異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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憎悪の終着点

「い、急げ! 艦砲射撃に巻き込まれるぞ!」

 

 大慌てで要塞の外へと脱出していく兵士たちと合流する事ができたナタリアたちは、後退していくシャール2Cの11号車『ジャンヌ・ダルク』の車体の上に乗りながら、もう少しで降り注ぐ砲弾の雨によって消し去られることになった要塞を見つめていた。

 

 後退していくジャンヌ・ダルクの周囲を走る戦車の上には、何とか逃げる事ができたテンプル騎士団陸軍の兵士や強襲殲滅兵の生き残りがタンクデサントしており、上空から歩兵の支援を続けていたスーパーハインドたちも、逃げてきた味方の兵士や投降した吸血鬼の兵士たちを乗せて退避を始めている。

 

 もう既に、テンプル騎士団が攻め込んだ要塞の西側での戦闘は終わっていた。どうやらブラドからテンプル騎士団に投降するように指示されたらしく、抵抗していた兵士たちが唐突に戦闘を止めて武装解除を始め、銃を向けていたテンプル騎士団の部隊に白旗を振り始めたのである。

 

 中にはモリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)と交戦していた部隊も自力で西側へと脱出し、彼らと同じように白旗を振った部隊も見受けられた。

 

 味方の兵士と共に要塞から退避していく吸血鬼の負傷兵たちを見つめながら、ナタリアは溜息をついた。テンプル騎士団はモリガン・カンパニーのように捕虜や負傷兵まで皆殺しにするような戦い方はしないため、投降する敵兵は積極的に捕虜として受け入れるようにしている。そのため周囲の戦車の上にはテンプル騎士団の兵士だけでなく吸血鬼の兵士たちまで乗っていた。

 

 もし無事にタンプル搭まで戻ったら、間違いなくモリガン・カンパニーの幹部たちに捕虜たちを1人残らず殺すように強要されるだろう。テンプル騎士団はあくまでもモリガン・カンパニーと同盟関係を結んでいるだけであるため、彼らの命令に従う義務は全くないのだが、この命令を拒否すれば二大勢力から間違いなく圧力をかけられるだろう。

 

「タクヤ…………」

 

 演算共有(データリンク)を解除したラウラが、要塞の方を見つめながら自分の弟の名を呼んだ。

 

 おそらく、あの2人の戦いは艦砲射撃が始まる前に決着がつくことはないだろう。あらゆる攻撃を弾いてしまう外殻を使う事ができるキメラと、衰え始めたとはいえ再生能力を使う事ができる吸血鬼の一騎討ちなのだから、すぐに決着がつかないのは火を見るよりも明らかである。

 

 きっと彼らは、戦艦の主砲から放たれた砲弾が降り注いでいたとしても、あの要塞で戦い続けるに違いない。

 

『5、4、3、2、1…………弾着、今!』

 

 ジャック・ド・モレーのCICにいる乗組員がそう告げた直後だった。

 

 兵士たちの退避が完了した要塞の防壁が緋色の爆炎に呑み込まれたかと思うと、防壁の内側で立て続けに火柱が産声を上げ、猛烈な爆風と衝撃波たちが戦車の残骸を吹き飛ばした。吸血鬼たちの攻撃を弾き続けていた要塞の防壁に巨大な亀裂が生まれたかと思うと、ブレスト要塞を取り囲んでいた防壁が次々に倒壊していき防壁の内側で噴き上がった爆炎に呑み込まれていった。

 

 ジャック・ド・モレーやソビエツキー・ソユーズ級たちの主砲から放たれた40cm砲のMOAB弾頭が、ついに要塞に着弾したのである。

 

 従来の榴弾を遥かに上回る破壊力を誇るMOAB弾頭が生み出した火柱は、まるで太陽の表面で荒れ狂う無数のフレアたちのように噴き上がると、青空に大量の火の粉をばら撒き、倒壊した管制塔や滑走路を呑み込んでしまう。

 

 ブラドとタクヤが死闘を繰り広げているのは、分厚い岩盤と装甲に守られた地下の戦術区画である。列車砲の砲撃や地下で炸裂させたMOAB弾頭の爆発で穿たれた穴からあの爆炎が流れ込む可能性はあるが、すくなくともあの戦車すら吹き飛ばしてしまう爆風に呑み込まれて消滅する羽目にはならないだろう。

