異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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偽物のストーリー

 

『私たちの勝利よ、タクヤ(ドラッヘ)

 

「よくやった。お疲れ様」

 

 耳に装着していた小型無線機からの報告を聞きながら、俺はニヤリと笑った。

 

 今回の相手はスチームライフルで武装した戦列歩兵や、スチーム・カノン砲を運用する砲兵たち。彼らの空軍は未だに飛竜たちが主役で、海軍は前弩級戦艦――――――とはいえ全長は50m程度だ―――――――や装甲艦が主役だという。もちろんレーダーは搭載していないし、対空用の装備も連射速度の遅いスチーム・ガトリング程度だ。飛竜は落とせるかもしれないが、射程距離が短いスチーム・ガトリングではミサイルや戦闘機の撃墜は不可能だろう。仮に当たったとしても7.62mm弾と同等の威力であるため、現代の戦闘機を撃ち落とすことはできない。

 

 第一次世界大戦や第二次世界大戦の頃の飛行機だったら撃墜できたかもしれないけどな。

 

 それに対して、こっちの陸軍はアサルトライフルを当たり前のように装備した歩兵たち。更に分厚い装甲と強力な戦車砲を兼ね備えた戦車部隊もいる。場合によっては重装備のスーパーハインドたちがロケット弾や機関砲をばら撒き、進撃する歩兵たちを支援することも可能だ。空軍には西側や東側の最新鋭の戦闘機が配備されているし、海軍には虎の子のアドミラル・クズネツォフ級空母やジャック・ド・モレー級戦艦が配備されている。

 

 春季攻勢で大損害を被ったとはいえ、こっちは軍拡の真っ只中なんだ。

 

 成長中なんだよ、こっちは。

 

 歩兵のライフルの射程と連射速度はスチームライフルを上回っているし、飛竜が空対空ミサイルを回避するのは不可能だ。敵の空軍や海軍は、こっちの戦闘機や空母の姿を見る前に全滅したに違いない。

 

 団長代理として指揮を執っていたクランからの報告を聞いた俺は、満足しながら目の前で冷や汗を拭いつつ唇を噛み締めている総督を見つめた。

 

 もしあのままテンプル騎士団に攻撃を仕掛けず、海上封鎖を実施してオルトバルカからの物資の輸入を阻止されていたら面倒なことになっていたに違いない。けれども彼らが痺れを切らして独断で攻撃を始めてくれたおかげで、こっちは表舞台で堂々と厄介な敵を叩き潰す事ができたのだ。

 

 ありがとう、総督。

 

「チェック・メイトです、総督」

 

「なんだと?」

 

 微笑みながらそう告げると、唇を噛み締めながらこっちを睨みつけていた総督が目を見開く。

 

 もう既に、結末に行きついた。本国に無断で他国を侵略し始めた侵略者たちを、テンプル騎士団が迎え撃って圧勝したという結末に。

 

「たった今、総督府が我々の海兵隊によって陥落させられたそうです。空軍も海軍も壊滅しています」

 

「ばっ、バカな…………!」

 

「ちなみにこっちの損害は0です。…………ああ、あなた方を倒すために使った弾薬や燃料くらいは”損失”と言えるかもしれませんが」

 

 クランの報告では、こちらの戦死者は当然ながら0名。負傷した団員もいないという。しかもたった一日で侵攻してきた部隊を血祭りに上げるだけでなく、敵に敵の本拠地にまで攻め込んで陥落させてしまったのだ。

 

 こんな短期間で終わった戦争は、かつて若き日の親父たちが経験した”第一次転生者戦争”くらいではないだろうか。確かあのファルリュー島での死闘も、たった一日で終わったという。

 

 歯を食いしばりながら、腰に下げているロングソードに手を伸ばす総督。俺も腰にロングソードを下げているし、上着の内ポケットの中には非常用に装備しているPSMも入っているけれど、その武器を使う必要はないだろう。

 

