異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
テンプル騎士団の欠点
灰色だけで彩られた殺風景な廊下の床や壁は、砂埃で汚れていた。床には剥がれ落ちた壁の破片も転がっており、小さな破片や砂埃たちと共に床を占領し続けている。
その殺風景な床に、ブーツの跡が刻み付けられていた。
壁の破片や砂埃たちが支配する通路を進んでいくのは、漆黒のボディアーマーと漆黒のヘルメットを身に纏った5人の兵士たちだった。顔にガスマスクを装備しているため、彼らの肌は一切露出していない。そのため種族や性別を見抜くのはかなり難しいだろう。
傍から見れば、真っ黒な人影にしか見えない兵士たちは、装備している
AN-94は凄まじい連射速度で2点バースト射撃を行う事ができる特異なアサルトライフルである。弾薬の口径が小さいとはいえ、人間の兵士がその正確な2点バースト射撃で射抜かれれば瞬く間に倒れる羽目になるだろう。
しかし、これから部屋の中へと突入することになる兵士たちは、2点バースト射撃ではなくフルオート射撃を選択していた。
足元に転がる破片を踏みつけ、室内に潜んでいる”敵”に自分たちが接近していることを知らせないように、細心の注意を払いながらドアの近くへと移動する兵士たち。突入前にもう一度セレクターレバーをちらりと見てから、後続の兵士たちが戦闘の兵士に向かって首を縦に振る。
「CP(コマンドポスト)、応答せよ。こちら”ボレイ1”」
『こちらCP(コマンドポスト)、どうぞ』
「これより突入する」
『了解(ダー)、幸運を』
CP(コマンドポスト)に報告してから、ボレイ1は目を細める。左手をAN-94のハンドガードから離してポーチの中へと突っ込み、中から突入の際に使用する爆薬を取り出す。息を呑みつつ訓練でそれを扱った時の事を思い出しながら、砂埃で汚れている白いドアに設置する。
仲間たちと共にドアから離れつつ、起爆スイッチを用意する。仲間たちがドアの爆発に巻き込まれないように距離を取ったのを確認した隊長は、深呼吸をしてからドアを睨みつけ、左手に持っていた起爆スイッチを押した。
かちん、とスイッチが小さな音を奏でた直後、床に転がっていた壁の破片や無数の砂埃たちが荒れ狂った。唐突に産声を上げた爆炎と衝撃波に呆気なく吹き飛ばされた破片たちが、周囲の壁に激突して跳弾にも似た音を奏で始める。しかし、それよりも大きな爆音が兵士たちの鼓膜を満たしていたため、その破片たちが奏でた音が彼らに聞こえることはなかった。
兵士たちの鼓膜を満たすことが許されるのは、大きな音だけなのである。
「突入!」
「行くぞッ!」
爆発の残滓が消え去るよりも早く、設置された爆薬が抉った穴へと兵士たちがライフルを構えたまま突入していく。
おそらく、部屋の中に立て籠もっている敵は今の爆音で驚いている事だろう。何の前触れもなく爆発したドアから流れ込む黒煙と火の粉の中で、混乱しているに違いない。その混乱している敵を持っているAN-94で撃ち抜けば、この作戦は終了なのだ。
いくら強力な敵でも、いきなりドアを吹き飛ばされた挙句、突入してきた部隊に対処できるわけがない。
空気と一緒に黒煙を吸い込みながらドットサイトの向こうを睨みつけたボレイ1は―――――――目の前の黒煙の中から突き出ている物体を見て、自分たちは高を括っていたのだという事を理解する羽目になった。
黒煙の中から突き出ているのは、漆黒の銃身であった。まるでホイッスルを縦に2つ繋げたような形状をしているAN-94のマズルブレーキとは違い、非常にシンプルな形状のすらりとしたマズルブレーキである。
先頭を進んでいたボレイ1がその銃身に気付いた直後、すらりとしたマズルブレーキが火を噴いた。
マズルフラッシュと一緒に飛び出した弾丸が、部屋の入り口を満たしていた黒煙を抉る。火薬の臭いをばら撒きながら飛び出した大口径の7.62mm弾は正確にボレイ1の胸板を直撃すると、薄れていく黒煙を深紅の飛沫で彩る。
「た、たいちょ―――――――」
銃口の向きが、素早く変わる。
シンプルなマズルブレーキが後続のボレイ2へと向けられると同時に、またしてもマズルフラッシュが黒煙の中で煌く。黒煙にあっさりと風穴を穿った一発の弾丸が、崩れ落ちていくボレイ1の頭上を回転しながら通過し、後続のボレイ2のヘルメットを直撃した。
(よ、読まれていた…………ッ!)