 

 あの男ならば帰ってきてくれる筈だ。

 

 最強の転生者から、あらゆる技術を受け継いだ男なのだから。

 

「タクヤ…………」

 

 今の衝撃で耐えられなくなったのか、残っていた防壁や地上の滑走路が炎の中へと崩落していく。火の粉を纏った黒煙を噴き上げる要塞を見つめながら、ナタリアはタクヤが無事に帰ってきますようにと祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”床の上に立っている”という感覚が消えたと思った直後、俺とブラドは壁や床に思い切り叩きつけられる羽目になった。どこかの骨が折れてるんじゃないだろうかと思いながら起き上がり、手足の骨が折れていないか確認する。身体中で激痛が産声を上げているものの、幸運なことに手足はちゃんと俺の言う事を聞いてくれるらしい。机の角やオペレーター用の椅子に叩きつける羽目になった胴体や胸板も無事で、キメラの強靭な肋骨と胸骨はその衝撃に耐えきってくれていた。

 

 身体が頑丈な種族として生まれたことを感謝しつつ、ゆっくりと起き上がる。骨が折れていないとはいえ、身体中を鈍器でぶん殴られたような痛みで包まれている。

 

 前世の世界で虐待を受けた直後に感じた痛みも、こんな鈍痛だった。前世で虐待に耐え続けていたおかげなのか、こういう痛みに耐えるのは慣れている。さすがに刃物で切られたり、銃弾で撃たれる痛みには慣れていないけれど、こういう痛みなら何度も経験した。

 

 床に落下したでっかいモニターの近くに倒れていたブラドも、肩に刺さっていたモニターの画面の破片を引っこ抜きながら起き上がる。やはり彼の再生能力は衰えているらしく、弱点による攻撃ではないというのに、モニターの破片が刺さっていた傷口の再生はかなり遅かった。裂けた肉が再び結び付き合い、その上を白い皮膚が覆っていく。自分の血が付着した画面の破片を床に投げ捨てたブラドは、先ほど俺の眼球に突き立てようとしていたナイフを吹っ飛ばされた際に失ったことに気付いたらしく、舌打ちをしてから拳を握り締めた。

 

 多分、先の爆発は艦砲射撃の砲弾が着弾したのが原因なのだろう。

 

 しかも艦隊が放ったのは通常の榴弾ではなく、容易く戦車を吹き飛ばしてしまうほどの威力を誇るMOAB弾頭だ。吸血鬼たちの艦隊との海戦から生還したすべての戦艦から一斉に発射されたMOAB弾頭が要塞に直撃したのだから、きっとブレスト要塞の地上は火の海と化しているに違いない。

 

 仲間は無事に逃げられたのだろうかと思ったその時、背後で赤い光が煌いていることに気付いた俺は、背後から諜報指令室の中へと入り込んでくる火の粉を見ながら後ろを振り向いた。

 

 どうやら地下で炸裂させたMOAB弾頭が穿った穴から艦砲射撃で生じた爆炎が要塞の内部へと流れ込んできたらしい。俺の背後にあった諜報指令室の扉が爆発の衝撃波で吹っ飛ばされており、火の海と化した地下通路が覗いている。

 

 艦砲射撃は間違いなく要塞が完全に崩壊するまで続くだろう。つまり、ブラドをとっとと倒して脱出しなければ、ここで焼き殺された挙句黒焦げになった瓦礫に押し潰される羽目になるという事だ。

 

 火の粉が容赦なく入り込んでくる諜報指令室の中で、ブラドを睨みつける。

 

 俺もさっき吹っ飛ばされた際に武器まで吹っ飛ばされたのか、腰に装着していたホルスターや鞘の中に、頼りになるPL-14やナイフは入っていない。お気に入りのAK-15も吹っ飛ばされたらしく、腰の後ろにあるアサルトライフル用のホルダーにも漆黒のライフルは入っていなかった。

 

 俺とブラドは、丸腰だった。

 

 つまり、この最終決戦は殴り合いになる。

 

 ナイフや銃を一切使わずに、相手を殴り殺すしかない。

 

「…………丸腰か、お前も」

 

「ああ」

 

