異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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総督と火種

 

「うーん…………」

 

 目の前に整列してくれた制服姿のテンプル騎士団の兵士たちを見渡しながら、俺は腕を組んだ。

 

 バーンズさんが作ってくれたテンプル騎士団仕様のロングソードを鞘と一緒に腰に下げ、地下にある広間に整列してくれた兵士たちが身に纏っているのは、まるで第二次世界大戦中のソ連軍の軍服を黒くして、袖や襟を紅いラインで彩ったようなデザインの制服だ。けれども兵士たちが身に纏っている黒い制服は、よく見るとデザインが違う。

 

 列の先頭にいる兵士の胸にはポケットがあるのに、その後ろにいる兵士の胸元にはポケットがない。3番目に並んでいる兵士の制服は半袖だし、彼の後ろにいる兵士の制服にはフードと短めのマントがついているのが分かる。

 

 そう、デザインがバラバラなのだ。

 

 規定が仇になったな、と思いながら、兵士たちを見渡していた俺とナタリアは頭を抱えた。

 

 普通の軍隊や騎士団では絶対に考えられない事だけど―――――――テンプル騎士団では制服を支給する前に、兵士の要望を聞いて制服のデザインを変えてから支給するようにしている。なので中には実用的なデザインに変更された制服を身に纏っている兵士もいるし、民族衣装を思わせるデザインに変更された制服を身に纏っている兵士もいるというわけだ。

 

 要するに、制服のデザインがバラバラになっているせいで、統一感がないのである。

 

 手榴弾を収めておくためのホルダーが増設された実用的なデザインの制服を着ている兵士の傍らには、真っ黒なターバンを頭にかぶった兵士が立っているのである。

 

「さ、さすがに制服のデザインは統一するべきね…………」

 

「そ、そうだな…………」

 

 溜息をつきながら、もう一度整列している兵士たちを見渡す。

 

 オルトバルカの戦勝記念パレードに参加するのは、20名の歩兵と6名の騎兵ということになっている。テンプル騎士団には騎兵は存在しなかったんだけど、テンプル騎士団に入団する前に馬に乗っていた兵士たちは何人もいたので、馬に乗る訓練はあまり行っていない。

 

 パレードに参加する兵士たちが装備するのは、バーンズさんに作ってもらったロングソードとスチームライフルだ。さすがに戦勝記念パレードに参加する兵士たちにAK-15やAK-12を装備させるわけにはいかなかったので、一般的な騎士団と同じ武器を装備させることにした。

 

 戦闘中に現代兵器を目撃されるのは仕方がないけれど、必要以上に目撃されるわけにはいかない。なので、わざと一般的な騎士団の装備でパレードに参加することになったのである。

 

 ちなみに、俺、ラウラ、ナタリアの3人もパレードに招待されているんだが、彼らと一緒に大通りでパレードをするのではなく、なんとシャルロット女王と一緒にそのパレードを見守ることになっているという。

 

 女王陛下が指名したらしい。

 

 多分、ハヤカワ家と王室に太いパイプがあるせいだろう。親父たちもパレードに招待されているのだろうか。

 

「緊張するわねぇ…………」

 

 女王陛下と一緒にパレードを見守ることになったからなのか、ナタリアはパレードが近づくにつれて緊張しているようだ。

 

 先頭に立っている分隊長が兵士たちと一緒に行進の練習を始めたのを見守っていると、黒い軍帽をかぶり直したナタリアがじっとこっちを見つめていることに気付いた。

 

「どうした?」

 

「タクヤは緊張しないの?」

 

「しないよ?」

 

「どうして?」

 

「小さい頃に何回もお茶会に招待されたから」

 

「えぇ!?」

 

 そう、俺とラウラは親父たちと一緒に、何度も女王陛下のお茶会に招待されているので、シャルロット女王と何度も会っているのである。

 

 さすがにお茶会に連れて行かれる前には両親からマナーについて教えられたし、子供用のスーツやドレスを身に着けて参加したけどね。普通の貴族のお茶会やパーティーならそれほど用意をしないんだけど、女王陛下から招待された時の親父たちの表情はかなり真面目だった。いくら王室と親しいとはいえ、”世界の工場”と呼ばれている大国の女王なのだから、無礼なことをするわけにはいかないからな。

 

