばら撒きながら崩れ落ちた死体の傍らにいた兵士も、弾丸の群れに片足を捥ぎ取られてしまう。起き上がりつつハンドガンへと手を伸ばすが、反撃しようとしていた彼の眉間にカレンの無慈悲な弾丸が風穴を開け、負傷兵に止めを刺した。

 

 

 

 5.56mm弾や6.8mm弾が立て続けにギュンターの大きな肩を掠め、胸板に喰らい付く。数発の弾丸を叩き込まれる羽目になった彼の迷彩服が赤く染まり始めたが、ギュンターは激痛を感じながら前進を続けた。

 

 

 

 マズルフラッシュが迸る銃口を向けられた敵兵の身体が次々に弾け飛んで行く。かつて日本軍やドイツ軍の兵士たちを蹂躙した強力な重機関銃が、異世界の吸血鬼の兵士たちに猛威を振るっていた。

 

 

 

 またしても5.56mm弾がギュンターの右肩を直撃する。筋肉を抉った弾丸に右肩を突き飛ばされるが、屈強なハーフエルフはその程度の負傷では倒れない。ハーフエルフやオークは勇敢な男性が多いため、大半の男性は負傷すれば逆に奮い立ち、隙を見て応急処置をしてから戦闘を続けるという。

 

 

 

 弾丸を撃ち込まれた程度で使い物にならなくなる人間よりも、彼らは遥かに頑丈なのだ。

 

 

 

 6.8mm弾に太腿の肉を抉られてもお構いなしにブローニングM1919重機関銃を撃ち続けつつ、ひたすら敵兵へと突進していく。ベルトが次々に機関銃へと吸い込まれていき、排出された薬莢が熱を纏いながら灰色の砂へと落下していく。

 

 

 

 他のハーフエルフの兵士たちも死闘を繰り広げていた。立て続けに被弾した兵士が雄叫びを上げながら聖水を塗ったマチェットを振り上げ、吸血鬼の兵士の頭を両断する。その兵士の傍らでは吸血鬼の兵士とハーフエルフの兵士がヘルメットで殴り合いを始めており、硬いヘルメットで相手を殴りつける度に血飛沫を吹き上げていた。

 

 

 

「くそ…………」

 

 

 

 マズルフラッシュが消え去り、バレルジャケットを搭載した銃身が陽炎を生み出す。箱の中のベルトがなくなっていることを確認してから舌打ちをしたギュンターは、重い重機関銃を投げ捨ててFA-MASを取り出し、銃剣を装着してから敵兵の群れへと突撃していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間の手足は、どんな魔術を使っても生やすことはできない。

 

 

 

 どんなに強力な治療魔術を使っても、切断された手足を断面から生やすのではなく、その断面を”塞ぐ”のが精一杯なのだ。それゆえに大昔から戦争で手足を失った人々は、自分たちの本来の手足を再び生やすのではなく、魔物の素材を使って義手と義足を作り、それを移植することで失った手足の代用品にしてきたのである。

 

 

 

 前世の世界では機械の義手や義足が使われていたが、こちらの世界では魔物の筋肉繊維や骨を使った義手や義足が主流なのだ。

 

 

 

 だからラウラの手足も、二度と生えるわけがないと思っていた。

 

 

 

「ラウラ…………その手足は一体…………?」

 

 

 

 目を見開きながら、あのメイドに奪われてしまった筈の左腕と左足を凝視する。

 

 

 

 本当ならば義手と義足を移植する予定だった彼女の左腕と左足は、しっかりと生えていた。しかも魔物の素材で作られた代物を移植したのではないらしく、彼女の黒い制服の袖やミニスカートからは母親譲りの白い肌が覗いている。

 

 

 

 それを確認した俺は、混乱しそうになった。

 

 

 

 医務室のベッドの上にいたラウラは確かに手足がなかった。魔術で塞がれた断面の周囲にはちゃんと包帯が巻かれていたし、狙撃兵たちが回収した彼女の千切れた手足も確認している。大口径のライフル弾に射抜かれたせいでズタズタにされていたのだから、ただ単にその腕を”くっつけた”わけではないだろう。

 

 

 

 仮にあれが彼女の手足を再現した義手と義足だったとしても、移植した後にはリハビリをしなければならない。だからラウラはこの戦いには参加できない筈だ。

 

 

 

 なぜ、彼女はここにいるのだろうか…………?

