異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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塹壕VS戦列歩兵

「信じられない…………」

 

 オルトバルカ王国から購入した最新型のスチームライフルを抱えていた隣の兵士が、空を見上げながら呟いた。

 

 灰色の砂漠の上に広がる青空の中で、深紅の炎と漆黒の煙に彩られた爆炎が立て続けに産声を上げている。その爆炎の中から地上へと落下してくるのは、敵の超遠距離攻撃を回避する事ができなかった哀れな飛竜や、その背中に乗っていた騎士たち。

 

 そう、我がフランセン共和国騎士団の航空部隊たちである。

 

 飛竜は騎士や冒険者たちの天敵だ。剣や矢をあっさりと弾いてしまうほど硬い外殻に覆われているし、圧倒的な破壊力のブレスも兼ね備えているため、産業革命以前は優秀な魔術師の魔術で撃墜しなければ確実に大損害を被ることになっていた。

 

 産業革命で剣の製造方法が変わり、魔物の外殻もろとも肉を切り裂けるようになったし、スチームライフルの発明で魔術師じゃなくても強力な遠距離攻撃ができるようになったとはいえ、剣は当然ながら接近しなければ意味がないし、スチームライフルも命中精度がそれほどいいというわけではない。しかも再装填(リロード)に時間がかかってしまうので、外してしまったら敵の攻撃から逃げながら矢を銃口からぶち込まなければならない。

 

 それゆえに、飛竜はまだ俺たちの天敵として天空に居座る強力な魔物である。

 

 騎士が背中に乗れるように調教された飛竜たちが投入されれば、敵の死体が原形をとどめることはない。強力なブレスで焼き尽くされることもあるし、飛竜の腹が減っていれば食い殺されることもある。だから基本的に飛竜が投入される戦闘では、敵兵の死体は絶対に無残になる。

 

 今回の戦いでもテンプル騎士団の兵士たちが蹂躙されることになるだろうと思っていたんだけど―――――――大空で蹂躙されているのは、テンプル騎士団ではなく、我々の航空部隊たちだった。

 

 超遠距離から飛来する鋼鉄の槍のようなものが、白煙を空に刻み付けながら疾駆していく。飛竜を置き去りにしてしまうのではないかと思えるほどの速度で飛来したその槍は、あろうことか回避しようとする飛竜を追尾して容易く追いつくと、爆炎を生み出し、飛竜と跨っていた騎士たちを木っ端微塵に吹っ飛ばしてしまう。

 

 分厚い外殻を持つ中型飛竜ですら、一撃で黒焦げのミンチにされてしまうほどの破壊力があるというのか。

 

 しかもその攻撃をこれでもかというほどぶっ放している張本人たちは、未だに見当たらない。先頭を進んでいる指揮官が望遠鏡で空を見つめているけれど、どうやらその攻撃をぶっ放している連中は見つける事ができないようだ。

 

 鋼鉄の槍が白煙を吐き出しながら飛来する度に、虎の子の飛竜たちがミンチになっていく。

 

「前方に敵の防衛ラインを確認!」

 

 前進しているうちに、テンプル騎士団が我々を迎え撃つために用意した防衛ラインが見えてきた。灰色の砂漠のど真ん中に兵士たちを待機させてるんだろうと思ったけれど、飛竜たちが蹂躙されていくのを見るのを止めて前方を注視した俺は、今までに目にした事のない防衛ラインを目にする羽目になった。

 

 灰色の砂で埋め尽くされた大地に、穴が掘ってあるのである。

 

 大柄な男性でも隠れる事ができるほどの深さだろうか。中に段差でも用意してあるのか、その穴の中からあのスチームライフルのような飛び道具を構えた兵士たちが顔を出しており、銃口をこっちへと向けている。

 

 俺たちのようにスチームライフルを装備した兵士たちの隊列に遭遇するんだろうなと思っていた俺は、違和感を感じながらライフルを握り締めた。

 

 彼らの掘った穴は思ったよりも大規模らしく、中にはスチーム・ガトリングに似たでっかい飛び道具らしきものがこちらへと向けられているのが分かる。

 

 あんな穴の中に陣取ったら、飛竜のブレスで全員焼き殺されるのが関の山なのではないだろうか。虎の子の飛竜は空で蹂躙されているせいで、実質的に陸軍同士の戦いになりそうだけれど、もしこっちの飛竜があの攻撃を回避して地上にいる彼らに襲い掛かったら、テンプル騎士団の兵士たちは焼き殺されるに違いない。

 

 あの超遠距離攻撃で飛竜を蹂躙できるから、あのように穴の中に陣取っているということか。

 

 舐められてるな、俺たちは。

 

 しかも敵の数は200人足らず。それに対してこっちの騎士の人数は4000人だ。その中で最新型のスチームライフルを装備しているのは半数だけど、俺たちが敵陣に向けて一斉射撃を始めれば敵兵は蹂躙されることになるだろう。

 

 航空隊の弔い合戦だ、蛮族共め。

 

 その穴の中でくたばれ…………!