 けれども、殴り合うのも悪くないかもしれない。

 

 そう思いながら、左足を少しばかり前に出して構えた。拳を握りつつ両肩の力を抜き、いつでも突っ込んであのクソ野郎を思い切りぶん殴る準備をする。幼少の頃に親父から教わった構え方だ。剣術だけじゃなく格闘術まで我流だった親父の戦い方は滅茶苦茶だったらしいが、今までに経験した死闘の中でどんどん洗練されていき、最終的には実用的な格闘術になったという。

 

 俺が受け継いだのは、その我流の格闘術だ。

 

 ブラドも同じように構え、俺が前に踏み出すと同時に向こうも突進してきた。

 

 右手を思い切り突き出すが、ブラドの野郎はその一撃を身体を思い切り左へと傾けて回避してしまう。突き出した右手の肘がまだ曲がっている段階で強引に右腕を引き戻し、右側に回り込んだブラドをぶん殴るために、今度は左手を突き出す。

 

 さすがに次ぐに追撃してくるのは予想外だったのか、横に回り込んで殴る準備をしていたブラドは、その左手のボディブローを喰らう羽目になった。左手の拳がブラドの腹にめり込み、衝撃と激痛を彼の体内に解き放つ。

 

 もう一発ぶん殴ってやろうと思った直後、よろめいていたブラドが手を伸ばして俺の前髪を掴んだかと思うと、そのまま下へと引っ張りつつ、左手の拳を思い切り振り上げてきやがった。

 

 下へと引っ張られている状態で、上へと急上昇していく拳にぶん殴られたのだ。右の頬から侵入した衝撃と激痛がそのまま脳と頭蓋骨を穿ち、ぶん殴られた頬の内側が裂ける。

 

 ブラドが左手を引っ込めたかと思うと、右手で俺の前髪を掴んだまま、今度は左の膝を振り上げてきやがった。どうやら膝蹴りを顔面に叩き込もうとしているらしいが、その蹴りが顔面を直撃するよりも先に前に突き出した左手の拳が、床へと伸びているブラドの右足の太腿へと喰らい付いた。

 

 唐突に太腿にパンチをぶち込まれたブラドの身体が揺れ、膝蹴りが途中で止まる。激痛を感じて体勢を崩した隙に前髪を掴んでいた手を引き剥がし、その手を左手で掴みながら右手をブラドの黒いコートの襟へと伸ばして、ぐるりと反時計回りに素早く回転しながら放り投げる。

 

「ガハッ…………!」

 

 背負い投げをお見舞いされて床に叩きつけられるブラド。追撃しようと思ったが、ブラドはすぐに起き上がって距離を詰めると、至近距離で顔面にパンチを放った。

 

 予想以上の速さで反撃されたせいでガードできなかった俺は、そのパンチを叩き込まれて体勢を崩してしまう。立て続けに放たれた二発目のパンチをガードして反撃したが、突き出した左手のパンチをブラドはまたしても身体を左に傾けて回避し、今度は俺の左側の脇腹へと、正確にパンチをぶちかましやがった。

 

「うぐ…………ッ!?」

 

 ボキッ、と骨が折れる音が聞こえた。

 

 今の一撃で何本折られたのだろうか。

 

 歯を食いしばりながら目を見開き、右手の拳を思い切り振り下ろす。今しがた肋骨をへし折ったばかりのブラドの顔面を拳が直撃した瞬間、パンチを叩き込まれたブラドが身体をぐらりと揺らしながら体勢を崩し、口から血を吐き出す。

 

 頬の内側から溢れた鮮血で真っ赤になった歯をあらわにしながら、歯を食いしばり続ける。

 

 体勢を立て直す前にぶん殴ってやろうと思ったその時だった。

 

 何の前触れもなく、後方にある諜報指令室の入り口の向こうで爆発が発生し、配管の破片を纏った爆風が指令室の中へと流れ込んできたのである。

 

 おそらく、通路の中に設置されている配管の中に残っていた高圧の魔力が誘爆したのだろう。要塞が放棄されたとはいえ、配管の中には要塞の内部にあるフィオナ機関へと伝達するための高圧の魔力が残っているのだ。

 

