異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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血と鉄の洗礼を

 

「面を上げなさい」

 

 広い空間に、凛とした女性の声が響き渡る。純白の美しい床の上に敷かれた深紅のカーペットの上で、仲間たちと共に猛烈な緊張感を感じながら跪いている俺の左右には、伝統的なオルトバルカ王国騎士団の赤い制服を身にまとい、スチームライフルを装備した騎士たちがずらりと並んでいる。

 

 前世の世界のマスケットにケーブルを接続したような形状の銃に銃剣を装着しているとはいえ、騎士というよりはマスケットを装備した戦列歩兵のように見えてしまう。

 

 けれども、俺たちが緊張している原因はずらりと並んだ騎士たちが発する威圧感ではない。確かにスチームライフルを各国の騎士団が採用し始めたせいで剣が廃れ始めているけれど、スチームライフルは1発しか矢を装填できない。一斉射撃は脅威かもしれないが、アサルトライフルやLMG(ライトマシンガン)の容赦のないフルオート射撃をこれでもかというほど目にしてきた俺にとっては、全く脅威とは思えない。

 

 ゆっくりと顔を上げ、カーペットの向こうにある豪華な椅子に腰を下ろす金髪の女性を見上げた。豪華な黄金の装飾がついた真っ赤なドレスに身を包んでおり、頭の上にはいくつも宝石が埋め込まれた黄金の王冠を乗せている。

 

 その王冠をかぶることができるのは、この世界で最強の大国の頂点に君臨する事を許された王のみ。

 

 俺たちの目の前にいる金髪の女性が―――――――このオルトバルカ王国の、女王だった。

 

 彼女の名は『シャルロット・アウリヤーグ・ド・オルトバルカ』。王位を継承する前に武装勢力によって人質にされたことがあるらしいんだけど、その際に国王が有名になりつつあったモリガンの傭兵たちに彼女の救出を依頼し、若き日の親父たちによって無事に救出されている。

 

 女王陛下が救出されてからは、モリガンの傭兵たちは王室と親しくなった上に、頻繁に王室からの依頼を引き受けるようになった。報酬も貴族からの依頼とは比べ物にならないほど高額だし、王室という最高の後ろ盾と更に親しくなるべきだと考えたのだろう。

 

 俺とラウラが生まれるよりも前から、モリガンは王室と太いパイプを持っていたというわけだ。

 

 なので、俺たちも女王陛下のお茶会に何度も招待された。あの時からもう10年以上も経っているんだけど、真っ赤なカーペットの向こうにいるシャルロット女王の容姿は当時とあまり変わっていない。

 

「久しぶりですね、タクヤ。ラウラ」

 

「はい。お久しぶりです、女王陛下」

 

「ふふっ。仲良く宮殿の中を探検していた幼い子供たちが、巨大なギルドを設立するとは思いませんでしたよ」

 

 正確に言うと、俺は幼児のふりをしてたんだけどね。言っておくけどこの世界に転生した時点で、”中身”の年齢は17歳だからな。

 

「お元気そうですね、女王陛下」

 

 ラウラも顔を上げて微笑みながらそう言った。もちろん、甘えてくるときのような子供っぽい口調ではなく、真面目な時の大人びた口調である。さすがに女王陛下に向かって「ふにゅう」と言うわけにはいかないからね。

 

 彼女が真面目な口調で話をしているのが珍しいらしく、一緒に顔を上げたナタリアは目を見開いてラウラの方を見てから、「本当に二重人格じゃないの?」と言わんばかりにこっちを見てきた。

 

 多分、このギャップの凄さはエリスさんから遺伝したんじゃないだろうか。あの人も普段は親父や母さんを襲ったり、当たり前のようにエロ本を読んでいる変態だけど、戦闘になると真面目になったらしい。

 

 あまり真面目になっている時のエリスさんを見たことがなかったせいで、22年前のネイリンゲンにタイムスリップした時はかなりびっくりしました。エリスさんって二重人格なのではないでしょうか。

 

 若き日の親父もエリスさんのギャップを目の当たりにして驚いたに違いない。絶対零度と呼ばれたラトーニウス王国最強の騎士が、親父と母さんを何度も襲おうとする変態だったのだから。

 

「ふふふっ、ありがとう。ラウラちゃんも立派になりましたね」

 

「ありがとうございます」

 