 

「射撃用意! 第一陣、バルブ開放!」

 

「第一陣、バルブ開放!」

 

 指揮官の命令と復唱が轟くと同時に、スチームライフルを抱えていた最前列の騎士たちがライフルに取り付けられているバルブを開放し始めた。スチームライフルは背中に背負っているタンクとケーブルで繋がれており、発射する前にバルブを開けて高圧の蒸気を薬室の中に注入しなければならない。

 

 かつては魔術師たちに支援してもらいながら、剣や槍を装備した騎士たちが突撃するという戦法だったけれど、スチームライフルが各国の騎士団で採用されるようになってから、そのような戦法はすぐに廃れてしまった。いくら切れ味が劇的に向上したとはいえ、敵に近づかなければ意味のない剣で攻撃するよりも、強力な飛び道具で一斉射撃した方が合理的なのは火を見るよりも明らかだからだ。

 

 俺が配属されているのは第二陣だから、前に並んでいる戦友たちがスチームライフルをぶっ放したらすぐに前に出て、指揮官に命令されてから一斉射撃する必要がある。

 

 たった約200名の敵兵を葬るために、4000人の騎士たちが牙を剥くのだ。テンプル騎士団の蛮族共は、我々の隊列を見つめながら絶望しているに違いない。

 

 スパイク型銃剣を装着したライフルを手にした兵士たちが、更新しながらバルブを開放する。魔物の素材で作られた特殊なゴムで覆われたケーブルが膨らみ、飛び出した高圧の蒸気が薬室の中へと伝達されていく。

 

 射程距離に入るまでもう少しだ。あと30mほど更新すれば、最前列の兵士たちが一斉射撃を開始するだろう。

 

 その時、サーベルを鞘から引き抜いていた指揮官の頭が、がくん、と揺れた。

 

「しょ、少佐―――――――」

 

 頭から鮮血を噴き上げながら、サーベルを持っていた指揮官が崩れ落ちていく。どうやら頭を敵兵の飛び道具で狙撃されたらしい。

 

 ちょっと待て、まだスチームライフルの射程距離じゃないぞ…………!?

 

 敵兵はこっちの射程距離外から狙撃してきたというのか!?

 

 頭を狙撃された少佐を見下ろしている間に、敵の防衛ラインの方からホイッスルの音が聞こえてきた。

 

『ピィィィィィィィィィィィッ!!』

 

 そのホイッスルの残響が消え去るよりも先に、敵陣に用意されていた穴の中で飛び道具を構えていた敵兵たちが、一斉に発砲した。

 

 一斉射撃をするために射程距離へと近づいていた我々が、それよりも先に一斉射撃を喰らう羽目になったのである。しかも敵の装備している飛び道具は我々のスチームライフルのように単発型ではないらしく、スチーム・ガトリングとは比べ物にならないほどの連射速度で攻撃を放ってくるのである。

 

 その一撃を叩き込まれる羽目になった第一陣の兵士たちが、次々に崩れ落ちていった。

 

「ぐあっ…………!」

 

「ぎっ――――――」

 

「ガフッ!?」

 

 射程距離はこっちのスチームライフルよりも上だ。しかも命中精度は指揮官の額を正確に狙撃できるほどで、連射速度はスチーム・ガトリングを遥かに上回っている。

 

 そんな飛び灯具を、テンプル騎士団の連中は一般的な兵士たちに当たり前のように支給しているというのか!?

