異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
スペツナズが採用している装備は、テンプル騎士団の陸軍や海兵隊の装備とは異なる。
一般的な部隊は人間の兵士だけでなく魔物との戦いも想定しなければならない。魔物の中には強靭な外殻で身を守っている魔物もいるので、扱いやすい小口径の弾丸では彼らにあまりダメージを与える事ができないのだ。実際に、異世界に転生したばかりの若き日の親父は小口径の弾丸を使っていたそうなんだが、硬い外殻を持つアラクネに弾丸を弾かれて苦戦したため、外殻もろとも撃ち抜けるほどの破壊力を誇る大口径の弾丸を好むようになった。
反動は強くなるけれど、相手の外殻を貫通できるだけでなく、人間にぶち込んだ場合でも獰猛なストッピングパワーが猛威を振るう。それにレベルが自分よりも高い転生者との戦闘にも効果的だったらしく、親父は小口径の弾丸よりも大口径の弾丸を使用することを推奨している。
獰猛なストッピングパワーの7.62mm弾がモリガンの傭兵たちを支えたと言っても過言ではないのだ。
というわけで、テンプル騎士団ではモリガンの傭兵たちに倣って7.62mm弾を使用するアサルトライフルを正式採用している。以前までは弾薬を7.62mm弾に変更した”テンプル騎士団仕様”のAK-12を採用していたんだが、AK-15を生産するための条件を満たしてアンロックに成功してからは、AK-15を正式採用している。
もちろんAK-12も現役で、AK-15と共に最前線で戦う兵士たちを支えてくれている。
けれどもスペツナズが採用している銃の弾薬は、基本的には小口径の弾薬だ。
一般的な歩兵部隊は魔物との戦闘も想定しているからこそ大口径の弾丸を使用するライフルで武装しているが、スペツナズが想定しているのは”敵の拠点への潜入”や”標的の暗殺”などである。要するに、スペツナズが想定している相手は”人間”なのだ。
それゆえに、魔物との戦闘は想定する必要はないのである。
なのでヘリの兵員室の中にいる兵士たちが点検しているのは、7.62mm弾を使用するAK-15ではなく、小口径の5.45mm弾を使用するAN-94だった。使用する弾丸の口径が小さいため、ストッピングパワーではAK-15に劣るものの、小口径の弾丸をすさまじい速度の2点バーストで敵に叩き込む事ができる。
銃の上にオープンタイプのドットサイトを乗せている兵士もいるし、火力を底上げするつもりなのか、銃身の下にグレネードランチャーを装備している兵士も見受けられる。
スペツナズの1つのチームには8人の兵士たちが所属しており、そのうちの6名がアサルトライフルやPDWで武装する。残った2名はスナイパーライフルとアンチマテリアルライフルで武装し、前に出ていく仲間達をサポートするのだ。
真っ向から戦うことを想定した部隊ではないため、LMGで武装した兵士はいない。
今回の任務に派遣されているヘリは、俺たちが乗っているカサートカを含めると合計で4機。兵士を4人ずつ乗せたカサートカが2機と、上空で指揮を執るためのカサートカが1機だ。もう1機のヘリは武装をこれでもかというほど搭載したスーパーハインドで、潜入した部隊から支援要請があり次第すぐに拠点へと突入し、スタブウイングに搭載したロケットとガンポッドを敵にプレゼントすることになっている。
ちらりと窓の向こうを飛んでいるカサートカを見つめると、そのカサートカの兵員室の中にいるウラルがこっちに手を振ってきた。俺も彼に向かって手を振ってから、サイドアームのPL-14にサプレッサーを装着する。
この作戦に参加するスペツナズの兵士は8名。彼らを支援するために、俺とカノンもこの作戦に参加する。俺のコールサインは「アルファ1」で、カノンのコールサインが「アルファ2」だ。