 普段は腹違いの弟にひたすら甘えているブラコンだけどね。

 

「パレードが終わったら、昔みたいにお茶会でもどう?」

 

「ええ。ぜひ参加させていただきます」

 

 幼少の頃のように、またあの見張り台に登らせてくれるだろうか。ここでお願いしてみようかなと思ったけれど、パレードの前に女王陛下に挨拶をしなければならないのは俺たちだけではない。世界中からこのパレードに招待された騎士団の将校たちもパレードの前に挨拶を済ませなければならないのだから、早めに女王陛下の前から立ち去るべきだろう。

 

「では、失礼させていただきます」

 

「ええ」

 

 跪いたままもう一度頭を下げ、ゆっくりと立ち上がってから踵を返す。話をしている間は緊張感を全く感じなかったんだけど、踵を返して広間の出口に向かって歩き始めると同時に、再びあの緊張感が背中に突き付けられているような感じがした。

 

 長いカーペットの上を進んで巨大な扉を通過すると、その扉の近くの壁に設置されたレバーの隣に立っていた騎士が、こっちに向かって頷いてからそのレバーを倒す。彼が倒したレバーによって目覚めさせられた動力機関が動力を伝達した直後、女王陛下のいる豪華な広間を晒していた分厚い扉が揺れて、そのままゆっくりと閉まり始めた。

 

 対戦車ミサイルでもぶち込まない限り風穴を開けられないのではないかと思えるほど分厚い扉が閉まったのを確認した騎士は、その扉を操作していたレバーにカバーのようなものをかぶせたかと思うと、そのカバーにある鍵穴に自分の持っていた鍵を差し込む。

 

 あの広間に部外者を侵入させないためのセキュリティなのだろう。

 

 彼がレバーにかぶせた金属製のカバーにもモリガン・カンパニーのロゴマークが刻み込まれていることに気付いた俺は、苦笑いしながら軍帽をかぶり直した。

 

 モリガン・カンパニーはあんなセキュリティまで作ってたのか……………。世界最高の工業力を誇るオルトバルカ王国ですらモリガン・カンパニーにかなり依存している状態なのだから、もしモリガン・カンパニーが各国を裏切って攻撃を始めたらこの世界が地獄と化すのは想像に難くない。

 

 親父はそんなことしないけどね。

 

 でも、騎士たちに支給する武器だけではなく、一般的な家庭にある家具や文房具までモリガン・カンパニーのロゴマークが刻み込まれているのが当たり前だ。あの企業はこの世界を掌握していると言っても過言ではないだろう。

 

「緊張したわねぇ……………」

 

「ふにゅー…………昔と変わってなかったね、陛下は」

 

 お、お姉ちゃんの口調がもういつもの口調に戻った…………。

 

「一言も話せなかったわよ、私…………」

 

「慣れれば話せるようになるよ。多分、これからも王室と付き合うことはあるだろうし。…………今度はナタリアをテンプル騎士団代表として派遣しようか?」

 

「何考えてるの!?」

 

 廊下を歩きながらナタリアをからかっているうちに、警備をしていた騎士が俺たちの方へとやってきた。防具を身に着けていない上に剣を持っておらず、銃剣付きのスチームライフルを背負っているせいで、やはり戦列歩兵にしか見えない。

 

 けれども、スチームライフルをぶっ放すためには高圧の蒸気を詰め込んだタンクを背中に背負わなければならない。案の定、こっちに駆け寄ってきた戦列歩兵のような恰好の騎士も圧力計やバルブが取り付けられた重そうなタンクを背負っていた。

 

「テンプル騎士団の方ですね?」

 

「ええ」

 

「ええと、こちらがパレードの際の座席になります。確認をお願いします」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 座席の場所か。

 

 渡された紙を3人で確認し、俺たちが座ることになっている場所を探す。もちろん座席の列のど真ん中には女王陛下が座ることになっており、その周囲には有名な貴族たちの名前が書かれている。

 

 どうせ俺たちは端の方だろう。有名になりつつあるとはいえ、テンプル騎士団はまだ規模は小さいし、所属しているメンバーの大半は平民どころか奴隷だったメンバーばかりだ。貴族たちが蛮族扱いしそうな組織だし、テンプル騎士団の席は端の方に違いない。

 

 そう思いながら端の方を探したんだけど、端の方の座席に書かれているのは小国の騎士団の将校たちや貴族たちの名前ばかりである。

 

 ん? まさか、テンプル騎士団は座るなってことか?

