異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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シュタージの交渉

 

 机の上に並べた騎士たちの報告書を睨みつけながら、私は息を吐いた。

 

 その報告書に記載されているのは、カルガニスタンの砂漠に居座る忌々しい”テンプル騎士団”の戦闘を目撃した騎士たちからの報告書だった。テンプル騎士団の兵士たちは黒い制服に身を包み、轟音を発する”クロスボウのような飛び道具”を装備しているという。中にはロングソードやメイスで武装した兵士も見受けられるというが、大半がその飛び道具を装備しているらしい。

 

 オルトバルカの技術者が開発したスチームライフルは各国の騎士団が正式採用しており、フランセンでもライセンス生産が始まっているが、いくら銃剣を装備すれば接近戦にも対応できるとはいえ、ほぼ全ての兵士にそれを装備させているわけではない。高圧の蒸気の入ったタンクを背負わなければならないため、射手の動きは鈍重になってしまうのだ。だから剣や槍を装備した身軽な兵士たちに護衛をさせなければならない。

 

 フランセン共和国騎士団の騎士の6割はスチームライフルの射手である。

 

 しかし、テンプル騎士団の兵士の9割は、その”クロスボウのような飛び道具”で武装しているらしい。報告書にはその飛び道具にも銃剣が装着できる上に、スチームライフルと違って蒸気の入ったタンクを背負う必要がないという。それゆえに射手たちの動きは非常に身軽らしい。

 

 更に、そのテンプル騎士団の兵士たちが持っている装備は、凄まじい速度で連射する事ができると書かれている。

 

 我が騎士団でもスチーム・ガトリングという連射できる飛び道具を正式採用しているが、基本的に戦艦に搭載されたり、車輪付きの台座に乗せて使用しなければならないほど重い兵器であるため、テンプル騎士団のように歩兵に持たせることは不可能だ。

 

 連中の兵器は蒸気を使っていないのだろうか。

 

「…………」

 

 部下が淹れてくれたコーヒーを口へと運びながら、私は本棚の中に並んでいる本へと手を伸ばす。その本に記載されているのは、今から22年前に活躍したあのモリガンの傭兵たちの記録だった。

 

 確か、モリガンの傭兵たちもその飛び道具を使用していた筈だ。しかもたった2人の傭兵で、無数の魔物たちを殲滅したこともあるという。

 

 スチームライフルが開発されるよりも前から、その兵器はモリガンの傭兵たちが使っていたのだ。

 

 それは彼らが開発したものなのだろうか? 

 

 できるならば購入したいところだ。あのモリガンの傭兵が使っていた飛び道具を購入すると本国に打診すれば、本国はいくらでも予算を用意してくれるに違いない。

 

 だが、モリガンの傭兵たちはその武器を決して商人たちに売ることはなかったという。奪い取ろうとすればその商人や雇った傭兵たちは必ず皆殺しにされたため、商人たちは彼らの武器を手に入れることを諦めた。

 

 しかもそれを使っている兵士たちを仕留める事すらできなかったため、鹵獲もできていない。

 

「いったいどんな技術を使っている…………?」

 

 フィオナ機関を生み出したフィオナ博士ですら、その飛び道具が猛威を振るった後にやっとスチームライフルを開発したのだ。しかもスチームライフルは一発放つ度に再装填(リロード)が必要になるため、そのモリガンやテンプル騎士団が使っている兵器から見れば”不完全な兵器”である。

 

 オルトバルカ王国を”世界の工場”へと成長させた天才技術者ですら、その兵器を生み出す事ができていない。

 

 モリガンには、あのフィオナ博士を上回る天才技術者がいたのか?

 

 それとも、彼らの使っている兵器は”この世界の兵器ではない”のではないだろうか?

 

『総督、失礼します』

 

「入れ」

 

 ドアをノックした部下にそう言ってから、本を閉じて本棚へと戻す。

 

 おそらくテンプル騎士団に関する報告だろうな、と思いながら執務室に入ってきた部下が報告するのを待っていると、報告書らしき書類を持って入ってきた部下が、その書類を私の机の上に置いた。

 

「テンプル騎士団は、あの飛び道具を売るつもりはないそうです」

 

「そうか…………」

 

 どうやらテンプル騎士団からの”返事”のようだ。

 

 彼らの持つ兵器や武器をこちらに売却してくれれば、商人たちに彼らとの商売を禁じる”嫌がらせ”を止めてやろうと思ったのだが、彼らもモリガンの傭兵たちのように武器を売るつもりはないらしい。

 

 はっきり言うと、あいつらが持っている兵器は脅威だ。

 

 他の報告書では、馬を使わずに自由自在に走り回る鋼鉄の馬車や、轟音を発しながら大空を飛び回る鋼鉄の飛竜も保有しているという。更に、報告書ではなくカルガニスタンの漁師から聞いた噂話だが、非常に巨大な戦艦も保有しているという。しかもその戦艦は、あのオルトバルカ王国が建造した『クイーン・シャルロット級』を上回る大きさで、甲板の上には巨大な大砲をいくつも搭載しているらしい。