 

 しかもあの穴の縁に設置されている大型の飛び道具は、その一般的な兵士が持つ飛び道具よりも強力な代物らしく、それから放たれた攻撃を叩き込まれる羽目になった騎士の手足が、あっさりと飛び散った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 腕がっ…………腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぎぃ…………た、立てない……! あ、足は………? 俺の足はどこだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 こっちが攻撃を放つよりも先に、一斉射撃の準備をしていた第一陣は壊滅状態に陥っていた。バルブを開放し、敵兵たちに一斉射撃をお見舞いしようとしていた勇ましい騎士たちが次々に殺されていく。

 

 中には運悪く背中のタンクに被弾してしまった騎士もいた。あのタンクの中に入っているのは高圧の蒸気であるため、それに風穴を開ければ人体を吹き飛ばすほどの圧力の蒸気が飛び出す羽目になる。そんな蒸気を浴びればどうなるかは想像に難くない。

 

 タンクが弾け飛び、中に詰め込まれていた蒸気が膨れ上がる。それを背負っていた騎士の肉体をあっさりとバラバラにした蒸気の爆風が赤く染まり、ズタズタになった肉片と血飛沫が灰色の砂漠を彩っていく。

 

 その時、第二陣の騎士の1人が勝手にバルブを開放し、銃口を敵陣へと向けた。射程距離外にもかかわらず照準器を覗き込み、訓練通りにトリガーを引く。

 

 パスン、と銃口から蒸気に押し出された小型の矢が飛び出す。飛竜の外殻を貫通できるほどの貫通力がある代物だけど、その貫通力が猛威を振るうのはもちろん射程距離内だけだ。射程距離外の標的に当てることはできるかもしれないけれど、多分標的に命中する頃には、外殻を貫通するほどの運動エネルギーはなくなっているだろう。

 

「貴様、発砲許可は出してないぞ!?」

 

「このまま殺されるよりはマシ――――――ゲフッ」

 

 今しがた発砲した騎士も、指揮官と同じく敵兵に頭を狙撃され、脳味噌の破片をまき散らしながら灰色の砂の上に崩れ落ちた。

 

「前進しろ! こっちは4000人だぞ!?」

 

「ぜ、前進! 前進だぁッ!!」

 

「第二陣前へ! 急げぇ!」

 

 第一陣が壊滅してしまった以上、俺たちが最前列を進むしかない。

 

 敵の攻撃が命中しませんように、と祈りながら、命令通りにスチームライフルを抱えて前進していく。敵の射手たちは容赦なく飛び灯具を連続で放ち、最前列を進む羽目になった騎士たちを撃ち抜いていく。

 

 第一、あんなに連射できる武器を装備した兵士が何人も陣取っているのだから、密集して前進するのは自殺行為ではないのだろうか。スチーム・ガトリング以上の連射速度で攻撃してくるのだから、こっちの射程距離内に入る頃には、こちらの騎士は全員死体になっているに違いない。

 

 隣を進んでいた戦友が、頭を撃たれて倒れる。右側頭部に戦友の脳味噌の破片が降りかかったけれど、俺はそのまま前進した。

 

「バルブ開放!」

 

「バルブ開放! 射撃用意!」

 

 訓練通りにライフルに取り付けられているバルブを開放する。圧力計で圧力を確認し、ちゃんと蒸気が薬室へ伝達されていることをチェックしてから、安全装置(セーフティ)を解除した。

 

 その時、敵兵たちが掘った穴の後方に広がっていた砂の大地が、何の前触れもなく弾け飛んだ。

 

 地中の魔物がこの戦闘の轟音で刺激されて飛び出したのだろうかと思いながら、そちらを注視する。砂漠に生息している魔物の姿を思い浮かべたけれど、カルガニスタンを埋め尽くす灰色の砂の中から飛び出してきたその巨躯は、砂漠に生息する魔物とは全く異なる。

 

 それは、金属で作られた機械の怪物だった。

 

 全長は明らかに10m以上だろう。飛竜どころかエンシェントドラゴンにすら匹敵するほど分厚そうな装甲に覆われた巨体の上や側面には、巨大な砲身が伸びた連装型の大砲が鎮座している。蒼と黒の二色で奇妙な塗装が施されているその巨大な怪物は、未だに舞っている砂埃の中でその巨大な大砲を旋回させた。

 

 さすがに戦艦に搭載されているスチーム・カノン砲よりは小さいけれど、下手したら装甲艦の主砲に匹敵するほどのサイズなのではないだろうか。

 

 そう思った直後、その大砲が火を噴いた。

 

 足元に着弾した巨大な砲弾が炸裂し、爆炎が俺や周囲の戦友たちを包み込む。猛烈な爆炎の中で手足が千切れていくのを見た直後、視界が炎に支配された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがにシャール2Cを投入するのはやり過ぎなんじゃないか?」

 