 その爆風を浴びる羽目になった俺は、背中に破片が何本も突き刺さる激痛を感じながら吹っ飛ばされる羽目になった。体勢を立て直そうとしていたブラドの上を通過し、書類で埋め尽くされている床の上に叩きつけられてしまう。

 

 歯を食いしばり、背中に刺さっている配管の小さな破片を何本か強引に引き抜く。真っ赤になった破片を投げ捨てながら、お姉ちゃんにプレゼントしてもらったリボンは無事だろうかと思い、ポニーテールにしている髪に結んでいるリボンへと手を伸ばす。

 

 ちょっとばかり焦げてたけれど、彼女から18歳の誕生日にもらった大切なリボンは無事だった。

 

 これは俺のお守りなのだ。

 

 床に散らばった書類たちが、爆炎を浴びて燃え上がり始める。火のついた書類が爆風のせいで舞い上がり、やけにでかい火の粉と化していく。

 

 またしても頭上の岩盤と装甲の向こうで轟音が聞こえた。艦砲射撃が着弾したらしい。次も同じくMOAB弾頭だろうかと思った頃には、やっぱり地下で砲弾を爆破した際に生まれた穴から流れ込んできた爆炎と衝撃波が、諜報司令部の中へと流れ込んできた。

 

 間違いなく、この要塞はもう崩壊する。

 

 もう決着をつけなければならない。

 

 呼吸を整えながらブラドを睨みつける。あいつもさっきの爆風で肩を焼かれたらしく、火傷を負った左肩を押さえながらこっちを睨んでいた。

 

「ナガトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

「ブラドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 火の海と化した諜報指令室の中を突っ走り、再びブラドに突進する。ブラドも左肩から手を離して突っ走り、距離を詰めてきた。

 

 もうフェイントやガードをしている場合じゃない。一刻も早くこいつをぶち殺し、脱出しなければならない。

 

 だから俺はもう、小細工をするつもりはなかった。

 

 ブラドのパンチを顔面に喰らいながら右手を突き出し、思い切りブラドの顔面をぶん殴る。立て続けにもう一発ぶん殴ってブラドをふらつかせたが、次の一撃を躱したブラドが、ついさっきパンチで折られた俺の肋骨に拳をぶち込みやがった。

 

 その激痛に耐えながら左手の肘を振り下ろし、ブラドのこめかみを打ち据える。

 

 体勢を立て直しながら振り払ったブラドの拳が左の頬を直撃する。俺も血を吐く羽目になったが、そのまま右の拳を振り回してブラドの顔面を殴りつけ、そのまま左のアッパーカットを顎に叩き込んだ。

 

 多分、俺もボロボロなのだろう。

 

 死闘を繰り広げた父親(リキヤ)のように。

 

 親父とレリエルの最終決戦もこんな感じだったのだろうか。それとも、もっと熾烈だったのだろうか。

 

 ブラドもパンチをガードせずに殴り返してくる。お構いなしに顔面をぶん殴ると、唸り声を発しながら殴り返してくる。もう既に両親から受け継いだ格闘術を生かした殴り合いではなく、ただの殴り合いだ。

 

 眉間に右のストレートが直撃し、がくん、と頭が後ろに大きく揺れる。そのまま右手を伸ばしてブラドの髪を掴み、引き寄せながら頭突きを叩き込む。

 

 もう既に、ブラドの傷口は再生していなかった。弱点による銀や聖水どころか、武器すら使っていないただの殴り合いだというのに、強力な再生能力を持つ吸血鬼の少年は全く傷を再生させていない。

 

 俺も外殻で体を覆う余裕はなかった。

 

 ボディブローを叩き込み、さらに膝蹴りをお見舞いする。呻き声を上げたブラドが左のパンチで頬を殴りつけ、体勢を崩した俺の側頭部に回し蹴りをぶちかましやがった。

 

 今の蹴りで体勢が崩れたのを使用し、身体が右側へと傾いている状態を利用して、そのまま右の拳を思い切り振り上げる。その一撃を喰らう羽目になったブラドが、血を吐きながら拳を振り上げる。

 

 だが―――――――そのパンチが突き出されるよりも先に、強烈な轟音が諜報指令室の中を支配した。

 

「…………ッ!?」

 

 火の海と化した諜報指令室の床に亀裂が入ったかと思うと、その亀裂がどんどん肥大化していったのである。艦砲射撃の衝撃で要塞の地下にある区画が耐えられなくなったに違いない。

 

 反射的にブラドの手を掴み、そのまま通路へと突っ走る。

 

 なぜ俺はブラドの手を引いているのだろうか。

 

 こいつは俺たちの同志を何人も殺したクソ野郎だというのに。

 

 前世では友人だったからなのか? 