装備しているメインアームは、生産したばかりのイサカM37とサプレッサー付きのPP-2000の2つ。サイドアームは、フォアグリップ、ロングマガジン、ストックを装備した”強襲殲滅兵仕様”のPL-14である。このPL-14はフルオート射撃も可能になっているんだけど、折り畳み式のストックを装備した上にフォアグリップまで搭載しているため、当たり前だけど普通のPL-14よりも重い。
カノンのメインアームは、彼女が愛用するSVK-12だ。スコープとバイポッドが装着されており、狙撃用のスコープの上にはロシア製のドットサイトが乗っている。銃床は本来のものではなくサムホールストックへと変更されているため、AK-12よりも、前任のライフルであるドラグノフにそっくりだ。
彼女のサイドアームは俺と同じく、強襲殲滅兵仕様のPL-14となっている。
『さて、そろそろ降下する準備をしてくれ』
「了解(ダー)」
息を吐きながら席から立ち上がり、兵員室のハッチをそっと開ける。カルガニスタンの砂漠よりもはるかに涼しい風が兵員室の中へと流れ込み、オイルの臭いがする兵員室の中を瞬く間に植物の発する匂いで満たしてしまう。
これから俺たちは、森の中にいるクソ野郎共を殺しに行くのだ。
世界中に麻薬を販売しているクソ野郎共を。
カサートカが高度を落とし、ゆっくりと減速し始める。機体の速度が変わったのを感じ取った兵士たちはすぐに座席から立ち上がり、草と湿った土で覆われた大地へと降下する準備を始める。カルテルを襲撃する他の兵士たちを乗せたカサートカも同じように兵員室にいる兵士たちを降下させるために減速し、兵員室のハッチを開けた兵士が降下の準備を始める。
指揮を執るカサートカとスーパーハインドは逆に高度を上げると、まるで新しいチームの兵士たちを見守るかのように減速した。
『よし、行け! 降下開始!』
「
兵士たちが降下を始めたのは、こっちの方が早かった。
ヘリから降下する方法を学んだボレイチームの兵士たちが、ロープを使って素早くカサートカから降りていく。出来るならばカルテルの本拠地にそのまま降下したかったんだけど、彼らを逃がすわけにはいかないため、森の中を突破して奇襲を仕掛け、そのまま一網打尽にする作戦となった。
そのため俺たちは、ヘリから降りたらこの森を越えなければならない。
トラバサミがびっしりと仕掛けられた、恐ろしい森の中を。
俺に「お先しますわ」と言ってからロープを掴み、兵員室のハッチから地上へと降りていくカノン。彼女が降下を終えたのを確認してから俺もロープを掴み、兵員室の外へと躍り出る。
これから森の中へと突入し、カルテルの拠点を急襲するのは10人の兵士たち。そのうちの8人はまだ錬度の低い兵士たちだ。
ボレイチームの兵士たちを支えるのは、上空に待機しているカサートカと武装を搭載したスーパーハインド。場合によってはテンプル騎士団空軍に空爆を要請することもできるだろう。
だから俺とカノンは、彼らをサポートしつつ見守るのだ。
べちゃ、と泥を踏みつけた音を聴きながら、俺は顔をしかめて足元を見下ろす。どうやら雨上がりらしく、草に覆われた大地は予想以上に湿っていた。ヴリシアの戦いで雪解け水で湿った塹壕の中で戦った時の事を思い出しながらサプレッサー付きのPP-2000を構え、愛用のコートのフードをかぶる。
フードに飾られているのは、かなりボロボロになった2枚の深紅の羽根。かつて若き日の親父が転生者を打ち破るために死に物狂いでレベル上げをした時の戦利品だという。
この2枚の羽根が、転生者ハンターの象徴だ。
『ブラボー1-1、退避する。同志諸君、幸運を』
