異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
多分、今頃ブレスト要塞の周囲は静かになっているに違いない。
テンプル騎士団の兵士たちが、吸血鬼の捕虜たちを収容所へと誘導していくのを見守りながら、そう思った。仲間の報告によると、降伏勧告を受諾して武装解除した吸血鬼たちはブレスト要塞に立て籠もっていた兵士たちのうちの5割ほどであり、残りの5割は戦闘の最中に戦死したり、北側や東側に配備されていたせいでテンプル騎士団が攻め込んでいた西側へと逃げる事ができず、圧倒的な数の兵士や戦車たちに蹂躙されていったという。
戦死したテンプル騎士団の兵士やモリガン・カンパニーの兵士から鹵獲したAK-12や95式自動歩槍で抵抗していた兵士たちも、モリガン・カンパニーと殲虎公司ジェンフーコンスーの歩兵部隊によって全滅したらしく、遺体の改修に向かった部隊はブレスト要塞で銃声を一度も聞いていないという。
タンプル搭を守るための重要拠点を1つ失うことになってしまった。周囲には小規模な前哨基地がいくつかあるものの、守備隊の規模が小さい上に、配備されている銃や兵器はコストの低い旧式の代物ばかりであるため、攻め込んできた敵を撃退するのは難しいだろう。
一刻も早く大規模な要塞を用意しなければならないが、その命令を下すのは少しばかり後回しにしなければならないようだ。
その前に、問い詰めなければならないことがあるのだから。
愛用しているPL-14が収まったホルスターと、少しばかり刀身の長さを延長したスペツナズ・ナイフの収まった鞘を腰に下げたまま、配管やケーブルが剥き出しになっているタンプル搭の通路を進んでいく。負傷している捕虜を担架で運んで行く女性の衛生兵や治療魔術師ヒーラーに道を譲りながら、モリガン・カンパニーの兵士を探す。
テンプル騎士団の兵士の中には女性も所属しており、地上部隊や海兵隊にも何人か所属している。けれども女性の兵士が最も多く所属しているのはラウラが率いる狙撃手部隊か、衛生兵の部隊だろう。一般的な部隊に配属されている女性の兵士は1割か2割くらいなんだけど、狙撃手部隊や衛生兵の部隊に所属している女性の兵士は5割か6割である。
制服の左腕に白い腕章をつけたハイエルフの少女が、片目を失った吸血鬼の兵士に肩を貸しながら、白衣に身を包んだ治療魔術師ヒーラーの所へと連れていく。治療魔術を得意とする治療専門の魔術師はかなり貴重であるため、衛生兵とは違って最前線には派遣されない。
最前線で兵士たちを治療すればすぐに復帰させる事ができるが、もし流れ弾や砲弾の爆発に巻き込まれて治療魔術師ヒーラーが命を落とした場合、負傷兵たちを即座に治療する事ができなくなってしまうためである。
そのためテンプル騎士団では、SMGサブマシンガンなどで武装し、エリクサーなどの回復アイテムを多めに支給された衛生兵がエリクサーで負傷兵を手当てしつつ後方へと連れて行き、治療魔術師ヒーラーに治療させることになっている。要するに、左腕に白い腕章をつけた衛生兵の仕事は、”負傷兵を回収して後方へと連れて行く”事なのだ。
ハイエルフの少女に敬礼してから道を譲り、奥へと進む。
収容区画の隔壁の近くで警備をしていた警備班の兵士に敬礼をしてから収容区画の外へと出ると、その隔壁の向こうで治療魔術師ヒーラーに治療されている捕虜たちを睨みつけている殲虎公司ジェンフーコンスーの兵士が見えた。
モリガン・カンパニーや殲虎公司ジェンフーコンスーでは、捕虜を受け入れずに皆殺しにするのが当たり前だという。
かつて”勇者”と呼ばれていた転生者がネイリンゲンを壊滅させたことが原因で勃発した”第一次転生者戦争”では、ファルリュー島へと上陸した海兵隊が敵の守備隊を皆殺しにしてしまったため、敵の守備隊は全員戦死する羽目になったのだ。
捕虜を皆殺しにするのは、その第一次転生者戦争の頃からの物騒な伝統なのである。
「お疲れ様、同志」
「どうも」
敬礼しながら声をかけると、その殲虎公司ジェンフーコンスーの兵士も敬礼してくれた。
「フィオナ博士はどこにいる?」
「第一居住区の空き部屋にいらっしゃいます」
「Спасибо(ありがと)」
第一居住区の空き部屋か。
確か、あそこに住んでいた兵士と家族は一ヵ月前に別の重要拠点に異動になっていた筈だ。フィオナ博士はそこで研究でもしてるんだろうか。
