異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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魔術の試し撃ち

 

 当たり前だけど、魔術をぶっ放せば魔力は減少していく。

 

 初歩的な魔術やそれほど威力のない魔術ならば、消費する魔力の量はそれほど多くはない。けれども長い詠唱が必要になるような魔術や、体内の魔力の加圧が必要になるような難易度の高い魔術の場合は、莫大な量の魔力を消費することになる。

 

 魔術を使うために必要な魔力の量は生まれた時点で決まってしまうため、トレーニングなどで鍛えることは不可能だ。魔力の量が極端に低い場合は、大半の魔術師が一番最初に習得する魔術と言われているファイアーボールを数発ぶっ放しただけで魔力が枯渇してしまうこともあるという。

 

 その魔力の量は両親から遺伝するため、優秀な魔術師同士の政略結婚は珍しくはないのだ。

 

 幸い俺たちの両親―――――――父は部外者なので、正確には母親である―――――――がどちらも優秀な魔術師だったおかげで、俺とラウラは大量の魔力と才能を受け継ぐことができたというわけである。特にエリスさんの魔力の量は膨大であったため、娘であるラウラの魔力の量もかなり膨大である。

 

 けれども俺は、その魔力の量を気にする必要はなくなってしまった。

 

「うそでしょ…………」

 

 焼け野原の上に転がっている無数の魔物たちの死体を見つめながら、俺は目を見開いた。

 

 まだ蒼い火の粉が舞っている灰色の砂の上に転がっているのは、タンプル搭の周囲に出現した魔物たちの焼死体の群れだ。あらゆるダンジョンで目にするゴブリンもいるし、砂漠で猛威を振るうデッドアンタレスの焼死体も一緒に転がっている。中には砂漠に生息しているゴーレムの変異種も黒焦げになった状態で転がっており、溶けた金属が発する悪臭にも似た臭いを放っている。

 

 ゴブリンは相変わらずそれほど強くないんだが、砂漠に生息するデッドアンタレスやゴーレムの変異種は耐火性や耐熱性が極めて高い外殻に覆われているため、長い詠唱が必要になる魔術でない限り黒焦げになって死ぬのはありえない。

 

 産業革命によって良質な金属が生成できるようになっているにもかかわらず、未だに砂漠や火山に生息する魔物たちの外殻は耐熱性の高い素材として重宝されているのである。

 

 熱や炎に強い筈の魔物たちを黒焦げにしてしまったのは―――――――今しがたぶっ放した、俺の変なファイアーボールであった。

 

「…………あ、ありえない」

 

 そう言いながら、蒼い外殻に覆われている自分の小さな手を見下ろす。

 

 あの魔物たちを焼き殺したのは、この小さな右手から飛び出していった炎属性の魔力の塊だ。俺は普通にぶっ放しているつもりなんだけど、どういうわけか真っ赤な炎の球体が飛んでいくのではなく、蒼い火の粉を纏ったレーザーみたいな光が凄まじい弾速で飛んでいくのである。

 

 その変なファイアーボールが―――――――魔力が無制限になった影響で、更に強力になってしまった。

 

 本来の姿でファイアーボールをぶっ放しても、あの魔物たちの外殻に風穴が開く程度である。けれども幼女になったことによって無制限になった魔力をフル活用してぶっ放したら、魔物たちの巨体に風穴が開いた挙句、火達磨になって焼死体と化したのだ。

 

 下手したら戦車を数発で装甲車を破壊できるほどの威力があるのではないだろうか。さすがに戦車は無理かもしれないけど。

 

 しかもその凄まじい破壊力のファイアーボールを、まるでセミオートマチック式のライフルのように次々にぶっ放す事ができるのである。

 

 その気になればもう少し攻撃力を落とす代わりに連射速度を上げたり、魔力の量を増やし、魔力を変換する過程をちょっとばかりアレンジして独自の魔術を編み出す事ができるかもしれない。魔術のアレンジはなんだか楽しそうだな。現代兵器をヒントにしてアレンジしたらとんでもないことになりそうだ。

 

 ワクワクしてきたけど、この幼女の姿になるととんでもない欠点も産声を上げる。

 

 そう、攻撃力と防御力のステータスが初期ステータス並みに弱体化してしまうのだ。

 

 幸いスピードは本来のステータスのままだけど、攻撃力のステータスと防御力のステータスが一気に弱体化するということは、魔力の量や圧力で攻撃力を底上げできる魔術や、弾薬の種類などによって攻撃力が大きく変わる銃以外の攻撃が、ステータスがそれなりに高い転生者に通用しなくなるということだ。しかも防御力まで初期ステータス並みということは、転生者どころか普通の魔物や盗賊の攻撃を喰らえば致命傷を負う羽目になるということを意味している。