 きっと親父たちも緊張していたに違いない。というか、俺やラウラが宮殿の中で迷ったり、走り回って絵画や銅像を傷つけたりしないか心配だったんだろう。宮殿にある芸術品の金額は一般的な貴族がすぐに財産を使い果たしてしまうほどの金額だから、それを弁償する羽目になったらとんでもないことになるのは想像に難くない。

 

 でも、シャルロット女王は他の貴族みたいに堅苦しい人じゃなかったんだよね。優しかったし、ラウラが飽き始めていることに気付くと近くにいる近衛兵に宮殿の中を案内させてくれた。

 

 女王陛下は元気だろうか。

 

 もしかしたら、俺たちを招待したのは成長した俺とラウラの顔が見たかったからなのではないだろうか。

 

「へ、へ、陛下と知り合いなのっ!?」

 

「ああ」

 

「…………タクヤって貴族じゃないわよね?」

 

「平民だよ?」

 

 一部の貴族や王室と親密なのは、九分九厘親父たちのせいである。

 

 多分、女王陛下のお茶会に頻繁に招待された平民は俺たちだけなんじゃないだろうか。

 

 ハヤカワ家が王室と親しくなった原因は、間違いなくモリガンの傭兵たちのせいである。様々な依頼を成功させて世界最強の傭兵ギルドと呼ばれるようになったモリガンの傭兵たちは、シャルロット女王の父親である国王に依頼され、若き日のシャルロット女王を転生者から救ったことがあるという。

 

 その際に親父は、当時の国王陛下から報酬してサラマンダーの仕込み杖を貰ったらしい。すぐにガルちゃんに借りパクされたらしいけど。

 

「セルゲイ、他の仲間に合わせろ! 足がずれてるぞ!」

 

「だ、了解(ダー)!」

 

「ボリス、イワン! お前らは敬礼の角度が違う! さっきも訓練しただろうが!」

 

「「す、すみませんッ!」」

 

「オルトバルカの戦勝記念パレードなんだ! 恥をかくわけにはいかないんだからなっ!」

 

 タンプル搭の広間を使って行進の訓練をする兵士たちは、当たり前だけど種族がバラバラだった。兵士たちを怒鳴りつけている分隊長はハーフエルフだし、怒鳴りつけられている兵士たちはオークやドワーフの兵士たちである。中にはエルフや獣人の兵士も混ざっている。

 

 種族によって体格は全然違うので、統一感のなさに拍車をかけていると言える。例えばオークの平均的な身長は2m以上なんだけど、一番小柄なドワーフたちの場合は140cm以上ならば”大男”と呼ばれるのである。ちなみに二番目に大きいのがハーフエルフということになっている。

 

 制服のデザインはパレードの時だけは統一する予定だけど、種族まで統一する予定はない。

 

 このようにバラバラの種族たちをパレードに参加させることによって、テンプル騎士団の団員たちは種族がバラバラだというのに、ちゃんと共存できているということをアピールするのだ。

 

 これからは奴隷を働かせるのではなく、同僚として一緒に働く時代にならなければならないのだから。

 

 なので、参加するメンバーは変えない。

 

「よう、団長」

 

「あっ、バーンズさん。剣の製造お疲れ様」

 

 肩にタオルをかけながら広間の中に入ってきたのは、タンプル搭の中にある工房で武器を製造しているドワーフのバーンズさんだった。身長は小さいんだけど、小さな身体はがっちりとした筋肉に覆われているのが分かる。もし身長が高かったら、ギュンターさんや親父に匹敵する大男になっていたに違いない。

 

 武器の製造を担当してもらっているとはいえ、さすがに銃は生産できない―――――――というか火薬がこの世界に存在しないらしい―――――――ので、彼らに製造をお願いしているのはナイフや剣などの近接武器である。

 

 ドワーフの職人が作る武器は、貴族たちには「野蛮な武器」と言われているものの、極めて頑丈で信頼性が高い武器が多い。騎士団の騎士たちに支給されている剣の大半はドワーフの職人が作り上げた代物であると言われている。

 

 逆に、ハイエルフの職人が作る武器は華奢で壊れやすいものの、美しい装飾と凄まじい切れ味を兼ね備えた剣が多いと言われている。貴族が腰に下げている剣の大半はハイエルフの職人が作った剣らしい。

 

「あの剣、新しいロングソードのプロトタイプなんだ。今のモデルは若い奴らには重いらしくてな」

 

「そうなんですか?」

 

 俺も素振りしたけど、そんなに重くなかったぞ?