 

 本国には何度もテンプル騎士団は危険な組織だという警告を発しているが、本国の連中は信じていないらしく、逆にテンプル騎士団と協力して治安維持をするべきだと言っている。

 

 確かに彼らの力を使えばカルガニスタンは平和になるだろう。しかし、カルガニスタンは我が国の植民地だ。彼らは我らの植民地に勝手に居座り、未知の兵器を使って魔物を蹂躙し続けているのである。

 

 もしあの組織が我々に牙を剥けば、以前にタンプル搭を襲撃しに行った部隊と同じ運命を辿ることになるだろう。だからこそ商人たちに彼らとの商売を禁じ、管理局にも圧力をかけて資格を剥奪させ、あの組織を弱体化させるしかない。

 

 資金と資源を失った状態ならば、我々にも勝機はある筈だ。

 

「大尉、質問がある」

 

「何でしょう?」

 

「テンプル騎士団の兵器を見たことはあるかね?」

 

 問いかけると、ロングソードを腰に下げた大尉は目を細めながら答えた。

 

「…………ええ。望遠鏡で遠距離から見た程度ですが。大砲を積んだ鋼鉄の馬車を見ました」

 

 テンプル騎士団には、馬を使わずに走り回る”鋼鉄の馬車”がある。フィオナ機関を使っている可能性もあるのだが、魔力の反応は全くしない。しかも搭載している大砲は遠距離の標的ですら容易く吹き飛ばしてしまうほどの破壊力と凄まじい命中精度を持っているという。

 

 あの兵器は、明らかにこの世界の科学力では生み出せない代物ばかりだ。フィオナ博士が生み出したスチームライフルやスチーム・ガトリングですら、あの兵器たちから見れば”不完全”な武器でしかない。

 

 しかし、あの連中はあの兵器をどこで手に入れたのだろうか。

 

「テンプル騎士団の連中は、あれを一体どこで手に入れたんでしょうね?」

 

「分からん。だが…………あの兵器は、おそらくこの世界の科学力では生み出せないだろう」

 

「どういうことです?」

 

 可能性は低いと思うが、あの兵器をこの世界の技術で生み出すことは不可能だろう。騎士団の保有する剣の大半を”退役”させる原因となったスチームライフルですら、モリガンの傭兵たちがあの兵器で猛威を振るった後に生み出された”不完全な最新兵器”なのだから。

 

「―――――――あの兵器はこの世界で生み出された兵器ではないと思うのだよ、大尉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テーブルの上に置かれた書類や白黒の写真を見下ろし、凍り付いた議員の顔を見つめながら、俺はティーカップを口へと運んでいた。

 

 目の前にいる太ったフランセンの議員を凍り付かせているのは、彼のスキャンダルの証拠たちだ。不倫や不正な取引がスキャンダルの大半を占めていたけれど、他の議員の中には信じられないことに麻薬カルテルと取引をしていたクソ野郎もいた。

 

 議員たちとはそのスキャンダルを口外しないという約束をしたけれど、麻薬カルテルや奴隷を売っている商人たちと関わっていた奴らの件は円卓の騎士たちとスペツナズに報告しておこう。きっとスペツナズの派遣が可決され、テンプル騎士団の精鋭部隊であるスペツナズが派遣されるに違いない。

 

 クソ野郎はちゃんと消さないとな。

 

「…………こ、この情報は間違いじゃないかね? この日は会議があったから、私はこの女性と会うことはできなかったぞ」

 

 額の脂汗をハンカチで拭いながら、証拠を見て凍り付いていた議員が反論してくる。

 

 けれども、ちゃんと他の情報も調べてきたのだ。それに数ヵ月前からフランセンで諜報活動をしていたエージェントに、カルガニスタンの土地の購入が議会で可決された日から情報収集をするように指示していたから、この議員のスキャンダルの証拠はこれでもかというほど用意してある。

 

 スキャンダルを全部ここで教えてあげたら、この議員は認めてくれるだろうか。全部言う前にスキャンダルを認めてくれれば”交渉”を始める予定だけど、認めなかったらスキャンダルを全部公開してやる。

 

「あれ、そうですか? ノエルちゃん、写真ある?」

 

「はい、ブービ君」

 

 そう言いながら隣にいるノエルちゃんの方に手を伸ばすと、抱えていたカバンの中から取り出した白黒写真を手渡してくれた。エージェントが三日前に高級ホテルの向かいにある建物から撮影してくれた白黒写真をちらりと見てから、俺は容赦なくその写真をテーブルの上に置く。

 