 

 そのため、遠距離攻撃に特化した姿ということになる。接近戦になりそうだったら女の姿や本来の姿に戻って対処すればいいだろう。

 

『ピギィィィィィィィィィ!!』

 

「お」

 

 そろそろ元の姿に戻るべきだろうと思いつつ自分の手を眺めていると、焼け野原と化した砂漠を突き破り、巨大な尻尾を持つサソリのような姿の魔物が地中から飛び出してきた。

 

 全身を覆っている分厚そうな外殻の表面からは、不規則に棘やイボのようなものが生えているのが見える。足はすらりとしていて先端部が尖っているけれども、カニの足にも似たその足が繋がっているのはずんぐりとしている胴体だ。その胴体の後ろから生えているのは鞭を彷彿とさせる長い尻尾で、先端部にある毒々しい紫色の針からは、尻尾が揺れる度に紫色の毒液が滴り落ちている。

 

 頭の部分に鎮座しているのは、まるで髑髏のような形状の外殻だった。

 

 この砂漠に生息しているデッドアンタレスである。

 

 辛うじて地中に潜ってさっきのファイアーボールから逃れたのだろうか。それとも同胞たちが焼き殺されたのを感知して、復讐するためにここまでやってきたのだろうか。

 

 始末しようと思いつつ背中のAK-15を取り出そうと思ったけれど、あいつをファイアーボールをアレンジした魔術の標的にするのも悪くないかもしれない。そう思った俺は背中へと伸ばしかけていた小さな手を引っ込め、外殻で覆いつつデッドアンタレスへと向けて突き出した。

 

 周囲に他の魔物の臭いはない。こいつが最後の一匹だろう。

 

 幸い毒を無効化するスキルを装備しているからあの尻尾の毒は全く怖くはない。けれどもあのずんぐりとした胴体から生えている鋏や尻尾の針の攻撃を喰らえば、十中八九俺は死ぬ羽目になるだろう。

 

 デッドアンタレスの鋏は防具を身に着けた成人男性の身体を易々と真っ二つにするほどの切れ味があるのだから。

 

 サソリの餌になってたまるか。

 

『ピギィィィィィィィィィ!』

 

 お前も焼き殺して食材にしてやる。デッドアンタレスの毒は、高熱で加熱すれば分解できるからな。

 

 体内の魔力を加圧しつつ、魔力を変換していく。

 

 この魔力の変換をアレンジすれば、最終的に発射される魔術は変化する。例えば拡散するように調整すれば炎の散弾をぶっ放す事ができるし、より加圧すれば弾速を更に速くすることができる。一流の魔術師たちは相手の戦い方や特徴をすぐに見切り、変換する過程で魔術を微調整してから放つという。

 

 けれども変換する過程が多くなり過ぎれば魔力の量も増えてしまうという欠点がある。例えばただ単にファイアーボールを拡散させればそれほど魔力は消費しないんだけど、拡散させる上に弾速を速くすれば魔力の消費量が増えてしまう。

 

 あまり過程を増やし過ぎると、大量の魔力を消費してぶっ放したのにそれほど威力がない中途半端で非効率的な魔術になってしまう。魔力の残量に注意しながら戦うのが魔術師の鉄則なので、基本的に魔術師たちは微調整する場合しかアレンジはしない。

 

 だが―――――――今の俺の魔力は無制限なので、アレンジし放題だ。

 

 魔力を更に加圧しつつ弾速を一気に速くする。更に魔力を分散させて拡散させるように調整しているうちに、蒼い火の粉を纏った超高圧の炎の球体が手のひらの中で産声を上げた。

 

 もう既に炎属性と雷属性に変換されている上に、加圧されている魔力が体内にあるので、俺とラウラはその体内にある属性の魔力を使った魔術ならば詠唱する必要はないのだ。アレンジすると言っても詠唱が必要になるような本格的な変換ではないので、アレンジする場合も詠唱は不要である。

 

 最高だね、キメラの身体って。

 

 弱点の属性の魔術を喰らうと体内の魔力が暴発して即死する恐れがあるけどさ。

 

 極限まで加圧されていた魔力を開放した瞬間、手のひらに展開していた蒼い炎球体が火の粉たちを置き去りにし、銃から発射される弾丸に匹敵する弾速でデッドアンタレスへと飛翔する。明らかに魔力とは思えないほどの弾速で飛行している蒼いエネルギー弾と化した炎の球体は、デッドアンタレスの外殻に直撃するよりも前に無数の小さなエネルギー弾に分裂したかと思うと、そのエネルギー弾の一つ一つがブレード状に変形していった。