教えてくれた兵士に礼を言ってから、上へと繋がっているエレベーターに乗る。壁面にあるスイッチを押してから後ろにある壁に寄り掛かり、エレベーターが上へと上がっていく音を聴きながら考え事を始める。
俺がこれから博士に問い詰めるのは―――――――ラウラの事だ。
ブラドに撃たれて風穴を開けられたラウラが、傷口を再生させながらブラドに反撃していたのである。
当たり前だけど、キメラに再生能力はない。体内に含んでいる魔物の遺伝子にもよるけれど、サラマンダーのキメラである以上は再生能力を使うことはできないのだ。けれどもラウラは、ブラドに撃たれても、まるで吸血鬼のように傷口を再生させていた。
それに彼女は、左足と左腕を失っていた筈である。現在の技術では失った手足を”生やす”ことは不可能であるため、基本的に魔物の素材で作った義手や義足を移植するか、機械で作られた義手や義足を移植してからリハビリをするしかない。
だが、吸血鬼ならば聖水を塗った剣で切断されたり、水銀榴弾の斬撃で捥ぎ取られたのでなければ、千切れ飛んだ手足を容易く再生させる事ができるのだ。
「…………」
ラウラが身につけていた再生能力は、間違いなく吸血鬼と同じ能力だろう。
フィオナ博士は、どうやってラウラに再生能力を与えたのだろうか。
第一居住区に到着したらしく、エレベーターのドアが開き始める。搭載されたフィオナ機関が排出する蒸気にも似た魔力の残滓を浴びながら外に出て、居住区の通路を進んでいく。そのまま空き部屋のある場所へと向かった俺は、様々な言語で『空き部屋』と書かれた紙が貼りつけられている木製のドアをノックした。
『はーい』
「博士、俺です。話があるのですがいいでしょうか」
『ええ、どうぞ』
金属製のドアノブを捻り、遠慮なくドアを開ける。普段は警備班の班長が鍵をかけている筈の空き部屋の中には全く家具が置かれていない。かなり殺風景な部屋の筈だったんだが、フィオナ博士がこの空き部屋を使っているという話を聞いた時点で、その殺風景な部屋がちょっとした研究所に変貌しているんだろうなと思っていた。
案の定、その空き部屋はフィオナ博士専用の研究所と化していた。部屋の中に用意された簡単なキッチンにはビーカーやフラスコがずらりと並び、奇妙な色の液体が大きめのフラスコの中を満たしている。かつてベッドが置かれていたスペースには小さめの木製のテーブルが運び込まれていて、その上には複雑な記号が記載された分厚い錬金術の教本が何冊も居座っている。
この教本や道具を持ち込んだ張本人は、そのテーブルの近くで、磨り潰した薬草をピンク色の液体の入ったビーカーにぶち込んでいるところだった。新しいエリクサーの調合でもしているのだろうか。
「お久しぶりです、博士」
『ふふっ。久しぶりですね、タクヤ君』
磨り潰した薬草をぶち込んだビーカーを振りながら、白衣に身を包んだ白髪の幼女の幽霊は空中に浮いたままこっちを振り向いた。
彼女はネイリンゲンの屋敷―――――――旧モリガン本部は彼女の実家である―――――――に住み着いていた幽霊であり、モリガンの傭兵の1人なのだ。100年以上前に病死しているものの、”まだ生きていたい”という強烈な未練で幽霊になった挙句、自由に実体化する事ができる変わった幽霊なのである。
外見は12歳くらいの少女だけど、モリガンのメンバーの中では最年長なのだ。
ちなみに封印されていた間も含めると、俺の知り合いの中ではステラが最年長である。
この少女が、フィオナ機関という動力機関を発明し、産業革命を引き起こした天才技術者だ。現在でも研究を継続しており、自分の発明したフィオナ機関の改良を続けている。
「相変わらず研究が好きなんですね」
『そうなんです。研究は私の趣味ですから』
フィオナ博士はそう言いながら緑色に変色した液体が入っているビーカーを机の上に置いた。彼女の元を訪れた俺が、これから彼女に何を問い詰めようとしているのか理解しているのだろう。
腰に下げているハンドガンとナイフを引き抜く羽目になりませんようにと祈りながら、俺は彼女を問い詰めることにした。
「博士、聞きたいことがあるのですがいいでしょうか」
『はい、どうぞ』
「―――――――あなたは、ラウラに何をしたんですか?」
地下トンネルを使ってタンプル搭へと戻ってきてから、ラウラから博士に手足を元通りにしてもらったと聞いた。しかし、いくら彼女でも捥ぎ取られた手足を生やすことはできない筈である。
彼女は一体何をしたのだろうか。