『こちらブラボー1-2、こっちも退避する。無茶はするなよ』
それは無理だ。無茶をするのはモリガンの関係者の悪い癖なのだから、この戦いでも無茶をするに違いない。できるだけしないように気を付けようとは思うけど。
上空へと退避する2機のカサートカをちらりと見上げてから、降下して周囲を警戒していた仲間に手で合図を送る。フランセンの森は霧で覆われつつあったが、仲間たちはちゃんと俺の合図を確認してくれたらしい。
これから樹の群れのせいで視界が悪い上森の中を、トラップと敵の見張りに警戒しなければ進まなければならない。しかも霧まであるせいで、切り倒せば木造の家が2軒くらい建てられるんじゃないかと思うほどの大きさの樹が屹立しているにもかかわらず、その巨大な幹がうっすらとしか見えない。
だからこそ嗅覚で敵やトラップを察知できる俺が、先頭を進む。
この霧は面倒な存在だが、上手く使えば敵にも発見されにくくなるだろう。森を越える事さえできれば俺たちの独壇場だ。
冒険者向けのブーツを泥で彩りながら、森の中を突き進む。巨大な樹の根を飛び越えて倒木の脇を通過し、生えているキノコや雑草を容赦なく踏みつけながら前進していく。
傍から見ればトラップを警戒しながら進んでいるというよりは、ただ単に歩いているようにしか見えないかもしれない。ちらりと後ろを見て見ると、案の定、黒いヘルメットとバラクラバ帽をかぶったボレイチームの兵士たちは、そんなに警戒せずに進んで大丈夫なのかと言わんばかりにこっちを見つめながら後についてくる。
心配すんなよ、トラップの位置はもう把握してる。
ロープを使ってヘリから降下を始めた時点で、もう俺の嗅覚は捉えていた。
森の中に隠されたトラバサミたちの発する金属の臭いを。
どうやら嗅覚が鋭い魔物にも察知されないように泥や磨り潰した雑草を塗り付け、違和感がないように”匂い”を付けたらしい。確かにこの辺に生息している魔物には有効だろうけど―――――――キメラの嗅覚を一緒にするなよ。
心配そうな顔をしている兵士たちを引き連れ、どんどん森の中を進んでいく。
カノンは心配していないだろうなと思いながら、俺は目の前の巨大な倒木を飛び越えるのだった。
俺たちの任務に、1つだけやるべきことが追加された。
カノンから借りた双眼鏡で森のど真ん中に居座る木製の門の向こうへとでっかい馬車が入っていくのを確認しつつ、その馬車の中から漏れ出る”匂い”を察知して確信する。
ここにいる麻薬カルテル共は、ただ単に麻薬の販売をしているわけではないということを。
「中身は色んな種族の女性だな」
「麻薬カルテルのボスはハーレムでも作るつもりなんでしょうかねぇ」
そう言いながら、隣にいるフランク大尉が俺から双眼鏡を受け取って門を確認する。廃村の正門を木材と金属の板で補強したものらしく、それなりに分厚いようだ。C4爆弾を使って吹っ飛ばせば問題なく突入できそうだけど、スペツナズがそんな”お上品”に突入することはあまりない。
正門の前には2人の見張りが、あくびをしながら突っ立っている。装備しているのは金属製のコンパウンドボウで、腰にはマチェットらしきものも下げているのが見える。どうせどちらもモリガン・カンパニー製なんだろう。
その後ろには見張り台があり、そこで見張っている男性の傍らには巨大な矢を装填されたバリスタが鎮座している。命中すれば飛竜の装甲を易々と貫通する代物だが、10年くらい前に退役している旧式の兵器だ。
門の内側にも何人か見張りがいるようだが、それほど警戒している様子はない。あの見張りをしている連中とは違って、武器らしきものを携行している兵士の臭いはそれほど多くはない。
「麻薬だけじゃなく、奴隷まで売ってるってことですか」
