異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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条件

 

 ゆっくりと、首筋から真っ赤に染まった犬歯が引き抜かれていく感覚を感じながら、小さなランタンに照らされている天井を見上げる。出来るならば汗を拭い去りたいんだけど、身体に全く力が入らないせいで両手を動かす事ができない。

 

 呼吸を整えつつ、身体に力が入るのを待つ。

 

 今しがた俺の身体から血を吸っていった張本人は、呼吸を整えている俺の身体の上に跨ってうっとりしながら、こっちを見下ろしている。血液を補充できるブラッドエリクサーを服用すればすぐに力が入る筈なんだけど、彼女がその便利な回復アイテムを渡してくれる気配は全くない。むしろ動けなくなっている俺の上に跨って束縛する事を楽しんでいるのではないだろうか。

 

「はぁっ、はぁっ…………」

 

「ダメだよラウラ、今日は吸い過ぎだよ?」

 

「む、難しいわね…………」

 

 うっとりしたまま跨っている彼女を咎めるのは、血を吸っている彼女を見守っていた吸血鬼の先輩だ。

 

 ラウラは吸血鬼の細胞を移植したことで再生能力を獲得する事ができたんだけど、吸血鬼のように血を吸わなければならなくなってしまったのである。種族は一応キメラということになっているんだけど、血を吸う上に再生能力まで持っているので、吸血鬼に勘違いされてしまうこともあるかもしれない。

 

 口元に付着していた血を人間よりも少し長い舌で舐め取ったラウラは、先ほど鋭い犬歯を突き立てた傷口に白い指で触れながら首を傾げた。

 

 どうやら血の吸い方にもコツがあるらしい。

 

「いい? 思い切り吸えばお腹いっぱいになるけど、相手も死んじゃう可能性があるんだよ?」

 

「そ、それは嫌よ…………!」

 

「でしょ? だから相手が死なないように吸う量は調整すること」

 

「わ、分かったわ」

 

 イリナ先生にアドバイスを受けたラウラは、頷きながらブラッドエリクサーの容器へと手を伸ばした。俺の身体の上から降りつつその容器をイリナに手渡した彼女は、隣に横になりながら顔を近づけ、首筋に開いている傷口をぺろぺろと舐め始める。

 

 く、くすぐったいんですけど。

 

 傷口からまだ流れている血を舐め取り、血が止まるまで舐め続けるラウラ。もう血が出なくなったのを確認した彼女は、今度は首筋を甘噛みし始める。

 

 その間にブラッドエリクサーの蓋を開けたイリナから容器を受け取り、それを口へと運んだ。何とか力が入るようになったけれどまだ痙攣しているから、落とさないように細心の注意を払う必要がありそうだ。エリクサーの容器は脆いからな。

 

 エリクサーは便利な回復アイテムなんだけど、それを入れている容器がかなり脆いので戦闘中に割れてしまうのは少なくない。出来るならば頑丈な容器にしてほしいものである。試験官みたいなガラス製の容器じゃなくて、金属製の水筒みたいな容器にすれば割れずに済むのではないだろうか。

 

 そんなことを考えながら、鮮血のように真っ赤な液体を口の中へと放り込む。

 

 ブラッドエリクサーはあくまでも血液を補充するためのエリクサーだ。ヒーリングエリクサーは傷口を瞬時に塞ぐ便利なエリクサーなんだけど、出血した分の血液まで補充してくれるわけではないため、大量に出血してしまった場合はブラッドエリクサーとセットで服用するのが望ましい。

 

 ちなみに、毒の除去や石化の解除に使える”ホーリーエリクサー”というエリクサーも存在する。

 

 身体に少しずつ力が入るようになったのを確認しつつ、起き上がろうとする。けれども俺が身体を起こす前に今度はイリナが俺の上に跨っていて、白い手で両手を押さえつけながらのしかかってきやがった。

 

「いっ、イリナ?」

 

「ラウラ、今度は僕がお手本見せてあげるね♪」

 

「うん、お願い♪」

 

 お、お手本?

