異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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キメラと吸血鬼の決戦

 

「待ってよ…………タクヤを置いて行けっていうの!?」

 

 今まで俺は何度も無茶な戦い方をしてきたが、多分これが人生最大の無茶になるかもしれない。

 

 数分後に圧倒的な破壊力を誇るMOAB弾頭による砲撃が始まる。一発で敵の地上部隊に大打撃を与えてしまうMOAB弾頭が、これでもかというほどこの要塞に撃ち込まれるのだ。いくら堅牢な岩盤と装甲で守られているとはいえ、立て続けにそんな砲弾を叩き込まれればこの要塞は間違いなくカルガニスタンの砂漠から消え去るだろう。

 

 その要塞の中で、宿敵と最後まで一騎討ちをさせてくれと頼んだのである。

 

 はっきり言うと、正気の沙汰ではない。下手をすれば騎士団の団長がここで敵の総大将と共倒れになる可能性もあるし、俺が敗北してブラドを取り逃がし、弱体化した騎士団を危険に晒してしまうという可能性もある。

 

 けれども――――――――この男との決着は、自分でつけたかった。

 

 前世では友人だったこの男は、自分の手で葬りたい。

 

「頼む、ナタリア」

 

「何言ってんのよ…………あんた、バカじゃないの!? 騎士団の団長を置いて行くわけにはいかないわ!」

 

「ナタリア…………………俺に決着をつけさせてくれ」

 

 彼女の紫色の瞳を見つめて告げてから、俺は彼女に頭を下げた。

 

 多分、イリナやノエルたちも許してくれないだろう。ラウラも俺を連れ帰ろうとするかもしれない。けれどもブラドとの決着は、俺が付けなければならないのだ。あいつの憎悪を断ち切るには、ここでブラドを倒さなければならない。

 

 もしここで俺まで退避してしまえば、ブラドも退避するだろう。周囲が連合軍とテンプル騎士団の大部隊に包囲されているとはいえ、この男ならばその包囲網を強引に脱出することはできるかもしれない。

 

 脱出してからまた吸血鬼の兵士を集め、攻撃を仕掛けてくる可能性は高いだろう。吸血鬼の寿命は長いから、いくらでも時間をかけて準備をすることができるのだから。もしかすると俺がお爺さんになった頃に攻め込んでくるかもしれないし、俺たちの子孫にブラドが牙を剥くかもしれない。

 

 だからここで終わらせる必要があった。

 

 ブラドの憎悪と、ハヤカワ家とクロフォード家の因縁を。

 

 多分、その資格があるのは俺だけだろう。今までやってきた無茶な戦いの比ではないほど無茶な考えかもしれないが、俺に戦わせてほしい。

 

「…………」

 

 頭を下げ続けていると、こつん、と硬い何かに頭を軽く叩かれた。

 

 顔を上げてみると、ナタリアがポーチの中に入っていたテンプル騎士団仕様のAK-12のマガジンを、使えと言わんばかりに差し出してくれていた。

 

「……………無茶するなって約束、また破ったわね」

 

「ごめん……………」

 

「はぁ……………でも、あんたなら生きて帰ってくると思うし、大丈夫かもしれないわね」

 

「…………ありがとう」

 

 無茶をするな、という約束を破るのは何回目だろうか。そう思いながら差し出されたマガジンをありがたく受け取り、ポーチの中に突っ込む。すでにAK-15に装着しているマガジンも含めるとこれで残りのマガジンは3つ。グレネード弾は1発のみで、手榴弾はもうゼロだ。再生能力が低下しているブラドに止めを刺すには十分な数かもしれない。

 

 一応サイドアームの弾薬は残っているし、隙を見て新しい武器を装備すれば弾薬は問題ないだろう。とはいえ、ブラドとの死闘の最中にメニュー画面を開くのは至難の業だ。戦闘中に武器を変えるのは現実的ではない。

 

 AK-12を背中に背負ったナタリアは、サイドアームのPL-14を取り出した。マガジンの中の弾丸をチェックしてから素早くマガジンを装着し、こっちにウインクしてから踵を返す。

 

「――――――絶対に戻ってきなさいよ」

 

「分かってる。絶対に生きて帰る」

 