 

 

 

 彼女に質問しようと思ったけれど、どうして左腕と左足があるのか聞いている余裕はないらしい。

 

 

 

 ラウラの容赦のない狙撃―――――――しかもぶっ放したのは大口径の23mm弾だ―――――――で上半身を捥ぎ取られたブラドが、すでに再生を終えてラウラを睨みつけていたことに気付いた俺は、咄嗟に腰の後ろに戻していたAK-15に手を伸ばし、セレクターレバーをフルオートに切り替える。弾丸を全部お見舞いしてやろうと思ったんだが、俺が引き金を引くよりも先に、ブラドが床に転がっていた自分のXM8を拾い上げ、銃口をラウラへと向けやがった。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 慌ててホロサイトから目を離し、ラウラを庇うために横へと思い切り飛ぶ。キメラの種類にもよるが、基本的に外殻による防御を得意とするのはオスのキメラの方だ。しかも俺は転生者だから、防御力のステータスで相手の攻撃を防ぐことができる場合もあるので、仮に外殻で覆っていない場所に弾丸が命中してもそれほど重傷は負わない。

 

 

 

 どうやって手足を元通りにしたのかは分からないが、復帰してくれたお姉ちゃんを死なせるわけにはいかない…………!

 

 

 

 しかし、その弾丸は俺を相手にしてくれなかった。

 

 

 

「―――――――!」

 

 

 

 3発の6.8mm弾が、回転しながら俺の隣を通過していく。

 

 

 

 そして、俺が諜報指令室の床に落下すると同時に、後方から人間が倒れる音と、その人物が手にしていた銃が床に落下する音が聞こえてきた。

 

 

 

「え―――――――」

 

 

 

 ―――――――ラウラが倒れたのか?

 

 

 

 目を見開きながら、ゆっくりと後ろを振り向く。外殻で防いでいたのであれば、エリクサーを飲ませるだけで傷を塞ぐことができる筈だ。けれども外殻を覆うのが間に合わなかったのであれば、防御力の低いラウラは弾丸の直撃には耐えられない。

 

 

 

 立ち上がってから、俺は床に倒れているラウラを見下ろした。

 

 

 

 すぐに起き上がってくれるだろうと思いながら見下ろしていたんだけど、弾丸で撃ち抜かれる羽目になったラウラは、動いてくれなかった。

 

 

 

 ―――――――すらりとしたお腹と胸と眉間の三ヵ所に、風穴が開いていたのである。

 

 

 

 その風穴を開けたのは、先ほど彼女に喰らい付いた弾丸たちだろう。

 

 

 

「ら…………ラウ………ラ…………?」

 

 

 

「嘘…………!」

 

 

 

「お姉ちゃんッ!!」

 

 

 

 ちょっと待ってよ…………。

 

 

 

 AK-15を床の上に置き、倒れている彼女に静かに手を伸ばす。母親譲りの白い肌は風穴から流れている鮮血で真っ赤に染まっていている。左手で彼女の後頭部を支えて体を揺すろうとしたその時、父親譲りの赤毛で覆われた後頭部から、ピンク色の脳の一部や彼女の頭の中にあるメロン体の一部が飛び出していることに気付いた。

 

 

 

 ラウラの血で手が真っ赤になってしまったけれど、俺はそのまま彼女の亡骸を抱き抱えた。猛烈な鮮血の臭いが鼻孔を支配したけれど、まだ彼女の甘い香りは消えていない。

 

 

 

 せっかく助けに来てくれたのに…………。

 

 

 

「やめてくれよ…………」

 

 

 

 やっぱり、ラウラを退役させるべきだった。

 

 

 

 一緒に冒険ができなくなったとしても、俺は彼女を愛し続けるつもりだった。

 

 

 

 血まみれのラウラの亡骸を思い切り抱きしめながら、涙を拭い去った。

 

 

 

「…………ふん、魔女め…………やっと死にやがったか」

 

 

 

 …………黙れよ、クソ野郎。

 

 

 

「どうした? 大好きなお姉ちゃんが殺されて悲しいのか? ふん、甘えん坊が」

 

 

 

「……………………黙れ」

 

 

 

 彼女の亡骸をそっと床の上に寝かせてから、ラウラの血で真っ赤になった手を伸ばし、床の上のAK-15のグリップを掴み取る。左手を銃身の下のグレネードランチャーへと伸ばしながら立ち上がり、即座に銃口をブラドへと向けた。

 

 

 

 この男が、憎たらしい。

 

 

 

 最愛の姉を殺したこの男を、惨殺したい。

 

 

 

 思い切り歯を食いしばりながらホロサイトを覗き込む。猛烈な憤怒のせいで体内の血液の比率が暴走しているのか、口の中に生えている歯の形状がドラゴンの牙のような形状に勝手に変わっていく。

 

 

 