 

 猛烈な違和感を感じながら諜報指令室の入口へと突っ走った。このままでは床が崩落し、生き埋めにされてしまうのは想像に難くない。

 

 けれども、俺とブラドが諜報指令室の外にある通路に転がり込むよりも先に、肥大化した亀裂が巨大な穴と化した。床やオペレーター用の机が穴へと飲み込まれていき、猛烈な土埃と火の粉が舞い上がる。天井にぶら下がっていた巨大なモニターも機能を停止し、ノイズの音を発しながらその穴へと落下していった。

 

 俺が踏みつけていた床も、同じように飲み込まれていく。

 

 思い切り入口の縁に手を伸ばしていたおかげで、何とか床と一緒に落下する羽目にはならなかった。諜報指令室の出入り口の縁を掴んだまま下を見下ろしてみると、俺に手を掴まれているブラドが、どうして助けたんだと言わんばかりにこっちを見上げている。

 

 何で助けたんだろうな?

 

 とりあえず、早く上に上がろう。このままでは通路まで崩落するかもしれない。

 

 炎で加熱されたせいで、掴んでいる縁の部分もかなり熱い。このままじゃ指が黒焦げになっちまう。

 

 左手に力を込めて身体を持ち上げようとするが――――――――バキッ、と音を立てながらその縁にも亀裂が入ったのを見た瞬間、俺とブラドはぞっとする羽目になった。

 

「や、ヤバい…………!」

 

 穴の底は瓦礫で埋め尽くされている。中には尖った鉄骨やモニターの破片が真上を向いた状態で埋まっているため、ここから落ちれば間違いなく串刺しにされてしまうだろう。

 

 とっとと上に上がらなければ、俺たちまで下に落ちてしまう。しかし、俺が今掴んでいる場所も下に落ちそうだ。

 

 拙いな…………。

 

 無茶をするなっていう約束は破っちまったけど、絶対に帰ってこいっていう約束まで破るわけにはいかねえぞ………!

 

「…………ビッグセブン」

 

「あ?」

 

 前世のニックネームで俺を呼んだブラドを見下ろすと、ブラドはいつの間にかメニュー画面を開き、右手にコルトM1911A1を持っていた。

 

 まさか、俺を殺して自分だけ上に上がる気か!?

 

 この下衆野郎…………ッ!

 

 こいつを助けなければ、今頃こいつは下で串刺しにされていた筈だ。なのにどうして助けてしまったのか。

 

 反射的にブラドを助けたことを後悔したその時、すぐ近くで銃声が轟くと同時に、ブラドの腕を掴んでいた右手に暖かい鮮血が飛び散った。

 

「―――――――え?」

 

 ―――――――ブラドは、下衆な男ではなかった。

 

 ブラドが放った.45ACP弾が穿ったのは、俺の身体ではない。

 

 右手に掴まれていた、ブラドの手首だった。

 

 立て続けにトリガーを引くブラド。弾丸に射抜かれた彼の手首に風穴が開いていき、ぶつっ、と肉の千切れる音を奏でてから――――――――ブラドの身体が、穴の底へと落ちていく。

 

「―――――――生きろよ、ナガト」

 

「ヒロト――――――――」

 

 もう、あいつに再生能力はない。もし串刺しにされればその傷口は再生しないのだ。つまり、普通の人間のように絶命してしまうのである。

 

 千切れてしまったブラドの片手を握り締めたまま、俺は落下していった親友を見つめていた。

 

 銃弾で切断された手首から鮮血を噴き出していたブラドの心臓を、尖った鉄骨が貫く。

 

 心臓を貫かれる激痛を感じながら、ブラドは俺の方を見つめて笑っていた。

 

 前世の頃に何度も目にした親友の笑顔を見下ろした俺は、真下で串刺しにされている親友を見下ろしながら絶叫するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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