 親父も、何度も母さんやエリスさんとの約束を破ったのだろうか。

 

 俺は親父に似てしまったのかな…………。

 

 苦笑いしながら後ろを振り向くと、ナタリアに「撤退するわよ」と言われている仲間たちも苦笑いしていた。どうやらノエルやイリナたちは、俺がここに残ってブラドと決着をつけようと思っていることを予測していたらしい。

 

 本当に悪い癖だな、無茶をしようとしてしまうのは。

 

 何度もこの癖を直そうとは思ってるんだけど、多分一生直らないかもしれない。というか親父もレリエルと相討ちになるまで直らなかったのだから、親父に似てしまった俺も直すのは無理だろう。下手したらこの悪い癖は子孫まで遺伝するかもしれない。

 

 拙いな、それは。

 

 後方で演算共有(データリンク)を使っていたラウラは、あの能力を使っている最中は一切動くことができないらしく、イリナに背負ってもらって諜報指令室を後にするところだった。彼女も俺がまた無茶をしようとしていることを予測しているらしく、微笑みながらこっちを見つめてくれている。

 

 息を吐いてから俺も微笑み、ラウラに手を振った。

 

 安心しなよ、お姉ちゃん。絶対に生きて帰るからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、勝ち目はない。

 

 地上部隊は壊滅し、地下へと退避した部隊も辛うじて応戦を続けている。だが、少数の負傷兵たちであの大規模な部隊を返り討ちにすることは不可能だ。中には殺した敵兵から鹵獲したAK-12で応戦している兵士もいるらしいが、彼らが殺されるのは時間の問題だろう。

 

 これ以上は戦わなくていい。

 

 この戦いは、俺たちの負けだ。

 

「…………ブラドより、全ての同胞諸君に告ぐ」

 

 モリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)の連合軍は東側と北側から攻め込んできており、テンプル騎士団の部隊は要塞の西側から攻撃をしかけているらしい。

 

 連合軍は捕虜を受け入れることはない。投降しようとする兵士や負傷兵に容赦なく弾丸をプレゼントする血も涙もない連中だ。負傷兵たちが投降しても容赦なく殺すに違いない。

 

「この戦いは我々の敗北だ。…………総員ただちに戦闘を中止し、テンプル騎士団に投降せよ。北側及び東側で戦闘中の部隊は、自力で西側まで異動して武装解除し、テンプル騎士団に投降せよ。…………みんな、こんな戦いに付き合わせて済まなかった。ついて来てくれてありがとう。以上だ」

 

 テンプル騎士団ならば、捕虜を受け入れてくれるだろう。すでに投降した部隊も受け入れているらしいし、撃沈された艦隊の乗組員を、モリガン・カンパニーからの命令を無視して全員救助したという。彼らならば同胞たちを救ってくれるに違いない。

 

 もうこの無線機を使うことはないだろうと思った俺は、耳に装着していた小型無線機を取り外すと、床に落としてから思い切り踏みつけた。パキッ、と無線機が粉砕された音を聴きながら顔を上げ、メニュー画面を開く。

 

 もう1つXM8を生産して装備し、安全装置(セーフティ)を解除する。搭載しているのはグレネードランチャーとホロサイトのみで、弾薬は5.56mm弾よりも強力なストッピングパワーを誇る6.8mm弾だ。マガジンの中の弾数が減ってしまうという欠点があるものの、外殻を展開していない部位に命中させれば致命傷を負わせられるだろう。

 

 サイドアームはコルトM1911A1。近距離用の武器はお気に入りのサバイバルナイフのみだ。

 

 どうやらナガトもここで俺と決着をつけるつもりらしく、仲間たちを逃がして武器を準備しているようだった。向こうの得物はAK-15とPL-14で、近距離用の得物はあの灼熱の粉末―――――――多分テルミット反応を起こしている状態の粉末だろう――――――――を噴射するとんでもないナイフだ。

 

 得物はほぼ全部ロシア製か。前世の頃からナガトの奴は東側の装備が好きだったからな。

 

「…………ありがとな、付き合ってくれて」

 

 息を呑みながらXM8を向けていると、セレクターレバーをフルオートに切り替えたナガトがそう言った。

 

「気にするな。…………”友達”じゃないか」

 