 

 まさか血を吸うつもりなのかと思いながら彼女の顔を見上げると、真っ赤な唇の隙間からは少しばかりよだれが溢れ出ていた。

 

 そういえば、まだ朝ご飯を食べてなかったからな。お腹が空いてるんだろう。

 

 ぺろりと長い舌で自分の口元を舐め回すイリナ。深紅の瞳でこっちを見下ろしながら顔を近づけ、そのまま思い切り鋭い犬歯を首筋へと突き立てた。

 

 彼女は血を吸い過ぎないように調節してくれるんだけど、噛みつくときはこのように思い切り噛みついてくるので結構痛い。ヒーリングエリクサーが必要になるほどの傷がつくわけじゃないんだけど、彼らの犬歯は人間よりもはるかに発達しているため、非常に鋭いのだ。

 

「うっ」

 

「んっ…………ん…………!」

 

「ふにゃあー…………」

 

 ブラッドエリクサーで補充されたばかりの血液が、早くも吸血鬼の少女によって吸い取られていく。再び身体から力が抜けていく感覚を感じながら、そろそろ吸うのを止めるかな、と彼女が犬歯を引き抜くタイミングを予想する。

 

 ラウラは思い切り血を吸ってからすぐに飲み込んでいたけど、イリナは少しずつ吸うので、ラウラに吸われている時と比べると力が抜けてしまうのには時間がかかった。

 

 やがて、イリナがゆっくりと犬歯を首筋から引き抜く。傷口から溢れ出ている鮮血を長い舌でちゃんと舐め取り、血が止まるまで舐め続けていたイリナは、うっとりしながら顔を離した。

 

「ふふふっ…………こんな感じだよ、ラウラ」

 

「ふにゅー…………どうしても吸い過ぎちゃうんだよね」

 

「僕も最初はそうだったよ。でもゆっくり吸った方が、血を吸われてる時のタクヤの顔をもっと見てられるよ?

 

 …………なに?

 

「あ、そっか! えへへへっ、血を吸われてる時のタクヤの顔ってとっても可愛いよね♪」

 

「うん! もう襲いたくなっちゃうよ♪」

 

 ま、待って。どういうこと?

 

 俺って血を吸われてる時にどんな顔してるの?

 

 ニコニコと笑いながら尻尾で俺の頭を撫でつつ、用意していた2本目のブラッドエリクサーを渡してくれるラウラ。とりあえず、これで2人の朝ご飯は終わりだ。鏡で首筋の傷をチェックしてから朝食の準備をして、朝の訓練に行かなければ。

 

 汗もかいちゃったし、余裕があったらシャワーでも浴びようかな。でも訓練でどうせ汗をかくんだし、そのまま行ってもいいかもしれない。

 

 予定を立てながら置き始めたけれど、起き上がろうとする俺の身体をイリナとラウラが同時に掴み、そのままベッドの上に押し倒してしまう。再び枕に後頭部を振り下ろす羽目になった俺は、目を見開きながら2人の顔を見た。

 

 ん? 今ので終わりでしょ?

 

「逃げちゃダメだよ、タクヤっ♪」

 

「ふふふふっ、まだお腹いっぱいじゃないよ♪」

 

「え?」

 

 ま、まさか、おかわり? 

 

 さっきのエリクサーは回復のためじゃなくて、おかわりのためのエリクサーだったの?

 

 よく見るとイリナがベッド代わりに使っている棺の隣には、タンプル搭の中にある売店から購入してきたのか、試験管にも似たガラスの容器に入ったブラッドエリクサーたちがぎっしりと詰め込まれた箱が鎮座している。あんなにブラッドエリクサーがあるのならば、彼女たちは血を吸い放題だろう。

 

「じゃあ、今度は一緒に吸おうね♪」

 

「うんっ♪」

 

 そう言いながら幸せそうに微笑み、鋭い犬歯が覗いている唇を近づけてくるラウラとイリナ。もちろん手足は2人にしっかりと押さえつけられていたので、逃げることはできなかった。

 

 こうして俺は、朝から2人の美少女に血を搾り取られる羽目になったのである。

 

 俺っていったい何なのだろうか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空になった薬莢が床に落ちる音と、銃声の残響が混ざり合う。

 

 マガジンの中に弾丸が残っていないことを確認してから、空になったマガジンをポーチの中へとぶち込んで、安全装置(セーフティ)をかける。レーンの向こうに佇んでいる金属製の的の頭の部分にはいくつも風穴が開いており、そこに大口径の7.62mm弾が命中したということを告げている。

 

 ラウラだったら全弾命中させるだろうなと思いつつ、愛用のAK-15を背中に背負う。俺のAK-15にはグレネードランチャーの他に、アメリカ製のホロサイトとブースターも装備されているため、マークスマンライフルほどではないけれど狙撃することも可能だ。

 

 それと、最新型のアサルトライフルには無用の長物――――――というか現代戦で白兵戦が起こることは殆どない――――――かもしれないが、銃身の右斜め上には折り畳み式のスパイク型銃剣が標準装備されている。