 一枚目はニヤニヤしながら綺麗なハイエルフの女性と高級ホテルに入っていく写真だ。二枚目はそのホテルの向かいにある建設中の建物の中から撮影した写真らしく、議員がニヤニヤしながらハイエルフの女性の服を脱がせようとしている。三枚目はモザイクがあった方がいいかもしれない。

 

 ちなみに目の前にいる議員は既婚者だ。家族構成も調べたんだけど、もう子供は3人もいるらしい。

 

 奥さんにハイエルフの綺麗な女性とモザイクが必要になるようなことをしていたということを暴露したら、きっと家庭はとんでもないことになるだろう。もちろん議会に暴露したら辞任する羽目になるかもしれない。

 

 ちらりと隣にいるノエルちゃんを見て見ると、彼女は三枚目の写真を見ないように、微笑みながらじっと議員の顔を見つめていた。

 

 の、ノエルちゃんはまだ15歳だからね…………。

 

「確かその日の会議には、あなたの秘書が参加していたそうですね? まさか、ハイエルフのお姉さんとホテルに行くために会議を休んだのですか?」

 

「ち、違う! こんな女とホテルに行った覚えはないぞ!?」

 

「そうですか? では、今からこちらの綺麗な女性をお呼びしても大丈夫ですか?」

 

「え?」

 

 ちゃんとこのお姉さんも調べてるんだよ。フランセンの首都に住んでいる娼婦らしい。しかもその日の会議の議題は、魔物の襲撃や盗賊の襲撃について。要するに、魔物や盗賊に襲撃される街の防衛部隊を増強するという案について話し合うことになっていたのだ。

 

 国民の命を守るための法案なのに、この議員は会議を欠席し、ハイエルフのお姉さんとモザイクが必要になるような事をしていたのである。

 

「ま、待て…………。頼む、このことは公表しないでくれ…………」

 

「大丈夫です、口外はしません。…………ただ、要求があります」

 

「な、なんだ?」

 

「―――――――来週の議会で、”テンプル騎士団にカルガニスタンの土地の一部を金貨4枚で売却する”という法案を可決させていただきたい」

 

「!?」

 

 この世界では、金貨が3枚あれば一般的な家をローン無しで購入できる。ごく普通の労働者の年収は金貨5枚くらいだ。

 

 要するに、普通の労働者の年収以下の値段で、テンプル騎士団に土地を売れという要求である。

 

 同じように他のシュタージのエージェントたちが議員たちに”交渉”に向かっている。それにフランセンの議会では、1票でも賛成が多ければ法案を可決させる事ができるため、大半の議員に同じように”交渉”をしていれば法案を可決させるのは難しくないだろう。

 

 もちろん、否決したら容赦なくスキャンダルを暴露するつもりである。議員たちのスキャンダルを暴露したら、きっとフランセンの議員の大半は辞職する羽目になるに違いない。

 

「き、金貨4枚!? そ、そっ、そんな値段で土地を売れるわけがないだろう!?」

 

 2万円で高級車を売れと言っているようなものだからね。

 

「落ち着いてください。たった金貨4枚であなたのスキャンダルは口外されないんですよ?」

 

「だ、だが…………私だけを脅迫しても、他の議員が否決すれば―――――――」

 

「ご心配なく。すでに他の議員たちのところにも仲間が”交渉”に向かっていますので」

 

「!」

 

 議員の顔が、どんどん脂汗に支配されていく。間違いなくもう反論することはできないだろう。

 

 ティーカップに残っている紅茶を飲んでから、俺は笑顔で議員に告げた。

 

「で、どっちにします?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで過半数だね」

 

 議員の屋敷の外に待機していたエージェントの馬車に乗り込みながら、ノエルちゃんがそう言った。

 

 来週の議会で、脅した議員たちが要求通りに法案を可決させてくれれば問題ないんだが、もしかしたらこっちの要求を無視して否決する輩もいるかもしれない。だから議員の4分の3には同じように”交渉”しておかなければならない。

 

 もちろん、否決した奴がいたら報復するけどね。

 

「もう少しだね…………。まだ証拠はあるでしょ?」

 

「まだまだあるよっ♪」

 

 そう言いながら抱えているカバンをぽん、と叩くノエルちゃん彼女の持っているカバンの中には、エージェントや俺たちが調べた議員たちのスキャンダルの証拠がこれでもかというほど入っている。

 

 中にはモザイクが必要になるような写真もある。

 

 すると、さっきの写真の事を思い出したのか、ノエルちゃんが急に顔を赤くし始めた。

 

「ノエルちゃん?」

 

「ぶ、ブービ君…………お、男の人って、えっちな事に興味があるのかな…………?」

 

「…………あ、あるんじゃないかな」

 

 俺も興味あるけどね…………。

 

「ち、ちなみにブービ君も興味あるの…………?」

 

「…………………た、多分」

 

 そう答えてから、俺は馬車の窓の外を見つめながら溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

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