部屋の中に立て籠もっていた”敵”は、彼らの突入を予測していたのだ。
爆薬を起爆させた直後にドアの近くに陣取り、室内の敵が混乱していると思い込んでいた兵士たちを容赦のない射撃で返り討ちにする作戦だったのである。
もし敵がこの突入を読んでいなければ、勝っていたのは兵士たちだったかもしれない。しかし敵に突入するタイミングや突入してくる方向を予測されていた時点で、彼らが返り討ちに遭うのは決まってしまったのだ。
ボレイ2の後方にいたボレイ3、ボレイ4、ボレイ5の3人がそのドアの向こうに陣取っていた敵兵にAN-94を向ける。いくら突入しようとしていた彼らを2人も返り討ちにすることができたとはいえ、まだ3人もアサルトライフルを装備した兵士が残っているのだ。しかも彼らはその気になれば通路の向こうに逃げる事ができるが、相手は室内にしか逃げられない。
有利なのは、通路に陣取った3人の筈だった。
しかし―――――――室内で待ち構えていた敵は、アサルトライフルを構える兵士たちの予測を容易く覆してしまう。
「「「!」」」
かたん、という音と共に、薄れていく黒煙の中に黒い銃が落下する。グレネードランチャー、ホロサイト、ブースターが装備されたアサルトライフルを見た3人は、そのライフルが敵の装備していたライフル―――――――ロシア製のAK-15だ―――――――であることを瞬時に理解したが、それは瞬く間に不要な情報と化した。
敵が”使っていた”得物ではなく、”使っている”得物を理解しなければ意味が無いからである。
わざと得物を床に投げ捨てたのは、敵の狡猾なフェイントだったのだ。
そしてその狡猾なたった1人の敵が、黒煙の中で牙を剥く。
姿勢を低くしたまま、黒煙の中から飛び出す黒服の敵兵。深紅の羽根のついたフードで頭と顔を隠した敵兵はホルスターからPL-14を引き抜くと、慌てて”彼”に銃口を向けようとする兵士のAN-94の銃身を左手で逸らしてしまう。
ホイッスルを縦に2つ繋げたような形状のマズルブレーキが、強制的に壁へと向けられる。
華奢な腕で銃口の向きを変えられても、本気を出せばすぐに再び銃口を向けられるだろう。しかしその前に、止めを刺されてしまうのは火を見るよりも明らかであった。
胸板へと突き付けられたPL-14のスライドがブローバックし、小さな9mm弾の薬莢を排出する。
兵士の胸板が真っ赤に染まると同時に、今しがた弾丸の餌食となったボレイ3を葬ったPL-14と、もう片方のホルスターから引き抜かれたもう1丁のPL-14の銃口が、急接近してきた”彼”に驚愕している2人の兵士の頭へと向けられる。
2丁の銃で狙いを定めた蒼い髪の少年は―――――――目を見開く兵士たちの顔を見つめながら、笑った。
「―――――――チェックメイトだ、同志諸君」
「お前ら、何でたった1人の敵に返り討ちに遭ってんだよぉっ!?」
手加減するべきだったのだろうか、と思いつつ、スペツナズの指揮を執るウラル大佐に説教されているスペツナズの隊員たちを見守る。
さっきまで行っていたのは、新しくスペツナズに入隊する予定になっている新人たちの突入訓練だ。訓練用にペイント弾を装填した銃を装備し、訓練区画にある室内戦を想定した施設で訓練を行ったのである。
本来ならベテランのアクーラ隊が相手になる筈だったんだが、春季攻勢(カイザーシュラハト)の際に活躍したアクーラ隊の兵士たちは転生者の討伐に向かっているため、代わりに俺が相手をすることになったのだ。
多分、あの兵士たちは相手がたった1人だから油断してたんだろうなぁ…………。というか、突入前に報告する必要はないと思う。ほんの少しだけ声が聞こえてたし、足音も聞こえていた。真面目過ぎたのがあの新人たちの敗因という事だ。
「す、すいません、大佐…………」
「まったく…………入隊試験だったら全員不合格だからなっ! よし、全員罰として要塞砲の周囲を20周! もちろん今の装備のままだ!」
「ま、マジっすか…………」
「文句のある奴は粛清するぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「「「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」