 

 テンプル騎士団の兵士たちはどういうわけか白兵戦を好む兵士が多いらしく、実際に春季攻勢やヴリシアの戦いではその白兵戦で敵に大きな損害を与えている。なので白兵戦になった場合にも使えるように、テンプル騎士団が採用している大半のライフルには銃剣を標準装備するか、銃剣を装着できるように改造が施してある。

 

 一時的にこの銃剣を外したAK-12やAK-15を支給したことがあるんだが、兵士たちから「銃剣が欲しい」というかなりの数の要望が送られてきたので、急遽銃剣を装着したというわけだ。

 

 漆黒のスパイク型銃剣をちらりと見てから、射撃訓練場の隣にある訓練場の方をちらりと見る。そちらでは丁度銃剣突撃の訓練をしていたところらしく、スパイク型銃剣を展開したAK-15を手にした兵士たちが、雄叫びを上げながら標的に向かって突進しているところだった。

 

 ちなみにその的は、魔物の皮を加工して製作したものらしい。確かに素振りするよりも、実際に得物に突き刺した時の感覚に近い方が実戦で戸惑わずに済むだろう。

 

「次、第二陣! 突撃用意!」

 

「「「…………!」」」

 

『―――――――ブオォォォォォォォォォォォ!!』

 

「「「Урааааааааа!!」」」

 

 だから何で突撃の合図が法螺貝なんだよ…………。

 

 しかも指揮官が持っている法螺貝は黒と灰色の迷彩模様で塗装されている。何だあれは。

 

 法螺貝を持っている指揮官の制服の袖についているのは、盾を角で貫くユニコーンのエンブレムが描かれたワッペンだった。テンプル騎士団の海兵隊なのだろう。

 

 海兵隊の兵士たちはフランセンとの戦いで、総督府をたった数分で制圧するという戦果をあげている。あの戦いの事はシュタージが各国に漏洩させたことであらゆる国の新聞に載ったんだが、多分モリガンを知らない若い将校たちは笑い飛ばしているに違いない。

 

 逆に、退役した将校たちは震え上がっている事だろう。モリガンと同じ兵器を使う組織が成長し始めているのだから。

 

 傭兵として戦っている海兵隊の仕事が増えるのは喜ばしい事だが、テンプル騎士団を排除しようとする輩も増えるかもしれないな。そういう連中は早く潰すべきだ。

 

 お気に入りのAK-15を背負い、雄叫びと法螺貝の音に支配されつつある訓練場を後にする。すれ違った兵士たちに敬礼をしながら通路に出て、エレベーターに乗った俺は、メニュー画面を開いて自分のステータスを確認することにした。

 

 春季攻勢でかなりの数の敵兵を殺した上に、軍拡の最中にも転生者を狩り続けたせいで、今の俺のレベルは何と”3014”にまで上がっていた。攻撃力のステータスもついに”95500”にまで上がり、防御力もやや低めだが”74900”となっている。一番高いステータスはやはりスピードらしく、”118200”となっていた。

 

 若き日の親父のステータスの中ではスピードが低めだったらしい。俺のステータスの上がり方は親父と結構違うようだ。

 

 それにしても、このステータスやレベルの上限はどれくらいなのだろうか。

 

 エレベーターがゆっくりと止まり、鉄格子にも似た扉が開いていく。メニュー画面を開いたままエレベーターから降り、残っているポイントの量を確認しながら通路を歩き始める。軍拡のために積極的にポイントを使っているけれど、まだ新しい武器を作ってカスタマイズできる量のポイントは残っているようだ。後で新しい武器でも作ってみるか。

 

 最近は全然ショットガンを使ってないし、後でポンプアクション式のショットガンでも作ってみよう。ロシア製のショットガンにはかなり強力な代物があるんだよね。

 

 そのショットガンを生産するための条件を確認するために、生産のメニューをタッチする。

 

 生産するための条件は、『スコップで30体の敵を倒す』ことと『ポンプアクション式のショットガンで100名の敵兵を倒す』ことの2つだ。水平二連型のショットガンを使うことはあるけれど、ポンプアクション式のショットガンを使って敵兵を殺すことはあまりなかったので、2つ目の条件はまだ達成していない。

 

 残りは20人ほどか。

 

 敵兵には盗賊や転生者なども含まれるので、アサルトライフルの代わりにポンプアクション式のショットガンを使っていれば条件を満たすことは難しくないだろう。

 