 いくら侵略してきた連中のリーダーが目の前にいるとはいえ、今は戦勝記念パレードの真っ只中だ。こんなところでこいつを消してしまったら、王室との関係に亀裂が入ってしまいかねない。

 

 このまま本国に送り返して裁いてもらいたいところだが、こういう男は絶対に再びテンプル騎士団に牙を剥くだろう。最悪の場合、フランセン騎士団を辞めて仲間を集めて武装勢力を結成する恐れもある。このような男の執念は予想以上に強烈だからな。

 

 それゆえに、こういう奴は消さなければならない。

 

 総督を見つめたまま、まるでこれから遊びに行く子供のように微笑み続ける。

 

「わ、我が騎士団が貴様らに負けるわけが…………!」

 

「――――――がっかりですよ、総督」

 

 少なくとも、設立したばかりの頃に攻撃を仕掛けてきたフランセンの指揮官よりも有能な男だとは思っていた。真っ向から戦うのではなく、こちらの組織を弱体化させようとしてきたのだから。

 

 けれども彼らの敗因は、結局以前と同じだった。フランセン騎士団の連中は、テンプル騎士団の戦力を見誤っている。

 

 彼らから見れば未知の武器や戦術を使う兵士たちに見えるかもしれないが、その未知の兵器と戦術は、戦争や紛争の中で成長していった合理的な武器と戦術なのである。

 

 更に、団員たちが奴隷だった人々で構成されているのだから、練度もそれほど高くないだろうと高を括ったのも敗因の1つだろう。確かにテンプル騎士団の錬度は低いが、少なくともフランセンの騎士たちよりははるかに高い。

 

 こっちの兵士たちは、第二次転生者戦争や春季攻勢で繰り広げられた死闘から生還した猛者たちなのだから。

 

「あなたはもう少し有能な方だと思っていましたが…………他の指揮官と同じ轍を踏んでしまいましたね。失望しました」

 

「なんだと…………?」

 

「我々の規模は、フランセン騎士団と比べると小さい。それに実戦を経験した回数も少ないかもしれません。ですが……………………こちらはね、”本当の殺し合い”を経験してるんですよ」

 

「―――――――!」

 

 少しばかり威圧感と殺気を発しながら、そう告げた。

 

 各国の騎士団の任務の大半は、魔物の掃討や盗賊団の討伐などだ。麻薬カルテルの討伐などを行う可能性もあるが、大規模な麻薬カルテルは騎士団の上層部ともパイプを持っていることは珍しくないため、騎士団の餌食になるのは小規模な麻薬カルテルばかりだという。

 

 フランセンの連中も、そのような戦いばかり経験しているのだろう。スチームライフルを放つだけで終わるような、簡単な戦いを。

 

 敵は旧式の飛び道具しか持たない盗賊や、知能の低い魔物ばかりだ。そんな戦いを何度経験しても錬度が上がるわけがない。

 

 けれどもこっちの兵士たちは、本当の殺し合いを経験している。

 

 人類同士の殺し合い。

 

 塹壕の中での殺し合い。

 

 血や内臓の混じった泥の中でスコップや銃床で敵を殴りつける白兵戦を、こっちは何度も経験しているのだ。確かに実戦経験の数は少ないかもしれないが、格下の相手を蹂躙するだけの戦いをずっと経験している連中よりは練度は高くなるだろう。

 

格下(雑魚)ばかり相手にしているような連中で勝てるわけがないでしょう?」

 

「貴様ぁ………………!」

 

 ついに堪忍袋の緒が切れてしまったらしく、総督が腰の鞘の中からロングソードを引き抜いた。柄の後端や鍔の部分に黄金の装飾がついている派手な剣だ。やっぱり指揮官や貴族出身の連中は、このような派手な武器を好むらしい。

 

 でも、こういう式典の時は派手な得物の方がいいかもしれない。テンプル騎士団のロングソードは実用性や信頼性を追求した代物だから、あのような派手さとは無縁なのだ。

 