 

 でも、さっきの騎士は座席の位置を教えるためにこれをくれたんだよな? 

 

「あれ? 俺たちの席はどこ?」

 

「端っこにないの?」

 

「ふにゅ、ないよ?」

 

「ラウラ、エコーロケーションで探すんだ」

 

「私でもそれは無理だよ!?」

 

「あ、あったわよ」

 

「「え? どこ?」」

 

 ちゃんと席はあったのか…………。

 

 安心しながら、俺とラウラは何故か目を見開いたまま座席の位置を凝視しているナタリアが指差している場所をチェックする。

 

 そして、俺たちもナタリアと同じように目を見開く羽目になった。

 

「こ、ここって…………」

 

「本気ですか、陛下……」

 

 俺たちが座ることになっていたのは―――――――女王陛下のすぐ隣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スチームライフルを抱えながら、蒸気の入った重そうなタンクを背負った騎士たちがずらりと並んでいる。オルトバルカ王国から極秘裏に購入したスチームライフルにはスパイク型の銃剣が搭載されており、騎士たちが背負っているタンクや銃床の部分には、これ見よがしにモリガン・カンパニーのロゴマークが刻み込まれていた。

 

 本国でもスチームライフルをライセンス生産しているが、購入したのはそのライセンス生産されているモデルよりも新しいモデルだという。それゆえに値段も高かったが、この銃は飛竜の外殻を貫通するほどの貫通力と運動エネルギーを誇る。テンプル騎士団の兵器はかなり脅威だが、このライフルを装備した騎士たちの一斉射撃ならばあの野蛮人共を粉砕できるだろう。

 

 これを販売してくれた商人の話では、射程距離は60mほどだという。

 

 地上部隊の装備は、この新しいスチームライフルだけではない。カルガニスタンに配備されていたスチーム・カノン砲や、凄まじい勢いで矢を連発する事が可能なスチーム・ガトリングも用意してある。

 

 騎士たちの隊列の後方に広がる発着場では、ゴーグルをかけた騎士たちが調教された飛竜の背中に跨り、手綱を握って飛び立つ準備をしているところだった。スチームライフルが普及したことによって剣が廃れつつあるうえに、騎士の天敵と言われていた飛竜やドラゴンの外殻すら貫通する事ができるようになったとはいえ、未だに飛竜は強力な”兵器”である。スチームライフルで一斉射撃されればひとたまりもないものの、強力なブレスと圧倒的な機動力を兼ね備えているため、より強力な兵器が普及しても運用され続ける事だろう。

 

 更に、別の軍港にはカルガニスタンに配備されている戦艦や装甲艦が終結を開始しており、出撃準備が整い次第すぐに出撃することになっているのだ。フランセン騎士団の保有する戦艦は50mの船体の上に強力なスチーム・カノン砲を2門装備している。オルトバルカ王国が生み出したクイーン・シャルロット級には太刀打ちできないが、この戦艦が出撃すれば、敵の地上部隊は艦砲射撃で木っ端微塵になるに違いない。

 

 地上部隊、艦隊、航空隊の3つの兵力がこれから牙を剥くのは―――――――カルガニスタンの土地を買い取った、忌々しいあのテンプル騎士団共である。

 

 テンプル騎士団が保有している鋼鉄の馬車や鋼鉄の飛竜は、間違いなくこちらの兵器よりも高性能だろう。偵察部隊の報告では、テンプル騎士団の兵士が跨っていた金属の奇妙な乗り物が、こちらが派遣した騎兵をあっという間に置き去りにしていったという。

 

 しかもあの騎士団の兵士たちが装備しているのは、剣やスチームライフルではなく、小さな金属を凄まじい速度で連射する事が可能な飛び道具だ。

 

 だが、我々が購入した最新型のスチームライフルの方が射程距離が長いに違いない。それに今回の作戦には優秀な魔術師たちも参加するため、敵兵たちは矢に射抜かれた挙句、魔術師たちの強力な魔術によって薙ぎ払われることになるのだ。

 

 更に、テンプル騎士団の団長たちはオルトバルカ王国の戦勝記念パレードに出席するために、オルトバルカにいるという。つまりあの本部には、厄介な魔王(リキヤ)の子供たちがいないのである。