 メニュー画面を閉じ、研究区画へと繋がっている通路を進む。警備をしていた兵士たちに敬礼をしてから魔力認証を済ませ、扉の向こうへと足を踏み入れると、猛烈な薬品や薬草の臭いが鼻孔へと流れ込んできた。

 

 タンプル搭の研究区画では様々な研究をしている。新しい回復アイテムを開発するための研究もしているし、中には標的を暗殺するための毒の調合を行っている技術者もいる。危険な実験をすることもある上に機密情報も多い区画であるため、ここに入る事ができるのはこの区画の職員か、円卓の騎士くらいだ。

 

「あ、団長」

 

「お疲れ様。ステラはいるか?」

 

「はい、彼女なら奥に」

 

「ありがと」

 

 やっぱり鍵の分析をしているのだろうか。

 

 メサイアの天秤の鍵を全てそろえることに成功したものの、肝心なメサイアの天秤の在り処が未だに分かっていない。”天空都市ネイリンゲン”という場所にあるらしいのだが、その天空都市はまだ発見していないのである。

 

 航空部隊をネイリンゲン上空に派遣してみたものの、廃墟と化したネイリンゲンの上空には何もなかったという。

 

 首を傾げながら奥へと進むと、白衣に身を包んだ特徴的な銀髪の幼女が、アップルパイを食べながら休憩しているところだった。

 

「やあ」

 

「ああ、タクヤ。お疲れ様です」

 

 微笑みながら顔を上げた彼女は、皿の上に乗っているアップルパイを一切れ手に取ると、それを俺に分けてくれた。ありがたくそれを受け取って口に運びつつ、ステラの隣に置いてある椅子に腰を下ろす。

 

 結構甘いな、このアップルパイ。誰が焼いたんだろうか。

 

「美味しい…………」

 

「これ、ラウラからの差し入れなんです」

 

「えっ?」

 

 ら、ラウラの差し入れ!? あいつアップルパイも作れるようになっちゃったのか!!

 

 ナタリア先生のおかげだなぁ。

 

「追い越されちまうかも」

 

「ふふふっ、ステラはタクヤの料理も大好きですよ」

 

「ありがとな、ステラ」

 

 出会った頃と比べると、本当にステラは感情豊かになった。

 

 ナギアラントで出会ったばかりの頃の彼女は基本的に無表情で、微笑むことは全くなかった。仲間たちを皆殺しにされた挙句、同胞が1人もいなくなってしまった世界で目を覚ましてしまったのだから、ずっとショックを受け続けていたんだろう。

 

 けれども今のステラは笑うようになってくれた。まだ無表情になることはあるけれど、かなり感情豊かになってくれたと思う。

 

「ところで、天秤の在り処は?」

 

「相変わらずヒントはありませんが…………もしかしたら条件があるのかもしれませんね」

 

「条件?」

 

「ええ。夜にならないと天空都市が見えないとか、満月の夜でなければ都市が姿を現さない等の条件があるんだと思います」

 

「なるほど…………」

 

 条件か…………。確かに、鍵が封印されていた場所のど真ん中に天秤を置いておけば、それを見破った冒険者にあっさりと天秤を入手されてしまう恐れがある。それを作ったフランケンシュタイン氏やナタリアの祖先が天秤が危険な存在だということを知っていたのならば、そう簡単に手に入れられないように工夫するのは想像に難くない。

 

 その条件に付いても調べた方が良さそうだ。

 

「分かった、無理はすんなよ」

 

「はい。このウィッチアップルを使ったアップルパイを食べたら元気が出てきましたので、大丈夫です」

 

 …………ん?

 

 ちょ、ちょっと待て。ウィッチアップルだと…………?

 

「こ、これの中身?」

 

「ええ。魔力を含んでるので、サキュバスたちのおやつだったんです。ふふっ、懐かしいです…………♪」

 

「そ、そうか」

 

 ま、また食っちまったじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 最初に食った時は何故か幼児の姿になっちまったし、二回目に食ってしまった時は性別を切り替えるという変な能力を習得してしまった。今度はどんな姿になるのだろうか。

 

 キメラは変異を起こしやすい種族だから、本当にこういうものを食べさせるのは止めて欲しいものである。

 

 ステラは狙ったのだろうかと思いながら、彼女に挨拶をして研究区画を後にする。

 

 また変な変異を起こさなければいいなと思いながら自室に戻ることにしたんだが―――――――案の定、次の日の朝にまた事件は起こることになるのであった。

 

 

 

 

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