 相手が剣を引き抜いたというのに、ニヤニヤ笑いながらそんな考察をする。

 

 ここは貴族たちの屋敷と屋敷の間にある、随分と豪華な路地裏だ。装飾のついた派手な高い塀が両脇に屹立しているから、その上から身を乗り出さない限り、ここで少女のような容姿の少年が総督に襲われそうになっているのを目撃することはないだろう。

 

 第一、ここに足を踏み入れる人間もいない筈だ。死体が発見される頃には、その死体は腐っているに違いない。

 

 だからここで総督を消してもバレないとは思うのだが、死体が発見された際に明らかに”殺された”ような状態では、テンプル騎士団が殺したのではないかと疑われるのは想像に難くない。テンプル騎士団の弱体化やカルガニスタンからの追放を目論んだこの男は、テンプル騎士団からすればとっとと消えて欲しい”敵”でしかないからだ。

 

 派手なロングソードを引き抜いた総督が、じりじりとこっちに近づいてくる。俺は微動だにしないどころか得物にすら手を伸ばさず、激昂した総督をニヤニヤしながら見つめていた。

 

 ちょっと挑発し過ぎたかなと思ったけれど―――――――シナリオ通りだ。

 

 あんたは自分の手で剣を抜いたのだ。

 

 兵力を派遣して侵略を始めた事だけでなく、自分の最期まで俺のシナリオ通りになりつつあることを確認して嗤いながら、俺は最強の暗殺者(アサシン)の名を呼んだ。

 

「―――――――ノエル」

 

 彼女の名を告げると同時に、黒い服に身を包んだ黒髪の少女が、近くの屋敷の屋根の上から路地裏の地面を埋め尽くす灰色のレンガの上に降り立った。それなりに高い場所から飛び降りたにもかかわらずほどんど足音がしなかったせいなのか、すぐ後ろに彼女が着地したというのに、総督は自分の背後にいる暗殺者(アサシン)に気付いていない。

 

 一体どうやって足音を消したのだろうか。

 

 ノエルはまだ実戦経験が少ないものの、キメラとなってからは暗殺を得意とする両親から暗殺に特化した訓練を受けており、すでに何名も転生者の暗殺に成功している。本来ならばスペツナズの一員になっていてもおかしくない逸材なんだが、シュタージの指揮を執るクランがスペツナズからのスカウトを断り続けているらしく、実質的にノエルはシュタージの切り札として機能している。

 

 両親から受け継いだ才能と、短期間とはいえ濃密な訓練で開花した彼女自身の才能が融合したことにより、最強の暗殺者(アサシン)となったのだ。

 

 それゆえに、総督が背後の暗殺者(アサシン)に気付いたのは、黒い制服に身を包んだノエルが華奢で白い手を伸ばし、総督の背中に触れた瞬間だった。

 

「なっ―――――――」

 

「―――――――さようなら」

 

「な、なんだ貴様は―――――――」

 

 小柄で幼い少女が総督の背中に触れ、幼い声で残酷に告げる。

 

 彼女が告げたのは、単なる別れなどではない。数秒後には二度と会う事ができなくなる標的へと告げる、これ以上ないほど冷酷な言葉だった。

 

 総督が目を見開くと同時に、ロングソードの柄を握っていた彼の両手が痙攣を始める。脳が発する命令を拒もうとしているかのようにぶるぶると震え始めたかと思うと、まるで剣を握る彼の両手が彼自身を憎んでいるかのように、殺意と剣の切っ先を180度回転させてしまったのだ。

 

「!?」

 

 ノエルは、その気になれば俺や親父も殺す事ができるだろう。

 

 触れたまま命令した標的を強制的に自殺させる事ができる、”自殺命令(アポトーシス)”という強力なキメラ・アビリティがあるのだから。

 

 このキメラ・アビリティが発動すると、命令された標的は必ず自殺する羽目になる。自殺するために必要な凶器を身に着けていない場合でも、近くに置いてあるボロボロの縄を使って首を吊ったり、近くにある河に飛び込んで溺死してしまうのだ。