 

「ああ。だから仕方なく刀身に穴を開けて軽量化したよ。素材を別の鉱石に変えて強度を維持しようと思ったんだが、やっぱりちょっと脆くなっちまった」

 

 ドワーフの作る武器の強みは”頑丈さ”だからなぁ…………。やっぱり、欠点を克服するために軽量化したとはいえ、一番自信のある頑丈さを削る羽目になったのは悔しいんだろう。

 

 テンプル騎士団の兵士にはAK-15を支給しているが、中にはバーンズさんのロングソードを構えながら先陣を切り、弾幕を躱しながら白兵戦を始める兵士たちもいるという。テンプル騎士団の兵士は三大勢力の中でも白兵戦に特化しているらしく、モリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)も一目置いているらしい。

 

 白兵戦をする兵士たちを支えているのは、バーンズさんや弟子たちというわけだ。

 

「そういえば、さっき工房に寄った若い奴が『任務中にフランセンの騎士共に見張られてた』って言ってたぜ?」

 

「そうですか…………」

 

 やっぱり、フランセンの連中はテンプル騎士団を監視しているらしい。昨日タンプル搭から派遣した偵察部隊や、前哨基地へと物資を運んでいた輸送部隊もフランセンの騎士を目撃したり、尾行されたという。

 

「例の総督の嫌がらせか?」

 

「分かりません。でも、警戒した方がいいでしょうね」

 

 多分、総督の狙いは戦勝記念パレードだろう。

 

 俺とラウラとナタリアは、パレードに参加するためにタンプル搭を離れなければならない。つまり、団長、副団長、参謀総長が一時的に本部からいなくなってしまうのである。

 

 テンプル騎士団が領土を手に入れてしまったせいで、今までのような嫌がらせで組織を弱体化させる事ができなくなってしまった。それゆえに、今度は俺たちを本格的に攻撃するつもりなのだろう。

 

 タンプル搭への攻撃を決行する前に装備を集めつつ、こちらの兵器を観察して対策を考えるつもりに違いない。

 

 あの総督は、総督を辞任するつもりなのだろうか。

 

 溜息をつきながら、俺は耳に装着している小型無線機へと手を伸ばした。

 

「シュタージ」

 

『はい、同志団長』

 

「余裕があったら、5日後の戦勝記念パレードに招待されている客を全員調べてほしい」

 

『客ですか?』

 

「ああ。あのパレードにはいろんな国の騎士団の将校が招待されてるからな」

 

 もしかしたら、そのカルガニスタンの総督も招待されているかもしれない。

 

『例の総督ですね?』

 

「そうだ。もし招待されてるなら話がしたい。…………それと、フランセン語が話せるエージェントを総督府に派遣し、騎士団の動きを探らせてくれ」

 

『了解です、同志』

 

 もしも俺たちに攻撃を仕掛けるというのであれば、現代兵器で粉砕してやろう。

 

 総督府の連中が消えてくれれば、上手くいけばカルガニスタンそのものを独立させることもできる筈だ。テンプル騎士団の兵力ならば植民地の騎士団を一掃することは容易いが、そんなことをすれば本国とも戦争になってしまう。

 

 だからこそ、勝手に総督が口火を切ってくれた方が望ましい。

 

 ガソリンの海に、マッチを放り込むようなものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっきり言うと、王都ラガヴァンビウスはかなり騒がしい。労働者向けのアパートやビルの建設が行われているせいで、大通りを歩いていればハンマーが杭を打つ音や、超小型フィオナ機関で動くドリルの音が絶対に聞こえてくる。

 

 しかもその音に、街中に設置されたスピーカーからひっきりなしに踊り出す音楽や商品の宣伝をする女性の声まで追加されるのだ。街の隅にあるスラム街や墓地にまでその音は届くのだから、きっとあの王都に静かな場所なんかないのかもしれない。

 

 パレードに参加する兵士たちと共に、分厚い防壁に穿たれた通路を抜けた俺は、出発した時よりもはるかに王都が騒がしい場所になっていた事を理解し、うんざりしてしまった。

 

 カルガニスタンの方が静かなんだよな…………。

 

『切れ味の鋭い剣や堅牢な防具は、モリガン・カンパニーの売店で販売しております!』

 

『”ネイリンゲンの戦い”は、本日午後7時より公演開始です!』

 

「ふにゅ…………なんだかうるさいなぁ」

 

「雑貨店で耳栓でも買ってくるか」

 