「ああ…………久しぶりだ、友達って言われるのは」

 

 今から、俺はその”友達”と決着をつけるのだ。

 

 こちらの再生能力はどんどん低下しつつある。それに対し、向こうは弾丸や砲弾を弾いてしまうほどの堅牢な外殻を瞬時に展開できるという面倒な能力がある。吸血鬼の再生能力は便利だが、俺はあのような防御力を底上げする外殻の方が羨ましいと思う。

 

 向こうの方が装備している武器の弾薬は少ないだろうが、有利なのはナガトの方だ。

 

「じゃあ、決着つけようぜ」

 

「ああ」

 

 ホロサイトを覗き込み、ナガトの頭に照準を合わせる。

 

 ナガトも同じようにアメリカ製のホロサイトを覗き込むと、こっちに照準を合わせてきた。

 

「「―――――――ぶっ殺してやる、クソ野郎!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリガーを押した瞬間、猛烈なマズルフラッシュが銃口から迸った。

 

 立て続けにエジェクション・ポートから空の薬莢たちが飛び出していき、書類やモニターの破片で埋め尽くされた床に激突して金属音を奏でる。けれどもその旋律が俺の耳に飛び込む頃には、優しい金属音よりもはるかに荒々しい銃声がその旋律を呑み込み、消滅させてしまっていた。

 

 大口径の7.62mm弾がオペレーターたちの机やモニターを直撃して火花を生みだす。ブラドは姿勢を低くしながら机やモニターの間を走り抜けたかと思うと、XM8を左手だけで持ちながらこっちにフルオート射撃をぶちかましてきやがった。

 

 外殻を瞬時に展開して6.8mm弾を防ぎつつ、セレクターレバーを3点バーストに切り替える。できるならば最初の攻撃で一気に再生能力を削ぎ落とす予定だったんだが、こっちにはマガジンが3つしか残っていない。出し惜しみするわけではないけれど、チャンスを見つけた瞬間にフルオート射撃をお見舞いできないのは論外だ。

 

 6.8mm弾が跳弾する音を聴きながら前進し、3点バースト射撃でブラドを狙う。3発のうちの1発の弾丸がブラドの脇腹を掠めてほんの少しばかり肉を抉ったけれど、致命傷ではない。

 

 再生能力が機能しなくなり始めたせいなのか、ブラドの戦い方が変わった。

 

 先ほどまでは激昂しながら機関銃を乱射し、攻撃を喰らったらひたすら再生させるだけだったんだが、今のブラドはひたすら動き回って銃撃を回避しようとしている。そう、再生能力に全く頼っていないのである。

 

 機能しなくなりつつある再生能力に頼るのは愚の骨頂だ。

 

 舌打ちしながらマガジンを取り外し、新しいマガジンと交換する。コッキングレバーを思い切り引こうとしたその時、物陰に隠れていたブラドが飛び出してきたかと思うと、そのまま横へとジャンプしつつ、左手で銃身の下のグレネードランチャーのトリガーを押しやがった。

 

 ポンッ、という音を聴いてぎょっとしつつ、俺も思い切り右へとジャンプする。冒険者向けのがっちりした黒いブーツがモニターの破片まみれの床から離れた瞬間、思ったよりも高くジャンプしていることに気付いた俺はぎょっとする。

 

 けれども、すぐに予想以上に高くジャンプする事が出来たのではなく、グレネード弾の爆風で押し上げられたのだという事に気付いた。爆炎と衝撃波が前進を包み込み、キーン、という猛烈な音以外の音が全て聞こえなくなる。

 

「がはっ…………!」

 

 書類の散らばった床の上に叩きつけられる羽目になったが、俺はそのまま横へと転がって司令官の机の下へと転がり込んだ。エリクサーで回復するのが望ましいかもしれないが、そんなことをすれば容器の中の液体を飲むよりも先に、あいつの放った6.8mm弾で撃ち抜かれてしまうのは想像に難くない。

 

 キメラの外殻ならば6.8mm弾どころか12.7mm弾すら弾くことが可能だが、さすがに外殻で覆っていない部位に被弾すれば致命傷を負う羽目になる。しかも俺とブラドのレベルは近いのだから、あいつの攻撃力のステータスが俺の防御力のステータスを下回っているとは考えにくい。

 

 床に弾丸が命中する音を聴きながら、左手をホルダーへと伸ばした。いつもならばそこには試験管にも似た容器が何本かは言っている筈なんだが、ホルダーの中には何もないようだ。その代わりにホルダーは湿っていて、銃撃戦が繰り広げられている部屋の中には場違いとしか言いようがないストロベリーにも似た甘い香りをばら撒いている。

 

 くそ、容器が割れたのか…………!?