 

 吸血鬼のように再生する事ができる標的でも、”自分が確実に死ねる方法”を自力で探して実行するため、再生能力は意味がない。要するに、吸血鬼の場合は自分で銀のナイフを探し出し、それを自分の心臓に突き立てて自殺してしまうのである。

 

 触れて命令するだけで確実に標的が死ぬ上に、自分の手を汚さずに済むという利点がある。自分が殺したのではなく、標的が勝手に自殺してしまったということにしてしまえるのだ。

 

 こうすれば、俺たちが総督を消す必要はない。”独断で侵略を始めた総督が、失脚と本国での懲罰を恐れて自殺した”というストーリーを彼に押し付けて殺す事ができるのである。

 

 こういう殺し方ができるからこそ、ノエルはシュタージにいるべきなのかもしれない。

 

「な、何だこれは…………! かっ、か、身体が…………!?」

 

「さようなら、総督」

 

 ロングソードの切っ先が制服に当たり、少しずつめり込んでいく。あの制服が切っ先によって突き破られ、自分の内臓を串刺しにする羽目になるのは時間の問題だろう。

 

 俺たちへの敵意や殺意で埋め尽くされていた総督の眼が、少しずつ恐怖で埋め尽くされていく。歯を食いしばって両腕を止めようとする哀れな総督の顔を覗き込みながら、俺は嗤った。

 

 これでテンプル騎士団を弱体化させようとする敵はいなくなる。それに本国を糾弾すれば、上手くいけばカルガニスタン全土を手に入れることもできるだろう。

 

 この男は、そのための生贄だ。

 

 都合のいいストーリーと一緒に死んでくれ、総督。

 

 そう思いながら総督の顔を覗き込んでいると、総督は俺の顔を見上げながら言った。

 

「―――――――悪魔め」

 

 その言葉が、総督の最後の反撃だった。

 

 服を突き破ったロングソードの切っ先が皮膚と腹筋を易々と貫き、背骨のすぐ脇を通過して背中の皮膚を突き破る。血まみれになった切っ先があらわになると同時に鮮血が吹き上がり、地面を埋め尽くしている灰色のレンガたちを真っ赤に染めていった。

 

 口や鼻から血を流しながらゆっくりと崩れ落ちる総督。一旦仰向けに倒れた総督は、背中から突き出ている切っ先がレンガに激突する甲高い音を奏でてから横向きに倒れ、レンガたちを自分自身の鮮血で侵食し始めた。

 

 返り血を浴びる前に後ろに下がっていた俺は、この黒い服に返り血が付着していないことを確認してから、嗤うのを止めた。

 

 能力を使って女装し、少女の姿になって衛兵に「死体を見つけた」と通報するべきだろうかと思ったけれど、そんなことをしたらせっかくの戦勝記念パレードが台無しになってしまう。総督には悪いけれど、死体を見つけてもらえるまでこの路地裏で眠っていてもらおう。

 

「お疲れ様、ノエル」

 

「どういたしまして」

 

 俺とは違ってほんの少し返り血を浴びているらしく、ノエルの顔には赤い血が付着していた。拭い去ってあげようと思って彼女に手を伸ばしたけれど、ノエルはそれよりも先に懐からハンカチを取り出すと、顔についている血を自分で拭い去ってから微笑む。

 

「お兄ちゃん、私はもう子供じゃないんだよ?」

 

「はははっ。でも20歳になるまでは子供だよ」

 

「うぅ…………で、でも、お兄ちゃんだって子供じゃん!」

 

「あと2年で大人ですけどねー」

 

 けれども、ノエルは本当に頼もしくなった。

 

 そう思いながら、「それじゃ、私は戻るね」と言って路地裏を去っていくノエルを見送った俺は、踵を返して死体が転がっている路地裏を後にするのだった。

 

 

 

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