 冗談を言いながら、ビルや工場の煙突を突き付けられている青空を見上げた。産業革命によって高い建物が街中に居座るようになったせいで、閉鎖的な王都の上に広がる青空はどんどん追い詰められつつある。

 

 その空を舞うのは、背中に赤い制服を纏った騎士を乗せた飛竜たち。騎士団で運用するために子供の頃から調教された軍用の飛竜だろう。背中に乗っているのは2名の騎士で、手綱を握っている騎士の後ろにはスチームライフルを装備した騎士が乗っている。

 

 側面から回り込んできた敵や、後方にいる敵を攻撃するためのガンナーだ。小回りの利く小型の飛竜の場合は戦闘機のように即座にドッグファイトができるから問題ないんだが、それなりに大型の飛竜の場合はそのまま撃墜される恐れがあるため、あのようにガンナーが一緒に乗ることが多い。

 

 要するに頭上を飛んでいる飛竜たちは、兵器に例えるならば急降下爆撃機のようなものなのだ。

 

 魔術で発生させたカラフルな煙で青空を寸断しながら飛び去っていく飛竜たちが、そのまま空中で旋回して宮殿の方へと戻っていく。勇ましい飛竜を見上げている市民たちの歓声を聴きながら、俺たちは宮殿へと急いだ。

 

 ちなみに、俺が身に纏っているのはいつもの転生者ハンターのコートではなく、式典用の制服と軍帽だ。転生者ハンターのコートのようにフードはついておらず、マントの長さは延長されている。肩や胸元にも黄金や深紅の装飾が追加されているおかげでいつもよりは華やかだけど、正直に言うと動きにくい。いつも最前線にいるからなのか、こういう服装は慣れてないんだよね…………。

 

 なので、出来るならばさっさといつものコートに着替えたいものである。

 

 ラウラとナタリアの制服も、同じく式典用の制服だ。基本的にデザインは同じだけど、女性用の制服はズボンではなくスカートになっている。

 

「動きづらいな、この服…………」

 

「うーん…………胸の辺りがきついんだけど、ボタン外していい?」

 

「ダメだって。パレードが終わるまで我慢しろよ」

 

「ふにゅう…………おっぱいが小さくなっちゃうよぉ」

 

 そんなわけないだろ…………。

 

 苦笑いしながらナタリアの方を見ると、彼女は自分の胸元を見下ろしてから苦笑いしていた。ラウラの大きな胸が羨ましいのだろうか。

 

 でも、ナタリアは重巡洋艦がちょうどいいと思うよ?

 

 建設中のビルの向こうに宮殿の屋根が見えた途端、隣を歩いていたラウラが真面目な表情になった。甘えてくるときのお姉ちゃんではなく、戦闘中の凛々しいお姉ちゃんになったらしい。真面目な時のラウラは、同じく真面目な時のエリスさんにそっくりだ。クソ野郎を容赦なく殺していく残虐さは親父にそっくりだけど。

 

 こっちの凛々しいお姉ちゃんも好きなんだよね。甘えてくるお姉ちゃんも可愛いけれど、ラウラの容姿はメンバーの中では大人びている方なので、真面目で凛々しい方が似合っているような気がする。

 

「ねえ、ラウラ」

 

「あら、どうしたの?」

 

「ラウラって本当に二重人格じゃないの?」

 

「どうして?」

 

「ええと……………いつものラウラとギャップがあり過ぎると思うんだけど」

 

「ふふふっ、どっちなんだろうね?」

 

 いつもよりも大人びた性格のラウラが、歩いている最中に傾いていたナタリアの軍帽を微笑みながら直す。彼女に軍帽を直してもらったナタリアは、顔を赤くしながら前を見て歩き続けた。

 

 貴族の屋敷が並んでいる通りの向こうに、真っ白な石で造られた階段が居座っている。その階段の向こうには黄金の装飾で彩られた金属の柵が鎮座しており、その柵の向こうから宮殿の赤い屋根やオルトバルカ王国の国旗が覗いている。

 

 あそこがラガヴァンビウス宮殿だ。周囲の街はどんどん新しい建物やビルに変わっていくけれど、この王都に移り住んだ時から巨大な宮殿は殆ど変わっていない。周囲に居座る貴族の屋敷やビルとは比べ物にならないほど巨大な宮殿を見つめながら、幼少の頃にお茶会に招待された時の事を思い出す。

 