あいつ、新兵たちに早速”
簡単に言えば、タンプル砲や36cm要塞砲の外周をひたすらランニングするというタンプル搭の名物だ。志願した兵士は入隊試験で要塞砲の外周をひたすら走らされるし、兵士たちも訓練であの巨大な要塞砲の周囲を走る。しかも場合によっては走っている兵士たちの後ろから戦車に乗ったウラルが追いかけて来るので、後ろを爆走するT-90のキャタピラの餌食にならないように全力で突っ走らなければならなくなる。
もちろん種族によって身体能力に差があるので、トレーニングで走る距離は種族によって異なる。でもウラル教官は部下に厳しい教官らしく、スペツナズの隊員たちはみんな同じ距離を走らされているという。
そう、人間やエルフの兵士たちまで吸血鬼たちと同じ訓練を受けているのだ。訓練で死者が出るんじゃないだろうか。
「
「「「「「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」
この訓練が終わってから、ボレイ隊の隊員が転属願を提出しに来ないことを祈るとしよう…………。
ホルスターの中からPL-14を引き抜き、兵士たちを追いかけ回し始めるウラル。入隊したばかりのボレイ隊の隊員たちが絶叫しながら訓練施設から飛び出していったのを確認したウラルは、ハンドガンをホルスターに戻してから溜息をついた。
「はぁ…………。人数が増えたのは良いが、あいつらはまだ実戦に出せんな」
「厳しいですねぇ、教官殿。あれでも陸軍と海兵隊から選抜された兵士だぞ?」
「あの程度で選抜されたのか? 兵士の質が心配だぞ…………」
き、厳しいね…………。
けれども兵士の質が二大勢力よりも劣っているのは、テンプル騎士団の問題の1つだ。第二次転生者戦争を経験し、大半の兵士が春季攻勢(カイザーシュラハト)の迎撃に参加して練度が上がったとはいえ、この世界で初めての転生者同士の戦争となった”第一次転生者戦争”を経験したベテランの兵士ばかりで構成された二大勢力には及ばない。
しかも春季攻勢(カイザーシュラハト)で何人も兵士たちが戦死したため、大損害を被ってしまったのである。幸い志願兵の数が多いのですぐに部隊の再編成をすることができるが、やはり兵士たちの錬度は低い。
積極的に殲虎公司(ジェンフーコンスー)やモリガン・カンパニーとの合同演習を行っているが、今のところ模擬戦ではテンプル騎士団が連戦連敗してしまっている。
けれども、中には転生者の討伐に成功した分隊もあるため、全ての部隊の錬度が低いというわけではない。実際に春季攻勢(カイザーシュラハト)で無数の航空機と戦って善戦したアーサー隊は、二大勢力からも注目されているエースパイロット部隊である。
今月にも合同演習の予定があったし、その時に殲虎公司(ジェンフーコンスー)から武器や兵器を購入する予定になっている。中国製の兵器の性能はロシア製やアメリカ製の兵器と比べると若干劣っているものの、コストが非常に安いという利点があるので、装備が行き渡っていない部隊にもすぐに装備を支給できるという利点があるのだ。
中には中国製の武器や戦車で武装した前哨基地もある。
「何とかして練度を上げないとなぁ…………」
「あ、ここにいましたのね」
「カノン?」
兵士たちの錬度をどうやって底上げするべきなのか悩んでいると、訓練施設の入り口の扉が開き、黒いドレスを思わせるデザインの制服に身を包んだカノンが中へとやってきた。
一見すると貴族のお嬢様が好みそうなドレスをそのまま黒くし、深紅のフリルを追加したような少しばかり派手なデザインにも見える。けれどもスカートの長さは両足の動きを阻害しない程度の長さで、よく見ると脇腹や腰の辺りにはマガジンを収めておくためのポーチも用意されており、実用性も考慮したデザインであることが分かる。
あれをデザインした人は誰なんだろうか。
「どうした? 訓練に付き合えってか?」
「いえ、その…………こちらを見ていただきたいんですが」
「ん? なにこれ?」
書類か?