『生やしたんです、彼女の手足を』
「どうやってです? 現在の技術では、失った手足を生やすことはできない筈ですが」
どんな治療魔術を使っても、手足を生やすことはできない。出血している断面を皮膚で塞いで止血することくらいしかできないのだ。だからこそ、手足を失った人々は魔物の素材で作った義手や義足を移植してきたのである。
だが、フィオナ博士はラウラの手足を生やすどころか、彼女に吸血鬼のような再生能力まで与え、彼女のキメラ・アビリティを”進化”させてしまった。
「新しい技術ではないですよね?」
『なぜです? 新しい技術を使ったかもしれないでしょう?』
「…………では、吸血鬼の再生能力も”新技術”で再現できると?」
そう言った瞬間、微笑みながら質問に答えていたフィオナ博士が目を細めた。
「その”新技術”で失った手足を再び生やし、再生能力まで与える事ができるなら、とっくにモリガン・カンパニーの兵士たちにその再生能力を与えていた筈だ。そうすれば衛生兵や治療魔術師ヒーラーは不要になる。…………でも、彼らにはまだその能力は与えていないようですね、博士」
失った手足を生やすことができるだけでなく、風穴を開けられても身体を再生させる事ができる再生能力を兵士たちに与える事ができれば、間違いなく治療魔術師ヒーラーは不要になるだろう。自分で身体を再生させられるのだから、治療する必要はないのだ。
その能力を与える技術があるのであれば、とっくに全ての兵士にその能力を与えていてもおかしくはない。再生能力があれば敵の砲弾で吹っ飛ばされてもすぐに復帰し、仲間と共に敵兵を蹂躙する事ができる。どれだけ攻撃されても全く損害を受けない最強の軍隊を作り上げる事ができるのである。
しかし、モリガン・カンパニーの兵士たちにはまだその能力を与えていないらしい。
能力を兵士たちに与えていないという事は、これはまだ不完全な技術ということだ。
「博士、あれは不完全な技術なのですか?」
『…………ええ、あれは不完全です。それにリスクが大きすぎます』
「リスク…………?」
リスクが大きすぎるだと? どういうことだ?
『身体への負荷があまりにも大きすぎるんです。身体が頑丈なサキュバスやキメラでなければ耐えられないでしょう』
「何をしたんですか?」
5.56mm弾に被弾しても耐える事ができるオークやハーフエルフですら耐えられないほどの強烈な負荷が対価だというのか。
その負荷が、”死”を希釈する対価なのだろうか。
『―――――――”移植”したんです』
「何を?」
博士に質問すると、フィオナ博士は微笑むのを止めた。
『戦場にいっぱい転がってるじゃないですか』
「あんた、まさか―――――――」
戦場にいっぱい転がっているもの。
多分俺は、ヴリシアでもそれを見ている。
オリーブグリーンの制服に身を包み、この世界に存在しない筈の銃や戦車で武装した兵士たち。口の中に生えている、人間よりも長い犬歯と舌。大昔から圧倒的な身体能力と再生能力で人々を苦しめ、彼らの血を吸ってきた恐ろしい種族。
その怪物たちと、ついさっきまで俺たちは死闘を繰り広げていたじゃないか。
俺は理解した。
博士が、ラウラの身体に移植したものを。
「―――――――吸血鬼の細胞を…………ラウラに移植したのか…………ッ!」
『はい』
その瞬間、俺はハンドガンのホルスターに手を伸ばしていた。PL-14のグリップを握ってホルスターの中から引っ張り出し、すぐに安全装置セーフティを解除して、フィオナ博士の頭へと銃口を向ける。
彼女は幽霊だから、その気になれば実体化を解除して逃げることはできるだろう。しかしフィオナ博士は俺が銃口を向けるのを予測していたのか、じっとこっちを見つめたまま実体化して空中に浮いている。
「分かってるのか…………ッ!? キメラは変異を起こしやすい種族なんだ! そんなものを移植したら、ラウラの身体にどんな変異が起こるか分からないんだぞ!?」
キメラは突然変異の塊だ。全く別の遺伝子を持つ生物の細胞を持つ怪物なのである。その怪物に別の種族の細胞を移植すれば、更に突然変異を起こす危険性もある。
『分かってます。…………それに、彼女は大きな対価を払っています』
「大きな対価…………!?」
『身体にかなり大きな負荷がかかりますから…………おそらくラウラさんは、彼女の子供が成人になるまでは生きられないかと』
―――――――子供が成人になるまでは、生きられない?