 よく近衛兵の人に案内してもらい、ラウラと2人で宮殿の見張り台に上った。見張り台とは言ってもラガヴァンビウスが襲撃されることは全くないので、衛兵がそこで見張りをすることは殆どないらしい。

 

 だからほとんどの人は知らない筈だ。あそこから王都を見渡すのは最高だということを。

 

 高い建物のせいで絶景が台無しになってるのは想像に難くないけれど、出来るならば昔みたいにまたあそこから王都を見渡してみたいものだ。女王陛下にお願いしたらまた見張り台に行かせてくれるだろうか。

 

「テンプル騎士団だな?」

 

 昔の事を思い出しながら宮殿に向かって歩いていると、階段の向こうに鎮座しているでっかい正門を警備していた衛兵に声をかけられた。パレードだからなのか、今では段々と廃れつつある金属製の防具を身に着け、腰に伝統的なロングソードを身に着けている。

 

「ええ、本日のパレードに招待されました。参加するのは後ろの26名です」

 

「身分証明書を」

 

「はい」

 

 ポケットへと手を突っ込み、冒険者のバッジを取り出す。資格を取得した際に発行される冒険者のバッジは身分証明書にもなるので、紛失すると大変なことになるのだ。

 

 銀色のバッジに刻み込まれている情報を確認した衛兵はこっちを見て頷いてから、そのバッジを返してくれた。

 

「ふっふっふっ。大きくなったな、タクヤ君」

 

「え?」

 

 俺の事を知ってるのか?

 

「覚えてるかな? 君とラウラちゃんをよく案内したんだけど」

 

「あっ、あの時の!?」

 

 よく宮殿を案内してくれた人か!

 

「君たちはあの頃から冒険が好きだったみたいだね。ふふっ、ついに冒険者になったというわけか……………頑張れよ、2人とも」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「よし、それではパレードに参加する団員は向こうの広場に集合して待機してくれ。タクヤ君たちは宮殿の中へ」

 

 女王陛下にお茶会に招待された時に、退屈そうにしていた俺とラウラを連れて宮殿の中を探検させてくれたその衛兵にお礼を言ってから、俺とラウラとナタリアの3人は巨大な門をくぐり、宮殿の中へと進んだ。後ろをついて来ていた兵士たちは宮殿の外にある広場に集合してからパレードをするらしいので、別行動をしなければならない。

 

 それにしても、あの人は近衛兵から衛兵に転属になったのだろうか。あの頃からもう14年くらい経っている筈なんだけど、あまり容姿は変わってなかったな……………。

 

「あの人、近衛兵から衛兵になってたのね」

 

「ああ…………再会できるとは思ってなかったよ」

 

 また見張り台に登らせてもらえますか、と聞いておけばよかったと思いながら、仲間たちと一緒に宮殿の庭を進む。

 

 ラガヴァンビウス宮殿の庭は、飛行場を用意できるのではないかと思えるほど広い。庭の中には花壇がいくつも用意されており、無数の花壇の中では様々な色の花で埋め尽くされている。

 

 花壇の群れの向こうにはガラスで作られたドームのようなものが規則的に並んでおり、そのドームの中には金属製の細い配管が張り巡らされているのが分かる。その配管達はドームの天井に吊るされているシャワーへと繋がっており、そこへと水を運んでいるようだ。

 

 ドームの中に居座るのは、雪国であるオルトバルカでは目にすることができない他の地方の貴重な植物たちだ。あのドームで温度を調節し、オルトバルカの冷たい風から保護しているのだろうか。

 

 産業革命で技術が発展したからこそ、別の地方の植物をこの雪国で愛でる事ができるようになったのだろう。フィオナちゃんが引き起こした産業革命の恩恵は、予想以上に大きいようだ。

 

 しかもそのドームには、やっぱりモリガン・カンパニーのロゴマークが描かれていた。

 

「あのドーム、モリガン・カンパニー製だ」

 

「あのロゴマークを見るのが当たり前になっちゃったわ」

 

 今ではあのロゴマークが描かれたモリガン・カンパニー製の商品が、これでもかというほど流通しているからな。

 

 交差しているレンチとハンマーの上で、赤い星が輝いているロゴマークが。

 

「―――――――こんにちは」

 

「?」

 

 当たり前のように描かれている父親の会社のロゴマークを見てうんざりしていると、後ろから声をかけられた。

 