 

 回復しようと思ってポーチやホルダーに手を伸ばした時に、戦闘のせいで容器が割れているのは珍しい事ではない。できるならばもう少し容器の耐久度を向上させてほしいところだ。

 

 あとでモリガン・カンパニーにクレームでも入れるか、と思ったその時だった。

 

『こちらジャック・ド・モレー。これより艦砲射撃を開始する。秒読み開始』

 

「マジかよ…………!」

 

 ナタリアたちは無事に脱出したのだろうか。

 

 仲間が巻き込まれませんようにと祈りながら、司令官の机から顔を出してAK-15を連射する。銃声が響く度にエジェクション・ポートが3発分の薬莢を吐き出して、金属音を奏で始める。

 

 唐突に反撃されるのは予想外だったのか、最初の3発はブラドの胸板を直撃した。彼の身体が大きく揺れ、獰猛なストッピングパワーを誇る大口径の弾丸たちがブラドの胸板を抉る。胸筋の一部が弾け飛び、筋肉繊維や胸骨が砕け散った。

 

 小口径の弾丸と比べると反動が大きくなってしまうため、扱いにくくなるという欠点があるが、ストッピングパワーや破壊力ならばこちらの方がはるかに上なのだ。だから魔物だけでなく、人間の兵士にも有効な装備なのである。

 

 可能な限り大口径の弾丸を使用することを推奨していた親父の言う事を聞いておいてよかった、と思いながら銃撃するが、胸板を抉られたブラドはまだ倒れていなかった。血飛沫を巻き散らしながら横へとジャンプし、傷口を再生させながら6.8mm弾を連射する。

 

「とっとと死ねよ、くそったれ!」

 

「お前こそ死ね! そうすれば戦いが終わるんだ!!」

 

 コンティニューし過ぎだぞ、バカ。

 

『秒読み開始』

 

「くそ!」

 

 拙いな…………。艦砲射撃が始まる前に決着はつかないぞ…………。

 

 セレクターレバーをフルオートに切り替え、前進を外殻で覆う。遮蔽物の陰から飛び出して強引に前進しつつ、7.62mm弾をぶっ放す。

 

 ブラドの6.8mm弾を片っ端から弾きながら強引に前進しつつ、左手をテルミットナイフの鞘へと伸ばした。フィンガーガード付きのグリップを引き抜くと同時に姿勢を低くし、そのまま一気に接近する。

 

「!!」

 

 AK-15を振り上げてXM8の銃身の下を殴りつける。いきなり接近されると思っていなかったブラドはその一撃でライフルを床に落とす羽目になったが、すぐに血まみれのブラドが突き出してきた右のストレートを顔面に喰らう羽目になった俺も、メインアームのAK-15を床に落とす羽目になってしまった。

 

 左手のナイフを振り回すが、ブラドが素早く引き抜いたサバイバルナイフで斬撃が弾かれてしまう。

 

 もう一度振り下ろそうと思ったが、それよりも先にブラドの野郎がタックルしてきやがった。全く痛みは感じなかったが、ナイフを振り下ろすために左手を上に突き上げていた状態だったから、その一撃で体勢を崩して床に転倒してしまう。

 

 俺の上に乗ったブラドが、左手で俺の首を絞めながら右手のナイフを逆手持ちにし、ニヤリと笑った。

 

 外殻で覆えば弾けるが―――――――眼球まで外殻で防御できるわけじゃない。

 

 ―――――――拙い。

 

 上に乗っているブラドを振り下ろそうとしたその時だった。

 

『―――――――(ドライ)(ツヴァイ)(アインス)…………全艦、撃ち方始め』

 

 ブルシーロフ艦長の声が、艦砲射撃の開始を告げた。

 

 

 

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