 

 まるで、炎の刃のようだ。

 

 はっきり言うと、もうあれはファイアーボールではない。本来ならば単なる炎の球体になる筈のファイアーボールをかなりアレンジし、極限まで弾速を速くした上に拡散するように調整したのだ。しかも調整する前から俺の魔術が変だったせいなのか、弾速は最早弾丸に匹敵するほどになっている。

 

「―――――――”ファイアーボール・拡散斬弾(フレシェット)”」

 

 思いついたそのファイアーボールの名前を告げた直後、炎の斬撃と化したファイアーボールの群れがデッドアンタレスに喰らい付いた。

 

 魔術師たちが一斉に放った炎属性の魔術の集中砲火にすら耐える事ができると言われているデッドアンタレスの外殻に、炎の斬撃たちが突き刺さる。耐火性が極めて高いあの外殻ならばナイフの刀身程度の大きさとなったファイアーボールを当たり前のように弾いてしまう筈なんだけど、ぱきっ、という音を奏でたかと思うと、黒焦げになった破片をまき散らしながらあっさりと風穴を開けられてしまう。

 

 噴き出そうとしたデッドアンタレスの血液があっという間に蒸発し、まるでエビを焼いているような香りを発しながら、デッドアンタレスが火達磨になる。拡散させたせいで威力は落ちてしまったようだが、外殻を貫通する事ができればデッドアンタレスの討伐は容易い。

 

 外殻を貫通したファイアーボール―――――――というよりは炎のフレシェット弾と言うべきだろう―――――――によって肉や内臓を直接焼かれる羽目になったデッドアンタレスは、どんどん黒焦げになっていく尻尾や鋏を振り回して暴れてから、最終的に動かなくなり、砂漠に転がっている焼死体たちの仲間入りをしてしまった。

 

「…………やきすぎだな」

 

 多分、あの外殻の下は黒焦げになった肉の塊だろう。デッドアンタレスの肉は非常に美味いので、出来れば持って帰って食材にしてみようと思ってたんだけど、黒焦げになっちまったらもう調理はできない。

 

 焼き殺すのが難しい魔物をあっさりと焼き殺してしまうほどの超高温の魔術をぶっ放したというのに、俺は全く疲労を感じていなかった。普通ならば魔力を消費した際に感じる疲労にも似た感覚を感じて呼吸を整えていてもおかしくはないんだけれど、全くそんな感覚は感じない。

 

 その気になれば、今のファイアーボール・拡散斬弾(フレシェット)を連射することもできるのではないだろうか。

 

「お疲れ様ですわ」

 

 黒焦げになったデッドアンタレスを見つめつつ、何か素材は取れないだろうかと思っていると、後ろで魔術の試し撃ちを見守ってくれていた少女がこっちにやってきた。

 

 身に纏っているのはテンプル騎士団の黒い制服だけど、所々に深紅のフリルがついており、まるで貴族のお嬢様が身に纏うスカートのようなデザインになっている。とはいえ動きやすさを考慮してスカートはそれほど長くなっておらず、腰にはマガジンを収めておくためのポーチやアイテムを入れておくホルダーも装備されているため、実用性も考慮されていることが分かる。

 

 その制服を身に纏っているのは、俺とラウラの妹分であるカノンだ。

 

 今回の任務はタンプル搭の近くに出現した魔物の群れの掃討だった。数はそれほど多くはないというので、この幼女の姿で魔術の試し撃ちでもしようと思って出撃したんだけど、さすがに防御力が初期ステータス並みに弱体化している状態では危険であるため、手の空いていたカノンに護衛をお願いしたのである。

 

 彼女が背中に背負っているのは、ロシア製マークスマンライフルのSVK-12。他の兵士たちと弾薬を分け合う事ができるように、使用する弾薬は7.62×39mm弾となっている。AK-12を改造したマークスマンライフルであるため、まるでAK-12の銃身を伸ばしてスコープを搭載したような外見の銃なんだけど、彼女の要望で銃床をサムホールストックに変更しているせいなのか、AK-12よりも、前任のマークスマンライフルだったドラグノフに近い外見になっている。

 

 腰のホルダーに収まっているのは、テンプル騎士団で正式採用されているPL-14だ。彼女の本職は中距離での射撃を得意とするマークスマンであるため、接近してきた敵に反撃できるようにPL-14をフルオート射撃ができるように改造している。更に26発入りのロングマガジンを装備しているため、グリップの下部から9mm弾の入ったマガジンが突き出ていた。