 オルトバルカ語だけど、少しばかり訛りがある。今しがた声をかけてきた人の本来の母語はオルトバルカ語ではないのだろうな、と思いつつ後ろを振り返ると、眼鏡をかけた30代後半くらいの男性が、2人の護衛の騎士と共に俺たちの後ろに立っていた。

 

 一緒に立っている護衛の兵士たちは、黒と黄色の制服の上に銀の防具を身に纏っている。防具とは言っても、退役しつつある分厚い防具ではなく、肩や脛に装備する小ぢんまりとしたデザインのシンプルな防具である。その防具にはフランセン騎士団のエンブレムが描かれており、彼らが自己紹介をするよりも先に自分たちの出身地を俺たちに告げている。

 

 真ん中に立っている男性も、護衛の騎士が身に纏っている制服を少しばかり豪華にしたようなデザインの制服を身に纏っていた。両肩には黄金の装飾がついており、左肩にはフランセン共和国の国旗と、カルガニスタンに派遣されている騎士団のエンブレムが描かれているのが分かる。

 

 総督府の人だろうか。

 

「君たちはテンプル騎士団の団員かな?」

 

「ええ」

 

「そうか…………」

 

 子供がテンプル騎士団を率いているのが信じられないのだろうか。

 

 その男性は眼鏡をかけ直すと、一瞬だけ俺を睨みつけてから名乗った。

 

「私はフランセン共和国騎士団の”レオ・ヴォルジャティアン”総督。カルガニスタンに派遣されている」

 

 この男がカルガニスタンの総督か。

 

 テンプル騎士団を嫌っている総督で、管理局に圧力をかけてテンプル騎士団からの資格の剥奪を目論み、商人たちに俺たちとの商売を禁じた張本人。

 

 パレードには各国の騎士団が招待されるのが当たり前だが、フランセンの総督まで招待されているとは思わなかった。

 

「テンプル騎士団団長のタクヤ・ハヤカワです。よろしく」

 

「こちらこそ。……………ところで、”小規模な騎士団”の団長が本部を離れても大丈夫なのかね?」

 

 隣にいるナタリアとラウラが、ほぼ同時に目の前の総督を睨みつける。もし2人が護身用のハンドガンや剣を引き抜いたら全力で制止するつもりだったけど、2人を止める必要はなさそうだ。

 

 さすがに宮殿の中で銃をぶっ放したら、王室と親しいハヤカワ家でもただでは済まないからな。

 

 それに、母さんには幼少の頃から紳士的な男になれと言われながら育ってきたんだ。いきなり銃は抜かない方がいい。

 

「ご心配していただきありがとうございます。幸い我が騎士団は、戦力差を見抜けずに惨敗する無能な連中とは違いますので」

 

 ウラルとイリナの一件の際に、俺たちはフランセンの騎士たちと戦っている。あの時のフランセン騎士団は俺たちをただのゲリラだと思って見下していたらしいが、最終的に現代兵器で武装したムジャヒディンたちの猛攻と空爆で大打撃を受けた挙句、要塞砲の砲撃で壊滅してしまっている。

 

 戦力差を見抜けなかった無能よりはマシだ、と思いつつ言い返すと、総督の護衛の騎士たちも目を細めた。

 

「…………ただの子供ではないようだ」

 

「それはどうも」

 

「…………行くぞ、少尉」

 

「はい、総督」

 

 護衛の騎士を引き連れ、レオ総督は宮殿の中へと歩いていく。パレードが始まる前にシャルロット女王に挨拶をするつもりなのだろうか。

 

「…………絶対私たちがいない間に攻撃を仕掛けてくるわよ、あいつら」

 

「そうだろうな」

 

 総督府に潜伏させていたエージェントのおかげで、フランセン側の作戦は筒抜けだった。本国ではなくオルトバルカ王国から最新型のスチームライフルを購入し、偵察部隊にテンプル騎士団を観察させつつ、騎士たちにライフルの訓練をさせていたらしい。

 

 いい作戦だな、総督。

 

 ―――――――相手が俺たちではなかったのなら。

 

 残念だけど、あんたもあの時の総督と同じだ。こっちの保有している兵器の性能は知っているけれど、兵士たちの錬度まで把握できていない。

 

「大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ」

 

 テンプル騎士団の上層部が不在の場合は、シュタージのクランが臨時で団長代理になることになっている。

 

 それに、”フランセンの連中が”攻め込んできてくれた方が都合がいいからな。

 

 軍帽をかぶり直しながら、俺は嗤った。

 

 

 

 

 

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