 多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)で戦列歩兵のような騎士たちを吹っ飛ばした超重戦車を塹壕から見上げながら、砂まみれになったドラグノフのスコープを覗き込む。砲弾が着弾した周囲にいた戦列歩兵たちは木っ端微塵になっていて、灰色の砂の上には黒焦げになった肉片やスチームライフルの残骸が転がっているのが見える。

 

 当たり前だけど、死体は原形をとどめていない。爆炎と破片でズタズタにされる羽目になったのだから、五体満足の死体は見当たらない。

 

 敵兵たちに戦力の差を見せつけるため、敢えて80mになるまで射撃はしないようにクランから命令されていたから、敵兵が接近してくるまで発砲はしなかった。けれどもマークスマンライフルやアサルトライフルならば、更に距離が遠くても当たり前のように狙撃ができるから、もっと遠距離から攻撃するべきではなかったのだろうか。こっちの姿が見えない状態で一方的にやられたほうが力の差を実感できると思うんだが。

 

 けれども団長代理(クラン)の命令だからな。

 

「クランは徹底的に彼らを潰すつもりらしいです。装甲列車もこっちに向かっているそうですよ」

 

 そう言いながら、木村は隣で射撃するオークの兵士に12.7mm弾がたっぷりと入った金属製の箱を手渡した。弾丸を撃ち尽くした兵士がその箱の中へと手を伸ばし、弾薬が連なるベルトを鷲掴みにする。それをカバーの中へとぶち込んでからカバーを閉じ、がちん、とコッキングレバーを引く。

 

 春季攻勢の後から、テンプル騎士団では装甲列車の運用が始まっている。最初は重要拠点からの緊急脱出用として運用する予定だったんだけど、戦車よりも強力な武装をこれでもかというほど搭載できるし、場合によっては重要拠点に兵士たちを何人も送り込む事ができるという利点があるため、装甲列車を運用するという規定が会議で可決された。

 

 多分、そろそろ装甲列車が到着するのではないだろうか。

 

 スチームライフルを抱えながら前進してくる戦列歩兵の1人レティクルを合わせ、トリガーを引く。頭ががくんと揺れ、脳味噌の破片を風穴からまき散らしながら倒れていく。

 

 塹壕を越えて前進していたシャール2Cの14号車『マリー・アントワネット』が、主砲同軸に搭載された発射口からドラゴンのように炎を吐き出し、前進してくる戦列歩兵たちを焼き殺していく。

 

 マリー・アントワネットは春季攻勢の後に増産されたシャール2Cであり、最初に投入された10両の欠点を少しばかり改善した”後期型”にあたる。車体が延長された代わりにエンジンが増設されているため、最高速度も少しばかり早くなっている上に、側面の装甲も厚くなっている。

 

 14号車であるマリー・アントワネットには、近距離の敵の歩兵や魔物を掃討するため、主砲同軸や側面のルスキー・レノの砲塔には火炎放射器が搭載されている。そのため大口径の主砲の攻撃を回避して肉薄したとしても、歩兵を一瞬で焼き尽くす火炎放射器の餌食になるというわけだ。

 

 しかも砲弾にはナパーム弾も用意してある。

 

 そのため、あの戦車が前進すれば戦場は焼け野原になるのだ。

 

 ちなみに、今のところ増産されたシャール2Cは全部で16両も運用されている。最終的には20両生産する予定らしいが、下手したら更に増えるかもしれない。

 

 生き残った戦列歩兵たちが必死にスチームライフルをぶっ放すが、先行しているマリー・アントワネットの装甲を撃ち抜けるわけがない。第一、正面装甲は160mm滑腔砲から発射されたAPFSDSですら貫通できないほど分厚いのだから、7.62mm弾に匹敵する貫通力があるとはいえ、スチームライフルの矢で貫通するのは不可能だ。

 

 砲弾をナパーム弾に変更し、兵士たちを焼き殺していくマリー・アントワネット。火達磨になって砂の上を転がり回っている敵兵を容赦なくキャタピラで踏み潰しながら、後退し始める敵兵を焼き殺していく。

 

 多分、装甲列車が到着する前に決着がつくだろうな。

 

 機動艦隊は既に敵艦隊を壊滅させたらしいし、航空部隊もミサイルで飛竜たちを血祭りにあげている。あの飛竜たちが全滅するのは時間の問題だろう。

 

 地上部隊もすでに壊滅状態だ。

 

 テンプル騎士団の陸軍、海軍、空軍は、無傷でフランセン騎士団に圧勝したのである。

 

 当たり前だろうな、と思いながら、俺はドラグノフで敵の指揮官を狙撃するのだった。

 

 

 

 

 

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