 

 テンプル騎士団の兵士の大半は奴隷で構成されている。強力な武器を支給されているらしいが、練度はかなり低いに違いない。しかしこちらの騎士たちは、何度も魔物の討伐を経験したベテランばかりだ。戦力は練度が低い上に団長のいない蛮族共の比ではない。

 

「諸君、これよりテンプル騎士団への攻撃を開始する。―――――――奴らは我が国から植民地の一部を買い取って”領土”を手に入れた。今のあいつらは”国”と言っても過言ではないだろう」

 

 そう、今のテンプル騎士団は”組織”ではなく”国”だ。

 

 だからこそ、本国は絶対にこの攻撃を許さない。

 

「今から我々は、その”国”を攻撃する。あいつらが奪っていった我らの植民地を奪い返すのだ。…………この戦いは、本国には通達していない。後で私と総督は、指揮官と総督を解任させられることだろう」

 

 独断で、テンプル騎士団と戦争を始めることになるのだから。もし仮にこの戦いに勝利して領地を奪還したとしても、本国は私と総督を解任するだろう。

 

 だが、あの植民地の”穴”は奪い返さなければならない。

 

 カルガニスタンを失えば、九分九厘フランセン共和国の戦力は弱体化するだろう。最悪の場合、カルガニスタンの豊富な資源を手に入れる事ができなくなり、騎士団が崩壊することになるかもしれない。

 

 それゆえに、カルガニスタンを手放すわけにはいかないのである。

 

「しかし、あの騎士団は絶対に壊滅させなければならない。奴らから領土を奪い返し、この植民地に穿たれた”穴”を塞ぐのだ。…………以上」

 

「出撃!」

 

 行進を始めた騎士たちを見渡しながら、私も総督府を後にする。

 

 あの恐ろしい兵器を保有する連中がこの世界に牙を剥く前に、テンプル騎士団を消さなければならない。

 

 これは祖国のための戦いなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし、あの騎士団は絶対に壊滅させなければならない。奴らから領土を奪い返し、この植民地に穿たれた”穴”を塞ぐのだ。…………以上』

 

「…………下らない演説ね」

 

 ジャムの入ったアイスティーを飲みながらその演説を酷評したクランが、目を細めながらテーブルの上に置いてあった自分のヘアピンを拾い上げる。前世の世界にいた頃から身に着けている鉄十字を模したヘアピンを前髪の右側に付けた彼女は、ティーカップの中にナタリアが作った甘いジャムを足し、溜息をついた。

 

 はっきり言うと、俺もこの演説は下らないと思う。

 

 民主主義が当たり前になった世界で育った俺たちが独裁者の演説を聞けば、間違いなく下らないと思うだろう。独裁者の演説を形成しているのは、殆どは馬鹿げた法律と思想なのだから。

 

 潜入させていたエージェントが録音した指揮官の演説を形成しているのも、やっぱり馬鹿げた法律と思想だった。カルガニスタンはここに住んでいた先住民たちの土地である。先住民からすればフランセンの連中は侵略者だというのに、その侵略者たちが俺たちを侵略者呼ばわりしているのだ。

 

 下らない演説である。

 

「―――――――総督府に一番近い塹壕はどこかしら、ケーター」

 

「第66番塹壕だ」

 

「ただちに守備隊を増強して防衛線の準備をするわよ。シャール2Cを派遣しても構わないわ」

 

 虎の子の超重戦車を動かすのはオーバーキルなのではないだろうか。エージェントの情報では、敵の地上部隊を構成しているのは”戦列歩兵”だという。第66番塹壕にいる40人の守備隊だけでも殲滅できるだろう。

 

 そう思いながらクランを見つめていると、黒い略帽をかぶった彼女は嗤った。

 

「―――――――全力で撃滅するわよ、あの”侵略者”共を」

 

 容赦をする必要はないと言わんばかりにそう言ってから、彼女はティーカップの中に残っていたアイスティーを飲み干した。

 

 40人の守備隊だけでは、物足りない。

 

 侵略者を出迎えるために、もっと強力な兵器(派手な歓迎)を用意する必要がある。

 

 クランは彼らを全力で歓迎するつもりなのだ。

 

 ”血”と”鉄”の豪雨で。

 

「血も涙もない侵略者共に―――――――血と鉄の洗礼を」

 

 

 

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