「ああ。奴隷を売ればかなり金が手に入るし、奴隷の売買が違法になってるのは残念ながらエイナ・ドルレアンとカルガニスタンだけだ。他の地域ではまだ合法なんだよ」
「あんな商売が合法とは…………クソ野郎だらけなんですかね、この世界は」
悪態をつきながら双眼鏡から目を離したフランクから双眼鏡を受け取り、後ろでマークスマンライフルのスコープを覗き込んでいたカノンに返す。これはカノンの装備なのだから借りパクするわけにはいかない。
ハーフエルフであるフランクも元々は奴隷だったらしい。商人共に虐げられていたからこそ、虐げられている人々の苦痛を理解する事ができるのだろう。しかも自分たちが経験した苦痛がこの世界では”合法”なのだ。虐げられた経験がある奴隷だった人々から見れば、確かにクソ野郎だらけの世界である。
「いっそのことこの世界ぶっ壊そうか?」
「はははっ、新しい魔王様の誕生ですね」
「同志、もし本当にやるならついていきますよ」
「冗談だよ。…………アクーラ1-1、応答せよ。こちらアルファ1」
『―――――――こちらアクーラ1-1、どうぞ』
耳に装着している小型無線機から聞こえてきたのは、上空のカサートカでサポートすることになっているウラルの低い声だった。
「麻薬カルテルの連中は、どうやら奴隷の売買もしているらしい。彼女たちを救助する必要がある」
『なに? …………ちっ、麻薬で稼ぎながら奴隷を売ってるってわけか。血も涙もないクソ野郎共だな』
「安心しろ、クソ野郎は駆除する。…………衰弱している奴隷もいるかもしれないから、別のヘリの手配を頼む」
『了解だ。…………ちなみに敵の人数は、シュタージの情報では60人前後らしい』
確かに人数は多いな。
そういえばショットガンでぶち殺す必要がある人数は20人だったな。要するにクソ野郎共の3分の1をショットガンでぶち殺せば、欲しいショットガンが手に入るというわけだ。
存在価値のないクソ野郎共には、散弾をプレゼントしてあげよう。
『よし、まもなく救助部隊がタンプル搭から出撃するらしい。到着は1時間後だ』
「了解(ダー)。とっとと終わらせて、アフタヌーンティーでもしながら待つとしよう」
武器をPP-2000からイサカM37に持ち替えつつ、もう一度拠点の中から溢れ出る”匂い”を確認する。
今しがた馬車で運び込まれた奴隷たちは10人ほどだ。他にも拠点の中に奴隷はいるらしく、廃村だった拠点の中から女性の絶叫や、彼女たちを犯そうとしている男たちの声が聞こえてくる。
入り口はしっかりした正門で守られているし、見張り台もある。けれどもそれ以外の場所はそれなりに薄い板や錆び付いた鉄板で作られた粗末な塀で囲まれているだけだ。周囲は霧で満たされているので、塀を乗り越えようとしても目立たないだろう。
仲間たちに合図し、姿勢を低くしたまま移動する。正門を警備している3人の男たちにバレないように細心の注意を払いながら塀へと接近し、右手にショットガンを持ったままお粗末な塀の隙間を覗き込む。
塀の向こうには誰もいない。臭いもしないから、物陰に他の見張りが隠れているというわけでもないだろう。見張りの連中は女たちを犯しに行ったってわけか。
あまり好きじゃないんだよね、俺は。
後続の仲間たちに合図を送ると、フランクもサプレッサー付きのAN-94を構えて警戒しつつ、仲間に合図を送って塀の近くまで前進させる。その隙に2人の狙撃手と選抜射手(マークスマン)のカノンも高い場所へと移動を済ませ、塀の内側の監視を始める。
さて、クソ野郎の駆除を始めよう。
「最初は静かにやるぞ」
「派手にやるのはその後ですね」
ああ、派手にやるのは最後だ。
フランクたちが周囲を警戒してくれている間に、俺はお粗末な塀を乗り越えた。