つまり、寿命が減ってしまったという事なのか?
キメラはかなり強力な種族だけど、他の種族と比べると寿命はかなり短い。フィオナ博士の検査ではキメラの平均寿命は65歳だという。
ただでさえ短い寿命が、細胞の移植の負荷で更に短くなってしまったという事だ。
ラウラは、俺よりも先に老衰で死ぬという事である。
「何でだ…………」
『ラウラさんが望んだことです』
「ラウラが…………?」
『ええ。寿命が減ったとしても、彼女は最後までタクヤ君のために尽くすと言っていましたよ』
あのバカ…………!
どうして俺に尽くそうとする? 俺は自分の正体が転生者だという事を黙っていたクソ野郎だし、卑怯者なんだぞ…………!?
フィオナ博士に向けていた銃をゆっくりと下ろし、安全装置セーフティをかけてからホルスターの中に戻す。彼女に吸血鬼の細胞を移植した挙句、寿命が減ったと告げたフィオナ博士に向けていた怒りは、もう完全に消滅していた。
「…………失礼しました、博士」
『いえいえ、気にしないでください。タクヤ君はラウラちゃんの事を大切にしてますし、この話をしたら怒るのは予測してましたから』
微笑みながらそう言ったフィオナ博士は、再び背後にあるビーカーを拾い上げ、近くにあった容器の中から蒼い粉を取り出す。それを緑色の液体の中にぶち込んでからビーカーを振り、再びビーカーを机の上に置いた。
「では、ラウラの所に戻ります」
『はい』
博士に告げてから、俺は彼女に提供していた空き部屋を後にした。
ラウラのバカ…………!
自室のドアを開けると、花の香りと石鹸の香りを混ぜ合わせたような甘い匂いがドアの向こうから溢れ出した。
転生者ハンターのコートを脱ぎ、壁に掛けておく。PL-14をホルスターごと外してテーブルの上に置き、ナイフの鞘も腰から外しておく。紅いネクタイを取ってからコートの近くに放り投げ、ソファに腰を下ろした俺は、部屋に置いてある時計を見つめた。
もう午後8時。もし春季攻勢カイザーシュラハトが無かったら、とっくにシャワーを浴びて夕食を食べている時間帯である。
シャワールームの方から水の音がする。多分、ラウラがシャワーを浴びているんだろう。イリナが眠るのに使っている棺桶の中身は空になっているから、多分彼女は偵察か訓練に行っているに違いない。
「ふにゃ? お帰りなさい。何してたの?」
シャワールームの扉が開き、向こうからパジャマ姿のラウラが姿を現した。シャワーを浴びた直後だから彼女の赤毛はまだ濡れていて、お湯が滴り落ちている。それに気づいたラウラは持っていたタオルで髪を拭きながらこっちへとやって来ると、俺の隣に腰を下ろしてから甘え始めた。
いつもなら喜んで彼女の頭を撫でていると思うんだけど、多分今日は無理だろう。
甘えてくる姉が、俺に尽くすために自分の寿命を減らしてしまったことを知ってしまったのだから。
多分、俺に彼女の頭を撫でる資格はない。
「…………どうしたの?」
「…………ラウラ、どうしてあんな対価を払った?」
「…………タクヤに尽くすためだよ」
部屋に戻ってくる前に、博士から話を聞いていたことに気付いたのだろう。甘えていた彼女の口調が一気に大人びたかと思うと、真面目な表情でこっちを見上げてくるラウラ。彼女は右手を伸ばして俺の頭を撫でながら、柔らかい尻尾を首に巻き付けてきた。
俺にために寿命を減らしたのか。
「何でだよ………!」
「ごめんなさい…………タクヤを守りたかったの」
「このバカ…………! 俺より先に死んじゃうじゃないか…………!」
そんなのは嫌だ。
ラウラが先に死ぬのは、絶対に認めない。
隣に座っている彼女を抱きしめると、ラウラも俺を抱きしめてくれた。
彼女が先に死んだら、彼女を抱きしめることはできなくなる。
間違いなく、俺は1人になってしまう。
そんなことを考えると同時に、涙が流れ始めた。
だから俺は、天秤に2つの願いを叶えてもらうことにした。
片方は、メサイアの天秤の完全消滅だ。願いと同等の対価を支払わなければ願いは叶わないのだから、これを手にした冒険者たちは天秤が不完全であることを知って絶望するだろう。
それゆえに、それを防ぐために天秤を消すのだ。
そしてもう1つの願いは、ラウラについての願いにするつもりだ。