 サラマンダーの血液の比率を80%以上にすると、サラマンダーのキメラは”ヤークト・サラマンドル”と呼ばれる人間とサラマンダーが融合したような姿の怪物に変貌し、理性を失ってしまうという。だからそれ以上の比率にはするなと幼少の頃に親父に何度も言われたのだが、多分この怒りに耐えるのは無理だろう。

 

 

 

 もう、怪物になってしまっても構わない。もし怪物になってしまったら誰かに殺してもらおう。

 

 

 

 そうすれば、あの世でまたラウラに会えるのだから。

 

 

 

「お前は、絶対に―――――――」

 

 

 

 最愛の彼女ラウラを殺された憎しみをぶちまけようとした、その時だった。

 

 

 

 すぐ近くから伸びてきた真っ直ぐな手が、思い切りグリップを握っていた筈の俺の両腕から、ブラドを惨殺する準備をすべて終えていたAK-15をあっさりと奪い取ったのである。左手でトリガーを引くか、右手でトリガーを引けば、ラウラの命を奪った憎たらしい男の肉体は木っ端微塵になるか、蜂の巣になる筈だった。

 

 

 

 けれども目の前の少年にその殺意を代わりにぶつけてくれたのは、俺ではない。

 

 

 

 ポンッ、と音を響かせたグレネード弾が、こっちを見ながらぎょっとしているブラドの腹に飛び込んだ。水銀榴弾が即座に起爆して、ブラドの腹を爆炎と水銀の斬撃で滅茶苦茶にしてしまう。肋骨が内側から抉られて黒焦げになり、焼けた肉がこびりついた状態のまま床の上に落下していく。

 

 

 

 再び上半身を消し飛ばされる羽目になったブラドが、モニターの破片だらけの床の上に崩れ落ちる。

 

 

 

「ふふふっ、お姉ちゃんは大丈夫だよ♪」

 

 

 

「え―――――――」

 

 

 

 俺を支配していた混乱が、産声を上げた驚愕に食い尽くされた。

 

 

 

 すぐ隣から、彼女の声が聞こえてきたのである。

 

 

 

 数秒前に腹と胸と眉間を弾丸に射抜かれて、後頭部から脳味噌とメロン体の残骸をあらわにしながら死んでしまった腹違いの姉の声が。

 

 

 

 ブラドがぎょっとしていた理由を理解しつつ、俺も左隣にいる人影を振り向く。

 

 

 

「ラウラ…………?」

 

 

 

 隣にいたのは、真っ黒なテンプル騎士団の制服とミニスカートに身を包んだ、最愛の姉だった。数秒前に弾丸に貫かれて戦死したばかりだというのに、どういうわけなのか俺が使っていたAK-15を拝借して、グレネードランチャーでブラドを吹き飛ばしたのである。

 

 

 

 ど、どういうことだ? 戦死しちゃったんじゃないのか…………?

 

 

 

 またしても混乱が支配し始めるが、炎を思わせる赤毛に覆われた後頭部と、弾丸に撃ち抜かれた筈の眉間を目にした瞬間、先ほどのように混乱しないうちに答えを手に入れることができた。

 

 

 

 弾丸に穿たれた風穴が、段々と塞がっているのである。

 

 

 

 風穴の中で頭蓋骨や肉が結び付き合い、その表面を白い皮膚が飲み込んでいく。後頭部から飛び出した脳味噌やメロン体の残骸も、彼女の頭の中へと吸い込まれていったかと思うと、ラウラの後頭部を覆っていた鮮血も段々と消え始める。

 

 

 

「そ、それは…………」

 

 

 

 キメラに、そんな能力はない。

 

 

 

 吸血鬼のように傷口を塞いで、”死”を希釈することはできないのだ。

 

 

 

「吸血鬼の…………再生能力……………!?」

 

 

 

 その仮説が産声を上げた瞬間、彼女の手足が元通りになった理由も理解した。

 

 

 

 ―――――――手足を失った吸血鬼のように、再生させたのだ。

 

 

 

 吸血鬼は弱点で攻撃されなければ、すぐに傷口を塞いでしまうことができる。そのため他の種族は手足を失えば義手や義足を移植しなければならないが、吸血鬼は弱点で攻撃されていなければ、それを移植する必要はないのである。

 

 

 

 でも、どうして再生能力が使えるんだ…………!?

 

 

 

 塞がっていく彼女の傷口を見つめながら目を見開いている俺を見つめながら微笑んだラウラは、右手を伸ばして俺の顔を引き寄せて容赦なく唇を奪った。すぐに唇を離した彼女は、まだ混乱している俺にAK-15を持たせると、ニコニコしながら告げた。

 

 

 

「大丈夫だよ。―――――――お姉ちゃんは、タクヤの子供を産むまでは死ぬつもりはないから」

 

 

 

 

 

 

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