目を細めながらカノンが差し出した書類のようなものを受け取り、それをウラルと一緒にまじまじと見つめる。
「兵士たちに実施しているテストの答案用紙ですわ。ついさっき採点が終わりましたの」
「ああ、これテストか」
テンプル騎士団には様々な種族の兵士が所属しているが、その兵士たちの中で読み書きができる兵士たちはたった3割しかいない。大半の兵士は元々奴隷だった人々であり、全く教育を受けていない状態であるため、この世界の公用語という事になっているオルトバルカ語どころか、自分たちの母語ですら文字を読んだり書いたりすることができないのだ。
前世の世界では考えられない事だけど、この世界では珍しい事ではない。そもそも”義務教育”という概念がないのだ。学校は存在するものの、生徒は裕福な資本家の子供や貴族の子供ばかりであり、基本的に平民の子供は両親から必要最低限の読み書きや計算を教わってから就職するのだ。中には読み書きすら教えてもらえず、そのまま就職する子供も少なくない。
そのため、テンプル騎士団の兵士たちにはこのような教育を行っている。さすがに読み書きができなければ仲間との連携に支障が出てしまうし、計算ができなければ残弾の計算もできないからな。
さて、この兵士の点数は何点なのかな?
《20点》
「…………こっちは?」
《15点》
…………ちょっと待て。
冷や汗を拭い去ってから、片手で瞼を擦る。さっきから点数が低い答案用紙ばっかりなんだけど、大丈夫なんだろうか。
《2点》
「…………」
《29点》
《0点》
《5点》
《5点》
《23点》
「…………か、かっ、か、カノンさん?」
「なんですの?」
「こ、これさ…………………何点満点?」
尋ねると、カノンは苦笑いしながら言った。
「ひゃ、100点満点ですわね」
「全員赤点じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
使ってる武器や装備だけじゃなくて、点数まで赤くならなくていいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
いや、問題が難しすぎたんじゃないか? いくら教育を受ける事ができなかったとはいえ、ちゃんと教育を受けた団員が教師を担当してるんだから高い点数は取れる筈だ。きっと問題が難しかったに違いない。
一緒に渡された問題用紙を苦笑いしながら見下ろすが―――――――俺まで兵士の質が心配になってしまった。
《7.62mm弾が30発入るマガジンがあります。クソ野郎を殺すために10発使ってしまいました。残った弾丸は何発でしょう?》
この問題は引き算だ。小学生でもすぐに分かるほど非常に分かりやすい計算である。
なのに、なんでこの兵士は間違ってるのだろうか。明らかに正しい答えは『20発』なのに、この兵士は何と『5000発』と書いているのである。
お、おかしいよね、これ…………。
というか、何でこんな点数を取ってしまう兵士(バカ)たちが吸血鬼に勝利できたのだろうか。多分春季攻勢(カイザーシュラハト)で敗北した吸血鬼たちがこの点数を見たら、きっとプライドを粉砕されるに違いない。
「ま、拙いぞ団長…………」
「この点数は…………お兄様、何とかしなければなりませんわ!」
「よ、よし…………! 円卓の騎士を招集しろ!」
兵士の錬度を上げるのも大事だけど、兵士たちの知能を上げる方が大事だ!
「―――――――兵士たちの勉強会を開くぞッ!!」