 

 フルオート射撃用に折り畳み式のストックが装備されているし、本来ならライトやレーザーサイトを搭載できるスペースには、少しでも反動を軽減するためにフォアグリップが装備されている。

 

 それと全く同じカスタマイズが施されたPL-14が”強襲殲滅兵”たちのサイドアームとして支給されているためなのか、マシンピストルに改造されたこのPL-14は、テンプル騎士団では”強襲殲滅兵仕様”と呼ばれている。

 

 カノンは基本的に軽装なのだ。

 

「ごえいごくろうさま」

 

「お兄様こそお疲れ様ですわ。それにしても、凄い威力ですわね…………」

 

「よそうがいだよ。ただのファイアーボールなのに」

 

 別のアレンジをすれば凄いことになりそうだな。後で色々考えてみよう。

 

 今度はどんなアレンジをしようかと考えていると、魔物の死体を見つめていたカノンが俺の小さな手を握った。

 

「さあ、帰りましょう」

 

「おう。…………さて、そろそろもとのすがたにもど―――――――」

 

「だ、ダメですわ! まだ幼女の姿でいてくださいな!」

 

「え?」

 

 か、カノンさん?

 

「そ、そういえば今日はタンプル搭に戻ったら2人きりですわねっ」

 

 そう言いながら顔を赤くし、目を輝かせ始めるお嬢様。彼女が何を企んでいるのか察した俺は、よだれを拭い始めたカノンの顔をぎょっとしながら見上げた。

 

 今日は狙撃手部隊の隊員の育成のため、ラウラは新兵たちを率いて魔物の討伐のために遠征に行っているのだ。ステラは天空都市ネイリンゲンに関する資料を集めるために護衛の兵士たちと一緒にラガヴァンビウスの王立図書館に出かけているし、ナタリアはスオミ支部の視察のためにシベリスブルク山脈へと向かっている。イリナは吸血鬼なので、今の時間は棺桶の中で眠っている頃だろう。

 

 ―――――――つまり、イリナが起きるまではカノン(変態)と2人っきりなのである。

 

 な、なにこれ? 絶対に〇〇〇されそうなんですけど。

 

 しかも隣のお嬢様はニヤニヤ笑いながらよだれをまだ拭ってるし。

 

「あ、そうですわ。戻ったら一緒にシャワーを浴びましょう」

 

「い、いや、おれはえんりょしとくよ…………」

 

「それはいけませんわ。汗をかいたのですからちゃんとシャワーを浴びないと。清潔にしていないと立派な淑女になれませんわよ?」

 

「ようじょをみてよだれをたらしてたらりっぱなしゅくじょになれないよ?」

 

 あと俺は男だ。今はアハトアハトを搭載してないけど。

 

 溜息をついてから、背伸びをしつつ手を思い切り彼女の頭へと伸ばす。頭まで届けば撫でてやれると思ったんだけど、残念ながら手が届かなかったので、とりあえず肩を撫でておこう。

 

「―――――――ほんとうのすがたでよければ、いっしょにシャワーをあびるぞ?」

 

「ほ、本当ですの!?」

 

「おう」

 

 ラウラみたいに氷とか尻尾でこっちの動きを止めることはできないし、その気になればスモークグレネードをぶん投げて逃げることもできそうだからな。シャワールームにスモークグレネードを置いておこう。シャンプーの容器の隣にさりげなく置いておけばバレないだろう。

 

 目を輝かせているカノンともう一度手を繋ぎ、幼女の姿のまま乗ってきたバイクのサイドカーへと向かう。彼女は試し撃ちをしていた俺をちゃんと護衛してくれていたんだし、ちゃんとご褒美をあげないとな。

 

 とはいえ幼女の姿ではバイクを運転できないので、一旦男の姿に戻るとしよう。お嬢様にバイクを運転させるわけにはいかない。

 

 というわけで、俺は男の姿に戻ってからバイクに乗り、サイドカーにカノンを乗せてからタンプル搭へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれども俺は、カノンを甘く見ていた。

 

 カノンならばラウラやステラのように俺を拘束することはできないだろうと高を括ってたんだけど―――この変態お嬢様は睡眠薬を準備していたのである。

 

 しかも対魔物用の強烈なやつ―――というか麻酔薬じゃないだろうか―――だった。普通の睡眠薬ではキメラに効果が薄いだろうと思っていたに違いない。

 

 結局、高を括っていた俺は睡眠薬入りのアイスティーを飲まされて眠らされた後、カノンに襲われる羽目になったのだった。

 

 

 

 

 

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